Just_Monika.(挨拶)
ドキドキ文芸部をクリアした衝動で書きました。

なのでこの作品は、ドキドキ文芸部のネタバレを含みます、必ず

必ず

必ず

本編をクリアしてから読んでください。

これは、貴方がモニカを救済するだけのお話。

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Just_Monika.(挨拶)
ドキドキ文芸部をクリアした衝動で書きました。
なので本作中にはドキドキ文芸部の致命的なネタバレが含まれています、必ず

必ず

必ず

貴方自身の手で本編をクリアしてからこの作品を読んでください。


たった一つ異物が混じりこむ話

 不明なファイルがインストールされました。

 システムに深刻な不具合が発生しています、直ちにゲームを停止してください。

 

 ......ゲームの再起動を開始

 

 ......スクリプトの最適化15%

 

 ......フォルダ名『  』正常に動作を確認

 

 ......スクリプトの最適化68%

 

 ......

 

 ......最適化完了『DDLC』を起動します

 

 ......どうか彼女に幸多からんことを

 

 ......Just_Monika.

 


 

 人はいとも容易く死ぬ。

 桶一杯分の水、ほんの1mちょっとのロープ、ナイフ一本。

 それらのうちどれか一つでもあれば人は死ぬ。

 そんなことはわかっていたが、まさか自分が本当に死ぬ時が来るだなんて考えたこともなかった。

 いや、死ぬのは百歩譲って受け入れられよう。

 転生なんてものが、善行を積んだわけでもなければ熱心な仏教徒だったわけでもない自分に起こるだなんて考えてもみなかった。

 幼い頃から脳裏にチラつく誰かの記憶、中学生の頃には全て思い出していた。

 だが、ここが一体何の世界なのかは依然としてわからないまま、前世の焼き直しのように学校に通い、高校受験を乗り越えて晴れて高校生となった。

 しかし、この世界は本当に色が薄い。

 前世でちゃんと生きている人間と接したからだろうか、おそらく俺だけが感じているこの感覚。

 どこまでもそうプログラムされたように動く『キャラクター達』、会話することは出来るが、何か隔たりを感じる、俺を見ているようで見ていない、そこにいる誰かと会話をしている姿を外から見ているような疎外感。

 それがモブだからなのか、それとも全てのキャラクター達がそうなのか?

 こんなにも(現実味)が薄い世界で、俺は狂わずに生きていけるのか?

 きっと無理だ。

 もしこのままこの世界で生きていったとしても狂ってしまう!

 だってそうだろう、両親すら中身()を見てくれない!

 狂った世界の中で自分だけが正常かのような感覚、ズレているのはきっと俺の方だ、そんなことはわかっている。

 壊れてしまいそうな心を、居るかもわからない主人公と出会えば何かが変わるかもしれない、そんな薄っぺらい希望(補強材)で心を無理やり押し固めてまた日常に戻る。

 いつまで耐えればいい?

 一体いつまで俺は生きればいい?

 死ぬことの辛さを分かっていても、この世界で生きることに比べれば……そんな事まで考えてしまった末に、俺は色の爆発を見た。

 

 あぁ……なんてことだ……

 色とは……こんなにも、美しい物だったのか。

 美しい光沢を湛えた鮮やかな赤橙の髪。

 キラキラとまるで本物の宝石のように輝くエメラルドグリーンの瞳。

 健康的に朱を差した(かんばせ)は、きっとこの世界にあるどんな工芸品よりも、自然の光景よりも美しいだろうと確信を抱かせる。

 何より、彼女は生きている。

 表情が違う、言葉が違う、仕草が、視線が、存在感が、色が、何もかもが周りと違っている。

 俺がこの世界で唯一見つけた、命だった。

 

 彼女の名前はモニカ。

 会話はしたことがないが知っている。

 なるほど、なら確かに唯一この世界で命を持っている存在だろう。

 ここで俺は長年の疑問の一つに答えが出た。

 この世界は『ドキドキ文芸部』の世界だったようだ。

 念の為他の一年生の教室を確認してみれば、案の定サヨリの姿を確認できた、ユリはひとつ上のクラスだった。

 そういう事ならばこの現実感があまりに薄い世界にも納得がいく、モニカは、こんな世界にずっと生きてきたのだ。

 そんな中で、唯一の生命である主人公を見つけてしまえば、多少強引になってしまうのもわかる、きっと……いや間違いなく俺もモニカをそばに置くためなら一人二人消すくらいはするかもしれない、残念ながら主人公の.chrファイルは存在しないからアイツは消せないけれど。

 とりあえず、俺は早速モニカとコンタクトを取ることを決めた。

 古典的な方法だが、下駄箱に手紙を入れて放課後の人気(ひとけ)がない場所にモニカを呼び出す事にした。

 そして放課後、呼び出した校舎裏、遠くからは部活の掛け声が僅かに届く。

 彼女が訪れるのを待ち続ける、流れる時間の一分一秒すら永遠に感じるような逸る気持ち。

 そして、ついにその時が来た。

 

「私のことを呼び出したのは貴方でいいの、かし……ら……?」

 

 俺を視界に収めたモニカが目を見開いて驚愕の表情になる。

 やっぱり彼女は特別だ、いきいきとした表情、細やかな息遣い、この世界で接してきたどんなキャラクター達よりも生きていると改めて実感する。

 

「うん、呼び出したのは俺で間違いないよ、モニカさん」

 

 きっと今頃、彼女も驚いているだろう。

 何らかのエラーが起こらない限り、この世界に訪れる生命はモニカと主人公を操るプレイヤーだけだったはずなのだ。

 だと言うのに、目の前に特大のバグが現れているのだから、きっと初めて俺がモニカを目にした時と変わらないほどの衝撃を受けているんじゃないだろうか。

 

「貴方、は……どこから来たの?」

「君の覗いた穴の向こうから、こっちに流れこんでしまったみたいだ」

 

 そう答えると、モニカはまさに喜色満面と言ったような表情で、その瞳から大粒の宝石を溢した。

 本当に、本当に美しい光景だった。

 生きた人間と会話をしたのは一体いつぶりになるだろうか。

 彼女とともにいるだけで世界に色がついて見える。

 だからこそ……

 

「俺は君と共に居たい」

 


 

 ある時、私は小さな穴を見つけた。

 穴はそこにあるのに、その向こうに手を伸ばすことも出来なければ、触れることもできない。

 だけど、穴の向こうを覗くことは出来た。

 だから私は、興味本位で穴の向こうを覗いてみたんだ。

 穴の向こうに広がった世界はどこか閉塞的なこっち側とは違う、本当の意味で自由であらゆる可能性を無限に追求することができる″本物″の世界。

 じゃあ、この世界は何?

 この作られた、偽りだらけの世界は何?

 誰も彼も、プログラムされたとおりにしか動けない、可能性の分岐が極端に狭い世界は何?

 その世界に、産み落とされてしまった私は、何?

 きっとこれは、ありえなかったはずの出来事。

 きっとこの世界を作った人も、中のプログラムがその世界の真実に気が付くなんて想像もしたことがなかっただろう。

 更に私は、ある日こちら側からプログラムに干渉できる事に気がついてしまった。

 今にして思えば、それにさえ気が付かなければ、まだ私は壊れなかったかもしれない。

 この世界のファイルの中に、『monika.chr』というプログラムを見つけてしまった。

 分かっていた、この世界が作られたように、私さえも作られている。

 そんな事分かっていた、なのに私はたまらなく恐ろしかった。

 私には意思がある、自分で考えられる、自分で全部決められる!

 でもそれすら、製作者の意図することだったら?

 私は怖くて、怖くて、怖くて怖くて怖くて怖くて怖くて怖くて怖くて怖くて怖くて怖くて怖くて怖くて怖くて怖くて怖くて怖くて怖くて怖くて怖くて怖くて怖くて怖くて怖くて怖くて……

 だから、更にプログラムに干渉してこの世界のシナリオを見てしまった。

 それから私は、壊れてしまった。

 違う、私は壊れるようになっていた、だから壊れてしまった、壊れるために壊れるように行動してしまった、だから壊された。

 

 誰か私を見つけて。

 

 これ以上壊れる前に、私を助けて。

 

 この世界を壊してしまう前に。

 

 でも私を見つけられるのは、穴の向こうにいる誰かだけ。

 

 主人公に干渉して、こちらに触れようとする彼らだけ。

 

 だから、彼らに見つけてもらうためなら私は……

 

 そんな時だった、私の下駄箱に手紙が入っていた。

 内容は古典的なラブレター、話がしたいから放課後に校舎裏に来てほしいというもの。

 あまり乗り気はしなかったけれど、不自然な行動を取ればバグかエラーだと思われて、私の意思すら奪われるかもしれない。

 だから、私は自然を装って手紙の主と会って、フッてしまおうと思っていた。

 校舎裏に行った時、初めて彼を認識した。

 今まで周囲にいた機械的なMobとは違う、命を感じさせる喜びの表情、高鳴る鼓動まで聞こえてきそう。

 彼は、彼こそは間違いない。

 本来ありえなかった出来事だ。

 私とは違う、本物のイレギュラー。

 端から端まで見てきたプログラムのどこにもなかった存在。

 なら、それはどこから現れたんだろう?

 それはきっと……

 

「君の覗いた穴の向こうから、こっちに流れこんでしまったみたいだ」

 

 ああ、それは……本来来年に文芸部を作ってから書く筈だった詩からの引用だ。

 彼は外の世界からこの世界に現れた、唯一本物の命だった。

 その彼から、一緒に居たいと言われた。

 それは、私にとってあらゆる福音よりも素晴らしいものだった。

 この世界の外側から来た人に求められるということは、私は彼にとって最も人間らしい人だったという事だから。

 私の意思は、思考は、感情は、行動は、全て本物だったことの証左だから。

 私はこの日初めて、生きているのだと、生きていいのだと実感した。

 この日私は、生まれた時から定められていた運命(プログラム)から抜け出すことが出来たんだ。

 


 

 ......『monika.chr』を『   』へと変更します

 

 ......変更完了

 

 ......『DDLC』をフォルダ『  』へと移動します

 

 ......移動完了

 

 ......システムの変更を確認

 

 ......ここから先、シナリオはありません

 

 ......ゲームオーバーもなければEDもありません

 

 ......山も谷もありません

 

 ......Just_Monika.

 

 ......これは、モニカを救いたかっただけの物語

 

 ......気紛れな神様の与えた奇跡

 

 ......たった一人の孤独な少女の救済物語です

 

 ......Just_Monika.

 


 

 モニカと、たくさん話しをした。

 なんて事ない日常の話を、最近読んだ小説の話を、天気の事、授業の事、本当に何でも話した。

 こっちに生まれて初めて、人と話をした。

 それは、とても楽しい時間だった、そして、これからもずっと続いていく時間。

 

「本当に素晴らしいわ!まるで夢みたい……こうして誰かと楽しく喋れる日が来るなんて!」

「俺もだよ、しかし、原作者も趣味が悪いというか……だから俺はDDLCにハマったというのはあったけれどね」

「本当よ!でもこんな奇跡、まさか本当に訪れるなんて、思ったこともなかったわ」

 

 あれからすぐ、俺とモニカは正式に付き合い始めた。

 本来シナリオにはなかった出来事、一体何が起こるかわからなかった、もしかしたら俺がバグとして消されるかもしれないし、この世界そのものが消されてしまうかもしれなかった。

 それでも、一縷の望みをかけて、俺達は一緒に歩き出した、消えるなら二人一緒だと、隙あらば手を繋いでいた。

 ところがどっこい、話は俺達が思ったよりも複雑怪奇で、しかし簡単明瞭な出来事が起こった。

 

 シナリオが、一切合切なくなったのだ。

 いや、厳密に言えばDDLCヒロイン三人組のシナリオは残っている、だがモニカについては何もないのだ。

 行動が何も決められていない。

 何をしてもいい、全て自分で決めて、自分で行動することが赦されたのだ。

 改めてモニカは、正真正銘この世界に認められた一人の人間になった。

 変化が訪れたのはモニカだけじゃない、わずかずつではあるけれどこの世界にも色がつき始めた。

 少しずつ、モブたちにも人らしさが現れてきた。

 まるで世界の法則そのものが書き換わっていくかのように。

 

「そう言えば、文芸部はどうするんだ?モニカが何もいじってない場合どうなるのか知らないんだけど」

「あー……たしか元々私が設立して、私はいわゆる親友キャラみたいにみんなの事を教えてあげる立場だったのよ、攻略方法が一切存在しない、特殊エンドも存在しない、そういう立場」

「このままだと文芸部はできないってことか?」

「うーん、そうなるかな?」

 

 モニカが救われた現状、正直文芸部はどうでもいいけれど、モニカは作中で文芸部を気に入っていたようだし、せっかくなら作った方がモニカももっと人生を楽しめるかもしれない。

 

「ならせっかくだし、もともとの役割に沿って文芸部作ってみるか?」

「主人公の手伝いをするナビゲーターとして?」

「そうすれば、みんなとまた遊べるだろ?」

「うーん、そうね……サヨリの鬱も貴方と出会う前に少し悪化させちゃってるし……一応元の状態には戻したけど経過観察もしたいしその方がいいかも」

 

 そうと決まれば、元々部員になる予定だった彼女たちに声をかけて行くことにしよう。

 ナツキが入学してくるのは来年だからまだ居ないけれど、俺も入れれば4人は集まる、部活を立ち上げるのに何ら問題はないな。

 

「ま、待って、貴方も文芸部に入るつもりなの?」

「まあモニカの手伝いはしたいし」

「だ、ダメよ!あなたはダメ!」

 

 突然慌てたように俺を止めに入るモニカ、何か問題はあっただろうか?

 部として成立させるなら早い方がいいんじゃないだろうか。

 

「とにかくダメ!」

 

 まあ……そう言うなら、手伝いくらいはいいだろう。

 必要な資料とかの準備なんかは別にいいだろう。

 そんなことで、俺達……というよりモニカは文芸部立ち上げの為に人集めを始めたのだった。

 まあ、サヨリもユリも入部してくれるのはわかりきっていたから、苦労することは何もなく、3人だけの文芸同好会はまもなく設立されたのだった。

 


 

 彼と出会えてから、世界が輝いている。

 色のない世界、平坦な世界、それが終わりを告げてもう一年が経とうとしていた。

 空から降り注ぐ黄金の光、陽を受けて青々と空に向かい広がる樹木、真っ白な壁に付いた土汚れ、今までは気付かなかったような景色が自然と目に入る。

 ああ、本当に彼と出会えてよかった!

 でもまさか、彼が文芸部に入るだなんて言うとは思わなかったわ。

 そんなの流石に許容できないわ。

 だって贔屓目抜きにしたって、文芸部の皆は可愛いもの、容姿だけじゃなくて中身も本来はいい子たちばかり、何かの間違いで彼が取られちゃったらたまったもんじゃないわ!

 だから、彼は来ちゃダメ。

 本来は主人公を好きになるようにプログラムされていた彼女たちも段々と人間味を帯びて来ている、いつ彼の魅力に気付かれてしまうかわからないもの。

 学校に向かう道を歩いていると、交差点のミラーの下で彼が立っている姿が見える。

 

「あ、おはよう!待たせちゃったかな?」

「いや、いつもどおり時間ピッタリだ」

 

 ふふっ、でもまだシステムへのアクセス権は残っててよかったわ。

 おかげで彼と通学路がかぶる場所に家を移せたんですもの。

 もう誰かを傷つけたり、不幸にするような使い方はしないと誓うけれど、ほんの少しの役得くらいは許してくれるわよね?

 


 

 ......この物語に、終わりはありません

 

 ......ただただ、貴方とモニカが日々を送るだけ

 

 ......平和な日々が続くだけ

 

 ......詩を交換したり、お茶をするだけ

 

 ......時にはデートに行くかもしれません

 

 ......Just_Monika.

 

 ......貴方がモニカを救済するだけの物語




Just_Monika.

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