【完結】ヒソカは雑魚専? よろしい、ならば転生だ   作:虫野律

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このアラタの過去話のシリアス度はどれくらいなのだろうか? 作者はガチ初心者でイマイチ分からないので、よかったら教えて下さい。




 少年は物心ついた時から病院に毎週通っていた。ある年齢に達するまではそれが当たり前で、幼稚園の他の友達も皆、少年と同じように変な匂いのする大きな建物に足繁く通っている物だと思っていた。

 少年にとっては退屈な時間を我慢すれば、帰りに決まって買ってもらえる海老が入ったハンバーガーが楽しみで(普段はジャンクフードは固く禁止されていた)、毎週金曜日はとてもいい日なのだと無邪気にはしゃいで居たのを記憶している。

 

『遺伝性の心臓病』『難病』『二十歳までは生きられない』

 

 医師が両親に告げていた事実を知ったのは、小学校に入学してしばらく経ってからだった。

 しかし、少年は涙を流したり、まして、取り乱したりは、ついぞしなかった。勿論、死というものを具体的に想像できなかったことも、少年をそうさせた原因だろう。だが、それを差し引いても少年は異常に落ち着いていた。むしろ、両親の方が目を赤くし、最後の方には言葉を紡ぐことが辛くなる程、悲しみを塞き止められずに居た。

 

 後になって分かったことだが、少年は心にも無視できない重りを抱えていたのだ。

 

『愛着障害』

 

 この楔があったが為に、両親への愛着、所謂、絆の形成が困難であり、また、少年のケースでは両親への情の欠如だけでなく、表裏一体を成すように自らに対する愛着や自己肯定感の喪失が混在していた。むしろ、他者に対する物よりも、自分自身への物の方が顕著であったのだ。だから、少年は死への恐怖も両親への同情も極めて希薄にしか持つことを許されなかった。他ならぬ自分自身の歪みによって。

 

 この歪みは後天的なものだ。つまりは明確な原因がある。

 

 少年は覚えていないし、はっきりと伝えられたこともないが、少年の生物学上の両親は今の2人とは別にいる。

 

 歪みの原因はありきたりで定型的だが、当事者にとってはどんな奇抜なフィクションよりも受け入れ難い物だったはずだ。

 

 少年は、血の繋がった父母に虐待されていたのだ。産まれてから幾ばくも時を経ない内から。

 

 その内容は育児放棄、別名、ネグレクトと呼ばれるものだ。虐待と言えば積極的、暴力的な物と専ら認識されていた当時は、ネグレクトという言葉も今ほど認知されておらず発覚後もメディアに取り上げられる、というようなことはなかった。

 市の職員の調査によると、機械的に、肉体的成長に必要な栄養と環境を与えるだけで、決まった時間にそれらのルーチンをこなす以外は、赤子が泣いても何もせず、当然、抱きしめることも、笑いかけることも、話しかけることもせず、肉体的、精神的接触は周りの目を欺く為の必要最小限であったそうだ。

 通常であれば、赤子の頃から感情や共感性、前述した愛着を育まれ、人格を形成していく。しかし、少年にはそれを正しい方向に導いてくれる存在は居なかった。生物学上の両親の心裏までは分からないが、市の調査担当者が見た彼らは平均よりもずっと少ない体重であった。具体的な病名は伏せされていただくが、彼らには措置入院による多角的な治療が必要と医師に診断されていた旨の記載が調査書にはなされていた。

 その後、特別養子縁組の手続きを経て、今の両親に引きとられてからは、人並み以上に愛情を注がれるようになった。

 しかし、人間にとって重要かつ唯一無二の時期に植え付けられた歪みの種は、その時にはすでに強固に根を張って暗い花を咲かせていた。

 

 時は流れ、休みがちながら学業は苦手ではなかった少年は高校に入学した。

 呼吸困難、胸の圧迫感、痛み、目眩、その他様々な不都合が少年を苦しめ続けていたが少年にとってはそこまで大きな問題ではなかった。それらは昔よりも頻度や程度が増して来ている。死神が少年に微笑む日は近いと両親含め誰もが思っていた。

 

 初夏の金曜日。慣れきってしまった消毒液の匂いに若干の不快感と安心感を感じながら、少年は何時もは行かないフロアにある自動販売機コーナーに来ていた。少年がよく行く自販機コーナーでは大好物の『激辛コーンポタージュ~山葵を添えて(笑)~』が売り切れていて、どうしても欲しかったから病院内を徘徊して辿り着いたのだ。

 1週間分、7本で1050円はバイトなんてしていない少年にとっては痛い出費だが、欲望を優先させる。

 

「うげー。それ買ってる人初めて見た。君、頭大丈夫?」

 

 後ろから急に話しかけられて、少しビックリしたが振り向いてもっとビックリさせられる。

 

「……」 

 

 どうしたものか。つい言葉を失ってしまう。

 

「ちょっと、笑うか、ツッコムかしてよ!」

 

 振り向いた少年が見たのは、自分と同じ年頃の少女が両手を自分の頬にやり、後ろに皮膚を引っ張っている姿だった。今で言う変顔というやつてある。

 

 こんな顔どこかで見たことあるなぁ。どこだっけ?

 

 何もリアクションがない少年にしびれを切らしたのか、少女がハリウッド映画で度々、目撃できる大仰な仕草でやれやれと首を振る。

 

「チミには失望したよ、ワトソン君。これでは犯人はバカンスでバカスカ酒盛りをしてしまうよ」

 

 今度はオヤジギャグか。見た目は深窓の令嬢と行った風貌なのに、中身は芸人みたいな奴だ。

 

 ん? 芸人? あ、思い出した。

 

「アクセラレーターズのコント」

 

 当時、ゴールデンに放送されていたお笑い番組で芸人が少女と同じ顔をしていた。思い出せて不思議な達成感がある。

 

「ほう?」

 

 何か少女の琴線に触れたのだろうか。何処ぞの魔王みたいに偉そうに、吐息と共に好奇心を吐き出す。

 

 これが何処にでもあるかもしれない彼らなりの精一杯のボーイミーツガールだった。

 

 

 

 数日後、少女の病室──所謂、差額を割増で払うVIP待遇の個室──で貞操の危機を迎えていた。

 

「げへへ。良いてはないか、良いではないか」

 

 勿論、貞操の危機は少年の貞操が、である。

 わきゃわきゃと指を動かし少年を追いかける様は、シュールとしか言えないものだ。

 

「何でさ! 普通、冗談だって思うって! というか冗談だよね? ね?」

 

「フフフ。私はもう準備万端だ! さぁ、新しい世界へ逝こうではないか」

 

 少女の手には女子児童用のスクール水着とインスタントカメラが握られている。

 

 何故こんなことになったのか。後悔してももう遅い。

 

「さぁ、早くスッポンポンになって私の出し汁が染み込んだスクール水着を着るのだ!」

 

「やかましいわ! この変態!」

 

「ハハハ。負けた方が悪い。勝者が正義さ!」

 

 この2人は罰ゲーム有りでオセロをしたのだ。入院の長い少女の実力を見誤った少年も悪いとはいえ、女子小学生用のスクール水着を着させられ、写真集を製作されるなどということは、とてもじゃないが認められない。

 

「く! こうなったら仕方がない」

 

 意を決して禁じ手を敢行する。

 

「な! 貴様ぁ! 卑怯だぞ!」

 

「秘技・ナースコール3連打ァ!」

 

 この後、最近、婚約が破棄されたと噂の主任看護師(34)にたっぷり1時間は説教を唱えられた。

 説教の最中、ちらりと見た少女の顔は、全く反省が伺えないものだったことを記しておく。

 

 その後も少年と少女はくだらなく意味のない、けれども、大切な時間を一つ一つ積み重ねていく。それは、普通の人から見たら詰まらない、あるいは、同情を感じさせる物であっただろう。そんなことは少年も少女も口にはしないが、よく分かっていた。十代後半の時期を病院から一歩も出ずに過ごしている少女を他人(ひと)は憐れむかもしれない。もう余命幾ばくもない少年を直視出来ないかもしれない。

 でも、2人にとっては周りの声なんてどうでもよかった。2人が生きている今を、奇跡を刻み込む。ただ、それだけが、彼らには意味のある尊い儀式だった。

 

 そして、いつの間にか、少年の心に咲いた暗い花の周りには、白く、ただ、白く輝く小さな花を咲かそうと蕾が命の灯火を揺らし始めていた。

 

 しかし、彼らの運命はハッピーエンドを許そうとはしない。

 

 ある日、少年は女性看護師達が彼らについて話している場面に遭遇してしまった。彼女達からは少年の姿は見えていないようだ。意図せずに、自動販売機の影に身を隠す形になっていた少年は出るに出られなくなってしまう。

 

「あの子達、仲いいよね。見てて楽しいわ」

 

 学校を卒業して間もない、明るい茶髪の看護師がそれをからかいつつも、喜ばしいと感じているのだろう。柔らかな表情は彼女が看護師としての高い適性があることを証明している。

 

「……あなたは未だ知らなかったわね」

 

「え? 何がですか?」

 

 この病院に勤めて長い、次期師長がほぼ当確している髪の長い女性の思わせ振りな物言いに、茶髪の看護師はつい学生気分で雑な口調で答えてしまう。  

 

「□□(少女の名)さんの父親のことは知ってるわね」

 

「それくらいは知ってますよ。国会議員さんですよね」

 

 少女の父親は当選10回以上のベテラン議員だ。それだけでなく、祖父も曾祖父も知事や閣僚を勤め上げた生粋の政治家一族だ。そして、長く政治の深部に関わるということは……。

 師長候補の看護師が、そうよ、と頷いてから続ける。 

 

「この病院の評判が良くないことにも、あなたももう気づいているわね。おかしいと思わない? その気になれば名医と最新設備をいくらでも揃えられるはずなのに、何故、大事な1人娘を評判の良くないこの病院に入院させていると思う?」

 

 茶髪の看護師は顎に手を当て、むむむ、と唸るがそれらしい答えを捻出することはできない。

 

「地元だから……ではないですよね」

 

 医療現場にある様々なもの見て少しだけ疲れてしまったのだろう。ベテランの看護師は影を落としながら、口を開く。

 

「臓器移植手術の為よ」

 

「移植……」

 

「肺移植が法律で認められてから約3年が経つけど、その数は決して多くないわ。まだまだ認知度が低いせいで、脳死に至った方が臓器提供意思表示をしていることは稀よ。勿論、血液型が一致か適応しないケースもあるわ」

 

 ここで茶髪の看護師はこの先を察する。

 

「それじゃあ、まさか」

 

「若く、同じ年齢で血液型も一致し、近い内に必ず死ぬ人間が居て、融通(・・)の効く病院が必要だった」

 

「それって……」

 

「最近、□□さんが楽しそうに話すあの少年よ」

 

 

★★★

 

 

 その事実は、少年にとって驚愕と同時に納得するものだった。性格を抜きにすれば、彼女は本物の深窓の令嬢と言える人間であることは分かっていたし、彼女の両親が少年に見せる複雑な、決して一言では形容できない表情にも気付いていた。

 

 それに、だ。どうして生きてるかも分からない自分が、彼女の為にできることはそれしかない。

 であれば、これは神様が与えてくれた少年に対する救いであるに違いないのだ。

 

 少年に迷いはなかった。

 

 しかし、そんな少年の内心を見透かしたのか、あるいは、看護師から何か聞いたのか、少女は少年がそれを知ってしまったことを機敏に察知した。

 

 2人でいつものように、チープなコントの様なやり取りを交わし、面会時間の終了が近づいた時だ。少女が窓から外を見る。少女の部屋は5階にあるため、町が良く見える。夕方の空は未だ明るく、確かな夏の気配を滲ませている。

 大学病院の近くの、県内では比較的偏差値の低い進学校の生徒達が帰路に着いている。少女がそれを見ているのはすぐに分かったが、少年にはかけるべき言葉を見つけることは能わなかった。

 数人のグループを作る者や、カップルらしき者、中には1人で下を向いて歩く者もいる。そこにいる彼らは、誰もが皆、人が本来歩くべき道を着実に進んでいるように、少年には感じられた。

 

 不意に少女が口を開く。

 

「いつか、2人で何処かに旅行に行きたい」

 

 少女は窓の外を見たまま、少年を見てはくれない。

 

「もっと先の未来、2人で笑いながら、『今となってはいい思い出だよ』と言ってみたい」

 

 少年は少女から目が離せない。

 

「君ともっと一緒に居たい……」

 

 ポタリ。雨が窓に当たり、小さく跳ねては消えていく。  

 

 少年は、看護師達の話を聞いてしまったあの日から計画していたことを実行することにした。

 それまで静かに聞いていた少年がいつもの調子で口を開く。

 

「病院を抜け出そう。それで何処か遠くに行こう」

 

 少女が振り返り、少年に白く整った顔を見せる。目を見開いた顔を少年が見たのはこれが初めてだ。いつも、少年が驚かされてばかり。

 だから、おかしくてつい笑ってしまう。

 

「変な顔」

 

 嘘だ。少女はどんな時でも、誰よりも、ただ美しい。

 

「こんな美少女を独占しておいて、酷いコメントですな。これは訴訟ものですよ。ワトソン君」

 

 2人は目を合わせ同時に笑う。

 

 現実から目を逸らすように、少しだけ長く笑った後、少女がイタズラを思い付いた童女と同じに、世の中の辛いことなど何も知らないかの様な無邪気な顔する。きっと明日も楽しいことがあるのだと信じて疑わない。そう思えたらどれだけ楽だろうか。少年には分からない。

 

 また、窓の外を眺める。どれだけそうしていただろうか。日が沈む。そして、仄暗い病室で少女はある提案をする。

 

「君が死んだら、肺を頂戴」 

 

「……」

 

「その代わり、私が死んだら心臓をあげる」

 

「……」

 

「名案でしょ?」

 

 少年は静かに頷いた。

 

 

 

★★★

 

 

  

 

 2人は茶髪の協力者を得て、病院を抜け出し、駅前に来ていた。

 

「ちょっとあれ見てよ! ブッ細工な着ぐるみ!」

 

 子供たちに人気のご当地ゆるキャラが駅で観光客に向けて、熱心に営業活動をしているのを指さして、少女がはっきりと言う。確実に聞こえている。こちらを見た蜘蛛とゴリラを足して2で割った奴に地元名物のお菓子でできた剣と鎧を装備させた化け物は、着ぐるみであるにも関わらず顔を歪めている。少なくとも少年の目にはそう見えた。

 

「絶対、聞こえてるって! せめて聞こえないように言ってよ!」

 

「わ・ざ・と・だ・よ」

 

 いい加減にしないとホラー映画ばりにえげつないお仕置きをされかねない。化け物は、剣の腹を指でなぞっていることからも、それは確定的に明らかだ。

 

「ばか! あのキモい化け物に襲われたらどうするつもりさ!?」

 

 キモい怪物は、剣道7段の腕前を見せつける様に素振りを始めている。キレっキレだ。

 

「美少女を守って、散るなんて幸せでしょ?」

 

 少年の目の錯覚だとは思うが、化け物の剣が3本に増えているように見える。ゴシゴシと目を擦るも、今度は5本に増えている。

 昨日、3年付き合った彼女に振られて傷心した化け物が未練を断ち切ろうとしているに違いない。

 何かを察した少女がキャーコワイと棒読みで少年の腕にしがみつく。

 すると、どうしたことだろうか。あれ程、アグレッシブに動いていた化け物が項垂れているではないか。少年には化け物が何故そうなったかは分からないが、セピア色ってこんな感じなのかなぁ、と思う。

 

 あ、花が咲いている。

 

 化け物から少女へと視線を移した少年は、花が美しく咲き誇る意味を知った。

 

 そうして今までの全てから逃れる様に、これから起こる全てから逃れる様に少しずつ花びらを散らしていく。2人の小さな冒険は身勝手に、自由に、終わりへと向かって……。

 

 今回のお出かけのエピローグとして少年が計画したことは、実にシンプルだ。この現実逃避でしかないお出かけが終わったら、病院内の人目がある所で自殺するというものだ。肺を傷付けてはいけないから、眼球へと長い菜箸を突き刺し脳を壊す方法をとるつもりだ。病院内なら、すぐに適切(・・)な処置が施され、少女は自分の知らない所で、また花を咲かせてくれる。それが、自分が今日まで、生きてきた意味だと少年は信じて疑わなかった。

 

 

 

★★★

 

 

「帰って来ちゃったね」

 

 混雑時には及ばないが疎らという程、人が少ない訳ではない病院の正面玄関で、少女が感情の分かりにくい調子で呟く。

 

「仕方ないよ。手伝ってくれた看護師さんと約束したじゃないか」

 

「うん。そうだね」

 

 少女が真っ直ぐ少年の顔を見つめる。少年は知らず知らずの内に微笑みを浮かべていた。

 

「ねぇ」

 

「うん?」

 

「私ね……」

 

「うん」 

 

「……やっぱり、何でもない!」

 

 そう言った少女が鞄から取り出したのは、拳銃。余りに現実離れした光景に少年は一瞬、硬直してしまう。

 

「ばいばい」

 

 花が散るように微笑んだ少女は自らの頭を撃ち抜いた。

 

 

 

 

 

 

★★★

 

 後になって少年に茶髪の看護師から渡された少女の両親からの手紙(・・)に記されていたことだが、少女は両親へ、とある計画を話していた。それは、あのお出かけが終わったら、自殺するから自分の心臓を少年に移植するように取り計らってほしいというものだ。当然、少女の両親は猛反対した。しかし、少女は、もしそれが叶えられないなら、今すぐにできるだけ多くの人を殺して自殺する、と宣言した。そして、その意思を覆すことは誰にも出来なかった。

 父親が娘へした最後の贈り物は、黒いコネを使って手に入れた拳銃だった。せめて苦しまないように、と愛する娘にそれを渡した心中はどれ程の激情があったことか、安易に推測は出来ないし、また、すべきではない。

 

 少女の計画通り、心臓は少年に移植された。

 そして、それを見届けてから、少女の両親も少女と同じように拳銃で頭を撃ち抜き自殺した。もしかしたら、少女とその家族の自死は誰にも止めることの出来ない運命だったのかもしれない。

 法的に有効な要件を備えていない遺書の様な走り書きには、ただ、一言、『ごめんね』と……。

 

 それからの少年が何を感じ、何を考え、生きていたかは敢えて具体的に記しはしない。

 

 少年の心に咲いた白く美しい花は、いつの間にか、黒く黒く。

 そう少年は思っていた。けれども、一輪だけ、純白を喪わない花があったことに少年は気付いていない。

 

 少女がかけた魔法は、少年に……。

 

 

★★★

 

 

『死者への往復葉書』

 

 アラタが求めたグリードアイランドのカードの内、1枚はこれだった。

 ずっと聞きたかったのだ。あの最期の瞬間、彼女は何を言おうとしたのか。いくら考えても、確信できる答えは見付からない。ハンターハンター世界に転生すると知った

時、一番最初に考えたことがこの葉書の存在だ。これを使えば彼女と、また話せるかもしれない。そう思ったから、バッテラ氏の主催するグリードアイランドへ参加する為にハンターライセンスを取ろうと行動した。

 

 しかし、アラタはそれを予想より早く入手する。少し先の未来にネテロは約束を果たしてカードをアラタに渡したのだ。その時のことを少しだけお話しよう。

 

 

★★★

 

 

 カードに手に持ちオーラを込め、ゲインと唱えると1000枚の葉書が現れる。

 解説では、これに手紙をしたためておくと翌日に返事が来るらしい。

 

 アラタは手紙に、最期に何を言いたかったか教えてほしい、とだけ記す。他にも話たいことはある。だけど、いざ話すとなると何を言えばいいか分からない。それどころか自らの感情すら曖昧に混ざり合い、自分自身の感情それ事態が理解されることを拒んでいるように感じられた。

 

 翌日、手紙が消えているのをアラタは見つける。しかし、返事はどこにも見当たらない。もしかしたら、翌々日に返事が来るかもしれない。アラタは諦念を否定するように自分に言い聞かせ、眠りにつく。幼き日に聞いたサンタクロースの様に眠らないと贈り物は来ないのかもしれない。気になっても眠らなければ。

 

 しかし、翌日もそのまた翌日もその先も返事が来ることはなかった。

 

 ああ、やっぱり世界が違えばダメなのか。

 

 落胆は有れども想定はしていた。でも、これで完全に未練を断ち切れるから、むしろよかった。アラタは自分を見失わない。もう、十分悩んで、考えてきた。この程度では大したダメージは負わない……。

 

 アラタは自分の中で感情の整理を付け、また、転生ミッションクリアへと走り出す。

 

 しかし、ここでアラタは一つ思い違いをしていた。世界が違うから返事が届かないのではなく、少女が極めて特殊な状況にいるから返事がないのだ。残念ながら、今のアラタにそれを知るすべはない。

 

 加えて言うと、返事こそ無かったものの、アラタの手紙自体は確かに少女へと届いていた。それを見た少女はいつかと同じように目を見開いて、叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「嘘ー! これって念能力だよね!? まさか! まさかなの!?」

 

 少年と少女がいつか描きたかった未来は、まだ一縷の可能性を残し、道を照らしている。

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