真実《プラウダ》の女王陛下   作:伊藤 薫

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第2章:破
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 マリアは《女帝》の砲塔から上体を出して双眼鏡を覗いていた。

 戦車道全国高校生大会。今日は準決勝。プラウダは予選から順当に勝ち進んで黒森峰と対戦することになった。マリアたちの小隊―4両のT34は川に面した高台の陣地に身を潜めていた。マリアはハッとして顔を空に向けた。

《何か来る》

 1秒後、ヒューという風切り音が聞こえた。砲弾は《女帝》の20メートル後ろに着弾して競技場を揺らした。土砂が巻き上がり、黒い雨を周囲に降らした。

「今のは何⁉」サーシャが車内から叫んだ。

「戦車よ」

「戦車?そんな!」

 88ミリ砲だ。マリアはそう思った。黒森峰に《ティーガー》がいる。間違いない。

 マリアは車長席に飛び降りてハッチを閉める。ブーツが操縦手のサーシャの肩にかかる。両方の爪先がすばやく同時に肩を叩く。《エンジン始動》。

 サーシャがスターターを押す。《女帝》は身震いした。マリアはインターコムで徹甲弾の装填をアーリャに命じる。爆発がT34の周囲で起きる。地面が震える。《女帝》の左右に車体を埋めた小隊の他の戦車は川越しに黒森峰の大口径砲と撃ち合いを始める。何発かひときわ騒がしい砲弾がごく近くに着弾した。マリアはやっと命令を下した。サーシャの肩の上で2つのブーツが躍った。

「後退するわ。急いで。向こうはコッチの距離を掴みかけてる」

 サーシャがギアレバーを後進に押し込んでアクセルを踏み込む。キャタピラが回転し、車内の全員は《女帝》がバックで勢いよく陽射しの中に出ようとしたため、身体が前につんのめった。すぐに一条の陽光がマリアの展視孔に差し込んだ。

《女帝》が平らな地面に出る。眼の前に河が流れている。川のこちら側―南岸に広がるトウモロコシ畑は踏みにじられている。この距離では、草原地帯にいる黒森峰は小さな点のようしか見えない。しかし小隊の周囲に着弾する砲弾は凄まじい力で大地を揺るがしている。しかもこの弾は何マイルも先から飛んできている。マリアはサーシャの首筋を押す。

 サーシャは戦車を一速に入れた。マリアは川を見下ろす高台の突端を横切り、《女帝》を西に向かわせた。すでにこちらは戦車のうち5両が撃破されている。2両は炎に包まれている。擱座した車両はどれも白旗を上げ、装甲に大穴が開いている。黒森峰の《ティーガー》に粉々に吹き飛ばされていた。

《女帝》は稜線にそって突進した。すでに小隊の他の戦車4両とそれ以外の5、6両も塹壕から出ている。このまま右往左往していると、各個撃破の目標になるしかない。

《さてどうする?》マリアは思案する。

 T34の76ミリ砲では対岸にいる黒森峰の《ティーガー》を傷つけることさえ出来ない。戦車砲の砲身長が短いために敵の重戦車を貫徹するのに必要な初速を得ることが出来ないからだ。射距離2マイルか1マイルでさえも。しかし《ティーガー》は姿が見えないこの距離からでも、ゆったりと腰をおちつけてT34を撃破できる力を持っている。

 砲弾が《女帝》の行く手前方の20メートルに着弾した。土が宙に吹き上げられる。

「距離を掴みかけてる」アーリャがインターコムで言った。「夾叉されてるっぺ」

 マリアはナージャに副隊長を呼び出すよう命じる。副隊長がマリアの小隊を麾下に置く中隊を率いていた。

 数秒後、副隊長から通信が入った。マリアはインターコムを切り替えた。

《ポーラーベアよりクイーン。マリア、聞こえるか》

《クイーンよりポーラーベア》マリアは答える。《このままだと何も出来やしない。(ティーガー)に各個撃破されておしまいよ。どうするの?》

《・・・せめてフラッグ車だけでも後退させたい》

《簡単にそんなことをさせてくれる敵じゃなくてよ》

《丘の陣地から出て川に向かってけん制する。その隙に、フラッグ車を退避させる》

《誰がけん制する?》

《・・・》

《アタシに突撃しろって命令しなさい。アナタが中隊長なんだから》

《・・・よろしく頼む》

 マリアは小隊に向けて通信を切り替える。

《クイーンより小隊各車。アタシたちは最大速度で川まで降りて一撃離脱する。1発お見舞いしたら、さっさと逃げ出す》

 小隊から「了解」が返答される。マリアはインターコムで車内に告げる。

「いいわね?聞いた通りよ」

「突撃です!」アーリャが吠えた。「突撃あるのみです!」

「まるで知波単みたいね」ナージャが笑う。

「サーシャ、全速前進!」

 マリアのブーツが首筋の真ん中を押す。サーシャはまずシフトダウンしてから左手の操縦レバーを引き、右手のレバーを前に倒す。《女帝》が左旋回に入った。サーシャはギヤを三速に上げる。速度を上げて真っ直ぐに丘を下りていった。

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