ダンガンロンパ 絶望エクスプレス 〜希望駅8時発 絶望行き急行列車〜 作:MOGIぴー
「あいつ、消えたぞ」
「えっと…一体何が起こってるんだろう」
「あのぬいぐるみが本当に学園長とは思えませんね…」
モノクマが消えた後も、一同は不安を隠せなかった。
実は夢の世界なんじゃないか。そう思って頬をつねろうとしたが、そう思える時点で夢ではないような気がしたのでそこで手を止めた。いや、光景がはっきりしているし、感触もある。間違いなく現実だろう。
「…困惑するのはわかるけどさ…。とにかく自分の素性を明かしたほうがいいんじゃない…? これじゃお互いの名前も分からないし…」
一人が少々自信なさげな声で提案した。
「自己紹介ってやつだね!」
「でも、まだあなたたちのことを疑っているというか何というか」
「いちいち疑ってたらオレら何も始まらんと思うけどね」
「でもワイはまだ誰も信じないよ…」
「…空閑薫。超高校級の推理作家として学園からスカウトされたよ。何か心配なことでもあったら僕に言ってよ。まぁ、何でも解決できるわけじゃないけど」
僕の口はいつの間にかそう動いていた。自分の意思に反して。
いや、むしろここで率先して身分を明かすほうが、全員の警戒を緩めることことができるかもしれない。
「普通に言うんだね…。もう少し疑う心を持っててもいいと思うけど」
「…でもさ、ここでずっと疑心暗鬼のままってのも馬鹿らしくない?」
「お願いだよ、みんな。何が起きるのかわからないけど、ここから脱出するためにはみんなのことを知る必要があると僕は思うんだ」
…静寂。
僕の言葉に誰か…。誰か反応してくれ…。
「うん、あたしは賛成かな」
僕はその声の主のほうを見た。
水色の長い髪の毛。赤いセーラー服を身にまとっている。
「あたしの名前は、水宮琴魅。周りからは【超高校級のアナウンサー】なんて呼ばれてるよ。何かあったら頼ってくれていいよ!」
水宮琴魅…といえばたしか有名なテレビ局のアナウンサーだったっけな。中学生にしてアナウンサー育成学校を飛び級で卒業したといわれるあの水宮琴魅。
「なるほど、有名なアナウンサーとまさかこんなところで出会うとはね」
「…オレはテレビ見てねぇから知らねぇな」
水宮さんが名乗ったのもあってか、生徒たちは少しずつ自己紹介を始めた。
「オレは【超高校級の画家】、最上斎一って言うどー。よろしくしてくれどー」
最上斎一…。どうやら彼が学園の掲示板に載っていた超高校級の画家らしい。個人的な意見だけど、見た目は画家とは程遠いような…。
「なんか語尾についてるね」
「土砂崩れでも起きてんじゃね」
「ちょ、ひどいどー!」
「ボクいいかな。ボクは四十万鉄伽、【超高校級の列車マニア】だよ、みんなよろしくね~。あ、性別は女だよー」
四十万鉄伽…。彼女が超高校級の列車マニアか。ちょっと想像してたのと違ったなぁ。でも名前くらいなら少しだけ耳にしたことがある。
「…裏の顔怖そう」
「大丈夫だよ、これがボクの真の姿だよ」
「真の姿って…覚醒でもしたのかよ…」
「はいはい、私のほう注目。私は【超高校級のスタッフ】、夕道久未って言うんだ。みんなからは明るすぎるって言われるけど、それが私の唯一の取り柄なんだ」
夕道久未…。あぁ、よくテレビに出演してるスタッフか。テレビで見るよりも明るい印象を受ける。
「テレビスタッフの人か、よくテレビで見てるよ」
「ワイは信じひんで…」
「…君…何だったら信じるんだい」
「そんな目でワイを見ないでくれ…、ちゃんと名前言うから…。伊野吉介、【超高校級の人間不信】…」
伊野吉介…。風変わりな才能の持ち主だなぁ。人間不信そのものが才能って、どういうことなんだろう、と僕は頭の中で考えを巡らせる。
「人間不信も才能認定されるとはよっぽどなんですね」
「…だから言いたくなかったんや…」
「次わしか。【超高校級の盆栽職人】の江吉良誠隣。わしー、よく物を壊すからそこのところ注意してくれな」
江吉良誠隣…。なるほど、女子の盆栽職人だったのか。先入観で男子だと思っていたが…。
「一人称がわし………。鳥か」
「違うと思うどー」
「次は俺かな。俺の名前は闇色の奇術師、紫神改六。【超高校級のポエマー】などという意味不明な称号をつけられた悲しみ…。あぁ、神よ…」
「長い長い」
紫神改六…。中二病感満載、とはまさにこのことか。まぁ小説だったら結構目立ちそうだからキャラクターとしてはバッチグーな雰囲気だ…。って僕は何を考えているんだ。
「闇色の奇術師って…。マジックでもすんのか」
「…瞬間移動なら」
「できるのかよw」
「え、次? おう、邑田禅だ。【超高校級の陸上部】としてここにやってきたわけだ。お、どうした、まるで蛇に睨まれたナメクジのように動かないな」
邑田禅…。超高校級の陸上部はちょっと頭の回転が遅い、頭が悪いとは聞いてたけど…かなりなような気がする…。うん、これ以上は言わないでおく。
「ナメクジじゃなくて蛙だよ」
「…ナメクジって…睨まれてなくても遅いじゃねぇか」
あはは、たしかに。
「あ、自分か。自分は泊金人。【超高校級の落札者】とか呼ばれてる」
泊金人…。アメリカのオークションでよく高額で買い取るあの泊金人か。
「あ、金持ちの方ですね」
「…いや、お金に関してはあまり自身が無くてね…。あ、次どうぞ」
「おっけー。私は【超高校級の美容師】、狩切真転。髪を切られたい奴はここに出てきなー」
狩切真転…。彼女の美容院は予約3年待ちという話を聞いたことがある。3年もたったら、髪の毛のびまくってると僕は思う。
「鉄伽ちゃーん、その長そうな髪切らせてよ」
「ちょっと、ハサミ振り回さないで~」
「…なんか面倒くせぇけど、一応。亜麻崎伴、巷では【超高校級の当たり屋】なんて言われてるが、そんな誇れるものでもねぇがな…」
亜麻崎伴…。彼があの有名な当たり屋か。想像してたのより、穏やかそうだ。
「当たり屋~? あんた相当警察に世話になってんじゃないの~?」
「あぁ。もはや刑事と仲いいくらいだ」
そんなにか…。たまげたなぁ…。
「えっと、相模貴勝って言います。【超高校級のドッグトレーナー】をさせてもらってます。なんか大変なことになっちゃったけどよろしく~」
相模貴勝…。よく動物の番組で目にする。超一流のドッグトレーナーで、言うまでもなく犬をこよなく愛してるらしい。
「…自分猫派なんだよね」
「ええ!? 犬より猫だなんて…しょぼーん」
「あ、あたしは犬派だよ! うん!」
「本当!? ありがとう!! お礼にこのドッグフードをあげますよ」
「え? あぁ、あ、ありがとう…」
「ちょっと、そこもういい?」
「あ、はい、どうぞ」
初対面だけど、だんだんと疑心暗鬼は薄まってきているみたいだ。
やっぱり僕の自己紹介の判断(意思に反して口走った)は正しかったみたいだね。
「【超高校級のモデラ―】の七井入弥ちゃんでーす。入弥ちゃんって呼んでね!」
七井入弥…。どこかのホームページだったかどこかで見かけたことがある。そう、たしかモデラ―って…。
「モデラ―? モデルとは違うのか?」
「全っ然違うから! そんなのもわかんないわけ!? モデラ―ってのは模型を製作する人のことを指すんだよ」
「…ボク、鉄道模型だけが守備範囲なんだよねぇ」
「模型に守備範囲ってあるんだ…」
「次は私ですね…。【超高校級の囲碁部】、狂来理囲です。囲碁だけなら誰にも負けませんよ」
狂来理囲…。囲碁の全国大会で7連覇してるあの高校生棋士か。
「囲碁? うーん、将棋なら勝てる自信があるよ」
「オレはオセロ以外やったことねーわ、当たり屋だし」
「機会があれば、お相手になりましょうか」
「「え」」
こうして全員の自己紹介が終わった。そう思って辺りを見回すと、隅にずっと景色の見えない窓を眺めている女の子が目に入った。
「あれ、あの子は…?」
僕の声に全員が反応し、その女の子に視線を向ける。しかし、彼女はこちらを見るどころか、ピクリとも動かない。
「胡乱。この二文字が彼女の体の周りを漂っているよ…」
僕はその無言の圧というか何というかわからないけど、重い重い重圧の中を歩いて彼女のそばへ足を運んだ。
すると、気づいたのか、それとも最初から自分たちの動向を見ていたのか、その女の子は突然僕のほうへ首を向けた。そして一言、こう放った。
「何?」
ええ…。内心僕はそう思った。
何だろう。この人には悪いけど、不愛想を絵にかいたような…。そういう雰囲気を受け取った。
「あ、あのー。君はまだ自己紹介してないよね」
恐る恐る、言葉を一つ一つはっきりと口にする。
「…どうして自分の素性を明かす必要があるわけ?」
…なんだか機嫌が悪そうだなぁ。それともそう見えるだけか。
「おいそこの女ぁ」
当たり屋だと名乗った亜麻崎君が、こちらへ歩いてきた。え、大丈夫かな。突然一触即発の事態になったりしないよね…。心配になりながら、僕は亜麻崎君の次の言葉を待った。
「こっちは疑心暗鬼の中で自分の名前、んで才能も晒したんだぞ。なのに何でお前は言わない?」
「…必要ないから」
「はぁ?」
本当に怖いな…。とてもヒヤヒヤする。
「ったく。疑心暗鬼に陥ってた自分が言うのもなんだがな、オレは協調性がないやつが大嫌いなんだ。オレは今のお前の態度がとても気にくわないね」
「そう、気にくわないなら殴るなり蹴るなりしてみれば?」
「お前…オレの体当たりがどれだけ強力か知らねぇみたいだな。すぐに思い知らせてやるよ」
「ちょ、ちょっと」
亜麻崎君の手が出そうになったので、さすがに危ないと思って間に割って入った。
「なんだ。お前はこの女の態度になんとも思わねーのか?」
「いや……何も思わないわけじゃない。ただ、今は本人が嫌がってるし、自然と自己紹介するようになるまで待つべきなんじゃないかな」
僕がそう言うと、亜麻崎君は僕のほうを見たまま黙り込んだ。そして…。
「…わかったよ。お前の顔に免じて、許してやる」
「ありがとう亜麻崎君」
亜麻崎君が戻ろうとしたその時、
「わかったわ」
ため息ととともにその女の子の声が聞こえた。そして彼女は立ち上がって僕たちのほうへ体を向けた。
「…一度しか言わないから。…名前は蒼城暮羽。…これでいいわね…」
「え、まだ才能をきいてないよ」
四十万さんが首をかしげる。
「…ここでは言いたくない」
僕のほうに目線を向けながら、蒼城さんは静かな声で言った。
「言いたくない…? …何かやましいことでもあるのか」
「やましいことじゃない。…だけど、まだ暮羽は言いたくない」
そう言って、再び蒼城さんは椅子に座ると、窓を眺め始めた。
これ以上は何を言っても無駄みたいだ…。
「…放っておいても時間が経てば才能が何か話してくれるどー。少なくともオレはそう願ってるどー」
「そうですね。むやみに聞き出すのは最善ではないように思えますね」
そんな声が全員から聞こえるようになった。蒼城さんが才能を話してくれる日が来るかはわからないけど…なんだかわからないけど僕も信用してみようという気持ちになった。
気になるのは…、彼女は才能を明かしたくないと言ったとき、目線はみんなのほうではなく…僕に向けられていた。ミステリーの読みすぎかもしれないけど、彼女は僕を見て才能を明かしたがっていないように思えてきた。
僕の杞憂か? でもたしかに蒼城さんはずっと僕を見ていた。どこかで会ったことがある? いや、確実に初対面だ。恨まれる覚えもなければ喜ばれる覚えもない。
…今はそんなことを考えたところで無駄か…。
結論に辿り着いた瞬間に後ろから肩をたたかれた。
「空閑君…でいいんだよね」
「え、うん。……えっと君はたしか…水宮さんだったかな」
「すごいなぁ、一度聞いただけですぐ覚えちゃうんだ」
話しかけてきたのは、水宮さんだった。
「ところで、どうかしたの? もう、自己紹介は全員終わったはずだし…」
「うん。何だか、この列車の探索でもしてみようってことになってさ」
「探索…?」
「それで、肩書を見て一番頭がキレそうな空閑君にいろいろ聞いてみようと思って…」
列車内の探索…。たしかに重要かもしれない。もしかしたら秘密の脱出口があるかもしれない。といっても走行中の列車から外に脱出することができるかどうかはとても怪しいけど。
「…わかった。僕にできることならぜひ協力させてよ」
次回へ続く…