金色のガッシュ!!称号『覇道の王』獲得原作ルート   作:シグアルト

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短くなると思ってました。(8700文字)




47.アポロの邂逅

 

 

 

 ─────先程までウォンレイ達と過ごしていた和室の和やかさは、張りつめる緊張によってかき消されていた。

 

 

「粗茶ですまないが」

 

「いや、急に押しかけたのはこっちだ。気にしないで欲しい」

 

 

 清磨が連れてきた、かつて本の持ち主(パートナー)だった男。アポロ

 

 だが、彼の肩にのり愛くるしい仕草を見せていた魔物『ロップス』はもういない……キリィによって。

 

 

「そんな警戒しないで欲しい。彼女(キリカ)に何かしようとする気はないさ」

 

 

 裏のない朗らかな顔で、肩をすくめながら言ってくる。清磨もアポロの事よりも、こちらの動向を気にかけている。警戒というより心配で、だろうけど。

 

 正直俺自身はアポロの事は信用している。真っ向から戦い合った仲だ、単純に思えるが戦いによって芽生えた仲間意識のようなものを感じている。ただキリィの事をどう思ってるか、その心配が他全ての意識を消し去ってしまっているのだ。

 

 そんな俺の葛藤を読んでいるのか。茶を一口すすった後、俺の動作一つ見逃さないというような真っ直ぐな目でこちらを見据える。

 

 

「確かにキリカのお見舞いが建前という事は否定しない。本当は君達に会っておきたかったんだ、自分と……魔界の為に」

 

「魔界の為?」

 

 

 想像もしていなかった方向の話題を出され、思わずその言葉を繰り返す。その言葉に清磨が無言で頷いた事から、これが本題なのだと気付いた。

 

 

「魔界の……ってどういうことあるか?」

 

「リィエン……」

 

 

 お互いの自己紹介の時以外、言葉を発さなかったウォンレイとリィエン。アポロの事情を伝えた所、俺とキリィの事を心配し傍に控えていてくれた。

 

 俺達の事ならと口を挟まずにいてくれたが、魔界の話題なら興味を惹かれるのも仕方ない。ウォンレイもリィエンを諫めてはいるが、こちらに目線を向け反応を伺っている。俺は軽く頷き、そのまま一緒に話を聞いても構わないとの意思表示を行った。

 

 

「それを語るには、まずあれからの事をを話さなければならないだろう……。君達と戦いの後、僕は()()()旅に出ていた」

 

「最後……」

 

 

 その言葉に深く頷くアポロ。その瞳には戦いの時とは違うが、強い意志を感じた。

 

 

「あぁ、僕は大企業の跡継ぎでね。あの放浪は、最後の我儘みたいなものだったんだ。ロップスと出会って長く続いてしまったが、終えるいい機会だったのさ」

 

 

 わざとおどけたような仕草で苦笑を浮かべる。心の内はわからないが、例え思う所があったとしても、それを表に出す事はないと示すアポロの優しさを感じた。

 

 

 

「旅を終えた僕は、オランダである人との約束のために空港に向かっていた。そこで出会ったんだ……清磨のパートナー、ガッシュに似た魔物を」

 

 

 

 

 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

 

 

 

 

 ─────「その気配。お前、本の持ち主(パートナー)だな」

 

 

 街中を歩いていた僕は、突然後ろからそう声をかけられ驚いた。

 僕に感知させず近づけるのは魔物位のものだが、脱落した今になって声をかけてくる魔物がいるなんて思わなかったからだ。

 

 

「……僕に何か用かな? あいにくだけど僕は」

「既に魔本を焼かれ脱落している、だろ? そんな事はわかっている」

 

 彼は僕の言葉を遮るように言うと、鋭い歯を見せつけるように笑みを浮かべてきた。まるで捕食する獲物を見つけた獣のように。

 

 

「話がある。邪魔の入らない所に行くぞ」

 

 

 反論は許さないと態度で示すように振り返り、街の郊外へと歩みを進める銀髪の少年。

 ついて来なければわかっているな。そう言外に言うような威圧を受けた僕は、彼についていく以外の選択肢を持ち得なかったんだ。

 

 

 ……………………

 ………………………………

 ………………………………………………

 

 

「それで、僕に何を聞きたいのかな?」

 

 

 町から離れた平原。周囲に人気がない事を確認した僕は、先手を取って質問をかけてみた。

 

 

「お前、キリカ=イルを知っているな?」

「……!?」

 

 正直、何で彼女を事を? としか思わなかった。僕は前に日本で来た時はガッシュと会っていなかった。だからその時は、キリカとゼオンとの繋がりがわからなかったよ。

 

 

「……仮想敵の情報収集って事かな? 彼女の事を随分警戒しているんだね。確かに彼女は強かった」

 

「ハッ。ふざけた事を言うな。それは単にお前とお前の魔物が弱すぎただけだ」

 

「…………ッ!」

 

 

 それまで一切感情が読み取れなかった彼から、明確に噴き出した“苛立ち”が周囲を威圧した。

 

 

「それで話す気はあるのか? 生憎、オレには記憶を無理矢理読み取る程の力はない。断るのなら力づくで話してもらうぞ」

 

「……断るよ」

 

 

 ん? どうしたんだい二人共、意外そうな顔をして。

 僕が君達に悪感情を抱いているとでも思っていたのかい? 

 

 

「お生憎、戦友(とも)を売る程、僕は薄情な人間ではないつもりだよ」

 

「そうか。手間を取らせやがる」

 

 

 そう言って拳を握り、明確な敵意をぶつけてくるゼオン。

 魔物のいない僕には、彼の攻撃を甘んじて受ける事しか許されない状況だった。

 

 

 

 

 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

 

 

 

 

「─────それで。大丈夫だったのか?」

 

「あぁ。詳細はこの後話すが、結果として僕は怪我一つ負わなかったさ」

 

 

 その言葉を聞いて、元就はようやく安心したのか大きなため息を吐く。

 

 アポロの語るオランダで起きたゼオンとの邂逅。イギリスで彼の驚異的な力を見た元就は、驚愕とアポロへの心配が混ぜこぜになっていた。

 そして彼が口を閉ざした大事な相棒(キリカ=イル)の情報。その事実に、戦いの後の事を思い苦い顔を元就は浮かべた。

 

 

「元就。そんな顔をする事はない。僕たちは正々堂々と戦った、反省も後悔も何一つ必要ない」

 

「でも……」

 

「むしろ省みるべきは僕自身だ。あの時の僕は、全てが終わってしまうあの瞬間まで『魔界の王を決める戦い』に向き合っていなかった。それがあの結果を招き、結果を受け止めきれなかったんだ」

 

「アポロ……」

 

 

 それまで常に口に微笑を浮かべ、人当たりの良い笑顔をしていたアポロの表情が重く陰を差す。元就は何も声をかける事が出来なかった。普段は明るく場を和ませるリィエンもその雰囲気に呑まれ、自然と隣にいるウォンレイへと自分の手が伸びていた。

 清磨は口を真一文字に結んだまま、話を静かに聞いている。しかし、膝の上に乗せた手は固く握られていた。

 

 

 

「話を戻そうか」

 

 

 先程までの空気がまるでなかったものかのように、表情を戻したアポロが口を開く。

 金縛りが解けたかのような周りの面々の様子を確認したかと思うと、彼の話は再開された。

 

 

 

「ゼオン。彼によって、魔物もいない僕は襲われた。そんな時、突然彼等はやってきたんだ……」

 

 

 

 

 

 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

 

 ─────「《アム・ジオナグル》!!」

 

「何? 呪文をかけていないとはいえ、オレの拳を受け止めるだと?」

 

 

 ゼオンの拳の動きを、僕の目では追う事が出来なかった。

 僕は状況を観察し対応できる特別な『勘』を持っているが、相手を観察する事ができなければ意味がない。本当なら、先程の攻撃で僕は満足に立つ事も出来なくなっていただろう。

 

 そんな僕を救ってくれた『魔物』がいた。強化呪文と思われる光を纏った両腕で、ゼオンの拳をしっかりと受け止めていた。

 

 

 

 

 

 

「ヘッ。拳が軽すぎんだよ。そんな力じゃ今のオレには勝てねぇぜ?」

 

 

 特徴的な逆立つ長い銀髪。荒々しい言葉遣いとは逆に、僕の方に視線を映し気遣う表情。そして圧倒的な自信。それが僕には、とても輝いて見えたんだ。

 彼が何者なのか? その答えは『勘』に頼るまでもなく理解しているが、僕をかばう今の状況がわからない。

 

 守ってくれたのか? 戦いに混ざりたかっただけなのか? 今のうちに逃げるべきなのか? 

 

 いろいろな考えが頭の中を巡っていたが、その思案を止めてくれたのは背後からかけられた落ち着いた声色だった。

 

 

「放浪を終え、ようやく腰を落ち着けると聞いていたが……ヤンチャは治らんようじゃの?」

 

 

 呆けていた僕に話しかけて来たのは、空港で僕と待ち合わせをしていた人物。父の代から親交のあった貿易商。

 

 

 

 

 

 

「Mr.ゴルドー!?」

 

「無事で何よりじゃ。ジェネシスのところの息子(ボーイ)よ」

 

 

 

 ──────あぁ、元就たちとも面識があったらしいね。そこまで驚いてくれると気持ちがいいね。

 僕も清磨から、君達がゴルドー氏の知り合いだと聞いた時には驚いたよ。

 

 ゴルドー氏の魔物(パートナー)。ダニーのおかげで、僕は窮地を脱したって訳さ

 

 

「《ジオレドルク》」

 

「おらおらぁぁあああああああああああああ」

「…………チッ、面倒だな」

 

 呪文で強化された蹴りを、呪文なしでいなし続けるゼオン。

 ダニーの攻撃に対し、防戦一方の彼は一見なすすべのないように見えた。

 

 

 

 

「まずい……!」

 

 だが僕は、彼が避ける瞬間に小さなカウンターを織り交ぜ、ダメージを蓄積させる狙いに気が付いていた

 このまま膠着状態が続けば、ダニーが不利になってしまう。そう思い、ゴルドー氏に助言をかけようとしたんだ。

 

 

 

「Mr.ゴル……」

「安心せい、わかっておる」

 

 ゴルドー氏は僕の言葉を遮り、イタズラめいた笑みを浮かべながらダニーを見守っていた。

 その意味までは僕の『勘』でも読み取る事は出来なかったけど、危惧している事は既にわかっていたみたいだったから、僕もダニーを見守る事にしたんだ。

 

 ゴルドー氏の考えがわかったのは、それから少し後。

 ダニーとゼオンが後方へ飛び、休む事ない格闘戦がはじめて止まった時だった。

 

 

「……お前のその呪文、ただの強化呪文じゃないな。つくづく面倒な奴だ」

 

「ヘッ、どっちが先に倒れるかのガチンコ勝負は好きじゃねぇか?」

 

「あえて乗ってやる必要がないだけだ」

 

 

 そう吐き捨てるように言ったゼオンが、手を横にかざした。

 すると身に纏っていたローブが彼の意思に呼応したように動きだし、彼の背後で繭の様に丸まり始めた。

 

 

「あれは……!」

「……ウム」

 

「やっとやる気になりやがったか」

 

 

 僕もゴルドー氏も、彼が何をしようとしているのか気付き警戒する。

 ダニーも気付いてはいるが、ファイティングポーズを取るだけで迂闊に飛び込む真似はしない。それは正解だろうと思った。

 

 

「……珍しいな、ゼオン。お前から呼び出すとは」

 

「オレも軽く遊ぶだけのつもりだったんだがな。久々に本気で叩きのめしたくなる相手だ」

 

 空中に巻きついたローブがカーテンのように解けると、その中から銀色の魔本を持った男。彼の本の持ち主(パートナー)が現れたんだ。

 彼は周囲の状況を確認するかのように見渡すと、次にダニーの様子を観察し納得したよう「なるほど」とつぶやいた。

 

 

「どうだ、デュフォー。アイツの呪文は」

 

「“強化呪文”ではないな。言うなら“制限解除呪文”だ」

 

「……やはりか。強化呪文は魔物への負担が大きい。身体の頑丈な動物型魔物でもなければ、ここまで持たん筈だ。」

 

「魔物も人体と同じく、身体に負担がかからない様使える“力”が数%程度となっている。その反動を呪文で負担できる程度に枷を解除させるのが、あの呪文だ」

 

 

 

「なっ……?!」

 

 僕は言葉が出せなかった。

 一目見ただけで相手の呪文を看破したデュフォーと呼ばれた少年。彼はもしかしたら、僕の持つ『勘』よりも優れた力を持っているのだと感じた。

 

 

「そろそろいいか? 勝負の続きといこうじゃねぇか」

 

「フン。理解できないか? ならば教えてやろう、絶対的な力の差をな」

 

 

 それからダニーとゼオンの勝負が再び始まったんだ。

 

 ……………………

 ………………………………

 ………………………………………………

 

 

 

 ─────「終わりだな」

 

「ク、クソッ……!」

 

 

 ゼオンの強力な電撃の呪文の前に倒れ伏すダニー。

 パートナーの魔物が既にいない僕は、その光景を歯を食いしばって見ているしかなかった。

 

 

「……さて、折角だ。利用させてもらうとしよう」

 

「ダニー!? お主、何をする気じゃ!」

 

 

 ゴルドー氏の声も無視し、既に倒れているダニーへ手を向けるゼオン。そして─────

 

 

 

 

 

 

 

「《バルギルド・ザケルガ》」

 

「ぐああああぁぁぁあああああああああ!!!」

「「ダニ──────────!!!」」

 

 

 彼の身体全てを包み込む強力な電撃が、彼に絶え間なく降り注ぎ続けた。

 電撃の塊の中から聞こえるダニーの悲鳴に、僕とゴルドー氏の声が重なった。

 

 

「キリカの事について、全て教えろ」

 

「ぐっ……」

 

 

 僕の方に振り向き、口の端に笑みを浮かべながら命令してくるゼオン。

 ダニーへの心配、打開策の模索、そして話してしまう事への言い訳が僕の頭の中で巡っていたさ。

 

 

 そして、僕がゼオンに対し口を開こうとした時……

 

「ジジィ──────────!!!」

 

 ダニーのふり絞る様な叫びが、僕とゴルドー氏の俯きかけた頭を上げさせたんだ。

 

 

 

 

 

「……ッ! 《ディゴウ・ジオグルク》!!」

 

「なめんじゃ……ねェ──────────!!!」

 

 

 呪文の光に身体全体が包まれたダニーが、拳を振り上げゼオンに殴り掛かった。

 ゼオンは後ろにジャンプし距離を離す事で空振りになったけど、それで降り注ぐ電撃を止める事が出来たんだ。

 

 

「呪文ありとはいえ《バルギルド・ザケルガ》の中でも動けるとはな。龍族のようなタフネスを持つ奴だ」

 

 珍獣を見るような目でダニーを見るゼオン。

 だがダニーは大きく肩で息をしており、誰から見ても限界に近い事がわかる状態だったんだ。

 

 もう、これ以上彼は戦えない。

 彼の魔本が燃やされるかどうかはわからないが、僕は逃がしてはくれないだろうと心の中で覚悟を決めていた。

 

 ……すると、そんな心中などお構いなしに、世間話でもするような軽さのダニーが僕の耳に響いた。

 

 

 

 

「よぉ、ゼオンっつったか?」

 

「……どうした、命乞いか?」

 

「バーカ、んな訳あるか。……お前、キリカの事が知りたかったのかよ」

 

「だったらどうした」

 

「俺の次の呪文を受け止められたら、…………キリカの事を教えてやるよ」

 

「……何?」

 

 

「ダニー?!」

 

アイツ(アポロ)はほとんどキリカと話してねぇ、アイツの事なら俺の方が良く知ってるぜ」

 

 

 僕は思わず声を上げた。

 ダニーがキリカと面識がある事は知らなかったけど、今その話題を出すのはマズい! 

 その言葉を聞いた瞬間、ダニーは『首を突っ込んだ部外者』から『情報を持つ獲物』へと変わってしまったのだから。

 僕から狙いを逸らす為とはいえ、危険すぎる言葉だった。

 

 

「いいだろう、出してみると言い。お前の『最後の呪文』をな」

 

「ヘッ、喰らって後悔すんなよ」

 

 

 身体の傷など知らない様に、笑みを浮かべるダニー。

 彼はゴルドー氏に近づくとその笑みを更に濃いものにしていたんだ。

 

 

「……ダニー」

 

「まぁそういう訳だ。いっちょ頼むぜ、ジジイ」

 

「フン。()()()()自分勝手な奴め」

 

「まぁそういうなって。中々面白れぇ戦いだったぜ?」

 

 

 そう言って満面の笑みを浮かべるダニー。ゴルドー氏はゆっくりとダニーの傍まで近寄り、彼の胸を叩きながら

 

 

 

「……負けるなよ、我が息子(マイ サン)よ」

 

 と、かけた声が風に乗りこちらへと届いたんだ。

 

 

 

 

 そして、向かい合う二人の魔物。

 それぞれの本の持ち主(パートナー)が持つ魔本が、今までとは比べ物にならない輝きを放っていたんだ。

 

 

「《ジャウロ・ザケルガ》」

 

 ゼオンが放った稲妻の円環(リング)。そこから飛び出してくる複数の電撃が、ダニーに襲い掛かって来た。

 

 

「うぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおお!! まだだジジイ、もっと心の力を込めろ!」

 

「くっ……、ぬうぅぅぅぅ!」

 

「ああああぁぁぁぁああああ!!! もっとだぁぁぁあ!」

 

「ぐぐぐぐっ、いくぞぉぉぉおおダニー!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「《グルガノン・ジオナグル》!!」

 

「てぇぇぇぇりゃあああああぁぁぁぁぁぁぁ!!! 

 

 

 次々と襲い掛かってくる電撃を、まっすぐに突き出した拳で弾き返しながらゼオンへ突撃するダニー。

 電撃を弾き返す毎にダニーの身体から骨の砕けるような異音が響き、一歩前へ進むごとに彼の足元から流れ出す血の量は増えていく。身体の限界を超えて力を出し続けているのは明らかだった。

 

「ダニ────!!」

 

 僕に出来る事は、彼の名を呼び続ける事だけだったんだ。

 

 

 ……………………

 ………………………………

 ………………………………………………

 

 

「よくぞ俺の前まで辿り着いたな。体の原型を留めているだけで、上出来だ」

 

「殺す気マンマンだったじゃねぇか……クソ野郎」

 

 

 ゼオンの前で倒れ伏すダニー。

 彼の身体は無事な部分が見つからない程にひどい状態で、魔本が燃え魔界に還ろうとしている事が助けにすら思えた。

 

 

「魔界へ還る前に教えて貰うぞ。キリカの事をな」

 

「あぁ、そうだったな」

 

 

 うつ伏せだった身体をひっくり返し、仰向けになった状態でゼオンを見上げながらダニーは言った。

 

 

「諦めな」

 

「……それは言わないという事か? 残る僅かな時間でトドメを刺してやってもいいんだぞ?」

 

「ちげーよ。そういう意味じゃねぇ。『アイツを理解しようとするのは諦めろ』って事だ」

 

「どういう意味だ」

 

「アイツの行動の意味や理由なんてわかんねーよ。あの顔じゃ何考えてるかもわかんねー。考えるだけムダってもんだ」

 

 

 まるで宿題を忘れた子供の開き直りのように、あっけらかんと笑いながら話すダニー。

 怪訝な顔を浮かべるゼオンへ向き直り、真剣な眼差しでこう言うと完全に魔界へと還っていったんだ。

 

 

 

『そんなモンわからなくたって、『友達』にはなれるんだぜ』

 

 

 

 

 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

 

 

 

 

 ──────────「そうか」

 

 

 キリィへと異常な興味を示すゼオン。そしてダニーの敗退。

 その経緯を聞き、俺はかろうじてその言葉を出す事が精いっぱいだった。そんな様子を見てか、ウォンレイとリィエンがここで初めてアポロに話しかけた。

 

 

「そ、それでゼオンって魔物はその後どうしたんあるか?」

 

「ダニーの本の持ち主(パートナー)もその場にいたのだろう? 彼も大丈夫だったのか?」

 

 

 アポロはその質問が来るとわかっていたのか、それまでの語りの最中ずっとしていた真剣な表情を崩し微笑を浮かべ説明した。

 

 

「ゼオンはダニーの魔本が燃え尽きた後、“瞬間移動”で本の持ち主(パートナー)と共に消えたよ。僕たちに何もしなかった所を見るに、用事は済んだのだろう」

 

「ダニーって子の言う通り、諦めたあるか?」

 

「その可能性は少ないと思う。ただ、彼の言葉で何かしら考えを変えたのは間違いないのだろう」

 

「リィエンとウォンレイが言う通りだと僕も思うよ。だけど彼がキリカを諦めたとは、僕は到底思えない。十分注意して欲しいんだ」

 

「あぁ、ありがとう。アポロ」

 

 

 俺は改めてアポロに向き直り、頭を下げる。

 顔を上げお互い笑みを浮かべていると、視界の端でなりゆきを見守ってくれていた清磨の安心した顔が見えた。俺は頭を下げ、そちらにも感謝を伝える。

 すると部屋の外から足音が近づき、一人の老人が障子を開け口を開く。

 

 

「話は終わったかの? ジェネシス財閥の御曹司よ」

 

「はい。出迎えありがとうございます。Mr.ゴルドー」

 

「よいよい。ワシも家主と顔を合わせておきたかったからの」

 

 

 そう言ったゴルドーさんは俺の方を向き、好々爺のように話しかけてきた。

 

 

「久しぶりじゃな。嬢ちゃんの調子はどうじゃ?」

 

「軽い熱なので、じきに治ると思います」

 

「そうか。くれぐれも体調は気をつけるよう伝えてくれ。()()()()

 

「ッ! ……はい」

 

 

 ゴルドーさんが最後に言った言葉に込めた想いを察した俺は、しっかりとそれに頷きを返した。

 そして彼に連れられ部屋を出る直前。アポロは俺達に振り向いた。

 

 

 

「元就。清磨。それにリィエン。ゼオンの目的はわからないけど、奴には良くない気配を感じる。出来る事なら君達の誰かに勝ち抜いて欲しい…………ロップスの住む、魔界の為に」

 

 アポロからの言葉以上にそこに込められた想い。それはとてつもなく重く感じる。けれど、その重さに屈しないと言わんばかりの強さで俺たち全員は頷いたのだった。

 

 

 

 

 ──────────────────────────────────

 

 

 

 ─────「今日は元就と会えてよかった。出来ればキリカとも仲直りしたかったけどね」

 

 

 元就の家の外で、そう呟くアポロ。

 

 彼が心の内に感じるのは後悔だった。

 

 キリカと戦い、真剣に戦いに向き合う覚悟を決めた矢先の敗退。だが彼女に対しては覚悟に気付かせてくれた恩はあっても、恨みはない。むしろ彼女と戦うまで、戦いに対して真剣に向き合っていなかった自分自身をアポロは責めていた。

 

 

(もしも、僕の隣にまだロップスがいたら……)

 

 

 あれから何度も考えてしまう仮定。

 

 あの冷酷な笑みを浮かべる少年が王になったら、大切な相棒の住む魔界はどうなってしまうのか。それに抗う力が、今の自分にない事が何よりも歯痒かった。どうしてあの頃の自分はロップスの事しか気にかけず、彼の住まう魔界の将来を考えようとしなかったのか。そんな後悔と悔しさが、時折アポロを思い詰めさせていた。

 

 そして彼は、せめてロップスが住む魔界を良いものにするため何かできないかと、財閥の御曹司という地位と力を活かし、非常事態が起きた際のサポートを行う準備にいそしんだ。だがそれ以外にも、何か力になれる事がないかと、常に考え続けていた。

 

 

 

(僕が持つ状況を観察する事ではたらく『勘』の力。この力が戦いの役に立てば…………)

 

 

 そんな事を考えながら、元就の家の前に止まるリムジンに彼が乗り込もうとした時─────。

 

 

 

 

 

「ほら、恵。早く早く─────!!」

 

「待ってよ、ティオ───。そんなに急がなくても、大丈夫よ」

 

「キリカが病気なのよ! 早く言って看病してあげないと、大変かもしれないじゃない!!」

 

「元就君の声の様子なら全然大丈夫よ。私の『勘』は当たるんだから」

 

 

 大きな声を上げながら元就の家へ向かう、二人の少女。

 

 

「─────彼女達は?」

 

 

 その様子を興味深い様子で伺う、アポロ。

 

 

 

 

 

 

 

 今、二人の超感覚を持つ(元)本の持ち主(パートナー)同士が出会おうとしていた。

 

 

 

 

──────────────────【ダニー 敗退(リタイヤ)】撃破者《ゼオン》

 

 




 
 今回のゼオンの目的はキリカなので、憎悪でなく『興味』で調べています。その為ダニーは彼の悪意は感じ取れず、あまり反応しませんでした。
 ゲーム視点で言うと『アポロ達が千年前の魔物編で、協力関係を既に築いていた背景設定』的なシーンです。


【オリジナル呪文】

《アム・ジオナグル》
 パンチ力を強化する呪文。一般的な強化呪文と違い《呪文の力を付加》ではなく《本来持ってる力を解放、負担は肩代わり》という形なので、扱い奴さと燃費が優秀な呪文。

《ジオレドルク》
 脚力を強化する呪文。負担軽減効果も同様。

《ディゴウ・ジオグルク》
 身体機能全体を大きく強化する呪文。更に継続回復(リジェネ)効果も付与される。

《グルガノン・ジオナグル》
 身体能力を限界以上に引き出し、強力な一撃を与える呪文。いわゆるNARUTOの《裏蓮華》
 あまりに力を出しすぎると瀕死以上の状態になる為、魔本が自動的に燃え出してしまう危険な呪文。

中間投票④この中で一番面白かった戦いは?

  • ポッケリオ(vsブラゴ)
  • ロップス
  • ゾボロン(ペアマッチ)
  • ザバス
  • ダニー(vsゼオン)
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