真実《プラウダ》の女王陛下   作:伊藤 薫

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[10] 幕間(その2)

「《ティーガー》にT34がやられる。よくある話じゃないですか」

 私はげんなりとした調子で言った。《同志》が私の肩を小突いた。

「バカ、話はしまいまで聞け」

 マリアの時間稼ぎは成功した。フラッグ車を後退させはしたが、プラウダは準決勝で敗退した。黒森峰と決勝を争うことになったサンダース大付属高は慌てて《ティーガー》対策に90ミリ砲を備えたM26パーシングを投入したが、大した活躍は出来なかった。黒森峰が結局、この年の大会で優勝を納めた。

 私もおぼろげに記憶している。その年、戦車道関連の雑誌はほとんど黒森峰優勝の立役者が《ティーガー》であるという記事を載せていた。何しろ戦車道の全国大会で初めて重戦車が登場したのだ。それまでの戦車は最大でも75ミリか76ミリ砲を搭載したT34やⅣ号戦車G型ぐらいだった。

「そこで、ちょっとした面白い一幕があってね」《同志》は言った。

 大会後にプラウダが宿泊していたホテルに黒森峰の女子生徒が独りで来た。その女子生徒はホテルのフロントに自分が《ティーガー》の戦車長であり、プラウダでT34に載っていた戦車兵に会わせてほしいと頼んだ。

「そういえば、黒森峰で初めて《ティーガー》に乗ってたのは・・・」

《同志》が苦笑を浮かべる。

「黒森峰番の君が覚えてないのは問題だろう」

「さすがに覚えてますよ。西住しほ、ですよ。へえ、マリアが西住流の家元とねえ」

「がぜん興味が湧いてきただろう」

 私はうなづいた。コニャックをひと口含む。

 西住は撃破したT34の砲塔に書かれていた文字を告げる。

「エリザベートⅠ世と書かれた戦車の持ち主は?」

 フロントが電話を繋げる。ロビーに降りてきたマリアを眼の前にして西住は一瞬、棒立ちになった。西住は「留学生だったのね」と言って手を差し出す。

「だから?」

 マリアは腰に手を当てたまま斜に構える。西住についてきた黒森峰の他の生徒が「その態度は何だ?」という風にがなり出した。言葉は少なくとも手を差し出してきたことから、西住が自分の健闘をほめようしていることは分かっていた。だがマリアは素直に喜ぶ気持ちになれなかった。

「大会に黒森峰が重戦車を出したことについては連盟に批判もあった」《同志》は言った。「学校の経済力に左右されたり、戦車の性能差だけで勝敗が決まるパワーゲームにしかならないとか」

 今もその状況に対して違いはない。私はそう思った。破壊力が高い長砲身の重戦車を持つプラウダと黒森峰が長い間、戦車道大会の優勝旗を交換していた時期があった。コニャックをひと口含んでから《同志》は続けた。

「腹を立ててたマリアは西住の手を握ろうとしなかった。挙句に『今日の勝利はアナタの実力ではないわ。ただ戦車の性能がT34よりも良かっただけよ』と言い返した」

「手厳しいですね」

「それで余計に激昂した黒森峰の生徒と乱闘騒ぎになった。後日にプラウダは黒森峰に謝罪したが、戦車道の隊長はマリアに『よくやったと』とウィンクしたそうだが」

「そこまでがオチですか」

《同志》はうなづいた。

「ですが・・・そんなことでマリアがひと際目立った留学生だとは思えませんが」

「そう焦るな」

《同志》の話には続きがあった。

 後日、プラウダに新たに補充された戦車はT34/85だった。「ラオス人民軍で埃を被ってた車両を何台か譲り受けて競技用に改造したんだ」とは《同志》の言葉だ。従来の76ミリ砲に代わり、十分に《ティーガー》に対抗できる85ミリ砲を装備したT34。砲塔の側面にマリアは白いペンキで再び女帝の名前を記した。

「今度は誰の名前を?」私は言った。

「エカチェリーナⅡ世」《同志》は言った。「マリアはロマノフ王朝最強と謳われた女帝に《ティーガー》を撃破することを誓ったんだ。プラウダは翌年も戦車道大会に出場した。もちろん黒森峰も。2校は再び準決勝で対戦することになった」

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