口径120㎜を受け付けない装甲に、ビーム兵器を標準装備された高性能機体。彼はそのあまりの内容に失神しかけるも、耐えながらお絵かき帳に目を通していく。
そして、一通り目を通し終えたところでお絵かき帳を机の上に置き、椅子に体を預け──。
「……素晴らしい」
ただその一言を呟やき、天井を見上げた。
彼はこの機体の設計者に会いにいく為、出掛ける用意を始めるのだった。
机の上に置かれたお絵かき帳には、最初に書かれていた兵器。
『RX-78ガンダム』
言わずと知れたロボットアニメの代名詞「ガンダムシリーズ」における初代ガンダムが、本来関わる筈のなかった世界で産声を上げようとしていた。
◇
やあ皆んな!
異世界転生を果たしてウキウキしていた気持ちも、ドルフロの世界に転生した事を知ってウキウキが帰りたいに大変身した造田博だ!
この世界に転生して早くも三年目を迎え、元いた世界と色々違うことに興奮してました。
それでだ、俺は冷静になって人生最大の難関蝶事件の食い止め方を模索してみたわけだが、結論からいうと今の俺では食い止めるのは不可能だと結論付けた。
そもそも胡蝶事件とは、エリザとかいう(今の俺からしたら)クソガキが、国家安全局の武装勢力が襲撃してきた際に起動し、全ての鉄血製自律人形のコントロールを奪取。その後鉄血内の敵と従業員を全員抹殺したのが発端だった筈だ。
……まあ、もっと深くいくとオーガスシステムの封印がなんたらとか複雑な話になるんだけどね。
それならエリザの開発を食い止めればいいじゃん、っていう案があったがAl『エリザ』は戦争中には既に基礎が完成しており、開発者のリコリスをどうにかしようにも三歳の俺には居場所すら掴めない状況だ。
じゃあ襲撃してきた国家安全局もとい正規軍とかをどうにかする案も、三歳の俺にどうしろと? という事で没。
結局、今の俺では食い止める事が不可能だって事がわかった。
とりあえず技術チートだけは達者でその他は子どもの思考で出来ている俺は、一旦この問題は未来の俺に任せて、今は子供の生活を楽しもうと考え始めたのが一歳頃からだった。
それからは技術チートを制御する為の努力の毎日だ。
ガンダムの絵を描こうとしたら何故か設計図を描いていたり、家にあった設備を使用して何故かハロを開発してしまい、時々自宅に訪れてくれる代理人に買ったものだと言い訳したりとそれはもう苦難の日々だった。
そうして三歳になりチートを制御出来るようになってからは、さっきも言ったように子供の生活を楽しんでいた。
そんな俺は今、何故か父と対面しております。
「お父さん、連絡なしに帰って来るなんて珍しいね。どうしたの?」
俺は勤めて冷静に問い掛けてみるも、父は何も答えずにただじっとこちらを見つめて来る。やめろ、恥ずかしいじゃないか。
数日に一回ぐらいしか帰って来ない父が突然昼過ぎに帰って来て、大事な話があると切り出してきた。自宅の一部屋で机を挟んで座っており、ハロも暇なのか俺の周りを跳ねていた。
「今日は博に聞きたい事があってな、これについてだ」
そういって父が取り出したものは……げげっ、あれ俺が書いた兵器開発書じゃないか! なんでそんなものが父の元に……まさか。
俺は留守の間見張りを頼んでいたハロを横目で睨みつけると、
『ハロ!ゲンキ!ハロ!ゲンキ!』
と返事をしながら何処かに跳ねていった。ちげーよ、そっちじゃーねよ! てかなに逃げてんだあのボール!?
そんなやり取りをしていた俺たちに父は厳しめで問いかけてくる。
「これは博が書いたものだな。それに、さっきの民間ロボット『ハロ』っていうロボットも、此方が調べた限りではどこの店も販売してない事がわかった。そもそも、ボール型のロボを開発しているメーカーを俺は聞いた事がなくてな。……済まない、こんな事を聞いてしまって。ただ、教えてくれ、博は何を隠しているんだ?」
そう問いかけてくる父親は真剣な目で、それこそ嘘を見抜いてきそうな程の真剣な表情でこちらを見つめて来る。それにしても、流石は父親だ。まさかこんな短時間のうちにバレてしまうなんてな。俺は何処かで大人を舐めていたんだと思う。うーむ、こうなったらこちらも腹を括くるしかない様だ。多分ここで嘘をついても、全部父に暴露る、そんな気がするんだ。
「わかったよお父さん。実は……」
そうして、俺は語りだした。自分の技術チートについてや、この後に起こるであろう悲劇について。
前世や転生については断じて話さない。話したらもっとややこしくなるだろうし、話す気もないからな。
真面目に話を聞いてくれていた父は、俺になぜ鉄血人形が暴走すると推測したのかを問い、俺はあながち嘘じゃない「リコリス」が作ったAlは不完全な物だったからと答える。そして、俺は起こるであるこの事件を食い止めたいと父に説得した。
父は少し考える素振りをみせてから、納得した様に頷くとおもむろに自分の鞄から大量の書類を机に置いてきた。
「この書類には我が鉄血が設計、開発している標準戦闘ダミー、小型粒子兵器、エリザを頂点としたピラミッド構造の指揮系統の関連資料が記されている。
これらの情報を元に、その事件に影響されない新たなシステム、人形と兵器のスペックアップをしてみるといい。出来たらそれをうちの工廠で従業員と共に開発してみるも良し、難しいと思うが鉄血からリコリスを追い出す材料にもなる。好きなようにやってみろ」
「うん、分かった! ありがとうお父さん!!」
「ははは、可愛い息子のためだからな。これぐらいは当たり前だ!」
そういって元気になった父はまだ仕事が残っているからと立ち上がり、部屋を出る前にこの事はピラミッド構造に組み入っている代理人にも話さない方がいいと教えられた。
そっか、もし蝶事件が起こったら代理人も敵になっちゃうのか。なら一層食い止めないといけないな。
よーし、それならこの世界の明るい未来の為に、俺の輝かしい未来の為にもここは自制する事なく技術チートを使っちゃうぞー!
原作なんて知った事か! これには俺の未来が掛かってんだ、やるならとことんやってやるぞ。
それにしても、鉄血のノーマル人形の資料を見ていると分かるのだが本当に鉄血の設計は良く出来ている。此方があまり手を加えられない程には精密に出来ているし、加えるとしても外観は厳しいな。
仕方ない、取り敢えずはノーマル人形からだ。まずは蝶事件に影響されない為に鉄血の指揮体系から外し、新たに個々が独立して動けるよう設計し直す。
そんで新たに感情モジュールを搭載し、ついでに高度に訓練された兵士のモーション・キャプチャ・データも搭載して戦闘態勢や布陣に役立ててみるのもありだな。
脳内に行動抑制チップを埋め込んでみるのもありだ。
それから人形の外観を弄るのは一旦放置。代わりとして見分ける為に白い装甲服を着せてみるか。装甲服にはスターウォーズに登場する個人的に外観が好きなフェイズIIクローン・トルーパー・アーマーを参考に設計。
ノーマル人形が持つ射撃武器も従来の粒子兵器をブラスターに変更する。ブラスターは開発に時間は掛かるだろうが、十歳までに間に合えばそれでいい。
後は所々を微修正すれば完成だ。今のところはこの程度で充分だろう。
いやー、これは我ながら厨二病もいい所のロマン兵器になってしまったな。しかし、これだけやっても生き残れるか不安なところなんだ。備えあれば憂い無し! よし、驚く父の面でも拝みに行くか!