「全員飲み物は手に持ったな。それではこれより『第一回虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会チッチキチーお菓子や飲み物だってなんだってあるんだよ親睦会』を始める。我ら同好会の今後の活躍と発展を願って……乾杯!」
『かんぱーーい!!!』
「って、まだ10人集めれてないのにこんな事してていいんですかぁ……?」
スクールアイドル同好会の中心になりつつある総悟が、黄色い液体(Re○lGOLD)でなみなみと注がれた紙コップを掲げ、乾杯の音頭を取る。
お菓子やらジュースの入ったペットボトルが大量にテーブルの上に置かれており、総悟を含めた女子3人でテーブルを囲っていた。
開催の宣言を高らかに行った自分の先輩に対し、その場のノリで自分も紙コップを掲げたのはいいが、ふと冷静になって現状を顧みるようにかすみは呟いた。
口ではそんなことを言っているのだが、既に目の前に置いてあったお菓子を開封しており、ポッキーを咥えていた。
「いいに決まってるさ。この短いスパンで歩夢と桜坂の2人を仲間に加えることができた。順調に事が進んでいるわけだし、たまにはこうやって頭の中を空っぽにして騒ぐ事だって必要さ。それにちゃんと生徒会にも許可を得てるしな。派手に騒いだってお咎めもらうこともない」
「そうですか?それなら今日はたーっぷり楽しんじゃいますよぉ!先輩、かすみんといーっぱいおしゃべりしましょう」
「うむ。ノリの良い後輩は俺は好きだぞ。好きなだけ食べて、飲んで、騒ぐと良い。もちろん、みんなで遊べるゲームだって取り揃えてあるぞ」
通学用のいつもの慣れ親しんだ鞄を手に取って、その中から据え置きゲーム機やらボードゲームの数々を出していく総悟。
その鞄の大きさからして、明らかに収まるサイズではなかったのだが……せっかくの楽しい空気に水を差すのはどうかと思ったので、かすみは気にしない事にした。
かわいいかすみんは空気だって読めるのです。
ちなみにだが、この日の為に副会長権限を行使して、本来なら3日前までには提出しなければならない持ち込み申請を前日に提出し、ゴリ押しで生徒会長に許可を得ていたりする。
しかもその内容もボードゲームを備品として、お菓子を災害時に備えての食品等と偽っていたりしていた。
たちの悪い事にちゃんと災害用食品をきちんと持ってきてる辺りが無駄に徹底している。
「私、今日の為にクッキーを焼いてきたんだ。みんな良かったら食べてね」
「えぇえ!歩夢先輩が作ってきたんですか?てっきりお店で買ったものかと思っていました」
「歩夢の作るクッキーはそりゃもう絶品だぞ。一度味わったらそんじょそこらで売ってる所の物では満足……そう、サティスファクションできないくらいにな!」
「もう、褒め過ぎだよ」
「なんでそこだけ英語なんですか……ではかすみんもお一ついただきまぁす…………美味しい!これとーっても美味しいですよ!」
「えへへ、良かった。いっぱいあるから遠慮しないでね」
巾着袋のように可愛らしい小袋を広げると、見事な焼き色をした様々な形のクッキーが顕にした。丸型、星形、ハート型、定番の型もあれば天秤や弓矢と言った、星座を型どった物まで選り取り見取りだ。
クッキーの上には色とりどりのマーブルチョコやトッピングシュガーが乗せられていた。
物によっては星型のクッキーに顔が出来ていたり、ハート型の物に縁枠をなぞるように描いて二重の物になっていたりとチョコペンによって一手間加えられていた。
造形によって見るだけではなく、食べる側に飽きさせないように何重にも手間をかけ作るのは丁寧で細かく、歩夢ならではの物である。
何度も食べている総悟はやはり歩夢のクッキーは最高だと絶賛しなている。
店にまで出向き高い金を払うよりも、その倍の額を歩夢に支払って、作ってもらうほうが断然良いと思っていた。
普段から、朝食やら弁当といい知らずうちに歩夢に胃を掴まれているのであった。
初めて歩夢のお菓子を食べるかすみもその魔性の魅力を持つクッキーに、虜にされたのか一つ。また一つと手に取り、かわいいかわいい小さな口の中に運ばれていった。
総悟とかすみが自分の作ったクッキーを笑顔で食べているのを見て歩夢は喜んでくれてよかったと安堵していた。
そんな中――――
「どうしたのしず子?早く食べないとなくなっちゃうよ」
「あ、はい。えっと……頂いてもよろしいですか?」
同好会に加入したてであるしずくはお菓子に手を出さずに、紙コップを両手に持ったままだった。
そんな様子に隣に座っているかすみが気付き、歩夢お手製クッキーを頬張りながら何かあったのかと声をかけた。
しずくが同好会に復帰した時は、なぜ急に来なくなったのかとかすみに詰め寄られひと悶着があった。
スクールアイドルをやめたわけではなく、むしろスクールアイドルとしてステップアップをする為に一度演劇に集中し、今以上に表現力を磨く為に武者修行に出ていた……とのことであった。
それを聞いたかすみはちゃんと言って欲しかったとやや怒り気味であったが、しずくが辞めたわけではないと確証が得れた事に安心していたという事を総悟は見抜いていた。
「なんだ遠慮しているのか?遠慮はいらん。全部俺の奢りだ。歩夢が作ってくれた物は対象外だが……まぁ、些細なことだ。ほら、今日の主役の一人がそんな顔してるのはいただけんな。くいねぇ、くいねぇ」
「主役……ですか?」
「さっき総君が親睦会って言ってたけど、私としずくちゃんの歓迎会も兼ねているんだって」
「それに加えてスクールアイドル同好会の復活記念もですよぉ!このお菓子の数々は先輩と一緒にかすみんが選んだんだよ」
「そ。本当は2人の手を煩わせたくはなかったんだが、手伝うってどうしても聞かなくてな……完全サプライズにする予定だったんだがな」
「……ということはわ、私だけ何もしてないのでは……!?」
「だから気にすんなっての。主役はドーンとえっらそうに構えてりゃいいんだって。それにこの企画も桜坂が戻ってくる前日に決まったものだからな。知らなくて当然だ」
そうは言っても、一人だけ何もせずにお祝い事に参加するなんて真面目で責任感が人一倍強い彼女には余計に居心地が悪くなってしまったようだった。
再開してから数日しか経っておらずまともに会話したわけでもない総悟だったが、コヤツ真面目な委員長タイプか。そんでもって教師に良いように使われる断りきれずに溜め込むタイプだなと、様々な人と関わってきた経験から洞察していた。
そんな総悟が取った行動は
「ほら、口開けな」
しずくの口の前にクッキーを差し出す……いわゆるアーンであった。
「えっ、え、えええぇぇえ!?」
「そ、総君?」
「なっ!」
総悟の突拍子のない行動に女性陣は三者三様な反応を取る。
邪気のない表情と共に目の前に差し出されたクッキーに顔を赤らめつつ、戸惑うしずく。
幼馴染の予想不可能回避不可能な行動に慣れてはいるものの、目を見開く歩夢に。
こちらも驚きで目を見開き、勢いよく立ち上がり二人の行動を凝視しているかすみ。
「なんだ食わないのか?クッキーは嫌いか?」
「い、いえ!そういうわけでは……」
「ならなんの問題もないな。あーん」
周りの視線なんて気にもせず我を押す通す先輩に、そういう問題ではないような……と混乱する頭の片隅にてしばし冷静になるしずくであったが、その理性の一方で「何を迷う必要があるの!ユー、食べちゃいなさいよ!先輩の指ごと!」と自分の中の悪魔が囁いていた。
入学前から再開することを心望み、あの時助けてもらったお礼を出来れば、それだけで満足です……と考えていたしずくであった。
……が、彼女も恋に憧れる花の女子高生。それも昔から演劇に打ち込み、恋愛物の小説や劇を見たのは少なくはない。
あわよくば親しい関係になれたら……と期待していなかった?と問われれば嘘になる。
目の前には憧れの先輩が、自分にお菓子を食べさせようとしている。好きな異性にしてもらいたいことTop10にランクインしているシチュエーションを目の辺りにしたしずくは頭がおかしくなりそうだった。
「あ……あ~ん」
あぁ、どうやら欲望には勝てなかったよ。
真面目な彼女だってガス抜きは必要だからな。
目に見えてわかるくらいに顔を真っ赤にしながらも、目を瞑り小さな口を開く。
あまり大きく開けると、はしたない子だと思われないかな?等と心配する辺り、恋心が芽生え始めた女の子と言うべきだろうか。
「うんうん。素直な良い子は好きだぞおじさんは。あーんっと」
しばらく顔を合わせていない親戚のおじさんの様な事を言いつつ、餌を待つ雛鳥のように待ち構えるしずくにむせ込まないよう気をつけながらもクッキーを放り込んだ。
この男、しずくとは対象的に羞恥を感じていない辺り妙に手慣れているように見えるのは気のせいではない。
「どうだ、美味いか?」
「は、はい。とっても美味しいです!」
味なんてわかっていない程衝撃が強かったのだが、反射的にそう答えていた。
先程の総悟の(素直な良い子は)好きだゾを聞いてしまったせいで、舞台表で万雷の喝采を受けた時と同等の喜びを感じてしまっていたのだ。
「だろ?なんせ、歩夢が、作ったクッキーだからな。好きなだけ食べるといい」
しずくの返答に満足げに頷き、クッキーが置かれた皿をしずくの元へと近づける。
俺も食べるかなーと、クッキーを摘まんだ総悟だったが自身の口に運ぶよりも先に待ったの声をかけた人物がいた。
「あの……先輩。もう一度食べさせて……いえ、あーんをしてもらってもいいですか?」
「なんだ、お兄さんに食べさせてもらうのが癖になったってか?ま、桜坂は今日の主役だからな。姫様のお言葉に従うのが道理。いいぞ。今日一日なら何度だってしようジャマイカ」
「あ、ありがとうございます。それと差し出がましいかもしれないのですが……私のことはしずくと呼んでもらえないでしょうか?」
「名前呼びかー……あんま女子の名前を呼ぶのはちと抵抗があるんだけど……まぁ、いいか。……しずく」
「は、はい!」
「しずく、しずく、しずく、しずく、しずく、しずく、しずく、しずく、しずく」
「あ、あうぅぅ」
「ではこれは?」
「ふぇ?えっと……もずく?…………はっ!せ、先輩!」
そうあなたの理想のヒロインことしずくであった。
中々自分の欲を表に出さず、内に溜め込むタイプなのだが一度
極上の品を味わってしまえば、何度だって味わいたくなるのが人間である。
彼女も例外ではなく、1年近く募らせていた想いが溢れ出したのか、周りが気にならなくなる程積極的に攻めていた。
そんな急にグイグイ来出した後輩に対し、まったくブレることなく接する総悟。
そのもずくはどこから取り出したんだ。
「もずく……じゃなかった。しずく、あーん」
「むぅ、今わざと間違えましたよね。……あ〜ん」
意地の悪い笑みを浮かべる総悟に、頬を膨らませるしずくであったがそれも一瞬だけ。憧れの先輩に食べさせてもらうというシチュエーションには真面目な後輩でも勝てなかったよ……餌を待ち詫びる雛鳥と化した後輩に、心がほっこりしつつ、総悟は2枚目のクッキーを手に取り、しずくの口の中に入れようと近づけていった。
「すきありっ、はぁーむっ」
「あ」
……が、その
かわいいかすみんを差し置いて、しず子とイチャついている総悟を見て、ふくれっ面になっていたのだが、総悟が2度目のあーんをする所を見て私に良い考えがある!と言わんばかりにひらめき、迷うことなく作戦を決行した。
「はむ……あむ……ちゅぱっ。にひひっごちそうさまでしたぁ。先輩、とーっても美味しかったですよ!」
「あー、うん。そいつは良かった」
突然の出来事にやや呆気にとられる総悟であったが、かすみのしてやったりな憎たらしくもかわいい笑顔を見て、唾液で多少濡れた指を気にかける暇もなく空返事をした。
そんな中総悟よりも状況を把握できずにポカンとしている人物が1名いた。
「…………?先輩?…………かすみさん……?」
しずくであった。視覚を遮断していても聴覚は聞き取れるのだから気付かないのはおかしいやろ。と思うかもしれないが、一度集中してしまえばたちまち自分の世界を展開し、見る物を魅了させ周囲すらも自分の世界に取り込むようにと演劇にて見についた集中力は伊達ではなかった。
つい先程までは完全にしずくの独壇場であった。
何時まで経っても口の中にクッキーが来ない為、まだかまだかとご主人様の帰りを玄関の前で出待ちする愛犬のように待機していたしずくだったが、一度目を開くしずく。
先程まで右手に持っていたクッキーは消え、その代わりと言ってはアレだが、指に誰かの唾液だと思われるものが付着し手首を抑えてい総悟に、今までずっと様子を見ていた歩夢は自分のポケットを探り何かを取り出そうとしていた。
どういう状況なのか理解が遅れるしずくであったが、ゆっくりと顔を見上げるとそこには勝ち誇った笑みを浮かべるかすみがいた。
「ふっふーん♪しず子のクッキーはかすみんが美味しくいただいちゃいましたぁ」
しずくは激怒した。
「かすみさん!横取りするなんて卑怯ですよ!」
「そういうしず子の方こそ!私たちを蚊帳の外にして先輩を独り占めするなんて!かすみんだって先輩とイチャイチャしたいんだから!」
「い、イチャイチャなんて……そ、そんなことしてません。これは……先輩と後輩のスキンシップ……ですよ?」
「自分で疑問を感じてる辺りぜんっぜん説得力がなーい!仮にスキンシップだったとしてもそれならかすみんだってかわいいかわいい後輩だもん。先輩とあーんなことやこーんなことをしちゃうんだから」
「あ、あーんなことやこーんなこと……!?そ、そんなのダメダメダメ!許しませんから!」
「ふーんだ。しず子のお許しなんていらないもんねー。今度はかすみんのターンなんだから!」
「あんなことやこーんなこととか……人前でなんて……か、かすみさんにはまだ早すぎると思います!」
「しず子ってばいったいなにを想像したの……?ていうか、私には早すぎるってどういうこと!?今絶対かすみんの体型見て言ったでしょ!」
「……そ、そんなことはないですよ?」
「嘘!ものすっごく目が泳いでる!しず子だってそんなかすみんと変わらないはずなのに……!そ、そうだ。先輩はどう思います?かすみんとしず子のどっちが――――」
「ふきふき……うん、これでよし。綺麗になったよ。それと総くんもあまり食べれてないよね。はい、あーん」
「って聞いてないですし!」
「さて、それじゃ今後の事について話そうと思う。」
「今後の事……ですか?えっと、このカードは初めてですよね。うーん……では『オズワルド』で」
「オズワルド……?誰なのそれ。しず子の友達?かすみんが引いたのは……これまた初めてですよね。『かすみん騎士団精鋭部隊員』に任命します!」
「それって名前じゃなくて役職だと思うんだけどなぁ……総くん、引き続きメンバー集めでいいんだよね?」
「あぁ。基本方針は変わらん。だがメンバー集めは俺がメインで動くつもりだ。みんなはスクールアイドルとしてやるべきことをしてほしい。ちなみにオズワルドと言うのは今までの流れからして、シェイクスピアが残した作品に出てくる架空の登場人物だろう。お笑いの方じゃないからな?一応言っとくが」
「うっ……なんでバレたんですk」
「そうです!さすが先輩です!オズワルドはリア王の登場人物なんです!もしかして、先輩読んだことあるんですか?」
「一応な。これでも副会長だしな。有名なやつとか教師に勧められたもんは一通り読んだ」
「!!そ、そうなんですね!あ、あ、あの!先輩ってミュージカルや演劇に興味があったりしますか?もし少しでも興味がありましたら私と一緒に――――」
「はーいしず子。いったん落ち着こうねー。趣味が合いそうだからって先輩に迫らないの!かすみんたちを置いてけぼりにしないで!」
「あはは……しずくちゃんの気持ちもわかるけどね。自分の好きなものに興味を持ってもらえるのって。あ、次は私の番か。えーっと……この子ってたしか」
「はいはい!かすみん覚えてまーす。その子は『かすみん騎士団親衛隊隊長』です!」
「あれ?そうでしたっけ。それは別のカードに名付けていませんでした?」
「そうだな。愛・地○博のマスコットキャラみたいな奴につけてたな。そいつのは俺がつけた」
「『ギブソン・上村』だよね?」
「歩夢、正解」
あれから時間が経過し、結構な量があったお菓子も大分減った頃。4人は総悟が持ってきていたテーブルゲームに興じていた。
人生すごろくやトランプ、UNOと言った定番な物もやっていたが今行っているのはまた別のゲームだ。
中央に置かれた山札から順に一枚づつ捲って皆に見せるように置いていく。引いたカードの絵柄が初めてのものだった場合、引き当てた人物がそのカードに名前をつけて場に置く。それを繰り返していき、名付けられた既存のカードを引いた場合、その名前を言い当てる事ができたプレイヤーが今まで重ねられたカードを入手できる。
最終的に持っているカードの数が多かった者が勝利というものである。
詳しく知りたい人はなんじゃもんじゃでググれば良いと思うよ。
現在の順位は一位から順に総悟、歩夢、しずく、かすみである。
「むぅー!歩夢先輩良く覚えてましたね……先輩が付けた名前ってすっごく覚えにくいです!」
「そうかな?私は印象に残りやすいけど」
「そうか?最初の名前よか覚えやすいだろ」
「そりゃそうかもしれませんけど……なんなんですか。そのカタカナと漢字を付け足した売れない芸人みたいな名前は……」
「始めたては名付け親の先輩と歩夢さんしか答えられませんでしたものね……」
『九重茎の木パイナップル』『親戚のお兄さんの妹さんの旦那さんの初恋だった人にそっくりな異星人』『ガ○ル地方でメタモルフォーゼしてそうな人気投票万年最下位暫定王者』etc……とにかくなんの関連性のない滅茶苦茶な名前を付けていた総悟であったが、名付けた本人と総悟の事なら9割型知り尽くしている歩夢にしか答えられなかった為、(本人曰く)簡単な名前へと変えたのだ。
「これも個性さ。それで活動方針についてだが、みんなはレッスン……この場合は自主トレか。そっちに力を入れてほしい」
「え?メンバー集めの方はいいんですか?先輩だけじゃなくて、かすみんたちみんなで探した方が良いと思いますけど」
「かすみちゃんの言う通りだよ。総くんだけに負担をかけるわけにはいかないよ」
「大丈夫だ、このくらいどうってことはない。それにメンバー探しをするなって言ってるわけじゃないさ。多少気にかけてくれたらこっちとしても助かる……が、それにかまけてばかりと言うのも良くない」
「そうですね……スクールアイドル活動を疎かにして、後々響いてきたら困りますよね」
「でもでも!それで人数が足りなくなったら元も子もないんじゃ……」
「安心しな。同好会を廃部になんてさせんし、何も考えなしに提案してるわけじゃないさ。次のメンバーの当てだってある」
そう言いながら山札を捲る総悟。同好会に加入してくれる人物に心当たりがあることに一同首を傾げていた。
3人の中から代表として歩夢が誰の事か尋ねようとした矢先来訪者を告げるノックの音が響いた。
「中に誰もいませんよー」
「失礼します」
「むむっ、生徒会長じゃないですか。わざわざ部室にまで来て何か用ですかー?」
予期せぬ来訪者とは書類の束を抱えるこの学園の生徒会長だった。
かすみのあからさまに歓迎していない態度にも関わらず、軽く受け流して会釈をしていた。
そんな中こちらもあからさまなネタ発言を交えた返事をした総悟だったが「誰もいないって言ったんだが……」と小声で言いつつ生徒会長ジト目で見ていた。
「か、かすみさん。失礼ですよ」
「何言ってるのしず子!この人は私たちの居場所を奪おうとしている敵なんだよ?愛想良くなんてできないから」
「随分と嫌われてしまいました。中橋さん、部員集めの調子は如何ですか?」
野良猫が毛を逆毛て外敵を威嚇する様に敵意を剥き出しにしているかすみにしずくが袖を引っぱり宥める。
しかし、そんなかすみの事なぞ意に介した様子もなく、総悟に話しかけていた。
こういった露骨に敵を作ろうとした発言をするから誤解を生むんだなと何処か他人事の様に考える総悟であった。
「見てわからんか?ご覧の有様だよ!」
「それは私が言うべき物だと思いますが……余裕そうですね?」
ちらりとボードゲームやお菓子が置かれたテーブルを一瞥する生徒会長。
どう見ても廃部に追い込まれた部の光景ではない。
「な、なんですか?何か言いたい事でもあるんですかっ」
「かすみちゃん落ち着いて。どうどうどう……」
「そうですよ。私の分のお菓子上げますから」
「かすみん馬じゃないですし、お菓子なんかで誤魔化されないからね!…………あ、このチョコレート美味しい」
「……見てのとおりだ」
「なるほど。部員同士の結束力を深めていたのですね」
確かに最初の方でも親睦会と言っていたが、半分は自分が騒ぎたいだけだと言うのは黙っておくことにした。
「演劇部員の桜坂しずくさんも戻ってきているようですし、これなら期日までに10人集まるのも夢ではありませんね」
「当然。もとよりそのつもりだ。……って、もう行くのか?」
「えぇ。どうやらお楽しみの所をお邪魔してしまったみたいですし」
「まぁ、待て。お茶の一杯くらい飲んでけ……とは言わんが、菓子の一つくらい食っていったらどうだ?」
「お言葉は嬉しいですが遠慮して――――」
「まぁまぁそう言わずに!」
用はもうありませんと踵を返そうとした生徒会長だったが、客人の一人もてなさないのは同好会としての沽券に関わると思った総悟は引き止めた。
そもそも廃部寸前だと言うのに地位も名誉もあったものではないが。
頑なに拒む生徒会長に、口を開けたその瞬間目にも止まらない速さで歩夢のクッキーを投げ込んでいた。
「んんっ!?……な、なにをするんです…………」
「歩夢」
「うん。生徒会長さん。アッサムのストレートティーです」
「あ、どうもありがとうございます……」
急に口の中に感じた異物に戸惑う生徒会長だったが、吐き出すわけにもいかなかった為そのまま咀嚼する。
幼馴染に名前を呼ばれただけで、言いたいことを全て把握した歩夢は事前に準備していた紅茶の入ったティーカップを差し出す。
ほぼ反射的に受け取った生徒会長は立ちながらだが、それでもゆっくりと気品と品性が感じられる手つきで飲んでいく。
「美味しい……」
その自然と漏れた呟きに総悟は部員全員にアイコンタクトを交わす。
『客人だ!盛大にモテなして味方につけようぞ!』
『『『おーっ!』』』
結局菜々が開放されたのは、自身を呼びつける放送が流れるまで足止めされるのであった。
時にはこういう寄り道的な話も。
次回はきっと新メンバーが出る予定。
投稿は未定。