真実《プラウダ》の女王陛下   作:伊藤 薫

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 サーシャはぐるりと回って丘を降りるために《女帝》を右に旋回させた。戦車が急に揺れる間、マリアはしっかりと両脚を踏ん張った。ナージャはいいぞとばかりに拳をサーシャに向かって振りかざした。サーシャはT34を丘の下に向け、ギアレバーを掴んで三速に入れた。《女帝》が突進した。

 戦車は砲弾の穴の縁で弾んで宙に飛び上がった。それから激しく落下して走り続ける。全員が身体をぶつけた。マリアは詰め物入りの戦車帽を被った頭を打ち付ける。「おつむをこんなに毎日ぶつけてたら歳を取った時にバカになるんじゃないか」後日、マリアは《同志》にそう語った。マリアは「もっと速く!」と叫んだ。

「他の3両は?」アーリャが言った。

「忘れてたわ」マリアは回転式の潜望鏡で背後を確認した。「3両ともついて来てる」

 200メートル先では煙が川の両岸から渦を巻いて立ち上がった。撃破されたⅣ号戦車は炎に包まれている。燃料と弾薬に火が付いたのだ。3両目の戦車はエンジンから灰色の煙を吐き出していたが、まだ動いている。4両目は川岸に沿って行ったり来たりしている。納屋の右ではターニャのT34が撃破されていた。左側のキャタピラが吹き飛ばされて、戦車の後方にバラバラに散っている。戦車は開いたハッチから黒い煙を噴き出しながらくすぶっている。生き残ったⅣ号戦車の1両が戦車にもう1発お見舞いしていた。回収して修理できないようにするためだ。《女帝》は接近した。黒森峰の戦車が狙いを定められないように《女帝》を左右に振りながら100メートルまで近づいた。ターニャの乗員たちが見える。燃えるT34の陰にうずくまっている。しゃがんでいる2人が近づいてくる《女帝》に手を振った。他の2人は地面に横たわっている。

「けが人がいる」サーシャがインターコムで報告した。

 マリアは《女帝》の向きを変えるよう指示を出す。《女帝》が川岸に沿って走り出した。全速力でT34を脱出した乗員たちと川の間に持って行くと、まだ動いている2両のⅣ号戦車に横腹を向けてピタリと止めた。砲塔ではマリアがすでに目標を捕捉しつつあり、旋回する戦車砲の後ろについてステップを踏んだ。アーリャが跪いて弾薬箱に手を伸ばし、砲弾を探している。サーシャはナージャをちらりと見た。

「行って!」

 ナージャはためらわなかった。脚の間に手を伸ばすと、脱出ハッチのハンドルを引いた。扉が持ち上がり、ナージャはキャタピラの間を滑り降りてハッチを閉じた。

《女帝》の近くで砲声が響いた。小隊のT34の1両が弾を放ったのだ。崩れた納屋、畑と川岸の小さな一画。2両のⅣ号戦車と3両のT34がほとんど自分たちだけで戦争を繰り広げている。

 T34の1両が《女帝》の前に出た。コーリャが川向こうを動き回るⅣ号戦車に有効射を食らわそうと方向転換した。マリアはハッチから頭を突き出した。《女帝》によじ登る乗員たちに「早くつかまって!」と怒鳴った。砲塔が再び旋回する。アーリャがまた砲弾を込めた。マリアが発射ペダルを踏む。戦車が反動でかしいだ。

「みんな乗ったわ」マリアが叫んだ。「サーシャ、ここから逃げ出しましょう」

 サーシャはアクセルを一杯に踏んだ。前方にいるコーリャのT34が道を開ける。その時、耳をつんざくガンという音がした。コーリャの戦車が強烈な一撃を食らい、その勢いで車体が浮き上がってあやうく横倒しになりかけた。白旗が挙がる。サーシャは「まずい」と小声で呟いた。

「《ティーガー》よ!」マリアは叫んだ。

 サーシャは我に返った。ブレーキを踏みつけ、《女帝》のギアをバックに入れる。車体後部を素早く振ると、今度は隆起する丘を背にして戦車を目いっぱいの速度で後退させる。

 マリアは初めて対岸のⅥ号重戦車《ティーガー》と向き合った。戦車は巨大だった。四角に張った車体はT34と対照的に、装甲が傾斜していない。

 サーシャは分厚い正面装甲を《ティーガー》に向ける。T34の姿を標的としては一番狙いにくいように平たい三角形に見せながら、丘を後進する。マリアがアーリャに叫んだ。

「徹甲弾、装填!」

 アーリャはすでに徹甲弾を持っていた。すぐに砲弾が砲尾に押し込まれた。サーシャはアクセルを踏み続けた。マリアの眼は《ティーガー》にひたと据えられていた。巨大な88ミリ砲の動きを読むつもりだった。

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