【完結】ヒソカは雑魚専? よろしい、ならば転生だ 作:虫野律
上空から、少しばかり、はしゃぎ過ぎたメンチへと、多少は本
最強の念能力者。
その肩書きに相応しい一人の老人が飛行船から飛び降りる。
高所から飛び降りたとは思えない程、自然体でネテロが大地に足を付ける。
怪我どころか痛がる素振りすら見せないネテロに受験者達から驚きの声が上がる。
「ヒィ君的には、アイちゃんは何点なの?」
アラタはネテロ会長を指差しヒソカに訊ねる。人に指差しして、本人の目の前で何てこと聞いてるんだ。
ちなみにネテロ会長の、フルネームはアイザック・ネテロなのでアイちゃんだ。アラタのネーミングセンス(?)はKYを極めている。
アイちゃんが自分のことを指していると、刹那の後に気づいたネテロは思わず吹き出してしまう。
「んー? 127分の83点かな◇」
「それは約70点じゃダメなの?」
「ダメだね♠️」
「へー。じゃあ、わ・た・しは何点?」
「……
「そこは120点て言えよ」
ゲシゲシとヘッタクソな流──身体上のオーラ移動技術──で足先にオーラを集めてヒソカの脛を蹴るが、ただの纏しかヒソカはしていないのにダメージを与えられない。
「くそ! これが格差か! 悔しいのう悔しいのう」
「お主ら、イチャついてないでアイちゃんの話も聞いてくれんかの」
ここはハンター試験の会場である。この2人マイペースに過ぎる。ただ、どうしてもピンク色の空間より、赤黒い空間を創りがちだ。
というかネテロ会長、意外とアイちゃんて気に入ったのだろうか。
「ホイホイ」
アラタはやる気無さげに、テキトーな返事をする。
(クワバラのタマゴ採ってくればいんでしょ。はよはよ)
次元刀で両断されればいい。
「メンチよ」
後に続く、ネテロの発言は概ねアラタの知る原作通りだった。ちなみにメンチだけでなく、ブラックさんも
豆男はぶつぶつと愚痴を溢しながらも、操作系に属するであろう精神操作系の発を実行した。勿論、3名程はこの対象外であった。
もう一つの違いは、試験内容についてだ。
「仕切り直しということで2次試験はワシから直々に話そう」
漸く始まるのか、と受験者達に妙な安堵が生まれる。
「2次試験は、クモワシのタマゴとグレイトスタンプを使った『スシ』という料理を創ることじゃ」
(は? 嘘やろ?)
RTA成功かと、ウキウキしていたアラタは山葵マシマシの握り寿司を食べたかのような顔をする。
「皆、スシなど聞いたことも見たこともないと思う。そこで、ヒントを書いたメモ用紙を30枚、試験官2人に作成させる。それぞれに一つづつ違うヒントが書かれている。答えに直結する物から、ほとんどヒントとして意味を為さない物まで、様々な物にするつもりじゃ」
(なんか嫌な予感がする)
「この用紙をそこの頭の悪そうなピンク髪に預ける。つまり、皆はピンク髪からヒントを入手し、それを元に料理を創ってもらう。注意点は、一人につきピンク髪から入手出来る
(それってつまり……)
「ピンク髪の合格条件はこの
(…………)
「ピンク髪だけは、1時間早くスタートじゃ。では良いな
?」
「良いな? じゃねぇぇぇ!」
アラタの悲痛な叫びを無視して、ネテロはニヤニヤと嗜虐的な顔でアラタを見ている。やんちゃし過ぎたバカへの制裁、他の受験者達の多くはその様に解釈した。
勿論、それに近い意図もある。仮に何らかの意図を持っていたとしても、あの煽りは、グルメハンターを認めているハンター協会への侮辱でもあり、怒りを覚えない訳がない……などと言う気は更々ないネテロだが、面倒なことをしてくれた意趣返しのつもりが半分。面白いオーラを持っているアラタの人間性を試す腹積もりが半分だ。
(この試験、少なくとも複数人の合格が可能である性質上、協力がしやすい点、情報の共有を禁止していない点、戦闘を禁止していない点、時間制限がある点、あらゆる方面から俺を嬲ろうという思惑を隠そうともしていない)
ざわざわと受験者達が色めき出す。
確かに身体能力的には受験者達の中でも特別に秀でてはいないだろう。だが、これまでのこのピンクの所業を見るに手を出して良いものか……。
「制限時間は3時間。ピンク髪は1時間早くスタートする。移動可能範囲は、この自然公園全域じゃ。では、ヒントを記載したメモを作成し、ピンク髪に渡してからスタートとする」
ネテロの話の途中からメンチはイキイキし初め、今はネテロと同じくニヤニヤしている。まさに、ざまぁといった心境だ。
豆男からメモを受け取り、ヒント作成上の注意点を説明され終わるとキビキビとした動作でペンを動かしだす。気のせいでなければ腕が6本程に増えている。残像である。メンチは職務に熱心に取り組んでいるのだ。私情などある訳がない。
誤解の無いように述べさせていただくが、この試験はアラタをいたぶる為だけにある訳ではない。他の受験者達にとっては、危険のある食材入手、知らない料理の推測、そこから更に発展させ創作料理たるスシを創る必要性、念能力者から情報を奪う困難さ、抜け道だらけのルールの中を上手く立ち回るコミュニケーション能力、今後の為になるべくライバルを減らす必要性、その他様々な要素が絡む極めて面倒臭いそれなりの難易度を誇る試験になる。
「それでは、ヒントも完成したようなのでこれより2次試験を開始する」
だが、ここでネテロに2つ誤算があった。
一つはアラタが寿司を知っていること。しかも最近の肉、魚、その他様々な進化系をも確りと記憶している。これは何パターンもの答えを知っていることに他ならない。
アラタは開始の合図と伴にその場から動かずにメモを熟読する。
半分の受験者は開始と同時に森へと姿を眩ませ、気配を殺し、罠をはり、時間が過ぎるのをじっと待つものと思っていた為、怪訝な顔をする。
残りの半分はアラタの合格条件の性質を見抜き、アラタの意図を推測する。
則ち、情報たる
このように、人間の性格や情、目的等により殺し殺されが当然のこととして設定された試験であることを禁止事項の少なさから、受験者達は推測した。
しかし、アラタのとった行動は試験という枠をぶち破る物だった。
メモを読み終わったアラタは、机と椅子を見晴らしのいい広場の中心部に用意し、座っているメンチとブラハの下へスタスタと歩いていく。
メンチは凄く嫌そうな顔をしている。ブラハは冷汗が背を撫でるのを自覚する。
「はーい。ちゅーもーく。今から役に立たないヒント5つ以外のヒントを全て読み上げまーす」
口語調の単語やふざけた話ぶりとは対象的に、よく通る芯のある力強い声は、歴史上実在した数多の独裁者を彷彿とさせる。
ざわつきがイッキに拡がる。
──ほう。そうくるとは意外じゃの。
ネテロは試験では久しく見たことのない行動に知らず知らず嬉しそうな顔を浮かべる。
「それから、私が知ってる伝統的な寿司の情報とその派生系の創作寿司も全て教えまーす。ついでにクモワシの卵とグレイトスタンプの入手法もオマケしちゃうよー」
身体精密操作で何度も声を操作してきたアラタの技術は確実に上昇している。まるで、魂に染み込んでいくような声音は大衆に熱を与えていく。これまでの殺伐とした時間に射し込んだ柔らかな木漏れ日の様に感じたのかも知れない。その声に身を委ねることが心地良い。
「合格は、寿司の形状と特徴を満たすこと。これなら全員合格出来るヌルゲーなんだよね。ここはラブ&ピースで仲良く全員突破しようぜ!」
場が一瞬で沸騰する。
「「「おー!」」」
2つ目の誤算はアラタが2次試験で他の受験者を脱落させる気がないことだ。
(どうせ原作でも大して脱落者は居なかったし、この後の試験に影響ないっしょ)
実際にどの程度、減ったかなんて分からないがアラタはその様に記憶していた為、この結論に至ったのだ。
しかし、このアラタという女、ラブ&ピースと言いつつ、読み上げ、情報を伝達した後は、情報源というアドバンテージ消滅により殺されることへの警戒を忘れていない。情報開示後は速やかにメンチとブラハの後ろ──見晴らしのいいポジションに移動してややオーラの多い纏──弱めの堅の状態で周りを警戒し、リスクを最小限に抑える腹積もりだ。
大衆の熱気が一匹の生き物のような様相を呈する中、冷静にアラタを分析する者も、当然ながら、居る。例えば、クラピカ。彼は(極めて限定的な例外はあるが)俯瞰的かつ冷静な視野を持つことが出来る人間だ。この場の空気に当てられることなくアラタを観察している。
利己的で傲慢な魔女。
彼が下した評価の真偽を語るのは控えさせていただくが、そう評価したクラピカさえ敢えてこの場の流れに逆らわないことにしたようだ。
(裏切りとか、腹の探り合いとかサバイバルとかめんどくせーし。それならこっちの方がいいっしょ)
怠惰。英語では
第287回ハンター試験・2次試験。脱落者ゼロ。則ち、史上初の珍記録にして伝説的偉業の達成である。
ガバ理論は許してほしい。