【完結】ヒソカは雑魚専? よろしい、ならば転生だ   作:虫野律

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Wanna Become The Hero

 

 

 満月が夜に華やいでいる。

 

「えーなんなん? 空気読もうぜ」

 

 アラタが突然の闖入者──『絶』を解いたクロロに不満をぶつける。

 

「まぁ、そう言うな。なぁ、ルシルフル」

 

 自分がその名を使ったことを完全に忘れていたアラタは、自分のことを言っていると遅れて気がつく。

 

(うわー。クロ兵衛君本人登場とか意味分からん。どんな確率だよ。そして、俺は何故、ルシルフルとか言っちゃったのか。盛大にやらかしてしまった……)

 

 少し微妙な顔をするアラタだが、直ぐに、まぁいっかと切り替えることにする。

 

(やっちまったものはしょーがねー。それならそれで遊べばいいだけじゃん)

 

「実は私、あなたの生き別れの妹なの」

 

 さっきまで血みどろの戦いをしていたとは思えないふざけっぷりだ。

 

「何も教える気はないようだな」

 

 しかし、クロロには通用しない。

 

 クロロが少しだけ片眉を上げ、自身の手に収まる口紅を見やる。

 

(ん? なんだ?)

 

 アラタは不信に思い、『凝』をしてみる。すると、赤い糸状のオーラが口紅からユナフィへと続いているのが見えた。

 

(口紅とのリンクが切れていない?)

 

 チラリとユナフィを見て驚く。ユナフィの美しかった顔が傷だらけの歪んだ鼻を持つホラー映画のヒロイン(?)もかくやという生理的嫌悪感を掻き立てる物へと変貌していたのだ。

 

(えーなんでやねん)

 

 ユナフィ変貌の理由は極めてシンプルだ。

 口紅の回復能力は原則として心臓を破壊した傷と、心臓と融合後に負った傷を対象にしている。つまり、それ以前の傷痕や骨格の歪みはそのままだ。

 今まで、美しく見えたのは口紅の別能力による。則ち、口紅との肉体的接触及び口紅を塗ることを条件に塗った者の容姿を美しく見せること。それだけの能力だ。従って、先程までのユナフィは一種の幻影を被っていたに過ぎない。今の痛々しい姿が本来のあるべき、いや、あるべからざるそれだ。

 そして、ユナフィから離れ、口紅の影響力が弱まっていることは他の現象をも引き起こす。回復が遅々として進まないのだ。一応、死に至る程、回復力が衰退している訳ではないようだが、荒々しい暴力性は鳴りを潜めている。そこに横たわるのは弱々しく醜い女だ。

 

「どうやら、この口紅は持ち主に強く執着するタイプらしい」

 

 クロロが口紅を懐に仕舞い込みながらも、赤いオーラが繋がっている理由を教えてくれた。

 

 突然、縮地とでも評すべき駿動によりクロロがユナフィに急接近する! 

 クロロはユナフィを殺して強制的に口紅の寄生を解除するつもりだ!

 

(え? ちょ!)

 

 自分への攻撃しか警戒していなかったアラタはクロロの瞬雷のごとき挙動に対応することができない。ユナフィに無慈悲な死が迫る。

 

 しかし! それを許さない者がここには居る! 

 

 抜き手を突き入れんとしたクロロの右手は、同じく瞬身で急接近したニコルに逸らされる!

 

「ユナフィへは手を出してないから、アラタさんの指示違反ではないですよね」

 

(そりゃそうだけどさ……)

 

 ずっと静かに状況の推移を見守っていたニコルが『全てを置き去りに(クロックアップ)』による見切りと強化系特化の天才に相応しい踏み込みで以て、クロロに対応し抜き手を逸らしたのだ! 

 ニコルの中で未熟な能力が、未熟ながらも大器の兆しを覗かせている。ニコルは自身を未熟な弱者だと一切の疑いなく確信している。しかし、それでも今、この瞬間はユナフィを救う!

 

「貴様らはこの女と敵対していたのではないのか」

 

 殺人を未遂にされたクロロは、特に感情を昂らせるでも、驚きを浮かべるでもなく淡々と問う。

 

(せやせや)

 

 アラタも成長しているので内心を口から出すことは断腸の思いで堪える。

 ニコルがクロロに答える。

 

「……借りがあるんだよ」

 

 ここで、ニコルという人間について記そう。

 

 ニコルにとって自分を助ける人間、恩を感じる人間はどのような存在だろうか?

 

 答えはやや特殊な敵である。考え方はシンプルだ。ニコルは助けられっぱなしでいることに強い敗北感を覚えるのだ。自分が弱いから、ニコルより強い他者が助けた、と考える。つまり、格上からの無償の施しは自らを敗者であると強く認識させるのだ。それ故に、負けず嫌いなニコルにとって借りがあると認識している内はユナフィは敵である。

 

 そして、借りがある場合の敗北感の克服方法。

 

「だから! だから100倍返しで借りを返すんだ!」

 

 やられたらやり返す。目には目を、歯には歯を。恩には恩を。このシンプルさ。ニコルは間違いなく強化系特化だ。なお、全て100倍返しな模様。

 

 ニコルからマグマの様に熱く重厚なオーラが噴出する。ほんの数日前からは、考えられない程の圧。間近でそれに晒されたクロロが目を細める。クロロから黒く、黒く、純粋に黒いオーラが静かに漂い始める。

 ニコルとクロロの間に一触即発の空間が形成される。

 

(うーん。どうすっかねー。ぶっちゃけクロロと戦う位ならユナフィに死んでもらった方が楽なんだけど……)

 

 アラタが思うにここでニコルを止めたら、先々の好感度と忠誠心に影響が出そうな気がする。でも、見るからにクロロはヤバそうだ。

 

 迷った時、アラタはいつも思うことがある。

 

(□□。君ならどうする?)

 

 アラタは自らの心音に耳を傾ける。勿論、心臓が何か答えてくれる訳ではない。だから、これは儀式だ。アラタがアラタである為の、アラタがアラタでなくなる為の。

 

 アラタが少しだけ微笑んだ。

 

──迷ったら、やべー方に全力で突っ込んで遊び尽くすんだ! 失敗も責任も他人に押し付ければ完璧さ!

 

 2つの世界を通して、アラタが出会った中で最もやべー奴は間違いなく彼女だ。それだけは真理だ。

 

(やるか)

 

 アラタは心が、血が沸き立っていくのを、どこか俯瞰的に自覚した。迷いはいつの間にか溶けて消えてしまった。

 

(中途半端な連携は寧ろマイナス。であればやることは一つ)

 

「ニコルん!」

 

 いつもとは違う剣幕のアラタにニコルは少したじろぐ。

 

 止められるのだろうか。アラタさんが言うなら止めるけれども……。

 

「おいしいとこは渡さない! 止めは私が刺す! だから、5分だ。5分だけ時間を稼げ!」

 

 明確な役割分担からの不意討ち気味の一撃必殺。それがアラタの出した結論だ。

 アラタの言葉はニコルに残っていた迷い、圧し殺していた敗北への不安をいとも容易く消し飛ばす。ニコルの深い所、体の芯が、オーラが、魂が爆炎を伴い自らを急き立て、勝利を、完全無欠の勝利を寄越せと暴れ出す。

 もう、ニコルを止めることは誰にも出来ない。

 

 瞬間、ニコルが体重移動、オーラ制御、筋肉制御、その他一切の身体挙動を完全に掌握し、爆速でクロロに迫る!

 

「ッ!」

 

 フェイントも何もない真っ直ぐな拳がクロロの胴へと狙い違わず向かっていく。

 

 しかし、クロロも体術のスペシャリスト。自然に開かれた手のひらで捌き、反撃の手刀で斬りかかるも『全てを置き去りに(クロックアップ)』を発動しているニコルにはしっかりと見えていた。手刀の軌道を予測し、確実にかわそうと上体を反らす。しかし。

 

 軌道を修正した!?

 

 クロロはニコルの回避行動を見切り、その上で関節を柔軟に使うことで攻撃ルートを曲げたのだ!

 

 回避は無理! なら、受けるしかない! あれをやる!

 

 ニコルはインパクトの瞬間にピンポイントでオーラを集中させる。

 

 そして、衝撃に逆らわず、全身を脱力させ、清らかに流れる流水を纏い、自らすらも静謐な渓流と成りて、全てを受け流す!

 

 クロロの鋼鉄さえ両断する手刀は、しかし、本領を発揮することが出来ずに流される!

 

──流水岩砕拳!

 

 暴風のごときオーラはいつの間にか、静かなせせらぎを奏でていた。

 

 クロロに驚愕が浮かぶ。

 

「……太極拳か? いや、少し違うな」

 

 受けから、攻めへ。すぐにニコルは意識を切り替える! 格上相手に手を止める訳にはいかない。一気に攻め立てる!

 

「速い!」

 

 クロロから侮りが消えた。螺旋運動を激流に見立てた、ニコルの瀑布のごとき連打が始まる!

 

 ニコルのオーラが大気を巻き込み、さながら嵐を纏っているかのようだ。ニコルの一打一打が必殺の鋭さを携えている。

 

 しかし、クロロもさるもの。ニコルの苛烈な攻めを確実に捌いていく。鮮烈な戦いの余波は地を抉り、空を震わす。

 クロロは目前の少年が信じられない。クロロがベリーショートの女に変身してペンドラゴン邸に潜入した当初は念能力者ですらなかった。それが、ハンター試験に落ちて帰って来たと思ったら、見惚れる程の美しい纏をしていたのだ。

 それだけでも、少年の才気に驚かされたものだ。そして、それは日に日に洗練されていくニコルのオーラを間近で感じ、より深まっていく。

 

 今はどうだ。おそらく身体能力自体は低いのだろう。大量のオーラの制御を正確かつ効率的に行うことでクロロに迫る駆動を実現している。

 

 何という才能! 何という精神! 比類なき黄金の魂……!

 

 神の存在を否定しないクロロには、ニコルはまさに神に愛されているように思えた。

 

 だが。だが、それにしてもこの成長スピードは異常だ。

 

 制約と誓約によるものと考えるのが自然だ。

 

 クロロがそう考えるのも無理もない。常識的に考えて念を知覚して一週間程でクロロと打ち合える次元に踏み入るなど、尋常ではない。無理を通すには相応のリスク、痛みが必要だ。

 

 一般論として、その論理は真だ。しかし、それは個別具体的な特殊論を排斥するものではない。つまりは、ニコルは例外的事例に当たる。その証拠にニコルはクロロの考えるような制約と誓約は持たない。

 

 では、如何にしてニコルが超人の領域に踏み込んだのか。

 

 それを語るにはネオンと別れた直後迄、時を遡る必要がある。

 

 

☆☆☆

 

 

「それでね……」

 

 ネオンはニコルと別れて数分後に携帯から電話をかけてきた。連絡してね、と言いつつ自分からすぐに電話をしてくるあたり相当なものだ。

 車での移動中は退屈だったというのもあるが、この時のネオンは初めて恋人が出来た中学生のようだった。恋に恋するといった感じだろうか。

 しかし、それは致し方無い面もある。幼い頃から、マフィアのボスの娘として、大多数の人間とは違う境遇、どちらかと言えば窮屈な生活を送ってきたのだ。占い能力が顕在化してからは、余計にだ。

 父親が裏社会の人間であったこともあり、ネオンに寄り付こうとする男は皆無と言える程だった。四六時中、強面(こわもて)の護衛に囲まれていては、誰だって察する。恋人どころか、友人すら出来なかったことは必然であった。

 占いが父親の地位を確固たるぬものにしてからは、父親の独占欲──愛情からではなく搾取すべき家畜として──が加わり、ネオンの生活はより息苦しい、軟禁生活になっていった。

 しかし、そんな中でも、ネオンと親しくなった少年が一人だけいた。おそらくは彼がネオンの初恋。ネオンは誰が見ても浮かれていた。当然、父親にもすぐに知られてしまう。父親からすれば、少年は自身からネオン、ひいては地位を奪い取る盗人であった。

 だから、(バラ)した。ネオンの目の前で。

 

 ネオン最初のコレクションは少年の眼球だったことは

、その時、すでに彼女の中で大きな歪みが育まれていたことを象徴している。

 

 話をニコルに戻そう。

 

 ネオンと接する内に、ニコルは感情移入してしまっていた。元より、すぐに人を自分の領域(大切な人)に入れる傾向のあるニコルだ。加えて、念能力に覚醒してからは以前にも増して勘──観察と経験による瞬間的判断──が鋭くなっている。ネオンから漂う、隠しきれぬ痛みを当然、敏感に察知した。

 

 何とかしてやりたい。

 

 しかし、僕に何ができる? 追尾弾が放たれた時だって偶々、助けてくれる人が近くに居たから何とかなった。僕は弱い。自分の弱さ、無能さに嫌気がする。無力感、敗北感で泣きたくなる。

 でも、いや、だからこそ、心が叫んでいる。強烈に、激烈に、熱烈に。

 

 強く、強くなりたい。

 

 ニコルは考えた。

 

 真の強者とはどんな人物か。

 

 膂力に優れた人物?

 

 否、それは手段に過ぎない。

 

 全ての敵を殺し得る人物?

 

 否、それは解決すべきことから目を逸らして一時の安息を得ているだけだ。

 

 では、今まで自分が求めてきた敵を屈服させるとは……?

 

 ニコルは過去に思いを馳せる。思い出されたのはある言葉。

 負けて、苦しくて、どうしようもなくて悔しくて、自分が許せなくて、泣いていたニコルへかけられた、客観的に観ればありきたりな紋切り型のフレーズだった。それでも、その時のニコルは確かに救われた。

 

『ニコル様はお強いですよ。そして、美しいです。だって、まだ救われることを、救うことを諦めていないのですもの』

 

 醜い私にはできませんでした、と結んだユナフィの瞳が印象的だった。無表情なのに泣いているみたい。ニコルにはそう感じた。

 

 ニコルは本来、優しい少年だ。ネヴェアに様々な仕打ちを受けようと彼女の境遇に、苦しみに同情してしまっていた。できることなら、解放してやりたい。実の両親だってそうだ。偶々、愛した相手が兄妹だったが為に多くの不愉快な思いをしてきたのだろう。ニコルやネヴェアに対する歪な態度も仕方がない。他にも、救われることを願いながらも叶わず、苦しんでいる人は沢山いる。それらを、全て、1人残らず、救う最()英雄(ヒーロー)になりたいと願っていたはずだ。

 

 しかし、長く暗いトンネルはニコルを歪めてしまった。助けたいという思いは、苦痛と憎しみに埋もれ、いつしか、ただ敵を叩き潰し、自らの負の感情を誤魔化すことに拘泥(こうでい)するようになる。

 

 だけど、少しだけ強くなったニコルは自分の最奥に埋もれる原初の願いと向き合う勇気を持ち始める。それが、ネオンの感情に触れ、一気に溢れ出す。ニコルの中でずっと燻っていた衝動が膨らんでいく。遅かれ早かれ、こうなっただろう。ネオンはきっかけに過ぎない。それでも、ニコルはネオンに感謝した。

 

 そして、一つの答えを導き出す。

 

 真の強者とは、救いを求める手を決して離さぬ者。

 

 それは人が持つには少しばかり大きな願い。傲慢とさえ言える。神ですら全てを救うことが出来ずに世界には理不尽がはこびっている。

 

 だか、それでも、だ。僕はそう在りたいと願う。

 

 ニコルは制約と誓約を持たない。正確には、発の強化を意図した一般的な誓約を、だ。

 誓いはある。

 

 僕が英雄に、最()英雄(ヒーロー)になる!

 

 子どもの夢物語だ。現実的ではない。だが、挑むべきだ。どんなに厳しく、苦難に満ちた道のりであろうとも……! 矛盾も、道理さえも乗り越えてみせる!

 

 念能力を強化したいだとか、誓約がどうとか、そんな下らないことはこの時のニコルの頭にはなかった。もしかしたら、それが良かったのかもしれない。純粋な誓いは、意図せずとも誓約となり、ニコルの念を著しく強化する。代償は身が朽ち果てるその時まで絶対に退かぬ覚悟。救われぬ者を救うまで決して止まらぬ覚悟。不退転の誓い。

 

 人類の歴史上、最高クラスの才は強い願いによってさらに飛躍する。 

 

 ニコルの中で何かがカチリと綺麗に嵌まった。自身のオーラの持つ可能性が、また一つ結実するレベルに至ったのだ。それを実行すれば自身を飛躍的に成長させるだろう。

 武力は単なる手段に過ぎない。しかし、選択肢たる手段はいくらあっても足りない。武力を伸ばすことも最低条件だ。

 

 翌々日の早朝、ニコルは実家の庭に居た。静かな朝はまだ肌寒く感じる。

 

──『全てを置き去りに(クロックアップ)

 

 念弾使いのチンピラと戦った時よりもゆっくりと世界を眺めることができる。つまり、思考速度が上昇しているのだ。

 ほとんど静止した世界で、ニコルは目を閉じる。そして、想像する。武術の動き1つ1つを細部に至るまで正確に想像する。パソコンで集めた資料映像をしっかりと反芻する。自身が動く場合の体重移動、関節の角度、目線、筋肉の収縮、そして、オーラ。

 ゆっくりとゆっくりと。ひたすら丁寧に。1ミリ、動かすことすら全神経を集中する。

 

 ニコルがしようとしているのは、イメージトレーニング。

 

 そんなことで強くなるのか?

 

 普通はそれだけで基礎能力や技術を磨くことはできない。

 しかし、それが百を越え、千を越え、そして、万を越えた時、ニコルの脳内のシナプスに僅かな変化が訪れた。武術の型と呼ばれる一定の挙動用の神経経路が構築され始めたのだ。

 

 ただの想像が肉体的な反復訓練と同質の効果を創造する。

 

──『より貪欲に(インストール)』!

 

全てを置き去りに(クロックアップ)』を前提とした応用技術が明確なイメージを以て構築される。謂わば、派生技、特殊な使用法の体系化。常軌を逸したイメージの反復が明確な形を持つ。

 

 10万! 

 

 まだだ!

 

 100万!

 

 もっと! もっとだ!

 

 500万!

 

 足りない! もっと強く! もっと貪欲に!

 

 1000万!!!  

 

 1000万を越えた時、実戦空手、柔術、合気道、古武術、中国拳法、太極拳、カポエイラ、ムエタイ、剣術、棒術、その他ニコルが知り得た全ての武術用の神経構造が漸く完成した。ニコルの主観時間にして100万時間を優に上回る。

 

 しかし、ニコルは全く満足も納得もしていない。

 なぜなら、弱いからだ。ニコルは自らの致命的な欠点を自覚している。

 

 それは実戦経験、ひいては敵のパターンに対する知識不足。これは仕方がないことだ。ニコルの人生において自らが前に立ち武力を行使する機会はなかった。危険が予想される場合は当然、護衛がつく。戦闘は彼ら彼女らの仕事だ。

 

 では、今は仕方がないからと、この程度で妥協するのか?

 

 否。それは許容できない。では、どうするか。すぐに思い至る。アラタの存在に。アラタならば知っているはずだ。ニコルは自らの確信的な勘に従い、アラタに問う。

 

 果たして、その確信は現実になる。

 

 アラタが2次元のバトルキャラを教えたのだ。

 ここからは、イメージトレーニングに組手、対人戦が追加された。アラタに教えてもらった敵を想像する。武力、念能力に留まらず、表情、息遣い、心裏に至るまで深く深く想像する。

 

 気がついたら、ニコルの目前では、豪傑達がニコルを殺そうと眼光鋭く構えていた。想像が五感に侵食し始めたのだ。

 攻撃を受ける度に痛みを感じる。息苦しい。だが、それはニコルを急激に成長させていく。

 

 ニコル・ペンドラゴン。12歳の出来事である。

 

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