【完結】ヒソカは雑魚専? よろしい、ならば転生だ 作:虫野律
少女が自殺した時に少年の人格は確かに死んだ。では、それからおよそ10年もの間、彼の中には何が居たのだろうか。そして、今のアラタの人格は一体……?
★★★
少女が死んだ。
しかし、少年は死ぬ訳にはいかない。少女の心臓を守らなければいけない。たとえ少年が死んでしまっても、その心臓だけは残さなければいけない。この思いが一種の強迫観念となり、少年を生に縛り付ける。それが無ければ、早々に自殺していただろう。元々、生に執着する感性は持ち合わせていない。
だが、赤子の頃からの特殊な経験(人間的接触を絶たれた赤子がストレスで死に至る実例もある)に加え、多大な苦痛をもたらす心臓病が少年の心に重い負荷を掛けてきた。そこに愛し始めてしまった少女の自殺。それも、少年を救うために、つまりは少年のせいで死んでしまった。少年はそう解釈した。
もう限界だった。
少女の脳漿が飛び散る中、少年の歪な心はバラバラに砕け散り、地に沈み込んでいった。肉体的には生きている。しかし、その精神はぐちゃぐちゃに破壊され、修復することは出来ない。
そして、残った呪い。
──心臓を守らなければ……。
身体を動かす為には心が必要だ。身体が動かなければ心臓を守れない。
この強迫観念に急き立てられ、砕け散った心の欠片がそれぞれに歪な花を咲かせる。
ある花は少女の再現を目指し、ある花は反社会性人格障害、所謂サイコパスのように、ある花は享楽的な愚物のように、ある花は冷徹な少年のように、そして、ある花は……。
つまり、チープな言い方をすれば、少年は強迫観念を実現する為に多重人格になったのだ。少年にとっては無意識で行ったことであり、自分が多重人格者であるという認識はない。それが原因か定かではないが、一人称は基本的に"俺"で統一されている。
いきなり女の肉体になっても、抵抗無く受け入れられたのは女性人格も居たからだ。
それで何とかガワは取り繕うことが出来た。心臓移植から数年は、騙し騙しではあるが人並みの人生に少しだけ近いていた。少女が行きたがっていた大学の文学部にも入学し、一応は大学生らしい生活も経験した。
だが、そこまでだった。
『慢性拒絶反応』。
これは臓器移植を受けた人間にしばしば襲い来る自己防衛反応に端を発する不都合な症状だ。大学生になった青年に現れたのだ。この症状が出た為に心機能が低下し、一般社会での生活が困難になってしまった。だが、幸か不幸か免疫抑制剤がある程度の効果をもたらした。結果として、青年は大量の免疫抑制剤を服用することになった。
しかし、免疫を抑制するということは感染症に対する耐性を低下させるということだ。青年の場合は服薬量の多さから免疫の低下も著しいものだった。そして、この服薬は対症療法でしかなく、もっと言えば再度心臓移植をしなければいけなくなる時を少しだけ先延ばしにしたに過ぎない。
根治には再度心臓移植を受けるしかない。しかし、それはそう簡単にできることではないし、青年にとっては絶対に受け入れられないことだった。
こうした事情により青年は大学を中退し、自宅に引きこもるに至った。本来の意味のニートではないが、しかし、認知度の低い現象により、又は充分な説明や理解(共感)がない状態で、就学、就労をしていない人間を世間はニートとみなす傾向にある。何より、青年自身がそう認識していた。
そんな中、青年はずっと堪え続けていた。死んでしまいたいという衝動を抱えながらも、心臓を生かす為にギリギリの所で踏みとどまる。
確実で近くに存在する死へ近くだけの日々。幾人もの青年の人格は考え続けた。人格は違えども、共通しているのは少女への愛。
何故、彼女が死ななければいけなかったのだろうか。
何故、自分が死ななかったのだろうか。
何故、生きているのか。
何故、出会ってしまったのか。
何故、こんなにも……。
答えの出ない自問自答。泥の中で窒息していくようにぐるぐると思考の海に沈んでいく。この苦しみは青年の中に生息する人格の数だけ乗算される。数人分の苦しみを一つの身体に押し込め続けた。それも何年もだ。
青年の本来の世界──日本であれば、そのような行為に意味はなかっただろう。しかし、しかしだ。情念が、執念が、愛念が、それら心念が明確な力を持つ世界では幾つかの贈り物を青年に与える。
先ず、前提として青年のオーラは死者の念に類するものだ。ハンターハンター世界に来るまでに青年は3回死んでいる。
一番最初は赤子の時。前述したように極端なスキンシップの排除はストレスにより赤子を殺すことがある。青年の場合は一応肉体的には生きていたが、愛着障害や一部の共感性の欠落、倫理観へ不適応を招いた。これらは赤子の潜在意識での精神の崩壊を前提としている。これが最初の死──精神的な死であった。
次は少女が頭を撃ち抜いた時。ただでさえ過剰な負担を強いられていた精神には、それはあまりにも残酷に過ぎた。ヒビだらけの少年の心は再度、蹂躙──心の死──されてしまった。これが2回目。
最後が、平行世界のヒソカに呼ばれた時。元の肉体は引き継ぐべき情報を抜かれた後に完全に消滅している。これは肉体的な死にあたる。
このような数奇な運命が青年の念を屍のそれに限り無く近づけた。結果として、強靭かつ濃密なオーラを持つに至った。
だが、青年の特殊性はこれだけではない。青年の中には何人かの人格が居り、それぞれが1人分のオーラを持つ。どういうことかと言うと、青年は一つの肉体に人格の人数分のオーラ量を内在させているのだ。それも皆がが皆、死者のオーラに近い性質を有している。
さらに、恐ろしいことにそのオーラは数年にわたる自問自答、葛藤により熟成されている。要するに、長年瞑想をし続けた状態になっていたのだ。
結果、青年のオーラ量は人の枠をぶち壊し、暗黒大陸でも何ら問題なく過ごすことの出来る次元に到達した。勿論、暗黒大陸はオーラ量だけで生きていける程甘くはない為、今のアラタでは絶対に通用する、と迄は言えない。しかし、それでも驚異であることに変わりはない。
また、転生体作成時に決定された『身体能力・下の中』。これはそれなりに動けるアマチュアハンター程度であるが、アマチュアとはいえ一般人基準では決してレベルが低い訳ではない。間違っても臓器移植の拒絶反応により弱体化した心臓で実現出来るものではない。
つまり、この身体能力を与えようとした結果、慢性拒絶反応の症状は治癒されたのだ。ある意味アラタにとって最も嬉しい贈り物であった。
健康な肉体、莫大なオーラ量、遺伝子に関する反則級の発、さらに身体精密操作、原作知識、止めに前回の世界線の自分の情報……。
これだけの要素があれば如何にヒソカと言えども、(仮に洗脳による縛りや成長限界がアラタにあったとしても)簡単に殺されてしまうのではないか。そのように思うだろうか。
その疑問に答える為にも場面を戻そう。
★★★
「このオーラを見せたのは君が初めてだよ♥️」
「ごめん。私は初めてじゃあないんだ」
ヒソカのオーラはアラタにとってある意味で慣れ親しんだものだ。だから、悪ふざけで軽口を叩いた。
これが恋愛に関する話ならば平和なのだが、この二人はそんなものではない。
アラタやクロロのクローン体の血肉を浴びたヒソカ(疑似筋肉によりある程度は遮断されているがある程度は付着している)に、屍の呪いのようなオーラを纏うアラタ。彼らではラブストーリーは描けないだろう。
「じゃあ、きっと上手いんだね。期待してもいいかな?♣️」
次の瞬間、アラタはヒソカに殴られていた。彼我の距離はそれなりに離れていたはずだが、一瞬で距離を詰められたのだ。
吹き飛ばされながらも、アラタは瞬時に再構築をする。バカみたいなオーラ量によるごり押しでこちらも一瞬で完治する。
(やべー対応出来なかった。速すぎる)
今のアラタは『
「凄い! まだ原型を留めてる!♠️」
ヒソカが五体満足のアラタを見て歓声を上げる。ヒソカもまだまだ全力でないとはいえ、それでも驚嘆に値する。
★★★
──『
昔、ヒソカはこの能力を使い──正確には解除し、全力で戦ったことが一度だけある。
相手は人間ではない。運悪く人間の棲息する世界に迷い込んだ暗黒大陸の生命体であった。ヒソカに出会わなければ、とりわけ『運悪く』などという修飾はされなかっただろう。原作基準でいうと、蟻の王直属護衛軍に匹敵する身体能力を持っていたのだ。人間世界ではそうそう命の危機など訪れない。
だが、その中途半端な強さがヒソカに期待させてしまった。それ故に人間相手では使ったことのない全力を、出してしまった。
結果、コンマ1秒にも満たない刹那でその生命体は爆散した。
やったことは、近づいて殴っただけだ。それで全てが終わってしまったのだ。
異常なスピードと膂力の影響は凄まじく、街から遠く離れた地であったことがこれほど幸いだったと言える事態は中々お目にかかれないだろう。
ヒソカの拳とオーラの圧により森の一部が崩壊したのだ。拳の先の木々は消滅し、地は抉れ、その窪みに川から水が流れる。地図を書き換える必要性を一個人で生み出した。異常と言う他ない。
さて、薄々気付いている方も居られるだろう。『
以前に平行世界のヒソカが殺してきた人間の怨念にとある方法で対処したと述べたのを覚えているだろうか。それがこの能力だ。
平行世界と同じく、このヒソカにも殺してきた人間の怨念が、ヒソカを殺そうと襲いかかった。その時、ヒソカは『
自身のオーラ性質を『他者のオーラを閉じ込める』という性質を持つ物へと変化させたのだ。これは言ってしまえば、オーラの性質を概念レベルで変化させるものだ。このオーラの概念変化こそが、変化系の極地。天才的変化系能力者が狂気に身を任せ、一生涯を捧げて、漸く到達し得る頂に他ならない。
そこに10代の頃にちょっとした思い付きで到達してしまったのが、ヒソカというニンゲンだ。
このようにして、作り出した特別な味がする『
さらに、ヒソカはもう一つの概念変化を加えた。
それは『貯えたオーラをヒソカが制御可能なものへと変える性質』へのオーラ変化だ。つまりは呪いの弱体化。これにより、ヒソカは殺した人間の呪いとも表すべきオーラをデメリットを抑えつつ使用することができる。
弱体化という文言からも皆様は予測していると思うが、死者の怨念の強さや質により完全なノーリスク化──呪いの無効化には至らない場合も当然ある。その数が膨大であることも、貯えたオーラを使用する際のデメリットを厳しいものにしている。
則ち、貯えたオーラの使用はヒソカの寿命を削る。
これがこの能力の広義の誓約と言えるだろう。ヒソカが意図したのではなく、オーラの元の持ち主が抱いた意思の集合体がもたらしたものだ。ここで言う寿命とはアラタのケースとは異なり、もっと形而上学的だ。有り体に言えば、死ぬ運命の時を引き寄せるということだ。
クロロの自爆を防いだのは、この能力で貯えたオーラにより実現した異質な程強靭な堅だ。
さらに細かいことを言えば、『
そして、もう一つこの能力の恐ろしい効果がある。その効果こそが『
その効果とは、死者の元来の適性系統が反映されるというものだ。要するに、夥しい数の死者の様々な系統のオーラを使用した結果、ヒソカの元来の系統である変化系統に上乗せする形で混ぜ合わされ、全ての系統適性が100%まで上昇し得るのだ。
使用するオーラが偶々強化系統に偏る等の場合は、強化系統のみ適性が上昇するという例外はあるが、これについても最近のヒソカはコントロールが可能に成りつつある。則ち、死者のオーラの系統を区別して選択的に使用出来る(まだ完璧ではない)。
まさに異常。生来の人格破綻者が人類最高ランク以上の才能を与えられ、
いや、もっと相応しい呼称がある。
『死を支配する死神』
それがヒソカの本質であり、正体。
この呼称がこれ程、相応しいニンゲンはヒソカをおいて他には存在し得ない。
アラタが相手にしているのはそんなナニカだ。
再度、場面を2人のダンスへと戻す。
★★★
アラタはヒソカを油断なく観察しながら、思考する。
(
アラタはもう一枚切り札を使用することを決めた。このタイミングでの使用こそが、アラタの描く攻略チャートに適合していると思えた。
──『
アラタの髪色が鮮やかな紫から、艶やかな黒へと変貌する。
本来、スピード特化とパワー特化のように2つの方向に身体を調整することは出来ない。速さを求めれば余計な筋肉は削がれるし、パワーを求めれば筋肉が増し、重量が増える──つまりは速さが失われる。コードパープルのように両方を求めれば、それぞれは特化したものより弱体化してしまう。
では、どうするか。もう皆様もお分かりだろう。制約と誓約だ。
先ず、この能力を使用する際は通常の『
さらに、1秒につき1日、寿命を削る。原作クラピカのエンペラータイムと同じだ。
黒髪が風に揺れる。
今のアラタは筋力、敏捷性、耐久力、持久力、柔軟性、五感、念の才能、これらの7つを人間の上限値を越えた領域まで引き上げている。
これだけの遺伝子操作だ。その外見も異形のものへと変貌しているとお思いだろうか。
だが、それは違う。確かに外見も変化しているが、その方向性は機能美を追及したものだ。そして、それはある種の人智を越えた美しさを備えている。二足歩行型生物の機能の追及がさながら天使のような美しさを与えているのだ。
もしかしたら、人々の生物進化を求める潜在的本能の延長線上にあったのが、太古からすでに人々の生活に根付いていた宗教で、度々登場する神や天使であったのかもしれない。
真実はともかく、アラタは人という種が持つ可能性の先にある理想を極めて完全に近い形で体現している。
そして、それはひたすらに美しい。
(これで少しは張り合えるかな)
今度はアラタが仕掛ける!
音速を越えた瞬動はそれだけで、夥しい衝撃波を撒き散らし、破壊を与える。
研究施設の残骸が衝撃波で粉々に砕け散った瞬間にはすでに、アラタはヒソカへと17回の打撃を加えていた。一拍遅れて今度は拳打や蹴撃の空圧で瓦礫が吹き飛ばされる。
仮に超一流の戦闘者であろうと、これで終わっても何ら不思議ではない。しかし、相手が悪かった。
アラタの変貌から、その非現実的な性能を機敏に察知したヒソカは自身の中にある死者のオーラを数段多く引き出した。さらに、疑似筋肉をヒソカが実現出来る最も理想的な密度、形状で身に纏っていた。紛れもなく最高性能を誇る筋組織である。強くない訳がない。
ヒソカは未だ全力ではないものの、本気だ。それも二十数年の人生においてここまでヒソカを本気にさせた存在は、前述の暗黒大陸の生命体を除くと誰1人としていない。
アラタの音速を越える挙動を、しかしヒソカは確実に捉えていた。そして、しっかりと回避や受け流しで対応する。
17回中、ただの一度もまともにダメージを与えることは出来なかった。だが、アラタに絶望はない。
さらにカードを切る。
──精孔超開放1000%!
『
当たり前のように使用している精孔超開放だが、これはアラタの肉体を破壊するものだ。だからアラタは再構築による再生を常に自分に掛けなければならず、ただでさえ激しいオーラ消費をさらに押し上げている。
しかし、耐久力、柔軟性、念の才能が高められたアラタは精孔超開放によるダメージを最小限に抑えることができる。
結果、本来ならば、負担やオーラ消費量から実戦において全身で継続的に使用するのが、実質的に不可能な精孔1000%開放が現実のものとなる。
アラタの肌が紅い光を放ち出す。開き過ぎた精孔が特殊な可視光線を漏らし出したのだ。これはアラタの潜在オーラの色とでも言えるものである。その色は鮮血のよう純粋で魅惑的にして、神聖。
「イイ……。最高に愉快だ。キミみたいな彼女が居て僕は幸せだよ♥️」
そう言ったと思ったら、いきなりヒソカが増えた。
「うわー忍者かよ」
『
ヒソカが一斉に動き出す。シャッフルするように動き回りながら、息の合った連携でアラタに襲いかかる。
勿論、幻が本体と同じように物理的なダメージを与えることはないが、だからといって、本体を区別出来ないならば13人全てのヒソカに対し、ガードも回避もしない訳にはいかない。もし本体であったならば、ノーガードで攻撃を受けてしまうからだ。
ヒソカのこの戦法は肉体破壊と精神の消耗を同時に敵に強要する。
ヒソカの内の1人がアラタへ裏拳を放つ。
しかし……!
(悪いけどバレバレだ)
アラタはこれを無視して、本体たるヒソカへと一直線に迫る!
意外と言えば意外だが、ヒソカはポーカーフェイスを保ったまま、内心では冷静に分析を続けていた。
やはり、アラタには僕の
一度は破られているのだ。それが偶然である可能性もあった為、また使ってみたが、結果はこの通り。アラタが確信を以て、手品を見破っていることがよく分かった。
しっかりとヒソカ本体を見据えて、またしても規格外の打撃──。
否!
「ッ!!」
アラタ渾身の蹴撃!
その速さはヒソカの予想を大きく上回る。流石のヒソカも、人間の上限を越えた身体能力の上にこれ程のオーラを纏ったニンゲンと戦闘した経験はない。だからこそ見誤り、対応が遅れてしまった。ヒソカの採れる選択肢は幾つかあったが、いずれにしろ、分析に思考のリソースを割いていたヒソカでは刹那の遅れが生まれてしまっていただろう。
そして、音速を越えた攻防においてそれはあまりに致命的! そこを見逃す程アラタは甘くない。
結論、ここに来て漸くアラタの中段回し蹴りがクリーンヒット!
ガードされる前にヒソカへと到達したのだ。インパクトの直後、およそ人肉同士がぶつかったとは思えない地響きのごとき音が鳴り、衝撃波が瓦礫を粉砕する。
「っ!♥️」
無慈悲な一撃にヒソカが愉悦の表情を浮かべ、錐揉み回転しながら吹き飛ぶ。原型を留めていた研究施設の一角をぶち壊し、砕け散ったコンクリートの中で漸く停止する。
『
だが、これはヒソカがギリギリのプレイングで
さらに言えば、アラタに一旦希望を見せてから、それを叩き潰し『こんなはずでは……』という表情を見たいがためにしていることだ。
死者のオーラによる異常な性能の『
但し、アラタとの戦闘に飽きて、寿命を大幅に削り、かつ、
現状はヒソカの気分によって成り立っている側面もあると言える。
粉塵が視界を遮る中、真っ直ぐにヒソカの居る方向を睨み付ける。
(さて、そろそろ全力を出してくれないかな。このペースだとオーラが持たない。早いとこ最終段階に移行したい)
一見、形勢逆転したかのように見えるがそれは違う。アラタの計画を完遂するには消費オーラ量をかなり節約しなければいけない。莫大な潜在オーラを持つアラタですらだ。
それにアラタからすればヒソカをただ単に殺せばいいわけではない。アラタの狙いは別にある。勿論、ヒソカ殺害はクリア目標の一つだが、それだけではないのだ。
最終目標クリアには命を消費しなければならない。
しかし、アラタに心臓を破壊する恐怖はあれども迷いはない。必要ならば、修羅にも、下衆にも、──にもなれる。
アラタは強い。これは間違いない……はず。
一方、吹き飛ばされながらもヒソカは歓喜していた。最高の玩具は自分であると疑う余地はないが、アラタはその次くらいにカテゴライズしてもいいと思い始めていた。
思えば、これ程底の知れない玩具に出会ったことはないかな。勘だけど、暗黒大陸由来であろう輸入玩具だって、バカみたいなオーラと強靭な肉体を持っているだけで、アラタのような理解不能にして、ファンタスティックな存在ではなかった♠️
大体、アラタの発は普通ならば、あり得ない。いや、僕も大概だから、他人のことは言えないけど、それにしたって出来ることが多過ぎる。それにまだとんでもない爆弾を中に隠している……!♦️
……複数の源泉を持つ独特かつ莫大なオーラだけではない。相応の代償を支払っているはずだ。でなければ説明出来ない♣️
ヒソカが笑う。
アラタとの距離は数十メートルはあるのに、まるで挿入しているかのように直ぐ近くに感じると錯覚する程の圧。
これで笑わずにいられるだろうか。
そして、ヒソカは一つの結論──正解に辿り着く。
間違いない。アラタはこの戦い──いや、闘いで死ぬつもりだ♠️
いつもどこか冷めてしまっていたヒソカの中で、正真正銘の
あいつの思惑に乗るようでシャクだったから全力は出さないつもりだったけど、もうどうでもいいや。こっからは何も気にしない。だから、僕もここで終わってもいい。さぁ、
──『
死に行く死神が顕在する……!