僕は麻帆良のぬらりひょん!   作:Amber bird

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第7話

 魔法関係者集めてのネギ・スプリングフィールド対策会議……もう何度目だろうか?

 高畑先生の暴走により、彼の育成計画は大きく後退中だ。折角、魔力を制御する訓練をしても暴走させては意味が無い。

 意味が無い事をしたのに、独り爽やかに笑う張本人に周りの殺意が膨らんだ。

 

 学園長は出て行かれた……今は我々だけだから。コの字に並べた机……

 その一角で高笑いを続ける異様な漢、高畑Tタカミチ。デスメガネの異名を持つ学園最強の男。しかしネギ君に向ける熱意は異様だ……

 

「高畑先生……暫くは自重して下さい。

ネギ君の修行は、決められた時間と場所で行います。くれぐれも暴走しないで下さい。

この次に暴走したら……女性陣に力ずくでも止めて貰います」

 

 瀬流彦先生が良い事言った!後半が他力本願で有り、女性陣に任せるとフェミニストからすれば失格だ!

 

「瀬流彦先生……ネギ君と我々には時間が無いのです!彼には、もっと学ぶ事が多い。もっともっとだ!」

 

 狂気の笑顔に周りがドン引きだ!

 

「いっいや高畑先生……学園長も言っていたではないですか。少し様子を見ましょう」

 

 弐集院がフォローする。

 

「落ち着く?僕は何時に無く落ち着いてますよ」

 

 普通に受け答えているが、狂気の籠もった瞳は健在……いや、より一層ヤバい方面に向かっている。

 笑顔を浮かべ、両手を広げ、にこやかに話しているが……目だけが腐り輝いている。

 彼の瞳の先のネギ・スプリングフィールドは……いや、ネギ君を突き抜けてナギを見ていた。

 魔法先生達は、彼にこれ以上何を言っても無駄だと理解させられた。

 ヤレヤレと彼を残して会議室を出て行く……そんな中で葛葉刀子とシスター・シャクティは、最悪武力を用いても彼を止める事を……

 

 嫌々ながら心に決めた!

 

 そして愚痴と憂さ晴らしの為に、2人して居酒屋に繰り出す事にする。

 呑まなければ、やってられない……これが組織の縦社会不条理か。

 翌日、刀子さんは二日酔いに悩んだが、シャクティさんは宗教上の戒律の為か痛飲せずに普通だった!

 

 

 

 ネギ・スプリングフィールドのイギリス凱旋まで、あと三週間……果たして彼は、タカミチの魔の手から逃れて普通の漢として生還出来るのか?

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 ネギ・スプリングフィールドのフォロー……彼のフォローをしておかないと、今後に差し支える。

 なので彼の住んでいる学生寮を訪ねる事にした。前回は不在ですれ違ってしまったので、携帯電話で連絡をとった。

 携帯電話は仕事用として支給した物だ!

 今の時代、携帯電話は必須アイテムだしネギ君も初めて持つハイテク機器に喜んでいた。

 彼は趣味でアンティーク魔法具をコレクションしているそうだ。僕も最近、女性の写真を撮り始めよう。

 アルバムを作成しようと思っているが、女性恐怖症のネギ君には話せない……そんな事を考えていたら、彼の住む学生寮の前に到着した。

 

 お抱え運転手付きの高級車は素晴らしい!

 

 数少ない爺さんになった事での恩恵だ。車を降りて学生寮を見上げる……

 

「アレ?外壁に足場が組んで有るけど、工事中か?」

 

 ポツリと零すと「はい、急に予算申請が通りまして、外部の塗装と防水工事……それに水回りの改装が始まりました」訪ねる旨を報告しておいた為か、前回対応してくれた管理人さんが出迎えてくれた。

 

「それは良かったの。どうにも女子寮との格差が目立ったから、確かに申請書を承認したが……この学生寮だったのか」

 

 爺さんは、かなりの数の男子関係の要望書を放置していた。

 緊急を要する物などは即日承認していたが、確信犯的に急を要しない物については先送りだったよ……やはり爺さんは、女子に依怙贔屓していた。

 管理人さんに挨拶をしてから、ネギ君の部屋に向かう。工事は始まったばかりなのか、殆ど前に来た時のままだ……ネギ君の部屋の前に立ち、呼び鈴を押す。

 

 軽快な電子音の後に「はーい」と声が聞こえ、玄関扉が開いた。

 

「学園長さん、わざわざ有難う御座います」

 

 ペコリとお辞儀するネギ君は、タカミチ君との悪夢な山籠もりの影響が無さそうだけど?

 

「お邪魔するぞい。コレは土産じゃ」

 

 某スナイパー推薦の餡蜜を渡す。

 勿論、某スナイパーの事など記憶にしかないが、かなりお勧めで彼女に仕事を依頼する時にサービスで料金以外に渡していたのを覚えていたから……

 これを渡した時の彼女は、ほんのりと嬉しそうだった。

 普段は大人びた彼女が、だ……女子供には甘い物。それは古来より不変だ!当然、ネギ君も嬉しそうに箱を開けている。

 

「餡蜜じゃ。食べながらでも話すかの」

 

 そう言って備え付けのテーブルに向かい合って座る。脇にはお茶セットが用意されていた。餡蜜には日本茶が合うと思います。

 しかしネギ君が淹れてくれたのは紅茶だ。イギリス紳士として、紅茶は外せないのだろう?

 

「これはイギリスから取り寄せた、僕のお勧めなんです。ウィリアムソン&マゴーと言って老舗メーカーの紅茶です。象を模した缶が面白いんですよね」

 

 そうにこやかに言いながら、準備をしてくれる。なかなか手際が良いね……しかし、この缶は面白いな。正面からみると、確かに象だ!

 

「どうぞ……先ずはストレートで飲んでみて下さい。後はお好みでミルクと砂糖は此方に……」

 

「いただきます……」

 

 最近、漸く高級な日本茶に慣れてきたけど……正直、午後ティー世代の僕には良し悪しが分からないけど、確かに美味しい紅茶です。

 半分をストレートで飲み、砂糖を足して残りを飲む……

 

「ふむ……日本茶には慣れていたが、こんなに美味しい紅茶を飲んだのは初めてじゃよ。お代わりを貰えるかの」

 

 次はミルクと砂糖を入れて飲みたい。そう思える程に、コクと香りの強い紅茶だね。

 

「気に入って貰えて嬉しいです。僕も、この銘柄はお気に入りで……嫌な事が有っても、これを飲めば落ち着くんです……」

 

 なっ何だか様子が?ネギ君の様子が変だよ……

 

「たっタカミチさんの……ミチミチのドラム缶風呂に入った時に……気持ちの悪い何かが、僕に……

僕に当たって……ヒゲ、ヒゲみたいなジョリジョリが……」

 

 ネギ君がカップを握り締めて、小刻みに震えだしたぞ!なっなんかヤバい状況だ!タカミチ、貴様ネギ君に何をしたんだ?

 

 

 

 タカミチに拉致られ山籠もり紛いの修行をさせられたネギ君。

 彼の下から逃げ出し麓で魔力を暴走させ、また女性を脱がし捲ったラッキースケベ小僧。

 しかし今回ばかりはネギ君も被害者だと思い、彼の様子を見にきた。

 最初は普通に接してくれて、お気に入りの紅茶まで振る舞ってくれたのだが……

 

 タカミチ君の話題を振ったとたんに、目の色が虚ろに変わり小刻みに震えだしたぞ!

 

 こっこれって所謂酷い目に有った事を思い出してしまい、精神の安定が怪しくなったアレか?まっまさかタカミチの野郎、ネギ君の貞操を……

 

「学園長……」

 

「なっなんじゃ?」

 

 下を向いたままボソリと呟く様に呼ばれた。

 

「学園長が言われた漢道とは……僕には無理かもしれません。あんな事をされたら……ぼっ僕は……」

 

 何かを耐える様に震えているネギ君。どうみても性犯罪の被害者でしかない。

 

「ネギ君……タカミチ君に何をされたかは聞かない。

しかし、タカミチ君は処分させて貰うから安心せい。直ぐに、直ぐにでも冥府の門を潜らせるから……」

 

 そう言ってから携帯電話を取り出す。タカミチ君以外の魔法関係者と、エヴァ御一行に連絡だ!

 

 タカミチ君……明日の朝日は見られないからね。

 

 未だに震えるネギ君の肩をポンポンと叩いて安心させる……

 

「冥府?潜らせる?何ですか、学園長?

タカミチは僕に、父さんの事を教えてくれたんです。

タカミチは昔、父さんと一緒に旅を続けていたって!

そこで今回の山籠もりと同じ修行をつけて貰ったって言ってました!」

 

 見上げたネギ君の目が……何だろう?純真だった彼の瞳の奥に、腐り輝く光を見つけてしまったんだ……

 

「タカミチは、父さんと一緒にドラム缶風呂に良く入ったって!

そこでジョリジョリするアレを擦り付けたり、擦り付けられたりしたって!

父さんは、タカミチを修行の為に崖から突き落としたり、滝に打たせたり……」

 

 ジョリジョリ?なっ何かジョリジョリで、何を擦り付けたり擦り付けられた?

 

「僕は着実に父さんに近付いてるんだ!だって父さんを良く知るタカミチが言うんだ。ナギはヤンチャだった!唯我独尊だったよって!

そしてどんな敵にも向かって行ったって……僕も父さんみたいに、強くなるんだ!

だから今は怖い女の人に単身向かっていったんだ……でも怖かったんだ。

僕は父さんみたいに強くなれない……こんな僕は嫌だ……もっともっとタカミチと修行して、女の人に負けない漢になるんだ!」

 

 嗚呼、ネギ君が壊された……タカミチの野郎。ナギ・スプリングフィールドをネタにネギ君を壊しやがった……

 

「父さんみたいにサウザントマスターになるんだ!

女の人を千人切りすれば、サウザントマスターだってタカミチが言ったんだ。

僕はまだ30人位しか脱がしてないから道は遠い。でもでも、麻帆良学園には三千人以上の女の人が居るって……

あと三週間で何とか……お髭がジョリジョリ、ダンディーなんだよね……」

 

 ブツブツと危ない台詞を呟くネギ君に眠りの魔法をかける……至近距離から油断した状態だったから、良く眠ってくれたみたいだ。

 さて、どうすれば良いのかな?ネギ君は最悪の腐り具合だ……タカミチのせいで。

 

 これは四の五の言わずに、タカミチとの空白の三日間を完全削除だ!

 

 ただジョリジョリがヒゲだったのは僥倖だ。彼はまだ清い体なのだから……多少の疑問は有るが、今はネギ君の呟きを信じる。

 

 いや、信じたい!

 

 握り締めていた携帯電話で、エヴァに連絡を……いや茶々丸に連絡する。

 これを魔法関係者に話したら……いや待てよ。

 エヴァだけに頼るのは危険だ。などと考えていたら、呼び出し音が止まり、茶々丸が出てくれた。

 

「今晩は、学園長。どうかしましたか?」

 

 彼女の落ち着いた言葉に、少しだけ動揺が治まる。

 

「ああ、茶々丸か……儂じゃ。最悪の問題が発生した。エヴァを連れてネギ君の部屋に来て欲しい」

 

 そう頼んで電話を切ると、次は明石教授に連絡を入れた。

 武闘派は駄目だ……カッとなって何をするか分からない。何とかに刃物が多いからね。

 

「もしもし?明石教授か?

今、ネギ君の様子を見に来たのじゃが……タカミチに最悪の洗脳をされておった。

他の皆には内緒で、弐集院先生と瀬流彦先生に声をかけるのじゃ!ネギ君の部屋に急いで来て欲しい」

 

 仕方無いが、ネギ君の記憶を弄るしか有るまい。英雄の息子が……まだ十歳の子供が、こんな変態になるなんて。

 それと、どうしても確認が必要な事が有る。それを知る為に、心の友に連絡をとる……

 最近良く掛ける為に、履歴から直ぐにダイヤル出来るのだ!

 

「もしもし……詠春殿か?いや夜分にすまぬ。実は、こっちに居るタカミチが暴走してな。

聞きたいのだが……ナギはタカミチに修行をつけておったのか?」

 

 彼の言うナギから受けた修行内容の確認だ。酷い捏造だったら、タカミチは極刑でも温いだろう……

 

「珍しいですね。義父さんがナギについて聞きたいなんて……ナギがタカミチに修行ですか?

んー基本的にガトウがタカミチを鍛えてましたから……

ああ、たまに暇つぶしでタカミチ君を的に攻撃したり崖から落としたりしてましたね。

アレは修行と言うよりは、イジメ?イジリ?兎に角、その様な事はしてましたね」

 

 なっ何て奴じゃナギは……タカミチも被害者なのか?

 

「それで、ナギはタカミチとドラム缶風呂とか一緒に入っていたのかの?」

 

「ははは……女好きのナギが、タカミチと?そんな事は有りませんでしたよ。

それより義父さん!例の服を木乃香と刹那君に着せましたか?」

 

 あの素敵衣装の事を忘れていた!

 

「すまぬ……問題が山積みで未だじゃ。今週中には必ず写真は送るぞ。其方はどうじゃ?」

 

 僅か1日だから、未だ何も動きは無い筈だ。

 

「ああ、あの後にですね。青山鶴子が戻って来まして、説明がてら会いに行きましたよ。彼女の袴姿もバッチリです!」

 

「なっ何じゃと?婿殿は、ドエライ漢じゃな!それで編集作業は?進んでいるのか?」

 

 話に聞く青山鶴子さんは、中々のしっとり美女と聞いてますよ!何て漢なんだ、詠春さん!流石はサムライマスター!

 

 そこに痺れるし、憧れちゃうぜ!

 

 

 

 魔法世界の作られた英雄の息子。ネギ・スプリングフィールド……

 

 実際に会ってみれば、年相応な部分を残した真面目で礼儀正しい子供だった。

 しかし、彼はラッキースケベと言う奇跡のスキルを持っていたが……日本の通勤電車の洗礼を受けてしまい。

 逆痴漢と言うか、女性にオモチャにされたせいで女性恐怖症となってしまった……女性に何かとイヤラシい事をするのに、当人は被害者を怖がる。

 子供だと言う事を考えれば、女性の方が加害者っぽく見える変な感じだ!

 

 当人達にとっては、迷惑でしか無いのだが……トラウマ発動→魔力暴走→痴漢行為!

 

 この負のスパイラルを打破する為に魔力制御を教えているが……1人の変態の為に台無しになってしまった。

 

 高畑・T・タカミチ。どうしてくれようか?

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「義父さん、聞いてますか?後で青山鶴子の画像を送っておきますね。

それと彼女から伝言と言うか、お願いが有りまして……」

 

 お願い?何だろう?特に彼女とは、爺さんの記憶でも接点は殆ど無いのだが……

 

「その神鳴流の女傑が、儂に頼みとは何じゃ?」

 

「義父さんが関西に、刹那君を連れて帰ってくると……葛葉刀子が関東に独りで取り残されますよね?

彼女を説得し、関西に連れ戻す事。そうすれば、今後関東魔法協会からの要請も一考するそうです。

青山鶴子と葛葉刀子は、友人同士らしいですね」

 

 なる程ね……彼女は反対を押し切り、半ば裏切る様に西洋魔法使いと結婚し……そして本人達が納得済みで円満離婚らしい。

 しかし、旦那が出世の為に本国。魔法世界へと帰るのを一緒に行きたくないから、別れたと聞いてるんだ。

 

 これは普通なのだろうか?単身赴任でも良かっただろうに……あれだけ騒いで駆け落ち同然に結婚したんだよね。

 

 簡単に離婚出来るのかな?僕の知らない大人の事情が有るのだろうか……

 

「刀子君か……確かに此方に独り残るのは寂しかろう。分かった、説得しよう」

 

「有難う御座います。では先方に、その旨伝えておきますね」

 

 そう言って電話を切った。詠春さんも中々遣り手じゃないか?京都神鳴流と交渉が纏まりそうなのは嬉しい。

 あんな非常識刃物使いは、味方か中立にさせないと危険だからね……そうこうしている内に、エヴァ御一行が転移して来ましたよ。

 

 便利だよね、影を利用した転移魔法ってさ!

 

 エヴァを先頭に茶々丸が影から出てくる。何時もの吸血鬼ルックではなくフリフリパジャマだ……思わずポケットの中のデジカメを取り出す。

 

「見るなジジィ!貴様が最悪の自体だからと急がせたから、着替える時間も惜しんだのだ。コラ!写真を撮るな……」

 

 最近必ず携帯しているデジカメで、フリフリパジャマのエヴァをバシャバシャ撮影。

 デジカメを奪おうとするエヴァから取られない様に、片手を上げて距離をとる。

 ぴょんぴょん飛んで取ろうとするエヴァ!それを撮影する茶々丸……後で、その画像下さいね。

 

「遊びは終わりじゃ……タカミチの暴走のせいでネギ君が変態した。いや、変態化したのじゃ。

明石教授や瀬流彦先生、弐集院先生も呼んでいる。対策を考えねば……」

 

 変態と同衾した記憶を完全に消すつもりです。しかし、一応何人かに相談してから実行する。

 独断専行やエヴァ達だけと対処するのは、ガンドルフィーニ先生や刀子先生が煩いからね……

 

「学園長、お待たせしました」

 

 ハァハァと息を切らせながら、明石教授達が部屋に入って来た。これで主要なメンバーは集まった!

 

 これから対策会議だ……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「……と、言う訳でタカミチ君の山籠もりが原因でネギ君は女千人切りを目標としてしまった。

これは大問題じゃ!しかもタカミチ君ばりの腐り輝く瞳を……もはや記憶消去もやむを得まい。

我々は英雄の息子を変態性犯罪者にしてしまったのじゃよ」

 

 早く対策を練らねば、最悪の自体はタカミチと合流してパワーアップしかねない事だ!

 なまじ肉体と魔力のポテンシャルが高い。放っておけば、加速度的に手に負えなくなるよ。

 

「「「なっ?なんだってー!」」」

 

 ハモる程、驚いてくれて有難う御座います。茶々丸さんだけは冷静ですね?

 

「学園長……で?

ネギ・スプリングフィールドと高畑・T・タカミチの両変態を何時殺りますか?

この性犯罪者を駆逐しなければ、学園全体の危機です!サクッと殺りましょう……」

 

 オゥ!

 

 茶々丸さん、静かに暴走してませんか?それは最悪の手ですよ!

 

「それは駄目じゃ!」

 

「チッ!」

 

 舌打ちされた?

 

 スヤスヤと気持ち良そうに眠るネギ君を見て「ネギ君には悪いが、寝ている間に記憶を消すしかあるまい。悪夢の山籠もりの……」多少記憶が混乱したり、疑問に思うかもしれない。

 

 しかし変態よりはマシだ!

 

 魔法先生に、記憶消去の魔法を頼もうと思った時にネギ君が寝言を……「たっタカミチ、駄目だよ……んーそれは……ジョリジョリいやー……」魘されているぞ。

 

「「「……………?」」」

 

 何か嫌な事を夢に見ているのだろうか?コホンっと咳払いしてから

 

「さて……では記憶消去の魔法を頼みますぞ」

 

 弐集院先生、瀬流彦先生、明石教授、最後にエヴァを見回す……

 

「がっ学園長?彼は夢を見ています。今なら高畑先生に、ネギ君が何をされたかが分かります……」

 

「駄目じゃ!知ってしまえば、取り返しのつかない事態になる!知らないから、分からないから良い事も有るのじゃ!」

 

 ネギ君のトラウマを抉る様な事は、したくないし知りたくない……

 

「ふん!知らねばならぬのが責任者だよ。面白そうだからな。いくぞ、ジジィ!」

 

 満面の笑みで、ネギ君の夢の中に入る呪文を唱えているエヴァ……

 

「ばっ馬鹿!ショタでニヒルなボーイズがラブかも?なんて需要は無いんじゃよ。やめんかー!」

 

 エヴァの高笑いを聞きながら、自分も耐えられない眠気に襲われた……これで目覚めたら、ネギ君の夢の中なのか?

 意識を手放しながら、そんな事を考えていた……

 

 タカミチに浚われたネギ君の、悲劇的な記憶を消してしまおう!もう全てを無くしてしまおう!

 そう考えた矢先に、エヴァにより山籠もりの時の事を夢見ているだろうネギ君の夢の中に連行された……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 急な眠気から覚めれば、どうやら山中の藪の影に身を潜めていた……地面に付いた掌から、リアルな土の感触が有る。

 

「ここは……」

 

 お約束のセリフを言おうとして「静かにしろ、ジジィ……どうやら成功だ!ほれ見ろ。小僧とタカミチだ……」小さな指で差した先には……

 

 何やら熊に追われるネギ君と、腕を組み仁王立ちのタカミチが見える……

 

「ほっ……普通のシゴキじゃな。まぁ許容範囲内ギリギリかのぅ」

 

 スパルタ山籠もりとしては定番の獣との戦い。普通にスポコンしてるね。

 

「小僧の奴、完全に熊を恐れているな……あのデカい杖は飾りか?」

 

「いや10歳児には辛かろう?あの熊は本気でネギ君を喰おうとしてるぞ」

 

 はた目にはコミカルな追いかけっこも、鬼は文字通り牙と爪を持っている……一発当たれば重傷……その後は捕食だよ?

 

 あっ?ネギ君が急に素早く距離を取って向き合い、魔法の矢で熊を倒したぞ!

 

「ふむ……魔法で身体強化。距離を稼いで魔法の矢でトドメをさしたか。まぁまぁか……」

 

 エヴァにまぁまぁと言わせるとは、ネギ君も中々なんじゃないかな……暗転して場面が切り替わる。

 今度は川で魚取りをしている様だ。ネギ君が川の中ほどで膝まで水に浸かり、魚を手掴みで取ろうとしている。

 

 いくら何でも無理だろう……それを岸に、これまた仁王立ちで眺めているタカミチ。

 

「ネギ君、気合いだ!気合いで魚を圧倒するんだ。そうすれば魚は怯えて動きが止まる。

そこを掴むんだ!ナギさんは軽々とこなしていたぞ」

 

 いやネギ君、騙されるな!そんな無茶振りを10歳児にするなタカミチ!某忍者娘だって無理だ。

 道具を使え!人間は道具を使って、自然に向かっていったんだ!

 

「父さんが?分かったよタカミチ!」

 

 分かっちゃダメダー!

 

「ジジィ……あの師弟、馬鹿だろ?」

 

 エヴァが呆れ顔で聞いてくる。

 

「タカミチに師事などさせぬわ!この夢を見終わったら、エヴァが責任取ってネギ君の記憶を消すんじゃ」

 

 決めた!誰が何と言おうと、ネギ君の記憶は完全に消す。

 

「なっ何で私が?」

 

 何を仰るのですか、エヴァさん。

 

「同然じゃ!他人の夢に断り無く入ったんじゃ!彼のトラウマ位、消さんか」

 

「良いのか?英雄の息子に闇の福音が魔法をかけても?」

 

「改めて確認しても、ネギ君の魔法抵抗力は凄い。他の魔法先生では荷が重いの……全盛時のエヴァだからこそ、根こそぎ消せる。そうじゃろ?」

 

 そうなんだ!ネギ君の潜在的な力は凄い。魔力も豊富だ!

 普通の魔法先生が記憶を消そうとしても、彼ならレジストしそうだ……それに魔法先生では遠慮も有るだろう。

 中途半端に消す可能性が有る。

 

「ちっ!この報酬は別に貰うぞ。良いな」

 

 強欲な美幼女め!

 

「静かに……変態師弟に動きが……」

 

 エヴァと話し込んでる内に、ネギ君とタカミチに動きが有った。無謀な魚取りを強いられたネギ君は疲労困憊で岸に倒れていた……

 当たり前だ!水に使って動き回れば、水の抵抗分だけ余計に疲れるだろう。

 

「ネギ君……ダメダメだな。では教えてあげよう!ナギさん流の魚の取り方を……ふん!いくぞ、居合い拳!」

 

 そう言うと、タカミチは川に向かって居合い拳を放った!馬鹿か?あの居合い拳は100mの滝も真っ二つに割るんだぞ!

 それを魚取りに……凄い水しぶきを上げながら、川の形が一部変わってしまった。

 

 確かに大量に巻き上げられた水しぶきと共に、沢山の魚も岸に散乱しているが……

 

「見たかネギ君!これがナギさん流の対応だ。ナギさんは馬鹿だったので、解決策は何時も何時も力ずくだった!

常に強気の全力全開。周りの迷惑、二の次だ!これがナギ・スプリングフィールドの生き方だー!」

 

「「ちっ違うわー!」」

 

 思わず茂みの中で叫んでしまった!タカミチ、ネギ君をお馬鹿な傍若無人にする気だな!

 確かにナギにも、そんな傾向は有った。馬鹿だから深くは考えない……しかし善悪の最低限は有ったぞ!

 そんな自分が全て正しく、力ずくねじ伏せて切り開くぞ、周りの迷惑なんて関係ねー!なんて程、流石に酷くはないわー!

 

「そうなんだ!力ずくで解決。昔の僕なら考えられない解決策だね。流石は父さんだ!」納得するなネギ君!

 

 ネギ君とタカミチは、食べ切れるだけの川魚を取ってから立ち去って行った。

 2人で仲良く並んで歩きながら……端から見れば、仲の良い親子か年の離れた兄弟に見える。

 彼らを黙って見送っていると、周りが暗転し始めた……次の夢へと移るのだろう。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 次夕食のシーンだった。

 

 焚き火の周りには、串に刺されて川魚が焼かれている。そして何処から用意したのか、鍋が有る。

 コポコポと吹き出していて、如何にも美味しそうだ……焚き火の周りには、テントと問題のドラム缶風呂が見える。

 

「タカミチ、他に父さんの事を教えてよ!」

 

 串に刺さった川魚をかじりながら、ネギ君がタカミチに聞いている。

 

「ナギさんか……

そうだね、昔仲間と同じ様に鍋を囲んでいた時、ラカンと言う筋肉馬鹿が攻めてきて返り討ちにしたって聞いたな。ボコボコにしたそうだよ」

 

「ラカン?僕も噂で聞いた事有るよ。凄い強い人だよね?父さんは、そのラカンさんをボコボコにしたんだ!凄いよね」

 

 殆ど会った事も無い父親の事を楽しそうに聞くネギ君……何て哀れなんだ。

 その変態に聞いても歪曲されたナギ・スプリングフィールドしか教えて貰えないんだぞ!

 

「ジジィ……夕食は普通だな。まだネギは……それ程は腐って無い。やはりアレか?ドラム缶風呂イベントが元凶だな」

 

「そうじゃな……

今でもアウトじゃが、あの腐り輝く瞳は、もっと最悪な壊され方をされた感じだった……やはりドラム缶風呂とテントで同衾が問題か……」

 

 仲良く話しながら食べる彼らの周りが暗くなりだした……いよいよ次がドラム缶風呂イベントだろう。

 見たくないが、此処までくれば……毒を喰らわば皿までだ!

 

 

 

 魔法と言う物は、本当にとんでもない物だ……まさか他人の夢に入れるなんて!

 普通はこんな話を周りにしたら、詐欺かキチガイと思われるだろう。良くて頭の中がお花畑かメルヘン野郎だ…… 

 しかし、現実に僕はネギ・スプリングフィールドの夢の中に居る。そしてネギ君とタカミチは、今現在進行形で……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 夕食を終えた2人は、ドラム缶風呂を沸かしている。流石にタカミチも風呂を沸かす事は、力ずくでは無理だろう。

 初歩的な魔法も使えないのだから……なのでネギ君が魔法で火を点けて風を送っている。

 パチパチとくべられた薪が、音をたてて燃えて……まだ前の体の時に、野焼きした記憶が蘇る。

 あの頃は平凡だったが、楽しかったな。

 焼き芋や焼き栗を食べたり、川で魚を釣っては焼いて食べた……ド田舎だったけど、楽しみ方は沢山有ったよ。

 今は会えない懐かしい家族を思い出す。

 

 ボーっと焚き火を眺めてしまった!

 

 人口の灯りが何もない山中では、焚き火のユラユラした灯りが頼り。2人の影を微妙に揺らしながら、静かに夜が更けていく……

 

「タカミチ、僕はお風呂が苦手なんだ。どうしても入らないと駄目なの?」

 

 何と、ネギ君は風呂が嫌いだって!日本人としては、信じられない感性だ。どちらかと言えば、温泉大国日本人は風呂好きが多いと思っている!

 

「イギリス紳士を気取る癖に、不衛生じゃな……」

 

 普段、紳士を気取るネギ君にしては不衛生じゃないか!

 

「英国人が不衛生と言う訳では無いぞ。文化の違いも有る。

日本人は入浴に癒やしやリラックス効果、共同浴場では他人との触れ合いとかも含んでいる。

外国人で多いのは体を洗う作業に重きを置いているからな。それにシャワーとかで済ます事も多い。湯船に長く浸かる事も珍しい。

風呂好きで有名なのは、日本人とローマ人か?どちらも文化として捉えているしな。

知っているか?

ヨーロッパでは昔、入浴行為が異教徒的と非難されたんだぞ。何でも堕落の温床なんだとさ!

笑わせるな。

湯船に浸かれば異端審問だと……その後になると、風呂に入ると常在菌が洗い流されて病気になると信じていた。

所謂、香水で匂いを誤魔化していたのは本当だよ。今から見れば、王侯貴族でさえ臭い連中だったんだ」

 

 流石は日本大好きなエヴァだ……しかもサラリと世界の歴史蘊蓄まで語り出したぞ。

 良く分からないが、お風呂一つにも宗教絡みとか話が深いな!

 

「エヴァよ……日本人より日本人らしいの。しかも博学じゃ!

知らんかったぞ、中世ヨーロッパ文化が不潔だったなどと。それは、それで置いておいて……

彼らの件じゃが、最悪ホモホモワールドに突入したらどうするのじゃ?

儂……ネギ君の貞操が散らされるのは見たくないぞ」

 

 ビジュアル的にも、受け入れ難いです。

 

「私だってお断りだよ。ヤバくなったら触りだけ見て終わりにするさ。

何、原因が分かれば良いのだから……ジジィも事実を知れば、他の魔法関係者を説得し易いだろ?」

 

 それは……しかしこんな秘密を共有する連中は、少ない方が良いだろう。

 バレる危険は少ない程良い。魔法の秘匿状態を見ても、彼らの情報漏洩は高い確率でおこる……

 僕の引退までは、最低でもバレない様に気を付けないと不味いし。

 

「詳細を彼らに教えるのは難しいじゃろ?何処かで秘密はバレる可能性は有る。

そこに生々しい情報は、余計な騒動になるしの。タカミチはネギ君に過剰な訓練を強いたのじゃよ。分かるな?」

 

 どうせバレるなら、内容を改竄すれば良いよね。その方が皆さん幸せだろうし、ネギ君もそうだ!

 

「事実は闇の中か……確かに、その方が周りも小僧も幸せか。まさか自分の貞操をオッサンに奪われたなどと……」

 

 くっくっく……ネタとしては最高じゃないか!などと邪悪な笑みを浮かべるエヴァを叩く。

 

「馬鹿者!

そんな秘密を握れば、破滅の階段を転げ落ちるぞ。奴らにバレれば……まぁ必死で隠蔽するじゃろ?

魔法世界から、ホモホモの記憶を持つが故に粛清などお断りじゃ!」

 

「面倒臭いな……英雄を作るのは」

 

 ヤレヤレと2人で溜め息をつく。本当にネギ君関係は面倒臭いんだ!そうこう言っている内に、向こうでは進展が?

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 それは不思議な光景だった……

 月明かりと焚き火の仄かな灯りを頼りに、2人の漢が全裸でポージングをしていた。

 幻想的で美しい自然の景色の中で、異彩を放つタカミチとネギ君……世界は彼らに汚されてしまった。

 

「フンフンフン!ネギ君、自らの殻を突き破る様にポージングを決めるのだ!ナギさんも良くアリカ姫に肉体を魅せ付けていたぞ!」

 

「「はぁ?ナギが露出狂だって?」」

 

 タカミチの目を背ける様な薄汚いナニかを見ないようにしていたが、衝撃の発言に思わず凝視してしまう……

 

「うわっ?目が、目がぁ……」

 

「くっ!汚された……ジジィ、責任を取れ!私の目が汚されたぞ」

 

 月明かりの中で、変なポージングをするタカミチを背後からガン見してしまった……思い出したくも無い、汚い尻も見てしまったじゃないか!

 

「こっちも同じじゃ!そもそもエヴァが、ネギ君の夢の中に入ったのが原因じゃろ!責任を取って欲しいのは儂の方じゃよ」

 

「くっ……

あのタカミチのポージングは、ダイ○ード2のスチュワート大佐の真似か?

確かに作中の奴は漢らしかったが……タカミチが真似てもお笑いだぞ」

 

 エヴァめ、誤魔化しおって……確かにスチュワート大佐は、ネギ君に見習って欲しい漢だったが。

 リアルにアレをやられると恥ずかしいを通り越して、痛々しいな……

 目線を少しずらした先には、タカミチとネギ君が真っ裸でポージングに勤しんでいる。

 

「なぁジジィ……もう帰りたいぞ!何か面倒臭くなって来たし眠くなってきたよ」

 

 ゴシゴシと片目を擦りながら、ポソリと言う。エヴァめ、目を擦りながら萌え台詞か?

 

「もう少し、もう少しじゃ!毒を喰らわば皿までだ!ドラム缶風呂イベントを見る迄は帰らないぞ」

 

 此処まで来たら、一蓮托生・呉越同舟だ!エヴァには悪いが、ネギ君の最後を見届ける迄は帰れないよ。

 そして観察されている2人は、僕らに気付かずに話を進めていた……

 

 

 

 遂にネギ・スプリングフィールドと高畑・T・タカミチのホモホモワールドの全貌が明らかに?

 ダイ○ード2のスチュワート大佐の真似を散々披露してくれは2人……しかしタカミチは兎も角、ネギ君は似合わない。

 

 子供だし筋肉の具合もイマイチだ!

 

 そもそもネギ君は、魔法の知識追求に重きを置いていた為に、肉体的・精神的な鍛錬がイマイチだ。

 体の出来上がっていない子供だから、筋肉を付けるにも無理が有るしね。

 だから暴走する頻度も高い。日本に来てから、変なトラウマ……

 女性恐怖症を患い、元々持っていたラッキースケベのスキルと共に被害を周りにバラまいている。早くイギリスに返したいんだ。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 子供らしいスラリとした肉体のネギ君が、幾らポージングしても様にならない……

 それを理解したのか、自身のポージングを止めて腕を組み思案顔のタカミチ。

 

「ネギ君……残念ながら君に、このポージングはマスター出来ない。諦めよう」

 

 本当に残念そうに言いやがる。

 

「そんな事は無いよタカミチ!僕だって出来るよ」

 

 ムキになってポージングをするが、脈打つ筋肉が無いネギ君では貧弱ボーイのままだ……

 

「ふん、ふんふんふん!どう、どうかなタカミチ?僕のポージングは?」

 

 ヤレヤレ顔のタカミチ……

 

「ネギ君無駄だ……君はナギさんにはなれないようだ……残念だよ、本当に……」

 

 そして本当に悲しそうな表情だ。タカミチ、それは高等な洗脳テクニックだよね?

 最初に持ち上げて、その気にさせる。そして有る程度たってから、ダメ出しする。本当に残念がって……

 そうすれば相手はムキになって否定し、そしてのめり込んで行く。ネギ君は、タカミチの術中にハマった。

 もうタカミチの言う事をムキになって実践するだろう……

 

「ネギ君……君が其処まで言うのなら、これを飲むが良い!」

 

 タカミチが、フォースを信じるんじゃ!的な感じで、何かを尻から取り出した!

 

 尻から?

 

 真っ裸で何も持っていなかったよね?

 

「エヴァよ……タカミチは、尻から瓶を取り出したぞ!何故、どこに隠していたんじゃ?」

 

 魔法とは、四次元ポケット的な事が可能なのか?それとも尻タブの間に、挟んでいたのか?

 

「知らん、知らん!私は見ていないぞ。股関から出した瓶など!絶対に見ていないぞ」

 

 股関?何を言っているんだ、エヴァよ。どう見ても、尻の間から出したぞ!

 

「いや……儂は尻から出した様に見えた。アレは尻タブに挟んでいたんじゃ!」

 

「どっちでも関係無いわー!あんな瓶など知らん」

 

 小声で顔を突き合わせて言い合いをしてしまった……確かに、どうでも良い事だよね。

 あんな汚い瓶なんて……瓶?

 

「なぁエヴァよ……あの瓶の中身に見覚えが有るのじゃが」

 

「赤と青の玉か……年齢詐称薬だな。でも、どうするんだ?」

 

 多分アレだ!ネギ君に飲ませて成長させるつもりか?漢が匂うダンディーな年齢に……

 タカミチめ、僕の癒やしである相坂さんに会うのに必要なアイテムを尻に挟んでいやがった。

 僕と相坂さんの絆の魔法薬を汚しやがって……許さない、必ず後悔させてやる!

 

「じっジジィ?いらん殺気がだだ漏れだぞ!落ち着くんだ」

 

 ああ、どうやら止められない感情の高ぶりが……これが復讐心か。なる程、理解したよ。確かに抗えない感情の高ぶりだよね。

 

「すまんな、エヴァ……感情の高ぶりを抑えられなんだ。タカミチよ、起きたら覚えておくんじゃな」

 

 深呼吸を数回してからネギ君達を見ると、丁度幾つかの年齢詐称薬を飲んで変化するどころだった。

 ボフンと煙をあげて変化したネギ君は……まんまナギ・スプリングフィールドその人だ!

 

 幾つ飲ませたのかは分からないが、見た目20代後半だろうか……丁度エヴァを学園に連れて来た時に瓜二つだな。

 

「…………ナギ…………いや……そうか……」

 

 隣に居るエヴァが、僕の着物の裾を掴んで放心状態でナギに似ているネギ君を見詰めていた。

 裾を掴む手が、僅かだが震えて……「エヴァよ……」思わず声をかける。

 

「ジジィ……分かっていたさ。ナギは迎えに来ると、呪いを解いてやると言って私から去っていった。

しかし、私を迎えに来ずに呪いも解かず……

ふん!小僧の母親と宜しくやっていたんだな。そして先に逝った……私の事は、それ程は大切では無かったんだな」

 

 エヴァさんがナイーブに?ヤバい泣きそうだ!

 やはりエヴァにとって、ナギ・スプリングフィールドとは特別だったのか……でも彼女の呪いを解かずに、ネギ君をこさえてたんだよなー。

 他の女と仲良くして、エヴァを助けに来なかった。ある意味、最低な男だよねナギって。ネギ君の育児も放棄して他人に押し付けてるし。

 事情は有れども無責任と言われても仕方ない、か……

 

「エヴァよ……ナギはな……」

 

 出来るだけ優しい声で話し掛ける。

 

「…………じっジジィ!タカミチが小僧に襲いかかってるぞ!」

 

「なっ何だってー?」

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 年齢詐称薬を飲まされ、十数年の年齢を嵩ましされたネギ……まさにナギ・スプリングフィールドだ。

 

「わぁ?周りの景色が違って見えるよ。

それに……手足も長いし、何か変な感じだよ。タカミチ、どうしたの?」

 

 タカミチはブルブルと震えている……しかし、突然叫び声を上げた!

 

「なっナギさーん!」

 

 真っ裸なネギに抱きついた!

 

「タカミチ、落ち着いて!僕は父さんじゃないから……うわっ、ヒゲがジョリジョリで気持ち悪いよ!アレ?僕にもヒゲが?」

 

 憧れのナギそっくりに変化したネギを見てしまったのだ……興奮するのは、仕方無いのだろうか?

 

「ナギさん、さぁさぁ風呂が沸いてます!背中を流しますから此方へ。ハリーハリーハリー」

 

 ネギ君を強引にドラム缶風呂の脇に座らせると、お湯を掛けながら背中を流し出した……すっかりナギと思い込んでいるのか?

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 そんな彼らを呆然と見詰める2人……

 

「互いにジョリジョリとは、ネギ君を年齢詐称薬で成長させた為の偽ヒゲか……原因が分かったのか?」

 

 違う意味でブルブル震えているエヴァ……

 

「ジジィ……帰ろう、私は疲れた」

 

 未だに僕の裾を握るエヴァさんが、本当に疲れ切った顔で見上げている。

 

 「タカミチ、気持ち悪いよバカー!」

 

 ネギ君の魂の雄叫びと共に、暴走しただろう膨大な魔力がタカミチに襲いかかっていた……

 

「何て威力だ……女の子には暴走して脱がせ、変態には直接的攻撃。やはりネギ君は暴走の効果を意図的に変えられるのか?」

 

 横たわるタカミチに、何度も襲いかかるネギ君の魔力……変な風に捻れながら吹っ飛んで行った。

 

「「アレを喰らって死ななかったのか?」」

 

 翌日、ピンピンしていたタカミチを思い出して彼の不死身さに恐怖した……

 

「はぁはぁ……ネギ君、やっと理解したね……ナギは唯我独尊で我が儘なガキ大将だった……

何事にも全力であたる……嫌な事は、力ずくでも……排除して……おふっ」

 

 息も絶え絶え、ピクピクしながら……サラリとナギ批判?したよね?

 

「タカミチ……身を挺して僕に教えてくれたんだね。嫌な事は力ずく……キモいオッサンを力ずくで倒してほめられた。

つまり怖い女の人も、力ずくでぶち当たれば……僕は父さんに近付くんだ!」

 

 少年漫画の最終回なノリで、とんでも無い結果に結びついたよ!

 拳を握り締めて、中々漢らしい表情のネギ君だが……決意は正義の魔法使いの真逆を爆走していた。

 この後、タカミチが復活しテントで同衾イベントが始まるのだろうが……もはや、どうでも良かった。

 

「エヴァ……帰ろう、現実世界へ。そして早々にネギ君の記憶を消すんじゃ!消し過ぎても構わんぞ」

 

「ああ、綺麗サッパリ消してやるよ」

 

 エヴァと見つめ合いながら、互いの決意を確認する。あのアホ達の頭ん中をカラッポにしてやるわ!

 エヴァと手を繋ながら、現実世界へと帰還するのだった……

 

 

 

 ネギ・スプリングフィールドを腐らせた原因が追求出来た……

 まさかの年齢詐称薬を用いた、擬似ナギ・スプリングフィールドにセクハラしたからだ、と。

 ネギ君はタカミチを撃退し、力ずくで勝ち進む道を歪曲して学んでしまった……これは大変宜しく無い。

 こんなねじ曲がったネギ君にしてしまったタカミチには、厳罰が必要だろう。

 しかし、ネギ君の魔力暴走をマトモに喰らってピンピンしているタカミチに……普通の罰が効くのだろうか?

 

 一抹の不安を抱えながら、ネギ・スプリングフィールドの夢の世界から脱出した……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 どうやら精神はネギ君の夢の中だったが、肉体は外で眠りについていたみたいだ……仲良くエヴァと並んで眠っていた。

 途中から手を握っていた為に、有らぬ疑いを持たれたみたいだが……

 

「クソ野郎!ジジィの分際で、マスターとオテテ繋いで仲良く昼寝ですか?そうなんですか?死にますか?」

 

 茶々丸さんが、静かに暴走してました!無表情だけど、怒りを理解出来てしまうプレッシャー!

 背後に何か、どす黒い物が渦巻いているのが見えるのです……正直、怖くなり土下座をしてしまった。

 

「良くは分からんが、兎に角すまんかったです」

 

 なまじ起きがけに、エヴァが真っ赤になって手を振り解くから……余計にややこしい状況だ。

 しかしエヴァは、長年待っていて迎えに来てくれなかったナギ・スプリングフィールドを思い出したのだろう……

 此方の騒ぎも上の空で、少し沈んでいる様な気がします。

 確かに長年迎えに来るのを待っていた、ナギそっくりのネギ君を見てしまったんだ。

 気持ちも乱れるだろう……彼女は暫く放っておいて、律儀に待っていた明石教授達に夢の中の出来事を報告する……

 如何にしてタカミチが、ネギ君に悪影響を与えたか!

 

 それを正確にジェスチャーを交えながら……

 

「なっ!高畑先生が?スチュワート大佐ばりのヌーディストパフォーマンスですか?

チクショー!そんなに肉体を見せ付けたいのか、あのヒゲ野郎!」

 

「ケツから瓶?何ですか、その変態マジックは?僕ならもっと上手く瓶を出せます!例えば、脇の下からとか口の中からとか……」

 

「ナギ・スプリングフィールドと瓜二つ?流石は息子と言う事か……だからこそ、彼をマトモに育てなければならないですね。

学園長、頑張りましょう!」

 

 アレ、アレレ?誰とは言わないが、マトモな反応をしてくれたのは1人だけ?

 魔法関係者の中でも、比較的マトモな連中を呼んだ筈なのに……マトモな反応が1人だけ?

 

 チクショー……

 

 関東魔法協会には、西洋魔法使いは、変態ばっかりじゃねーか!

 

「兎に角、ネギ君の忌まわしい記憶をガッツリ消去じゃ!それは……全盛期の力を取り戻したエヴァにやって貰うぞ。皆も異存はないな?」

 

 魔法先生方を見回しながら宣言する!中途半端な威力じゃ駄目だ!力一杯、変態タカミチの記憶を消してやる。

 

「闇の福音に、英雄の息子に魔法を掛けさせるのですか?確かに我々では、魔力が異常に高いネギ君に何処まで干渉出来るかは……」

 

「私は異存は有りませんが……果たして、他の先生方が……」

 

「いや、今消さないと取り返しが付かない!やりましょう、学園長」

 

 今回の回答はマトモだ……良かった。西洋魔法使いも捨てたもんじゃないね!

 

「エヴァ!エヴァよ、話はついた。

ネギ君の記憶を……変態タカミチの存在を頭の中から、綺麗サッパリ消して欲しいのじゃ」

 

 ボーっとしていたエヴァに話を振る……

 

「ん?ああ、タカミチを殺るのか?極大氷結呪文を喰らわせれは良いのか?」

 

 ぼんやりと、しかしトンでもない事をボソリと言う洋ロリ……

 

「違うぞ!

夢の中でも頼んだが、ネギ君の記憶を消すんじゃ!タカミチとの山籠もりの3日間の記憶を全て消去じゃ。

ネギ君には……その後で病院に連れて行って入院させる。目が覚めたら、こう説明するつもりじゃ!

前々からタカミチはロリコンと言う心の病だったが、ショタコンも併発してしまった……

彼に襲われたネギ君が、魔力を暴走させて彼を撃退!

しかし同時に彼の居合拳を受けて昏倒。直ぐに入院させたが、今まで目を覚まさなかった……そしてずっと魘されていた、とな!

ネギ君は、良く言えば素直。悪く言えば世間知らずじゃ!周りが皆、同じ事を言えば信じるじゃろ?

タカミチの戯れ言も信じたんじゃ。

それと……今後のネギ君の修行は、儂が監督する!周りには任せられん。

ネギ君には、普通に魔力制御を学んで貰い……そしてイギリスに送り返す。儂の最後の仕事じゃ……」

 

 押しの弱い彼らでは、暴走タカミチは止められない。あの変態は諦めていない。

 必ずまたネギ君に接触するだろう……彼は自分の洗脳が成功していると思っているからね。

 皆が頷くのを確認し、エヴァに頼む。

 

「では、ネギ君の記憶消去は頼んだぞ。

それと儂は入院の手配や、関係各所に今回の件の根回しをするので一旦外に出るが、明石教授らは立ち会いと確認を頼みますぞ!」

 

 そう言い含めて、一旦廊下に出る。明石教授達を同席させるのは、連帯責任を意識させる為だ……

 

「私は知りませんでした!エヴァが、学園長が勝手に!」

 

 なんて言わないと思うが、念の為です。早速携帯で、魔法関係者が運営する病院に連絡を入れる……

 医師から更に説明をして貰えれば、ネギ君も疑わないだろうから。

 それと他にも目撃者を用意しておくか……などと考えていたら、先方と電話が繋がった。

 

「もしもし……儂じゃ。ちと頼み事が有るのじゃが……我らの存続に関する大問題じゃよ。実はな……」

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 あれからネギ君の入院手配や、まだ彼に知られていない魔法関係者に目撃者で有る事を頼み終えた……

 やれやれと廊下の手摺に捕まり外を見る。すっかり夜も更けている……見渡す限り洋風な建設物の窓から灯りが見える。

 

 綺麗な夜景だ……

 

 ネギ君の件は問題無いだろう。入院後、明日にでも目が覚めて医師の説明を聞いた後で儂が更に現状の説明をすれば……

 幾らネギ君でも疑わないだろう。

 念の為、今夜タカミチの襲撃に備えて人員は配置しておくかな……

 

 

 

 麻帆良には学園都市としての機能が充実している。

 医療や科学の分野では、他の追従を許さない程に進みすぎている。

 茶々丸を見れば分かると言うものだ……その関連の病院に、ネギ君を入院させている。

 

 あの後、エヴァが「喰らえ、小僧!こ・れ・が・私の……全力全開だー!」とか騒いでいたが、精密な記憶の消去を完璧に行っていた。

 

 エヴァはノリノリで楽しそうだったな。まぁあの奇天烈な体験を忘れる為にも、ハッチャケたんだろう……

 ネギ君には悪いが、3日間の記憶は何も無い。綺麗なままのネギ君に戻ったのだ!

 そんなネギ君だが、先ほど魔法関係者が経営する病院から連絡が有った。

 

 ネギ君が目覚めたようだ。

 

 医師から嘘の状況説明を聞いたネギ君は……少し混乱したみたいだが、概ね納得したようだ。

 やはり第三者的な立場で、社会的地位もそれなりな医師からの話には説得力が有ったのだろう。

 その後に、詳細な嘘の出来事を刷り込んでゆく……悪夢のタカミチワールドは綺麗サッパリ消えたのだ!

 タカミチは、事実を知った魔法関係者一同で袋叩きにした。

 いくら紅い翼の一員とはいえ、目の反転した刀子さんの狂刃やシスターシャクティの遠慮ない神の裁き……その他の連中が一斉に襲い掛かったのだ!

 

 無傷な訳が無いじゃないか。

 

 しかし、現実は……驚くべき事に、効果は全く無かったのだ!のらりくらりと避けては、腐り輝く笑顔で此方を嘲るのだ!

 

 正直、イラッとした。

 

 最後はエヴァの全力全開で氷柱にしてやった!これなら流石に効いただろう。

 何とか溜飲を下げたのたが……ヤツは、不思議な位にあっさり回復。

 皆の胸の中に、モヤモヤとした敗北感が広がってしまったのだ……

 しかし元々公開出来る情報では無いなでに、お仕置きはそれ迄とし中東の武装勢力の鎮圧に向かわせた。暫くは大丈夫だろう。

 

 だと思うが……大丈夫だと思いたい。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 報告を受けてから、件の病院に急行した。流石は麻帆良学園から援助を受けているだけあり、立派な病院だ。

 中に入ると、仄かな消毒液の香りがする……幾つになっても病院は苦手だなぁ。

 特に歯医者は大嫌いだったよ。あの歯を削る音とか、最悪の思い出が蘇りそうだ……

 

 だがしかし、今はそんな感傷に浸る場合では無い!

 

 総合受付カウンターに向かい、ネギ・スプリングフィールドの関係者だと伝え病室を確認する。

 

「ネギ・スプリングフィールド君の日本での保護者じゃが……彼の病室はどこじゃ?」

 

 お見舞い用の名簿に記帳しながら訪ねる。受付のお姉さんは、チラリと記帳した名前を見ると……多分連絡は入っているのだろう。

 

「近衛さんですね?ネギ・スプリングフィールドさんはA棟の8階、個室です。8階のナースステーションで訪ねて下さい」

 

「有難う御座いますじゃ」

 

 そう言ってエレベーターホールに向かう……言われた通りに8階に付くと、ナースステーションに向かう。

 中で書き物をしていた看護士さんに声を掛ける。

 

「すみません。ネギ・スプリングフィールド君の保護者ですが、彼の病室はどこかの?」

 

「ああ、あの子供の保護者の方ですか?あら……近衛さんじゃないですか?あれから体調はどうですか?」

 

 ん?良く見れば、僕が爺さんとして目覚めた時に対応してくれた看護士さんだ!

 

「おお……その節はお世話になりもうした。お陰様で体調は良いですぞ。して、ネギ君は何処の部屋ですかの?」

 

 彼女は思い出す様に首を傾げる。

 

「ネギさんは827号室です。この先を進んで突き当たりを左、3つ目の部屋ですよ」

 

 丁寧に道順を教えてくれた彼女にお辞儀をして、ネギ君の部屋に向かう……教えて貰った道順を進み、827号室の前に着いた。

 確か僕も、このフロアの個室だったな。ドアをノックしてから中に入る……

 

「邪魔するぞ……ネギ君、体の調子はどうじゃ?」

 

 ベッドの上に座り、ボーっと窓の外を見ているネギ君に声を掛ける。彼は此方を向いてペコリと頭を下げてくれる……

 

「学園長、わざわざ有難う御座います。何か酷い目に有ったらしく記憶が……先生のお話では、記憶の混乱が有ると。

ショックにより寝込んでいた為に、ここ3日間の記憶が無いんです」

 

 ヨシヨシ。

 

 流石に病院で目覚め、医師から説明されれは信じるよね。彼は自分の置かれた立場が良く分からないのだろう……ただ、ボーっとしていた。

 

「ネギ君……入院したと聞いて驚いておったが、体調は良さそうじゃの」

 

「はい。痛い所も有りません……先生も、もう平気だって言ってました」

 

 少しボーっとしてるけど、受け答えは普通だ。後はネギ君が、何処まで覚えているかだけど。

 確認しないと先に進めないよね。備え付けてある椅子に座る……目線がネギ君と一緒くらいになった。

 

「ネギ君……何が有ったのじゃ?何か覚えているかの?」

 

 ネギ君は、少し考える様な仕草をして

 

「僕は……三日前に授業を終えて、職員室で明日の授業の準備を終えて帰るまでの。

下駄箱で靴を履き替え様としてからの記憶が……サッパリ思い出せないんです」

 

と、教えてくれた。

 

 つまりタカミチは、帰宅途中のネギ君を学校で拉致ったのか……学校の関係者で、ネギ君とタカミチが一緒だったのを目撃している人が居たかもしれないな。

 これは……ある程度の信憑性を持たせないと駄目かな。

 後でタカミチと会っていたなんて、誰かに教えられたらマズいからね。

 

「ふむ……ネギ君、前に儂がタカミチの病気について話したのを覚えているかの?」

 

 手紙で教えたんだっけ?

 

「うん。タカミチが救いようの無いロリコンで変態だって話だよね?でも更生の可能性を信じて普通に接してあげてって……」

 

 尻つぼみに言葉が濁る。タカミチって名前に、何か反応したのかな?さり気なくネギ君の様子を窺うが、普通だ。

 ヘンなトラウマにはなっていないと良いけど……

 

「ネギ君……君の身に何が有ったのか、教えよう。君は……」

 

 ネギ君には悪いが、嘘を信じて貰おう。「アナタの為だから!」何故か、某CMのフレーズが頭をよぎった……

 正確には、「我々の為だから!」なんだけどね。

 

 

 

 変態タカミチの尻拭いの為に、苦労を強いられてます。

 本来なら、そろそろ木乃香ちゃんやモフモフ羽根娘に巫女装束を着せて撮影会をしたいのに……

 話の流れ的に、ネギ君の修行の面倒を見なければならない感じです。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 エヴァに記憶を消去させ、魔法で寝かせたネギ君を入院させました。

 目が覚めた所で、医師に嘘の内容を話して貰った。

 後は僕が肉付けをしたストーリーを説明すれば、タカミチから受けたセクハラは何とかなるだろう……

 

「知らない方が幸せなんだよ!」とは名言だね。

 

 全く10歳児に背負わせるトラウマにしては酷すぎる。最も僕だってネギ君の五割増ししか生きてないけど…… 

 爺さんの記憶と混じり合って、随分と長く生きてる様な感覚も有るんだ。

 既に僕と爺さんの記憶と肉体は……融合しちゃったんだろうな。

 

 さて、目の前でベッドにボーっと座っているネギ君の為に、捏造したストーリーを説明するかな。

 

「ネギ君や……」

 

 声を掛けると、漸く彼が此方を意識したのか首を向けてきた。

 

「……何ですか?」

 

 微妙に反応が悪いのは、記憶消去の影響だろうか?

 

「先ずはスマンと謝っておく。本当に済まんかった……儂らはタカミチを、タカミチの変態度を甘くみていたんじゃ。

究極ペド野郎を……アレでも大戦の英雄の一員じゃからな。

何とか真っ当な性癖にしようと頑張ったのじゃが……アレは我々では荷が重かったのじゃ」

 

 ネギ君は、いきなり謝られて驚いている。目を見張り、漸く何時ものネギ君らしい表情になってきた!

 

「タカミチが?でもタカミチは父さんと同じ英雄なんだよね?それが、何故そんな風に言われるの?」

 

 ネギ君は……ナギと共に活動した彼らを無条件で素晴らしい人々と思ってる?

 

「凄い活躍をしたお父さんの仲間なんだもん!きっと偉いんだ!」

 

 とか?実際の紅い翼の連中は、ロクデナシばかり……いや、曲者ぞろいの通好みばかりだよね?

 

 あんな人達とは、普通なら関わり合いになりたくないと思うけど?魔法関係者からすれば、失礼極まりない事を考えていました!

 あんな記憶に有る人物とは、普通は距離を置かないか?

 又は遠くで見る分には良いけど、リアルにお知り合いはご遠慮したいと思いますが……その思考は一旦、心の棚に置いておこう。

 先ずはネギ君のケアが優先だからね。

 

「ネギ君……人はの、変わっていく生き物なのじゃ。当初、儂もエヴァに発情する彼をペドなロリコン野郎と考えていた。

彼も良い年じゃし、早く相応な娘さんと一緒になり落ち着く頃じゃと……

しかし、タカミチは悉く見合いを断りおった。つまり、普通の娘さんは用無しで幼女を寄越せって事じゃな」

 

 酷い捏造だ!しかし、タカミチの女性の好みは分からない。アレでも大戦の変態の一員だし、強さは本物。

 見た目もイケメンだから、真面目に探せば美人の嫁さんを貰えた筈なんだよね。

 それを何故、頑なに結婚しなかったのか?やはりロリコンと言うのは、的を得ていたのかな?

 

「タカミチも……僕と同じで、女の人が怖いのかな?」

 

 何やら見当違いと言うか、善意の意見を貰いました。怖いのでなくて「嫌い」かな……その前に「幼女以外」が付きそうだけど。

 

「いや……タカミチはの……幼い女の子が大好きで、育ち過ぎた女性は嫌いだったんじゃよ。人としての存在が危険な人物じゃな……」

 

 色恋事には、多分まだ目覚めてないネギ君には理解が難しい話だよね。イマイチ分からない顔をしているし……

 

「僕には、難しくて分かりません。でもタカミチが幼い女の子を好きなのは分かりました。

アーニャとか紹介すれば、仲良くしてくれるかな?ネカネお姉ちゃんは、嫌いなのかな?」

 

 この子は……あのド変態に幼なじみのアーニャちゃんや、姉と慕うネカネさんを紹介するつもりなのか?

 

「ネギ君……タカミチに女性を紹介しても無駄なのじゃよ。

彼は幼女を突き抜けて、少年が好きになってしまったのじゃ……この場合の好きとは、ネギ君を電車で襲った女性達の好きと同じじゃよ。

だからネギ君は、魔力を暴走させて……襲い掛かったタカミチを撃退したのじゃ。そして……

此処からは憶測じゃが、彼に襲われた恐怖で記憶が混乱ないし、嫌な記憶を自分で消した可能性が有るんじゃ。

それは……体が精神を守る為に行った行動じゃろう」

 

「襲われた……僕が?タカミチに?何故ですか、学園長?タカミチが、僕を襲うなんて……だってタカミチは、父さんの仲間だったんだよ!」

 

 盲信……自分の父親に対して、変な理想を持ってるのか?

 父親の仲間なら何をやっても正しい?身近で父親に接していれば、理想と現実の差を少しは感じるのに……

 ネギ君は、父親の……ナギの事を周りの情報からしか知らない。

 英雄、英雄と崇める奴らからしか……後は村が襲撃された時に、悪魔・魔物を薙ぎ払い彼を助けたヒーローだ!

 

 だからなのかな?彼の歪さは……ネギ君は、何処か壊れている。

 まなじ才能が有り努力家で、性格も真面目そうだ。しかも英雄の息子……何時か壊れるか弾けるかも知れないね。

 まぁそれは魔法関係者と本人の問題だからね!引き籠もり予定の僕には関係無いや。

 此方を不審そうに見ているネギ君に、駄目押しをしよう。

 

「タカミチ君は……ネギ君の様なショタ……いや、少年が大好きなんじゃよ。日本に来てサブカルチャーにハマってしまっての。

初めて麻帆良学園に来る途中で、電車でネギ君を襲った連中と同じなんじゃ。もう、遅すぎたんじゃ……腐ってるんじゃよ」

 

「あっあの女の人達と同じ病気何ですか?だってタカミチは男だし、僕も男ですよ?」

 

 未だに信じられないのか?此方の言葉に、否定しかしないな……

 

「日本ではの……受け・攻め・ボーイズラブ・萌え・擬人化と言う不思議な文化が有るんじゃよ。

そこでは不思議な掛け算をして、男同士や男と物までも恋愛感情が有るそうじゃ……魔法世界で言う「禁書」じゃな。

アレも危険じゃから、読むのも研究するのも禁止じゃろ?しかしタカミチは、その危険な書物を紐解いてしまった……

分かるね、ネギ君?タカミチには近付いてはいけないぞ!」

 

「禁書……あの女の人達は、文化の暗黒面に墜ちたの?僕は、そんな人達に狙われてるの……」

 

 アレ?目の焦点が合わず、ガクガク震えだしたよ……アチャー……ヤベェ、失敗したか?

 

 

 

 病的な迄に、周りから英雄と称えられる父親を盲信する子供……魔法関係者から見れば、理想的に成長しているのだろう。

 

 時代を担う英雄に!

 

 ナギが亡くなった後、周りの期待と希望が集まるのは本人が望むと望まないと生涯付いて回る。

 それを完全に断ち切るのには、相当な覚悟と努力が居るだろう……ネギ・スプリングフィールドは、何処か歪んでいる。

 本人のせいでは無く、周りの接し方に問題が合ったのは確かだ!

 父親を慕い、周りの期待に応え、そして歪んでしまった天才少年。

 僕が感じたネギ・スプリングフィールドとは、そんな少年だ……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 タカミチには悪いが、一方的にロリペドのショタ変態に仕上げた。

 しかし、ネギ君は英雄たる父親の仲間なんだから……そんな感じで、イマイチ彼の危険性を感じていないみたいだ。

 これ以上、ごり押ししても無意味で逆効果だね。

 ベッドでヤバい感じにガクガクしているネギ君には、今日の所は言う事はもう何も無いな。

 てか、これ以上言うと更に壊れそうです……現在進行形でヤバい独り言が始まってます。

 つまり誘導を失敗してしまった訳ですね?ごめんね、ネギ君。

 

「ネギ君や……今日はゆっくりと休むが良いじゃろう。

明日、退院出来る様に手続きをしておく。それと迎えを寄越すから、そのまま儂の家まで来るんじゃ。

では明日……」

 

 ブツブツと聞き取れない声で囁いているネギ君をそっとベッドに横にする。

 

「この病院は安全じゃ。誰もネギ君を傷付けない……分かるね、ネギ君や?此処は安全じゃ。

儂もネギ君の味方じゃ。だから安心して休んで良いぞ。

さぁ、少し横になって眠った方が良かろう。軽い眠りの魔法をかけるぞ。良いな?」

 

 僕の手を握りながら頷くネギ君……彼の額にもう片方の手を添えて、眠りの魔法をかける。

 少ししてネギ君は、安らかな寝息をたてながら眠りに付いた……

 タカミチの変態修行を消去したら、大元の女性恐怖症を刺激してしまったか?

 早急にネギ君の育成計画を練り直す必要が有るね。短期詰め込みで、とっととイギリスへ……は、無理だ。

 ちゃんと最低限の修行と言うか、心のケアはしなけれはならない。

 

 さて、どうするかな?

 

 困った時のエヴァえもんと茶々えもんに相談するか……最近、彼女達も僕に対して大分軟化してくれたし。

 魔法制御の良い修行方法を知っているかも……彼女達の直接の指導は無理だが、又聞きでも効果は有ると思う。

 なんたって600年の研鑽は伊達じゃない。

 吸血鬼の真祖と言うのを差し引いても、彼女は優れた魔法使いだからね。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 関西から帰宅して、漸く落ち着いて自宅で寛げるよ……そう思いながら、送迎の車の中で後部座席に埋もれながらコメカミを揉む。

 

「疲れた……本当に疲れたよ……何故、エヴァえもんが車に居るのかを突っ込まない位に燃え尽きたんだ……あと五分、寝かせて下さい……」

 

 現実逃避をさせて下さい。

 

「起きんか、ジジィ!寝たら死ぬぞ?戯言で無く、氷柱になって明日の朝刊を飾りたいか?ええぃ起きんか?

それにエヴァえもんって何なんだ?私は未来の青狸とは違うぞ?おい、起きんかジジィ!」

 

 ユサユサと体が揺すられる。どうやら夢では無く、現実だったのか……

 ゆっくりと瞼を開くと、エヴァえもんが詠唱に入っていた……

 

 詠唱?

 

「わー、待て待つんじゃ?起きたから!物騒な呪文の詠唱は止めんか!」

 

 エヴァさん、その詠唱ってタカミチを氷柱にした極大氷結呪文だよね?

 僕は見掛けは人間離れしてるけど、タカミチみたいに人間を止めてないから!普通に、そんな呪文を受けたら死にますから!

 

「ふん!だったら早く起きろ。車に同乗しているのに、何も反応が無いなんて酷い扱い方だぞ!」

 

 妙にプンプン怒ってるのは、無視されたから?

 大きめな後部座席のソファーに、仰け反りながら座るエヴァに備え付けの冷蔵庫からジュースを渡す。

 濃縮還元100%のオレンジジュースだ……

 

「ジジィ……私を子供扱いするな!まぁ頂くがな」

 

 プルタブを開けて渡すと、ぞんざいに受け取りながらも、コクコクと飲み始めた……小動物みたいで癒やされますね。

 自分は缶コーヒーを取り出して飲む。流石にコーラは用意されていないから、残念……しかし車内に冷蔵庫って良いよね!

 

 ブルジョア万歳だ。

 

「ジジィ……小僧の様子はどうだった?私の記憶消去は完璧だったろう?」

 

 前を見ながら、しかし当たり前だろう的に言ってくれました。確かに記憶消去は完璧だった。

 しかし、僕の不用意な対応で大分ヤバい精神状況になっちゃったけど……

 

「ああ、完璧じゃったよ。しかし……ネギ君には、タカミチは劇薬だったのだろう。

彼の変態振りを教え込んだら、何故かトラウマの女性恐怖症に飛び火してな……今は、結構ヤバい精神状態じゃ」

 

 ふぉふぉふぉと、笑いながら誤魔化す……

 

「あほかー!ジジィ、何をやってるんだ?あんなガキでも魔法世界の重要人物だろ。

ヤバい事にならないだろうな?今の時期でジジィが失脚など笑えんぞ。

それにいい加減、あのぬるま湯に漬かった小僧を見るのも業腹だ!とっととイギリスへ送り返せ」

 

 後頭部をスパーンと叩かれました!手加減はしてくれてるだろうけど、痛い。一瞬だけど星が散ったよ!

 

 ああ、涙が出てきた……

 

「エヴァよ……老い先短い老人に暴力を振るうとは!何てドメスティックなロリだ。

ロリでSは需要が有るらしいが、儂はノーサンキューじゃ!

儂にも癒やしが欲しい。フカフカでモフモフな癒やしが欲しいんじゃ」

 

 ああ、前の暮らしで戯れていたアヒルのガー吉のお尻周りのフカフカを撫で捲りたい!

 ワサワサと、あのお尻を触る様に手を動かす。そうだ!アヒルを飼おう。そして癒やしのモコモコを……

 

「こんの、エロジジィがー!放さんか変態ジジィ」

 

 オゥ!酷い衝撃を受けて、また大量の星が散ったぞ。

 

「いっ痛い、痛いぞエヴァよ……もうホント、勘弁して下さい……」

 

 どうやらエヴァの脇腹を撫でくり回していたみたいです。

 衣服を乱して、真っ赤になって握り拳を振り上げるエヴァは……誰が見ても性犯罪の被害者だった。

 

「正直スマンです……反省しています」

 

 車内なので土下座は出来ないが、精一杯頭を下げさせて頂きました。

 

 


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