ダンガンロンパ 絶望エクスプレス 〜希望駅8時発 絶望行き急行列車〜   作:MOGIぴー

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CHAPTER1 『クローズド学園』
(非)日常編 Ⅰ 


「それにしてもよぉ、ここシャンデリアついてるけどよ、本当に列車なのかこれ」

 亜麻崎君が上を見上げる。僕がここに入ってきたとき真っ先に目に飛び込んできたのはこの巨大なシャンデリアだった。どこかの怪人のお話で登場するあのシャンデリアにはもちろん大きさは劣るが、それでも天井を軽く覆ってしまうほどだ。

「おそらくこれは寝台列車っていうやつだね」

 列車マニアの四十万さんの目がきらめいているのがわかる。

「寝台列車というのはその名前の通り、車両の中にベッドが付いているんだよ」

「つまり、長旅用の列車ってわけか」

「その通りだよ泊君。長距離を走る列車だからベッド以外にも、食事ができる食堂車だとか外の景色を眺めながらくつろげるスペースもあるし、カフェ、バー気分を味わえるラウンジも兼ね備えてるんだ」

 まさに走るホテルってわけだ。バー気分を味わえるラウンジか…。おっと、とてもそこで執筆をしたい気分だが、今はそんなことを考える場面ではない。

「じゃあこの車両は?」

「うーんくつろげるスペースなのかなぁ。こんなに壮大なシャンデリアは初めて見たし…この列車の雰囲気も初めましてなんだよね」

 ここがくつろげるスペースだって…? シャンデリアのせいでくつろげる気がしないね。そういえば、僕が目覚めた車両もくつろぎスペースだったのだろうか。ホープエクスプレスに乗った時座ったのは普通の座席だったはずだけど…。

「とにかくまずはこの列車をいろいろと探索する必要がありますね」

「ワイはもう休みたいね…」

「そういえばあのモノクマが言ってなかったっけ、電子生徒手帳に案内図が載ってるって」

「ああ、あのぬいぐるみ、そんなこと言ってたかもねー」

 僕は再び電子生徒手帳の電源をオンにし、メニュー画面が現れると、「列車の案内図」という項目をタッチした。

 画面に表示されたのはたしかに列車を上からみた図、案内図だ。1号車には何も書かれていないから運転席のみがある動力車と考えてよさそうだ。2号車はラウンジカーとなっているみたいだ。そして3号車から6号車までは個室が一つの車両につき4つずつあるようだ。3号車、4号車の個室は空白だが、5号車、6号車の個室には生徒の名前が書かれている。そして食堂車、ダイニングカーを挟んで8号車、9号車にくつろぎカー、10号車から13号車までが個室のある車両となっている。今度は10号車、11号車の個室に名前が記されている。

 それぞれ名前が書かれているところが自分の個室ってことか。

 そして自分たちがいるここが8号車のくつろぎカーだということも一目瞭然だ。

「おおおお、こんな列車が世の中にあるなんて、邑田禅、感激だ!」

「まぁ、存在くらいなら知ってたけど…。ねぇ、美容室カーは無いわけ? 私定期的に誰かの髪切らないとアトピー出るんだけど」

「ナニソレコワイ」

「でもこの図だけじゃまだわからないことが多いどー」

 

ピーンポーンパーンポーン

 

 突然車内にチャイムが響き渡った。みんながきょろきょろと周りを見る。

 

『あー、マイクテス、マイクテス』

 

 その声はつい何十分か前にも耳にしたあの声だった。

 

『オマエラ~、学園には明日の朝ごろに到着する予定なので、それまで自分の個室で休んでてね~。鬱憤が溜まってる人とか、復讐したい相手がいる人とかは今のうちにさっさと誰かを殺したほうがいいよ~』

 

 それだけ言って車内は再び静かになった。

「あいつ…」

「まぁまぁ亜麻崎君。ここから出たいのは山々だけど、僕たちが先に仕掛けてしまったら相手の思うつぼだよ」

 僕はそう言って亜麻崎君を手で制した。

 相手は僕たちにコロシアイをさせようとしている。何が目的なのかはわからない。しかし、ここでがむしゃらに相手に突っ込んだり、下手に何かをしたりすれば確実に僕たちの命が危ない。ここは僕たちの…自分たちの命の安全が最優先だ。

「…自由時間ってことだよね?」

 特定の個人ではなく、ここにいるみんなの誰かに問いかける形で水宮さんは言葉を発した。

「正直ここから早く出たいけど、事を急くのも危ない。なら従うのには抵抗があるが、あのモノクマの言うとおり、個室で時間を過ごしたほうが良さそうだね」

 電子生徒手帳を眺めながら言う泊君の声はとても冷静で透き通る声だった。

「…てことで自分は先に個室に行くわ」

 泊君は電子生徒手帳をデニムのポケットに入れ、9号車の方へ消えていった。

「…とりあえず解散…かな?」

 夕道さんの声を合図にみんな各々に自分の個室があるであろう方向へ消えていく。

 僕は…。とにかく疲れた。目が覚めたのはまだ1時間前だというのに、この疲労感。

 僕はすぐそばにある椅子に座り込んだ。

 くつろぎカーというだけあってか、椅子は柔らかくて座り心地が良い。だが、それだけでこの疲労感がすべてぬぐえるわけもなく、一気に脱力した。この状況をまだ呑み込めていないこと、モノクマの声が耳に障ること、その他もろもろが疲労感の原因だろう。

 …というかどうしてこんなことになったんだ…。僕は叶能学園に行けることをただただ楽しみにしていた。小学校よりも中学校よりも楽しい生活が待ってると思っていた。なのに、僕の前に現れたのは楽しい学園生活なんかではなく、モノクマとかいう悪魔だ。コロシアイ? 卒業? 突然現れて意味不明な校則を確認させられて…。

 ため息をつく。

 本当、人生ついてない。どうしてこんなに不運なんだ。僕が何をしたって言うんだ…。

 二度目のため息。

 生きていくことが辛い…。こう思ったのはこれで何回目だろうか。数えきれないほどに僕は人生を苦しく感じた。いっそ楽になってしまいたいと考えたこともある。その度にいつも僕に優しい声をかけて救ってくれたのが姉だった。両親から殺意を宿した目で見られる中、姉だけは僕と優しく接してくれた。ケガをしたらいつも治してくれたし、僕がいじめにあったらいじめてきた連中を自力で見つけては怒鳴りつけていた。

 しかし、今、もうここに姉はいない。いや、どこに行っても姉はもう助けてくれない。

「空閑君」

 自分の名前が呼ばれたことに気付き、顔をあげるまでには少々のタイムラグがあった。

 顔をあげたその先では水宮さんが心配そうな顔をしてこちらを見つめていた。

「ああ、水宮さん。大丈夫、ちょっといろいろ考え事をね」

 必死に、そして無理矢理に口角を上げて笑顔を作った。

「それなら安心なんだけど…。ねぇ、空閑君。…一体何が起こってるのかな…この列車」

「何が起こってるか、ね…。今はあのモノクマとやらが何かわめいてるだけだけど、今後どうなるかはわからない。…むしろ僕の中では嫌な予感までしてる」

「い、嫌な予感…?」

 そう、推理作家をやってる中、何かと現実世界でも嫌な予感が的中することが多い。現実に比べれば、小説みたいな創作物の展開はある程度の予想がつく。しかし、創作は創作。現実は何が起こるかなんてわかりっこない。

「…モノクマは本気でコロシアイをさせようとしてるのかな…」

「…あの声の調子じゃ冗談にも聞こえるけど、走る列車に閉じ込められている事実がある以上、本気だと考えて行動したほうがいいかも」

 モノクマの声から感じるものは普通ではなかった気がする。ただ耳障りが悪いだけじゃない。その不気味な声の奥に狂気じみた快楽をかすかに感じることができた。命を奪うことに対して躊躇いを感じない。むしろそれを娯楽、自己満足だと認識している。それがあの声からは読み取れる。

「空閑君はすごいよね」

 突然の自分への称賛の声に思わず彼女を見る。

「すごいって…?」

 自分自身、褒められたことは数少ない。そもそも身の回りに自分の才能を認めてくれる人がいなかった。そのためか、褒められるということにまだ体が慣れていない。それに他の生徒の方が自分より優秀に決まっている。自己紹介を進んでしたのも無意識だし、称賛されるほどのことはしていない。

「あのモノクマにこの絶望的な生活を強要されて、みんな最初は何も理解できないで冷静さを欠いていた。でも空閑君だけは違った。この状況を、落ち着きながらゆっくりだけど瞬時に見極めて、みんなをまとめる形にした。あたしは空閑君が一番頼れそうって思ってるんだ」

 まさか超高校級のアナウンサーにここまで褒められるとは思ってもいなかった。それに水宮さんは多種多様な才能を持っている生徒たちの中で僕を頼ってくれようとしている…。

「ありがとう、水宮さん。でも水宮さんほど僕は秀でた存在でもないし、世間の人たちの役に立っているわけでもないよ」

 やはりいつになっても自嘲癖が抜けることはなさそうだな。こういうところが自分の悪いところだというのは重々理解しているつもりだが、それでも簡単に悪いところを改善できないのが僕だ。

「…君は自分のことを過小評価しすぎだよ」

 水宮さんはそう言った。別に過小評価をしてるわけではないと思っている。なぜなら事実だから。どう足掻いても僕はこの超高校級の生徒達より上の存在になることはできない。

「でも僕には他人に誇れる取り柄が何もないんだ。そう、ただ平凡な小説を書くことしかできない」

「本当にそうかな。出会ってまだ半日もたってないけど、あたしは空閑君が他の人より何かに長けてるって確信してるよ。絶対にもっとみんなに誇れることがあるよ」

 眩しい…。水宮さんの笑顔が眩しい。まるで真夏の太陽のように、そして野原に咲くヒマワリのように。この人の顔を見ていると、何かが浄化されていくような…。何か癒し効果が働いているのか…。

「だからもっと自分に自信をもってさ、誇れることは誇ろうよ」

「…ありがとう、水宮さん。…なんだか少しだけだけど目が覚めた気がするよ」

 水宮さんの持つ癒しの魔力。恐るべし。

 

 

 僕は水宮さんに礼を言って自分の個室の前で別れた。

 そして電子生徒手帳のロックを解除する際に使ったカードを、個室の扉に取り付けられている認証機にかざす。ピッという機械音がして、扉が自動で開いた。どうやら扉は自動開閉らしい。扉の内側からもこのカードを認証機にかざすことで自由に開閉ができるようだ。つまりは、扉を開けるときも施錠するときもこのカードが無いとまずいわけだ。

 個室内は想像してたものよりも広々としていた。

 高級と言わんばかりのランプとベッド。天井の照明はプロペラ付きで壁は西洋風、床は見渡す限りに絨毯が敷かれれている。高級ホテルじゃないか…。

 逆に落ち着かないとはこういうことを言うのだろう。今日からここでずっと体を休めなきゃいけないというのはある意味では地獄かもしれない。いや、列車に閉じ込められている時点で既に行先は地獄だけかもしれない。

「なっ、これは…」

 これで終わりでは無かった。ベッドの傍らにある棚に推理小説が隙間なくおさめられていたのだ。

 驚いた。あの有名な推理作家から知名度の低いマイナーな作家までほぼすべてがそろっている。まさに空閑薫に特化した部屋と言える。

 これもあのモノクマが仕組んだことなのだろうか。そうだと仮定するならば、一体あいつは何者なんだ…?

 棚に入っている小説は全部自分の好みのものだ。それすらもあのモノクマは網羅してるというのか…。…本当にただコロシアイをさせたいがためにここまで用意しているというのは……異常だ。僕たちを相手はどこまで調べつくしているんだ。

 一度は癒しの力で回復したものの、再び僕を不安の底へと突き落とす。

 …今いろいろ考えたところで進展することは何もない。そう考えた僕はベッドに身を投げた。

 

 

 時計は夜の7時を指し示していた。そろそろお腹が、空腹で悲鳴をあげそうだ。

 何か食料が無いか、僕は個室を出て食堂車へと向かった。

 そしてたどり着いた食堂車には一人の生徒の姿があった。

「蒼城さん…?」

 僕が声をかけると蒼城さんはこちらに気付いた。が、すぐに視線を手元に戻した。手元には料理が置かれていた。

「その料理は…?」

 2人しかいない空間に何だかとても気まずい空気が流れる。本当に気まずい。

「…適当に冷蔵庫をあさって見つけたものでちょっと軽い食事を作っただけよ。何か文句ある?」

 ええ…。どうしてこの人はいつもツンツンしてるんだ…。

 と、とにかく何か会話を…。

「…え、えっとその料理、蒼城さんが作ったんだね」

「…これくらい普通じゃないの?」

 僕はスクランブルエッグを作る自身も無いんですが…?

「えーっと…す、すごいね。そうだ、ちょうど僕も夕食を食べに来たんだけど、いいもの何かあったかな?」

「…」

「ほら、もうすぐみんなも夕ご飯を食べにやってくるだろうし…」

「…」

 蒼城さんはずっと手元を見ていて、一切僕と目を合わせてくれない。なんだか…ちょっと困っちゃうよね…。なんて話しかけたらいいのかなぁ…。

「…あ、そうだ蒼城さん。ちょっとその料理食べさせてよ」

「え?」

 よし、ようやく顔を上げたぞ。

 このまま強引に料理を食べさせてもらおう。あとは褒めてあげたら、少しは仲良くなれるのでは…。

「じゃあ早速いただきまーす」

「あ、ちょ」

 僕は料理の隣にあったフォークを手に取り、丁寧に切られているハンバーグの一切れに刺し込んで、持ち上げた。そしてそのまま口の中にハンバーグを放り込んだ。

 こ、これは…。

 めちゃくちゃおいしい…。冷凍されていたハンバーグをただ熱しただけのものとは明らかに違う。

 思わず仰天した。

「すごくおいしい!」

「…あ、そ、それは…どうも…」

 蒼城さんは頬を赤らめて目を伏せる。さっきまで仏頂面だった蒼城さんの照れる顔を見られて、少しうれしくなった。

 うれしくなったのが影響したのか、それともハンバーグが美味すぎて味覚が興奮したのが影響したのかわからないが、頭の中にひとつ考えが浮かび上がった。

「蒼城さん! みんなの分の料理も作ってあげようよ!」

「え。……な、何を言って…」

「ほら、今はみんな蒼城さんへの接し方があまり分かってないけどさ、料理を振舞うことでぐっと仲良くなれるかも」

「い、嫌よ…」

 最初は断っていた蒼城さんだったが、何度も僕が頼んでいるうちに、

「…仕方ないわね…」

と最終的に蒼城さんが折れる形で決着がついた。

 

 

「す、すごいどー! これ、空閑と蒼城が作ったどか!?」

「ま、まるで高級料理ですね…」

 僕と蒼城さんで作った料理はとても絶賛された。

「いやいや僕は手伝っただけ。ほとんどは蒼城さんが作ったんだよ」

 蒼城さんは僕の隣で、今にも蒸気が耳から出てきそうなくらいまで真っ赤になっていた。

「え、めっちゃうまいんだけど。蒼城さんすごい」

「ワイは信じんぞ…。こんなおいしいもの…」

「おいしいって言ってんじゃねぇか」

「今度僕の家のチワワ用のドッグフードでも作ってもらいましょうかねぇ…」

「じゃあわしも盆栽用のエサでも作ってもらおうかなー」

「盆栽用のエサって何…」

「うーん、ま、この入弥ほどの実力ではなさそうね」

「七井さん、声が震えていますよ」

 その後、蒼城さんはみんなに話しかけられ、とても戸惑っていた。

 

 ~ ~ ~ ~

 

ピーンポーンパーンポーン

『オマエラ、おはようございます。朝ですよー、8号車のくつろぎカーにお集まりくださーい。来なかった奴はオシオキするクマよー』

 

 陽気なチャイムと狂気の声で、僕は目を覚ました。

 結局、あの夕食パーティーのあとも何も起こることはなく、本当に朝になったようだ。

 あの声をずっと耳にするのはかなり抵抗があるが、ここから生きて脱出するためには仕方ない。

 予め用意されていた寝巻きを脱いで、シャワーを浴び、普段着に着替える。

 部屋を出る際に、水宮さんと出会ったので、一緒に8号車へ向かった。

 

 

「全員そろったクマねー、それにしてもさ、夕食の時に何みんなでキャッキャウフフしてんのさ、ボクも混ぜてよ」

「いや知らないよ!」

 8号車に16人全員が集まると、モノクマは口火を切る。

「さーてさて、あと30分で学園に着くんだけども」

「…叶能学園に着くのか?」

「だからそれは昨日も言ったとおり、叶能学園には着きません!」

「じゃあどこの学園なんですか」

 モノクマは数秒程黙ったままだった。そして…。

 

「…叶能学園悪魔分校だよ~!」

 

 そう言った。

 

 このとき僕はまだ知る由もなかった。

 悲しき惨劇が起こるなんて、これっぽっちも…。




どうも、好きな元素は酸素、MOGIぴーです。
やっと(非)日常編の投稿ができました。
実は(非)日常編の話の部分はおおまかな流れが最初に作ってあるわけではなく、パッとその場で思い浮かんだ形で進めているので、起承転結が上手くできていなかったり、謎な展開が多かったりしてて、作ってる自分自身も「微妙だなぁ」と思うこところがたびたび見受けられます。
それでもどうにかこのCHAPTER1を完結させることをまず目標に頑張りたいと思います。よろしくお願いします!
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