【完結】ヒソカは雑魚専? よろしい、ならば転生だ   作:虫野律

9 / 24
面白い小説ってどーやったら書けるんだろ。


第二章 淫獣とかいう輩が居るらしい
伝説の幕開け


「255番、アラタ。試験官による勧告を無視した為、失格とする」

 

(あちゃー、そうなっちゃうかぁ)

 

 ネテロとのじゃれ合いの翌日、試験官の待機部屋へと呼び出しを食らったアラタはそう告げられた。

 ここで言う勧告とは、1次試験の開始前にサトツによる『次に念能力の秘匿を脅かす言動をした場合は、失格とみなします』というヤツだ。アラタはあろうことか、ハンター試験の本試験中に無断で念能力を撮影し、ろくな暗号化もプロテクトもかけずに、不特定多数が使う通信回線上を通して送信。さらに、条件付きで実例付き念能力解説動画を公開しかけた。並べてみると、完全無欠のギルティだ。

 

「ほほーん」

 

 軽い調子のアラタに試験官達が怪訝な顔をする。

 

「もっと抵抗すると思ってたけど、今度は何を企んでいるのよ?」

 

 ハンター協会に対しては何も企んでいないが、今までの悪行の数々から言っても信用はされないだろう。

 

「薔薇を持ってハンター協会本部に遊びに行こうかなって思ってます」

 

「はぁ? あんたばかぁ?」

 

 惣流・メンチ・ラングレー? 

 

「まぁまぁ、それくらいにしようや」

 

 2次試験の時に共闘(?)したブラックさんが場を宥める。本来、ブラックさんは試験官ではなく、単にお手伝いに来たバイトのような立ち位置なのだが、当然の様に馴染んでいる。

 

「アラタにはちらっと話てたが、今回、正式にお前さんの師匠を務めることになった」

 

 2次試験の終了後、アラタはブラックさんからその気があるなら念の修行をつける旨、伝えられていた。

 

「ほーん」

 

「お前なぁ、もうちょっと何かない訳?」

 

「何かつってもなぁ。じゃあ、私の他にもう一人修行をつけて」

 

「……そいつを見てから判断する」

 

(ニコルんもついでに強化してもらおう。いやー念の修行なんて何すりゃいいか分かんないから助かったわぁ)

 

「おっけー。まじヤベー奴だから覚悟しといた方がええで」

 

(今頃、硬の一つや二つ出来てる頃だろ)

 

 そんなレベルではない。アラタはまだニコルを過少評価している。

 さて、今回、アラタにハンター協会が師匠を付けた理由は幾つかあるが、一番はアラタの危うさにある。一見、飄々として泰然自若に見えるが、その精神性は歪そのものだ。他者を傷つけても何ら精神的負担を負わない倫理観ないし感情の欠如を孕みつつ、不安定な精神に誤魔化しの皮を被せている。そう試験官達には見えた。更に始末に悪いのが、歴史上でも類を見ない程の潜在オーラ量の多さとその制御の甘さだ。

 ネテロ会長には、邪悪な赤子が薔薇のスイッチで遊んでいるように見えた。

 

 ただ、アラタに見たのはそういった危うさや邪悪さだけではない。2次試験でアラタがとった無殺の選択。本人は気付いていないかもしれないが、その時のアラタのオーラは邪悪さとは対極に位置していた。

 以上の極端な二面性や強大な暴力装置の存在がハンター協会に此度の決定を下させた。願わくば、人類にとっての光にならんことを……。

 

「それじゃあ、これからよろしくな。俺のことは気軽にファルと呼んでくれ」

 

 ブラックさん、本名、ファル・ミッチェル。1つ星ハンターに相応しい実力と実績を兼ね備えた、紛ごうことなき一流ハンターである。

 

 

★★★

 

 

 力を授けて(?)もらってから、ニコルは自宅への帰路についていた。

 ニコルの生家はパドキア共和国の首都内の高級住宅街にある。敷地面積は小さな大学がすっぽりと入ってしまう程だ。

 

 試験会場のある町からは汽車もしくは飛行船を使っての旅が一般的だ。ニコルは汽車でのんびりと帰ることにした。負けず嫌いのニコルは認めようとしないが、家に帰りたくないという理由もある。

 それに、念能力に目覚めてから文字通り世界が違って見える。好奇心に身を任せゆっくりと色々と見て回りたいのだ。街を行き交う人は、大部分が精孔か開いていない、微量のオーラを垂れ流しているだけだ。しかし、中には強烈な生命の波動を放つ者も、ごく稀にだが見受けられた。

 それに人だけじゃない。物にもオーラが宿っているのだ。全てではなく、時折、といった程度だが確かにあるのだ。

 道中、観察と考察を続けながら、ニコルは純粋に高揚を抑えきれずにいた。冷静さを失ったり、感情に委ねてつっ走るようなことはしないが、自分の知らない世界で未知の可能性があることに、誕生日がくれば13歳のニコルは、ある意味年相応に興奮していた。

 

 夕方。そろそろ夕食にしようと駅前の飲食店を物色している時のことだ。人混みの中を荷物を抱えて走る少女がニコルの目の前で盛大にずっこけたのだ。街行く人は、皆、少し鬱陶しそうな顔をするだけでぶちまけた荷物を拾おうなんてしない。少女を中心に、川の水流が岩にぶつかり二股に別れるように人の流れが形成される。

 

「あー! せっかく買ったコレクションがぁ!」

 

 額からだらだらと血を流しているが少女にとってはコレクションなる物の方が重要らしい。見かねたニコルは手を差しのべることにした。

 

「ほら、拾うのは僕がやるから君は額の傷の処置をしな」

 

 ニコルはそう言って、ハンター試験の為に用意していた救急キットを渡す。

 

「ありがとー! あ、でもコレクションは丁寧に扱ってね」

 

「かしこまりました。お嬢様」

 

「お嬢様は止めて。私はネオン・ノストラード。ちゃんと名前で呼んでよね」

 

 少女が名乗ったのを、聞いてニコルはピンと来るものがあった。ノストラードファミリー躍進の立役者と噂されている少女の名がネオン・ノストラードだったはず。

 ノストラードファミリー。

 ここ数年で急速に力を付けてきた、ヨークシンに本拠地を置くマフィアだ。ニコルは持ち前の頭脳、ITスキルで様々な情報を集めていた。その中でノストラードの名を目にしていたのだ。

 

「僕はニコル。好きなように呼んで」

 

「じゃあ、ニコルんね!」

 

 天使の様に純粋な笑顔は、小悪魔的な色気を帯びている。しかし、ニコルは16歳になる美少女の微笑みよりも、アラタと同じ呼び方をされたことに微妙な引っ掛かりを覚えてしまう。好きに呼んでいいと言った手前、今さらそれはダメとは言いづらい。

 

 失敗したなぁ。それにしても、僕ってそんなにニコルんて顔してるのかなぁ?

 

 ニコルんなどと呼ぶのはアラタとネオンだけだが、こうも立て続けに言われると妙な不安が湧いてくる。

 

「ねぇ。ニコルんにお願いがあるんだけど……」

 

 ネオンが地面に女の子座りをしたまま上目遣いにニコルを見る。ニコルは何とも言えぬ嫌な予感というか、既視感のようなものを感じ、いやいや、そんなわけないと頭を振る。

 

「お願いって言うのは?」

 

「私と一緒に逃げて!」

 

 今度は純度100%の小悪魔スマイルで愉快そうに告げた。

 

 

 

★★★

 

 

 コレクションを拾い集め、詳しく話を聞いたところ、ネオンは父親から逃げたいらしい。

 

「いつもいつも占い占いってそればっかり。危ないからって中々外にも出してもらえないし、出れてもムスッとした護衛に囲まれてて全然楽しくない!」

 

「なるほど」

 

 正直に言うと、ネオンの気持ちは、ニコルにはよく分かる。ニコルも(大分、屈折かつ複雑だが、)似たような事態に陥った経験が何度もある。認めたくはないが、逃げ出したいと思ったことも一度や二度ではない。

 

「だから、お願い! 私を拐って?」

 

 自分の魅力を知ってか、知らずか、普通はあざと過ぎて冷めてしまうであろうこともネオンがやると、とても効果的な魔法のようだ。

 

 ニコルがそれに絆されることはないが、つい同意してしまう。

 

「わかった」

 

 もしかしたら自分にも覚えのある感情に、郷愁にも似た同情を感じていたのかもしれない。

 

「やた! ありがとー!」

 

 喜びを全身から溢れさせ、ぎゅっとニコルに抱き付く。人の多い通りでの突然のおねショタ系ラブコメに道行く人も、先ほどの無関心はどこへやら、面白そうに歩みを緩めてゆっくりと通り過ぎて行く。皆、面倒なことより、楽しそうなことの方が良いのだ。ニコルにそれを責める気はない。

 そんなことよりも、だ。ニコルはこの事があの女にバレたら、と思うとゾッとする。齢12歳にして女の暗い情念を間近で見て、もとい体験してきた身としてはその恐ろしさを楽観的に捉えることはできない。

 

「どうしたの? 変な顔して?」

 

 引っ付いたまま、顔だけを少しだけ離したネオンがまっすぐに見つめて問う。こてん、と首を傾げる様は、ニコルにアラタとは違うヤバさを感じさせる。

 

 凄い地雷感がする。気のせいかな。

 

 勿論、気のせいではないが、今のニコルにそれを知ることは出来ない。

 

 ぐぅぅ。

 

 突然に鳴ったニコルのお腹の音に、ネオンは小さく笑うと、ご飯にしよー、と宣言した。

 

 

★★★

 

 

「ねぇ。それ美味しいの?」

 

 ネオンはニコルの食べる皿を気味悪そうに見て、どこか申し訳なさそうに疑問を口にする。

 

「ここは初めて来たけど、通いたい位美味しいよ」

 

 ニコルの発言が聞こえたのだろう。料理人らしきナイスミドルがアルカイックスマイルを浮かべ、優美な仕草で一礼する。

 

「ニコルんがそう言うならいいんだけど」

 

 いいと言いつつ、納得していないことは誰の目にも明らかだ。

 少しだけニコルが食べているものをご紹介しよう。

 まず、一品目は『ホワイトチョコミントソース焼きそば(大葉入り)』だ。これはミントと大葉の刺激的で爽やかな口当たりと濃いめのソースが喧嘩するのをホワイトチョコの甘みが煽る奇跡の逸品だ。唯一の欠点は、チョコミントソースなのか、ソース焼きそばなのか、名前からは分かりにくい点だろう。当然、ゲロまずだ。

 2品目は『納豆バターの爽やかイナゴフライ』だ。納豆とバターの豊潤な香りが食欲をそそり、イナゴの外はゴリっと中はねちょっとした食感が食通を唸らせる。こちらはそこそこ美味しい。

 

 しかし、ネオンにはとても受け入れられないようだ。自分は食べていないのに、えずいている。

 

 全くこれだからスイーツ女子は。やれやれだ。

 

 ニコルもチョコが入った料理を堪能しておいて、自分のことを棚に上げている。まだ、付き合いは短い筈なのに、アラタに毒されている。ちなみにネオンはカツ丼定食を完食していた。

 

 会計を済ませ、店を後にした時だ。ニコルが、これからどうしようか、とノープランでデート当日を迎えた男のようなことを考えていたら、お客さんが来た。

 

「お嬢様、見つけましたよ! お父様が心配しています。戻りましょう」

 

 スーツを着た若いチンピラが、愛想笑いを張り付けネオンを呼ぶ。ネオンの言っていた護衛だろうか。いや、違う可能性が高い。警戒すべきだ。

 ニコルはオーラを練り上げる。

 ニコルは道中、アラタに聞いたことと、観察したことを合わせて考察し、それを元に様々なことを試して来た。時間にして数時間程度だが、ニコルの才気は脆弱であることを許しはしない。

 

 ニコルを中心に力の奔流が世界を押し潰さんと溢れ出す。

 

 街行く人々は理解できないながらも、恐れ、そして、畏れ、足早に去っていく。ここにいてはいけない。本能の声に逆らうことはできない。そして、それは生物としての正解だ。

 

「嫌! あなたなんて知らない! 来ないで!」

 

「ちぃっ。めんどくせぇな。騒ぐんじゃねぇよ!」

 

 チンピラは直ぐに本性を現し、ネオンを掴もうと腕を伸ばす。

 しかし、それはしっかりと準備していたニコルが手首を掴むことにより指先がかするだけで不発に終わる。

 

「大方、敵対マフィアの鉄砲玉か? それとも、はした金で雇われた捨てゴマか? 目的は殺害か誘拐ってとこだろ?」

 

 仏頂面の護衛が愛想笑いを浮かべ、お嬢様と呼ばれることを嫌うネオンをお嬢様と呼ぶ。こんなのおかしすぎる。取り繕うなら、もうちょっと頑張ってほしいものだ。

 

「てめぇ。使える(・・・)からって調子乗ってんじゃねぇぞ!」  

 

 チンピラからオーラが巻き上がる。堅により攻防力を上昇させ、ニコルへと拳を打ち込む。

 腕を曲げガードの構えで、ヒットポイントにオーラを集めることでダメージを最小限に留める。

 

「つぅっ。かってぇ。てめぇそのナリで強化系かよ!」

 

 ニコルは平均よりやや低い身長と平均を大きく下回る体重の、言ってしまえば、ひょろいチビガキだ。

 

「さぁ。どうだろうな」

 

 そんなもの敵に教える訳がない。

 

「クソが。じゃあ、これでどうだ」

 

 チンピラがリズミカルなバックステップで大きく後退し、腕をニコルへとかざす。

 

「ネオンさん! できるだけ離れていて!」

 

 チンピラが何をするかを経験から察することはできないが、アラタに聞いた情報から推測することはできる。オーラを物理的な干渉力を持つ次元の密度まで濃縮し、銃弾の様に飛ばす。チンピラがやろうとしているのは、おそらくこれだ。ニコルからすれば、的を絞らせない為に動き回りたいところだが、下手に動くと流れ玉がネオンや無関係の一般人に当たりかねない。彼ら彼女らが避難するまでは最小限の動き、かつ、弾道に気を配りながら対処しなければいけない。

 

 チンピラが念弾を放つまでの僅かな間。ニコルは今、自分がすべきことを冷静に考える。

 

 やはり、周りに人が居なくなるまでは被弾覚悟で耐えるしかないのか。

 逆に人の波に紛れるのはどうだろうか。いや、ダメだ。奴なら一般人を殺すことなど気にしないだろう。

 接近戦を仕掛けるのはどうだろう。最低限の護身術は嗜んでいるが、自分の近接戦闘能力には正直、自信を持てない。念に目覚めたとはいえ、未知数な部分が多い。

 

 しかし、あれはまだ……。

 

 ニコルはアラタに電話でされた注意を思い出す。

 

『念能力者は、発と呼ばれる固有能力を作成することができるけど、自分の得手不得手、人格、長所、やりたいこと、欲しいもの、これらをしっかりと整理してからじゃないと非効率的な欠陥能力を作ってしまうことが往々にしてある。そして、原則として一度作った能力は消すことができない一生ものになる。だから、発を作るのだけは待ってほしい』

 

 その時、ニコルは素直に頷いた。そういう理由ならば仕方がない。それにアラタが真剣に自分の為を思ってくれて嬉しかったのだ。

 

『……でもね、ニコル』

 

 いつもはニコルんと言うのにその時だけは、ニコルと呼んでいたことが印象的だった。

 

『取り返しのつかない、かけがえのない一瞬が、今が、何よりも大切だと思えたなら』

 

 電話では顔は分からない。アラタが今、どんな顔をしているのか。その顔をいつか自分にも見せてくれるのだろうか。

 

『理屈なんてどうでもいい! 好きにやっちゃいな!』

 

 やっぱり、悪魔のような──に身を委ねて正解だったと小さく笑ったことをニコルは生涯忘れないだろう。

 

 

★★★

 

 

 今、僕は死ぬ訳にはいかない。見届けたい未来が出来てしまった。みっともなくても負ける訳にはいかない。まだ僕は誰にも勝っていない。負けっぱなしだ。あの女にも、ハンター試験のライバルにも、貴女にも、そして、自分にも。

 

 負けたくない。もう負けたくない。勝ちたい。絶対に勝ちたい。()は勝つんだ!

 

 ニコルの中で急速に1つのシステムが構築されていく。それは明確な意志を持ってメモリを食い尽くす。ニコルの可能性全てを代償に、莫大な可能性をもたらす凶器が完成していく。

 

 ニコルの中で最後の歯車が噛み合い、そして……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──全てを置き去りに(クロックアップ)

 

 瞬間、ニコルの見ている世界が止まる。そう認識できる程、相対的に遅くなる。

 

 よし、成功だ。イメージ通り。ぶっつけ本番だったけど、上手くいった。

 

 ニコルの系統は強化系だ。水見式を試してみたら水が爆発した。初めは特質系かと思ったが、どうやら違う。水が爆発的に増量したのだ。それが爆発したように感じられた原因だ。

 

 ニコルは考えた。能力を作るなら、短所を補いバランスを整えるのではなく、長所を伸ばし特化させるべきだ。アラタを見ていると苦手なフィジカル面は割りきっているように思える。強大な力を持つアラタがそうしているということは、きっとそれが念能力者の1つの解なのだろう。

 であれば、だ。自分の長所はどんな時でも冷静さを失わずに観察と考察を素早くこなせることだ。

 

 だから、思考速度を極限まで強化した。それがニコルの発。思考速度が上昇するに従い、ニコルの認識する世界は、全て置き去りにされたが如く、鈍化する。

 

「…………! ……!」

 

 チンピラから念弾が発射された瞬間、弾道予測と並列して弾道上に人が居ないことを円──オーラを薄く伸ばし範囲内の現象を感知する技術を用いて確認する。

 ニコルの発は肉体的なスピードが上昇するものではない。従って、いくら世界をスローに認識できるようになったからといって、思考と同じスピードで動くことはできない。つまり、能力発動中は主観時間ではほとんど動くことができないと言っていい程、ゆっくりしか動けない。当然、後ろを振り向いて人の有無の確認なんてできない。そんなことをしていたら、大きな隙を晒すことになる。少なくとも現時点では。

 

 では、どうするか。答えは、純粋に精神、思考により制御できるオーラを使うことだ。この能力を思い付いた時から、全ての4大行や応用技の中で最も重要かつ相性がいいのが、『円』と呼ばれる知覚技術であると確信していた。

 だから、道中の大部分を円の修行に当てた。結果、今では半径100メートル程まで実用レベルで制御できる。初めは半径30メートル程しかなかったことを考えるとニコルは自画自賛したくなるが、おそらくアラタのオーラ量ならば自分の10倍以上は片手間でこなすであろうことを考えると自分などまだまだであると身を引き締めざるを得ない。

 

 欠伸が出る程、退屈な待ち時間の後、念弾がニコルの横を通過する。更に気の遠くなる時間を経て先程のレストランの壁に穴を開ける。

 ニコルは念弾が発射され弾道予測が一定の信用できるレベルに到達した時点で全力の堅で身体強化を行いかわすべき体勢に移行し始めていたのだ。

 これをチンピラの視点で見ると、念弾を一瞬の内に見切り、恐ろしく速い練により冗談にしては笑えない濃密な堅をして、一切の動揺なく余裕を持ってかわされた、といった具合になる。

 

「……! ……!」

 

 また、何事か言っているが思考速度が速すぎて意味のある音に聞こえない。音声をスロー再生した時の間延びした感じをもっと極めた状態だ。

 

 チンピラの手に多量のオーラが集まる。

 

 大きいの一発か、連弾か。一応、他の可能性の警戒もしておくか。

 

 ニコルの読み通り、発射、発射、発射。連弾だ。だが、弾道を予測し、回避ルートを演算、後は堅により強化してそれをなぞるだけ。

 

 また、完全に見切られた。チンピラはそう感じた筈だ。実際、見切ってはいるが、チンピラの想像の埒外たる手段によるものだ。

 

 しかし、やはりオーラ消費が激しい。それに、全てを置き去りに(クロックアップ)を発動中にした堅は、主観時間基準でオーラが消費される。これはオーラが精神により制御されているから起こる現象だ。

 

「……」

 

 ん? チンピラの雰囲気が変わった? 何をしようとしている?

 

 また、念弾が発射される。同じように回避ルーチンをこなす。

 

 しかし、明確な殺意がニコルに着弾する…………!

 

 弾道が曲がり、ニコルを追いかけたのだ。そう、必中の追尾弾だ。これがチンピラの能力。

 

 しかし、ニコルの堅を貫くには値しない。濃密なオーラは放出特化型であろうと並大抵の練度では貫けない。

 

 ここでニコルは、1つの可能性に気づいてしまう。

 

「……!」

 

 チンピラが2発目の追尾弾を放つ。

 

 大丈夫。自分の堅なら耐えられる。 

 

 しかし、ニコルの鉄壁の筈の堅を突破され、着弾。そして、思わぬ激痛。

 痛みで全てを置き去りに(クロックアップ)が解除されてしまう。

 念弾の衝撃でたたらを踏む。ぽたぽたと血が落ちる。なんとか倒れるのだけは免れることができた。

 

「ぐぅ!」

 

 堪えきれず苦しみが口から漏れてしまう。

 

 しかしそれでも、ニコルは闘志を失わずチンピラを睨めつける!

 

「っっ! バケモンが! なんで倒れねぇんだよ!」

 

 チンピラは無傷で、ニコルだけが無視できないダメージを負っているにもかかわらず、チンピラの方が取り乱している。

 

 それではここで、2発目の追尾弾だけがニコルにダメージを与えた理由についてお話しよう。

 本来のニコルの堅の性能を以てすれば、ここまでのダメージを追わなかっただろう。それどころか、全力の堅で守りに徹すればほぼノーダメージで周囲の人が逃げる時間を稼げた筈だ。しかし、実戦経験のないニコルには自分の堅の性能など分かる筈もなく、案パイ行動を選択せざるを得なかった。結果が今の非効率的な戦闘になる。

 

 話を戻そう。

 何故、これ程のダメージを負ったのか。

 それは、動揺と不安により堅が不安定になったからだ。追尾弾がニコルの想像する性質であるならば、ネオンにも放たれる可能性が否定できない。そのことに思い至りニコルに隙が生じてしまったのだ。

 ニコルは自分では何時でも冷静沈着と思っているが、未だ12才の少年だ。いくら才と優秀な頭脳を持っていようとそれは、何らかの脆さを抱えている。

 

 ニコルは1発目の追尾弾が着弾して直ぐに、現実時間換算でコンマ1秒にも満たない刹那でチンピラの不自然な行動の理由に気づいてしまった。それが動揺と不安の原因。

 

 おかしいと思っていたのだ。チンピラの拳打はニコルが強化系で、チンピラが強化系以外と仮定したとしても弱すぎる。いくら自分がヒョロいチビでも念能力者だ。それを分かっていながら、あそこまで弱い攻撃をするのは余りにも不自然。普通なら、その様な攻撃をする必要性はない。念弾がレストランの壁を容易く貫通する威力であるなら尚更だ。始めから念弾で攻撃すれば良かったはずだ。

 つまり、その様な行動に意味を持たせるとしたら、それが制約であると解釈すると納得できる。

 追尾弾の制約内容。ニコルの予測では掌や指が対象に触れること、及び、初擊から使わなかったことから触った回数又は時間により弾数制限があることの2つが有力だ。

 

 ニコルの推測は正しい。まさに、チンピラを読みきったと言っていいだろう。皮肉にも発により作られた思考時間がニコル自身の隙を炙り出してしまったのだ。

 そして、確かな洞察力を持つニコルの不安は的中する。

 

「なるべく傷付けないで拐って来いっつー指示だったがもう知らねぇ! てめぇみてぇな化け物の相手なんてしてらんねぇよ。殺しでも金は入るんだ。死ね! ノストラードぉ!」

 

 念弾が空に向けて発射される。するとアーチを描いてネオンが居るであろうポイントへ向かっていく。

 

 不味い! これでは……!

 

 ニコルの思考が焦りに塗り潰されようとしたその時、救いの神が顕現した。 

 

 

──神の舌(ゴッドタング)、発動。

 

 

 突然、街中に巨大な舌が具現化する。それは意図も容易く追尾弾をかき消してしまう。

 

 ニコル達が夕食を楽しんだレストランから、ナイスミドル──コック帽を被った男が出てくる。

 レストランの壁に穴を開けられ、更には、騒ぎのせいで客も来ない。挙げ句、常連客になりそうな少年をいたぶり出したではないか。これはいただけない。

 

「なんと不味い念弾か。これではジャンクフードにも劣りますよ」

 

 はは、と渇いた笑いがニコルから漏れる。オーラの垂れ流しは偽装か。これはやられた。

 料理人がニコルの目を見てしっかりと、あるいは、子供を諭すように穏やかに言葉を紡ぐ。

 

「我輩の料理を気に入ってくれた少年よ。貴殿は間違いなく強い。後ろは我輩が見ているから心配なさるな。貴殿は何も恐れずに、ただ、目の前のコバエを潰しなされ」

 

 ニコルの中で不安が消える。残ったのは、強さを求める一途な願い。

 

 

 

 

 

 

★★★

 

 

 チンピラ退治を済ませ、ネオンと別れの時がやって来た。ニコルがネオンに帰るように言ったのだ。

 

 今の自分ではネオンを守りきることはできない。もっと強くなったら、必ず今日の続きをしよう。

 

 こんな感じのことを言ってネオンを今日のところは帰る気にさせたのだ。ナイスミドルなコックは意味深に微笑んでいたが、ニコルに言葉以上の他意はない。そう言った方が説得しやすそうだからそうしただけだ。

 

「それじゃあ、これ私の連絡先だから、今日の夜から必ず連絡してね!」

 

 もう8時近いから、すでに夜なのだが別れてすぐに電話しないといけないのだろうか。ニコルには分からない。

 

 ニコルの女難はまだまだ始まったばかりだ。

 




ニコルの主人公感が凄い。ちなみに本当のサブタイは
『(ニコル最強)伝説の幕開け』だ。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。