僕は麻帆良のぬらりひょん!   作:Amber bird
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最終話

 関東魔法協会に所属する魔法使いの総本山。

 麻帆良学園都市の学園長を辞してから2週間が経った……木乃香ちゃんと刹那君、エヴァと茶々丸にチャチャゼロ、おまけの刀子先生と天ヶ崎さん。

 知らない内に、何故かウチの所属になっていた天ヶ崎さんはブーブー言って働きません。

 あの後、ネギ君をイギリスに送り返してから関西に戻った。近衛一族の本家は、神鳴流総本山の近くに有る。

 僕こと近衛近右衛門は、近衛本家のトップだから本家に居を構えた。

 

 何故か食客?

 

 扱いでエヴァ一行が一緒に居ます。勿論、護衛として彼女達の存在は大歓迎です!

 木乃香ちゃんも刹那君も一緒に住んでいます。刀子先生も、いや今は刀子さんですが入り浸りです……

 

 我が一族の若手とのお見合いは順調ですし、刹那君と一緒に居て貰った方が、2人の立場的にも良い事ですから。

 少しずつ関西の連中と馴染んで欲しいものです。しかし彼女は年内に近衛姓となり、我が一族の末席に収まりそうですね。

 

 彼女と彼女の友好関係を取り込めるのは、僕にとって大きなメリットだ!

 特に青山の鶴子さんとか、鶴子さんとか……あの刃物キチガイの一族を取り込めるなら安いものだ。

 

 刃物で会話する様な連中と交渉するのは大変だからなぁ……そんなこんなで、問題は多いけど毎日が充実しています。

 例えば毎朝、美女・美少女と一緒に食事とか。昼食と夕食は全員は無理だけど、前みたいに一人で食べる味気なさは無い。

 あと、エヴァと連日夜桜を見に京都各所に出向いた。

 有名な哲学の小道や下鴨半木の道をそぞろ歩いたり、円山公園などでドンチャン騒ぎをしたり……

 こんなに楽しく過ごしたのは、此方の世界に来てから初めてだった。

 

 詠春さんとの巫女さん巡りも順調に進んでいる。

 しかし僕は真面目に交渉してから写真を写すのに、詠春さんは気配が消えたと思えばベストショットを撮りやがる。

 これが盗撮特化型の英雄詠春の実力か……詠春さん、恐ろしい漢。

 既に2人で200人以上の巫女さんの姿を収めた……ゴールデンウイークには京都府全域の巫女さんMAP及び写真集を出版出来ると思う勢いだよ!

 

 

 でも一つ……一つだけ、麻帆良に心残りが有るんだ……

 

 相坂さよちゃん。

 

 彼女を麻帆良に、残してきてしまった……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 近衛本家も平安時代から続く名家だ。京都府内に広い屋敷を構えるだけでも分かるだろう。

 庭には池が有り、辺には桜が満開!月明かりに照らされた水面には、桜の花びらが浮いている幻想的な空間だ。

 屋敷の縁側に座り、庭を眺めて独り酒。茶々丸謹製の摘みに、爺さん秘蔵の日本酒。

 茶々丸さんは、すっかりウチの女中頭というか……女性従業員の取り纏め役に収まった茶々丸さんが作ってくれた3段のお重を摘みに独りで呑む。

 和の惣菜で纏められた料理は、流石というか旨い。

 京都に来てから此方の料理を学んでいるらしいです。

 彼女は人をエヴァを取り巻く人々の世話をする事に、喜びを見出しているみたいに感じます。

 茶々丸は戦闘人形でなく、エヴァの世話好きなお姉さんなんだろうね。

 すっかり慣れた飲酒癖、今夜は「純米吟醸山田錦」を一升瓶から直接コップに注いでいる。

 

 しかし全然酔わない……

 

 相坂さんの笑顔を思い浮かべると、心の奥がギシギシと痛む。

 あれから色々と調べたり爺さんの記憶を探したんだけど、彼女は密室連続殺人事件の被害者だった。

 事件は未解決で、既に60年も前だから時効だ……彼女も何故自分が麻帆良に居るのか分からないみたいだったし。

 地縛霊とも考えられるし、麻帆良学園に括られているとも考えられる。

 彼女は、このまま麻帆良に居ても幸せなのだろうか?それとも成仏した方が良いのかな?

 僕は、この姿でなく魔法薬で若返った姿で相坂さんと会っていたから……だから僕は、関西に戻る事を彼女に伝えられなかった。

 彼女と仲良くしていたのは、実は若返った近衛近右衛門本人だったって嘘がバレるのが怖かった。

 普段なら美味しいと感じるお酒を煽るが、ちっとも楽しくないんだ。

 

「相坂さんは、まだ麻帆良で夜の教室やコンビにの前に居るのだろうか?」

 

 日本酒を煽りポツリと零す……

 

「何が居るのだ、ジジィ?」

 

 気が付けば、エヴァが切子細工のコップだけ持って隣に座って居た。日本びいきのエヴァは、京都に着てから着物ばかりを着ている。

 金髪碧眼和装幼女は、巷で噂になりつつある。オタクが喜ぶ都市伝説だ!

 

 そんな彼女が無言で差し出すグラスは……

 

「コレって秘蔵の江戸切子じゃない?」

 

 爺さんのコレクションの中に有って、価値は知らないけど綺麗だなとは思っていた奴だ。

 チシャ猫の様にニカッと笑う彼女に「純米吟醸山田錦」を注ぐ……クピっと小さな口で呑んでから

 

「なに……道具は使われてこそ、その存在価値が発揮されるんだよ」

 

 そう言って、懐から僕用の江戸切子を差し出す。自分のグラスの酒を飲み干し、差し出された切子を受け取る。

 小さい癖に、片手で一升瓶を軽々と持ち上げ僕の切子に注いでくれる……2人で縁側に座り、夜桜を見ながら黙々と酒を飲む。

 

「なぁジジィ……」

 

「なんじゃ?」

 

 酔わないと思っていても量を飲めば酩酊感が……

 

「私は今、幸せだ……此処には自分の居場所が有る。自由で束縛されず、殺伐もしていない。吸血鬼が求めてはいけない世界だな」

 

 チラリと盗み見るエヴァの表情からは、何を考えているかは分からない。

 

「何でもない日常か?しかし吸血鬼だから、妖怪ぬらりひょんだから、幸せになっては駄目とは限らんじゃろ?」

 

 エヴァの切子に酒を注ぐ……黙って半分位、飲み干す幼女。どんだけ酒が強いんだ!

 

「千人単位の人殺しが私だよ。例えそれが正当防衛でもな」

 

「エヴァの過去など興味ないのう……今、儂の近くに居てくれる。それだけで満足じゃよ」

 

 600年の重みは、たかだか15年の僕には分からない。でも今のエヴァなら、全然オッケーだ!

 

「ふん!貴様が老衰でくたばる迄は居てやるよ」

 

 あと10年くらいかな?死因は老衰で、畳の上で死にたいね……

 

「ふぉふぉふぉ……精々長生きするつもりじゃよ。なに、エヴァにも遺産分配する様に遺言書を残して逝くから心配するでない」

 

 詠春さんに木乃香ちゃん、それとエヴァに遺産を残すつもりだ……

 

「ふん!口の減らないジジィめ……で?相坂とは、相坂さよの事か?」

 

 どうやら独り言を聞いていたらしい……エヴァは相坂さんの事を知っているのかな?

 

 

 

 自宅の庭で池に映る桜を摘みに洋ロリと呑む。既に「純米吟醸山田錦」は飲み終わり、「久保田の万寿」を開けた。

 

 ヤバいなぁ……

 

 殆ど一升瓶を独りで呑んでしまったよ。思考能力が危うい程に低下してる……ああ、でも懺悔するには良いのかな?

 隣に座る洋ロリに、心に残るジクジクを話す。

 

「エヴァよ……相坂さよを知ってたのか?」

 

 この洋ロリは、酒に酔う事が無いのか?僕が注いだ日本酒を早いピッチで呑んでいる。

 

「タカミチが持っていた出席簿にも書いてあったぞ。それに何年も同じ教室に居たんだからな。

気付いてはいたが、波長が合わせ辛いのか……その存在を確認していただけだ」

 

 僕はしっかりと会話出来たのに……何か理由が有るのかな?

 

「儂は……彼女を知っていながら、麻帆良に残して関西に来てしまったのじゃよ。

彼女とは最近、やっと会話が出来る様になっていたのに……」

 

 魔法薬で若返った、偽りの体でね……

 

「ふん!麻帆良に残してきた女の事で、鬱ぎ込んだのか?随分と遅い春だな」

 

 エヴァさん、少し不機嫌ですか?お酒のピッチが上がりましたよ。

 それに、ソレは僕の取っておいた若鮎の佃煮……その、う巻きも僕の……ああ食べ散らかさないで!

 

 口の周りを出汁でベタベタにしたエヴァにハンカチを差し出す。

 

 茶々丸謹製のお重の二段目迄無くなりましたよ。あっこら、勝手に三段目に突入しない!

 結局、ベタベタな口の周りは僕が拭きました。

 

 この洋ロリは「んーんー、ご苦労!ほら、注がんか」とか胡座をかいてコップを突き出してくるし……

 

 ヴァって酒乱か絡み酒だな。

 

「飲み過ぎじゃぞ……」

 

 そう言ってコップの八割位に日本酒を注ぐ。そして自分のコップにも……

 

「それで?どうするんだ?」

 

 どうする?僕はどうしたいんだ?彼女に事実を知らせるのは怖い。それは本当の僕ではなく、爺さんでも無い。

 偽りの姿で会っていた事を知られるのが怖いんだ……

 

「エヴァよ……相坂さよは……儂がまだ学生だった60年前の同級生じゃ。

記憶が定かでは無いのじゃが、当時世間を騒がせた密室連続殺人事件の被害者が彼女じゃよ。

結局事件は未解決で時効……儂も記憶の片隅に押し込んでいた事じゃ」

 

 多分だが爺さんの初恋の相手だった。この謀略腹黒の爺さんの記憶の中で、暖かい思い出の相手だったから……

 

「儂は……

自分の死期が近い事を悟り、昔を懐かしむ様に大切にしまっておいた学生服を着たんじゃ。

馬鹿らしいと思うかの?しかし寿命ある人間とは、最後に一番輝いていた頃を思い出すものじゃよ……」

 

 本当は、爺さんの体が嫌で嫌で堪らないから若返りの薬と思い……年齢詐称薬を取り寄せたんだけど、見た目だけの幻術だったんだ。

 

「あの時の学生服プレイの真相か?それが?なんて変態ジジィだ」

 

 僕の精一杯の告白を鮪の粕漬けを食べながら、バッサリ切りやがった!

 

「何だと、エヴァも露出狂いのアダルト下着だったじゃないか!」

 

思わず口調が素になってしまったが、エヴァだってマントの下は大胆な下着姿だったじゃないか!

 

「黙れ黙れ黙れ!あれは闇の眷族としてポピュラーなんだ」

 

 全く普段は着替え中を撮影しようとすれば制裁する癖に、自分から見せるのは良いのかよ?

 

「はぁはぁ……話を戻すぞ。確かに端から見れば、大人気ない行動じゃ。

しかし儂は、昔懐かしい学生服を着て幻術で若返った姿に興奮して……夜の麻帆良へ飛び出したのじゃ」

 

 (若気の至りよのう……)

 

 (いや死にかけジジィだろ?)

 

 心の中の呟きにまで、突っ込みを入れられた!

 

「…………こほん。そんな時じゃ、何と相坂さよから話し掛けてきたんじゃ。

最初は声はすれども姿が見えずじゃったが……こう、目を凝らすと姿が見えたんじゃよ」

 

「ふーん。それで?」

 

 今、盛り上がる途中の話を振ったのに、枝豆をポリポリ食べながら素でふーんとか言われたよ。

 手に持っていたコップを一気に煽る、日本酒は温く人肌になってしまっていた。エヴァが珍しく注いでくれる。

 

「儂は……若かりし頃の姿で、相坂さよに会って……

気が動転していたのか?若いままの彼女に、老いた自分を見られたくなかったのか……

近衛近右衛門本人でなく、孫じゃと嘘をついた。後はズルズルと嘘をつき通したんじゃ」

 

 老いに対する恐れが無い彼女達には分からない感情だろう。

 

 見栄?

 

 いやもっと根本的な気持ちの問題だ。

 

「なんだ。何度も幽霊と逢瀬を重ねたのか?リアルな牡丹灯籠だな」

 

「良く古典的怪談を知っておるの……逢瀬ではなく、ネギ君の愚痴を延々と聞いて貰ったんじゃよ。

随分と気持ちは楽になったぞ。あの時は、本当にストレスが酷くてな」

 

 今思えば、良く胃潰瘍にならなかったと思う。変態タカミチ、刀キチガイ刀子先生。

 頭の固いガンドルフィーニ先生を筆頭にした西洋魔法使いの連中。

 

 暗躍していた超君。

 

 そしてラッキースケベで女性恐怖症のネギ・スプリングフィールド……ため息しか出ないや。

 

「昔の初恋の相手には、老いて醜く変形したカボチャ頭は見せられないか?それで騙して愚痴を聞かせ捲ったのか?」

 

「ひどっ酷いぞエヴァ!儂は、そこまで醜くはないわい!まぁ……概ねは、その通りじゃよ。

儂は関西に帰る事を彼女に一緒に来て欲しいとも言わなんだ。

一緒に来れば嘘がバレる。怖かったんだよ、あの天真爛漫な彼女に嘘がばれるのがさ……」

 

 全てを話たら、何だか気持ちが楽に……ならないで、はっ吐きそうだ!

 

「ぎぼぢばるい……」

 

 思わず、その場に屈み込んでしまう。

 

「ちょジジィ!待て、吐くのか?ここじゃダメだぞ。おい、耐えるんだ……ちゃ茶々丸、来てくれ!ジジィが漏らすぞ」

 

 エヴァが酷い事を騒ぎ出していたが、体はお酒に負けてしまった……何を言われても無理だよ。

 

 ああ、このまま眠りたい……

 

 

 

 翌朝、ちゃんと自室の布団の中で目が覚めた。しかし寝間着には着ておらず、昨夜の倒れたままの格好だ……

 

「頭、頭が割れる様に痛いぞ……これが二日酔いか?」

 

 初めての二日酔いに、もうお酒は飲まないと誓う。頭の上に置いてあった水差しの水をコップに注いで一気に飲む……

 幼女に愚痴を聞かせて、情けない秘密をバラして、酒に酔って醜態を晒してしまった。

 どんな顔でエヴァに会えば良いんだ?しかしズキズキ痛む頭では、解決策など思い浮かばなかった。

 

 

 

 全く独りで煤けて酒を呑んでいるから心配して……

 

 いや、気になって……

 

 いやいや、興味を惹かれて……

 

 いやいやいや、鬱陶しくて……

 

 そう!

 

 鬱陶しいから何を黄昏ているのか聞いてやろうと思った。

 途中で変な雰囲気になったが、老い先短いジジィの為に死ぬまで一緒に居てやると言ってやった。凄い驚いていたな……

 僅か十数年の話だから永遠に生きる私には、ほんの僅かな時間でしかない。

 このぬるま湯の様な生活も、十数年でしかない。しかしジジィは、自分が死んだ後も私の為に遺産を遺すとか言っていた。

 詠春と木乃香に遺せば良いだろうに……気を使い過ぎだと関心してみれば、気を使っている女が居やがった!

 

 相坂さよ……

 

 その存在すら希薄は幽霊は、ジジィの初恋の相手。

 しかも相手は若いままの姿で、自分は年齢詐称薬のお陰で若い頃の姿で出逢ってしまった……

 本来なら感動の再開だが、醜いカボチャ頭を恥ずかしがって本人でなく孫として接したとか。

 

 不条理だな、全く。

 

 しかし、それを悔やんでいるが相坂さよに嘘をついたのがバレるのを恐れて足踏み状態か……前の私だったら放っておいただろう。

 それ所ではない悩みが有ったからな。

 

 登校地獄……

 

 ふざけた名前の呪いだよ。その枷を取り払い自由をくれたジジィには、報わねばならないだろう。

 悪の魔法使い、闇の福音・ドールマスター……数々の悪名を名乗り、千人単位の人殺しの私を……今の私が居れば良いと言ってくれたんだ。

 

 誰からも拒まれ否定され迫害され、危害を加えられて反撃すれば悪と決めつけられた私をだ……

 この私にすがりつきゲロを吐いている汚いジジィだが、何とかしてやるよ。

 

「あっコラ!ドサクサに紛れて太ももを触るなエロジジィ」

 

 思わず後頭部をゴツいてしまった。どうせ明日は二日酔いで頭が痛いだろうから構わないだろう?タンコブの1つ位は……

 

「茶々丸、見てないでこの汚物塗れのジジィを部屋に放り込んでおけ。

私はシャワーを浴びてくる。全く寝ゲロをするわ、触り捲るは……何てジジィだよ、全く」

 

 後は茶々丸に任せれば良い。私は、別荘の書庫で探し物だ。

 地縛霊か浮遊霊かは分からんが、古来より依り代に魂を移す手段は有るのだ。

 魂の核となる物を私の作った人形に閉じ込めれば、或いは麻帆良から連れ出せるかも知れないな。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 マスター……

 

 緊急で呼ばれて見れば、寝ゲロを吐く近衛老を膝に抱きしめて?それは何というプレイなのですか?

 

 汚物プレイ?

 

 私には消化器官が無いので、マスターのお相手は出来ません。なので存分に近衛老でプレイをなさって下さい。

 私は後片付けを請け負いますから……このヘベレケで酔いどれで泥酔した老人を綺麗に介護すれば良いのですね。

 

 分かりました。お任せ下さい。

 

 私はマスターが何処まで堕ちても一緒ですから……例え老人相手の汚物プレイでもバッチコイです!

 

 さて……

 

 先ずは脱がせて服と体を洗い、また着させて布団に放り込んだ方が面白いですね。では、さっさと脱がしましょう。

 近衛近右衛門は、自宅とは言え縁側で全裸にされて風呂まで運ばれて行った。

 当然だが、茶々丸は一連の流れを全て画像として記録している。

 

 ゲロを吐き、幼女に縋る老人……トンでもない脅迫ネタを握った瞬間だった!

 

 これで近衛近右衛門とエヴァ一味の結束は、これまで以上に固まった。後は、このネタを何時のタイミングで使うかだ……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 漸く頭痛がひいてきた……頭部を撫でさすると、瘤が1つ増えている様な?何だろう?

 良く聞く酔っ払って何処かにぶつけたか転んだかしたのかな?

 布団の上に胡座をかき、昨夜の事を思い出す。独りで酒を呑み、相坂さんの事を後悔していた。

 そこへエヴァが来て、なし崩し的に2人で呑んだ。

 

 うん、大丈夫だ。記憶を無くす程は、酔ってないな……

 

 それから、エヴァが相坂さんの事を聞いてきて。酒の力を借りて、エヴァに告白したんだ。

 年齢詐称薬を使い、自分の孫と偽り彼女と会っていたと……

 

 うわぁ!

 

 恥ずかしいなんてもんじゃないぞ、コレは。エヴァに会わせる顔が無いじゃないか!

 

 その後……

 

 その後、何をした?エヴァに、彼女に縋りついて吐いたよね?

 

「…………終わった。儂の人生は、幼女の膝の上で幕を閉じた。悔いも有るが、未練も有る。鬱だ……引き籠もろう」

 

 そう言って布団の中に戻ろうとした時に、ドアが開いて茶々丸さんが入って来た!

 

「近衛老、朝食の準備が整いました。マスターと皆さんがお待ちです。起きて下さい」

 

 無表情だが、無表情なんだが、何かニヤニヤを感じるよ?

 

「茶々丸か……すまぬが二日酔いらしくての。今日はこのまま寝かせてはくれんか?」

 

 ダメ元で聞いてみる……

 

「昨夜はお楽しみでしたね?マスターに呼ばれ後片付けをしたのは私です。さて、近衛老……マスターがお待ちです」

 

 つまり昨夜の事は記録しましたって事?

 

「…………分かりました。起きますです」

 

「では、コレが着替えです。皆さん揃ってますのでお早めに……

それと女性の膝がお好きでしたら、私と姉さんもオッケーですからマスターの負担を減らして下さい」

 

 そう言って、自分の膝を軽く叩いてから出て行った……

 

「…………鬱だ、死のう」

 

 何て言ったけど、死にたくないから足掻いたんだ。恥ずかしいのを我慢して食堂に向かう。

 死刑囚みたいに、足が……足が前に動かないんだけどね。

 

 それに茶々丸さん……

 

 茶々丸さんの膝枕は大歓迎だけど、チャチャゼロはマズいでしょ?幼女人形に縋る老人だと?

 アレは完全に全ての情報を握っているな。この屋敷で一番偉いのは、実は茶々丸さんなのだー!

 

「近衛老、早く支度をして下さい」

 

「はい、分かりました。茶々丸さん……」

 

 

 

 美幼女に縋り、美少女に弱みを握られ、美幼女?人形に慰められる。これ何てプレイ?

 

「ケケケケケ!妹カラ聞イタゼ。偉イ痛イ事ヲ知ラレタジャネーカ。マァ飲メヨ」

 

 あの後、茶々丸さんの呼び出しに急いで食堂に向かえば、木乃香ちゃんと刹那君はお出掛け。

 刀子さんは護衛の為に同行して行った。広い食堂には、少し頬が赤いエヴァとチャチャゼロしか座ってなかった。

 茶々丸さんは給仕として忙しく動いている。

 

 今朝のメニューは……

 

 茶粥と京野菜の炊き合わせだ。完全に二日酔い対策のメニュー。茶々丸さんの労りをヒシヒシと感じます。

 同時に、朝から「純米吟醸山田錦」がテーブルにドンっと置いて有るのは……悪意を感じます。

 

「ホラ、呑メヨジジィ!俺ノ膝枕ハ高イゼ」

 

 ケケケケケっと笑いながら、テーブルの上で胡座をかき、膝を叩くチャチャゼロ。

 何処まで知ってるの?黙々と茶粥を啜るエヴァは、此方を見もしない。

 

「生殺しは止めてくれんか?ズバッと望みを言ってくれ」

 

 周りに人が居ない、このチャンスで話を纏めなければ!ズルズルと引っ張ると、取り返しがつかなくなる気がするんだ。

 レンゲで茶粥を啜る手を止めて、エヴァが僕を見詰めてくる……

 

「…………エヴァさん?」

 

「ジジィ、貴様の家の宝物庫に案内しろ」

 

 直球キター!

 

 爺さんの秘蔵品を根こそぎ狙うんだね?エヴァ、恐ろしい娘……でも現金以外で必要な物なんて分からないから良いか。

 

「分かった……では食事が終わったら案内するぞ」

 

 ああ、何でも良いから貰って下さい。その代わりに、あのネタの画像を渡してくれれば……その日の朝食は、珍しく会話が無かった。

 何時もは賑やかなんだけどね。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 近衛本家の宝物庫。所謂、蔵だ!

 

 ただの蔵ではなく、歴代の当主のみが立ち入りを許される。

 

 他にも幾つか……

 

 現金や金塊がしまってある蔵や、エヴァが昨夜持ち出した一般的な美術品がしまってある蔵も有る。

 だけどエヴァは、魔法関連の品々がしまってある蔵に入りたいと言った。

 記憶に有る防犯システムの解除方法を辿り、蔵の警備を解除していく。呪術的な守りや、機械警備の両方だ。

 最後の扉の鍵を解除して、宝物庫の中に入る。照明を点けてからエヴァを見る。

 

「どれでも好きな物を選んでくれ。何でも構わんぞ」

 

「使える物が有れば良いのだが……」

 

 エヴァは、お宝を前にしては興奮した様子も無く、ブツブツを言いながら棚の端から丁寧に並べられた品物を手に取り吟味している。

 

「これは……ダメだな。これは?いや、邪念がこびり付いている。

アレが取り込まれてしまう……うむ、コレは良いな。でもイマイチなキャパだな……」

 

 何かをブツブツと言いながら探している。

 

「エヴァよ……何を探しているんじゃ?」

 

 エヴァは、候補に上がった2つの品物を見比べている。

 アレは……爺さんの記憶によれば、平安時代の貴族の姫様が愛用していた珊瑚の飾りと……

 もう1つは、江戸時代に造られた御守り用の小刀だ。

 どちらも古美術品としての価値も有るが、長年力ある所有者に大切に扱われていた為に、それ自体が力を帯できた物だ……

 あの手の品物は、魔道具を造る時の核として利用出来る。いわば力の源になる物だから……

 

「ジジィ、これなら……さよの依り代の核として使えそうだそ」

 

 ニカッと刃物を此方に向けない。

 

「えっ、依り代?核じゃと?」

 

「そうだ。魂だけの存在のさよには、核となる物が必要だ。この2つは、多分力有る女性が持っていたんだろう。

まだ自我を持つ迄の力は無いが、その方がさよと融合し易いだろう。どうするんだ?相坂さよを助けるのだろう?」

 

 ああ、エヴァちゃん……有難う。僕は、君が口止め料をせしめる為に宝物庫に来たと勘違いしていた。

 

 うう……嬉しくて膝に力が入らないよ。

 

「こっコラ!また昨日みたいにしがみつくな。ばっバカ、胸に顔を擦りつけるなー!」

 

 ツルペタだって、心が豊かならバインバインと同じ……

 

「誰がツルペタだー!」

 

「こっ心の中を読まないでー!」

 

「だったら離れんかー!このエロジジィめ。茶々丸も見てないで、このエロジジィを放さんかー」

 

 幼女に泣きすがるジジィ……新たな弱みを握った茶々丸は、無表情な彼女らしかなぬニヤリとイヤらしい笑みを浮かべた……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 二日酔いの頭痛に物理的な頭痛が加わった……頭を振って起き上がれば、見慣れた自室だ。

 目の前には……巫女装束に白衣を羽織り、黒縁の伊達メガネをかけたエヴァと茶々丸が!

 

「おぅ!レア画像ゲットじゃ!」

 

 常に幾つか仕込んでいるデジカメでパシャパシャと彼女達を激写する。

 あれ?溜め息をつかれたぞ?

 

「気が済んだら説明を始めるぞ……」

 

「説明?」

 

「相坂さよの事だ!忘れたのか?早く座れ」

 

 ああ、すまんすまんと応接セットに座るエヴァの前に移動する。すかさず茶々丸がお茶を差し出す……

 

「良く聞けよ。一度しか説明はしないからな!」

 

 そう前振りをして、エヴァが相坂さんの救済プランを語り出した……

 

「地縛霊か浮遊霊か良く分からないが、魂だけの存在の彼女を麻帆良から移動させるぬは……誰かに憑かせるか、何かに憑かせるかしかない」

 

 そう言って、珊瑚の飾りと護りの小刀をテーブルに置く。

 

「コレに?」

 

「そうだ。この2つは、長年力有る女性に大切に使われたのだろう。力を帯び始めている。

コレより強い物だと、アレの自我を食い潰すからな。先ずは相坂さよをこのどちらかに憑かせる。

これは相性の問題も有るから、その場にならないと分からない。もしかしたら、この2つでは駄目かもしれん……」

 

 エヴァは真剣そのものだ。きっと彼女の技量を持ってしても、難しいのだろう。

 しかし、エヴァは相坂さよの事を助けようとしてくれている。思わずエヴァの真剣な表情に見とれ……デジカメを取り出し叩かれた!

 

 

 

 真剣な表情で説明するエヴァに思わず見とれる……彼女は相坂さよの事を助けようとしているのが分かる。

 思わず真剣な表情の彼女を写そうとデジカメを出したら叱られた!

 

「持ってるデジカメを全て机に置け!じゃないと説明しないからな!」

 

 そうお怒りの彼女の前に、肌身はなさず持っている3台のデジカメを並べる。両袖と懐に仕込んでいるヤツだ!

 これは超から賄賂として貰った、彼女謹製の逸品。しかし手持ちのデジカメを取り上げられても、何の問題も無いのだ。

 この部屋の防犯カメラはエヴァをちゃんとロックオンしている!画質は劣るが、編集は可能なのだ。

 

 つまり、僕が既に心の中で決めている「巫女服×白衣!説明天使エヴァちゃん!」のアルバム製作には、何の問題も無いのだ。

 

 因みに我が家のお手伝いさんのまとめ役に就任している「我が家の和風メイド、茶々丸さん!」も詠春さんと製作を進めている。

 

 雑巾を絞っている姿や、食器を洗っている姿とか……

 おにぎりを握っている姿や、包丁で惣菜を切る姿等は独身男性のハートを鷲掴みにする筈だ!

 

 家事に勤しむ美少女とは、今までに無い斬新なテーマだと思う。オマケは我が家の猫達と戯れる姿とか、日常の彼女だけの写真集だ!

 

 ただ……

 

 詠春さん曰わく隠し撮りの筈が、全てカメラ目線だったらしいです。

 茶々丸に聞いたら、サーモグラフや足の裏で感じる微弱な振動とかで分かるとか!

 気配を断っても物理的な事で分かるのか……ニヤニヤとエヴァを見ていたが、彼女は気付いてないのだろう。

 

「全く最近少し色気付いてないか?まぁ良い。良く聞けよ。

仮に相坂さよの魂をこれらの品物に憑かせても、定着する迄は数年から数十年は掛かるかもしれん」

 

「そんなに掛かるのか?」

 

 数十年って、僕は死んじゃってるよ!

 

「当たり前だろ!新たな人工生命を最初から生み出すなら……

既に知られた方法が幾つか有る。しかし、既に自我を持つ魂を新たな人工生命に定着させる事は……

不老不死と変わらない事なんだ。私だって、これから別荘を併用して研究しなければならないんだぞ!」

 

 うがーって感じで叱られてしまった。

 

「そうか……仮に成功しても、彼女には会えないのじゃな。すまんな。何十年もエヴァに迷惑を掛けてしまうな」

 

 彼女は、不老不死……だから僕が死んでも相坂さんの為に研究を続けてくれるのだろう。

 

「なぁジジィ……不老不死に興味が有るか?」

 

 キラリと犬歯を覗かせて聞く彼女の本意は?

 

「アレか?吸血鬼になれば、今のままの姿で不老不死か……もう老人の儂では興味が薄いの」

 

 この頭と、この年齢で不老不死は……あと30年若ければ、或いは考えたかもしれない。

 

「本来、不老不死の研究は時間が掛かる。だから私みたいな者が研究するのが望ましい。

しかし……

不老不死の者が、不老不死について研究などはしない。意味が無いからな……」

 

 確かに結果が欲しくて研究するのに、人間の命はたかだか100年未満。これでは不老不死の研究は進まないね。

 誰かに研究成果を譲渡するとか、連綿と研究を続けるとか……

 

「あと30年も若ければ或いは、その申し出を受けたかもしれぬ。しかし年老いた姿での不老不死は……拷問じゃよ」

 

 多分、死を求めると思う。

 

「相坂さよで、魂の存在から人工生命に転写する方法は研究出来る。ジジィが、ジジィが望むなら……

私がジジィが死ぬ前に、若い体を用意して魂を移す事は可能かもしれんぞ」

 

「はぁ?」

 

 なっ何を言ってるんだ?若返る?人工生命?

 

「いや……それは……」

 

「もっ勿論、相坂さよの研究の序でだ!別荘を使っても、5年……いや4年位で成果は出せるだろう。

何なって別荘は普通の24倍だ。100年も研究すれば、多分ジジィを私の下僕にする事が出来るぞ」

 

 ドヤって顔で、無い胸を張られてもな……でも若返る事とは、今の近衛近右衛門の全てを捨てなければならない。

 それは、他の人達との繋がりを断つ事だ……

 

「なっなんだ!私と永遠の時を生きるのは嫌なのか?」

 

 難しい顔で考えていたからか?普段は強気な幼女の、縋る様な目は……

 

「エヴァよ……儂が儂で無くなるのじゃな?このジジィが若返るなど、有ってはならない事。

自然の節理ではな……しかし、儂だって意地汚く生に縋りたいのじゃ。

仮に、仮にじゃ……老衰で大往生するのが儂の望みじゃが、その時に魂を転写出来るのか?」

 

「近衛近右衛門としての生命が閉じた後でか?何故まどろっこしい事を?」

 

 エヴァの両隣に、茶々丸とチャチャゼロが並んでいる……

 

「儂にも絆が有るからの……転生不老不死など、ヤバい事には違いない。

ならば、彼らを巻き込まず絆を断つしか有るまい。だから一度は、近衛近右衛門は死ぬ必要が有るのじゃよ」

 

 公然と、そんな事をしたら大変だ!でも僕は、エヴァの提案に縋りたい……

 

「一度、近衛近右衛門として死に絆を断てば……エヴァと共に長い年月を生きるのも良いじゃろ」

 

 ポンポンとエヴァの頭を叩く……

 

「ふん。精々長生きしろ!一度死んだら私達しか絆は無いのだからな」

 

「近衛老……遂に具体的にマスターを食う計画を?」

 

「ケケケケケ!新シイ体ハ強クシヨウゼ。羽トカ牙トカ付ケヨウゼ!」

 

 エヴァの両隣から危険なセリフを聞いたが、何れは4人で暮らすんだ。我慢しよう……エヴァが抱き付いて来た?

 

「全く口の減らないジジィだが、必ず不老不死の方法は見付けてやるよ」

 

 ポンポンとエヴァの頭を叩く。こんな美幼女に抱きつかれても反応しない体を何とかしてくれるなら……それも良いかな。

 

「マスター……良かった。老人プレイと汚物プレイから卒業ですね?嫌だけど近衛老は、美男子に作り替えねばなりませんね」

 

「ダカラヨー!ヤハリ爪トカ伸ビタリ、火ヲ吐カセヨーゼ」

 

 エヴァ達と行動を共にする為にも、残りの人生で資産を増やさなければ駄目だな……

 それにメガロメセンブリアの連中とも戦える様に、関西呪術協会の力を蓄えなければ。

 せっかくの不老不死が、好ましく無い世界で暮らすなんて嫌だから……エヴァの両脇に手を差し込み、高い高いをする!

 

「なっコラ!放せ、下ろせ、恥ずかしいだろ!」

 

 エヴァを持ち上げて、クルクルと回る。爺さんに憑依した時は、どうかと思ったが、若い肉体がもらえるなら御の字だ!

 

「良かろう!美男子に作るのじゃぞ!牙とか羽とか爪も要らないが、皆を守れる位の力は備えてくれ」

 

「分かった、分かったから下ろさんか!あっコラ、袴が捲れ……茶々丸、ジジィのデジカメで写すなー」

 

 一度目の生は一般市民。

 

 二度目の生は悪の首領。

 

 三度目の生は?美幼女吸血鬼の仲間か……それも良いな!

 

 

 

 麻帆良学園都市……もう二度と来るとは思わなかったのだが、1ヶ月も経たずに来ました!

 感慨深くは……無いですね。

 今回来たのは相坂さんの救出と言うか、折角話せる様になったんだから独りぼっちにせずに一緒に関西へ行こう!と言う自己満足による行動です。

 あれから散々考えましたが、やはり相坂さんには僕が近衛近右衛門本人ではなく孫と言う路線で行きます。

 どの道、エヴァの説明によれば魂を核に定着させるだけで数年から数十年らしいですし……

 多分僕も老衰で大往生するので、相坂さんの覚醒には間に合わない。

 ならば多少の無理は有っても、若返ってから会うのだから良いかなって?

 

 因みに新しい体は、爺さんの若い頃の物を頼みました。

 

 僕の細胞とかを培養すれば、多分遺伝子の関係で似たような姿形になる……と思う。

 エヴァ達は、根性無しとか、卑怯者とか散々言われた……でも恥ずかしいから、それで押し通します!

 因みに麻帆良学園都市への訪問は、僕と茶々丸さんだけです。

 エヴァや刀子さん、勿論詠春さんや天ヶ崎さんは同行しません。

 護衛は茶々丸さんで充分だし、最悪エヴァが影を使った転移魔法で来てくれる段取りだ。

 訪問理由は、麻帆良内で使っていた屋敷の売却と引っ越し。

 

 それと関係各所への挨拶廻り……

 

 急な引退の為に、まだ次の学園長は就任していない。

 本国から来る予定だが、プライドの高い連中だけに旧世界の一学園都市の長とは、左遷か島流しと同義なのかも知れません……

 下手したら、現地採用の代理学園長とかも有りかも?屋敷は科学的、呪術的防御を施していたが全て引き払った。

 広大な敷地の日本家屋……土地単価的には高いが、住居としての用途は低い。何故なら需要が無いから。

 

 多分、解体して別用途の建物が建つだろう。土地の狭い学園都市で、住宅用途だけの土地など無駄だから……

 こんな物は、学園都市のトップだった爺さんのみに許された特権だろう。

 複数の企業が競り合い、ソコソコの価格で売れました!不動産屋で諸々の手続きを済ませたら、後は自由だ……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 滞在しているホテルを抜け出す。

 爺さんのままでは目立つから、部屋で年齢詐称薬を服用し学生服に着替え済みだ。

 キーは茶々丸に預け、フロントに出掛ける旨を伝えて二部屋分を預けて貰う。

 茶々丸さんには、つかず離れずで護衛と監視のチェックだ!

 因みに超には連絡済みの為、無用なチョッカイは無しだ。

 

 先ずは、初めて出会ったコンビニに向かう……居た!前と同じ様にコンビニ前の駐車スペースに。

 

 久し振りに相坂さんに近付いて挨拶する。

 

「今晩は、相坂さん。また少しお話しよう」

 

 そう言って店内に入り、何時もの缶コーヒーを2本買う。店を出る時に「何時もの公園に行こうか?」と声を掛ける。

 

「久し振りだね、近衛君」

 

 そう少し嬉しそうと思うのは、僕の願望だと思うが返事をしてくれた。2人で夜の公園迄、暫しの散歩……

 周りに人気は無いので、端から見れば独り言を言う変な奴と思われずに済む。

 

「ごめんね、暫くこれなくて。一寸、いや色々忙しくてね……」

 

 変態タカミチとか、問題児ネギ君とか……

 

「近衛君……眉間に皺がよってますよ。何か嫌な事でも?」

 

 ああ、彼女は本当に優しい娘なんだな……何時のベンチに着いたので、並んで座る。

 少しだけ冷えた缶コーヒーを開けて、1つを相坂さんの前に置く。

 

「嫌な事って言うか……頭と胃が痛い連中とオサラバ出来てね。ホッとしてるんだ!」

 

 彼女は少し驚いて、だけど「そんな事を言っちゃ駄目ですよ」冗談めかして叱られた……

 

「そうだね。人の悪口はダメだの。まぁ問題児が2人、イギリスに帰ったんだよ。だから、ホッとしたの」

 

「そうですか……イギリスと言うと、近衛君が世話をする事になった人がですか?」

 

 彼女には、ネギ君の事をボカシて愚痴ったっけ?

 

「そう!イケメンの問題児でね。女性問題で随分と苦労したんだよ……」

 

 本当に、苦労したなぁ……

 

「女性問題?それは、いけない人だったんですね……」

 

 珍しく彼女が、眉間に皺を寄せている。ネギ君をナンパか浮気性と思ったのかな?

 

「まぁ……問題は多かったけど、無事に送り返せたんだ」

 

「そうですか。良かったですね」

 

 そう、綺麗な笑みを浮かべてくれた……多分、彼女には邪念は無いのだろう。

 

「それで……僕はお役御免になったんだ。だから、関西に。近衛本家に帰る事になったんだ」

 

 相坂さんは、ハッとこちらを振り向き……僕の顔を正面から見てくれた。普段はベンチに並んで座って話すから、対面での会話は少ないから……

 少し表情が曇っているのは、喜んでも良いのかな?

 

「だっだから、一緒に来てくれないかな?」

 

「それは、寂しくなり……え?」

 

 タイミングが悪く、セリフが被ってしまった。

 

「わっ私は……もう60年も麻帆良に居るのよ。他の土地に移動なんて……」

 

 出来れば、彼女の手を握り締めてお願いしたい。しかし……ベンチに置いている彼女の掌に、自分の掌を乗せでもって素通りだった。

 

「方法は有るんだ!でも、相坂さんが嫌がるなら諦めるよ」

 

「私は……えっ?方法が有るの?」

 

 こんなビックリした彼女は、初めて会った時以来かな?

 

「その前に聞かせて欲しい。僕と関西に一緒に行ってくれる?」

 

 僕のプロポーズとも取れる言葉に、両手で口元を隠しながら驚く!暫く沈黙が流れる……すっかり冷えた缶コーヒーを一気に飲む。

 

 苦いや。

 

「近衛君、私は幽霊だよ。多分、それは憑かれるって事だよ?一生だよ?」

 

 美少女幽霊に憑かれる!男のロマンじゃないか!

 

「勿論オッケーさ!じゃ相坂さんは、僕と一緒に関西に行ってくれるんだね」

 

 真っ赤になって頷いてくれた……ヤベェ、今すぐお持ち帰りしたい。ナニコノ可愛い幽霊!

 

「有難う。相坂さん、近衛一族は平安の時代から現代まで続く呪術を扱う一族。僕もそうなんだよ」

 

 そう言って懐から札を取り出し、簡単に火をおこしてみせる。

 

「えー?近衛君って陰陽師さんなの?」

 

「うん、そうだよ。そして魂を核に憑かせて、擬体に宿す事が出来る。つまり肉体を持たせる事が出来るんだ……」

 

 本当は、エヴァに丸投げなんだけど……

 

「生き返る事が出来るの?」

 

 驚く彼女に、僕はゆっくりと頷く。

 

「そんな大変な事……私なんかに何故なんですか?」

 

 確かに生き返れると同じ事だ!普通に考えたら大変な事か、大ほら吹きだよね。でも相坂さんみたいな純朴な娘には、直球でいかないと駄目だ。

 

「君が好きだから。離れたくないから。駄目かな?」

 

 ボッと分かる位、瞬間的に沸騰して真っ赤になった!2人共だ……

 

「わっわたわたわた、私をすすすす好き?」

 

 黙って頷く。これは僕にとって、初めての告白なんだ!

 

「そそそそ、そうですか!すっ末永く宜しくお願い致します」

 

 地面に三つ指ついて、お辞儀されてしまった。

 

「顔を上げて下さい。ね?本当に、早く顔を上げて……」

 

 散々お願いして、顔を上げてくれた相坂さんは……綺麗な涙を零していた。

 何故か、それは拭こうとした僕の指にも感じられた。

 こうして相坂さんの了解を取り付けた僕は、エヴァに教えて貰った手順で相坂さんを珊瑚の飾りにとり憑かせる事が出来た。僕の掌に有る珊瑚の飾りは、ほんのりと暖かい。

 一度憑かせると暫くは定着するまで、そのままだそうだ……全てを終えると、バフンと煙が上がり爺さんの姿に戻った。

 

「ギリギリだったな。相坂さんの承諾を得る前に元に戻ったら大変だった」

 

 ホッと胸を撫で下ろすと、茶々丸さんが現れた。

 

「甘酸っぱい青春劇を有難う御座いました。リアルタイムでマスターに中継しております。

マスターから、早く帰って来いと伝言が有りました。では、此方に着替えてホテルに戻りましょう」

 

「ええー?何やってるの、茶々丸さん!」

 

 紙袋を僕に手渡すと、スタスタと先に歩き出す茶々丸さん。僕は、慌てて着替えて後を追った……

 

 

 

 

 エピローグに続く!

 

 

 

 相坂さんを関西に同行させる事に承諾させてから……事態はゆっくりとだが、確実に動いていった。

 

 ネギ・スプリングフィールド。

 

 英雄の息子は、何処まで行っても利用しようとする連中は居るのだ。

 何故かネギ君に懐かれていた僕は、何度か手紙のやり取りをしている。その報告の中で、頭の痛い項目が幾つかあった。

 

 

 先ずは、ネカネさんとアーニャちゃんの事だが……帰国後、直ぐに空港で我が近衛一族の者がネギ君を彼女等に引渡した。

 そして、直ぐにロビーでトラウマ発動!

 ウェールズのカーディフ国際空港は年間160万人程度が利用する小規模な空港だが、それでも利用客は居る。

 

 女性だって沢山居る訳だから……

 

 ネギ君のトラウマ発動で女性を脱がす癖を事前に教えていなかったので、空港は開港以来のパニックとなった。

 100人規模の女性が脱がされたのだ。

 

 テロリストの多い国だけに「国際空港にエロリスト現る!差別女性脱がし魔襲撃」と紙面を賑やかしたそうだ。

 

 コレにたいして彼女等から猛烈なクレームが来た。

 

 だから正直に

 

「麻帆良学園に来た初日から、女性の服を脱がし捲くり此方が迷惑していた。しかも何度もだ!

だから女性から隔離して、男の園で試練を与えたのだ。彼に脱がされた女性には、此方で記憶操作をしたが大変心苦しい思いをした。

もともとラッキースケベと言う奇跡のスキルを所持してるとも聞いていない。何故だ?」

 

 と聞いてみた……有耶無耶で誤魔化された。

 

 次に、タカミチの奇行だが……正直にどうでも良かった。

 イギリスで燻る不穏分子達を粉砕し捲くったのは、流石は腐っても英雄だろう。

 しかしネギ君の凱旋に合わせて、かつての英雄の一角が露払いとも思える行動を取ったのは意味深だった。

 タカミチは、まんまとネギ君に合流。そして彼の従者に納まりやがった!

 

 キスが仮契約なんだぞ!

 

 どんなおぞましい行為が有ったかは、想像に難しくない。

 しかもネカネさんとアーニャちゃんに、トラウマ克服にはその根本を知る必要が有る。

 そう説き伏せたらしく、ネギ君は……ネギ君は……ネギちゃんになった。

 

 つまりは「男の娘」か女装趣味になった訳だ。

 

 基本的に中性的と言うか、華奢で女顔のネギ君だったから同封の写真は驚く位に美少女だった!

 本当にどうでも良いのだが……

 ネギ君曰く、折角僕が男の何たるかを教えてくれたのに、毎日毎日彼女等にお化粧されて着せ替え人形にされ……半端ないストレスを抱えているそうです。

 

 返信の手紙には「頑張って生きるんだ!」涙で滲んだ文字しか書けなかった。

 

 ネギ君は、タカミチの指導の下に男子中心の従者を集めて契約し捲くっているらしい……

 男の娘が率いる、美少年・美中年集団の「薔薇の翼」とか出来そうで嫌だ!

 しかし2-Aを中心とした従者団を作れば、美少女ハーレム団になった可能性も有った訳だから……

 本当にどうでも良いので、その後ネギ君が彼らを率いて魔法世界に行った後の事は知らない。風の噂では、頑張っているらしい。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 僕の方は、案外早く寿命が来た。日本の男性の平均寿命は、79.84歳だから大体80歳。

 僕は、憑依当時で既に75歳だったから残り10年とはいかなかった。

 相坂さんを珊瑚の飾りにとり憑かしてから関西に戻り、暫くしてから定期健診で初期の癌が有る事が判明。

 投薬と放射線治療で対処したが、再発の危険を指摘され……78歳で再発した時には、手術に耐えられない程に衰弱していた。

 既に打つ手は無く、延命治療を施される日々……関西呪術協会の連中も、末期癌の僕を担ぎ出す事はしなかった。

 彼らの監視が緩んだ隙に財産の整理に取り掛かり、木乃香ちゃんや詠春さんに分配する旨の遺書や法的手続きを行う。

 勿論、半分以上はエヴァの別荘に現金及び金塊としてストックしている。

 隠し財産・不正貯蓄が多かった爺さんだから、人生を何十回繰り返しても平気な金額だ!

 魔法関係の道具も殆ど別荘に持ち込んだ。こうして転生後の準備も万全に済ませる事が出来た。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 病院から治療の施し様がなく、自宅療養を許可されたので近衛本家に帰って来た。

 80歳を目の前に、平均的な寿命を終えようとしている。

 

 大往生だろう……

 

 庭の見える縁側に椅子を出してもらい、夜の月を見上げている。

 

「ああ、そろそろお迎えかのぅ……可愛い夜の一族が見える。マントの中は、ツルペタボンテージかの?」

 

 静かに僕の隣に佇むエヴァ……

 

「ふん。口の減らないジジィだな……準備は全て整ったぞ。さよも魂の定着が順調だ。

先にジジィを蘇らせてから、彼女も擬体に転写する。感謝しろよ。辻褄が合う様に、先に転生させてやるのだから」

 

 月を見上げながら話すエヴァは、本当に初めて会った時から変わらない。ツンデレ美幼女吸血鬼は健在だ!

 

「そうじゃな……有難う、そして迷惑を掛けるが宜しく頼むよ。

もう……

お迎えが……

ああ、そうだな。

もう……この体は……良く頑張ったよ……」

 

 ゆっくりと遠のく意識と、視界の隅で僕の魂の核となる魔石を構えたエヴァを見ながら……近衛近右衛門は、78歳の生涯を終えた。

 

 関西で権力を振るった大妖怪。

 

 ぬらりひょんこと近衛近右衛門の葬儀は盛大に執り行われ、後を継いだ詠春さんは……

 既にオタク限定でカリスマ写真家としての、確固たる地位を得ていたので……直ぐに家督を木乃香ちゃんに譲りやがった。

 後見人に、青山鶴子と葛葉刀子が付いているので安心だけどね。

 彼女達も、それぞれが写真集を出して結構な人気が出ていた。

 本人達は嫌がる素振りをみせるが、満更ではないだろう。

 刀子さんは近衛一族の若者と結婚し、男の子を出産した。

 

 予定通り、近衛一門に取り込めた訳だ!

 

 平成の大妖怪ぬらりひょんも、死して三年も経てば皆の記憶の片隅に追いやられてしまうだろう……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 ガラスの水槽の中で、意識が覚醒する。

 

「がぼがぼがぼ……」

 

 息が出来ずに暴れるが、直ぐに水槽を満たしていた水が無くなる。

 

「うーLCLって、こんな感じだったのかな?」

 

 うずくまっていると、水槽がどけられて毛布が掛けられた。毛布を体に巻き付けて、漸く周りを見る。

 

 先ずは茶々丸……

 球体間接がなくなり、より人間的になっている。何故か表情が嬉しそうに見えるのは……成長の証かな?

 

 そしてチャチャゼロ……

 うん、相変わらずだ。ケケケとナイフを弄くっているし、刃物キチガイは変わらずか……

 

 そして水槽の相坂さんを見る。

 うん、スッポンポンで浮かんでいる。グッジョブ!彼女は意外にも着痩せするタイプだったのか!

 

 

「僕と彼女をスッポンポンで並べていたのかい?エヴァのエッチ!」

 

 久し振りに見る美幼女吸血鬼に、微笑む。

 

「黙れ粗○ン野郎!誰が苦労して若返らせたと思うんだ!」

 

 巫女服に白衣、それにメガネと言う僕のリクエスト通りの装束で、ワナワナと震えている彼女を見詰める。

 

「久し振りだねエヴァ!有難う」

 

 頭を軽くポンポンする。

 

「全く大変だったんだぞ!別荘を利用しても一年近く掛かったんだ。本当に大変だったんだぞ……」

 

 涙を流してポカポカと胸を叩くエヴァを抱きしめながら「ただいま、僕の大切な吸血鬼……」と言って、背中をポンポンと叩いた。

 

「ああ、あのな……その肉体だけど、強化し過ぎて保たなかったから……その……吸血鬼化したんだ」

 

 テヘッて舌を出して、可愛く教えてくれた!

 

「なっ、何だってー!」

 

 彼女は、チシャ猫の様に笑いながら「良いじゃないか!私達と永遠の時を歩むのだろう?それに力を欲したのもお前だ。だから……

お帰り、私の大切な吸血鬼!」と見惚れる笑顔で宣ったんだ!

 

 

 

 僕の新しい家族……

 

 真祖の吸血鬼に家事万能ロボ、そして殺戮人形。一見すると不思議な面子だ!

 そして僕は、作り物の体に魂を定着させて生き返った人工生命体だ。

 何故か制作者が僕を強化し過ぎて、祖体が耐えられず仕方無く吸血鬼の因子を混ぜたらしい……仕方無くだそうだ。

 この強力な体を使いこなせる様にと、毎日が死を前提とした特訓だ!

 無駄に膨大な魔力に飽かせた攻撃魔法を打ち捲る美幼女吸血鬼。

 無表情に銃器で狙撃する美少女ロボ。

 そしてブレードハッピーな美幼女?人形。

 三位一体のしごきに耐えていますが、成長は緩やかだそうです……

 

「ちくせう。何時かヒィヒィ言わせたるからなー!」

 

 出来もしない事を夕日に向かって叫ぶ、生後1ヶ月の新米吸血鬼が僕だ。

 

「騒いでないで、早く来い!今日はさよを復活させる日だぞ」

 

「はーい!今すぐ行きまーす」

 

 僕が、この体に慣れたら復活させる約束をしていたんだ!今日、初めて三人の攻撃を15分耐えたので許可がおりたんだ。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 別荘の地下に設えた、エヴァ専用のラボ……その薄暗い部屋の中央部に、相坂さんの人工の肉体が浮いている。

 

 勿論、スッポンポンだ!そう、スッポンポンなんですよね相坂さんは。

 

 何度かこのラボに来ているので、何度も彼女のスッポンポンを見ている。エヴァの技術は大したものだ。

 僕の場合は、本人の遺伝子や肉体の一部を提供できたが……

 彼女の場合は映像資料もままならないのに、エヴァは完璧に相坂さんの姿形を再現した。

 唯一の資料は、2-Aの出席簿に貼ってあった写真だけだ。この写真だって、どうやって手に入れたんだ?

 顔はそっくりだが、体は想像の域を出ないだろう。茶々丸さんに聞いたら、彼女のサイズを参考にしたそうだ。

 

 つまり、リアル茶々丸バディ……ハンパないっす茶々丸さん!

 

「コラッ小僧、エロい目でさよを見詰めるな!本当に若返ってから節操が無いぞ」

 

 全く、昨夜もハッスルしたくせに……何かブツブツとヤバい発言が有ったが、スルーだ!

 

「ゴメンゴメン、でもエヴァだって彼女をスッポンポンで水槽に浮かべてるし……目のやり場に困るんですよ」

 

 そう言って水槽から離れて、壁を背にもたれ掛かる……

 

「全く、そこで大人しく見ていろ!」

 

 本当に、このツンデレ幼女は可愛い。これで合法ロリなんだから最高だ!

 エヴァが何やら呪文を唱えだすと、床面に魔方陣が輝きながら浮かび上がる。

 

「……………………」

 

 小声でリズム良く、しかし何を言っているかが分からない呪文を唱え続けている……

 5分程だろうか、薄っすらと額に汗を滲ませたエヴァが気合?を込めて魔力を放出する。

 エヴァの掛け声と共に、水槽の中の相坂さんが目覚めたのか……ガバガバと悶えているのは、溺れそう?

 

「ちゃ茶々丸さん、水槽の水を急いで抜いて!」

 

 僕と同じように、水が抜かれた水槽の底にしゃがみ込む相坂さん。

 

「けほっけほっ……あれ?息、息が出来ますよ……あっ、有難う御座います……って、わたし裸ですよ?」

 

 茶々丸さんが差し出した毛布で体を包み、周りを見渡す相坂さん……エヴァが一歩前に出て、相坂さんに話しかける。

 

「体の調子はどうだ?私が調整したんだから完璧だろ?」

 

 巫女服に白衣、それに伊達メガネを掛けたエヴァを不思議そうに見詰める相坂さん。

 

「アレ?エヴァンジェリンさんですよね?それに……絡繰さんも?」

 

 元クラスメイト達の存在に気付いてビックリしている!

 

「お久し振りです、相坂さよさん」

 

 少しだけ表情が人間臭くなった茶々丸さんが、優雅にお辞儀をする。それに釣られてペコペコと頭を下げる相坂さん……

 んー和みますね、美少女達の何気ない所作は。大分落ち着いたみたいなので、そろそろ声を掛けようかな?

 

「相坂さん、久し振りだね!」

 

 彼女が気が付かなかったのは、僕が死角に居たからなのだが、いきなり声を掛けたのは不味かったか?

 

「えっ?近衛君?どこ?」

 

 慌てて振り返った為か、体を包んでいた毛布がパサリと床に落ちる……

 

「あっ……」

 

「……えっ?」

 

 スッポンポンの彼女を正面から見詰めてしまった。

 意識の無い彼女の裸は見放題だったし気にしなかったのだが、意識ある彼女の羞恥の表情と合わさると……

 

「……こっ……こっ……こっ……」

 

 彼女は真っ赤になって、こっこっと呟いているけど?

 

「こ?コケコッコー?」

 

「ニワトリの真似か?」

 

 僕とエヴァのダブル突っ込みに……

 

「近衛君のばかー!エッチー!」

 

 鋭いフックが僕の左脇腹に突き刺さる……

 

「ちょ、ごめっ痛い痛いから、ごめん。不可抗力だから……おぅ!」

 

 女の子が怒ってポカポカ殴るのでは無く、本格的なパンチをボディ重点に喰らい……僕は膝をついた。

 強化した筈の肉体でも、彼女のパンチで蓄積されたダメージは素晴らしかった。

 

 もたれ掛かる様に、彼女の豊満な胸に顔を突っ込ませたが「近衛くんの変態!もう……ばかー!」地を這う様なフルスイングのアッパーが、僕の顎を捉えた!

 

 しかし、しかし夢の柔らかオッパイは堪能出来たんだ。

 

「責任取ってくれるんですよね?よね?」

 

 パニックになっている相坂さんを横目に、僕は意識を手放した。目が覚めれば、新しい家族を祝う宴が始まるだろう……

 しかしダメージは深刻な感じだ。夕飯までに回復が間に合うかは……微妙かも知れない。

 

 

 「僕は麻帆良のぬらりひょん!」

 

 ここに2回目の完結とさせて頂きます。

 

 最後までお付き合い頂き、有難う御座いました!

 

 

 

 おまけ

 

 

 

 ナギ・スプリングフィールド。

 

 嘗て魔法世界で戦争が有った。長き戦乱は国と民を疲弊させた。それを終息させた英雄達のリーダー。

 サウザントマスターと呼ばれた半分伝説の人物だ。ネギ・スプリングフィールドは、彼の忘れ形見。

 そんな英雄の息子が「男の娘」となり、美少年から美青年。果ては美中年までを従者として従えて魔法世界へ凱旋した。

 

 今、マホネットで一番ホットな話題だ。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 エヴァのお陰で新しい体を手に入れた僕とさよ。実は東京で学生生活を満喫しています。

 未だ近衛近右衛門で居た頃に、偽の戸籍を幾つか用意していたんだ。

 若返りが可能と知った時に、この情報社会で戸籍は必ず必要になると思った。

 だからコチラ側として生きて行く為に数種類を用意したんだ。

 バレたら次の人物に代えていく。極力目立たず騒ぎには介入せず。のんびり平和に生きていく為に……

 だけど魔法世界の情報を知る為に、マホネットは引いている。

 

「近衛君、お早う御座います」

 

 そう、僕は今でも近衛を名乗っている。普通は疑われるから替えるよね?でも何故か愛着が有るのか続けて同じ名前を使ってます。

 

「おはよう、さよさん。エヴァも茶々丸もおはよう」

 

 朝食を食べる為にキッチンに行けば、セーラー服にエプロンを着たさよさんとメイド服の茶々丸が料理をしていた。

 エヴァは食卓にノートパソコンを持ち出して、何かを調べている。彼女は最近になり漸くインターネットを使える様になった。

 

「ああ、おはよう。面白い特集が有るぞ。あの小僧……

女性恐怖症が突き抜けたのか、男を率いて魔法世界に凱旋したぞ。完全なる男の世界だな」

 

 何故か三つ編みに伊達メガネのエヴァが、パソコンを反転して画面を見せてくれた。その画面には……

 

「タカミチだ。相変わらず腐り輝く瞳だけど……あれ?隣の美少女って、コレまさかネギ君?」

 

 その画面には中央に男の娘のネギ君?ネギちゃん?を据えて右側にタカミチ。

 左側に、確か麻帆良学園の蛮カラ連中の……ポチ君だっけ?その周囲を美少年から美中年が囲っている不思議な空間だ。

 因みにネギちゃん?は何故か麻帆良学園の女子中等部の制服だ。ご丁寧にカツラ?まで被り見た目は可憐な美少女になりすましている。

 僕だって何度かの文通で同封されていた写真を見てなければ分からない。

 

 完璧な美少女振りだ……

 

 それに麻帆良学園で一般人だけど異能を持つ連中は従者としてスカウトしていったのか?知らなかったぞ。

 

「なになに……今、一番ホットな話題!

大戦の英雄ナギ・スプリングフィールドの忘れ形見、ネギ・スプリングフィールドちゃんと薔薇護衛団。魔法世界に凱旋」

 

「逆ハーレムを率いた英雄、魔法世界に凱旋」

 

「ネギちゃん写真集、空前絶後の大ヒット!書店へ急げ、緊急増刷決定」

 

 画面には色々な方面からネギちゃん?を称える記事の山だ!しかし薔薇護衛団?護衛?

 確かにシャツの胸元が不自然に開いている奴や、口に薔薇をくわえたり胸ポケットに差したりしてるナルシーな連中ばかりだけど……

 その道の方々なのかな?まさかネギ君……タカミチと一線は越えてないよね?よね?でも護衛団って時点で、ネギ君が護衛対象って事か。

 つまり彼は、それほど強くない御旗の役割なのかな?

 

「話題騒然、マギステルマギに一番近い若き英雄。数々の事件を仲間と共に解決、か……」

 

 エヴァが鼻で笑ったな。そこにはネギちゃん?の経歴が書かれている。

 僕等もネギ君には困らされたけど、一応最低限の指導はした筈だ。だけど権力者達は、民衆にウケる経歴を捏造した。

 そこに僕等の苦労と努力は無いんだね。まぁ放り出した僕が言えた義理は無いけどさ。

 辛く胃の痛い記憶が蘇る。

 

 嗚呼、ストレスの日々よ……

 

「仲間と共にって言うか、タカミチのごり押しで解決って感じだな。しかし捏造された経歴が凄いぞ。

メルディアナ魔法学校を最年少で主席卒業。

試練では麻帆良学園で多数の生徒達を導き、指導者としても優秀な事を示した。

近衛学園長が引き止めるのを世界を救う為に此処に留まる訳にはいかないと断る。

学園長はネギ・スプリングフィールドを次期学園長にする為に引退を表明した。

が、理由を聞いて涙ながらにイギリスへ送り出した。送別会は麻帆良学園都市全体をあげての盛大な物であった。

その後イギリスに凱旋してからはNPOとして旧世界の紛争を収める……

見事な迄の捏造だな。

奴の麻帆良学園での破廉恥行為が見事に無かった事になってる。確かに英雄様が性犯罪じゃ民衆は納得しないな」

 

「はい、近衛君」

 

 さよさんがネギちゃん?の話題をスルー。具沢山味噌汁をよそってくれた。赤出汁にほうれん草と油揚げの味噌汁だ。

 

「有難う、さよさん」

 

 取り敢えず椅子に座り、彼女が渡してくれた味噌汁を受け取る。今朝は和食、メニューは紅鮭に板ワサ、それに温泉卵だ。

 

「ほら、大盛りだぞ」

 

 エヴァがよそってくれたご飯を受け取り食べ始める。暫くは咀嚼する音だけがキッチンに響く……

 ネギちゃん?が魔法世界に凱旋か。

 でも実際は旧世界と言われる此方の世界が、魔法世界の連中を締め出し始めた。

 だから本国は彼を適当な功績を付けて呼び戻したんだ。僕が引退した後、対魔法世界との駆け引きは此方が有利。

 此方に居る魔法使い達は緩やかに数を減らすだろう……

 

「近衛君、部活の方はどうですか?」

 

 少食の為か既に食事を終えたさよさんが質問してきた。

 

「ん、科学部の事。面白いよ、実験とか」

 

「なんだ、体育会系じゃないのか?折角の運動力だろ、活躍しないのか?」

 

 僕の体はエヴァが造ってくれた特注品。しかも半分吸血鬼の真祖化している。だから運動能力はハンパないけど……

 

「僕の体で真面目に運動したら世界新記録が乱立するでしょ!体を調べたいとか言われたらどうするの?」

 

「そうですよ、エヴァさん。ただでさえ近衛君は格好良いから人気なのに、スポーツ万能とかだと大変です」

 

 確かに僕は人気者だ。常に近くにいるさよさんの為に、他の女子は僕から一歩引いている。

 そして嫉妬に狂った一部男子に熱烈な歓迎を受けているんだ。主に八つ当たりとして……

 

「ほぅ?聞いてないな、モテモテだとは……」

 

 ヤバい、エヴァの目が白黒反転してるぞ!

 

「そうなんですよ!何故か私に良く話し掛けてくる人達に大人気なんです。私に内緒で放課後とかに校舎裏に呼ばれたり。何をしてるんですか?」

 

「はぁ?お前、それって……」

 

 一気にエヴァの怒りが憐れみに反転した。

 

「マスター……近衛さんは、さよさんに不埒な思いを寄せている男子にイジメを受けているのです。

マスターとさよさんを二股してるゲス野郎には、当たり前の対応かと……」

 

「ゲス野郎って……」

 

 茶々丸さん、それは言い過ぎでは?テーブルにガックリと伏せる。確かに大和撫子な美少女が常に近くに居るよ。

 でも戸籍上は兄妹だよ。

 天涯孤独な未成年の男女2人が同居するより、兄妹が一緒に住む方が世間的には受け入れられる筈だ。

 只でさえ見た目良しなんだから……しかも、さよさんは兄妹の設定なのに近衛君とか呼ぶし。

 異母兄妹で名字が違って最近知り合ったって、苦しい言い訳も僕の迫害に拍車を掛けていた。

 

 つまり、リア充シネ!だ。

 

「ふん、まぁ良い。お前達は大学進学を目指すんだろ?」

 

「ああ、最終学歴が高卒でも良いけど普通の会社勤めは無理。自営業でも接客業は無理。

お金は有るから働く必要は無いけど、世間的に無職で金回りが良いは目立つ。

だから実業家とか投資家として最低限の知識と経歴は必要だよね?」

 

 これは皆で何度も話し合った。

 

「御馳走様。さよさん、そろそろ出掛けようか」

 

「そうですね。エヴァさん、茶々丸さん。では行ってきます」

 

 さよさん特性のお弁当を鞄にしまい出掛ける準備を終える。

 

「今日は休日だろ。何故学生服を来て2人で出掛けるんだ?」

 

 エヴァは茶々丸に淹れて貰った日本茶を啜りながら、不思議そうな顔をしている。

 確かに土曜日の早朝から学生服で出掛けるなんて、今までは無かったからね。

 

「私達、今日と明日はセンター試験なんです」

 

「そうなんだ。大変だけど頑張ってくるよ」

 

 家を出ると、さよさんが腕を絡めてくる。端から見れば仲の良い兄妹か、それとも初々しいカップルか?

 これが嫉妬の原因なんだけど全然構わない。魔法絡みのイザコザなんて僕等には、もう関係無いんだ。

 彼女達と平和で平凡な日常を過ごす。

 

 僕の三回目の人生は順風満帆だ!

 


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