チート付き転生者は生き延びたい   作:ラッへ

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お久しぶりです。実生活が忙しいあまり、またもや1ヶ月以上も間を開けてしまいました……。


追記:この度は、『タノシイタノシイお出掛けⅣ』は前編と後編に分けて再投稿をさせて頂く事にしました。理由としましては、深夜テンションで書き上げた後半部分が後々見返すと納得のいかない仕上がりであったために、後半部分だけを後編に分け改稿版として書き直すためです。
作者の勝手なご都合ながら申し訳ありません…。




タノシイタノシイお出掛けⅣ 前編

 これは……いつのことだろう。

 

 室内の大きな休憩所らしきところで、あたしは座っていた。

 地下のため窓はない。広々とした空間には、ベンチや机、ジュースの販売機に、鍛えられた兵士たちと、長袖のつなぎを着た整備士が、思い思いに休憩している。

 こんな広々とした空間なのに、あたしだけ隅っこに座っていた。

 

 私はメモ帳を読んでいた。

 小さなメモだ。手のひらに収まる、小さな紙を数枚、グリップで留めた程度の簡易なメモ帳。それでいて、このメモ帳は私の生命線とも言えた。

 私がこのメモ帳を見つけたのは、実験場からだった。

 いつも座っていたあの憎たらしいコックピットの座席後ろに、偶然置かれていたのを発見したのだ。

 もうこの世には居ない持ち主の代わりに、私がこうして食い入るように読んでいる。

 

「はやく、はやく覚えないと……」

 

 私は紙をまた一枚めくる。

 

 ……思い出せない、あたしは何を真剣に読んでいたんだろう。

 あたしには読書をする習慣なんてなかった。ましてや、他の人のメモを持ち立してまで読むなんて尚更するわけがない。

 でも、何故か、この光景には心に引っかかりを覚える。もう少し……眺めて見よう。

 

 

 私はドジだ。軍に買われて実験人形になってから、担当する実験で何度も失敗をしていた。

 いや、これは私が悪いわけじゃない。軍の開発したプログラムか、ソフトウェアとハードウェアの整合性が未完成だったからだ。

 このメモ帳の持ち主だった前任も、相次ぐミスによって失敗作と見放され、今頃粉砕機で粉々に磨り潰され体の一部をリサイクルされているころだ。

 

 前任は私よりずっと優秀だった。真面目な性格で、新入りの私にも優しく接してくれて、製造されて間もなく軍に入荷された私に外の世界の話を沢山してくれた。

 

 だからかもしれない、このメモ帳を拾ったのは。

 このメモ帳には、私たち人形をあるビークルのパイロットに仕立て上げる、そのビークルの起動方法や操作方法が書き記されていた。プログラムが未完成な時点で操縦なんて無理なのに、前任は諦めず事細かに書き写している。

 

 私は実験の後、いつも端の席に座ってこのメモ帳を読むのが習慣になっていた。

 無駄だとは分かっている。でも、一度でいいからあの重機を動かしてあっと皆を驚かしてやりたかった。

 

「お前がAA-02アレスのtest pilot 05だな。そんな物をみて何になる?」

 

 不意に私は誰かに声をかけられ、顔を上げた。  

 そこには、白髪を生やしたガタイのいい強面の巨漢が立っていた。軍服を着こなし怖そうな顔をしている、幾度なく戦場を潜り抜いてきた歴戦の男のように見える。

 

「あなたは誰?」

 

 男は不本意ながら答える。

 

「エゴールだ」

 

「エゴールたん?」

 

 ぶふぉ、と遠くから見ていた数人の兵士が飲み物を吹く。はて、私は何かいけない事を言っただろうか。心なしかエゴールたんのこめかみが浮いてるようにも見える。

 

「……エゴール、大尉だ」

 

「エゴールたん!」

 

「エゴール大尉だ」

 

「エゴールたんだね!」

 

「もういい! それより質問に答えろpilot 05」

 

 気づけば、周りの人は大爆笑していた。「あの隊長が人形に遊ばれてる」とも聞こえてくる。どうやら、エゴールたんは偉い人らしい。

 

 私は少し考えた末に、答える。

 

「他に、やることがないんです」

 

「なに?」

 

 エゴールたんは嘲笑うかのように、いや、おかしなものを見るような顔で私を見た。

 

「おかしな人形だ。嘘ならせめて納得できるものにしろ。この部屋には娯楽用のテレビや雑誌、他の人との雑談、そんな薄いメモ帳より面白い事がごまんと──

 

「他の人とお話しても良いの!?」

 

 いつの間にか、私は机から身を乗り出してまでエゴールたんに詰め掛けていた。もしかしたら、皆んなと楽しく会話できるかもしれない。その事実に、私は居ても立っても居られくなっていた。

 

「……当たり前だろう。何のために休憩所にいると思っているんだ」

 

「わ、私そんな事命令されてないよ!」

 

「はっ、そんな事教えてもらう必要もないだろう。

 人形のメンタルはそんなこ──」

 

「よっしゃあああああ!!」

 

 私は、自分でも驚くほどの声を上げていた。命令されたこと以外でも、自分で勝手に行動しても良い。こんなこと、作られてから一度も考えたことがなかったからだ。

 

「おい、人の前で大声を上げるなんてなにを考えている? あまり分をわきまえないようなら──」

 

「それじゃあ、エゴールたんがあたし(・・・)の最初の友達だね♪」

 

「……なに?」

 

「私さ、生まれてからずっと姉貴的存在だった前任と、無愛想な研究員としか会話した事がなかったんだ。だから、エゴールたんが私の初めてってわけ!」

 

 

「……言った筈だ。あま──

 

「「話は聞いたぜお嬢さん!」」

 

 いつの間にか、集まっていた兵士達がエゴールたんを遮るように間に入ってきた。

 私は驚いてそちらを向く。今まで遠回しにしか此方を見ていなかった兵士達が、今は私を囲って会話をしている。それがどうしようもなく、何故か嬉しく感じた。

 

「仲良くしようぜpilot 05。今まで話しかけて良いのか分からなかったが……肩苦しい軍隊にこんな可愛い人形と友達になれんだ、こんなうまい話はねぇや!」

 

「お前たち! これは任務の一環であって……上等兵! 貴様もか!?」

 

「大尉! 一人だけ抜け駆けしようなんて見損ねましたよ!」

 

「馬鹿なことを言うな。オレには幸せな家庭があ……」

 

「は?」

 

「へ?」

 

「大尉?! その話を詳しく聞かせてください!?」

 

「大尉! 子どもは何人を予定しているのですか?!」

 

「上等兵、それはあまりにも失礼な質問だと思わないのか!?」

 

「それじゃあ、エゴールは何人子どもを産むんだ?!」

 

「タメ口を使えという意味ではない! 後オレを女にするな!!」

 

「あー、何か大尉の話を聞いてたら酒が飲みたくなってきたな。pilot 05、今からみんなで酒を飲みに行かないか?」

 

「え! いいの!?」

 

 私は初めて聞いた酒の言葉に二つ返事で頷いた。

 

「良いわけないだろ! ここをどこだと思っているんだ!?」

 

「みんな、大尉を飲みに連れて行く方法がある。オレらで大尉を両側から担いで持ち上げれば、大尉は何もできなくなる!」

 

「っ! 馬鹿なことを、今から将軍に報告をしな──

 

「酒を呑んだら報告なんて出来まい。みんな持ち上げるぞ。あ、pilot 05は右腕を頼む」

 

「わかった!」

 

「おいやめっ……」

 

「「せっーの!」」

 

「ま、まて、や、やめ、う、うぉおおあああ!?」

 

 その後、私たちは時間が許す限り酒を呑んでお話をした。今まで赤の他人だったのに、今はまるで崩壊した世界で偶然出会った戦友と酒を呑み交わすような、とても楽しく心暖まる時間を共有した。

 

 

 だがその数日後、私はここから逃げ出した。

 

 

 

 

 あたしの解体が決定したからだ。

 

 

 

 ◇

 

 

 目が覚めると、あたしはゴミ袋の山に埋まっていた。

 隙間から外を見るも誰もいない。ゴミ袋の山から脱出すると、体に付着した生ゴミの臭いに思わず顔を顰める。

 

「うぇぇ、生臭い……」

 

 あたしの呟きは誰にも届くことなく宙に舞っていった。

 人が居ないか辺りを確認してから、静かに歩き出す。

 それにしても、先ほど見た映像は何だったのだろうか。少なくとも、あたしがあれを経験した覚えは……ない筈だ。それとも、何か大事なものを忘れている……? 

 あたしはなんとも言えない脱力感に襲われながら、道に沿って歩いていく。

 

「それより、今はバッテリーをなんとかしないと……」

 

 そうだ、今はそんなことよりもバッテリーを調達しないと。今日中にバッテリーを手に入れなければ、多分あたしはその辺の道端に落ちているぬいぐるみのように、袋にゴミと一緒に袋に詰められ、今度こそゴミ処理場に運ばれることになる。それだけは、絶対に嫌だ。

 

 あたしはふらふらとした足取りでこの場を後にする。バッテリーを探すために人の住居に忍び込もうかと考えたところで、後ろから誰かが走ってくる音が響いてきた。

 

「えっ、また!?」

 

 あたしが本能的に隠れようと背後を振り向いたところで、その人はあたしに声をかけてきた。

 

「はぁ……はぁ……やあ。また会ったね」

 

 そこには、あたしを半殺しにした人形の持ち主の男の子が、全身びしょ濡れの状態で立っていた。

 

「へ?」

 

 なぜこの子はずぶ濡れなのだろうか、そんな疑問をさて置いて彼は話し出した。

 

「……君さ、もしかしてスコーピオンって名……いや! それよりここは危険だ、早く離れよう!」

 

「えっ?」

 

あたしは彼に手を引かれ、訳も分からず走り出した。

 

 

 




愚作にも関わらず最後までご覧いただきありがとございました。

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