【完結】ヒソカは雑魚専? よろしい、ならば転生だ   作:虫野律

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長いけど、これ以上分けたくないんだ。許してほしい。


虚実の果実(後編)

「私はね、トランプが好きなの。何でか分かる?」

 

 少女が唐突に妙な話を始めた。ヒソカは意図が分からず、答えあぐねてしまう。

 

 ヒソカが答えずとも、それを気にした様子もなく、少女は熱に浮かされた狂信者のように語る。

 

「トランプゲームの多くは現実と同じで運によって勝敗が決する。でも、それだけじゃなくて、現実と違って誰にでも勝つ可能性が残されている。それが世界の理想を体現しているようで、とても魅力的。あなたもそう思うでしょう?」

 

「……良くわからないかな。運なんて考えたって何もならないし、勝ち負けだって、ただのオマケに思えるけど?♣️」

 

 ヒソカは自分が幸運だとか、不運だとかはあまり考えたことがない。興味がないからだ。

 さらに、勝敗も重視したことはない。大事なことは別にあると考えるタイプの人間なのだ。言い方を変えれば、他人の評価など歯牙にもかけないということだ。

 

 ヒソカから同意を得るどころか、少女が執着してきた価値観を否定され、理性的だったはずの少女が何かにとり憑かれたかのように激昂する。

 

「ぶざけるな!! それはお前が才能に恵まれているからだ! お前らみたいな人種は持たざる者の屈辱を認識すらしない!!」

 

 ふーん。やっぱり変なの。でも、興味深いかもしれない♣️

 

 少女の慟哭はヒソカには届かない。ヒソカは凡人の屈辱はおろか生物として最も本質的な感情さえ認識できないのだ。響く訳がない。

 しかし、内容に共感は出来なくとも、感情の昂りが生きることの本質に繋がっているようで興味はそそられる。

 

「何だその目は! お前も私をバカにするのか!? 見下すな! どいつもこいつも! クソクソクソ!」

 

 ヒソカが厭らしい笑みを浮かべる。

 

 そんなこと言われると虐めたくなっちゃうじゃないか♥️

 

「殺す殺す殺す殺す……」

 

 ぶつぶつと呪詛を吐き出していた少女が今度は沈黙する。しかし、ヒソカに油断はない。少女のオーラが、彼女の胸ポケットに収束しているのだ。

 

騎士(スペード)!」

 

 少女が叫ぶと15枚のトランプがポケットから飛び出し、少女の周囲に浮遊し出す。表が黒塗りになっていて数字を読み取ることはできない。

 

 ヒソカは年相応にワクワクとし、しかし、一方で強い劣情を抱えている。それらは相反する物ではなく、比例的に増大している。

 

 凄い! 多分、煙の効果だと思うけど、こんなこと()できるんだ!

 

 少女が、浮遊するカードから1枚を選択し、手に取る。すると表面の黒塗りがガラスが割れるようにパリンと砕け散る。 

 

 カードの数字を見た少女が口角を上げる。

 

「私が引いたのはスペードの10。これの意味が分かる?」

 

 情報が少な過ぎて分かる筈はない。少女はそう思っていた。しかし、ヒソカをあまりにも過小評価している。舐めているのは少女の方だ。

 少女の予想に反し、ヒソカがすぐに答える。

 

「君は才能に囚われているみたいだからね。才能の数じゃないかい? それをどうするかまでは分からないけどね♦️」

 

「……そうだ。そうだよ! クソが!」

 

 少女が手に持つトランプを放り投げる。次いでカードが破れ、裂けた箇所からぐちゅぐちゅと生々しい音と伴に血肉が現れ、やがて人の形を形成する。

 

 顕現するは、漆黒のフルプレートアーマーに身を包んだ荘厳なる騎士。胸部にはローマ数字で『Ⅹ』とあり、手にはランスを携えている。偉容に相応しい、あるいは、相反する地獄の坩堝を思わせるオーラを纏っている。

 

「おおー。カッコいいね! それに強そうだ♠️」

 

 ヒソカは純粋にそう思ったのだが、少女はヒソカの発言を聞いて、どこまでも自分を下に見て、まるで子供扱いしているようだと解釈した。

 故に、怒りはさらに沸騰する。

 

「っ! 舐めやがって! この騎士は騎士が持つべき才能を10個与えられている! 当然、戦闘用が中心だ!」

 

 しかし、ヒソカは、もしも自分の予想する前提が真ならば、それよりも厄介な点があるはずと予感した。そして、それは正しい。

 

「その騎士は自律行動するのかな? それとも違うかな? 何れにせよ、普通の生物じゃあないよね? ということは人格も痛覚も生存欲求もない。違うかい?♦️」

 

 少女もヒソカの言わんとすることを察する。そして、苦虫を噛み潰したような顔になる。

 

「そうだ! こいつは痛みを、死を厭わず、常に全力で戦い続ける本物の死兵だ!」

 

 この結論に達することはこの状況から判断して難しくないとはいえ、おそらくはオーラの概念及び可能性を深くは知らないであろう少年が、初見ですぐに到達するのはいくらなんでも速すぎる。 

 

 決して縮まらぬ圧倒的な才による格差。

 

 少女にとって最も忌むべき距離を今までの人生で最も遠く感じる。唇を強く噛む。血が流れる。

 

 勝てない。

 

 ついに少女がそう思ってしまう。

 

 では、今日のところは逃げ帰るのか?

 

 ダメだ。そんなことをしたら私は今度こそ壊れてしまう。それに逃がしてはくれないだろう。仮に逃がしてもらえたとしても、時間が経てばこの小さな異物はさらに成長するはず。そうなっては私ではどうすることもできない……。

 

 ヒソカに目をつけられた時点で、逃げ道なんてないのかもしれない。少女も薄うす、気づき始めていた。

 

 だが、だからこそなんとしても才の果実を奪いたい。それを喰らえば私は今度こそ本当の天才になれる……!

 

「やれ!」

 

 少女の命令に従い、漆黒の騎士がヒソカに突貫する。

 ヒソカは、ランスによる連続突きをヒラヒラとかわしていく。

 

 確かに速い。ランス捌きも正確無比だ。加えて、オーラの攻防力移動も少女よりも巧みである。ヒソカの懸念通り、スタミナや集中力が切れることも無ければ、動きに乱れもない。

 しかし、ヒソカの表情は曇っている。

 

 なんかつまんないな。

 

 ヒソカの率直な感想だ。ヒソカにとっては感情のない相手との戦闘は時間の無駄そのものだ。

 だから、ヒソカは少女にイタズラすることにした。

 

 少女はヒソカが自身を妙な目で見たことに気づき、不審に思うもその心中までは分からない。しかし、無視していいとも思えない為、もっとよく観察しようと目を凝らす。

 

 その時、鋭い光が少女の目に突き刺さる。急なことに、視界が真っ白になるがすぐに回復する。

 そして、少女の目に飛び込んで来たのは、両手を挙げた状態で何かに吊るされる様に床から少しだけ浮いている漆黒の騎士の姿。

 ヒソカは奪ったランスを騎士に向けている。

 

「見て見て! 今からランスを騎士に発射するよ!♥️」 

 

 は? 発射? 

 

 少女が意味が分からず困惑するも、ヒソカはそんなこと知ったことじゃない。ランスを掴む手を放した。

 

 次の瞬間、限界まで引き絞った剛弓から矢が射出されるかのようにランスが一閃。騎士の鎧を貫き、深々と胸部に突き刺さる。もがくように体を痙攣させた後に、騎士は完全に停止した。

 

 クソ! 騎士(スペード)の10が殺られた! 

 

 漆黒の騎士は煙になって消える。残ったのは破れたトランプのみ。少女の最高戦力とまではいかなくとも、それに近い力を持っていたはずだ。

 

 まだだ! まだ、あれを引ければ……。

 

 引ったくるように、周囲に漂うトランプから1枚を掴み取る。カードの黒塗りが剥がれ落ちる。

 

 少女がニチャァと笑う。引いたのだ。少女の切り札を。

 

 ! 来た! ついてる! やはり、勝つべきは私だ。

 

「今度は何を見せてくれるのかな?♣️」

 

 この間、少女を殺そうと思えば、殺せたはずだ。それをしないのはヒソカにとっては、すでにこれは闘いではなく、ただのアトラクションに成り下がったということ。少女はそう解釈した。

 

 実際は少し違う。ヒソカからすれば始めから闘いではない。ただの喜劇あるいは悲劇、そういった一種のショーでしかない。そのショーはヒソカに感情を教えてくれる重要な時間だ。そして、ヒソカは自身を観客であり、演者であると認識している。

 だから、少女の見せ場を邪魔する様な野暮なことはしない。もっと言えば、最終的には脳を貰うが、生にすがり付き命を燃やす様を好ましく思う。

 命の炎──本能、感情やオーラの昂りを観察することが生きる意味を知るヒントになると考えているからだ。また、そういう人間の方が、死へ強い恐怖を抱くことも好ましく思う理由である。

 ただ、飽きっぽく、享楽的な性のせいでちょっとしたイタズラはちょくちょくしてしまうのだが。

 

「私が引いたのはジョーカー! これは私の才を代償に、任意の才を与えることができる!」

 

「へー。それは凄い。で、君はどんな才能を与えるのかな?♥️」

 

 クスクスと笑い、嗤うヒソカが少女の苛立ちを加速させる。

 

「私の才を48個犠牲にして、お前を殺す才を与える!」

 

 ジョーカーには一つの才しか与えられないが、代償にする才の質と数によってその性能が変わってくる。

 少女が泥を啜り、汚物にまみれながら集めた自身最高の才を48、捧げた。少女にとってそれは文字通り身を裂く苦しみを伴う。故にこそ効果的だ。

 

 少女がカードを放り投げる! 騎士同様に血肉が膨張するように具現化していく。

 

 制約と誓約を課し、なにより痛みと苦しみを抱きながら与えられる才は、もはや人の枠に収まらない。具現化される道化は暗黒大陸に跋扈する魑魅魍魎に匹敵する最高のキリングマシーンになる。

 

 その筈だった。

 

「何故だ!」

 

 具現化された奴隷を見て少女に疑問、そして絶望が浮かぶ。

 

「何故、騎士(スペード)が現れる!?」

 

 道化(ジョーカー)が具現化しなかったタネは以下の通りだ。 

 

 最初に『薄っぺらな嘘(ドッキリテクスチャー)』を鏡面にし、掌に具現化。夕陽を収束させ、少女の目へ反射させる。視力が回復するまでの間に、オーラをトランプに飛ばし表面に纏わせ『隠』をかけておく。これで仕込みは完成だ。

 

 後は、少女がカードを掴み、黒塗りが剥がれるのに合わせてジョーカーの絵柄を『薄っぺらな嘘(ドッキリテクスチャー)』により再現。

 

 ヒソカは少女がスペードと言っていながら、浮遊するトランプが15枚あることで余分な2枚はジョーカーであると予想した。誰にでも勝つ可能性があるトランプゲームが好きと言っていたこともその予想の根拠になった。

 劣悪な手札を覆すのは決まって、ジョーカーの役目だからだ。ジョーカーなくしてトランプは語れない。ヒソカはそう考えた。

 

 だから、敢えて希望を見せる為に、ジョーカーを再現した。これは実際にジョーカーを引いた場合は全くの無意味になるし、少女がカードの本来の絵柄を覚えていた場合(知っているトランプの場合)も完全に無意味とはいかずとも不信感を与えるだろう。しかし、それくらいのギャンブルはヒソカにとっては、程よいスパイスに過ぎない。

 

 結果はご覧の通り。 

 

 少女は意図せぬ現象に動揺し、ヒソカはそんな少女を見て、笑みを深める。

 

 いいよ。最高だ。間近に迫った死を感じているんだね? とてもいい恐怖だ♥️ しかも! 

 

 ヒソカの琴線(スイートスポット)を刺激するものが、少女にはある。

 

 まだ、諦めていない! まだ、生に執着している!♦️

 

 ヒソカの男性器がドクドクと脈打つ。

 

 ねぇ? 僕にもそのキモチを教えてよ!♠️

 

 無自覚に凶悪な顔を浮かべる。ヒソカは全くそんなつもりはなく、むしろ、少女を愛していると思っている。しかし、ヒソカのキモチは伝わらなかったのだろう。少女から悲鳴混じりの命令が飛ぶ。

 

「ひ、騎士(スペード)! 殺れぇえ!」

 

 勿論、ただの時間稼ぎのつもりだった。少女も騎士がヒソカに勝てるなんて思っていない。この間にヒソカを観察して、何か勝利への糸口を探そうとしたのだ。

 だが、現実は少女の予想を遥かに上回る。

 

 騎士がヒソカ向かって疾駆したかと思ったら、急に両手両足を広げた状態で宙に浮かんだのだ。

 

 『伸縮自在の愛(バンジーガム)』によるものだが、無意識ながらも常軌を逸した完成度の『隠』により巧妙に隠されているため、少女には感知も認識もすることができない。

 

「八つ裂きにすることも出来るけど、そろそろ食べたいから、暫くこのままにするよ。正解でしょ?♣️」

 

 ヒソカは少女のトランプ具現化が一体づつしか、出来ないと当たりをつけていた。あれほど殺意に溢れているのに、わざわざ一体づつ闘わせるのはやむを得ない理由があると読んだのだ。

 さらに、敗色濃厚な騎士を仕向けたことから、騎士は少女以外の存在により破壊されない限り、原則として消すことができない可能性があると考えた。

 ヒソカの予想通り、制約により一体づつしか具現化はできないし、騎士型念獣作成時に消費したオーラ量により設定される顕在時間を過ぎるか、少女以外の外的要因によらなければ、騎士は消滅しない。

 ヒソカの様子から、この程度はすぐにバレると少女も思っていたが、常識はずれの膂力を持つ死兵をこうも容易く、拘束されるとは考えたくなかった。

 

「本当に優秀な子!」

 

 少女が決死の特攻をしようとして、腕に、足に違和感を覚える。嫌な予感が少女を満たす。

 

──『伸縮自在の愛(バンジーガム)』、縮め!

 

 少女が四肢を伸ばし、騎士と同じように足先を地面から少しだけ浮かせる形で宙に固定される。

 

 油断すると脱臼しそうな程強い力で引っ張られ、少女に苦悶が浮かぶ。

 

「じゃあ、そろそろ暗くなって来たし、丁度いいから晩御飯にしようか♥️」

 

「止めろ! 私に近くな!」

 

 少女は無駄と分かっていても叫ばずにはいられない。それだけヒソカから異常なオーラが漏れている。

 ヒソカは少女の胸ポケットをまさぐろうとするが、子供の身長のせいで少しやりにくい。

 

 うん、じゃあ、もうちょっと『伸縮自在の愛(バンジーガム)』を追加して、工夫してと。……はい、完成。じゃあ、縮め。

 

 少女がいきなり、地面に仰向けに倒れ込む。地面にへばりついて身動ぎすらできない。

 ヒソカは少女のポケットに手を入れる。

 

「ひ、さ、触るな!」

 

「あ、あった。このトランプ貰うね。いいこと思いついたんだ♠️」

 

 そう言って、ヒソカはトランプにオーラを込め始める。

 

──『周』。

 

 勿論、ヒソカはそんな概念も言葉も知らないが、なんとなく上手くいく気がしたのだ。自身が(オーラ)により強くなるなら、物だって性能を向上させられるはず。そんな風に考えたのだ。

 

 ヒソカの狙い通り、とろりとしたオーラがカードへと染み込んでいる。

 

 うーん、強化の程度を試すのに丁度いいものないかな?

 

 グルリと見回すも、工業機械の残骸や何に使うか分からない鉄屑しかない。

 

 ぽたりとヒソカのオーラがトランプから少女へと滴り落ちる。

 

「っ!」

 

 1滴。されど1滴で少女は毒虫を素肌で押し潰したような感覚を覚える。無意識に瞳を固く閉じる。

 拘束するバンジーガムが触れる肌に悪寒が走る。まざまざとヒソカのオーラを視認することで今まで認識していなかったバンジーガムが内在する不快感に気づいてしまったのだ。

 

 少女は固く閉じていた目を開けると、ヒソカが自身を見ている。少女は自分の末路を想像し、しかし、それでもまだ生にしがみつく。

 

 嫌だ! 死にたくない! 嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!

 

 半ば錯乱しながら、ヒソカを見上げた時に彼の性器がこれでもかと隆起していることに気づく。

 

 泥を飲んででも、何をしてでも生き延びたい。

 

 だから、少女は口を開く。

 

「わ、私を好きなだけ抱いていい! いつでも使っていい! だから、助けて! 殺さないで! お願いお願い……」

 

 最後はすがるように弱々しく。

 勿論、演技だ。ヒソカに効くかは甚だ疑わしいが、僅かでも生き残る可能性があるならやらない訳にはいかない。

 

「うん? そこまで求めてくれるなら、試してみようか♥️」

 

 ヒソカがしゃがみ、少女の下腹部に触れる。

 

 そして、トランプを医療用メスでするかのように、すす、と静かに少女の肉に挿入させる。

 当然、痛みが少女を襲う。

 

「……ぃ! ん!? ~!?」

 

 が、耳障りな高音はバンジーガムに口を塞がれ、不発に終わる。

 鋭い激痛、熱、異物感、引っ張られる感覚。

 あまりの苦痛に気を失うも、痛みですぐに覚醒する。それを何回か繰り返した後、下腹部に妙な感覚を覚える。ヒソカがバンジーガムで止血したのだ。

 君のせいか、少しだけ痛みが和らいだように感じる。おかげで意識を失うこともできない。

 協力な念能力者であることも、肉体の耐久力を底上げし、傷を強引に塞がれただけである程度持ち直すことに一役買っているのだろう。

 

 ヒソカが立ち上がる。手には赤い塊を持っている。

 

「これが君の子宮と膣。あとぶら下がってるのが外性器だよ♣️」

 

「~!?!」

 

「あ、バンジーガム解除♦️」

 

「嘘だよね? ねぇ! ねぇ!」

 

「嘘じゃないよ。股を見て御覧♠️」

 

 ヒソカがそう言うと少女の足が不可視の何かに持ち上げられ、次第に体が折り曲げられていく。

 そして、少女は見てしまう。ぽっかりと削ぎ落とされた股ぐらを。

 

「ぁ、ぁあ、う、う、どうして……。ぅぐ、もう止めて。うぅ」

 

 とうとう少女は泣き出してしまった。

 

「どうしてって、君がいつでも使っていいって言ったんじゃない。なんで泣いてるの?♥️」

 

 やっぱりこの女、変。ま、いいや。とりあえずいただきまーす。

 

 ヒソカは徐に少女の子宮を頬張る。少しモグモグとした後、微妙な顔で飲み込む。

 

「美味しくないし、何の感情も感じない。やっぱり、脳じゃないとダメだね。いーらない♣️」

 

 ぐちゃ。

 

 握り潰された子宮だった物が、少女の顔に降りかかる。

 

「じゃあ、脳を貰うね♠️」

 

 今度は頭が引っ張られ、地面に座らされる。当然、身動きは取れない。

 

 そして、トランプですぅーっと眉上辺りをなぞられる。はらはらと綺麗な赤毛が堕ちていく様を見て、これから行われる凶行を想像し、戦慄する。

 

「はい。これが()ね。いらないからあげる♥️」

 

 渡されたのは白や赤や茶が混ざった少女の頭部の一部。腕を動かすことのできない少女は、自身の膝の上にそれがぱさりと落ちたのを見て、遂に堪えきれずに吐いてしまう。

 吐瀉物を少女の肉体だった物にぶちまける。口からだらだらと胃液混じりの涎を垂らす。

 

 何がいけなかったの? 私が何でこんな目に会わないといけないの? 助けてよ。誰か助けて!

 

 少女の思いを察知したのか定かではないが、ヒソカが優し気に微笑む。

 

「いいね。食べ頃だ♥️」

 

 器用にもトランプをスプーン代わりにし、脳を掬う。意識が途切れないように、切除する部位には気を使っている。

 

 なんという愛であろうか。

 

 ヒソカは、聖職者も意外と悪くないかも、と考える。

 だが、目の前のご馳走にすぐに下らない妄想は忘れてしまった。

 

「ほら、これが君の脳だよ。美味しそうでしょ。でも僕が先だからね♠️」

 

 少女には理解できない。ヒソカの才能も、人格も、思考も分からない。でも、1つだけはっきりしていることがある。この小さな異物が、悪魔よりもおぞましいナニカであるということだ。

 

 吐き気も、涙も、震えも、恐怖も、止めることができない。

 

 ヒソカは、パクっと少女に見せつけるように脳を口に入れる。敢えて、クチャクチャと分かりやすく咀嚼する。

 

 そして、ヒソカが大きく目を開く。

 

「美味しい! すっごく美味しいよ! ほら、君も食べてみて!♥️」

 

「!、ぅぐ」

 

 強引にピンク色のそれを口に入れられる。生臭いエグミと鉄の味が口内を暴れまわる。

 

 ヒソカが愉快そうに嗤う。何を考えているか、分からない。

 それから、少女は絶命するまでヒソカとディナーを楽しんだ。

 最後に少女は泣きながら笑っていた。ヒソカにその理由は分からなかった。

 

 この日、ヒソカは才能ある人間、特に念能力者と闘い、追い込んで生存欲求と本性を引きずり出し、それを観察することの重要性を再確認した。

 さらに、そういう人間を嬲り、恐怖と不理解を植え付け脳を喰らうことでより強い恐怖を知ることが出来ると理解した。

 しかし、昔よりは恐怖を始め多くの感情を理解してきたとはいえ、ヒソカの最も知りたい、生きたいという感情は未だ全く分からない。

 

 いつか生きる意味を知ることを願って、次からは、もっと才能のある人間を喰らおう。

 

 相変わらずヒソカの世界はオアシス無き真夜中の砂漠のように、冷たく乾燥した暗い世界のまま……。

 

 三日月が夜と踊っていた。

 

 

 

 

 

★★★

 

 

 

 

 少女の脳を喰らってから、随分と経った。ヒソカは20代になっていた。もはや、何人殺したか、何人の脳を喰らったか分からない。

 

 それでも、まだ生きる意味を見つけることはできない。生きたいと思うこともない。

 確かに、闘って観察することと嬲って脳を喰らうことで人間の持つ恐怖や様々な感情をかなり理解することは出来た。しかし、理解はしても共感は出来ないのだ。ヒソカからすれば、くすんだ画面越しに白黒映画でも観ているような感覚なのだ。

 

 ヒソカは自分が異質な人間であるとこの頃には悟ってしまっていた。いや、本当はずっとずっと昔から気づいていた。無邪気に笑い、泣いて、目を輝かせる弟を見て、当時はその意味が分からないながらも、自分とは根本的に違うと心のどこかで思っていた。

 

「退屈♣️」

 

 ヨークシンにあるバーでグラスポッパーの泡が溶けていくのを意味もなく見つめる。

 もう帰ろうか。そう思った時だ。カランと木製の扉が開き、1人の男が入って来た。

 

 ほう。

 

 思わず、感心してしまう。美しい。純粋な闇を彷彿とさせる美しいオーラだ。纏の完成度も、ヒソカ自身を除けば最も高い。さらに重心の置き方、歩き方からも相当な体術使いであることも推察できる。

 

 ヒソカはその男に対して興味を持った。類いまれなる才能を感じたことも大きな理由だが、それがメインではない。

 

「やぁ。退屈してたんだ。よかったら一緒に飲まないかい?♥️」

 

 いきなり声を掛けたにもかかわらず、その男は気分を害した素振りを見せなかった。

 

「いいよ。その代わり君の話を聞かせてくれ」

 

「御安い御用さ♠️」

 

 男はクロロと名乗った。クロロはどうやら人間の本質に興味があるらしい。それを知る為に色々な知識を探求しており、面白いオーラを纏うヒソカから話を聞きたいと思ったようだ。

 

「────」

 

「──」

 

「──」

 

 クロロはヒソカの話を最後まで黙って聞いていた。ヒソカ自身、自分の心裏をこれ程他人に話したことはない。おそらくだが、クロロの持つ独特の魔力(オーラではない)がそうさせたのだろう。

 ヒソカの話を聞き終わったクロロは、グラスに残ったマティーニを飲み干してから、ゆっくりと口を開いた。

 

「生きる意味か。人はそれを知りたがるものだ。恋人の為、子供の為、復讐の為、学問の為、中には意味は無くとも生きるべきと言う人間もいる。他にも人の数だけ答えがある」

 

「じゃあ、クロロの生きる意味はなんなんだい?♠️」

 

「俺か。俺は……」

 

 その後に続く言葉を聞いて、ヒソカは歓喜した。ヒソカとクロロは似ているのだ。全く同じという訳ではない。しかし、ヒソカには共通点があるように思えた。

 

 故に、クロロに賭けてみることにした。この世界に絶望していたヒソカは最後にもう一度だけ、足掻いてみようと決めた。

 

 ヒソカと本質的に似ている所があり、才能も申し分ない。クロロと闘い、観察し、恐怖の底に沈め、脳を喰らう。そうすれば、もしかしたら、理解を越えて共感できる恐怖を教えてくれるかもしれない。それは則ち、生きる意味を知ることができるかもしれないということだ。

 

「クロロ♠️」

 

 ヒソカがどこか悲痛な声音で言う。

 

「僕と愛し合って(殺し合って)くれないかい♦️」

 

 少し間をおいてからクロロが口を開く。

 

「今は無理だな。これから大事な仕事があるんだ。ヒソカとヤるとなると勝ったとしても五体満足は難しいだろう?」

 

「んー。じゃあさ。僕がその仕事を手伝うよ。ダメかい?♣️」

 

 仕事とやらを早く終わらせてしまえばいい。ヒソカはそういう意図で申し出た。

 

「いいだろう。但し条件がある。そうだな、4番辺りが都合がいい。だから、条件は4番を殺すことだ」

 

「その数字の意味を調べることやターゲットを探すことも試験ってことだね♥️」

 

「その認識で構わない」

 

 その後、少しだけ言葉を交わしてから、クロロは予定があるらしくカウンターに無造作に数枚の紙幣を置いて、行ってしまった。

 

 残されたヒソカは、クロロのオーラの残り香が消えるまでゆっくりとグラスを傾けていた。

 

 

 

★★★

 

 

 おそらくクロロは4番なる人物を都合よく殺してくれる道具を探していたのだろう。ヒソカにもそれは分かる。しかし、そんなことはどうでもいい。クロロの恐怖を食べられるならば、都合のいい道具でも構わない。

 

 今、ヒソカの目の前には頭蓋を開け、脳漿を撒き散らしている死体が1つと人形が1つ。取るに足らない才能に、恐怖だったが、1つだけ評価できる。

 

 感情も記憶もある人形。

 

 単なる戦闘機械ならば、その術者の脳を食べようと思わなかった。それを生み出す精神に興味を持ったから、半ば気紛れであったが、わざわざ術者本体を探しだして食したのだ。

 

 結果は、下らない妄想をぼんやりと見せられただけ。

 

 術者の根っこにあったのは、なんてことのないただの現実逃避だった。あるいは、贖罪のつもりだったのかもしれない。

 

 しかし、無意味だ。何より、ヒソカは全く共感出来なかった。

 

 まぁ、でもこれでクロロからの依頼(・・)は完了かな♠️

 

 携帯を手に取り、クロロに掛ける。数コールの後に応答された。

 

「……No.4オモカゲを殺したよ。これで僕も旅団の仲間入りかな?♦️」

 

「早かったな。証拠に首を持って来てくれ。そうしたら認めよう。場所は──だ。」

 

「了解。だ・ん・ちょ・う♥️」

 

「……ふ」

 

 最後にクロロは小さく笑ったように思えた。しかし、別に不快ではない。 

  

 

★★★

 

 

 数日後、ヒソカはビニール袋に入れられたオモカゲの首が収納されたバッグを持ち、アジトの1つというビルに来ていた。

 

 自動扉が開く。中ではスーツを着た人間が働いている。ピエロルックのヒソカを見てもなんら反応を見せない。

 

 4階だったか。

 

 エレベーターで目的の階に移動すると、そこは他のフロアとはまるで違っていた。まず、旅団以外で人がいない。そして、物も極端に少ない。

 この場所を見たヒソカの感想は、Bad youths(不良)のたまり場みたい、であった。

 

「あんたが新しい4番かい?」

 

 最初に話しかけてきたのは、和装のやや小柄な女だった。

 

「うん。そうみたい。君達が幻影旅団でいいんだよね♣️」

 

 これには女ではなく、ヒソカの求める人物、クロロ・ルシルフルが答えた。

 

「そうだ。よく来たな。まずは、約束の品を確認させてくれ」

 

「OK♥️」

 

 ヒソカはバッグを投げてやる。受け取ったクロロがバッグを開けて口角を上げる。

 頭蓋骨が切除され、脳を中途半端に喰われた生首を見て、クロロはヒソカの闇を感じた。それがとても興味深い。だから、笑ったのだ。 

 

「合格だ。ようこそ蜘蛛へ。歓迎するよ」

 

 そう言って、クロロは首を取り出し、ヒソカより数日だけ先輩の団員に声を掛ける。

 

「シズク。保管してくれ」

 

「……こんなのいるの? まぁ、いいけど」

 

 メガネをした大学生の様な女──シズクが、掃除機型念獣で首を吸い込む。

 

 ヒソカを見る目は様々だ。だが、好意的な者はクロロを除きいない。ただ、クロロ以外が全員敵対的という訳ではなく、中立的な者が最も多い。

 

 一般社会だけでなく、裏や念能力者界隈でも、幾つかの理由で非友好的な対応をされることが大半のヒソカにとっては、彼らの反応は新鮮で好ましく思った。

 などということはない。というより、ヒソカは(クロロは除くが)彼らの態度を不快に感じた。昔、ヒソカが幼い少年だった頃に必死で真似をしたマトモナニンゲンとヒソカの演技に誘われ、へばり付いてきた級友()をなんとなく連想するからだ。

 かつて見たマトモナニンゲンや級友を何故、嫌っているかは分からない。だが、ヒソカは今、思い出しても、やっぱり不愉快に感じる。しかし、そのお蔭で色々と分かったこともあることを考えると全くの悪でもないのだろう。

 

 ニンゲンとは難しいな。なぁ、クロロ♦️

 

 クロロを見る。そして、悟る。

 

 そうか。クロロもそちら(・・・)側のニンゲン……♠️

 

 マトモならば、期待が裏切られ胸が痛んだりするのかな? いや、マトモならばそもそも、僕のような期待を持たないか♥️

 

 クロロは彼らに慕われている。そして、クロロも彼らを大切に想っているのだろう。色々な()を見てきたヒソカは共感は出来ずとも、それを理解するだけの知識はある。

 

 僕とは全然違う♠️ 

 

 クロロがヒソカと同種だと思ったから、ヒソカにも共感できる恐怖を教えてくれるかも、と期待したのだ。だが、実際はヒソカと似ても似つかない。これでは共感できる恐怖をクロロは感じないだろう。

 

 ダメだったか♣️

 

 ヒソカは大きく落胆はしなかった。元々、諦めていた所に、ダメ元で泡沫のような曖昧な期待を持とうとしていただけだ。いつも通りだ、この位。

 

 この時、ヒソカはかねてからの計画──人生最期の命を掛けた賭けを実行することを確定させた。

 

 そうだな。せめて最期は偽りの希望(クロロ)に殺してもらおうか。うん、僕を殺すのは、他に比べれば大分マシなクロロがいい♥️ 

 

 それくらいの純情(皮肉)は神も許してくれるだろう。ヒソカは全く神を信じていないし、当てにもしていないが、この時はそう思った。

 

 こういった思考プロセスを経て、ヒソカはクロロを使い、計画のトリガー、則ち、自殺することを決定した。

 

 結局、生きる意味なんて分からなかったな。この世界だけでは……♠️

 

 そして、時は流れ、天空闘技場。ヒソカ対クロロ。

 

 クロロによる嵌め殺しが完遂されようとしていた。否、正確には、クロロや一定以上の実力者はそう認識しているが、真実は単なる自殺に過ぎない。

 

 ヒソカは爆発により死ぬ直前、全てを掛けた1つの能力が死後に発動するように、強く、強く! 強く!! ただ、強く念ずる。

 ヒソカから(オーラ)が燃え上がると同時にクロロにより爆発が起こされる。爆炎とオーラが混ざり合い幻想的な光景を創造する。

 あたかもそれは、ヒソカが今まで喰らってきた()達の思いを、怨嗟を、怨念を巻き込み、燃え上がる命の輝きのようであった。

 この日、ヒソカは灰骸となり、確かに死亡した。

  

 そして、夢物語は幕を開ける。

 

 

──『例えば世界が違ったら(Sweetheart Of Destiny)』発動!

 

 この念能力はヒソカの運命の恋人──生きる意味を教えてくれる可能性がある人物を、別の世界からヒソカの生きていた世界の平行世界に呼び出す為に開発した特質系能力だ。

 ヒソカは先天的には変化系だった。しかし、生きる意味への異常な執着とその為の猟奇的行動が後天的に特質系を覚醒足らしめた。

 ヒソカが殺した人間の強い情念と怨念(オーラ)がヒソカにとり憑き、ヒソカ本来のオーラと混じり合い、ヒソカのオーラとメモリを変質させていたのだ。始めは系統適性10%未満の覚醒だった。だから、脳を食べるという制約を以て、漸く極微小な感情(恐怖とその関連感情)が分かる程度。

 しかし、数が増えるに従い、特質系適性は上がっていく。加えて、ヒソカが脳を食べる際、脳の持ち主のオーラも一緒に摂取していたことも変質を加速させた。

 通常ならば、この位で特質系に覚醒はしないし、その適性が増すこともない。しかし、殺された人間の強すぎる恐怖と異常な殺害人数により、あり得ない幻想が現実となってしまった。

 勿論、デメリットもある。というより、あるはずだった。この怨念たるオーラはヒソカを殺そうとした。所謂、呪い殺す、というやつだ。

 常人1人分の怨念では異常な精神と才を持つヒソカに太刀打ちできない。しかし、2人分、10人分、50人分と増えていき、その数が100人を越えた時、ヒソカの寿命を削り始める……はずだった。

 ヒソカからすれば、他人の怨念混じりのオーラは扱いづらく、不都合な存在だった。それに対して、とある方法で対処した。50人分の怨念に取り憑かれた頃だ。この対処が、図らずも死者の念による呪殺を間逃れる結果をもたらした。

 結論として、ヒソカは変化系をベースにしながらも、特質系を100%の適性で操れる。だけに留まらず、場合によってはそれ以上にすら成り得るのだ。

 

 こうした前提があって『例えば世界が違ったら(Sweetheart Of Destiny)』が成り立っている。

 しかし、世界を越えるという規格外の効果故に、当然、重い制約と誓約がある。主な能力の内容と合わせて記そう。

 

【内容】

 術者(ヒソカ。以下同じ)は、死後にオーラに意識を内包させて(幽霊のようなもの)、別の世界に転移する。

 そして、転移した世界で運命の恋人(今回はアラタ。以下同じ)を1人だけ選び、術者が当該能力により作成した体(以下転生体と表記)を運命の恋人に与え、術者が生存する平行世界(ヒソカが生存する世界線のハンター×ハンター世界、つまりパラレルワールド)へ転生させる。

 また、術者は、転生体作成時に於いて、術者の目的を著しく阻害する行動(自殺、薔薇による爆殺、ゾルディックへ依頼等)をとらないように、操作系能力によらない洗脳(念によらない一般的な洗脳)がなされた状態の転生体を作成することができる。

 

【制約と誓約】

① 術者(ヒソカ。以下同じ)が本来の世界で死ななければ発動しない

② 術者の念が死後に強まる『死後の念』とならなければ発動しない

③ 運命の恋人(アラタ。以下同じ)の年齢、性別、容姿、身体能力、念習熟度、スタート地点、特殊技能はランダムで決定される

④ ③で決定する事項及び運命の恋人本来の能力並びに特性により、運命の恋人が、一年以内に、平行世界の術者を殺すことができる可能性が存在しなければならない

⑤ 念によらない洗脳、虚言その他精神誘導(以下洗脳等)で運命の恋人の思考及び行動を誘導する場合には、当該洗脳等により、運命の恋人が一年以内に術者の目的を著しく阻害する行動を含まない通常の戦闘行為により、平行世界の術者を殺害することを妨げてはならない

⑥ 術者は転生体作成に際して、③及び⑤の洗脳等の場合を除き、運命の恋人の念能力、身体能力、精神、特性その他人間構成要素に干渉することはできない

⑦ 平行世界の術者は、運命の恋人が平行世界の術者との戦闘開始を同意した場合を除き、運命の恋人を殺害してはならない。ただし、運命の恋人が平行世界の術者に対して、殺傷を意図した直接的行動をとった場合は、口頭又は書面による同意がなくても、戦闘開始の同意があったものとみなす

⑧ 当該能力発動後に、いずれか1つでも制約に反する状態になった場合、運命の恋人が転生した平行世界の術者は死亡し、当該念能力は永遠に失われ、既に発動した当該念能力は無効となる(遡及し、始めから発動しなかった場合と同じ状態になる)

⑨ 運命の恋人の生死にかかわらず、呼び出し完了時(転生完了時)の翌日から起算して一年後に、運命の恋人が転生した平行世界の術者は死亡する

 

 以上が主な能力の内容と『制約と誓約』だ。

 

 『一年以内にヒソカを倒さなければ地獄行き』。これが含まれていない理由は簡単。

 アラタを誘導する為のヒソカの嘘だからだ。

 

 

★★★

 

 

 『例えば世界が違ったら(Sweetheart Of Destiny)』発動により、ヒソカの意識は死後のオーラに内在する形でアラタになる前の青年が生きる世界へと転移する。今のヒソカの状態は幽霊に近い。又は自我のある呪いだろうか。

 

 そんなヒソカは世界のどこかに居るかもしれない運命の恋人を探すために情報収集から始めた。

 

 ヒソカが一番、驚いたのが『HUNTER×HUNTER』という漫画の存在だ。奇妙なことに、そこに描かれるヒソカは、幽霊になったヒソカとは少し違っていた。

 

 インターネット回線に侵入したヒソカは、面白い物を見つける。近年、脚光を浴び始めた神様転生というコンテンツだ。

 

 これは使える♦️

 

 ヒソカはよくある神様転生小説を参考に嘘付きによる喜劇を一人で演じることにした。そうすれば、比較的自然な流れで、ヒソカと殺し合いをしてくれるはず。

 殺し合って、感情を暴き、それを観察し、道化を演じ、恐怖を与え、脳を食べる。それでいいはずだ……。

 

 後は運命の恋人を見つけるだけ。

 

 その段階に至った時、まさに運命に導かれるようにあるスレットを見つける。

 アラタになる予定の青年の書き込みだ。青年がヒソカを扱き下ろしていたのだ。それを見てヒソカは青年に興味を持つ。

 

 果たして、ネット回線を通り青年の部屋に着いた幽体のヒソカは言葉を失ってしまう。

 

 なんというオーラ!♠️

 

 余りにも異質なオーラの存在を青年の内側に感じるのだ。

 青年の世界には本来、オーラは存在しない。しかし、異物であるヒソカには確かに青年の内側に眠る不可解なオーラを感知した。ヒソカが念能力者であること、ヒソカという異物が世界に侵入したことでの世界の歪み、青年が特殊な人間であったこと、これらが合わさって青年にオーラという概念が上書きされたのだ。

 さらにヒソカは青年の特殊性が原因で、潜在オーラ量もシャレにならない次元になっていると判断した。

 

 狂おしい程の歪んだ才!♦️

 

 異常はオーラだけではない。もし、ヒソカが青年の心裏を知ったならば、ヒソカですら青年の人格を変と断ずるだろう。青年の歪みにはヒソカと同質の物もある。それが潜在意識下でヒソカを惹き付ける。

 

 何はともあれ、ヒソカは青年に心を奪われた。まるで最愛の人にするように恋慕の眼差しを向ける。

 

 君ならば……!♥️

 

 こうしてヒソカは青年を世界から拐うに至った。行き先はハンター×ハンター世界。

 

 物語はこうして始まっていたのだ。 

 

 

♠️♦️♣️♥️

 

 

 皆様ももうお分かりでございましょう。語り部であるワタクシの嘘とは、転生を仕掛けた女神の存在でございます。ヒソカが女神を演じていたのでごさいます。

 

 ふふ、でもワタクシにも良心はあります。ですから、女神はヒソカが描写されているページにいる人物や出会った人物を主な基準に身体能力を決めた、といった趣旨のことをヒントとして申し上げたのです。

 

 仕掛け人は女神を偽装したヒソカ自身であり、ヒソカの経験を元に身体能力の基準を決めたのですから当然のことになりますでしょう? え? 分かる訳がないと? きっとそれはあなた様が誠実なニンゲンでいらっしゃるからでしょう。しかし、世の中にはあなた様と違い、嘘を付くことに抵抗がないニンゲンが一定数居るのでございます。

 

 それでは、また続きを騙らせて、失礼、語らせていただきたく存じます。道化の物語の続きをお楽しみ下さいませ♠️

 

 




三人称地の文先輩の嘘。マナー違反なのかな? 
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