ダンガンロンパ 絶望エクスプレス 〜希望駅8時発 絶望行き急行列車〜   作:MOGIぴー

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(非)日常編 Ⅲ

 北側の探索を終えた僕たちは東側へ移動し、そこの担当のグループと合流した。2グループとも既に探索を終えていて、ここで待機していたという。

「1階2階とも普段生活する教室がこれでもかってくらいズラっと並んでたどー」

「3階は科学系統の教室ばっか。入弥、つまんない」

「薬品倉庫にはドクロのラベルが貼られた小瓶が沢山あったよ」

「ど、毒…?」

「…こんな状況だし…毒薬があってもおかしくないどー」

 東側はクラスルーム棟兼理科棟になっているようだ。たしかに向こうまで教室が続いている。

 

 昼になった頃、僕たちは西側のグループと合流した。

「3階は美術室や音楽室、それからパソコン室もありました」

「1階も家庭科室とかいろいろあったぜ。この突き当りは物置になってるよ」

「この上は?」

 泊君が階段を指さして言う。

「階段のすぐ脇に書庫みたいなのがありますよ。図書室と言ってもいいかもしれません」

「そういえば」

「え、どうしたの? 狩切さん」

「うん、3階に一つだけ開かない扉があってさ」

「開かない扉…? 金庫とか?」

「モノクマに訊いてみたらわかるんじゃないのかな」

「ボクに何か用?」

 僕が言い終わった瞬間、突然モノクマがどこからともなく現れた。

「うわぁ!?」

「ひどいなー、そんなに驚くことないでしょ空閑君!」

「そ、そんなことより…。開かない部屋があるらしいけど、なんなの」

「えー、秘密だよ。言っちゃったら面白くないからね、うぷぷ。ていうかさ、ボクを呼び出すなら電子生徒手帳からできるんだけど」

 え? すぐに僕は電子生徒手帳を取り出して電源を点けてみた。

「ホーム画面の『アラーム』の下に『モノクマ呼び出し』っていう項目があるでしょ。それ押してくれたらすぐすっ飛んでくるからさ、今度からはそれで呼び出してよねクマ」

 ホーム画面にはたしかに「モノクマ呼び出し」という項目がある。いや、普通に声で呼んでも飛んでくるじゃないか…。いや、むしろそっちのほうが手っ取り早いまであるよ。

「これアラームついてたんか、知らんかったわ~」

「あぁ、それ使っても使わなくてもどっちでもいいよ。バイブが欲しいなら、使えばいいよ」

「バイブ付きかよ。ったく、携帯電話じゃあるまいのによぉ」

「電話もできるクマよ」

「本当にできるみたいですな…」

 妙に使い勝手がいいのがちょっと腹立つ。

「てことで、今度からは電子生徒手帳使えよ。アディオス」

 そしてまた姿が消えた。

 

 ドタンバタン!

 

 突如耳に飛び込んできたのは何かが床に落ちたような音だった。

「上から聞こえてきたけど…」

 狩切さんが言うと、泊君が真っ先に階段を駆け上がり始めた。僕もそれを追う。

 階段を登り切って左側から光が漏れている扉があった。さっきの音はこの中のようだ。

 泊君は勢いよく扉を開けた。

「いってて…」

「い、伊野君…?」

 そこにはお尻をさすっている伊野君の姿があった。

 そばには脚立…。どうやら、脚立からバランスを崩して落ちてらしい。

「おい、大丈夫かよお前」

「…あ、あぁ…。ちょっとバランスをね…」

「危ないですよ! 頭から落ちてたら死んでますよ?」

「それにしても…本が多いね…」

 見渡してみると、かなりの数の本棚が並んでいる。

「さっき言ってた書庫ですよ。まぁ書庫と言っても、最初はただの物置だったところに沢山本を移しただけだろうけど」

 壁と本棚のデザインがマッチしていないことから、一目瞭然だ。

「伊野君は脚立なんか使って何してたの?」

「ワイか…? その本棚の上に置いてある本が気になったんだよ…」

 そう言われて、全員の目は本棚の上に注がれる。

 そこには周りとは明らかに雰囲気が違う、分厚い本が置かれていた。

「背表紙に…『希望ヶ峰学園事件ファイル』って書いてあるんだよ…」

 希望ヶ峰学園事件ファイル…?

「事件ファイル…? しかも希望ヶ峰学園の…?」

「何か不祥事でも起こしてたのでしょうか…」

「ふむ…」

 わざとらしくつぶやいた泊君は颯爽と脚立を上り、颯爽とその本を持って降りてきた。

「見たほうが早いだろう?」

 泊君は適当なページを選んで開いた。

 

 〈File.16 叶能学園本校生徒会11人惨殺事件〉

 〈File.17 叶能学園闇光分校男子生徒転落死事件〉

 〈File.18 ホープエクスプレス脱線事故〉

 〈File.19 叶能学園予備学科生連続失踪事件〉

 

「な、なんだよこれ…」

「…おそらく、希望ヶ峰学園やその姉妹校である叶能学園、それに関する事件事故が全部これに記載されているんだろう」

「物騒すぎねーかこれ…。特に生徒会惨殺事件なんて…普通じゃねぇだろ…」

 生徒会11人惨殺事件…。名前だけで恐ろしさが嫌というほど伝わってくるのがわかる。

 事件名の下にはその事件の起きた時期と時間、被害者の名前など詳細が事細かに記されている。

「転落…事件…」

 夕道さんが震えた声で呟いていることに僕は気づいた。表情もうかがってみると、強張っているのがわかる。だが、下を向いてしまい、表情は分からなくなった。

 僕はこの時何かを感じていた。嫌な予感なのかもしれない。妙な胸騒ぎ。ひょっとしてこの本は……”コロシアイをさせるために置かれている”のか…?

 

 

 学園内を一通り調べ終わった僕たちは再び食堂に集合した。特にすることも無さそうなので、泊君の提案で自由行動となった。

 自由行動とは言うものの、僕はあまり動こうとは思わなかった。もちろん、まだこの非日常的な生活に慣れていないこともある。しかし、先ほど目にした謎が僕の頭から離れてくれないのである。他のことを考えている余裕はない。

 その謎というのも、例の希望ヶ峰学園事件ファイル、それから職員室で見つけた謎の新聞紙の一部。希望ヶ峰学園事件ファイルには、僕らの記憶の中にもある、希望ヶ峰学園での事件が発端である「人類史上最大最悪の絶望的事件」を筆頭に数々の事件や事故が記載されていた。その事件が収束したのちに、希望ヶ峰学園はリニューアルし、現在は日本各地に姉妹校、兄弟校、分校を置いている。叶能学園もその一つだ。しかし、そんな事件がまとめられた書物がこの叶能学園の分校に置いてあるのは不自然だ。

 新聞記事の一部と思われる紙切れに関しても、情報を得ることは全くできない。

 というようないつまでも答えの出ない謎を繰り返し考えていた。三十分ほど。

 考えても無駄か。結論にたどり着いた僕は、そこで思考をやめ、特に意味もなく校舎の西側へと歩いた。何を考えるでもなく、ただひたすらに足を進めていると気づいたときには突き当りの物置の前までやってきていた。何気なく物置をのぞいてみると、そこには亜麻崎君がいた。

「亜麻崎君」

 僕は声をかけてみた。声に反応して、彼は僕のほうを振り返る。

「おぉ、空閑」

「何してるのこんな物置で」

「いや、少し思い出にふけってただけだ」

 そう言って再び明後日の方向に顔を動かす。

「思い出?」

「あぁ。思い出って言っても、大していい思い出じゃねぇ。むしろかなり悪い思い出だ」

 少し意外だった。このメンバーの中で一番強そうな亜麻崎君が…。

「…何か、唐突にお前にこの思い出を話したくなった。こっち来い。聞かせてやる」

 本当に唐突だな。

「あ、はいじゃあ遠慮なく…」

 僕は箱の上に腰かけている亜麻崎君の隣に、箱を持ってきて座った。

「…お前は最初にオレのことを見て、才能を知って、どう思った」

「ど、どうって…?」

「他の奴らは将来有望な、まぁ素晴らしい才能であふれてる。だが、オレに与えられた才能は『超高校級の当たり屋』だ。世間一般的に認められた才能じゃねぇんだ」

「…」

「確かにオレは中学の時から当たり屋をやってたさ。オレには当たり屋の才能があるって、自惚れてた。当たり屋を始める前から大分荒れててな。家庭環境も最悪だった。まぁいろいろあって中学を中退、んで当たり屋になったわけだ」

 家庭環境、か…。

「あの頃は自分自身も荒んでた。当たり屋の才能があると勘違いしてた時期があったのも、その荒みが原因だよ。高1のときだったよ、自分がどれだけ社会から不必要とされているか、自覚したのは」

「…」

「中学の時の親友にばったり出くわしたんだ。…それだけならオレが自分の荒みを自覚するには至らなかっただろう。でも、その親友は刑事を目指して猛勉強をしてる最中だったんだ。オレとあいつは中学まで同じ場所にいたのに、いつの間にかあいつがオレよりずっと上を進んでいた。あいつは夢に向かって励んでいるってのに、オレは何だって。オレは悪事で今を満足してるだけの愚か者じゃねぇかって気づいたのさ」

 亜麻崎君の声は震えていた。

「だからオレは自分を変えようと思った。当たり屋をきっぱりやめて、今まで遅れた分を全て取り返す勢いで勉強したんだ。そう、この希望ヶ峰学園に通うために。その結果、希望ヶ峰学園からスカウトされた。だが、才能の肩書は当たり屋だって…。一度は肩を落としたよ。あの希望ヶ峰学園からもそう認識されてしまっていたことにね。でも、そこから努力して印象を変えてやるんだっていう親友の助言で、ここまで来たんだ。それなのに、こんな意味の分からねぇゲームに巻き込まれて…」

 言いたいことを全部吐き出したのか、亜麻崎君の声は途切れた。そして、はっと我に返ったかのようにこちらを見る。

「すまねぇ。いろいろと…」

「大丈夫。…僕だって、その、荒んでた時期があったから、その気持ちは痛いほどわかるよ」

「お前もあったのか」

「いろいろとね。いっそ死んでやりたいなんて思ったこともあったよ」

「…でもお前は推理作家としてこうしてスカウトされてる。オレよりずっとましさ」

「そんなことないよ!」

 僕は慌てて否定する。事情は僕と似通ったところがあるけど、勇気や実行する力に関しては彼のほうが断然上だ。

「なんだか気が楽になったぜ。ありがとな」

「あ、うん、どういたしまして」

「今度機会があれば、お前の話も聞かせてくれよ。もちろん気が進んだらの話だが」

「わかったよ」

 僕はそう言って物置を後にした。

 

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