花園かおりは某大学教育学部卒二年目の24歳。就職が決まらず実家に戻っての就職浪人。
身長162cm体重48キロ。B86W56H85と出ている所は出ていて引っ込む所は引っ込んでいるほぼ完ぺきに近いスタイル、
モデル体型で手足が長く、髪は背中まであるロングストレートで茶色に染めている。
やや清楚なイメージに見えるが結構芯はしっかりしていて活動的なほうである。
目はパッチリしていて小顔。若干の幼さを残しつつ美しさも兼ね備えた男受けをしそうな顔をしているのだが
しかし高校時代までは部活に精を出していた事もあり異性関係は奥手で男に全く免疫の無い生活をしていた。
そこで一念発起して大学デビューを果たし彼氏が出来るもその彼氏の浮気により別れる。
そのせいか結局異性と付き合ったのはその一回限りでそのまま現在に至る。
性格は出しゃばるタイプでは無いものの自分の意見はちゃんと言うほう。
実家は小さな工場を経営している。ただ経営は思わしくなく一度不渡りを出している。
現在約5000万程の借金があり今度不渡りを出したら倒産もありうると囁かれている。
その為か就職に焦っていて片っ端から教員採用試験を受けたもののどこからも良い返事が無く諦めかけていたところ
尽光学園から採用通知が郵送されてくる。
文字通り飛びあがって喜び一も二も無く快諾する。
それで今回はふと一人の教師と数名~数十名の生徒だけしか存在しない世界って一体どんな設定でどんな世界観なのだろう?
と疑問に思いもしもそんな世界があるとしたらこんな感じかな?と自分なりに設定を考えてみたら面白くなってきまして
それを形にしてみようか?と思い筆を取りました。
時間軸としてはジンコウガクエン2の前日譚みたいな物語です。つたないですがよろしくお願いいたします。
※pixvにも同じ物を上げてあります。
~プロローグ~(五年前某月某日)
ドタドタドタ!廊下の方からそんな足音が部屋の中からでもはっきり判るくらいの騒音がした。
バタン!とドアが開きその男は息を切らせながら「月島!決まったぞ!大臣のゴーサインが出た!」と気色満面の笑顔で叫ぶ。
「本当ですか?森田さん!」こちらも驚き信じられないものを見るような目で聞き返す。
「本当だ。これでやっとこのプロジェクトが動き出せる」と森田と呼ばれた男はそう云った後
「月島。お前はこれから文科省に移動になる。そこで新しい課を作りこの計画を進めてくれ」そう宣言した。
「判りました。しかし石井さん(防衛大臣)がよく首を縦に振りましたね」「あぁ内閣府が動いてくれたよ。
これであの土地は俺たちの物だ」
「あの土地が使えるなら一気に現実化出来ると思います。ありがとうございました。」と深々とお辞儀する。
「埋め立ては間もなく終わる予定だ。頼んだぞ。日本の未来はこの計画、、尽光計画に掛かっていると言っても過言じゃないんだ。」
「判っています。必ずや成功に導いてみせます。」「判っているとは思うがくれぐれもマスコミには嗅ぎつけられるなよ?」
「はい・・」そんな二人の会話が続く。(響子。やっとだ。やっとだぞ)月島は興奮する気持ちを止める事が出来なかった。
それから5年の月日が経つ。そして物語は動き出す。
運命の日
「やったー!」(これでやっと私も教師になれる)喜ぶのは当然だろう。これが最初の第一歩なのだから。
本当は中学教諭が第一希望だったが贅沢は言っていられない。
採用通知にはこう書いてあった「当学園への採用が決まりました。6月1日に指定の場所に来てください。」
指定の場所の住所に学校なんてあったかしら?どうも記憶が曖昧だが気にしても仕方がない。
それに6月1日?中途採用にしても随分と中途半端な季節だ。もしかしたら最初は非常勤なのかもしれない?
やや不安はあるが今は贅沢を言っていられる状態ではないのだ。
最近知ったことだがお父さんの会社がかなり危ないのだ。少しでも働いてお金を実家に入れなければ・・。
もちろん両親は気にするなとは言ってくれるけれど気になるものは仕方ない。
本当に何とかなるのなら従業員達がひそひそ内緒話をしないだろう。
もちろん聞くつもりは無かったけれど聞こえてしまったのだから。
「聞いてるか?この会社危ないらしいぜ?」
「ああ聞いてるよ。なんでもメイン銀行が貸し剥がしをしたせいで不渡りを出したらしいな。」
「社長は金策に走ってるらしいがどこの銀行も貸してくれないらしいぞ?」
「万策尽きたってやつか?」「さぁな?」
こんな状態でごく潰しでいられる訳が無いではないか。
最悪会社を潰して破産宣告をすれば良いと父は云うのだがやはり子供の頃からの思い出の工場が無くなるのは寂しい。
「何か出来ないかな?」無理だと云う事は解っていた。でも諦めきれない。そんな思いを抱いたまま就職活動を続けていたのだ。
もちろん教師になったからと言って全てが上手く行くわけではない。
だがそれでも私の就職が決まって喜ぶ両親の顔を見て何か物事が好転するような予感みたいなものを感じたのだ。
(いや絶対に好転するって信じよう。前向きに考えていればきっと・・)そういえばその採用通知に不思議な文言が書かれていた。
(もしかしたらお悩みを解決出来る方法をご提案できるかもしれません。)
「?どういうこと?こんな文言見たことないわ」そしてこうも書かれていた。
(三か月間指定する寮に入居していただきます。その間は自宅には帰れません。
三か月帰らなくても良いように着替えとスーツケース等のご用意をお願いいたします。尚電話等でのご質問は受け付けておりません。
もしご了承いただけない場合今回の採用は見送らせていただきます。)
「(三か月?寮に入るのは構わないけれどなぜ三か月だけ?しかもその間自宅に帰ってはいけないなんて?)」
どういう事なのだろうか?なぜそんな制約を掛けるのかさっぱり判らないかおりは
一人でずっと考えたものの結論は出ず、結局は直接行って疑問をぶつけるしかない。
というなんとも行き当たりばったりな結論になってしまっていた。
そして運命の6月1日を迎えることとなる。
6月1日
その日はあいにくの曇り空であった。
「あ~あ。せっかく気合入れてスーツを着てきたのになぁ」とかおりは空を見上げながらポツリとつぶやく。
その日のかおりの服装は濃紺のスーツに胸元にリボンタイが付いた白いブラウスそして
膝丈のタイトスカートに黒のパンプスといういかにもリクルートな組み合わせであった。
曇りとはいえ季節は初夏であり上着を着ていると少々暑苦しいのだが相手は初対面であり初勤務の日なのだ。
ビシッとした恰好をしておきたいという気持ちの方が強かった。
指定された場所に行ってみるとそこには学校など何も無く何の変哲も無い普通の喫茶店があるのみであった。
「本当に場所はここであってるの?」そう不安を感じていたかおりは思わず独り言ちてしまう。
大きいスーツケースを持ってこんな所で一人で待ちぼうけとはかなりおかしな絵面だろう。そして雲はますます濃くなっていく感じである。
出来れば雨は降りだして欲しくないなぁ。などと考えていたところに黒塗りのベンツSクラスが待ち合わせ場所の前に停車した。
(うぁ。これヤバイお仕事の車じゃないよね?)などと緊張しつつも間抜けな感想をしていると中から男性が一人運転席から出てきた。
身長は180cm程度であろうか?髪は整髪料で後ろに固めてあり顔にサングラスを掛けている。
黒いスーツに金色のネクタイを付けているとても堅気な人とは思えない服装であった。
「花園かおりさんですね?私は尽光学園の使いの者です」
「えっ?」思わずかおりは目が点になり言葉に詰まる。「あぁ立話も何ですから喫茶店に入りましょう」
その男はそう言ってかおりからスーツケースを引っ手繰るように持ち喫茶店に入っていく。
(強引だなぁ)と思いながらもスーツケースを取られた為仕方なく後をついて喫茶店に入るかおり。
男はかおりに席を促し着席したのを見計らいサングラスを外して店員を呼ぶ。
「何か飲みますか?」とその男に聞かれ、思わずかおりは「そ、それじゃブレンドで」と恐縮しながら答えた。
男は満足そうにうなずき店員に向かって「それじゃブレンド二つで」と笑顔で注文した。
そして店員がカウンターに引っ込むと「さてと」と言いながら名刺を取り出す。「申し遅れました。私こういう者です。」
そう言って差し出された名刺には「文部科学省尽光課課長 月島 真悟 」と書かれていた。
(文科省?お役人さん!?)思わず言葉を失うかおりであった。
独りぼっちの学園?
「すいません、驚かれましたか?」申し訳なさそうに低頭する月島に思わず
「いえ、こちらこそすいません」とかおりは月島と同じように平謝りする。
お互いの謝罪合戦が少し落ち着いた所に丁度注文したブレンドが出てきた。
そのタイミングで月島は「まずはコーヒーでも飲みましょう」と提案してくる。
「はい」と答えコーヒーを一口啜り気を鎮めるかおり。月島はそれを見てから
「とりあえず順を追って説明したいのですがよろしいでしょうか?」と聞いてきた。
かおりに否やは無く説明会は始まった。
「まず私は直接的な学校関係者ではなく、ただ新しく出来た学園の管理をしている人間なのです。
とはいえ今は箱を作っただけで学園関係者と呼べる人間は現時点では貴方一人だけです。」
「・・は?」思わず呆けた発言をしてしまうかおり。
「お気持ちは解ります。しかし本当にいないんです。出来立てホヤホヤでこれから人を入れるという段階なんです。」
「はぁ」なんとも間抜けな受け答えをしてしまうかおりであったが少しずつ頭が回転していく。
(要するに新しい学園を立ち上げから担当出来るということか。
途中から参加するよりは案外悪くないかもしれない)頭の中でそんな計算を始めるかおり。
しかし逆に云えばこれから人を入れるという初期中の初期の段階では学園が正式に始まるのは来年からなのだろうか?
それでは困るのだが?どうしようか?困惑しつつもメリットデメリットを頭の電卓で叩く。
「あの、、その学園って何時から始まるのでしょうか?」恐る恐る今一番聞きたい事を聞いてみる。
「もちろん今日からですが?採用通知に書いてありませんでしたか?」何を当たり前の事を、みたいな顔で宣う月島。
「・・は?」先ほど同じ台詞を言った記憶があるもののやはり出てくる言葉はこれだけだった。
どういうこと?
かおりは困惑した顔で「正直意味が解らないのですがどういう事ですか?」とやや強めの口調で月島に問いかける。
先程月島は箱は出来ているとか言っていた。つまり建物的には学園は完成しているのだろう。
しかし人がいなければ学園は運営できない。私一人で何が出来るというのか。
「すみません。言葉が足りませんでした。花園さん。でしたね?貴方は実験校という制度はご存じですか?」
実験校。それは日本国内にいくつかあるいろいろ先進的実験的な制度や機材を使ったテストモデル校の事である。
かおりは一応知識としては知っていたが具体的にはどんな学校があるのかはよく知らない。
せいぜいがスキップ制度がある学校が存在する事くらいだ。
「はい。一応は、、」と曖昧に答えるかおり。
「新しく出来た尽光学園はその実験校の一つなんです。」と自信満々に答える月島。
「その話と学校スタッフが私一人だけしかいない事に何の繋がりがあるんですか?」
段々と要領の得ない話にイラだってくるかおり。
「現在集めている生徒は20名。つまり今は一つのクラス。一人の担任だけで事足りると云う事です。」
「!?」思わずビックリするかおり。(何故そんなに少ないのか?特殊技能習得の専門学校ですらもっと生徒はいるだろうに?)
「何故そんなに少ないのですか?」と恐る恐る聞いてみる。
「そこが今回の肝でして、今回の実験はですね。はっきり言いましょう。落ちこぼれ救済の為の学校です。」
「落ちこぼれ?」自分でも間抜けな声を出したとは思ったがどうしても出てしまったのだから仕方がない。
「そうです。彼らは全員このままいけば良くて留年、もしかしたら最悪退学になる者たちばかりを集めたのです。」
「なぜそんな生徒たちを?」「先程言ったでしょう?救済ですよ。短期集中で三か月勉強に打ち込ませ、彼らの
学力を上げ無事卒業させる事。これが主目的になります。その為夏休みという概念はありません。
日曜以外はみっちりやっていただく形になります。」
「しかもですね。8月30日に期末試験というか卒業試験があるのですがこれに合格するとその場で高校卒業資格が得られるのですよ」
「え?たった三ヶ月学園に通うだけで高卒資格を得られるんですか?」思わず目を丸くするかおり。
「その通りです。自動車学校でも一か月の合宿コースがありますよね?あれの高校版だと思っていただければよろしいかと」
(凄い時代になったものだ。私の時代にも欲しかったなぁ)などと羨んでいるとその表情を見てとった月島は
「しかもですね。本人が国家公務員を希望する場合資格試験免除が与えられるのです。」
「え?つまり無試験で国家公務員になれるって事ですか?」思わず驚いて聞いてしまうかおり。
「もちろんです。但し高卒資格の物だけですが、、大卒資格が前提条件のものは無理です。」
それはそうだろう。だがそれでもかなりの破格だ。こんな条件を聞かされたら誰でも行きたくなるだろう。
というか私が18歳だったら喜んで飛び込んだはずだ。
そんなつまらない夢想をしていたところ「さて花園さん。それでは契約書を見てもらってよろしいですか?」
と声を掛けられ現実に引き戻されて思わず「はい!」っとトーンを上げてしまうかおり。
「まずは契約書の文言を見てください。そしてご納得していただけたらその誓約書にサインをしてください。」
「はい、、」失敗したと思いながらも契約書に目を通す。
そしていくつか気になる点が有ることに気づく。
「いくつか質問よろしいですか?」と聞いてみると月島は「もちろんです。ご納得いくまでは何でもお聞きください」
と笑顔で答えてもらえたのでいくつか疑問をぶつけてみるかおり。
「それでは、、まず学園の場所はどこなんでしょうか?」「それは特秘事項となります。お答えできません。」
「え?」「そうですね。それだけだとあまりに不親切ですね。ではヒントだけ、、
新しい埋め立て地であり周りが全て海の人工島になります。」
「はぁ」なんとも曖昧だが新しい埋め立て地と云うならそんなものか?と納得するかおり。
もしかしたら地名すらまだ決まっていないのかもしれない。そんな思いから場所の特定は諦める事にしたのである。
(現地に行ったら最寄を探してみれば何とかなるだろう)東京周辺の埋め立て地ならば何とかなる。
そんな思いもあったのでかおりはそこまで深刻に考えない事にした。
「それではこの合宿中は実家に帰れないというのは?」
「厳密に言えば合宿ではなく寮住まいなだけなのですが3ヶ月限定ですから合宿と捉えられても仕方ありませんね」
と少し肩を落としながら答える月島。
「理由は簡単でしてこの期間中は一切の知り合いとは接触しないでいただきたいのですよ」
「それは何故でしょう?」素朴な疑問を覚えるかおり。
「これは昨日生徒達にも言ったのですが学園にいる間は外部の雑音を一切カットしてそこに集中してほしいからです。」
「お気持ちは解りますがちょっと極端では?」当然の疑問だとばかりに云うかおりに
「報酬は三か月で100万円。9月1日にまとめてお支払する形になります。税込なので手取りはもっと減りますが・・」
といきなり報酬の話に入る月島。
「え?お金の話ですか?まぁ妥当だとは思いますが・・」いきなり話題を逸らされた事に困惑しつつも報酬は月換算で30万以上になる。
何の実績も無い新任教師としては悪くない金額だろう。
「いやそうではなく、」と言葉を繋げようとするかおりに月島は被せるように
「それからもしも生徒達全員無事に卒業させた暁には成功報酬もございます。」
「えっ?」と小さく驚くにかおりに対し「通知に書いてあったでしょう?良いお話をご提案出来るかもしれないと」
月島はそうやって口端を小さくあげニヤリと笑ったのであった。
提案
月島の言葉に心がざわつく。まさかとは思うがこちらの事情が分かっているのだろうか?
「提案?成功報酬って何でしょうか?」。つとめて冷静であろうと小さく深呼吸をして姿勢を正し月島の言葉に答えるかおり。
「失礼だとは思いましたが少々貴女の事を調べさせていただきました。
貴女のお父上が経営されている会社が危ないそうですね?かなりの借金があるとか」
「!!」サッと顔が青ざめていくのが自分でも判るくらいに動揺していた。
「なぜそれを・・」やっとそれだけの言葉を絞り出すかおり。
「何そこまで難しい話ではありませんよ。今回は最重要国家プロジェクトです。
変な人を採用したらマズイですからね。事前に興信所を使うのは当然でしょう?」
さも当然とばかりに宣言する月島。「そう、、ですか、、」やっとそれだけの言葉を紡ぎだす。
(この人は一体どこまで調べているのだろうか?)急に怖くなってきたかおりは心の中で警鐘を鳴らす。
「大丈夫ですよ。調べた内容の守秘義務は絶対です。これでも公務員ですからねw」
そういって少しでも凍った空気を解きほぐそうと笑いかける。
「先程も言いましたが成功報酬の条件は今回の一期生20名全員の卒業になります。その報酬額は・・一億です」
「いちお!」思わず大声を出してしまって途中で止めるものの喫茶店の店員はその大声に驚きこちらを振り向き不審そうに見ている。
かおりは恥ずかしくなり小さくなって小声で「本当なんですか?」と聞き返す。
「もちろんです。今回は予算がいっぱい出ましてね。いやぁ国がここまで本気でやってくれるとは思いませんでしたよw」
「そう、なんですか?」国家予算の配分なんて全然解らないかおりは曖昧にそう答える。
「そうなんですよ。これ証拠です。」と言ってバッグの中から一億円の小切手を取り出しかおりに見せる。
「今回ばかりは本気も本気の大本気です」そういってケラケラ笑う姿はまるで子供のようであった。
月島はそう言ってひとしきり笑うと表情を引き締め「では本題です。今回の役目引き受けてもらえますね?」
と月島はかおりの顔を凝視する。かおりはゴクリと喉を鳴らし「・・お願いいたします」と答えたのだった。
契約
「・・ではこの書類にサインを」そういってサインを促す月島。
かおりは震える手で何枚あるのか?というくらいの書類に名前を書いていく。
頭の中で一億円という言葉がリフレインしていく。少なくともまともな思考が出来ているとは思えない状態である。
「さてこれで契約は完了いたしました。今回の依頼を引き受けていただきありがとうございます。
いやぁ肩の荷が下りましたw」そういって微笑む月島。
「いえ、、こちらこそ精一杯頑張らせていただきます。」とこちらは曖昧な笑顔で答えるかおり。
「さぁそれでは学園に行きましょうか?」と席を立ちあがる月島。
「あ、そういえば、、今日からって言ってましたよね?」と今更な事を聞くかおり。
「ええ、そうです。と言っても今日は寮に荷物を置いて学園を案内して夕方に生徒と顔合わせ兼入学式って感じで終わりです。
本格的に始まるのは明日からですね。」と月島はスケジュール帳を見ながらそう説明してくれた。
喫茶店を出て例の黒塗りベンツに乗り込むと「さて時間も押してきましたから急いで行きましょう」と
思ったよりも時間が掛かってしまったとアピールする月島。
申し訳ない気持ちになったが別に私が悪いわけではないと思いなおす。
(こんな契約、時間が掛かるに決まってるじゃない)それを勤務当日に行うなど本来ありえない。
この人の常識を疑うわ。とばかりに月島の顔を凝視する。
ここで初めて月島の顔を観察したかおり。月島の横顔はそこそこ整っているように見えた。
目が細く眠ってるようにしか見えないが目尻が下がっていて笑顔のようにも見える。
鼻筋もすっきりしているし、口が普通の人より大き目だが切れ長なだけかもしれない。
ただ改めてよく目を見るとわずかに開いた目の奥が沈んでいるように感じられた。
(なんか読めない感じ。喫茶店での印象は良かったはずなのになんでだろう?)
何か上手く言葉には出来ないが心にしこりの様なものを感じるのであった。
月島の思考
(ふむ。まぁ何とか上手くいったか)
月島は運転をしながら隣の助手席に座る女をチラ見する。
恐らく上手くいくだろうとは思ってはいたがやはり不安は大きかったのだ。
何故当日に契約したのか?それはタイミングを計り大きな餌を見せて彼女の思考を停止させ、
どさくさに紛れて契約に持ち込みたかったからだ。
これが別の日であったなら今彼女の手元にある契約書を熟読し冷静さを取り戻し
親族友人などに相談等をされていたらとてもこうは上手くいかなかっただろう。
別に先程の喫茶店での話は嘘ではない。本当に条件を満たせば1億円は彼女のものだ。
但し明らかに彼女に都合の良い解釈をさせる為思考誘導をしたのも事実である。
(現地に着いたらその説明もしなければいけないな)月島はそう考える。
昨日は一日早く到着した男子生徒10名相手にオリエンテーションを行ったが
まぁ一癖も二癖もある連中ばかりであった。1~2名を除き(あんなの卒業出来るわけなかろう?)と思えるようなのばかりである。
もちろん「裏ワザ」を使えば卒業できそうだがまぁそれはそれだ。
(さて第一段階はこれで良し。そういえば今頃は女子生徒10名のオリエンテーションが行われてる頃だろう)
とそんな事を考えながらヘリポートに向かうのであった。
ヘリで移動?
「へり、、コプター?」と思わず呟くかおり。後ろのトランクルームからかおりのスーツケースを取り出しヘリに積み込みながら
「えぇ。最初に云いましたでしょう?学園のある場所は人工島だと」とさも当然とばかりに云う月島。
「いやそうですけど新しい埋め立て地なんでしょう?橋とか架かってないんですか?」と焦るかおり。
「いや架かってないですよ?っていうかあの距離の橋作ったらいくら掛かるのか?ってくらい遠いですし」
と困惑ぎみに話す月島。
「ちょっと聞いてないですよ?そんなに遠いんですか?」
「いやヘリで一時間くらいの距離ですよ?大したことないです」
「大した事あるでしょう!」と思わず叫ぶかおりだった。
「あとヘリに乗った後これを着けていただきます。」と渡されたのはアイマスクであった。
「?何故ですか?」と疑問を投げかけると「誓約書に書いてある通り学園の場所を教える事は出来ません。
上空から見下ろす事で場所の特定に繋がる可能性がありますので」
と説明する月島。まぁ確かに可能性はあるのだろうが元々方向音痴なかおりである。
見ても全く分からないだろうと反論したかったがそんな雰囲気でも無い為素直に従う。
「それでは出発しますよ?」と声を掛けてきたので「わかりました」と素直に返事をする。
目隠しされたまま「そういえばパイロットは?いないように見えましたが?」と聞くと「あぁ私が操縦しますので」と月島が
さも当たり前のように答える。
「あとエンジン掛けるとかなり音が大きいですから大声じゃないと聴こえませんのでよろしくお願いいたしますね。」
とそう言ってヘリのローターを回し始める。かなり音が大きい。正直あまり会話したい気分にならないな。
そうしてヘリは浮上していった。
到着
目隠しをしたままなので時間感覚が全く無いがどうやらヘリが地上に降り立ったのだろうという感触がある。
「到着です。目隠しはもう取って良いですよ!」と大きな声で怒鳴る月島。
それでようやく着いたことを理解し目隠しを外すかおり。
ヘリのローターがゆっくり止まっていくのを確認してから降りていく。
ヘリポートは三つあったが実際にヘリが停まっていたのは二機のみである。
一機はかおりと月島が乗ってきたもの。もう一機は8人乗りの結構大きめのヘリである。
「あぁ、、地上だ」思わず感慨にふけるも「さぁ今度は車に乗ってください。」
と促されヘリポートの近くに置いてあるランクルに乗車する。
なんか情緒もへったくれも無い感じの対応に少しふくれるものの仕事で来ているのだと思いなおす。
「最初にまず寮に向かいます。そこで荷物を降ろしてそれから学園周辺の案内をさせていただきます。」
「・・はい」やや事務的な言い方に違和感を覚えるかおり。
(喫茶店で話していた時とは別人とまでは言わないけど何だろう?急に冷たくなったというか感情を乗せなくなったというか)
気のせいだとは思うのだがなんか近寄りがたく感じるかおり。
無理に空気を変えようと口を開き「そういえば月島さんって文科省の人なんですね。
尽光課?でしたっけ?初めて聞く課ですね?どんなお仕事なんです?」
と話を振る。別に話題など何でも良かったのだが先程喫茶店でもらった名刺の事を思い出したのだ。
「・・私は元々厚生労働省の少子化対策担当課にいたんですよ。
それの一部が文科省に移って新しく立ち上げた課がこの尽光課なんです。
課の目的はまぁ子供達の健全なる育成・・って所ですかね?」
「へぇ?素晴らしいお仕事ですね!」やはり教育者になりたい後進を育てたいと思ってこの仕事を選んだかおりである。
同じ目線で同じような仕事をしている人は憧れるし尊敬できる。
「尽光課の尽光って由来あるんですか?」なんか興に乗りついつい聞いてしまうかおり。
「・・・光に尽くす。この光には二つ意味があって、一つは「子供は未来の希望であり光である」
という事から子供に尽くす。未来を創る。子供に託す。
そういった概念からとったもの。」とやや重たい口を動かす月島。
「素晴らしいです!なんていうか感動しちゃいました。」
今の時代にもちゃんと子供達の事を真剣に考えてくれる組織があるんだとかおりは感動する。
「ちなみにもう一つの意味は?」さらに興が乗り饒舌になっていくかおり。
「・・・・着きました」月島はそれだけ言ってランクルから降りた。
「・・・」かおりはもっと会話を続けたかったと残念な思いを抱きながら同じように助手席から降りた。
入寮
ヘリポートから車で10分程走った所に三階建てマンションの建物が道路を挟む形で向かい合わせで二棟建っていた。
外壁はベージュとブラウンのツートンタイルで落ち着いた感じの佇まいである。
屋根はオレンジ色のスレート瓦でなかなかオシャレだと思う。
三階部分は中央にしかなく見た感じそれほど部屋数は無さそうだが一、二階部分は横に広く1フロア何部屋あるのか?と少々気圧される。
中央エントランス前の自動扉の前に立つ。当然だが防犯機能付きでIDカードが無いと入れない作りになっていた。
「このIDカードを使ってくれ」そう言って一枚のカードキーを渡される。
さっそくかざすと自動扉が開いていく。エントランスに入り三階建ての割りになかなか広いロビーがある。
イスやテーブル等もいくつか置いてあってそこで寛ぐ事も出来るようだ。
そこには自販機等も充実しているから飲み物に困る事は無さそうだとかおりはホッとする。奥に向かうと突き当りが円筒状になっておりエレベーターが三基あった。
(三階建てでこんなに必要あるのかな?)と当然の様な疑問を抱いていると「横に広いんでな。
右と左はそれぞれ北棟と南棟に行く場所が別れているんだ」
と月島が補足してくれる。道理で各エレベーターが離れていると思ったがそういう事かと納得するかおり。
「ちなみに真ん中は君専用になる。」と言いながら月島は中央のエレベーターに向かって歩き出す。
真ん中のエレベーターだけはIDカードを翳す部分がありそれを翳さないと動かないようになっているらしい。
「これがエレベーターキーだ。使ってみなさい」と少し形の違うカードキーを渡される。早速翳してみると扉が開く。
しかも三階直通だそうだ。なんか突然VIPになったような気分になり落ち着かなくなる。
「いいんですかね?私なんかがこんな待遇で、、」と云うと
「当たり前だ。君はこの学園唯一の教師である以上学園長も併任してもらう。君がこの学園の代表と云う事になるな。」
と月島は少々突き放した言い方で擁護する。
「ふぁっ?」と鳩が豆鉄砲を食ったような顔で返事をすると丁度エレベーターのドアが開く。
目の前には長い廊下があり左右に扉があった。向かって右側には一つだけ扉があり左側には三つ扉があった。
「君に使ってもらう部屋は右側だ」と右側にある扉に向かう月島。「いやそうじゃくて学園長って?」と困惑するかおり。
「ん?ここでの肩書など大した意味など無いから安心しろ。何せ我々しかいないのだからな」と云われそれもそうかと思いなおす。
どうやら扉の鍵もエントランスキーと共通らしい。
エレベーターキーのみ別なのだが二つ持つくらいなら問題ないだろう。
ちなみに生徒が持っているのは自分の部屋とエントランスだけ開けられるカードキーらしい。
かおりが持っているキーも自分の部屋とエントランスだけなのだからそういう意味では同じなのだが。
「そうそう。マスターキーも渡しておこう。何があるか判らないからね。」と月島から新しいカードキーが渡される。
どうやらこれは寮にある全ての部屋が開けられるキーらしい。そんなものを預けられても困るのだが・・
「君の部屋に入る前に反対側の部屋の説明だが、、まぁ見てもらえば分かる。」と言われ扉を開いてみるかおり。
どうやら鍵は掛かっていないようだ。見てみると見事に何もないがらんどうである。
「全部屋こんな感じだが一番奥の部屋だけはキーボックスが置いてある。
そこには全ての施設の鍵があるのでここで管理してほしい。」と言われ何故私が?とばかりに自分の鼻を指さすかおり。
「君が学園の責任者だからだがそれが何か?」と真顔で言われる。「月島さんが管理すれば良いのでは?」
と反論すると「もちろん全てのスペアは持っている。だが基本的に全施設の開閉は
ここにある鍵を使う。そしてここには明日以降君以外入ってこれない。」
月島さんが云うにこのフロアはさっきの直通エレベーター以外だと外の非常階段でしか上がってこれないらしいのだが
外側からは鍵が掛かっていてその扉の前でこの部屋のカードキーを翳さないと入れないらしい。
「でも全てのスペアを持っているって事は月島さんも入れますよね?」と云うと
「入らんよ。今日だけは何も分からないだろうからアドバイザーとして活動するが基本私は黒子でしかないからな。」
と突き放すように云うのであった。
最後に自分の部屋に入りスーツケースをリビングルームに持ち込む。リビングがかなり広くて奇麗なので少々呆けていると
「申し訳ないが時間が無いので部屋の案内は最後にしてくれ。とりあえず外に出よう。」と提案してくる。
承諾し部屋を出ようとした時に月島は思い出したようにかおりの方に振り返ると
「すいませんがここにいる間はスマホを預からせていただきます」と言ってきた。
「え?」っとかおりは何でそんなことを?と疑問に思いつつ声を上げる。
「簡単な事ですよ。外部との連絡を取って欲しくないからです。」と即答してきた。
(どこまで秘密主義なのか?)とかおりはイラ立つが誓約書にサインした手前あまり文句は言えない。
確かにストレスは溜まるが三か月の我慢であると自分に言い聞かせるかおり。
「・・・どうぞ」と自分のスマホを差し出す。「ありがとうございます。確かに預かりました」と月島が事務的に答える。
「まぁここは元々電波状態はよろしくないので圏外になる可能性が高いのですが万が一という事もありますのでご了承ください。」
と重ねて云ってきた。
「・・月島さんはお役人さんなんでしょう?上と連絡取れないと不便なのでは?」
とやや皮肉げに云うと「ご安心ください。我々には固定電話がありますので」と返してきた。
「私たちがそれを使うのは?」「却下です」と被せ気味に答える月島。
お金の為とはいえ全く理不尽なルールがあったものだと自嘲気味に笑うかおりであった。
人工都市
「ここからは近いので徒歩で行きましょう」と提案する月島。
もちろん異論は無い為「わかりました」と一声掛けて付いていくかおり。
寮のすぐそばには線路が無い駅のプラットホームがあった。「あぁここは将来電車を通す予定なんですよ」と説明を受ける。
しかし突貫工事だったらしくところどころに鉄筋が剥き出しだったり工事用具がそのままだったりと
まるで映画のセットの裏側のようだと思うかおり。
ふと反対を振り返ると寮の数キロ向こうに波止場が見える。あそこに船を停めて物資の積み下ろしをしているのだろう。
その周辺に結構重機や鉄骨などが無造作に置いてあり工事の途中なのが良くわかる。
最初はなぜ車がランクルなのか?と思ったがまだまだ舗装されてない悪路の方が多く、その方が都合が良いのだろうと推察する。
張りぼての様な駅ビルを抜けながら「残念ながら駅前で出来ている施設は一部だけです。
それ以外は外見だけ作って中身はコンクリ剥き出しの状態ですよ。」と月島は仕方ないとばかりに嘆息する。
そう言われて近くの雑居ビルを覗くと確かに中は石膏ボードなどが積まれている以外は何も無くがらんどうだ。
「でも短期間でここまで作るんですから凄いと思いますよ?」とそれを見て慰めるような言い方をするが
「ファミレスとゲーセンそしてカラオケは使えます。一部セルフサービスにはなりますが」
と補足する月島。「いうまでもありませんが全部無料です」と更に言葉を加えた。
「全部無料って凄いですね?」とかおりは少し興奮するように云うも
「ここの場所で通貨はあまり意味ありませんから」と言われてしまう。思わず苦笑いをしてしまうかおりであったが
「そういえばそれらの料理って誰が作るんです?」
ともっともな疑問をぶつけてみる。
ファミレス
「厨房を見てみますか?」とすぐ近くのファミレスに入る。厨房はかなり広くウォークインタイプの冷凍庫と冷蔵庫がある。
「どうぞ」と冷凍庫を開ける月島。
そうすると中に大量のドリアやグラタン等が一人前ずつにグラタン皿に入れられて奇麗に並べて置かれていた。
オーブンに入れればすぐ食べられるようになっている。
パスタ等もレンチンすればすぐに出来るようになっていた。かおりは某イタリアンレストランチェーンを思い出す。
冷蔵庫の方もサラダ等が奇麗に一人前ずつ小分けされていた。
これを自分達で調理して出す形なのだろうか?と思わず呟いていると「実際に注文すればわかりますよ」と厨房を出て客席に向かう月島。
客席に座るとそれぞれのテーブルには注文するためのタブレットが置いてある。
それで好きな物をタッチして注文すれば終わりだ。
そこまで食欲が無いかおりはグリーンサラダのみを注文した。「?それでどうなるんです?」と聞くと
「サラダだけならすぐに来るでしょう」と月島が云った瞬間何やら駆動音が聞こえてきた。
そして不思議な容姿をしたロボットがサラダと様々な種類のドレッシングをトレイに乗せて運んできたのである。
「!」かおりは声にならない驚きの声をあげる。
形はふなっしーの顔を少しまともにした様な造形で愛嬌があるような不気味なような何とも言えない姿である。
下半身は寸胴で歩行はしない車輪での走行タイプ、手はミトンの手袋みたいな形、
腕は普段短いものの伸縮が可能なようでトレイを持つときは伸びているようだ。
「ウォークイン冷蔵庫の棚の上にも手が届くように設計されているので最大で2メートルは伸びますよ」と補足してくれる。
それ以外にもアームのみの調理ロボットがいたり月島曰くメニューにあるものなら何でもできるらしい。
試しにサラダを一口食べてみたが味は普通だった。
まぁ贅沢を言える立場ではないのでこんな場所で普通が楽しめるのであれば十分と思わなくては。
サラダを食べながらふと思い出したように「そういえばお時間が無いって言ってたのに大丈夫なんですか?」
と軽い気持ちで聞くと月島は「ぁ」と思い出したように呟き、
「いや街の案内も含まれていますので大丈夫です。」とやや焦り気味に云い
「・・ただ、、学園内施設のご案内は簡潔にさせていただきます。」と事務的に言い直した。
(・・時間の事忘れてたな?)としたり顔になりつつかおりは急いでサラダを平らげる。「さぁ出ましょう」と急いで席を立つ月島。
「食べた食器は、、ロボットさんが片付けてくれるんですね」
と片付けはセルフサービスか?と思っていた所に先ほどのロボットがやってきて食器をトレイにさげてくれる。
「あのロボットさんが食器洗うんですか?」と店の外に向かって歩きながら問いかけると
「あれはシンクに持っていくだけですね。別に食器洗い専用アームロボットがいます」とのこと。
(世の中無人化が進んでるなぁ)などと考えながら月島の後を追うのであった。
踏切?
学園に向かう道路に何故か踏み切りがあった。それを見たかおりはよほど変な顔をしていたのかもしれない。
「あれは今西側で空港を造っているのですがその空港に併設する空港駅行きの電車を走らせる為の線路ですね。」
と月島は聞いてもいない疑問に対して答えてくれる。
曰く空港と滑走路はまだ未完成なのだという。だから現在この島に来る方法はヘリと波止場に停められる程度の船だけである。
厳密に云うと本当はもう一つこの島に入る方法があったらしい。つい最近まで超巨大なメガフロートが北側に接岸していて重機やH鋼、セメントやアスファルト
砕石や土砂といった物を大量に運び込んでいたらしいのである。
「今はもうこの島から離れましたけどね」と月島は片目を瞑って話す。
空港を造ると云うことはそれぐらい大量の資材が必要なのだろうとはかおりでも理解できた。
「まぁ空港と言っても2000メートル級滑走路一本と三階部分がボーディングブリッジが一つだけのターミナル部分、
一階部分が空港駅という地方空港よりも小さなものですがね。」と補足してくれた。
歩きながら適当に相槌を打っていたかおりは昨今のニュースで流れていた赤字垂れ流しの地方空港と云うワードに反応する。
「しかし地方空港ですら血税の無駄遣いだなんてマスコミから
叩かれているのによくこんな小さな島に空港なんて造りましたね?」
と単にニュースの受け売りで喋っていただけなのだが月島は片眉をピクリと上げ「・・血税の無駄遣いか・・
小さい埋め立て地と云っても2千ヘクタールはありますし羽田の敷地面積よりもありますよ?
それに将来ここは日本の新たな命を生む中心地となるでしょう。決して無駄ではない・・」
淡々とした喋り方ではあるが何か気に障ったのだろうか?珍しく激しい感情の入った声色を出す月島。
その変わりようにちょっとビックリしているかおりに対し「あぁ失礼。マスコミが嫌いなものでね」
と表情を戻してかおりに向かってフォローする。
「そうなんですね。こちらこそ失礼な事を言ってすみませんでした」とやや戸惑いながらも理由に納得して謝罪するかおり。
(公務員さんって結構叩かれる事が多いから大変なのかな?)と少々同情的な感想しか浮かばなかった。
「ちなみに現在工事関係者は全員この島から退去してもらって工事は全部中断しています。」と云われる。
「?何故ですか?」と当然の疑問をぶつけるかおり。「生徒たちには出来るだけ他者との接触を避けるためです。
20名・・いや貴女を含めて21名以外の人間との交流を無くすためです。」
と宣言する月島。(勉強に集中させる為とはいえ何故そんなに極端なやり方をするのかしら?)
工事関係者との交流なんてせいぜい姿を見掛けたら挨拶くらいのものだろう?と思うかおり。
いや生徒達はその挨拶すらしないかもしれない。わざわざ工事を止めてまでそんな存在すら消したがるのは何でだろうか?
もしかしたら何か別の思惑が?と思索に耽っていると
「着きましたよ。ここが尽光学園になります。」と正門前で月島は告げる。
「ここが・・」かおりは目の前の建物を見上げ次に校門に刻んである学園名を見る。
(ここが私の働く学園、、)と先ほどの思索を忘れそんな感慨にふけるのであった。
学園案内
学園の外観はどこにでもあるような普通の学校である。
オレンジ色のレンガと灰色のコンクリートのツートンの校門と縦格子の柵が学園の周りを取り囲む。
柵の内側には植え込みもありシンプルながらも悪くない外観ではないだろうか?
校舎は三階建てのコンクリート製、校舎間を繋ぐ渡り廊下も見える。奥には中庭も見え、椅子や自販機もあるようだ。
「さて付いてきてください」と月島は事務的な言い方でかおりを学園に入るよう促す。
そう言われて校門をくぐり校舎に入る。学校特有の靴箱が左右に並び事前に用意したのだろう。私の名前が書いてある靴箱がある。
中を開けるとどこで調べたのかちゃんと23.5cmの上履きがそこに入っていたので上履きに履き替える。
「そうそう学校ウェアは全てこちらが指定した服装になります。あぁ安心してください。ちゃんとサイズは合ってるはずですので。
もっともこの二か月間で急激に太ったりしてた場合は改めて採寸させていただきますけど?」
とどうやらかおりのサイズを事前に調べていたらしい月島。
「太、、失礼ですね。そんなわけないでしょう!」とやや気色ばむ。
(仕方ないのかもしれないけど事前にこういうの教えて欲しかったなぁ。興信所とか嫌いになりそう)
かおりは別に聞かれれば普通に答える範囲の事まで本人の承諾無しで調べられていることになんとなくストーカーっぽさを感じやや嫌悪する。
「ではまず職員室に行きましょう」と歩き出す月島。それにつられて後ろを付いていくかおり。
玄関から向かって左側に折れて数歩歩くと引き戸の扉がある。
その上には職員室と書いてあるプラスティックプレートがあった。
「ここです」事務的に説明しながら月島は腰につけた鍵束を取り出す。
初めて入るのだから当たり前なのかもしれないが鍵が掛かっているようだ。
その鍵束の一つに職員室と小さく書かれた鍵を見つけ鍵穴に挿す。
「先ほどのキーボックスの中にこの鍵束と同じ物が入ってます。明日以降は貴方が開けてください。」
と寮の三階にあったキーボックスの話をする月島。
「もっとも泥棒なんて存在しないので一度開けたら開けっ放しでも問題ないかもしれませんが」
と云いながら「やはり生徒に見せたくないものもあるでしょうから職員室くらいは厳重に管理してください」
と言い直す月島。(確かにテストに関する重要な書類もあるしカンニングの可能性もあるか)と頷くかおり。
職員室だが中はデスクが奇麗に並べれらている。一番奥にはパソコンが置いてある机も見える。
「主にあそこで作業する感じになります。パソコンの使い方は解りますね?」と聞かれ
「一応人並みには・・」と答えるかおり。どうやら書類やプリント類はあそこで自分で作成するらしい。
「あとこれは重要な事ですが、、インターネットには繋がっていません。」
「は?」今時ネットに繋げられないパソコンなんて存在するのだろうか?
そんな当たり前の疑問に「回線自体が繋がってませんので・・すいません」と軽く謝る月島。
(そこまでするのか)とかおりは唖然茫然空いた口が塞がらない。
「正直ネットに繋げられないと仕事に支障が出ると思いますが?」
メールやSNSは諦めているので仕方ないとしても調べものとか資料作成に
ネットはかなり便利である。あると無いとでは効率は天と地ほども違う。
「どうしても必要な資料がある場合こちらで取り寄せますので」と月島は我慢しろとばかりに言い募る。
「・・・そういえば明日以降月島さんはどちらに?」と連絡先を聞こうとするかおり。
「いやそれも特秘事項となります。まぁ島内にはいますとだけ言っておきましょう」とにべもない。
「それではどうやって連絡を取るんですか!?」とやや強めの言い方をするかおり。
「ふむ・・それではこうしましょう。寮のエントランス前にご意見箱を置きますのでメモ等に必要なものを書いて入れておいてください。
必ず数日中には必要なものをご用意いたしましょう」
「・・わかりました。それでお願い致します」何を言っても無駄だと悟りの境地に入る。
(なぜそこまで外部との接触を絶とうとするの?)少しずつここに来たことを後悔し始めるかおりだった。
保健室
「職員室はこんなもので良いでしょう。次に行きましょう」と次を促す月島。
廊下に出て鍵を掛けながら「隣は保健室になります。簡単な怪我や病気であれば常備薬で大丈夫だとは思いますが
もしも重傷重病な生徒が出たら各所にある非常ボタンを押してください。すぐに駆けつけますので」
と説明しながら保健室の鍵を開ける。
なんでも二機あったヘリのうち大きい方はストレッチャーごと患者を乗せられるよう改造してあるそうだ。
それで直接ヘリポート付の救急病院に搬送するとか。至れり尽くせりというかそもそもこんな所に連れてこなければ良いのにというか。
と国税の使い道に呆れるかおり。
「ここに関しては今日以降開けっ放しで問題ないかと」と月島は云う。
考えてみれば保健教諭がいない以上、それがもっとも効率が良い。生徒達が自由に使えるようにしておかないと
怪我等の対応にいちいち自分が面倒みなくてはいけなくなる為かなり時間をとられる。
教師というのは授業以外の仕事もかなり多い。むしろ放課後が仕事の本番と云ったほうが良いくらいだ。
それを考えると勝手に使ってもらって減った薬や使った器具等を事後報告してくれた方がこちらとしても助かる。
「わかりました。そのようにしましょう」とかおりが云うと月島はかおりの反対方向に顔を向けて小さくニヤリと
笑うのであった。
教室
「次は二階に上がりましょう。」と中央玄関前に戻って階段を登る。
二階に上がってすぐ右手に教室があった。
「こちらが教室ですね。基本的にここで授業を行う事になります。」と説明する月島。
「そういえば私が全教科を教える形なんですよね?」と今更な質問をするかおり。
「そうなりますね。他に教師がいませんので」とやや恐縮しながらも当然とばかりな対応をされてしまう。
(小学校なら普通だし中学レベルならそれでも何とかなるとは思うが高校レベルの教育で全教科を一人の教師で賄うの?)
「無理ですよね?私も専攻してる教科なら自信ありますがそれ以外は結構曖昧な部分も多いですし」と戸惑うかおり。
自慢ではないが比較的優等生で勉学は得意な方。教える方も大学時代は家庭教師もやっていたし就職浪人していた時代には
塾の講師もしていた。自分でも下地はあるほうだとは自負している。しかしそれでも埋められないものは間違いなくある。
「当学園で使用する全ての教科書の参考資料も用意してあります。もしも足りなければいくらでも用意いたしましょう。」
「音楽、美術は免除。体育は適当にカリキュラムを組んでくれれば後は事故が起きないよう見ているだけでも構いません。」
「いやそういう事では・・」と言いよどむかおり。
「別に一流大学に進学するような学力を着けさせて欲しいと言ってるわけではありません。あくまでも最低限卒業出来るだけの
学力を身に着けさせれば良いのです。」
「でも、、」と言いかけたところ「卒業テストは国語、地歴、公民、数学、英語、理科、これらの教科を平均50点取れば合格なんです。」
「・・・つまりそれだけ教えれば良いと?」「そういう事になりますね。もちろんそれ以外の教科も時間割に入れるのは自由です」
「それなら体育はいらないのでは?」「体育テストがあるんですよ。それに合格するとテストの際本人の希望する一教科を免除できます。
今回集めた生徒は体力馬鹿も結構いるので需要は高いと思われます。」
(・・つまりその生徒からすると自分が一番苦手な教科を免除できるから
かなりのアドバンテージが手に入るって事ね)とかおりはすぐにそのメリットに気づき納得する。
「しかもですね。部活大会もありまして・・」「ふぁ?大会?」「ええ。と言っても20人しかいませんから各部活動の活動内容を我々が精査し
一番きちんとやっている部活を優勝としてその部に所属している生徒全員も一教科免除となります。
もしも体育テストも合格していたら最大二教科免除になりますね」
「凄いとは思いますが何でそんな制度を?」ととまどうかおり。
「なに理由は簡単です。ひとつは彼ら(馬鹿)の救済。もうひとつは体育や部活に勤しんで生徒達の交流を深めてほしいからです。」
(実験校とは言ってたけど実験が過ぎるような?)と流石にこんな条件をつける高等学校なんてありえるのだろうか
?と逆に不安を感じるかおり。
あまりテストが楽だと卒業後に苦労する。そんな老婆心が芽生えるのも仕方あるまい。
「しかしそれでは本人の学力が・・」と反論しようとするが「いりませんよ」
「え?」「必要ないと云ったんです。彼らが欲しいのは学力ではなく卒業資格です。
大学に行きたいという者ももしかしたらいるかも知れませんがそれは本人が努力すればいい。
我々がやるのは卒業させる事。それ以降の事は本人がすべきことであり
我々のやることではないし責任を負う事もない」と突き放すような言い方をする月島。
(言ってることにも一理あるとは思うけど教育者としてそれはどうなのか?)何か釈然としない物を感じるかおりだった。
図書室
「それでは次に行きましょう」と気持ちを切り替えるように云う月島。
(そういえば結局全教科教えるのかぁ。出来るのかなぁ?時間割は私が決めて良いらしいから何とか時間が取れるような
形にして自分が勉強を出来る時間を作らないと)生徒達には悪いが最悪自習時間も作るしかないかと時間割を逆算していく。
(24歳になってまで学生みたいに勉強とは、、とほほ、、)とおよそ教師を目指した者の言葉とは思えない事を考えるかおり。
苦手な教科は無いかおりだが教科書は毎年のように変わっていく。つまり教師は毎年その変化を頭に叩き込むのだ。
編纂した会社によって解釈が違うものも一杯ある。結局生涯勉強するしかないのだが普通は専攻している1~2教科だけである。
それ以外の教科を勉強することなど本来ないのだ。しかしそれをしなければいけないのだから大変なのは云うまでもないだろう。
(しかもそれを愚痴る相手もいないんだからストレスマッハ。もしも禿げたらこいつを呪おうかな?)などと月島の後頭部を
にらみつつそんな事を考えるかおり。
「さきほどの教室の奥隣りが図書室になります。」と事務的に説明する月島。
中を見ると何の変哲もない普通の図書室である。「特に説明することはありませんね?」と言われ
思わず「はい」と答えるかおり。「・・まぁ参考資料もいっぱいありますのでここで勉強するのもアリかと思いますよ?」
と言われ「・・はい(そういう質問をすれば良かったかな?)」とちょっと恥じ入るのであった。
指導室
そのまま階段を上って三階に出る。扉の前で鍵を開けながら
「こちらが生徒指導室になりますね。まぁほとんど使わないとは思いますが
教師にとっては学園内の貴重なプライベート空間としてお使いになれるかと。」
とやや含みのある言い方をして中を覗いた後即ドアを閉めた。
かおりはドア越しに中をチラ見したが折り畳みの机とパイプ椅子しかないので中に入る意味は確かに無いだろうと判断する。
しかし一瞬嫌らしい顔をしたように見えたのだが気のせいだろうか?
文化系
「更衣室とかトイレとかは私は一応男なので案内は省かせていただきますね。後で自分で確認をしておいてください。」
「はい」そりゃ当然かと思いながら頷くかおり。旧校舎に繋がっている渡り廊下をを歩きながらそんな説明を受ける。
「こちらが第二校舎ですね。文科系の部室が集まってます。いちいち中は開けませんが用途は解りますね?」
それぞれの部屋の上にプレートがあり判り易い。
「はい。恐らく大丈夫だと思います。」「ほとんど使う事は無いでしょう。まぁ部活動する生徒がいれば別ですが」
と月島は云う。「それに生徒達には言ってますが文科系の部活は大会に不利だと伝えてあります。
ほぼ優勝は無いと」「それは何故ですか?文科系差別では?」とかおりは反論するも「まず音楽系は演奏か合唱か、
どちらにしても人数が足りません。論文などの発表会も我々にはどうでもいい。
絵画にしても芸術を理解できるほどの知識はありません。審査するのは我々尽光課の職員です。
興味も無いし意味も無い。運動系の部活なら身体を動かしているから真面目にやっているかどうか判り易い。我々の審査基準は
ちゃんとやっているかどうか?です。」
「活動内容や論文すら評価しないんですか?流石にそれは・・」
「こちらも目的があって動いてます。どうかご了承を」とそれだけ言って反論を遮る月島。
「可能であれば貴女にもどこかの部活の顧問になっていただければ」と言われ「無理です」と即答する。
ただでさえやる事が一杯あるのだ。遊んでいる(正確には遊びではないが)暇などない。
全教科の復習と授業内容のカリキュラム、そして学園の活動内容のレポートを書いて教育委員会に提出しなければならない。
実験校とはいえ、国立学校法人である以上やることは一杯あるのだ。そう説明すると
「それでは我々が上への書類関係は全部やっておきますよ」と月島が云う。
「え?判るんですか?」と思わず驚くかおり。「まぁ学園立ち上げの手続きは全部こちらでやりましたからね。
途中経過報告もこちらで草案を書いて貴女に確認をしてもらい適宜修正してから提出という形でどうでしょう?」
「それは確かに助かりますが・・」(そこまでやるなら学校職員になってくれれば良いのに)と思わず考えるかおり。
教員資格が無い為教師にはなれないが学校には授業以外の雑務も多い。そういう雑務をこなす職員を雇っている学校は多いのだ。
「残念ながら私は文科省に所属していますので兼任はできません」とかおりの心を読んだかのようなセリフを言う。
「解りました。それではそれでお願いいたします。」考えてみたら元々私一人では無理な事をやらされているのだ。
少しは協力してもらわないと身体がいくつあっても足らない。
「後で寮に戻ったら渡しますが制服があります。明日以降はそれを着てきてください」と言われる。
「教師なのに制服ですか?スーツとかですか?」と今着てるスーツを連想するかおり。
「まぁそんな感じですね。他にも体操服や水着等もあります。」と月島は補足する。
「・・はい(水着かぁやっぱり水泳の授業もあるのね。苦手ってわけじゃないけど生徒達の前で水着は抵抗あるなぁ)」
と少々肩を落とすかおりだった。
食堂
「ここが学食になりますね。」と案内されたのは一階にある学生食堂である。そこまで大きくは無いものの全校生徒が
余裕で入れる。と言っても20名しかいないのだから当たり前ではあるが。
「先程ファミレスで見た料理用アームロボットよりも汎用性が低いですが特定の料理を作るロボットが6体いて
それらが全部動く様は見ものですよ?」
と月島は自分の手柄のように話す。
どうやら欲しい料理を作るロボットの前で希望料理のボタンを押しその後カウンターで出来るのを待つシステムらしい。
「ですので同じ料理ばかりを頼むと調理に時間が掛かるのがネックですね」とアームロボットの欠点を補足する。
そして食器の上げ下げはセルフサービスとなる。所定の位置に食器を下げると後は自動で洗ってくれるらしい。
(今の時代は人手不足と言われているからこういうのも時代の流れなんだろうけどなんかちょっと寂しいなぁ)
と学生時代にいた学食のおばちゃんを思い出すかおり。別に大した話をした記憶は無いのだがその豪快な笑顔は忘れがたい。
そこまで親しくなくても人がいる空間って実はとても大事なのではないか?と考えるかおりだった。
校庭とプール
「校庭は見たまんまですね。説明不要ですよね?」
と確認される。「・・そうですね」とかおりは周りを一望しながら頷く。
トラックの書いてあるグラウンド。野球場にサッカー場テニスコートも奥に見える。特に問題は無いだろうと判断するかおり。
機械室も見えるが正直計器類の見かたが分からないので正常かどうかの確認も出来ない。
「大丈夫です。我々が朝の登校前に確認しますから」と言われた。
ヘリの免許にボイラー免許とそれ以外にもまだ持っていそうだ。一体どれだけの資格を持っているのだろう?とぼんやり考えるかおり。
そして体育館前を左に向かいプールに行く。まだ水は入ってなく空っぽだ。
「7月にプール開きをします。一応その時業者を入れる予定ですがその間生徒達には絶対近寄らないように注意しておいて
ください」「はぁ。」と返事をした後、「何故そこまで他人との接触を厭うのでしょうか?
知り合いや親族ならまだしも全くの他人ですよ?もはや勉強云々関係ありませんよね?」
ともっともな疑問を口にするかおり。
「・・体育館には全校生徒が集まっています。
後は格技場等案内していない所もありますが特に説明することが無いので自分で確認してください。」
とまた話題を逸らされる。何かを隠している。
そう感じるかおりだったがそれが具体的には全く分からない為どう対応するべきなのかも解らかった。
(結局後回しにするしかないか)と小さく溜息を吐くのであった。
生徒達との初対面
体育館の前まで来るとようやく人の気配、人のざわつく声が聞こえてきた。
(ああ人だ)この島に来て以来月島以外の他人と全く接触しなかったかおりは人の気配に感動する。
(そうか、寮でも学園でも生徒達を見掛けなかったが予め体育館に集めていたのか。)と納得した。
と同時に(一体何時間前からここに集められたんだろう?)と
考える。実際にはかおりが学園に着く直前くらいからなのだがそんな事は判らない為生徒達に同情する。
そして体育館の中に入ると空気が一気にざわつきだす。「やっと来たみたい」「へぇ若いじゃん?」
「奇麗~」「マジかよ」「ヒュ~」そんな雑音が一斉にかおりの耳に入ってくる。
「静粛に!」とガタイの良い男性が一喝する。どうやら彼らをここまで引率してきた人らしい。
渋々と云った感じで黙る生徒達。
体育館のステージには第一回尽光学園入学式と書かれている看板が立掛けてあり真ん中には演説台とマイクが設置してあった。
(このまま流れで入学式やっちゃうの?)とあまりの急展開についていけないかおり。
月島が壇上脇でマイクを持ちそのまま「これより第一回尽光学園入学式を行います」と宣言する。
「最初に学園長兼3年1組担任花園かおり先生。ご挨拶をお願い致します。」と登壇を促される。
(うそ。いきなり?)と思いつつもまさか生徒達の前で抗議も出来ない為、出来るだけ自然に歩き出す。
(スピーチなんて何も考えてないんだけど?)
と内心焦りまくるものの幸い表情にはでなかった。
しかしまさかの連続ばかりで思考がうまく纏まらないまま生徒達との対面を果たす事になったのであった。
入学式
壇上に上がり中央に設置してある演説台の前に立つ。
下を見下ろすと向かって左側に男子、右側に女子が椅子に座って並んでいる。
皆一斉に品定めをするようにこちらを見ている。正直逃げだしたいくらいの緊張感がかおりを包んだ。
「起立!」と月島が叫ぶ。渋々と云う感じで立ち上がる生徒達。
続いて「礼!」と叫ぶがおじぎをするのは約半数といった所だろうか。あとはこちらをジッと見つめていた。
背中に冷や汗を感じるかおり。「着席!」と号令が掛かると全員椅子に座った。いや立っている生徒が一人いた。
身長は175くらいだろうか?やや痩せ型でスタイルは良い。
黒い髪を首元までまっすぐ伸ばし肌は日焼けしているのかかなり黒かった。顔は目元は柔らかく鼻筋は通っている。
顎が小さくスッキリしていてアイドルタレントにいそうなタイプである。
正直年下には興味は無いがかなりの美少年だとかおりは思う。「・・何か?」と彼を見据えて言葉を掛けてみる。
数秒の沈黙の後「僕の名前は根取(ねとり)種馬(しゅうま)と云います。しゅまではなくしゅうまです。
まぁちょっと読ませ字ですが」と喋り出す。
とまどいながらも「・・根取君でしたか?各自の自己紹介は明日のホームルームで行う予定だったのですが?」
と流石にこの場でやることでは無いだろうと思うかおり。
しかし根取は全く意に介さず「ひとつだけ質問させてください。
先生にも特別報酬があるんですか?」といきなり不躾な質問をぶつけてきたのである。
(何故そのことを?)と言いたくなる気持ちをぐっと抑えて押し黙る。
そこに少し低い声で「今は入学式だぞ?自重しろ」と月島が根取に対し警告する。
「いや本人に聞けって言ったのは月島さんじゃないですか?今聞いたって良いでしょう?」と反論する根取。
その台詞に月島はどうするのか?と言わんばかりにかおりを見る。
内心止めて欲しいのだが何故かこちらに振られたかおりは「え~その質問には答えられません。公務員ですので」
と無難な答えを言って誤魔化す事にしたのだった。
そして咳払いをひとつして「皆さん尽光学園ご入学おめでとうございます。この学園で教鞭を執る花園かおりと申します。
当学園は皆さんを心より歓迎いたします」と
テンプレなスピーチを始める。その後も長いテンプレが続く。
(ふ~ん。やっぱり何らかの報酬はある感じか。しかし金額とか言わないとこ見ると結構大金なのかな?
それとも逆に恥ずかしいくらい少ないのか?まさか先生が女生徒と同じ条件同じ金額とは思えないが・・」と思索に耽る根取。
(まぁ良いや。追々分かるだろうし思ったよりも美人なのは高得点だ。楽しくなってきたな)とニヤリと不敵に笑うのであった。
5月31日(男子生徒到着)
話は一日前に戻る。
その日は生憎の雨であった。漁船のような小さな船に10人の生徒は押し込められて5時間くらいの航海をしている最中である。
「うげぇ」船酔いをしたのだろう一人の生徒が嗚咽をあげる。
「きたねーな。あっちいけや」と髪を金髪に染めた男が船酔いした太った少年に対しシッシッと手を振る。
「まだ着かないのかな?」と不安そうに声をあげるな生徒。「・・・」ただの一言も発さない生徒などみな個性がある者達ばかりだ。
「どうやら着いたみたいだぞ」と根取は船が接岸した感触があった事を皆に告げる。「ふぅやっとか」と皆安堵の吐息を漏らす。
船倉から外に出るといきなり雨の出迎えに顔を歪ませる。
「まぁ合羽でも着ていろ」とガタイの良い男(確か近藤とか言ったか?)から透明の安い合羽を渡される。
海沿いでは風で飛ばされる傘よりも合羽の方が都合が良いのである。
波止場から島に入ると左右に舗装されていない道路と真ん中に舗装されてる道路があった。
左の奥の方にヘリポートが見える。島の真ん中に向かう舗装されている道路を進むようだ。「まさか徒歩か?」と文句を言う金髪男。
「文句を言うな加藤。徒歩で30分くらいの距離だぞ?余裕だろうが」と近藤と呼ばれた自称公務員がドスの効いた声で反論する。
確かに遥か向こうに3階建ての建物が見える。「あれがお前たちが3か月住む寮だ。
これくらいの距離歩けないようでは話にならんぞ?」と近藤。
そして寮に着くと「道路挟んで右側が男子寮、左側が女子寮になる。
解っているとは思うが女子寮に潜り込もうとするなよ?寮のエントランスはこっちだ」とぶっきらぼうな物言いをする近藤。
そこに「ご苦労だったな近藤。」と糸目の男が近づいてきた。
「あっ。月島先輩。指示通りこいつらを島まで連れてきました。」と我々への対応とは別人ではないかと云うくらい卑屈な物腰になる。
「後はこちらで引き継ごう。沖田が明日の朝一でこちらに来るはずだ。船をまわしておいてくれ」と月島と呼ばれた男が近藤に指示を出す。
「はっ。」と敬礼すると波止場に戻る近藤。
そしてこちらに振り向いて「長い航海ご苦労だったな。
俺がこの尽光島の案内をする月島だ。まずは寮内を案内しよう。」と10枚のカードキーを封筒から取り出す。
「名前を呼ばれたらカードキーを取りに来い。温美!」と順番に名前を呼びカードキーを渡していく。
全員にカードキーを渡し「使い方は簡単だ。認証機のセンサー部分にキーをかざせば良い。」と実践してドアを開ける月島。
エントランスを入ると予め送っておいたスーツケースやボストンバッグが置いてある。
「部屋番号はカードキーに書いてあるから各自その部屋を探して荷物を置いてこい。10分後にここに集合。いいな?」
と言われ、反論する気も起きないのかみんな素直に従う。と云うよりもうココに来た時点でほぼ諦めの境地なのだ。
そう今この場所に居ると云う事は誓約書にサインしてあり親の同意書もあると云う事だ。
無駄なあがきをする段階はもう過ぎていた。(ならば少しでも早く卒業して娑婆に出なければ)
別に刑務所ではないのだがそういう心境の者がほとんどであった。
根取もそんな連中に混じって(くだらんな。卒業資格をさっさと取ってこんな所はおさらばしたいぜ)と考えていた。
根取(ねとり)種馬(しゅうま)のケース
彼は某高校に籍を置いていたがまともに勉強などせず授業に出た日など数えるほどしかない。
根取は新宿某所にあるホストクラブでホストのバイトをしているのだ。
今では月収300万は下らないし店長からも一目置かれるくらいの売れっ子ホストである。
店長からは本気でホストに専念すれば月収一千万も夢ではないと言われている。もう高校なんて未練も何も無い。
そんな根取がなぜこんな場所にいるのか?それは数日前に遡る。いきなり働いていたホストクラブに月島と根取の母親がやってきたのだ。
「な、なんでお前が」そう震える声で母親に向かって問いただす。
そう根取種馬にとって母親はお前扱い。母親だと思ったことなど遥か昔に捨てていた。
根取の母親は若い頃から風俗で働いていた。そのせいか自分のアパートに男を連れ込む事が多く基本避妊はしてたもの失敗したせいで妊娠した。
そして種馬自身父親が誰かも判らない私生児として産まれ、なんで降ろさず産んだのか?と周りから言われるレベルだった。
だから母親も愛情など注がず母親の母親(種馬の祖母)に押し付ける様に小学3年まで預けられていた。
祖母は好きだった。とても可愛がってくれた記憶がありその間の種馬は性格も良く勉強も運動もかなり上位だった。
その祖母も死去し母親の許に戻されたが母親らしい事など何もせずせいぜい500円渡して後は好きに食えというレベルだった。
それでも種馬は我慢して母親を好きになろう好かれようと努力した。汚部屋の掃除もしたし勉強だって人並み以上の成績だった。
だがそれも虚しく母親は相変わらず男を連れ込み種馬を蔑ろにした。邪魔だ。産まなければ良かったとまで言われた。
中学時代からだろうか?種馬はアパートに帰らず友人の家を転々とした。それでも学校は好きだったので通っていた。
勉強が好きと云うよりも友人を含めた環境が好きだったと言っていいだろう。
そして中三の時進路を決める三者面談があり二年ぶりくらいに母親の顔を見る。少しやつれていたようだが相変わらずケバい化粧をして
服装もかなり着崩して胸襟を開けたスーツを着ていた。近くに寄るとかなり香水臭い。少し酔っているようだ。
正直このまま社会に出た方がマシだと思っていたが進路指導の先生から高校くらいは出ておいたほうが良いと母親に説得すると
「タダならまぁ良いか」と母親は軽く承諾する。正直不快に感じた種馬だが高校に行きながら今後を考えれば良いと教師に諭される。
ならと親元を正式に出る事、バイトを認めてくれる高校ならと条件を付け渋々高校進学をする種馬。
そしてバイトをしながら高校に通ったが母親のアパートを出た為お金が無い。なんとか安いアパートを借りたものの
コンビニの深夜バイト(本来高校生の深夜バイトは禁止)程度では生活費を含め全然足らないのだ。
そこで水商売も視野に入れ探しているとホストをやらないか?と新宿で声を掛けられる。それが今の店長であり今いるホストクラブなのだ。
自分の職場であり安住の地に土足で踏み入ってきた母親と連れの男に警戒感と不快感を覚えるのは仕方がない。
「お挨拶だねぇ。愛しい母親が会いに来てやったってのにさ」と母親は少々愉快げに毒づく。
本当はぶん殴りたい程怒っているのだが客もキャストもドン引きしてるのを見て冷静に対応しようとする種馬。
「・・とにかくここじゃアレだから。店長!悪いけど奥の事務所借りますよ?」と店長に向かって叫ぶ。
「あ、、あぁ」と頷く店長を見て「ごめんね~ちょっと席外すね~?」と自分の客に手を合わせる。
そして母親に向かって「ついてきて」と一言だけ発すると奥に向かって歩き出す。
「冷たいね~」と軽い言い方をしながら後を追う母親と無言の月島。
事務所に入ると開口一番「何しに来た?」と睨む。「その辺は私から説明いたしましょう」と月島が云う。
「あんた誰?新しい男か?」と種馬は月島に向かってぶっきらぼうに聞く。
「・・こういう者とだけ言っておきましょう」と名刺を差し出す月島。
「文科省?月島さんね・・それが何だってんだ?」全く意味が解らないと種馬が尋ねると
「根取種馬さん。貴方は明日から尽光学園に編入してもらいます。」
といきなり言われる。「・・は?何を言っている?高校にはもう行く気はない。
そういや退学届は出してなかったな。今度の休みにでも出しにいくよ」
と言い切ると「それでは貴方が困ると思いますよ?なんせ今日でホストクラブはクビになるんですから」と月島が不敵に笑う。
「!?」と絶句していると店長が事務所に入ってくる。
「・・すまんな。未成年者の風俗労働は違法なんだよ。お前を差し出す代わりに警察に告発しないって約束でな。」
「・・店長は知ってたんすね?今日こいつらが来るって・・」「あぁ。裏口から来ると思ってたからビックリしたのはお前と同じだがな。」
(庇ってくれとまでは言わないが事前に相談くらい欲しかったな。大人ってみんなこんな感じなのか?俺の居場所なんてどこにも無いのか?)
俺を見出してくれた店長。仕事のイロハを教えてくれた店長。とても優しくて頼れる店長。
そう思っていた。だからこそここで頑張ろうと思った。
この人の為にこの店の為にそして何より自分自身の為に。ようやく居場所を見つけた。そう信じていたのだ。それがこの仕打ち・・
信じられるものが段々無くなっていく感覚を覚える種馬。
「悪く思わんでくれ。他のキャストにも未成年者が何人かいる。そいつらは見逃してくれるって云うんだ。
もしもそいつら全員クビになり、俺も警察にしょっ引かれたらこの店は終わりだ。」
「・・・そうっすか。一応拾ってもらった義理もある。残念ですけどね。」何かが切れた。そんな気がした。
(こんなもんか)他人は信用できない。種馬はそう確信したのであった。
「さて話し合いは済みましたね。とりあえず根取君のアパートへ行きましょう」と月島は何の感情も入れずに発言する。
もはや抜け殻になった種馬はうなづくだけで精一杯であった。そして脱力したまま連行され車に乗せられる。
不思議と抵抗しようという気が湧かなかった。
ベンツをアパート前に着ける。どうやら住所も調べられているらしい。
段々頭が回ってきたもののまだショックが大きい種馬はどうしてこうなったのか?
と考え始める。(一体何がどうなっている?まずこの月島と云ったか?この男は何なんだ?
役人らしいってのは判ったが何で俺を高校に行かせようとする?)
本気で高校が嫌いとかではないが行く理由が無い。高卒資格は欲しいが金の方が遥かに欲しいからだ。
(しかしホストが出来ないとなると大金は稼ぎにくいな。
地方に潜ってホストをやるって手もあるがまた見つかったら厄介だし東京程は稼げないだろう)
月島という男が何者かは良く判らないが逃げても追ってくるのでは?という懸念がある為思い切った策が取れない。
「さて君は202号室だったね。」とアパートの階段を上がっていく月島。
母親にすら言ってなかった住所を見つける辺りやはりかなり調べているのだけは判る。
「なんで知ってるんだ?」と聞くと「何興信所を使っただけさ」とあっさり暴露する。
「なんで興信所を使ってまで俺を調べる?」と更に質問をぶつけると「お前がふさわしいと思ったからだ」と一言。
「ふさわしい?」と云ったところでドアの前まで来る。仕方なくカギを回してドアを開ける種馬。
「ふ~ん。こんな所で生活してたのね。」と母親は感想を云うと「お前は何しに来たんだよ」と毒づく。
「ふふ~ん♪知りたい~?」と何故か楽しそうに笑う母親。(こいつがこんな顔をするときは大抵良くない事が起きるんだよな)
母親に対してそんな感想を抱いていると「さて寮に入るので荷物をまとめてくれ」といきなり言い出す月島。
「寮?高校の寮に入るって事か?」と云うと「そうだ。三か月は帰ってこれない。まぁ合宿だと思ってくれれば良い。」と云う男。
(イヤな予感しかしない)そう思っても選択肢が無い。いや今なら逃げ出せるかもしれない。だがその後はどうする?
点々と逃げ回るのか?確かに未成年でホストをやっていたのは悪かった。だがそれだけだ。自分で稼いでいたのだ。
文句言われる筋合いはない。それなのに犯罪者みたいな扱いは御免だ。少なくとも母親に負い目なんぞ感じない。
「具体的な条件を言おう。三か月某学園で過ごし平均50点以上取ればその時点で高卒資格が得られる。」
「!?」(なんだそれは?そんな事が出来るなら真面目に3年間通った奴らは馬鹿みたいじゃないか?)
高卒資格に意味など感じていないが級友(と言っても顔見知り程度だが)が可哀そうになる程のチートなルールである。
「いやちょっと待て。そんな事ありえるのか?」と少し詰問調になる。
「言うまでもない。俺が教育委員会と掛け合い、文科省の認可も取った。正真正銘の本当のルールだ」ときっぱり云う月島。
「それが本当ならかなり凄いとは思うがそれでも高卒資格はいらないから解放してくれと云ったら?」と交渉に持ち込もうとする種馬。
「残念ながらそれは無理だな。お前がいないと学園が成り立たん。」「?意味が分からないんだが?」「今は分からなくて良い。」
と言われ正直戸惑う種馬。(こいつの言ってる事やりたい事が全然わからん。)
とその時「あった!見つけた!」と部屋の奥から聞こえてきた。
(くそBBA!大人しくしてると思ったら部屋を漁ってやがったのか)と自分の寝室に入る種馬。
案の定母親は種馬の貯金通帳と印鑑を片手に喜んでいる。「てめぇ!俺の通帳!」と取り返そうとする。
「待て」と制止の声が背中の方から聞こえる。
つい条件反射的に制止してしまった種馬とその横をすり抜けるように部屋から出ていく母親。
振り返り「なんなんだお前らは!泥棒に来たのかよ!」
と凄む。「まぁ落ち着け。それは卒業するまで預かるだけだ。逃げられたら困るんでな」と月島は弁明をする。
「・・・俺は何をすれば良いんだ?」「話が解る奴で助かるよ。まずはこの誓約書にサインを。
親の同意書ももう貰ってあるから安心してくれ。
後は先程も言ったように着替えは事前に宅配便で送ってくれ。送る住所はこの書類に書いてある。
それで指定した日の指定の時間に指定の場所に来てくれればそれで良い。」
「あんたどうやってあの母親から同意書取ったんだ?」「何簡単だよ。」と月島が言いかけたところ
「琢也ね~闇金に手を出しちゃってさぁ。
そこの月島さんが借金肩代わりしてくれるっていうのよ~♪。そりゃ何でもサインするに決まってるじゃないw」
琢也ってのは恐らく新しい男だろうと推察すると種馬は「どうしようも無いクソ親だな。一辺死ね。」
ととにかく通帳を取り返そうと母親に近づく。
間に入る月島が目の前に紙を見せる。(?離縁状?)
「お前が無事卒業出来れば君の母親はこの離縁状にサインしてくれると約束してくれたぞ」と
こちらの事情を全て解っているとばかりに云う目の前の男。
(本当にどこまで調べ上げてるのか?だがこのクソBBAと縁が切れるなら悪くないか?)
と思う。母親には過去に一度離縁を迫った事があった。だが返事はノーであった。
理由は言わなかったが種馬に対する嫌がらせなのだけは伝わってきた。
「・・なるほど確かにこれは金よりも価値がありそうだ」そう言って口端を上げる。
腹は決まった。なら3ヶ月くらい奴隷でも何でもやってやるさ。そう覚悟を決めたのだった。
再び5月31日
荷物を部屋に置き再びエントランスに戻ってくる生徒達。
「さて全員揃ったな?それじゃ学園を案内しよう。」と歩き出す月島。
ゾロゾロと後をついていく10人。そして学園内施設を全て案内した後体育館でオリエンテーションが行われる。
スマホやPCは預かる事。ここに居る間は自宅に帰れない事。家族や友人には一切連絡が取れない事。日曜以外は学園に来る事。
部活には入る事。部活は運動系が有利だと云う事。8月30日に卒業試験がある事。
平均50点以上で卒業だと云う事。そして体育大会等で優秀であれば一教科免除である事。
高卒資格以外に本人が希望すれば国家公務員資格も与えられる事。
今日はこの後すぐ解散だが夜までには必ず寮に戻り明日の昼まで絶対外に出ない事。
明日の入学式で女と初顔合わせだが個人的な接触は明後日以降にする事等を説明した。
「さてここまでで質問はあるかね?」と月島に言われ生徒達がざわつきだす。
「俺はこんな所本当はどうでも良いんだ。退学でも良いからさっさと出たいんだが?」
とガタイは良いが目つきは悪く髪は金髪に染めた男がそう叫ぶ。
「加藤か。そう言うな。お前さんの親父さんにもよろしくと言われているんだ。」と月島が云うと「そこがわからねー。なんでアンタが
親父と知り合いなんだ?」と加藤と呼ばれた男はイラだちながら云う。
加藤蛮は秋葉会系加藤組組長の息子である。なんでこんな木端役人と知り合いでしかも同意書も書かせるほどの仲なのか?
生徒達は全員未成年である為親の同意書が必須である。でなければこんな寮住まいと云う名の隔離施設に入れる事などできない。
逆に言えば同意書があると云う事は親は賛成しているという事になる。
加藤がどうしても納得いかない理由でもある。(あの親父が俺をこんな所に閉じ込めるはずがない)そう確信していた。
蛮は親父である剛士が年老いてから出来た子供でかなり溺愛していた。
子供というより孫に近い感覚だったのかもしれない。(そんな俺を手放すとは思えない)
そして甘やかされて育った為かなりの我儘でありバックが暴力団という事もあってかなり好き勝手に暴れていた。
高校でもまともに授業など受けた事などなく、教師から煙たがれる存在であり、退学にならないのが不思議な
レベルだったのだ。その辺は恐らく剛士の圧力と寄付金という飴と鞭が効いているのだろうと囁かれてはいたが。
それが突然の転校、それも孤島とも云える学園にである。(一体何がどうなってるのか?フザけてるとしか思えない。)
普段偉そうにしてる為気づかれないが周りから甘やかされて育ったため実は一人では何も出来ないタイプでもあった。
苦手な分野は全て取り巻きにやらせていた。
だからこういう不測の事態には弱いのである。
自宅に居たところ契約書に無理やりサインさせられ若い組員に無理やり船に乗せられ現在に至る。
「そこまで云うなら電話してやろう。」とスマホを取り出す。
「もしもし、、加藤さんお久しぶりです。えぇ。えぇ。父は相変わらずですよ。
実は今息子さんがいましてね。代わります」とスマホを翔に渡してくる。恐る恐るそれを受け取り「もしもし?」と言ってみる。
「おぉ蛮か。お前もそろそろ独り立ちせんとな。そこで3ヶ月頑張ってみぃ」と言われ絶句する。
親父なら大反対するだろうと思っていた。だが現実は逆であったのがショックだったのだ。
「これで納得したな?俺の父親は警視正をしててな。お前の親父さんとは顔なじみなんだ。」
と言われ、蛮は父親が何かしらの弱みを握られているのだろうと察する。
「くそっ!きたねーな」と吐き捨てると「知らなかったのか?大人は皆汚いんだ」と月島は不敵に笑った。
「そういや電波の状態が悪いんじゃなかったのか?」と根取がスマホを取られた時にそう説明された事を思い出す。
月島は「まぁ繋がる時もあるさ」と嘯く。(こいつゼッテー信用出来ない)ほとんどの生徒はそう感じたのであった。
温美(あつみ) 誠也(せいや)のケース
(なんで俺がこんな目に)温美誠也は内心イラだっていた。
彼は名門ゴザール高校に通う高校三年生だ。いや[だった] 無理やりこの尽光学園に編入させられたのだ。
月島は元々実姉響子の旦那。つまり義兄にあたる。その繋がりだろうとは推察できた。
義兄曰く「人数合わせだ。悪く思うな」だそうだ。(悪く思うに決まってるだろう!)
(姉さんも姉さんだ。なんであんな男と・・)確かに月島真悟はキャリア組のエリートである。
実際あの若さで課長だ。頭も良い。誠也の両親の受けも良いしおよそ完璧な部類だろう。
だが誠也は気に入らない。結婚当時誠也の年齢は13歳、姉の年齢22歳と結構年齢が離れていたが優しい姉が好きだった。
それゆえか唯一結婚に反対したのが誠也だった。当たり前だが両親と本人が気に入ってる以上覆る事は無かった。
結局その5年前に結婚したがその後は姉と離ればなれとなり一年に一、ニ度挨拶に来る程度の関係になってしまった。
姉の事は好きだが月島は好きになれない。そのせいで距離を取るようになったのだ。
(俺もゴザールを出て東大に行ってあいつに負けないくらいの官僚になってやる)それが何時の間にか目標になっていた。
そうなったとしても姉はあいつの元からは帰ってこない。それは分かっている。だがそれでも月島真悟をギャフンと言わせたい。
姉に褒められたい。そう思って勉学一本に励んできたのだ。それが何でこんな事に・・
切欠は三日前だった。突然校内放送で進路相談室に来るようアナウンスされたのだ。(何事だ?この前の模試だってA判定だったはず。
3者面談だって大丈夫だと太鼓判を押されたんだ。それなのに何か問題でも起きたのか?)不安を感じ急いで向かう誠也。
進路相談室のドアをノックする。「入りたまえ」との声が聞こえたので「失礼します」
そう言って中に入ると進路指導の先生の他に知ってる顔があった。
「義兄さん・・」と思わず言うと「久しぶりだな。元気にしてたか?」と貼り付けたような笑顔を返してきた。
(なんでこんな所に義兄さんが来るんだ?しかも一人で?)
嫌な予感がするものの先生がいる手前あまり変な事は言えない。誠也は敢えて義兄を無視して進路指導の先生に話しかける。
「何か御用でしょうか?」と呼び出された要件を聞くと
「いや実は今温美君のお義兄さんに話を聞いていたのだが転校するらしいね?」と先生がいきなり言い出したのだ。
「は?」と意味が解らず言葉に詰まる。
「こちらで退校手続きの方はやっておくので新しい学校でも頑張りなさい」と更に先生が言葉を続けるとようやく頭が動き出す。
「あのすいません。転校って僕が転校するんですか?」と云うと「その通りだよ誠也君。」と月島が被せるように言ってきた。
「ちょっと義兄さん。ここより良い学校なんて無いですよ?せいぜい閉成高校くらいでしょ?
しかももう3年ですよ?今更どこに行くって云うんです?」とまくし立てる誠也。
「落ち着け。これは君の両親の承諾も得ている。ちなみに新たに行く学校は尽光学園。新しく出来た所だよ。」と言い出す月島。
「新しい・・学校?」頭が追いついてこない。(馬鹿な。何の実績も無い高校なんて行って何の意味があるんだ?
義兄は頭がおかしくなったのか?)
そう思う誠也だったが元々育ちが良く品行方正に育てられた為罵詈雑言がすぐには出てこない。ふぅと一息吐くと
「・・ゴザールを退学してまでその高校に行ってどういうメリットがあるのですか?僕にも解るように説明していただけると助かります。」
と丁寧に尋ねる誠也。事情がよく分からない先生はオロオロするばかりである。
「安西先生。すみませんが連絡の行き違いがあったみたいなので二人だけで少々話したいのですがよろしいでしょうか?」
と月島が安西と呼ばれた進路指導の先生に向かって笑いかける。「分かりました。少々離席させていただきます。」
と空気を読んで退席する安西先生。
そして安西先生が部屋から出たのを確認すると月島は「お前の言いたいことは判る。
名門高校出身と無名な高校出身では就職活動に天地の差が出るからな。」
「それが解っているなら・・」と言いかけたがまた被せるように「だが就活で一番問題視されるのは最終学歴だ。違うか?」
と月島が問題無いとばかりに言い募る。
「いや確かに最終学歴が重要なのは間違いないけどそれでもゴザール卒の肩書は大きいよ。もしも面接官が同じ高校出身なら話も膨らむし。」
と尚も食い下がる誠也。「お前は確か官僚志望だったな?現文科省で厚労省出身の俺のコネは大きいぞ?」とニヤリと笑う月島。
「なぜそれを・・」と戸惑う誠也。(そういや友達にチラっと言ったかもしれないがそんな事まで調べてるのか)と不気味なものを感じる。
「それにお前なら独学でも東大に行けるさ。3ヶ月ちょっと合宿して高卒資格が取れるんだ。他の奴らより半年早く卒業出来るんだぞ?
半年のアドバンテージは大きいぞ?かなり集中して勉学に励めるぞ?」と畳みかけるように説得を始める月島。
(・・こいつの云う事は詭弁だ。確かに一理あるがその半年の間単なる独学よりレベルの高い授業を受けるメリットだってあるはずだ。
だがもしも断ったらこいつの事だ。姉さん絡みで何をするか判らない。
それに確かにこいつはイヤな奴だがコネがあるのは事実だろう。)
誠也はかなり悩んだ。
こいつ(月島)の云う事は信じられないし実力で官僚になろうと思っていたしコイツをギャフンと言わせたい以上コネは使いたくはない。
だが断れば逆に圧力を掛けてくる可能性もある。姉に何らかの不利益があるかもしれない。
(まさかとは思うがあの時俺が結婚を反対したから根に持ってるとかじゃないよな?)とそんな事まで思う。
しかし色々なケースを考えたが良いアイデアが浮かばなかった。(悔しいが今の自分に出来る事は無いか・・)
ふ~っと深い息を吐き「判りました。何をすれば良いんですか?」と降参する。
「やはり誠也は頭が良いな。助かるよ」と思ってもいないお世辞を言う月島。
「そういうのは良いですよ。それでその高校にはいつ?」と要点だけ聞いてさっさと終わらせたいと言外に云う誠也。
「話が早くて助かるよ。それでは」と言いながら学園の概要を説明していく月島。
「・・聞けば聞くほど下らない制度の学校ですね。それに僕が選ばれた理由って何ですか?」せめてそれくらいは知りたい。と思う誠也。
「さぁ?理由らしいと理由と云えば男の方が一人足らなかったんだ。目ぼしいのがいなくてね。そこで閃いたのが君だったってだけさ」
とさも愉快そうに笑う月島。
「な・・」と絶句すると「話は終わりだ。家に帰ってさっさと支度するんだ。後この住所に荷物を送っておけ。良いな?」
と言いたいことを言って退室する月島。
一人残された誠也は身体を小刻みに震えるのみであった。
裏ワザ
温美誠也の回想が終わりふたたび5月31日に戻る。
「さてだいたい質問も終わったな?最後に卒業する条件なんだが実は試験に合格する以外にもう一つ方法がある。」
「?」全員の頭にハテナマークが浮かぶ。その表情を見てニヤリと笑うと「それはここに来る女生徒とセックスして妊娠させれば
合格とみなし本人が希望すればその時点で卒業出来る。もちろん検証はするがね」
「なに?!」「マジかよ」「嘘だ」「何を言っている?」「ん?」「ぇ」と生徒達は口ぐちにざわつき始める。
「質問です」と根取がまた挙手する。「何だ?」と月島が答え「その検証方法はどうやるんですか?」と皆が聞きたい事を代表するように
質問をする。
「何。方法は二つ。まずは妊娠した女性がその男性以外と性行為をしていないという証明。まぁこれは女性側の自己申告となるが
まぁ誣告は無いだろうと思っている。嘘を吐いてもあまりメリットが無いし、それに男性側もそんな嘘を言われれば黙ってはいないだろう。
なんせ卒業が掛かっているからな。もしもその女性が一人の男性のみの関係と言い、
複数の男性が名乗りを上げた場合は嘘発見器にかけて精査する」と月島は説明する。
(ふむ。もしも女生徒が妊娠し複数の男と関係があれば男性側が黙っていないか。
まぁ卒業、そして公務員資格のメリットを捨ててまで黙る理由は無いな)と根取は考える。
「そして二つ目だが妊娠した女性が複数の男性と関係があった場合なんだが・・
これはすぐには判らないので出産後その子供のDNA検査を行う事になる。
そしてDNAが一致した男性のみ合格となる形だな。」
「それじゃ結果が解るのは10か月後って事ですよね?卒業試験は3ヶ月後。つまり終わってますよね?」と根取はもっとな意見を云う。
「その通りだ。つまり相手の妊娠が発覚した場合でも最後まで学園に残って試験を受けてもらう。
その試験に合格すれば良し。もしも不合格だった場合でも
出産した子供のDNAが一致した場合、その時点で卒業資格が与えられる。」
「なるほど。時間は掛かるけれど試験不合格でも妊娠させている可能性があれば再合格の可能性があるって事ですね?」
「その通りだ。だから君たちには積極的に性行為をしてほしいと思っているよ。特に頭に自信が無い人はね」とニヤリと笑う月島。
(なかなか面白い趣向だな。つまりセックスをして妊娠させる。そして妊娠させるだけでなく他の男からも守るのが卒業の早道というわけか)
根取他数人はその裏ワザの有用性に気づき早速思案を巡らせる。
そこに加藤が「もしも試験不合格で妊娠させた奴も別の男だったらどうなるんだ?」と当たり前の事を聞くと
「当然不合格になる。納得いかないなら来年二期を募集する予定なので再試験をしても良いが・・」
と月島は何を当たり前の事をと言わんばかりに返す。
「つまり結局は勉強もしておけって事かよ」と吐き捨てると「その通りだ。裏ワザだけに頼るのは危険だぞ?」と月島は答える。
「あぁいうまでも無いが全教科50点平均とは言ったが一教科でも30点以下があれば不合格にするからよろしくな」とサラリと言い出す。
誠也クラスならともかくまともに勉強などした事の無い頭の悪い連中にとってはかなりキツイ条件である。
やはり裏ワザを試したくなるのは人情だろう。
「思ったんですが俺たちは種付けのみなんでデメリット無いですけど女側は妊娠とか大変だと思うんですけどその辺どうなんです?」
と髪を赤く染めている軽薄そうな男がそう質問する。
「春野か。まぁ普通はそう思うよな。もちろん女性側にもメリットは与えるよ。まず妊娠発覚した時点で卒業資格が与えられる。
これは勿論一人の男性のみの関係だろうが複数の男性相手だろうが妊娠は妊娠だ。母親はハッキリしているからな。」
「ふむ」と答える春野。「そして中絶を望む場合は別だが出産をしてくれれば出産祝いとして百万円。
もしも赤ん坊をこちらに引き取らせてくれた場合、
更に五百万円褒賞として出す事になっている。」と高校生としては破格のお金を出すと言い出したのだ。
「すげーな。餓鬼一匹産んだだけで600万かよ。」と春野は羨ましそうに云う。
春野陽はサーフィンとナンパが趣味と云う頭の軽さだけは誰にも負けない男である。
まぁご多分に漏れず落ちこぼれである。そんな人物なので敢えて語る事もあるまい。
「俺たちにはそういう報奨金みたいなの無いの~?女ばっかりズルイじゃん?」と更に続ける。
最初は女の方が可哀そうだと同情していた連中もお金の話が出て逆に羨ましくなったらしい。そう口ぐちに言い出す。
「お前らはノーリスクだろうが。只で女が抱けるんだ。文句云うな」と月島が云いながら、
「まぁ本当は成功報酬があるんだが条件が厳しすぎて誰も無理だろうから敢えて言わないだけなんだが」
と言葉を濁す。そこに春野が「どんな条件かだけでも教えてくださいよ~」と軽い口調で聞いてみる。
「・・まぁお前では無理だろうが一応言っておくか。」と前置きし「それは明日以降この学園に所属する全女性とセックスする事。
その成功報酬は一千万」と月島は宣言する。
「うぉ!」「マジか」「無理だな」「しかし一千万は欲しいな」と根取の後ろが騒がしくなる。
(ふむ学園に所属する全女性ねぇ?全女生徒とは言ってないな・・)と根取は月島の言い回しに違和感を覚える。
根取にとっては一千万は自力で稼げる額である。事実母親に取り上げられたものの貯金通帳には三千万程入っていたのだ。
だから比較的冷静であった。「質問良いですか?」と挙手する根取。「構わんぞ」と月島。
「まず一つ目ですがどうやって誰とセックスしたのかを検証するんですか?」
「ふむ。実はこの島のパブリックスペースのほとんどに監視カメラを付けてある。それに映るようにセックスをしてもらおうと思っている」
と凄い事を言い始める月島。「!?」「青姦かよ。」「しかも衆徒監視でかぁ」「俺たちはまだ良いとして女達は嫌がるだろうな」
「無理です~」と口々に否定の言葉が出てくる。
「まぁ気持ちは解らんでもないが見ているのは俺達判定者のみだし、当然ビデオは出回らない。一応公務員なんでな、守秘義務は守るさ。」
と月島が云う。「せめてどこにカメラ仕掛けてあるかを事前に教えてもらえませんか?無意味な一発は避けたいんで」
と根取は挙手しながら発言する。
「・・悪いが正確な場所は教えられんな。まぁ公共エリアのほとんどと言っておくよ。」
「それは何故でしょうか?」さらに畳みかける。「理由はあるが教えられん。問題があるのでな。」
そこに割って入るように誠也が「まさかとは思いますがプライベートスペースにはカメラは仕掛けてないでしょうね?」と食って掛かる。
「その辺は大丈夫だ。流石にそこまでは仕掛けてないよ。寮はもちろん公共トイレの個室もカメラは無いから安心しろ。」と云いながら
(もっとも学園の更衣室やシャワー室はパブリックスペースと言って良いか判らんがな)とグレーゾーンは敢えて言わない月島。
そこに春野が「正直セックスは好きだが他人に見られるのは勘弁してほしいんだがな~」と月島の案に否定的な見解を入れる。
せっかく面白そうな趣向なのに止めさせようとする春野に根取は「ふん。自信が無いのか?」と挑発する。「なんだと!」と激高する春野。
「祖チンが見られたくないのは解るがなw」と更に挑発する根取。
「てめぇ!」と掴みかかる春野。「学園はまだ始まっていない。それまでは喧嘩はやめてもらおうか」と月島が仲裁に入る。
「・・いいだろう。俺が本気出せばどんな女だろうがどんな場所だろうが落としてみせるぜ」
とやる気スイッチが入る春野。「まぁ女性側にはその情報は伝えない予定だ。警戒されるのはイヤなんでな。
後はお前たちが上手くカメラの前に誘導しろ。おまえらの腕の見せ所だな」と月島が締める。
「ふん!そこまでやるなら女の膣から精液掻き出してDNA検査でもやれば良いだろうが!」と悪態をつく加藤。
「・・ふむ。検証方法としてはアリか?まぁ二期以降はそういうルールも追加するかもしれんな。だが今回は保留だ。
映像のみで判断するのでそのつもりで」と月島は少し考えた後軽く流す。
「・・それならそれで」と何かニヤけながら考え込む加藤蛮を見て「あと言い忘れたが強姦や輪姦は即退学処分になるんでヨロシクな。
あくまでも目指すは和姦のみだ。それ以外はNGと思ってくれ。」
「?!何でだ!」と凄む加藤。「理由はいくつかあるがこの計画の肝はセックスそのものではなく妊娠出産だ。
ゆえに女性を肉体的精神的に傷つける行為は全て罪悪だと思ってほしい。」
と月島は念押しする。
何か言おうとしてた加藤に割って入るように「すいません。少々強引なセックスが好きな女性っていますよね?
強姦と強引な和姦の違いって判断できるのですか?後輪姦はダメって云うけど女二人と男一人の3Pもダメなんですか?」
ともっともな意見を言う根取。
「その3Pだが、、想定してなかったな。男二人以上の3Pは輪姦と判断し
当然NGだが女二人男一人の3Pはまぁお互いが和姦だと主張するなら目を瞑ろう。」と唸り
「後は強引な和姦か。それは女性側の自己申告に依るとしか言えないな。女性側が和姦と云えば和姦だし強姦だと云えば強姦だ。
その場合男性側の言い訳は聞かないのでヨロシクな。」
それを聞いた加藤は「退学が怖くて女抱けるかよ」と嘯く。
「・・別に構わんがここの退学はペナルティあるぞ?」「ペナルティ?」と意味が解らないとばかりにオウム返しをする。
「お前のとこの組は合成麻薬で儲けてるよな?」と核心を突く月島。「!!」と表情を変える加藤。
「後お前の妹が今家出をしてるよな?」「なんでそんな事まで知ってるんだ?」と狼狽する。
蛮は妹が大好きだった。しかし妹は兄とは違い暴力団の自宅を毛嫌いしていた。
今までもしょっちゅう家出をしてはその度に連れ戻されていたが今回は一家総出で探しても足取りが掴めなかったのだ。
「お前が無事卒業出来たら麻薬の事はリークしないし妹が今いる場所を教えてやろう」と提案してくる。
「逆に云えば・・そういう事か?」と加藤は聞き返す。
「察しが良くて助かるよ」と言いかけた時にワンワン!と犬の鳴き声が聞こえてきた。何事だろうか?と鳴き声がする方を見る生徒達。
そして警察犬らしき犬とスーツケースを持った捜査官らしき人物が入ってくる。
「このスーツケースの持ち主は誰ですか?」とその捜査官が云うと「・・・」と下を向く加藤。
「やはり何か入ってましたか?」と聞く月島。「えぇMDMAが入ってました。ビンゴでしたね」と捜査官が云う。
「勝手に他人の部屋に入って荷物漁るんじゃねーよ!」と激高する加藤。
「なんだお前の荷物だったのか」と白々しく云う月島。
(どうやら俺らが寮にいない間に部屋に入り全員分の荷物を警察犬に調べさせていたらしいな)と根取は察する。
「流石に女を落とすのにクスリを頼るのはアリエナイな。あくまでも俺らがデータを取りたいのは口説いた形での和姦なんでね。
まぁそういう事だ悪く思うなよ加藤」と月島は淡々と云う。
「・・俺を退学にしないのか?」と震える声で聞く加藤。「別に・・未遂なら良いさ。今後は気を付けてくれで話しは終わりだ」と月島。
加藤は内心退学にならないと云われホっとしながらも
(しかし強姦も仲間を集めての輪姦もクスリを使ったキメセクも駄目となるとどうしたもんか?
そういや強姦の定義が女の自己申告とか言ってたな。つまり何か弱みを握れば強姦でもイケルか?)と考える。
和姦だと性的に興奮しないタイプである為どうしても女を力で屈服させたいのだ。
「流石にそれはおかしいでしょう?」と最後方から声をあげる人物がいた。温美誠也である。
真面目で正義感が強い為MDMAなど所持してるだけで許せないのだ。
「君か。気持ちは解るが本人は使っていないようだし恐らく女には使おうと思っていただろうが未遂で全部没収されたし問題はなかろう?」
と加藤を弁護する月島。
「未遂だろうが所持してる時点で犯罪でしょう?捕まえないのはおかしいでしょう?」と誠也は食い下がる。
「ここはある意味治外法権みたいな場所だ。俺が問題無いと判断すれば問題は無いのだよ。
まぁクスリに頼ろうとしてた軟弱さは糾弾されるべきだとは思うがね」と月島は全く意に介さない。
「・・何を言っても無駄なようですね。解りましたもう良いです」と不貞腐れる。
(所詮三か月の辛抱で三か月だけの関係だ。加藤はその後告発してやれば良い。)と誠也は内心決意する。
そんなやり取りを見ながら根取はさっき考えていた疑問をぶつける。「月島さん。後もう一つの質問ですが良いですか?」
「どうぞ」と話題が変わった事を喜ぶ感じで返す月島。
「さっき言ってた賞金対象ですが全女性ですか?女生徒ではなく?」「そうだ」
「もしかして教師は女性ですか?」と勘が鋭いところを見せる根取。
「・・・そうだ」と月島が肯定するとまた後ろがざわつく。
「先生もかよ」「無理だろ?」「だいたい美人とは限らないしな」「BBAは勘弁」
と好き放題に云う連中。「たった一人の教師なんだ。くれぐれも壊すなよ?」と月島は釘を刺す。
(それもそうか。と云うか教師は生徒みたいな特別報酬あるのかな?何もないとこんな所来る意味ないよなぁ?)
と根取はこんなデメリットだらけの学園に就任する教師の事を考える。
自分が同じ立場ならば間違いなく断る。それでも来ると云うなら何かしらのメリットが有るのだろう。
「月島さん。先生って何か特別褒賞みたいなのあるんですか?」と根取は餌はあるのか?と問う。
「・・それは・・いやそれは本人に直接聞いてくれ」と言葉を濁した。
「・・それじゃそうします」と根取はそれ以上何も聞けないと判断し会話を終了する。
(まぁ良い。即卒業もアリかと思ったが俺は俺のやり方でこの学園に君臨するのも面白そうだ)。
根取は自分なりのシナリオを頭の中で考えるのであった。
6月1日早朝(本田 唯のケース)
6月1日の早朝某東京湾沿いの波止場にて太陽が今登らんとしていた。水平線が良く見え朝日が綺麗である。
思わず「綺麗・・」と呟く女性。彼女の名前は本田(ほんだ)唯(ゆい)。芸名は佐藤真希と云う。そう彼女はアイドルグループ激乙女のセンターを務めていた。
身長153と小柄ながらも容姿は可愛らしくもあり美しくもあった。スタイルはややスレンダーだがかなりファンは多い。
性格は容姿とは裏腹に結構激しい方だったりする。云いたい事はハッキリ言うほうでありそんな所がまたファンには良いらしい。
そんな彼女が何故こんな所にいるのか?それは数日遡る事になる。
「休養?!なんで私が休養なんてしなくちゃいけないのよ!」とマネージャーに食ってかかる真希。
マネージャーの田所は額の汗を拭きながら「仕方ないだろう?社の方針だ。と云うか理由はお前が一番解っているんじゃないのか?」
と言われ真希はドキリとする。「な、何よ」と動揺しながら聞き返す。
田所は無言でプリントアウトしたであろう写真を見せる。「!?」絶句しながら凝視する真希。
その写真は最近付き合い始めたロックバンドのボーカルである竜一とのツーショットであった。
お互い軽い変装はしているものの腕を組んでデートしている様子が写っていた。
「運よくうちの社長が出回る前に気づいて揉み消したがどれだ迷惑が掛かったと思う?」と睨みつける田所。
「で、でもバレなかったんだから良いじゃない?」と言い訳を始める真希。
「とにかく別れろ。良いな?」「嫌よ。今の時代恋人の一人くらい居たってファンはついてくるわ」と真希は云う。
「・・アリエナイな。確かにお前の性格だ。カミングアウトしてもついてくるファンもいるだろう。
だが全体で見れば良くて3割。それもほとんど女性ファンだろう。話にならんよ」と一蹴する。
「・・じゃぁバレないように付き合うから。それなら良いでしょう?」と食い下がる。
(真希は竜一の悪い噂は知らないようだな。言ってやっても良いがどうしたもんか)と田所は思案する。
某バンドボーカルの竜一は元々悪い噂が絶えない男であった。曰く複数の女を食っては捨てるを続けているらしい。
それもただ捨てるのではなく御下がりと称して他のメンバーにくれてやるのだ。
次第に心も身体も壊れていき中には自殺した子もいるとか。
(真希にはそうなって欲しくないから距離を置いてやろうとしてるのに馬鹿女め)と内心悪態を吐きたくなる田所。
「とにかく決定事項だ。明日に休養会見をするから用意しておけ。」と一方的に宣告すると
「なんで休養しなくちゃいけないの?おかしいでしょ?」真希は食い下がる。
当たり前だ。ようやく人気グループの証であるアイドル大賞を取ったばかりなのだ。これからって時に休養なんてしたら
人気が下がる。いや下手すれば忘れ去られる。それくらいこの業界は厳しいのだ。
「休養の理由は喉の炎症という事にしておこう。会見では復帰時期未定と云う事にするがまぁ三か月くらいゆっくりすれば問題なかろう」
「三か月も?問題大アリよ!他のメンバーは?どこにいるの?恵美は?裕子は?」と他のメンバーならきっと反対するだろうと
言い募る。「他のメンバーならサブマネがラジオ局に送っているよ。そろそろ着く頃だろう」とそっけない。
「今日ラジオの仕事なんてあったの?聞いてないんだけど?」「言ってないからな。新メンバー募集告知の第一弾をラジオで発信するだけだ。
気にするな。もちろん第二弾第三弾と色々なメディアで大々的に告知するがな」
「なっ」と絶句する真希。(私の知らない所で何が起きているの?)
「・・つまり私はお払い箱って事?」と聞きたくは無いが一番聞かなければいけない事を質問する。
「・・そうは言ってない。だが真希がいない間は別のセンターを置くしかないからな。新人を募集しつつ残ってるメンバーで総選挙でも
しようかと思っている。まぁ戻ってくる間のスペアだと思ってくれれば良い。」
「本当に戻れるの?」「それはお前次第だな。」とそっけない。
「こんな事信じてもらえるか判らないけど竜一とはこの前が初デートなの。その時は食事しかしてないわ。だから!」
真希は身の潔白を主張する。清い身体である以上、自然消滅すれば事務所的には文句無いだろうとそう考えたのだ。
「あの写真を見てどれだけの人がそれを信じると思う?それにお前はまだアイツが好きなんだろう?それじゃ何時ヨリを戻すか
判らん。そんなリスクを負って活動する方がよっぽど他のメンバーにも失礼だ。それが判らないのか?」と田所は正論を云う。
唇を噛み締める真希。「・・社長に・・社長に合わせて。せめて弁明だけでも」と声を絞り出す。
「社長は今来客中だが、、まぁアポは取ってみるよ」と内線電話で社長室を呼び出す田所。
(せめて引退だけは避けないと、最悪移籍も視野に入れて)と色々今後の事を考える真希。
「はい、、はい、、分かりました。」と電話をしている声が聞こえる。
しかし移籍するという事はソロでやると云う事だ。そこまでの実力もコネも無い真希はかなり厳しい状況に置かれるだろうとは予想できた。
(あくまでも残留が基本線。だけどどうにもならない時は他でやるしかないか?竜一の所属してる事務所はどうだろう?)
と色々なケースを考える。
そうして思案していると電話が終わったようだ。
「来客中だが来て良いそうだ。付いて来い」と社長室に行く為エレベーターホールに向かう田所チーフマネージャー。
「え?来客中なのに良いの?(もうすぐ客との商談が終わるからって事かしら?)」と疑問に思いつつ付いて行く真希。
そして社長室のドアの前でノックする田所。「・・入れ」短い言葉が部屋の中から聞こえる。
「失礼いたします」と田所はドアを開け中に入る。
その後ろに付いていくように真希も入っていく。そこに社長の他にもう一人背の高い黒いスーツを着ている男性が立っていた。
(この人は?)と疑問に思いつつ、「社長、お時間をいただきありがとうございます。それでその方は?」と恐らく先程言っていた来客では?
と思い、込み入った話は避ける。(早く帰ってもらって直談判しないと)と真希は考え客が退室してくれる事を望む。
「あぁ込み入った話をしても構わんよ。彼は大事な客だがこの問題を解決してくれる人物でもある。
ようやく話が纏まったところだよ」とほくそ笑む社長。
「?外部の人に聞かれたくは無いのですが?」と念押しすると「構わんと云ってるだろう?」と少しだけ圧を掛けるように話す北川社長。
そこにその客人は「まぁまぁ北川さん。それくらいにしてあげてください。ちなみに私はこういう者です」と名刺を差し出してくる男。
「月島・・さん?お役人なの?」と目を丸くする真希。(なんでそんなのがいるのにスキャンダル話をしなくちゃいけないの?)と口ごもる。
社長に察してもらおうと一睨みすると「あぁ。その辺は大丈夫だ。何せこの月島さんが今回の写真を持ち込んで来た人だからな。」
と北川社長が衝撃発言をする。
「えっ?」うまく頭が回らない真希に「まぁそういう事です。今回は良かったですね。身内だけにしかバレなくて。」
と月島は澄ました顔で言う。
「・・・どういう事か説明してもらえますか?」と努めて冷静に振舞おうとする真希。
だが内心は怒りと悲しみとイミフな状態がない交ぜになってどうにかなりそうであった。
「それでは私から説明させていただきます。まず今回は我々のプロジェクトに参加してもらえる生徒を探していたのです。
尽光計画というのですがまぁプロジェクトの名前はどうでも良いでしょう」
「そしてその白羽の矢が立ったのが佐藤真希さん貴方なのです。」と話しを続ける月島。
「すみません。全く話が見えないのですが?」と戸惑うように返事をする真希。
「そうでしょうね。実を言いますと貴方の事をずっと追いかけていたのですよ。まぁ私ではありませんが。」
「!?意味が解らないのですがもしかしてストーカーしてたって事ですか?」
と驚く真希。「人聞きが悪いですがまぁそうなりますね。興信所に頼んでここ一か月程私生活を探らせていただきました。
他にも何人か候補はいたのですが、身持ちが固い人ばかりで
諦めかけていたときに佐藤さんが恋人と付き合い始めて、いやぁ助かりましたw」とヘラヘラ笑いながら話す月島。
「ぐっ・・(ストーカーされてたのに気づかなかった私が間抜けって事か)」と唇を噛み締める。
「真希。お前堀川高校の成績悪いらしいじゃないか?しかも出席日数もヤバイって聞いたぞ?」と社長が話に入ってくる。
「そ、それは仕事が忙しいから仕方ないわ。私のせいじゃない!
それに芸能科のテストなんて名前書いとけば卒業出来るって言ったのは社長じゃないですか!?」
「まぁ言ったがそれはワシが若い頃の話だよ。今は最低限の成績を取らんと卒業出来んらしいぞ?」「そんな~」と嘆く真希。
「そこでですね。堀川から尽光学園に編入してもらおうと思ってるんですよ。もちろん無試験です。」と月島が提案してくる。
「え?編入?そうすれば卒業出来るんですか?」と真希が食いつくと
「もちろん最低限の成績は取ってもらいますが堀川よりは簡単だと思いますよ?」と云う月島。
「今時分芸能人だろうが高卒資格は当たり前だぞ?大卒も結構いる。頭悪くても許されるのは若いうちだけだぞ?」
と社長が背中を押すように云う。
真希は元々勉強が嫌いであった。その上仕事仕事で授業をまともに受けられず、益々嫌いになった経緯がある。
「だけど結局勉強しなくちゃイケナイですよね?出席日数的にも厳しいですしそれに私には仕事もありますし無理じゃないですか?」
と真希は思った事をそのまま云う。
「田所さんから聞いているとは思いますが仕事は休止していただきます。3か月指定する寮に入りそこで勉強三昧と云う事になりますね。」
と月島。「えっ?三か月も?(そうか、だから田所さんが三か月休養しようと云ったのか)」と大体の事情を察する。
「安心してください。合宿みたいな形にはなりますので自宅には帰れませんがその分集中出来る環境ですし
万が一成績が悪くても救済措置があります」と重ねていう。
確かに高卒資格は欲しい。しかし三か月休養するという事はその間別のメンバーがセンターを務める事になる。
居場所を奪われないだろうか?ファンは待っててくれるだろうか?事務所はちゃんと復帰プランを考えてくれるのだろうか?
そして何より竜一は待っててくれるだろうか?
「あの・・」と口を開きかけると「お前は少し冷却期間を置かないとダメになる。分かっているだろう?」と社長が釘を刺す。
「そんなことは・・いや私のミスなのは認めます。でも事務所に言わなかったのは悪かったとは思いますが彼が好きなのは本当なんです。
時期を見て言おうとは思ってたんです」
と弁解する。「ふん・・まさかあの事務所の奴と付き合うとはな。」と嫌悪感を隠さない北川社長。
良くは知らないが竜一の事務所とは険悪らしいというのだけは伝わってきた。(これはマズイかも?)と真希は不安になる。
「とにかく!アイツとは即別れろ。それが最低条件だ。そして休養会見を開けばお前の事は見捨てない。
俺から言えるのはそれだけだ」と社長はピシャリと反論は許さない空気を出す。
「・・・・・・わ・かり・・・ま・し・・た・・」とようやくそれだけを絞り出す。気づくと涙が出ていた。
(どうしてアイドルは恋愛しちゃいけないのだろう?)
事務所に入る時に交わされた約束すら忘れてそんな事を考える。
(私は・・間違っていたの?私は人間じゃないの?女じゃないの?)そんな自問自答を繰り返す。
「ふぅ・・田所。話は終わりだ。真希を連れて退室してくれ。俺はこの月島さんと真希の今後を詰めたいんでな。」
と社長が田所チーフマネに話しかける。
「かしこまりました。真希!行くぞ」と泣いている真希の背中を押してドアの方に向かわせる。
「田所さん。後で北川さんと詰めた内容を三者で話しますので佐藤さんをサブマネに預けたら戻ってきてください」
と月島が田所に向かって話す。「了解いたしました。失礼しました」と一礼し退室する田所。
真希はまだ泣いたまま背中を押されるように退室するのだった。
密談
二人が退室するのを確認して「ふぅ~。真希には金掛けたんだがこんな形で裏切られるとはね。」と北川はため息を吐く。
「まぁ仕方がありません。年頃の男女、それも美男美女ばかりいる芸能界で恋愛するなと云うのは酷だと思いますがね?」と正論を吐く月島。
「だが夢を売る仕事だ。君がもし好きなアイドルに彼氏がいると判ったらどうするかね?」と北川も芸能界の正論を吐く。
「アイドル関係は解りませんが・・そうですね。まぁ恐らくその彼氏との性行為を連想して冷めますかね?」と月島はファン心理を推察する。
「その通りだ。だからこそ恋愛禁止なんていう下らないルールが出来るのだよ。そしてそれはお金に直結する以上絶対だ!」と語気を強める。
「ふむ。まぁそのお陰で私は佐藤真希さんが手に入るのですから文句はありませんよ。」と月島はクールに言い放つ。
「最早アイツには商品価値は無い。いや少しはあるのかもしれんが君がもたらす情報に較べればカスみたいなものだ。」と北川がニヤリと笑う。
「ありがとうございます。それでは商談成立と云う事でよろしいですね?」と念を押すと
「もちろんだ。煮るなり焼くなり好きにしてくれ。なんならそのまま引退しても構わんよ」
と北川はあるファイルを見ながらそう呟く。
そこにコンコンとノックする音が響く。「田所です。よろしいですか?」と声が外から掛かる。「入れ」と短く言う北川。
「真希はとりあえず休憩室に待たせました。山井(サブマネの一人)が面倒見てます。」と報告する。
「うむ。田所まずはこれを見てくれ。」と膨大なファイルを見せられる。「これは?」と云いながら目を通す田所。
「これは・・都内の中学の女子生徒のプロフィールですか?」と顔写真と名前住所所属している中学校が記載されている。
「月島さんが持ってきてくれたものだ。真希を差し出せばこの情報をくれてやるという条件でな。」
「まぁ本来こういう情報は外には出回りません。個人情報ですからね。もしも私が流出したとバレたらクビかも知れません。」と笑う月島。
「・・確かにこれは凄い。ピンポイントでスカウト出来るのは大きい。しかも今から育てるなら高校生より中学生のが良い。
よく分かっていらっしゃる。」と感心する田所。
「だろう?その代わりに真希には人身御供になってもらう。明日の会見は実質引退会見になるだろう」と北川は宣言する。
「!?それは真希を裏切る事になるのでは?それにこれまで育てた分を回収出来たのか微妙ですし彼氏と別れるのであればまだ稼げるかと」
と田所はもっともな事を言う。
「やはり激乙女のチーフとして真希は思い入れがあるか?気持ちは解らんでも無いが一度恋愛脳になったアイドルはまたやらかすよ。
そして毎回もみ消せるとは限らん。」と北川は最早抱えるリスクのが大きいと判断する。
「・・・分かりました。私もこの会社の人間です。会社の決定には従います。それで真希は今後どうなるのです?」
と納得しつつも真希の心配をする田所。
「それは月島さんから詳しい事を聞いてくれ。」と突き放す。
「それでは私から説明させていただきます。佐藤真希さんは6月1日から始まる学園の生徒になってもらいます。
そこで3か月過ごしてもらい、高卒資格をとってもらうまでがこちらの拘束期間となります。」と月島が北川の話を繋ぐように話す。
(ふむ。新興の学園の宣伝の一環なのか?真希のネームバリューで生徒を増やそうという考えか?
良く分からんが男(竜一)との冷却期間と考えれば悪くないか?)と田所は考える。
なんだかんだで真希の事は認めている田所である。どんな形になっても何とか芸能界に生き残らせてあげたいと考えるのは人情だろう。
「分かりました。真希をよろしくお願いいたします。」と頭を下げる田所。
「其の間は一切連絡は取れなくなります。それだけはご了承ください」と念押しする月島。
「はぁ・・解りました?」とどうして連絡すら駄目なのかイマイチ理解していない田所ではあったが後は流れに任せるしか無いと判断する。
「まぁ後は真希次第だ。竜一を忘れ真面目に勉強して復帰するのも良し。そこで新しい恋人とイチャイチャするも良し。
最悪妊娠して引退するも良しだ」と社長は最後物騒な事を云う。
「社長流石にそれは、」と田所は冗談だとは思いつつ突っ込みをしてしまう。
「田所、本気で言ってるぞ?月島さんはそういう学園にしたいらしいからな?」と北川は目を座らせる。
「北川さん。もうそれくらいで」と止めに入る月島。
「・・・そういう学園?どういう事でしょうか?」とやはり聞き咎める田所。
「まぁぶっちゃけて云いますが、当学園は恋愛を推奨している学園なのです。もちろん強制する気はありませんが
彼らがそういう関係になっても一切学園側は関知しません。と云う事です。」
「・・良いんですか?社長?」と頭の中で理解しその危険性に気づく田所。
「良いと言っている。何度も言わすな」とドスの効いた声を出す北川。
「我々は新しい商品をいくらでも手配出来る環境にある。ピークとは云え真希一人いなくなった所でスペアはいくらでも手に入る」
と先程のファイルの山を叩きながら北川はほくそ笑む。
「・・・(社長にとって真希はその程度だったのか・・)」ショックを受ける田所であったが社畜である自分に出来る事は少ない。
後は真希の人生に幸あれと祈るくらいだろう。「判りました。それでは今後の方針はそのように」と田所は白旗を上げる。
「さて・・後は真希さん本人の説得ですね。田所さん行きましょう。」と月島は動き出す。
「北川さん。また機会がありましたら宜しくお願いしますね。」と出ていく時に声を掛ける。
「あぁ実に有意義な商談だった。また何かあったら優先的に回しますよ?」とニヤリとする北川。それに応じるようにニヤリと笑う月島。
(この人達は悪魔なのか?)と田所は今後この事務所に入るであろう少女たちの行く末に不安を感じるのであった。
説得
下に降りて休憩室に入る月島と田所。
そこにはようやく落ち着いてきた真希とサブマネの山井がパイプイスに座っていた。
「どうも。社長とは話が着きました。先程の話の続きですがよろしいですか?」
と元々こういう顔なのか、糸目のニコニコ顔で近づいてくる月島。
少し落ち着いてきてはいたものの月島と田所の顔を見てまた思い出したのかキッときつい顔になっていく真希。
「どうやら嫌われちゃったみたいですね。しかしそれでも貴方にとっても悪い話ではありません。
確かに三か月芸能界から離れるのは不安でしょう。
しかしこちらにはこの写真という切り札がある。拒否されたらこれを公開するしかありません。」
「脅迫ですか?それならこっちにも考えがあります。せっかく会見を開くんですから竜一との関係も全部バラします。
そうすれば堂々と付き合えますからこちらとしても願ったりです!」とアイドルを捨てる覚悟で云う真希。
「それは困りましたね。貴方はそれで良いのかもしれませんが周りの人たちはどうでしょう?
貴方一人のせいで事務所もメンバーもファンも家族に至るまで迷惑が掛かるとは思いませんか?」
「それは・・」と躊躇する真希。メンバーや家族の悲しそうな顔が思い浮かぶ。ファンからも非難されるだろう。
その全ての責任を負えるのか?そう自問自答する真希。「さて、ご理解して頂けたようで何よりです。そこまで深刻に考えないでください。
合宿だと思えば良いのです。貴方もデビュー前に今のメンバーと合宿した事があったでしょう?そんな感じだと思えば良いのです。」
沈黙を肯定と解釈し、そう話し始める月島。
田所が(良くご存じだ。かなり真希の事を調べたと見える)と感心する。
(私はどうしたいのだろう?竜一とは一緒にいたい。これに嘘は無い。だけどアイドルを続けたい。これも嘘じゃない。
その両方を選ぶのは無理なのも頭では分かっている。残念だが恐らく竜一とは別れる事になるだろう。それは仕方ない。
そして冷却期間を置きたい事務所の意向も判る。こんな気持ちのままファンの前に立つのは失礼だしもっともなのも解っている。
・・結局選べる選択肢は全てを捨てて竜一の元に行くか。それともこの月島って人に付いていくしかないのね。)
と頭の中を整理する真希。「・・解りました。その学園に行きます」と睨みつけるように宣言する。
「ありがとうございます。それではこの書類にサインを」と書類を出し始める月島。
(これで女性側はかなりの人数が確保出来た。計画実行まであと一息だ)月島は手ごたえを感じるのであった。
6月1日早朝その2
波止場で一人待ちぼうけ状態の真希。いや本田唯は海の景色を見ながら今までと今後の事を考える。
(しかし参ったなぁ。竜一は激怒してたし、社長も田所さんも冷たいし、
他のメンバーも口では残念って言ってたけど思ってたほどじゃなかったし、休養会見に至っては・・思い出したくないレベル。)
実際会見はかなり揉めたのだ。何せ本人は喉の病気と云う事になっているものの健康そのもの。
病名すら聞かされていないから「詳しいことはマネージャーに聞いてください」としか言えなかったのである。
そりゃ記者だって食い下がるだろう。結局逃げるように会見場を去った形である。
はぁっとため息を吐く唯(学園かぁ。どんな所なんだろう?勉強嫌いなんだけど何となるかな?)と無理やりネガティブ思考を切り替える為
新しく入る学園の事を考える。そこに「あ~。私より早い人居た~おはようございま~す!」と声を掛ける人が居た。
唯が振り返ると元気そうな女の子が歩きながら近づいてきた。
「貴方も尽光学園に入るんですよね?私は天野晴子って云います。よろしくね」と明るく笑いかけてきた。
「え、えぇ私は・・」と言い掛けると「あれ~?佐藤真希じゃない?激乙女の。違う~?」と晴子の後ろからやや気だるげな声が掛かる。
「えっ?激乙女ってアイドルの?」と晴子はマジマジと唯の顔を見つめる。
「・・・良く似てるって言われるわ。友達からは双子じゃないの~?ってw残念ながら佐藤真希じゃないわ私は本田唯よ」と
晴子とその後ろから来た眠たそうな目をした子に話しかける。
「・・ふ~ん。私は軽部、軽部千恵よ。よろしく~」と軽い感じで挨拶される。
(ふぅ。流石に本名は知らないみたいね。公式プロフィールにも入れてなかったはずだしバレたら面倒だし良かった)
と胸を撫で下ろす。万が一バレた場合復帰した時にこんな所に居た情報が出回るのはマイナスだと判断したため咄嗟に
佐藤真希では無いと嘘を吐いたのである。(まぁ私の本当の名前は本田唯だし嘘は言ってないわ)と自己正当化する。
そこに波止場に向かって船がやってくる。中型漁船を改造したような一言で云うなら怪しい船である。
「まさかアレじゃないよね?」と晴子が船を指差しこちらに話しかける。
「さぁ?朝5時までにここに集合してって言われただけだから」と唯は答える。
「・・そういやさぁ。荷物を前日に宅配便で送ったじゃん?それの住所ってココの近くなんだよね」と千恵は気怠そうに云う。
「まさか・・」と唯と晴子は同じ科白を同時に言ってしまう。
そして船が波止場に着くと中からスーツ姿の女性が出てきて波止場に先に降り、投げられたロープをブイに縛って固定する。
その手際の良さに感心しながら恐らく学園関係者だろうと推察する。
その女性は黒いスーツ姿で無地の白いブラウスに赤いネクタイそしてミニのタイトスカートに黒パンストで
如何にも仕事出来そうという出で達であった。
流石に船で移動する為か靴はデッキシューズであったが。
「おはようございます。学園への編入者ですね?私は尽光課の沖田純子と申します。皆さんの案内役を仰せつかっております。」
とこちらに向かって挨拶をしてきた。
「お、おはようございます。今日からお世話になる本田唯です。」ととまどいながらも挨拶する唯。
「おはよー!天野晴子で~す」と元気に挨拶する晴子。「おはよ~。軽部で~す。」と怠いと言わんばかりの挨拶をする千恵。
「三人だけですか。他の子達はまだ来ていませんね?」と沖田は唯に向かって確認する。
「はい。」と短く答えそれ以上は何も判らないとばかりに首を横に振る。
そこに丁度更に三人ほどこちらに歩いてくる少女の姿が見えた。どうやらあれも同級生らしい。
「遅刻はあまり感心しませんが仕方ありませんね。先に船に入って待っててもらえますか?」と唯達に話しかける沖田。
そして「近藤さん!この子達を船に案内してください!」と船に向かって叫ぶ。「了解」と船から男の声が聞こえる。
船内からニュっとガタイの大きなラグビーかアメフトでもやってそうな男が現れる。
「悪いがこっちだ」と船内に手招きする近藤と呼ばれた男。唯晴子千恵は顔を見合わせながら船に入る。
船内はお世辞にも広いとは言えないが何も無い為思ったよりも居住空間はあった。前向きに固定された椅子があり小さなフェリーを連想する。
窓の部分は暗幕が張ってあり朝だと云うのに船の蛍光灯の灯りのみで室内は少々暗い。
「ふ~ん。座るところ以外何も無いんだね。と晴子は思ったことをズバリと云う。。
「ふぅ。まぁとりあえず座りましょう」と唯は他の二人に声を掛ける。
「ねぇねぇ。なんでここに入る事にしたの?」と晴子は座った途端に話しかけてくる。
正直一人で考え事をしたかった唯は内心ウザイと思いつつ「え~っとまぁ前の学校で出席日数がヤバくてね。その点こっちなら3ヶ月通えば
高卒資格取れるって云うから」と唯は無難な発言をする。
「ふ~ん?まぁ私も他人の事言えないんだけどねw成績が悪くてさぁ。親から無理やりそっち行けって言われてさぁ。無理やりだよ~?
酷いと思わない?」とマシンガントークを続ける晴子。(誰か助けて欲しいなぁ)と唯は千恵の顔を見る。
「・・やっぱり似てるよねぇ。まぁ世の中には三人似てる人がいるっていうからね~」と千恵は唯の顔をマジマジと見ながらそう云う。
(こっちはこっちでマズイなぁ。どうしよう?)と悩んでいるとザワザワと賑やかな声が外から聞こえてきた。
そこにさっき見かけた3人の他にもう3人増えて船の中に入ってきたのであった。
「わぁ~賑やかになってきたね~」と喜ぶ晴子。「変なの多そうだけどね」と斜に構える千恵。
(助かった~)話題がそっちに行った為ホッとする唯。6人同時に女の子が入ってくると中々に賑やかになってくる。
「よろしく~」「宜しくお願いいたします」「これからよろしくね~」と次々と挨拶してくる同級生になるだろう人達。
中には「・・どうも」とペコリと挨拶する中学生にしか見えない子もいた。
「貴方本当に高校生~?見えないんですけど~?」と晴子は全く歯に衣着せぬ物言いをする。
「・・薄井、薄井幸子と言います。本当に高三です・・」と小声で喋る幸子。「ふ~ん?宜しく~」とどこまでも軽い晴子であった。
「後一人なんですが・・少々お待ちくださいね」と沖田さんがそう言って船から外へ出ていく。
そこへドタドタドタと走ってくる金髪の女性が波止場に向かっていた。
メアリー・ナチュレハートのケース
「スミマセーン!遅れまシター!」と息を切らせて走ってきた女性。
身長は170以上はあるだろうか?女性の中では大きい方だ。
胸も大きくスタイルも良い。ファッションモデルをやっていると言われても信じるレベルである。
顔は金髪碧眼で北欧系の血が入ってると思われる。
「メアリーさんですね?10分遅刻ですよ?まぁ時間が無いのですぐに乗ってください」
と沖田はメアリーに乗船を促す。
「ハイ!了解でーす」と中々元気がありそうである。
「ミナサーン!遅れてスミマセーン。メアリーです!よろしくデース!」
と流暢であるもののどこかイントネーションが所々おかしい外国人を見てみんなが驚く。
「私は本田唯。ゆいで良いわ。よろしくね。」
職業柄外国人(タレント等)との接触も多い為、唯は平然と話しかける。
「OH!よろしくデース。メアリーでーす。」と笑顔で接するメアリー。
そこに乗っかる形で「晴子だよ。よろしくメアリー。しかし綺麗な金髪だね~羨ましい~」と晴子がメアリーの髪を褒める。
「・・サンキューでーす。でも黒髪のが良いとオモイマース」とやや緊張したような笑顔を見せる。
唯は「?」とメアリーの表情にちょっとした違和感を覚える。
メアリー・ナチュレハート。父マーク・ナチュレハートと母マリア・ナチュレハートの間に産まれた子である。
マークは元横須賀基地の軍人でありマリアとはアメリカで知り合い当時新婚であった為横須賀に付いてきていた。
その一年後メアリーは横須賀で生まれた。その後スクスクと育ち、小学時代はアメリカンスクルールを通っていたが
マークは日本大好きとなり日本国籍を取る為軍を辞め日本の商社に就職し渉外担当として活躍する。
その後日本語を覚えさせる為にアメリカンスクールから日本の中学校に転校する事になる。
日本語があまり得意ではないメアリーは勉強にかなり苦戦しそのたどたどしい日本語と髪の毛の色からイジメにもあう。
中学時代は地獄であった。女性特有の陰湿なイジメもあり暴力的な物はほとんど無かったものの無視や
仲間外れ状態で人間不信となり、そこから逃れる為かなり遠くの高校を受ける事になったのであった。
丁度そのタイミングで父マークから日本国籍が取れたと連絡が入る。メアリーは正真正銘の日本人となったのだ。
(日本人。そうだ。私はこれで日本人なんだ。これからはもっともっと日本語を頑張って友達を作るんだ)
そして高校デビューでは無いがかなり周りに明るく振る舞うようになったのである。
高校時代はその日本語のたどたどしさが逆に受け、みんなから受け入れられた。
(やっと、やっと私も日本人になれた)そんな気がして嬉しかった。
だがテストは基本日本語である。そのせいで英語のテスト以外の成績は酷かった。
先生に英語でテストしてもらえないか?と相談したら「貴方は日本人なのですよね?それならば日本語が出来ないと将来不便ですよ?」
とにべもない。
落ち込みながら(私は一体何なんだろう?)と考え始める。
(国籍的には間違いなく日本人だ。それは間違いない。でも疎外感は消える事が無い。
友達は良くしてくれる。でもお客様の域を出ているだろうか?先生も面倒くさがってまともに相手をしてくれない。)
日本人でもないアメリカ人でもない。アイデンティティを保てない状態になり悩む事になる。
それでも何とか赤点ギリギリながらも進級出来ていた。しかし高三になり完全についていけなくなる。
この前の小テストも赤点ばかりであった。
(もう駄目かも?)そう思っていた時に彼はやってきたのであった。
母親であるマリアと共にやってきたのはサングラスを掛けた黒いスーツの男であった。
その男は月島と名乗り、君を救いに来たと云う。「?ドウイウコトでしょう?」とメアリーは月島に尋ねる。
そして月島は新しい学園について説明を始める。
そして卒業資格だけでなく公務員資格も持てる事を補足説明するとメアリーよりも母親の方が目を輝かせた。
「メアリー。アナタはジンコウガクエンと云う学校に転校するのデース」と母マリアは賛成する。
母親の方も日本語を勉強したのだろうか。日本語は母親の方が上手そうだ。
「ママ。それじゃ私はココを出るのデスカ?」とメアリーはここで出来た友達の顔を思い出す。
「そうですね。お友達と別れるのは辛いでしょうが貴方の未来の為です。
3か月間みっちり勉強すれば貴方は生まれ変われると約束しましょう」
と月島がマリアに代わって話しかける。
「・・」メアリーは考える。
(確かにここにこのまま居ても卒業出来る未来は見えない。友達と別れるのは寂しいけれど親友と呼べる存在はいなかったように思う。
ママも熱心だし嘘は無いだろう。ならば騙されたと思って転校するのアリかも?)
そうメアリーは判断する。「ワカリマシタ。そのガクエンに転校シマース」そうにっこり微笑むと月島は下がった目尻を更に下げるのであった。
下船
約5時間程の航海の後どうやら港に着いたらしい。
船中でスマホを全員取り上げられた。ぶ~ぶ~文句は出たものの誓約書に書いてあったため渋々皆差し出した。
(何か知らないけど秘密主義っぽいな。役人ってみんなこんな感じなの?)と怪訝に思いながらも文字通りの乗りかかった船である。
後戻りは出来ない為唯はもう考えるのをやめた。そして沖田さんから「一人ずつ降りてきて」と指示が飛ぶ。
「疲れた~」と皆口ぐちに云うと漁船もどきから下船する。
「近藤さん。私は彼女たちを寮まで案内しますので船の方は宜しくお願いします」と沖田が操縦していたガタイの良い男に話しかけている。
「あいよ」と短く返事する近藤。
(なんか変なところに来ちゃったなぁ。)と唯は少し後悔し始めていた。
「さて皆さんあっちに建物が見えると思いますがあそこまで歩きます。ついてきてください」と事務的に話す沖田。
「ぇ~」「結構距離あるんじゃない?」「約3キロくらいですよ。すぐです」と沖田はブーブー云う生徒達をたしなめる。
「え~三キロ~?」「しんどいかな?」「車くらい用意しておいてほしいよね」と愚痴り始める生徒達。
(はぁ。まぁ来ちゃったもんは仕方ないか。とりあえず三か月頑張って今後の事はその間で考えよう。)と唯は腹を決める。
そして40分弱程度歩き寮に着く。「やっと着いた~」「帰りは車用意しておいてほしいかな?」「だよね~」と
皆好き勝手な事を言っている。
(3キロくらいで愚痴を言ってるようじゃ東京では暮らしていけないけどね)と唯は他の子達を冷めた目で見つつ寮の外観を見る。
三階建ての外観は横に広く何部屋あるのか?と云うくらい広い。
「北棟と南棟各20室ずつ1フロア40室。二階も同じ造りになってますので生徒は最大80人収容できます。」と沖田さんが説明する。
どうやら寮は全て一人部屋らしい。身バレの可能性がある唯にとっては有難い配慮であった。
(普通の寮だと二人部屋が基本だったりするからこれは助かるな)唯はホッと胸を撫で下ろす。
「寮には入るにはカードキーが必要になります。そのキーを配りますので名前を呼ばれたら順に取りに来てください。薄井幸子さん」
と沖田が順に名前を呼んでいく。「・・はい」とおどおどしながら取りに行く薄井。
(可愛いと思うのに自分に自信が無いのかな?)と唯は薄井を見ながらそう思う。
確かに体型的に高三には見えないが顔の造形的には悪くない。髪型を変えて化粧すればバケるのでは無いか?と考える。
(もしも仲よくなったらそういうの教えるのもアリかな?)
と唯は今後の事も考えて少しでも快適に三か月間を過ごす方法を考察する。
(やっぱり友達は作っておいた方が良いだろう。逃げ出せない以上こんな所で孤立するのはリスクのが大きい。)
唯はやはり芸能界の荒波に揉まれただけあって現実主義である。
こんな所で変に孤高を気取るのは危険だと思っている。
しかし同時に身バレは避けたい。芸能界に疎いか口が堅い人物でなければ・・
そういう意味では近づく人間は厳選しなくては・・と考えていると
「本田唯さん!」と沖田から呼ばれる。「はい!」と元気よく返事しカードキーを受け取りに近づく。
そして寮への入り方を教わりいざ中へ!となった時に「ひゅ~」と口笛を吹く音が聞こえた。
男子との邂逅
「おっはー!皆可愛いじゃん~!」と道路を挟んだ向こう側からそんな声が飛んでくる。
女子寮の向かい側に合わせ鏡のように同じ施設が建っている。どうやらお向かいは男子寮らしい。
女子生徒達がそれに反応しようとした時に「月島課長から聞いてないのですか?異性との接触は今日の夕方の入学式まで禁止だと!」
と沖田さんが大声で叫ぶ。「堅い事言わないでよ~、美人のお姉さ~ん。お姉さんの名前も何て云うの~?」と全く意に介さない。
(どうやらチャラい男がいるようね。そういうタイプは出来るだけ避けなければ)と唯はその男を見もせずカードキーを使ってエントランスに
入る。相手の顔を見ると云う事は向こうも私の顔を見る事になる。髪型も少し変えてあるし化粧も最低限しかしていない為すぐに
バレるとは思わないがやはり異性との接触は出来るだけ避けたいと思っている。
特に女性アイドルの場合、男性の方が詳しい場合が多い。気を付けなければ。そう考えていると「あれ~?中入っちゃうの~?
寂しいな~」と後ろから声がする。唯は私の事か?と思いつつ無視してさっさと中に入る。
丁度そのタイミングで「こら~~~!!!何やっとるか~!!!」と遠くの方から男の怒鳴り声が聞こえてきた。
唯が思わず振り返ると「近藤さん!遅いですよ」と沖田は近藤に向かって話しかけている。
どうやら船を錨泊し波止場に固定するのに時間が掛かったようだ。
「やべっ!あのおっさんか」とチャラい男は寮の中に入っていく。「すまん沖田。遅れた」と言いながら
「おい!待て春野!」と近藤が男子寮に入っていく。どうやらあの強面の人が男子側のお目付け役らしい。
(参ったな。最悪身バレしたらどう口を塞ぐべきだろうか?)芸能界復帰に執念を燃やす以上、ここに居たのがバレたら
マスコミの恰好の餌食になる。そうなれば引退とまでは言わないがかなりの冷却期間が必要になるだろう。
アイドルの売りの一つである若さフレッシュさを封じられる事になる。(厳しいな。なんで私がこんな目に)
と自分のした事を棚に上げ社長や田所チーフそれに月島に恨み言を言いたくなる。
(いつかあいつらにギャフンと言わせられないかな?)
そんな事を思うのであった。
学園への道
寮には事前に荷物は届いていた。その荷物を自分の部屋に入れてまたエントランスに戻ってくる女生徒達。
部屋は全員二階であった。
理由は良く判らないが男子寮側は全員一階だと説明を受けたので恐らく夜這いや覗き防止と思われる。
しかも北棟5人南棟5人と別けて騒音対策も兼ねてか201、203、205と云った感じで
一部屋づつ空けて振り分けられている。元々壁は厚めであるため少々騒いだところで他の人に気づかれる心配は無い。
(部屋で発声練習とか出来るのは嬉しいかも)唯はその配慮に感謝する。
「まず寮に関してですが管理者は一応私と云う事になっていますが基本私はいないと思ってください。」と沖田が云うと
「それじゃ問題が発生した場合はどうするのですか?」ともっともな質問が飛ぶ。
「その場合はここの三階に学園長室がありますのでそちらに言ってください。
エレベーターホール前にインターフォンがありますので
在宅であれば対応してくれるでしょう。」と言われる。
実はその新任教師も全て初めてなのだが生徒達は知らない為納得する。
「洗濯は各自の部屋に洗濯機がありますのでそれで、あとドライクリーニングは一階にドライ専用の洗濯機がありますので
それを使ってください。業務用のアイロン台もありますのでまぁ服に関しては問題無いでしょう」
と寮の使い方をレクチャーしてくれる沖田。
「食料なんですが寮では自炊となります。各部屋にキッチンがありますのでそこで、
食材ですが毎日空輸されますので安心してください。
但し前日の17時までに欲しい物を書いてそちらにあるご意見箱に入れておいてください。
朝にはそれが届く形となります。特殊な物はその限りではありませんが。試しに明日の食材を書いてみましょうか」
と全員に用紙が配られる。
(明日食べたい物かぁ。カレーとか作ってみようかな?ニンジン、ジャガイモ、たまねぎ、豚小間、カレールー)
と食材を書いていく唯。全員が書き終えると沖田はその用紙を集め始める。
「こんな感じで皆さんの必要な物が届きますので覚えておいてください」と説明する沖田。
そしてそれをクリアファイルに仕舞うと「寮の説明はこんな感じですね。
後はここの都市と学園の案内ですが歩いていきます。学園に向かう間ファミレスゲームセンターカラオケに一回寄ります。
理由ですが現在その三店舗しか開いていません。
そして全て無人なので使い方を教えるという形になります。」沖田は矢継ぎ早に説明していく。
「さぁ行きましょう」と号令を掛けエントランスから外に出る。
女子生徒はそれに付いていくしか選択肢が無い為ゾロゾロと付いていく形になる。
男子寮をチラリと見るとどうやら近藤と云う人がエントランス前で陣取り男子生徒が出てこれないようにしているようだ。
(事前に外に出ていた人とか居なかったのかな?)と思った唯だったが正直どうでも良かった為気にせず沖田の背中を追う。
一応云うとお昼が終わるまで外出禁止だったため、男子生徒は1人を除き全員寮に残っていた。
真面目と云うよりペナルティが怖かったのである。
そして町にある施設を順番に見学し丁度お昼時だからとファミレスで昼食を取る生徒達。
「ねぇ。一緒に食べない?」と唯に近づいてくる晴子。「えぇ。どうぞ」と向かいを勧める唯。
「・・私も良い?」と軽部千恵も近づいてくる。(本音を言えばあまり近づきたくは無いけれど)と朝のやり取りを思い出し
出来れば遠慮したいと思いつつまさか言えるはずも無い為「・・えぇ」とだけ答える。
「そう・・良かった」とだけ答え隣に座る千恵。
空気を変えたいと思い沖田に向かって「質問良いですか?」と挙手する唯。「どうぞ」と沖田は答え
「え~と。ここの営業時間は?夜ご飯も食べられるなら寮で料理しなくて良いかな?って」と唯は聞いてみる。
料理が不得意では無いがやはり時間は有限である。出来れば料理の時間を他の事に使いたい。
「申し訳ありませんが日没までです。具体的には19時ですね。それまでに食べ終わるのであれば夕飯をここで食べるのはアリでしょう」
と沖田は質問に答える。(19時までか。なんとかなるかな?)と明日以降の事を考える。
流石に朝食だけは自分で作るしかなさそうだがそれ以外は外食で済ますのは可能なようだ。
「それから後で云うつもりでしたが日没以降は必ず寮に戻ってください。夜遊びは厳禁です。」と沖田さんが云う。
「は~い」と皆声を合わせて返事する。(この島でやれる事は少ない。
確かに夜に出歩くメリットも無いか)と唯も納得する。
人がいないと云う事は痴漢等に逢う心配も無い為夜出歩くのもアリだとは思うが男子生徒がどんな行動するのか判らない。
散歩なら早朝でも出来るしむしろそちらの方が良いように思える。
「万が一の為に防犯ブザーを渡しておきますね。これが鳴れば私若しくは近藤が助けに行くようになっています」と沖田さんは説明する。
沖田さん曰く格闘技経験者で空手と柔道は段持ちらしい。近藤さんに至ってはそれ以上らしいので安心してほしいとの事。
「つまり普段から近くに居るって事ですか?」と晴子はもっとな質問をする。
「・・それはトップシークレットになっています」と沖田さんはどちらとも取れない発言をする。
(課長は女子生徒には出来るだけ監視カメラを意識させたくないと云っていた。その方がパブリックスペースでも
普段通りに振る舞うだろうと。面倒な役を押し付けてくれますね)と沖田は本音を言えない気持ちをグッと抑える。
今の監視カメラはかなり優秀であり意識しなければレンズがどこにあるか判らないくらい小さいし音声も取れるから
会話等も聞き放題である。まぁ基本モニター監視室では音声はカットして観るので後で再生して聞く事になるが。
ちなみに生徒達には秘密だが男子寮三階部分が尽光課職員の寝室であり監視室がある場所になる。
もっとも秘密とは云うものの寮を頻繁に出入りする以上バレるのは時間の問題ではあるが出来るだけ生徒達以外の人間との接触を避ける
という名目がある以上目立たないよう振る舞うしか無いのだ。
基本生徒が寝静まった時間や学園に行ってる時間に動くようにはなっている。
そして万が一問題が発生した場合寮の位置からは学園まで徒歩15分
車で5分弱と云った場所である。大抵の物事に対処出来る体制ではあるのだ。
「良く判んな~い!なんで隠すのか意味判んな~い!」と抗議する晴子。
(まぁそう云うでしょうね)と沖田は思いながらも「とにかく普通に過ごしてもらえば問題ありません」
と反論は許さないと云う空気を作る。
そうしているうちにロボットが注文した品を運んでくる。
「何これ何これ!凄いね~。変な造形だけど」と晴子は沖田との会話など忘れたかの様にロボットに興味が移る。
(子供か!)と内心突っ込みを入れたくなる唯だったがまぁどちらにしても詳しい説明はしてくれそうに無いし
なんとなく危ない目にあったら助けてくれそうだ。という感じを受けたので不問とした。
学園での規則
ファミレスで食事を終え学園に向かう一行。
校門前で「ここが皆さんが三か月通う尽光学園になります」と事務的に話す沖田。
「へ~」と皆感嘆の声を上げる。(やっぱり出来たばかりだけあって綺麗ね)と唯は感心する。
「それでは学園内を案内いたします。付いてきてください」と沖田が云うと皆が「は~い」と答えゾロゾロと付いていく。
(なんか小学生みたい)と唯は思いつつも捻くれた行動は危険だとも思っているので素直に付いていく。
そして一通りの施設の案内が終わると最後に体育館に集まる女生徒達。
「さて今日はここで午後4時に入学式が行われます。その時に男子生徒や教師との初顔合わせになりますね。」
「寮のエントランスで一人男子に会った気がしますけど~?」と晴子は挙手しながら云う。
「はぁ。あれは本来は会わない予定だったんですけどね。イレギュラーなんで忘れてください」と沖田は溜め息を吐きながら晴子に云う。
「は~い」とそれほど気にせずに返事する晴子。(能天気だけど明るい子だな)唯はそう思う。
「さて男子生徒が集まってくる前にこの学園のルールを言いますので良く聞いてくださいね」と沖田は生徒達を見ながら云う。
そこでの説明は月島が昨日男子に行った物とほぼ同じであった。しかし次の言葉で生徒達は絶句する。
「ただし卒業には裏ワザもあります。それは明日から一緒に授業を受ける男子生徒とセックスをして妊娠すればその場で卒業出来ます」
「!!!!!!!!!!!」一体何を言い出したのか?皆は一瞬理解出来なかったのある。
「それってマジなんですか?」と晴子ですら恐る恐る聞く。
「勿論です。寮に帰ったら全員に妊娠検査薬を渡します。そして毎週月曜の朝に回収しますので必ず用意しておいてください」
と沖田は真面目な顔で宣う。「スイマセーン!意味ワカリマセーン」とメアリーが何言ってるんだ?とばかりに質問する。
「ここの目的には勉強だけではなく自由に恋愛をしてもらい赤ちゃんを産んでほしいという裏の理由もあるのです」と沖田はぶっちゃける。
「自由に恋愛は文句無いですけどぉ、なんで妊娠出産まで経験しなくちゃいけないんですぅ?」と千絵が正論を吐く。
「皆さんはお金は欲しくありませんか?」と沖田は突然話題を変える。「?」ほとんどの人が脈絡が無い為付いていけてない。
「そりゃ欲しいですけどぉ」と千絵は何言ってるんだ?とばかりに聞き返す。
「妊娠したら即卒業。出産したらお祝い金百万円。そしてその赤ん坊を引き取らせて頂ければ更に五百万払います。」
と沖田は凄い事を言い出したのである。「!!」あまり乗り気で無かった生徒達だが目の色が少し変わる。
「しかも出産はこちらで指定した病院で秘密裏に行います。戸籍上も赤ん坊は皆さんと無関係になりますので喋らなければバレません」
「但し自分で育てたいと申し出た場合はその限りではありませんが、その場合は祝い金百万のみになります」
つまり妊娠発覚で卒業資格&国家公務員資格、お腹がバレるくらい大きくなるまでは自宅で療養。膨らんできたら病院近くのアパート暮らし
最後は指定した病院で出産し赤ん坊と交換でお金を手に入れる。誰にも喋ってはいけない決まりはあるがその後は自由であり何をしてもOK
という事らしい。しかも本人の希望次第だが尽光課の職員としてその後もそのまま雇ってくれると云うのだ。
「どうする?」「私は実力で卒業したいかな?」「勉強苦手~裏ワザもアリかも?」「さっきみたいなチャラいのばっかりだったら願い下げ」
「そぉ?割とカッコイイじゃん」「気持ちいい事してお金貰えるならアリかな?」
「WHY~?ナゼ皆マエムキデスカー?セックスはシンセーな物だとオモイマス~」
と好き勝手な事を言い出す女生徒達。お金のせいかほとんどの女性は前向きになっている。
(女に生まれた以上いつかは妊娠出産は経験しなくちゃいけないものだし予行練習としてはアリかもしれない。)
そういう打算的な物が強かった。赤ん坊を育てるのはイヤだがお金を貰えて子育てからも解放されるならアリかも?となったのだ。
しかもその私生児を産んだ経歴すら無かった事になるのだから将来本当の彼氏が出来ても問題ない。今時処女に拘る男もいないだろうし。
「あぁ、どうしてもセックスが嫌であればしなくても構いませんよ?それに妊娠を望まないのであればコンドームも配布しますから
それを使ってください。あくまでも先程のは提案であって強制ではありません。それだけは勘違いしないでください。」
と沖田は話を締める。
(う~ん竜一と別れたばかりだから新しい男なんて考えられないけどどうしようか?)
唯はこんなルールはありえないと思いながらも勉強が苦手である事、そして(もしも私が妊娠出産なんてしたら社長や田所さんは
どんな顔をするかしら?どうせならこういう形での復讐もアリかもね)と名案ならぬ迷案を思いつく。
彼女は彼氏と無理やり別れさせられアイドルと云う居場所を奪われ事務所に少なからず恨みを感じていた。
知らない男とのセックス妊娠出産はアイドルにとっては致命的。それゆえに事務所にダメージを与えられるだろうと考えたのだ。
実際のところは社長は月島にこの学園のコンセプトを聞いていてOKを出している。つまり唯がどうなろうと構わないである。
むしろスキャンダル発生器と化した唯は邪魔なのである。そのまま引退してくれた方が有難いレベルなのであった。
そんな事は知らない唯は敢えて自分の身体を使って事務所に復讐するのもアリかも?と考える。
実は唯の思考はリストカットや好きでも無い男とのゆきずりH等と同じ自傷行為なのだがそこまでの考えには至らなかった。
それだけ今回の件は内心腹を立てていたのだ。(フフツ面白くなりそうね)唯は暗い笑いを隠さなかった。
根取の計算
少し時間が戻って朝10時である。
根取は一人でオペラグラスを持ち波止場から少し離れた海岸で海を見ていた。
本当はこの時間は寮で待機していなくてはいけない時間なのだが(ペナルティが怖くてホストやってられるかよ)
とルール破りが悪い事だとは全然思ってはいなかった。根取にとっては退学さえ避ければ何やっても良いのである。
(ふむ。どっちの方向を見ても陸地が見えないな。東京湾から船が出たわけだから東側に向かえば房総半島が西側に向かえば
伊豆半島が見えるはずだ。って事はまっすぐ南下したのか?しかしそんな所に埋め立て地があるなんて聞いたことが無いぞ?)
そう根取は自分が今どこに居るのかを調べる為にここに来ていたのであった。
あくまでも最悪のケースではあるが逃走経路を確保した方が良いと考えたからである。
波止場の更に向こう側にはヘリポートが見える。今は大きなヘリが一機真ん中に停まっているだけだ。
(陸地が見えない以上泳ぐのは無理だな。船を奪うと云っても操縦出来ないしヘリに至って無理ゲーだ。)と脱出方法を一つずつ検証していく。
なんとなく寮の方もオペラグラスで見てみると男子寮の裏側に大きな駐車場があり端に隠すように救急車と消防車が一台づつ置いてあった。
(なるほど俺達に何かあった時にアレを使うわけか。思ったよりはちゃんと考えて運営してるみたいだな)
と根取は感心する。(しかし緊急車両があそこにあると云う事は近くに月島のおっさんか部下がいるって事になるな)
と考える根取。(やはり怪しいのは男子寮三階か)あそこは誰も入れないようになっていて立ち入り禁止の札も出ていた。
しかもエレベーターホールにも近づくなと言われれば何となく怪しいと思うのは当然だろう。
(後で調べに行くか)と考えていると丁度波止場に漁船が到着する。
(俺達が乗せられた船より一回り大きいな)とその船が自分が乗ってきたものより大きい事に嫉妬する。
実は偽装漁船は二隻あるのだが男側が小さい方で船倉にすし詰め、女側は大きい方でちゃんとした椅子があるタイプだったのだ。
交互に使っている為運が無いだけなのだがそんな事は根取には判らない。
(まぁいい。せっかくだから女の顔でも拝ませてもらうか)とオペラグラスを船の方に向ける。
そこから女性がゾロゾロと出てきた。(ほぉ、月島のおっさん良い趣味してるな。思った以上に綺麗どころを揃えやがった)
と根取はオペラグラス越しにチェックしていく。実は根取にとって女性の顔はそこまで重要ではなかったりする。
ホストである根取にとって女とは金を運んできてくれるだけの存在でしかないのだ。
むしろブスの方が一度ハマると貢いでくれるから楽なくらいである。金をくれるなら諭吉顔の女でも平気で抱ける。
それが根取種馬という男であった。(参ったな。一人くらい不細工なのを期待したんだがどれも好みは分かれるだろうが
可愛いか綺麗と呼ばれるレベルだ。出来ればあいつらとの争奪戦は避けたいのだが)と根取は今後の計画を練っていた。
(まず最初に卒業資格を得る事。これはBBAとの離縁で絶対必要な物である以上最優先だ。
その為にはまず一人の女に絞る。そしてその女を妊娠させる。もしその女が複数との関係があると
結果が出るのに時間が掛かる。それでは次の計画にも支障が出る。
やはり計画通りに行かせる為には他の男共が相手しないような女が望ましい。)
そこに最後の方から長い黒髪の少女が出てくる。(子供っぽくておどおどしているな。顔は磨けば光るだろうが今はどうにも
ダサい。自分に自信が無いタイプか。落としにくいが一度懐に入ってしまえば一途になるタイプと見た。アレにするか)と
根取は最初のターゲットを絞る。(最初の一週間が勝負だ)思わず口端が上がるのを抑えられなかった。
花園かおり再び
「は~~っ」と深い溜め息を吐くかおり。
入学式が終わり職員室へと戻ってきて開口一番これである。
「お疲れ様でした」と事務的に労う月島。「月島さん!酷いじゃないですか。せめて心の準備くらいさせてくださいよ!」と
抗議する。まぁご立腹になるのは仕方ない。
何故なら何の準備も無くいきなり体育館に連れられていきなり入学式のスピーチである。
普通は事前に教えてもらって挨拶を書面に書きだしてそれを読むだろうにそれらを全くさせてもらえなかったのだ。
故に少々グダクダになるのは仕方ないのだ。
「申し訳ありませんでした。配慮が足りませんでしたね」と心を籠めずに謝罪する月島。
「月島さんって出来る感じなのに結構ヌケてるんですね?」と半分嫌味っぽく云うかおり。
実はかおりに考える時間を与えない為ワザとやっているのだがそこまでの考えには至らない。
(今の所順調だな)そう月島は内心ほくそ笑む。
「それから最後のアレは何ですか?」とかおりは月島に質問する。
最後のアレとは入学式が終わる直前に月島が「新ルールを追加します!」と突然発表し始めたのだ。
「この学園は恋愛推奨と云ってきました。しかし三か月この島に閉じ込められていたのではストレスが溜まると思います。
ですのでそれを解消する目的で毎週日曜日にデートと云う形であれば外出を許可します。
土曜までにデート許可申請書にサインしデートコースを書いてご意見箱に投入してください。
日曜朝にヘリで東京のヘリポートまでお送りします。但しヘリに乗れる人数に限りがあります。
3組6名様まで早いもの勝ちになるので応募はお早目に。
あと云うまでもありませんがその間親類友人とは接触禁止です。
それを監視する為東京でデートしてる間うちの外部職員が後ろを付いていきますのでよろしくお願いいたします」
と矢継ぎ早にデートのルールを話していく月島。
「最後に夕方までにこの島に戻る事。逆算して午後4時にはへリポートに戻ってください」と締める。
実のところ新ルールと言いながらもかなり事前に決めていた事を今発表しただけなのだが生徒達は騒然となっていた。かおりも絶句である。
「あぁアレですか。聞いたまんまなんですが何か問題でも?」と澄ました顔で言う月島。
「デートもそうですが恋愛推奨って何ですか?私初耳なんですが?」と少々強めに質問するかおり。
「言ってませんでしたか?生徒達に言ったのを勘違いしてたかも知れませんね。失礼いたしました」と謝罪する月島。
「は~。普通の学園って明文化されてないもののむしろ異性交遊は慎むべきって所の方が多いと思うのですが?」
と小さく溜息を吐くと当然の疑問を投げかける。
「そこを覆していくのが当学園のポリシーですよ。世の中には男と女しか存在しないんです。ならば仲良くするのが正解だとは思いませんか?」
と月島は正論なのか暴論なのか良く分からない論理をかおりに向かって説明する。
(正しいような正しくないような?
でもストレス解消に東京でデートってアイデアは悪くないとは思うけど・・というか私も東京に行けるなら行きたい)
とかおりは自分が行きたいのもあってとりあえず様子を見ようと判断する。
親族友人とは会えないとはいえなんだかんだで住み慣れた地である。
そこに行くだけでストレス解消になるだろう。
「分かりました。そのルールでとりあえず行ってみましょう。所で教師もそのルールは適用されるのでしょうか?」
とあまり深く考えずにそんな事を聞いてみる。
「おや?花園先生もデートしたいのですか?てっきり年下には興味が無いと思っていましたが?もちろん教師にも適用されますよ」
とニヤけながらそんな事を云う月島。
「あ」とかおりは思わず声をあげる。(そうか。デートって事はそういう事になるんだ。う~んどうしよう?)
と考え始めるかおり。(う~ん。とりあえず保留かな?)と先送りにするしかないと結論づけた。
そのタイミングで月島が
「あぁそうそう言い忘れてましたが清掃は自分たちでお願いしますね。
ここは出来立ての施設ですからかなり奇麗です。ですので清掃業者はこの三か月間いれません。
もちろんあなた方が卒業したら即入れますけど。
三か月しか使わないので余程変な使い方をしなければそこまで汚くならないでしょう?。
つまり自分達で汚した分くらいは自分達で掃除してくださいって事です。」
「それから万が一施設の故障などがありましたらこちらまで文書で報告してください。
工事業者を呼び寄せて皆さんが下校してから修理する形を取りますので」
と矢継ぎ早に学園における確認事項を言っていく月島。
「え?これだけ広い学園を私達だけで掃除しろって事ですか?それはいくら何でも酷くないですか?」
「使わない施設のが多いんじゃないですかね?大丈夫でしょう」とそっけない。
(清掃係というか人数少ないから全員で分担を決めて放課後にでも清掃するしかないか。
だけどアノ生徒達が真面目に掃除とかやってくれるかなぁ?)と先程見た生徒達の顔を思い浮かべる。
失礼ながらお世辞にも真面目とは言えない髪型であったり色だったりと
まぁよくここまでカラフルに並べたものだと感心するレベルであった。正直不安しかないと云いたくなる。
「とりあえず今日の行事は終了です。それから今日入学した生徒達の名簿がここにあります。目を通して置いてください」と
ファイルを渡される。パラリと一枚めくると出席番号順なのだろう温海誠也のプロフィールと内申書が書いてあった。
「え?ゴザール?ゴザールってあのゴザール?」と軽くパニクるかおり。
それはそうだろう。月島からは事前に落ちこぼれ救済と聞いていたのだから。
「えぇ彼はゴザールからの転校となります。成績も優秀な方ですから花園先生としてもやりやすいのでは?」
と月島は軽く流すように云う。「内申書も真面目な生徒で問題は一度も起こしてないって書いてありますよ?
そんな生徒がこんな所、あ・こんな所なんて言ったら失礼ですよね。え~っと何故来たのか分からない生徒ですよね?」と困惑するかおり。
「まぁそんな事よりも彼を職員室に呼び出してみてはどうでしょう?クラス委員は必要でしょう?彼は適任ですよ」と月島は提案する。
「・・そうですね。(本人に直接聞く良い機会だし呼んでみようか?)」とかおりは放送室に向かおうとする。
「お待ちください花園先生。放送機器ならば学園長の机の上にありますよ?」と奥の中央に鎮座する机を差す。
一応兼任であるかおりの机でもあるがなんとなく一般教師の机の方が居心地が良いためそちらに座っていた。
「そんなところに・・」とかおりは奥の机に向かう。そして放送ボタンを押しながら
「温美誠也君。温美誠也君。至急職員室まで来てください。
繰り返します。温美誠也君。温美誠也君。至急職員室まで来てください。」と二回繰り返す。
放送を切って「初めてでしたけどこんな感じで大丈夫でしょうか?」と月島に確認すると「完璧ですよ」と笑顔で褒めた。
かおりは何となくだが月島に認められたようで嬉しかった。
温美と月島
(なんだろう?俺は何かしただろうか?)誠也は呼び出される覚えが無いとしきりに首を捻る。
先ほどまで一緒に喋っていた弱音優一は「温美君何かしたの?呼び出しって凄いんじゃない?」と言われてしまう。
(せっかく友達になりかけてたのにドン引きされた気がする。つまらない用事だったら怒っていいかな?)
と職員室に向かいながらそんな事を考える。
(まさか義兄さんとの関係がバレたのか?出来れば関係者とは思われたくないんだが)と誠也はその話で無い事を祈りつつ
職員室前でノックする。「どうぞ」と女性の声が聞こえた。「失礼します」と中に入ると花園先生と月島真悟が居た。
「っ」とイヤな予感がする誠也。出来るだけ平静を装い「何か御用でしょうか?」と簡潔に要件を聞く。
「実は温美君に頼みがあってね。クラス委員をやってほしいのよ。
と云っても朝礼の掛け声とかちょっとしたお手伝いとか掃除当番を決めるとかそんなレベルだから
そこまで難しく考えなくても良いわ」とかおりは誠也に頼み込む。
「・・・お断りは出来ないのでしょうか?」と誠也は難色を示す。
(ここに来ただけでも東大辛いのにこれ以上勉強以外の時間を費やしたくない)と思っていた。
「温美。花園先生はお前を高く評価しているんだぞ?それに答えようとは思わないのか?」と月島が横槍を入れる。
「に、月島さん。僕は先生と話しているんですが?」と棘を含む言い方をする。
「あの・・理由を聞いても?」とかおりは誠也に断る理由を聞く。
「・・月島さんからどこまで聞いてますか?」と理由を言う前に探りを入れる誠也。
「え?月島さんからですか?いやプロフィールを渡されてゴザール出身としか・・」と困惑するかおり。
その間かおりの後ろからジっと睨むように誠也を見ている月島。(そうか。何も聞いてないのか)と察する誠也。
(ここで断るのは簡単だ。だが義兄さんが何時花園先生に僕との関係をバラされるか分からない。
最悪バレても問題は無いはずだがあの裏ワザを聞いた後ではこいつの身内と云うだけでドン引きされるだろう。
それならば少々面倒でも受けておいた良いか)と誠也は瞬時に計算する。
「分かりました。どこまで出来るかは分かりませんがクラス委員の任お受けいたします」と恭しく返事をする。
「ありがとう温美君。助かるわ」とニッコリ微笑むかおり。
その笑顔に思わず赤面し(年上なのに可愛い人だな)と相手は先生なのにそんな感想を抱いた。
打ち解けてきた二人。
「失礼しました」と誠也は一礼をし職員室を出ていく。
「さて、今日は戸締りをして寮に戻りましょう。まだ寮の説明が途中でしたので」と月島は下校を促す。
「判りました。明日から私が全部やるんですよね?はぁ参ったな~」と愚痴をこぼすかおり。
「鍵は職員室と玄関そして門扉を閉めておけば問題無いでしょう。泥棒なんて存在しない島ですからw」と笑いながら云う月島。
「そうですね。それだけなら何とかなりますね。それじゃそれ以外は開けっ放しって事で」とかおりは同意する。
月島的には生徒達に出来るだけ自由に学園の施設を使ってほしいだけなのだが
かおりからすると少しでも楽が出来るようにと月島が配慮したのだろうと判断する。
(やっぱり月島さんって良い人なんだな。この島に来た直後はちょっと怖かったけど気のせいね)とかおりは月島の配慮に感謝する。
門扉を閉め学園を後にする。生徒達はとっくに寮に戻っている予定だという。月島さん曰く生徒達は明日になるまで寮に缶詰になるそうだ。
(そこまでルールを徹底化するのって意味あるのかな?)とちょっと生徒達に同情するかおり。
「さて帰りましょう」と歩き出す月島。「そうですね」とかおりは返す。
それからこちらを振り返って「お腹は減ってませんか?」と月島が聞く。
「そう言われると」とお昼過ぎにサラダを食べただけだった事を思い出すかおり。
緊張していた為空腹を感じなかったらしい。「ではまたあのファミレスに行きますか。
初日ですので寮に食材もあまりありませんし」と月島が云う。
「はい」と元気に答えるかおり。なんだかんだで打ち解けてきたと感じる。
(これなら何とかなるかな?)とかおりはこの変てこな学園生活を前向きに考えるのであった。
寮での説明
夕飯を終え寮に戻るかおりと月島。先に一階部分にある共用スペースの説明もしてもらい三階の自室に向かう。
「もう使い方は覚えましたね?明日以降はもう私は来ませんので
万が一何かあったら相談内容を書いてご意見箱に投函してください。」と月島は云う。
「ちょっと不安はありますけど寮に関しては大丈夫だと思います。」と扉を開けながら答える。
(まぁ流石にクリーニング屋さんの真似事までやらされるとは思わなかったけど)とドライ用洗濯機を思い出す。
月島さんが云うに出来るだけ他人を排除しようとするとなんでも自分でやらないと駄目らしい。
(理屈は判るけどそもそも何でそこまで人を排除するのか判らないのよね)と改めて思う。
「どうしてそこまで他人を遠ざけようとするのですか?勉強に集中する為だと云いますけど
流石にそれだけの理由とは思えません」とかおりは月島の真意を問いただす。
「まぁとりあえず部屋の説明からさせてください。玄関から入ってすぐ右側がダイニングになってます。その奥がキッチンですね。」
とまたはぐらかす月島。(またか)と思いながらも説明を聞く。
やはり学生達が使う部屋の三部屋分ぶち抜きである為全て広く作られている。ちょっとしたパーティくらい開けそうなダイニングである。
「それから左側にはリビングですね。リビングだけで12畳ありますので広く使えると思います。」
とこれまた広いリビングがある。調度品も一通り揃っておりシンプルながらも清潔感溢れる物が揃っていた。
「わぁ」と呟き感嘆する。思いっきりソファにダイブしたくなったが月島がいる為自重するかおり。
「その奥側の扉は寝室になります。それから向こうの扉は浴室とその隣がトイレですね。」
と矢継ぎ早に説明していく月島。
「後は実際に使ってもらえば判ると思いますので部屋の説明は以上ですね。ここまでで質問は?」と話を締める。
「え~確か自炊する時の材料は事前に注文しなくちゃいけないんですよね?」と一階で聞いた質問を繰り返す。
「その通りですね。後食材だけでなく文房具や雑貨等も必要であれば書いておいてください。」と月島は答える。
(なるほど必要な物は大抵手に入れる事は出来るみたいね)事前にスーツケース等で持ち込んだ荷物もあるが
忘れ物だったり消耗品だったりの補充は出来そうだと判断する。
「あと大事な事を忘れていました。少々お待ちください」と一度部屋から出ていく月島。
「?」とかおりはクエスチョンマークであったが向かいの空き部屋から大きな紙袋を持って帰ってきた。
「これが明日以降に貴方が着る制服になります。必ず着用していただきますのでよろしくお願いいたします。」
と月島が紙袋ごとかおりに差し出す。その袋から順に洋服を取り出すが途中で「!!」と驚く。
「これは・・これを着るんですか?」とかおりは冗談だと思いたいとばかりに月島に問いただす。
制服
かおりが思わず絶句する紙袋に入っていた制服はどんな物なのか?
まずスーツだが白いブラウスが4着、これは普通の夏用の物であり問題は無い。
白とベージュのパンストが2着づつ、そして膝上15センチはあるのでは?という真っ赤なミニのタイトスカートである。
靴は割と普通の赤いローヒールのパンプスだが正直学園に行く服装とは思えない。
教師と云う職業柄あまり派手なのは好まれないはずなのだ。
授業に集中してもらう為にも地味な方が良いとかおりは思っている。
流石にこれはアリエナイ。それ以外も水着は紺のスクール水着で女子生徒と同じ物。
まぁ許せる範囲ではあるけれど何故生徒と同じ物を?と云う疑念は湧く。
そして体操服なのだが半袖の無地タイプの体操着に下は赤いラインが入ったブルマである。
これも女生徒とお揃いらしいがなぜ教師であるかおりが履かなくてはならないのか。
そして極め付けは放課後に着る服装なのだが、なんと当学園指定のブレザーである。
ちなみにブレザーは水色地に白いラインが入っているタイプでリネン素材の為通気性が良く真夏でも昼間で無ければ暑く感じない。
下のブラウスもクールビズ仕様なのかかなり涼しそうである。スカートは青と水色と白のタータンチェック柄で可愛らしい。
それに白いニーソックスが三足入っていた。恐らくこれを着けろと云うことだろう。
学生ならば喜ぶレベルの制服だとは思うが仮にも教師である。意味が分からない。
「もちろんです。貴方の魅力を引き出す為に用意したものなので着てもらわないと困りますね」と月島は澄ました顔で言い放つ。
「え~とまずスーツですがスカート丈が短すぎます。それから水着は、、仕方ないとしてなぜブルマなんですか?
意味が分かりません。普通にジャージじゃダメなんですか?」とマシンガンのごとく詰問するかおり。
「なぜ駄目なのかが判りません。夏である以上薄着になるのは普通です。問題無いと判断していますが?」と反論する。
「・・判りました。スーツは諦めます。でも体操服は今の時代女子はハーフパンツかスパッツですよね?と云うか教師が同じ服装である
必要性を感じませんが?」と早々にスカートは諦める。理由は元々活動的な性格である為動きやすい恰好が好みだと云う事もある。
男子生徒の目が気にならないと云えば嘘になるが変に意識しすぎるのも逆効果ではないか?と考えたのだ。
水着もプールの授業がある以上着なくてはいけないしどうせ着るなら地味なスクール水着のがマシ。
しかしブルマーは別である。なぜ今体育の授業でブルマなのか?百歩譲って生徒が着るのは良い。
だが何が悲しくて教師が生徒に交じってブルマを履かねばならんのか?そう思うのは当たり前であろう。
「少し調べましたが貴方は中学高校とバレー部でしたよね?」と月島が云う。
「!そうですが・・それが何か?」とかおりは動揺する。
確かにかおりは中学高校とバレーをしていた。その際試合ではブルマを履いていたのだ。
今の時代ブルマを履く競技など数えるほどしかない。しかもそのほとんどが徐々にスパッツに切り替わっていってるのだ。
かおりはかなり貴重なブルマ経験者と云えるだろう。
「いや花園先生の青春を掛けた服装をあまり悪しざまに云うのはどうかと思いまして」と月島はシレッとのたまう。
かおりは「くっ」と短く呻くと
(確かにスパッツやハーフパンツしか履いた事がない女生徒達よりもブルマそのものに対する抵抗は少ないと思うけれど
やはり年齢とか男子の目とかそういうのが気になってしまう。どうしよう?)とかなり迷う。
「大丈夫ですよ。花園先生はかなり若い。生徒だと云っても信じるレベルです」と月島は太鼓判を押す。
「いやそういう問題では」と言いつつ若いと言われつい相好を崩す。
お世辞だとは思いつつもやはり年齢より若いと言われるのは悪い気はしない。
「若い女性は肌を出してなんぼ足を出してなんぼですよ。その健康的な魅力で生徒達を引っ張るのも教育者としてはアリだと思います」
ときっぱり言い切る月島。「健康的な魅力・・?」とかおりは呟き今後の事を考える。
(う~ん。若い女性教師はただでさえ舐められる傾向にあるよね?
確かにまともなやり方で不良一歩手前の彼ら彼女らをコントロール出来るとは思えない。
掃除の件でも思ったがちゃんと命令通り動いてくれるのか?まともに授業を聞いてくれるのか?
ボイコットとかされたらどうしようか?)と女教師特有の頭の痛い命題があったのだ。
つまり不本意ではあるけれど授業等に積極的に参加してくれるならばそういう方法もアリかも?となったのだ。
自分自身を餌にする。一歩間違えれば危険なのは間違いない。だがやる気を出させて全員卒業させれば一億円が転がり込む。
「判りました・・それで良いです」と承諾するのであった。
本当の所かおりは成功報酬が頭の隅にチラつき明確なノーが言い難い状況である。
だから自分で自分にその服を着る言い訳を思いつき無理やり納得させているだけなのだが当の本人はその事には気づかない。
向かいに座っている月島だけがただ微笑むのみである。
「それでは最後に放課後にブレザーを着る理由は?」と半分諦め気味に月島に質問する。
「それは簡単です。生徒達の精神的ハードルを下げる為ですよ」と宣う。
「精神的ハードル?」とこれまた意味不明な事を言いだしたなと思うかおり。
「えぇ。貴方も学生時代に思ったでしょう?教師と生徒の間に見えない壁がある事を」と月島は説明を始める。
「それは・・まぁ、はい」と曖昧に答える。(でもそれって普通だと思うんだけど?)
仮に好きでは無い教師だったとしてもやはり最低限の敬意はあると思うし
逆に気楽にタメ語とか喋られたら溜まったものではないと思う。
「それではこちらは困るのですよ。高嶺の花では困るんです。」と月島は答える。
「どういう意味でしょうか?」とかおりの頭にクエスチョンマークが点る。
「花園先生には出来るだけ生徒に近い位置に居て欲しいと云う事です」
「はぁ?もちろん相談とかあるなら乗るつもりでいますが?」
と生徒とのコミュニケーションを取ってほしいという意味だろうと判断する。
「それでは先生と生徒の立場は変わらない。もっと生徒から気楽に接してくれる環境を作りたいのです」
と月島はかおりの意見を否定し「女子生徒と同じ制服であれば見えない壁が取り払われる。
いや正確には取り払われるわけではありませんがネタになる。
それが切欠となり話しかけてくる頻度が増えると云う事です。」
「・・つまり生徒達から笑われろと?」とギロリと月島を睨む。
「まぁそこまでは言ってませんが話しかけてくる切欠にはなるでしょう?」と言われ
(そりゃそうでしょうよ。教師が生徒の制服着てたら何が起きた?と思うでしょうし、何故着ているのか気になるでしょうからね)
とかおりは内心腹を立てながらも分析をする。
「つまりピエロになる事で生徒達から馬鹿にされろって事でしょう?ふざけないでください!」と反論する。
「最初はピエロかもしれませんがそのうちに恩師以上の身近な存在として貴方の評価は爆上げするでしょう。
そして貴方と親友や恋人になりたいと願う生徒も出てくると思いますよ?」と月島は云う。
「こ!?」と思わず声が出るかおり。「あくまでも可能性の話です。そこまで深く考えなくても大丈夫ですよ」
と月島は笑う。「いやそれでもおかしいでしょう?女生徒達と友達感覚に接すると云うのならまだ百歩譲って判ります。
どうせ今の私には尊敬される実績も無ければ良い意味で畏れられる威厳もありませんから。」
「それならばいっそお姉さん的な立場で物事を言った方が上手くいくと思いますし。」と続ける。
「ですが恋人とかそういうのはありえませんしそういう対象として生徒を見た事もありません。
生徒達への冒涜ではないでしょうか?」とかおりは訴える。
「そうでしょうか?今は脈が無くても将来は判らないでしょう?」と尚も食い下がる月島。
(どうしてそこまで?そういえば恋愛推奨だとか言ってたしこの学園は一体何なの?)
最早どうしようも無いレベルでかおりの頭に警報音が鳴る。一呼吸置き月島に真意を正す。
「すいませんがこの学園は一体何なのですか?おかしいというレベルを超えていますよね?
教師が私だけだというのもそうだしスマホを取り上げたりして他者との連絡を絶つのもおかしいし生徒達には恋愛しろと嗾ける。
こんな学校なんて聞いたこともありません!一体目的は何なのですか?!」と詰問する。
月島は目を閉じ何も答えない。「なぜ答えないのですか?また誤魔化す気ですか?」と更に言い募る。
そして月島は普段の糸目よりも少し目を開け「判りました。貴方には云うつもりは無かったのですが
この尽光学園の真の目的をお話しましょう」とゆっくり話し始めたのであった。
真の目的
「何から話しましょうか?ふむ、まずは尽光学園の由来から話しましょう。
花園先生も聞きたがっていましたよね?」と話を振る月島。
(そういえばランクルの中でそんな話もしてたな)とかおりは思い出し頷く。
「光に尽くす。その光には二つの意味があると話しましたね?一つは未来を託す子供達。そしてもう一つは
太陽の光。つまり日ノ本を指しています。日ノ本に尽くす。それが尽光という造語に秘められた意味です」
「日ノ本に尽くす?どういう事でしょうか?」とかおりは尋ねるも
「花園先生は今の日本をどう思いますか?」と逆に質問される。
「え?今の日本ですか?漠然としすぎてて質問の意味が分かりません」とかおりは答えを保留する。
「少子高齢化、失われた20年、地球温暖化等に伴う災害発生の頻発化、
それらに対策する資源も人材も無い日本の未来は明るいと思いますか?」と月島は話し始める。
「え~と、良くは解りませんが雇用などは回復してきてますし株も為替も安定してると思います。
国の借金は怖いですけどそこまで暗い未来だとは思いません。人材不足は不安ですけど国外から人材を入れれば何とかなるのでは?」
とどこかからの受け売りだろうと云いたくなるようなテンプレを返すかおり。
「外国から人材を補充する。確かに実際に労働人口が減っている以上貴方の意見は正しい。
国を一人の人間に例えるならば国民は血液みたいなものだ。その血液の絶対量が足らない以上 他から輸血するのは私も賛成だ。
但しそれは綺麗な血であり尚且つ血液型が合えばと云う前提を入れるけれどね。
もしもその血液がエイズウィルスに感染していたら?エボラや肝炎ウィルスだったらどうだろうか?
貴方はその血を輸血してほしいと思うだろうか?」と問うてくる月島。
「・・ウィルス・・つまり犯罪者と云う意味でしょうか?それならばイミグレで淘汰出来るのでは?」
と空港等の審査で排除できるのでは?と思うかおり。
「何も犯罪者ばかりとは限らないが・・そうだな。その判断してる人も実はエイズ患者だったらどうだい?」
「?どういう意味ですか?」
「判らないかい?人が血液ならば審査官は免疫機能って事さ。エイズに罹った白血球やリンパ球はその役目を放棄する。
ばい菌を攻撃しなくなるのさ。つまり体内に入り放題悪さし放題って事だね」
「言いたい事は何となく解りましたがそれとこの学園にどういう関係性が?」とかおりは回りくどいとばかりに聞く。
「その為日本の要人の中にはやはり輸血に頼らずに自前の血液を増やせないか?と考える人間がいる。まぁ当然だよね」
とかおりの質問には答えずに話を進める月島。
「・・それじゃどうするんです?日本人の出生率は下がる一方なんですよ?この前の記事に新生児が90万人を割ったとか」と
この前見た新聞記事を思い出しそんな事を言い出すかおり。今の日本は少子化対策担当相なんてものが存在する程度には深刻なのだ。
「そこなんですよ。それを解消する方法は無いか?と政府と行政が知恵を絞って出てきた方法の一つがこの
尽光計画なんですよ。」と月島はようやくここの設立と目的を云う段階に入る。
しかしかおりからすると少子化問題と学園の設立とどういう関係性があるのか?いまいちピンと来ていない。
学校と云う物は勉強をする所であり運動や部活を通して人間同士の関係性を学ぶ場である。
なぜそんな話を先にするのか?どう反応して良いのか判らない為無言で聞くだけであった。
「この学園の本当の目的は彼らを勉強させて卒業させる事ではありません」といきなり爆弾発言をする月島。
尽光計画
「!?」何を言ってるんだこの人は?とばかりに絶句する。
「あの昼間の話では落第寸前の生徒達を更正させ卒業させる為にこの学園に編入させたと云ってませんでしたか?」と
かおりは先程聞いた話をする。
「あぁあれは嘘です。いや全くの嘘ではありませんがそれが第一目標では無いと云う事です」
「・・どういう事でしょうか?詳しく説明してください。」
「少子化問題は何故起こると思いますか?」と突然話題を変える月島。
「?さぁ子育てが大変だからじゃないですか?後は晩婚化ですかね?」
と話題を変えられた事に少しイラ立ちながらも答えるかおり。
「ではそれを解消するのにはどうしたら良いと思いますか?」と更に質問をされる。
「え?どうしたらですか?う~んまずは子ども手当を厚くしたり婚活を推奨したり・・ですかね?」
と解らないながらも律儀に答える。そうしなければ月島はいつまでも聞きたいことを答えないだろうと思ったからだ。
「色々試しましたよ。しかしあまり成果はでなかった。結局税金の無駄遣いとマスコミに叩かれて萎んでいきました。」
「・・そうですか・・」上手く言えないが何となく言いたいことだけは伝わってきて言葉が続かない。
「少子化の最大の問題は一般家庭の経済状況と家庭環境です。お金が無ければ結婚できない。
結婚してもお金が無ければ子供は作らない。子供を作っても共働き等で育てる環境が無い。これらが複合的連続的にあるから
少子化になるのですよ。」と月島は熱弁する。
「それは・・そうでしょうがこればかりはどうにもならないのでは?」とかおりは正論を云う。
政府の補助金や税制優遇程度で解決できるならとっくに問題解決してるはずだ。
「その通りです。もはやどうにもならない。だからこそ今回のプロジェクトが立ち上がったとも云えますが」と続け
「ならばと考えたのですよ。生殖能力は高いが経済力が無い若者達が子供を産み、
その子供を経済力はあるが晩婚や不妊症等の理由で生殖能力が落ちた家庭に渡す。
その橋渡しを我々がする。そのシステムを確立出来ないか?とね」
「なっ?」(つまり里親を探して養子に出すって事?いやそれはそれでアリだとは思うけれど
それってまさかこの学園でやるって事なの?)とかおりはようやく月島の陰謀に気づく。
月島の陰謀
「そうです。我々の本当の目的は彼らに性行為を行ってもらい妊娠し子供を産んでもらいたいと考えています。」
と衝撃発言をする月島。
「!!!!」ビックリし過ぎて言葉が出てこない。
「なぜ女性は男性と比べセックスに慎重になると思いますか?特に若いうちはその傾向が強い。
それは何故だと思いますか?」と質問する月島。
「・・それは色々な理由があると思いますがやはり一番の理由は妊娠のリスクがあるからでは?」
とそれでも律儀に答えるかおり。
「その通りです。まぁ一部の女性にはリスクをリスクと捉えられないアホの子がいますが
概ねその認識で合っています。女性の性欲や性行為に対する好奇心は男性並み若しくはそれ以上とも云われているのに
実際の行為には男性よりも消極的なのはそれが最大の理由でしょう。
まぁ異物が体内に入ってくる恐怖感も無いわけでは
ありませんが相手に愛情を感じていれば耐えられるレベルの物です。些事と言っていいでしょう。
やはり最大の問題は妊娠です。ところで何故妊娠がリスクなのか考えたことはありますか?
場合に依っては妊娠したい出産したいと考える時もあるのに若い頃は何故それを拒むのか考えた事はありますか?」
「そんなの当たり前でしょう?本人も彼氏も家族もそれを望まないからです。
あくまでも妊娠出産は結婚して家族を作り両家の両親から望まれなければ意味がありません!」
と何を当たり前の事をと云わんばかりに主張する。
「そう、誰も望まないからなんですよ。それならば我々がそれを望んであげれば良い。
リスクをメリットに変えてあげれば良いとなったわけですよ。
そうする事で背中を押してあげられるのではないかとね。
それが今回女性にのみ追加された報奨金制度というわけです。
具体的には妊娠すれば即卒業資格と国家公務員資格。そして出産すれば祝い金百万。さらにそのまま子供を渡してくれれば
提供料として五百万円を差し上げるとしたのです。」
「そんな事は生命に対する冒涜です。子供の売り買いなどあってならないと思います!」と声を張り上げる。
「売り買いですか?まぁそういう側面があるのは認めましょう。しかし彼女らにとってもメリットがある話です。
献血と同じシステムだとは思いませんか?誰だって注射針を刺され血を抜かれて良い気分の人はいないでしょう?
それを緩和する為にお菓子だったりグッズだったりと物で釣るではありませんか。
もちろん人命救助社会貢献という大義もありますから皆さんが協力してくれるのはいうまでもありませんが
やはりメリットは無いよりはあった方がハードルは低くなります。」と月島は先程の輸血の話と絡めたのか
そんな話をする。
「子供と血液を一緒にするのはどうかと思いますが?」と絞り出すように云うかおり。
「我々は彼女たちの人権にも配慮してますよ?望まない相手とのセックスは拒否できますし
そもそも性交渉自体イヤであれば普通に勉強して卒業していただいても結構です。
もしも好きな相手が出来てそのままその彼氏とゴールインしても祝福します。
まぁ出来婚にはなってしまいますがそのまま赤ん坊を引き取って育てていただいても結構です。
その場合は祝い金百万のみにはなりますけどね。
彼女たちには無限の選択肢があるのです。それを潰すのが果たして最善と云えるのでしょうか?」
と月島はかおりに迫る。
「・・それは結果論ではありませんか?そもそもここに無理やり連れてくる時点でおかしいのですから」
とかおりは反論する。
「いやちゃんと本人の承諾書も親の同意書も取ってありますよ?無理やりではないです。」
「親は本当に知っているんですか?本当に?」と尚も食い下がる。
「いや厳密には理解していないと思います。こういう学園に入って更正するとしか思ってないでしょうね。
しかし本人的にはその方が都合が良いのです。考えてみてもください。
自分の娘が知らない男とセックスして妊娠出産する学校ですなんて言ったら親は卒倒しますよw」
と笑いながら云う月島。
「だったら!」とかおりが云おうとすると被せるように
「それでは困るんですよ。それにちゃんとバレないような体制も作ってあります。
子供を引き取った時点で親権は放棄していただく代わりに子供を産んだという証明はいたしません。
つまり法的には私生児を産んだ事が無い綺麗な身体のままと云う事になります。
これは彼女たちの将来にはプラスに働くでしょう。親や知り合いにバレる心配もありません。
まぁ本人が誰にも喋らなければですがね。
その辺はこのプロジェクトが軌道に乗るまでは箝口令を敷かせていただこうと思っています。
そして預かった子供ですが法律的には一時的ではありますが母親不明の孤児として扱われます。
その後里親に渡して養子縁組をするという形ですね。」と続け
「実はもう里親候補のご家庭をいくつかピックアップしてあり了承も得ています。
全て身分がしっかりしている人物でかつ子供が欲しいという家庭のみです。
政治家、大物官僚、開業医、弁護士、大会社の重役等々間違いなくあいつらに育てられるよりも遥かに素晴らしい環境で育児が出来るでしょう。」と月島は述べる。
(あいつらと云うのは生徒達の事よね?)とかおりはその物言いに不快感を覚える。
「流石にその物言いはどうかと思いますが?それに昼間に月島さんは言ってましたよね?子供は未来の光だと。
それを悪しざまに云うのおかしいでしょう?」と反論する。
「・・子供?あいつらが?・・ふ、ふふっ、ふぁあっはははっははぁ」と月島は突然笑い出す。
「何がおかしいんです!?」とその態度に苛立つかおり。
子供の定義
「あはは。そうかなるほど・・貴方はあいつらが子供に見えるのですね?」と質問してくる。
「当たり前でしょう?彼らは全員18歳なんですよ?法律的にも未成年です」と何を当たり前の事をとかおりは反論する。
「申し訳ないが私は彼らを子供と認めていませんよ。私のとっての子供の定義とは生殖能力が無い未性徴者だけです。
具体的には男は精通女は初潮を迎えた者は子供を産める身体になっている。そのような肉体を持つ以上子供ではないと判断しています。」
「な・ななな」と言葉が上手く出てこないかおり。
「昼間にも言いましたが子供は日本の宝であり未来を拓く光である。その考えに嘘偽りはありません。
だがそれは決してあいつらじゃない。あいつらが産んだ子供を適切な人に渡し適切に育てる事。
そしていずれは日本の中核を担い日本を動かす人材エリートを作る。その為にはあいつらと云う犠牲が必要だ。
文字通り日ノ本に尽くしてもらう。それがこの尽光計画その概要です」
唖然とするかおり。言葉が出てこない。そしてそれを同意と取ったのか続けて喋り出す。
「考えてもみてください。彼らに子育てなぞさせたらマイナスの人材にしかならない。
それならば里親に出して英才教育を受けさせたほうが子供にとっても幸せです。
そうして優秀な人材を増やし国力を上げる。もしもこの一期が上手く行くようであれば二期三期と生徒も増やしていきます。
ゆくゆくはこの島に産婦人科も建てて一大人材工場に仕立て上げるつもりですよ。
そうして産まれた子供達は流通革命と云われたやり方ジャストインタイムで出荷する。
つまり必要なものを、必要なときに、必要な数だけつくる体制を確立します。
結果として人口問題も解決するでしょう」ときっぱり言い切る月島。
(この人は頭がおかしいの?いや一人でこんな計画を描けるはずがない。その後ろにいる人達もおかしいとしか云いようがない)
「・・・月島さん・・私は少しだけ貴方を尊敬していました。畑は違えど子供達の未来を真剣に考え、
正しく導いていこうとする姿勢は素晴らしいものであると・・そう思っていたのに・・」
目に涙が貯まっていくのを自覚するが止める事が出来ない。
「見解の相違と云う奴ですね。それでももう動き出してしまったものは変えられませんし変える気もありません」
「これを世間に公表します。生徒達にも事情を話しそういう行為は止めるよう説得します。」
「それは困りますね。世間に公表すると云ってもここから出られませんよ?生徒にもそれを公表されると
こちらの思惑通りに動かなくなる可能性があるので控えてほしいですね」と月島はそれほど困っていないように話す。
「だったらこんな計画止めてください!子供達の人権を無視してこんなところに閉じ込めて挙句の果てに子供を作れ?
ありえません!こんなのあの子達が可哀そうです!」と涙を零しながら訴える。
それを見た月島は少し驚愕しながらも「宜しければ使ってください。」と懐からハンカチを出してかおりに差し出す。
「・・・自分のを使いますのでいりません!」と後ろを向き自分のハンカチを出すと目を拭く。
そうしたやりとりをしたので話が一度中断してしまうがそのお陰か、かおりは少しだけ冷静になれた気がした。
だがこのやり方にはどうしても許せる気がしない。
「とにかく貴方のやり方は間違っています。どうかお願いですから中止にしてください」と睨むように訴える。
「・・お見合いや合コンは人権無視だと思いますか?」とまた話題を変える月島。
「?・・いやあれは自分たちの意思が介在していますし強制でもありません。比べる対象だとは思いません」
「同じですよ。閉じられた空間で男女が話したり食事したりコミュニケーションを取りながら伴侶を探すのです。
そうしてより良い生活、より良い家庭、より良い未来を築く為の選択をするのです。」
「確かに貸切のレストランやホテルのホールそれに料亭という場所は閉じられた空間と云えるのかもしれませんが
時間は限られてますし外にも簡単に出られます。こことは条件が違いすぎるでしょう?」とかおりは反論する。
「時間は限られてますよ?ちゃんと三か月と書いてあったでしょう?簡単に外に出られないのは認めますがね。
それに貴方にも意思確認は取っています。誓約書に書いてあったはずですよ?」と月島が云い
「あ・いやそれはこんな学園だとは思わなかったからであってこんなの詐欺でしょう?」
と気色ばむ。
「私はこの学園と云う出会いの場を提供したに過ぎません。それ以降の選択は彼らの自由です。
好みはあるでしょうが様々な個性を持つ男女を10名づつ一部を除き美男美女を揃えたつもりですよ?
誰かしら好みの異性が出来るでしょうから恐らくそこまで不満は出ないと思っていますよ」
「いや百歩譲って自由恋愛と言っても選択肢が10名だけとかおかしいとは思いませんか?
世界にはもっと色々な人がいるんです。そんな選択肢を狭めるような事は許されるべきではありません」
とかおりはもっと視野を広げるべきだと訴える。
出合いとは何?
「なるほど確かに世界には70億人超の人口がありその半分は異性だ。ですが貴方は一生のうち何人の異性と
出会い知り合いになれますか?今までの人生を思い出してください。今までに知り合った異性は何名ですか?
すれ違ったり挨拶した程度の人ではありませんよ?ちゃんと名前と顔を憶えている人は一体何名ですか?」と月島は質問をする。
「え・・」と困惑するかおり。「更に恋人候補になりそうな人となれば更に少ない。数名~十数名いたら良い方でしょう」
「貴方の大学時代のサークルに異性は何名いましたか?卒業後ただ塾のバイトと自宅を往復する生活で何名と出会いましたか?
結局の所出会いという観点からすると大差が無いのですよ。人は沢山いるけれど出会いは想像以上に少ない。
その数少ない出会いから候補を選びだし恋人になったり結婚相手になったりするのです。むしろ10名も選択肢があるだけ
良いほうなんですよ」と月島は持論を展開する。
「・・・」かおりは今までの生活を振り返り確かに人との出会いは想像よりも遥かに少なかったなと思う。
中学時代の友達はいる。高校時代の親友もいる。大学時代の友達だって連絡は取り合っている。
だが異性はどうだろうか?(進一・・)唯一付き合った彼氏とも数か月で終わりそれ以降付き合う事も無かった。
確かに大学やバイト先等を往復する生活をしてるだけでは数名出合ったらラッキーレベルだろう。
そういう意味では合コンや婚活パーティーの様な閉鎖された空間の方が出会える確率が高くなるのは間違いない。
かおりも実は大学時代合コンは付き合い程度には顔を出していたが言い寄ってくるのは好みとは違う男性ばかり。
ちょっと良いなと思った男性がいなかったわけでは無いが結局他の女に取られ縁が無かった。
言うまでもないがかおりはまだ24である為、婚活はまだした事が無い。
今までそうだった以上悔しいが月島の持論は一理ある。そう思わざるを得ない。
但し!恋人や伴侶を求めて来た人達ばかりの集団であれば。だがここは学園を謳っている以上勉学に勤しむ場である。
しかも事前の説明は全く無かったのである。それでは騙して拉致してきたのと変わらない。
「それでもやはりこのやり方は間違っています。彼ら彼女らはそれを望んできたわけではないでしょう?」と凄む。
「しかし皆やる気になってくれてますよ?確かに後出しなのは悪いとは思います。
しかし本当の事を言っても断られるだけですし、断られるだけでなくこの計画が世間に露見してしまうのは非常にマズイのですよ。
この計画の肝はマスコミを始めとしたメディアに悟られない事。そして口コミやSNSも含めて他人に一切漏れない事。
それらが一番重要なポイントですのでこんな形になりました。まぁ申し訳ないとは思うのですがご理解頂けると助かります」
とどこまで本気で言ってるのか解らない口調で喋る月島。
「正直に言ったら断られると解ってたんですよね?マスコミや一般の人に知られたらマズイ事をしてると云う自覚はあるんですよね?
これはもう犯罪と変わりませんよ?訴えれば勝てますよ?」と捲し立てる。
「ふむ。何故貴方が選ばれたか判りますか?」とまた話題を変えようとする月島。
「どうして都合が悪くなると話題を変えるんですか?!こちらの質問にハッキリ答えてください!」と食い下がる。
「一億円欲しくありませんか?」と質問には答えずにお金の話をする月島。
「!!」思わず目を見開きそういう事かと今更になって気づくかおり。
しかし最早どうにもならない事にも気づく。
かおりの信念
「・・そういう事ですか?」とやっとの思いで言葉を絞り出す。
「えぇそういう事です。理解が早くて助かりますよ。実は貴方以外にも候補はいました。
喫茶店での話を憶えているとは思いますが全ての候補に興信所の人を付けていたんです。しかし弱みが見つからなかった。
そこで家族の事も調べたわけです。そうしたら花園さんの父親の件が出てきたわけですよ。
一億あれば借金を返し当座の運転資金も確保出来る。かなりの親孝行ができますよね?」
と全てを知ってるかのように話す月島。
目を瞑るかおり(確かに月島さんの云う通りだ。一億あれば会社を立て直せる。しかしそれで良いの?
父の会社の為に生徒達を犠牲にする?そんなの教育者としてありえない。いいえあってはいけないの!
私は月島さんとは違う!生徒達はまだ子供なのだ。私だけでも生徒達の側に立ち守らなければ!)
「・・云いたいことはそれだけですか?確かに私は父の為にお金は欲しいと思っていました。
でも事情を知った以上そんな汚いお金を欲しいとは思いません。
父は最悪倒産しても構わないと云っていました。つまり貴方の脅しには屈しません。
早く東京に私を生徒達を戻してください!」ときっぱりと言い切る。
「禁治産者が身内にいると公務員にはなれません。つまり貴方は教師を辞めざるを得なくなる。良いのですか?」
「それは・・・」と俯くかおり。教師は長年の夢だったのだ。諦めきれないのは事実。
(しかし私には私の理想がある。その理想を貫く方を取る。でなければ教師になる意味などない!)
「教師になれないの残念だとは思います。ですが手段と目的が逆転するなどあってならない。
私は生徒を子供達を正しく導きたいと願ったからこそ教師を目指したのです。
それが出来ないなら教師に未練はありません!」と月島を睨みつけながら宣言する。
緊急避難
月島は一瞬目を見開くとふたたび目を細め「・・残念ですね。
ご理解いただけるとは思っていませんでしたが納得はしていただけると思っていました。これは仕方の無い行為なのだと・・」
「誰が納得するんですか!ふざけないでください!」と激昂する。
「最早人口減少は止まらない。全て手遅れなレベルなんですよ。なんでこんな状態になるまで放っておいたのか・・」
グッっと拳を握りしめ唇を噛む月島。「本当に人権って何なんでしょうね?弱者を労り介護を手厚くしてLGBTには配慮し
よく分からないNPO団体やマスコミは文句を言いながら叩くのが仕事とばかりに迫ってくる。
そして税金はそれらの対策に持って行かれる。本当に必要な所にお金が届かない。何も出来ないこの無力感」
「奇麗事を言うのは構わない。なら対案を出して欲しい。
どうすればこの問題を解決できるのか?それを誰も云わない。云っても非現実的な夢物語ばかりだ」
「本当に必要な物は美しい場所には無く汚物の下に落ちているというのに誰も取ろうとはしない。
汚れるだの汚いだのとただ文句をいうだけだ。誰かが汚れ役を演じなくてはならない。
結局最後は役人がやることになるのだが結果を見ずに人はその汚物に塗れた手だけを見てそれをなじる。」
「・・」かおりはただ黙って聞いていた。
「これが良いことだとは云いません。いや最早善悪を論ずる段階は超えているんですよ。
貴方も聞いた事くらいはあるでしょう?
法律用語で正当防衛とか緊急避難とか、、これは緊急避難です。今はそういうレベルなんですよ。」
緊急避難とはそれをしないと命の危険があり誰かを犠牲にしないと助からない状態になったケースで
他者を犠牲にし自分の命を助ける行為である。
暗にそれをしないと日本は死ぬと云っているのだろうとは推察できた。しかしそれでも、そうそれでもある。
「それでも私の考えは変わりません。貴方の心中はどうであろうとこれ自体犯罪です。決して許されるべきではありません。」
「・・・そうですか。夏は火遊びが増える季節なので工場近くで花火とか危ないですよねぇ?」と急に暗い笑いを浮かべる月島。
「!?・・今度は脅しですか?どこまで落ちるつもりですか?」と顔色が変わるかおり。
「別にそんなつもりはありませんよ?ただ・・役目を引き受けてくれたら某銀行の融資の件融通も利かせられますよ?
それがあれば当面はやりくり出来るのでは?」
(今度は飴か・・確かに融資してもらえれば父さんも一息吐く事は出来るだろう。しかも断れば・・)
と最悪のシナリオを考える。
自分が犠牲になるのは良い。だが家族を犠牲にするのは耐えられるだろうか?
失火騒ぎとなればただ倒産するのとは訳が違う。取引先からも賠償問題が出てくるだろう。
周辺住民からも抗議が殺到するだろう。マスコミからは叩かれ両親は路頭に迷い、今大学二年の弟も中途で辞める事になるだろう。
仮に放火を裁判所に訴えた所で証拠を残すとも思えない。仮に残っていても月島らが関与した証明が出来るとも思えない。
せめてボイスレコーダーでもあれば別だがスマホ等は全て奪われたままである。
悔しいがかおりが知恵を絞っても国家権力に勝てるシナリオが思いつかなかった。
偽りの同意
かおりは唇を噛み締めながらも入学式で見た生徒達の顔を思い浮かべる。
(確かに顔合わせをしただけで知り合ったとも言えないレベルだが間違いなく私の生徒だ。それ犠牲にするなんて・・)
しかし現実問題として家族がピンチなのである。何とか家族と生徒両方の幸せを探れないかを考える。
(いや最後まで諦めない。諦めきれない。だけど今は恭順したフリをすべきだ。とにかく時間を稼いで何か突破口を)と考える。
そしてポツリと「・・わ・かり・・ました。」と短く答える。
「いやぁご理解いただけて嬉しいです。ありがとうございます」と喜色満面の笑みを浮かべる月島。
しかしかおりの瞳の奥はまだ光を完全には失わない。(両方救うにはどうすれば良いの?何か、、何か無いかな?)と考え事をしていると
「さて了解を頂きましたのでそろそろお暇をさせていただきます。何か最後に質問はありますか?」と用は済んだと月島は云う。
「まっ。待ってください!」と何も対策を思いつかない状態では帰したくないかおりは思わず引き留める。
「?」と疑問顔の月島が振り返る。
「こ・・これから私はどうしたら良いのでしょうか?」と漠然とした質問をするかおり。
特に意味など無いが少しでも考える時間が欲しかったのだ。
「ふむ?・・まだ貴方には迷いがあるようですね。本当にこの選択で良かったのか?と」と月島はかおりの心情を計る。
(迷い?私はまだ迷っているの?いやそんなはずは・・生徒達を助ける。家族も助ける。その両方を取ると決めているはずだ)と
思いながらも言葉に詰まる。
「一万円。」と月島が突然意味不明な事を言いだす。「は?」とかおりの頭の中にクエスチョンマークが浮かぶ。
「一万円あげますから僕とセックスしてください」と月島が云いだす。
「は?・・そういう冗談は嫌いなんですが?」と眉間の皺を寄せながら睨みつける。
「ははは。まぁそういう反応になりますよね?」と笑いかける月島。
「・・何がしたいんですか?」とかおりは怒りで顔が赤くなっていく。
「花園先生。貴女は百万円の札束を見た事ありますか?」とまた明後日の方向に質問が飛ぶ。
「え?まぁ実家が工場をやってますので時々父親が持っているのを見たことありますけど?」
と質問の真意を探りながらもかおりは答える。
「その百万円の札束が百束目の前にあると想像してみてください。」と月島が笑いながら言う。
「え?・・百万円の束が・・?」と思わず想像してみるかおり。(百万円が百束・・つまり一億・・)と思った瞬間。
「一億円あげますから僕とセックスしてください」と月島がいつの間にか近づき耳元で囁くようにそう言ったのである。
「!!・・ごじょうだんを・・」と心臓が飛び出るのでは?と云うぐらい驚きながらもやっとの思いで答える。
その答えを聞きかおりの傍から離れながら「ええ。冗談です」と笑顔を返す月島。
やや放心していたかおりがその言葉を聞き顔を真っ赤にする。「ふ、ふざけないでください!」と声を荒げる。
「いや試してすいません。しかし貴方は一瞬迷ったはずだ。もしかしたら?とね。でもそれで良い。貴女が人間である証拠だ」
「?おっしゃってる意味が解りません。」とかおりは聞き返す。
「つまり花園先生は神の子でもなければ聖人でもない。普通の人間なんですよ。貴女は一億円を頭の中で想像した。
もらえるのあれば欲しいとね。一万円と言われた時には想像すらしていなかったシナリオを貴女は頭の中で描いた。
そしてその反応は人として正しい。欲の無い人間などいない。故に貴女の迷いは正しいのですよ」と続け
「貴女は自分の欲望にもっと正直になるべきだ。それが僕に出来る最後のアドバイスですよ」と月島は云う。
「欲・・望?」とかおりは呟く。
「そうです。それに生徒達が可哀想だと思っているようですが実際は違いますよ?彼ら彼女らはこの状況を苦しみながらも楽しんでいます。
確かにストレスは溜まるでしょう。閉鎖された空間。見知らぬ他人ばかりの環境。勉強して卒業しなければいけないプレッシャー。
様々な要因があります。でもストレスが溜まれば溜まるほど人は人は求める傾向にある。
例えば大規模停電になればその年の出生率が上がるなんていう都市伝説がありますが何も暗いからセックスするくらいしか
ヤル事が無いからだろうと思っているでしょうがそれは違います。
勿論それくらいしか何も出来ないという理由もありますが停電が何時終わるか分からない。
暗闇に対する不安等の理由に依り強いストレスを感じるからです。だからそれを解消しようとセックスをするのですよ。
そういったケースに限らず人はストレスを感じるとそれを解消しようとします。
そうしなければ体調や精神すら崩しかねないからです。
そしてその解消方法は掛かるストレスが強ければ強いほどより本能的欲求に偏るのですよ。
最終的には三大欲求に帰結します。つまり食欲睡眠欲そして性欲です。
別に解消方法としては食欲でも睡眠欲でも良いのですがやはりこちらの計画的には性欲を指向してほしい。ですので餌をぶら下げて
彼ら彼女らを嗾けています。やはり若いだけあって簡単に乗ってくれました。恐らく早ければ明日にでも面白い光景が見れるでしょう」
と楽しそうに話す月島。
(この学園が、いいえこの島全体が全て子供が子供を産む為だけに特化した造りになっているのね。
この尽光計画はそこまで考えられて作られていたなんて)とかおりは絶句する。
最後の問答
「ご理解いただけたようですね?それでは明日以降頑張ってください」と話しを締めて帰る準備を始める月島。
(どうしよう?結局何も思いつかない。このまま帰して良いの?)とかおりは焦る。
「そ、そういえばさっき月島さんって僕って言ってましたよね?普段は私なのに」
と咄嗟とはいえ何聞いてるんだ?と自分でも恥ずかしくなるような下らない質問をする。
「・・あぁ。私(わたくし)は営業モードってやつですよ。プライベートでは僕(ぼく)が一人称です。
まぁ花園先生は話しやすいのでつい素が出てしまったってやつです。失礼しました」とニッコリ笑う月島。
「そうなんですね・・(こんな笑い方も出来る人なんだね)」と作り笑い以外の笑顔を始めて見たような気がするかおり。
「それだけですか?まぁ良いのですが私に惚れないでくださいね?一応外では愛妻家で通ってますので」
と本気なのかジョークなのか分からない事を言いだす。
「なっ!そんなつもりはありません!」と顔を真っ赤にして反論する。
「ははは。冗談ですよ。でも貴女は・・いや花園先生。本当は何を聞きたいのです?
この計画全部聞きたいのであれば答えられる範囲であれば答えますよ?」
とこちらの意図を読んでか逆に月島が気を使ってくる。
かおりは緊張しゴクリと喉を鳴らす。「・・それではまずこの島は何なんですか?」と最初に思った疑問を言い出すかおり。
「こちらは元々メタンハイドレートやレアメタル等の試掘現場を起点に埋め立てを始めた土地なんですよ。
その頃は沖縄の米軍基地の移転問題がありましてね。こじれにこじれ最悪沖縄撤退もあると云われてたんです。
そうなれば米軍の作戦基地がグァムに移転する事になると思った日本政府が代わりに打診したのがこの土地なんです。
ここに埋め立て地を造り米軍海兵隊の基地を造らないか?とね。
結局沖縄基地問題が解決し移転は白紙になったのですが一度埋め立てを始めた土地ですからもったいないとなりまして。
何かの再利用しようとなった時に我々が尽力してこの土地を手に入れたという形になりますね。」
「場所はどこになるのでしょうか?」とかおりは更に聞く。
「う~ん。正確な場所は言えませんが太平洋上EEZ内とだけ言っておきましょうか」と月島は言葉を濁す。
「マスコミを怖がっていましたよね?勿論今は理由は解りますが・・
何故この場所はバレないのでしょうか?島である以上外から見えますよね?」
「何簡単な事ですよ。登録上今でもここは特別軍事施設扱いだからです。」と答える月島。
「特別軍事施設?それがどうしたというのです?」と意味が解らないとかおりは聞き返す。
「特別軍事施設と云うのはその性質上機密保持が優先されるのです。
例えば米軍のエリア51なんかが有名ですよね。そういった場所には一般人は近づけないように出来るのですよ。
つまり許可の無い海や空から近づく物体を特定距離以上近づかないように警告出来るのです。
この周りには空からは自衛隊のP3Cが海ではイージス艦が常時パトロールしています。
もしも関係ない船や飛行機やヘリ等がこちらの海域に入ってきたら出ていくよう警告を発し排除します。
それでも近づいてくるようであれば警告射撃それでも駄目なら撃沈、空なら撃墜ですがして良いと政府が許可を出しています。」
「え・・そんな事出来るんですか?」と驚くかおり。
「えぇ。まぁ特別軍事施設って事になってますのでマスコミの取材の許可も降りませんし今のところ上手く行ってますね」
「そうですか・・(聞けば聞くほど突破口が見えなくなる感じだな)」とかおりは段々絶望の方に傾いていく。
「どうやら貴女はまだ諦めていないようですね?無駄な事はやめておいた方が良い。変な考えを起こさないほうが無難ですよ?
貴女は普通にこの学園を運営してくれればそれで良いのです。それ以上は考えない方が良い。」
月島はかおりの顔色を見てそう断言する。
「それでは最後に・・どうして貴方はこの話をしたんですか?誤魔化す事は出来たはずです。
むしろこの計画を聞かなければ普通に授業をし勉強させる事に専念していたと思います。
勿論生徒達の異常行動には疑問を持ったとは思いますが・・なぜです?」とかおりは震える声で云う。
「・・さぁ?自分でも解りません。どうしてでしょうね?」月島はそう答える。
「本当に迷っているのは貴方の方ではありませんか?月島さん。貴方の本心ではこんな事をしたくなかった。
だから私に話して同意して欲しかった。同情してほしかった。
背中を押してほしかった。だから話したのではありませんか?」
月島は瞳を大きく開き絶句すると再び目を閉じ「・・ふぅ~。もしかしたらそうなのかも知れませんね。
貴女は似ているからつい喋りすぎてしまう。
貴女ならば理解してくれるのでは?と期待したのかもしれません。しかし」と言葉を切り
「貴女は拒絶した。残念ながらね」と寂しそうに云う月島。
「私は・・そうですね。でもお金が欲しいのも本当です。
ですから従いますよ?明日から普通に授業もしますし放課後にはブレザーも着ますよ?」
と乾いた笑いを見せるかおり。
「・・・・まぁ良いでしょう。頑張ってください。
くれぐれもつまらない考えは起こさないようにしてくださいね?」と表情を消してから喋る月島。
「分かっていますよ?私も馬鹿ではありませんから。三か月間精いっぱい頑張りますよ?」
と本気なのかそうでないのかよく分からない返事をする。
(私に何が出来るか分からない。それでもこんな計画には負けない)
しかしその表情はとても全てを諦めた者の表情ではなかった。
保険
そんなかおりの表情を見た月島は「やはり・・貴女は・・」と表情が厳しくなり考え込む。
(大丈夫だとは信じたいがやはり保険は掛けるべきか?)とそう判断すると
「花園先生。成功報酬の件は生徒達には言わない方が良いですね」と月島はそんな事を言いだす。
「?・・云うつもりもありませんがどうしてでしょう?」と何でそんな事を?とかおりは不思議そうに答える。
「いや生徒達の退学の条件なんですが・・強姦と輪姦なんですよ」とシレっと爆弾発言をする月島。
「!!!」と驚くかおり。「理由は簡単でしてね。ここは警察も検察もいません。実質無法地帯と云って良い。
だから基本的には何やっても良いんですがやはり最低限のルールというものがある。法律が効かない代わりに校則が拘束力を持ちます。
ダジャレですけどw」と笑いを取れると思ったのかダジャレを言う月島。
「その罰則が停学や退学って事ですか?」と月島に問うかおり。
「その通りです。云うまでも無く退学が一番重い。そしてなぜ女性に乱暴する事を重罪としてるか?ですが
子供を産めるのが女性のみだからです。統計学的にですねレイプされた女性は男性恐怖症になりやすい。
そして精神的に安定しない為仮に妊娠しても流産や死産になる確率も上がります。
さらに言えば無事出産出来ても未熟児であったり奇形児であったりなんらかの障害を持って生まれる子も多いのです。
それではこの計画の意味を為さない。こちらからすれば死罪でも許せないくらいの重罪になります。」ときっぱり言う月島。
「はぁ・・(同じ女としては有難い措置だとは思うけどなんだろう?なんか引っかかるな)」と思いながらもうなずく。
「ご納得いただけて有難いですね。但し!抜け道があるんですよ?それは・・女性側の自己申告だって事です。」と嫌らしく笑う月島。
「!?つまり脅されていたりしたら泣き寝入りって事ですか?」とびっくりするように聞くかおり。
「まぁそうなりますかね?そうならないようにこちらも出来るだけ監視するようにはしますが何分人数が少ないものでなんとも」
と申し訳なさそうに云うと
「まぁ貴方の様に気が強ければ自己申告してくれると信じてますがただそこで問題になるのは・・
一億円が貰える条件憶えてます?」と月島はかおりに質問する。
「え?それは全員の卒ぎょ・・あ」と言葉が詰まり顔を青ざめる。(そういう事か)と月島の事をキッっと睨みつける。
「いやいや前にも言いましたが私は公務員です。守秘義務は守りますよ?まぁ心掛け次第ではありますが」
と暗につまらない行動はするなと釘を刺す月島。
(・・・どうだか)とかおりは半信半疑で月島を見つめる。
しかしレイプを告発したら即退学となり一億円がおじゃんになるのはかおりにとってかなりの痛手である。
生徒第一とは言いながらもやはり本音はお金も欲しいのである。
(成功報酬の条件だけは絶対にバレないようにしなければ・・)そう心に決める。
「さて私は戻りますね?明日から頑張ってください。
あ、そうそう言い忘れてましたが寝室のクローゼットの引き出しにプレゼントがありますのでお使いください」
「ちょ。まっ」とかおりは引き留めようとすると月島は振り返り
「・・人は様々な場面で選択を迫られそれを選び取ります。日常の小さな物事から人生の岐路まで色々ね。
貴女は明日以降様々な選択を迫られるでしょう。
花園先生。そのとき貴女が一体どんな選択をするのか楽しみですよ」
と玄関を開け去っていく月島。かおりはそれを呆然と見送るのであった。
花園かおりの考え事
かおりはリビングのソファに座り生徒達のバストショット付きプロフィールを全員分眺めていた。
「ふぅ~」とため息を吐くと(さて困ったな。状況を整理しないと)とかおりは一人考える。
結論から言うと生徒達を助けると云うのは恐らく無理だろうと思っている。
この場合の助けるとは全員性交渉をしないという意味である。
これは本人達が乗り気であればどんなに説得しても無駄だろう。
それに恋愛そのものは悪い事だとはかおりも思ってはいない。
最初の意見からはかなりトーンダウンしている自覚はあるのだが家族を救う為には金がいるのだ。
ならば次善の策としては全員の無事卒業達成しか無いと考える。(消極策ではあるけれど皆無事に帰れるならば良しとしないと)
そしてそれならばかおりの望みも達成出来る。現時点で考えられる最高のシナリオだろう。
ただこのままこの学園を放っておくのも良くないと思っている。
月島はこれが終わったら二期三期と生徒を増やすと云っていた。
(それだけは阻止しなければ)かおりはそう決意する。
しかしマスコミに知られるとこっちにもとばっちりが来る恐れがある。
というか騒ぎになりすぎて一億没収なんて云ったら目も当てられない。ならばどうするか?
頭を捻って考えた結果、静かに圧力を掛けられる人物を探し密かにこの計画を潰す。
それしかないように思えた。ただ果たしてそんな事が出来る知り合いは?・・いた!
「田野助教授!」と思わず叫ぶ。
田野麗子助教授は大学時代の恩師である。奇麗で聡明で40近いのにかなり若く見える才媛であった。
性格も面倒見が良く優しく正義感のある人であった。何故彼女が独身なのか七不思議だと当時言われていたくらいである。
そして何より田野麗子の父親は民自党幹事長である田野豪三である。
田野豪三は民自党にその人ありと言われるくらいの剛腕だという噂なのだ。
(田野氏であれば尽光課に圧力を掛けて秘密裏に計画を潰すくらいは出来るはず)
田野助教授と連絡を取りそれを父親に進言してもらう。それしか方法は無いように思えた。
「田野助教授なら絶対に助けてくれる。だけどどうやって接触すれば?」と独り言ちるかおり。
基本この島から出られない。電話も手紙もEメールも駄目。連絡手段が無い以上どうにもならない。
(詰んだ?いや待てよ?確か入学式で)と入学式を思い出す。
月島が最後に言った事は何だったか?そう。(デートであれば一日東京に戻れる!)
男子生徒の協力が必要ではあるが東京に戻り散策が可能であったのだ。
「その時に大学に行って田野助教授と・・」と云ってから気づく。
東京に居る間尽光課の監視員が付くと云っていた事に。(まず大学近くにすら近寄らせてもらえないだろうな)
と絶望するかおり。
あれほどの大都会である。偶然散策している時に知り合いに出会うのは宝くじ並みであろう。勿論行動パターンを知っていて
普段の出没先に行けば別だが。(そんな事を許す監視員だったら楽で良いけど)
と思いながら月島がどれだけ私のいや生徒達も含めた全員の事を調べてあるのか?
は判らないが少なくとも知り合いの近所には行かせてもらえないだろうとは想像できた。
それに事前にデートコースを提出するようになっていた。恐らくはそのデートコースを少しでも外れたら即中止になるだろう。
それくらいの慎重さでなければ東京デートなど許すはずも無いだろうと思われた。
(私の交友関係は全て調べてあるだろう。しかし友達の友達ならどうだろう?)
とかおりは荷物の中から手帳を取り出す。確か大学時代に一度みっちゃん(友達)の友達の仕事先に連絡した事があったのだ。
「あった」と小さく叫ぶと電話番号が走り書きで書いてある部分を読む。
(貧乏性なのが幸いしたな)と走り書きの部分を捨てなくて良かったと胸を撫で下ろす。
この番号で住所が解れば、遠藤さん(みっちゃんの友達)と接触できるかも?と云うレベルではあったが
今はその細い糸を手繰り寄せる作業をやるしかないのである。
(後は事前に手渡すメモを用意しておいて)とメモ帳を破きみっちゃんに渡る事を前提に内容を書き綴る。
仮に遠藤さんが見つかったとして手渡す瞬間を監視員に見られたら意味は無い。どう手渡すかも重要なポイントになるだろう。
(これは厳しいなぁ・・でもそれでもやらないと。未来の子供達の為に!)と瞳を輝かせるのであった。
花園かおりの考え事2
「良し書けた!」と喜色満面でメモを見る。
(これが無事みっちゃんから田野助教授の手に渡れば)と取らぬ狸状態である。
「さて次は・・デート相手かぁ」とかおりは生徒達の写真を見比べる。
(う~ん協力してくれそうな人って云うとやっぱり温美君か弱音君かなぁ?)とプロフィール欄を見ながら考える。
ちなみに弱音優一は病弱で入退院を繰り返し出席日数が足りない為留年確定する所を月島にスカウトされた人材である。
性格は大人しく気が弱い。顔は頬は少しこけているものの女の子と間違えそうなくらい可愛い顔をしていた。
(温美君が性格含めて一番良さそうだけどモテそうなんだよね。難しいかも?弱音君はああいう性格だからお願いすれば
断らない気もするけど東京みたいな都会は嫌いそうだよね。)とどちらも決定打に欠けるなぁと思うかおり。
そこでふと男子生徒のバストショットを見ていて明らかに場違いと思しき人物がいたなと思い出す。
「これこれ。宅(たく)一郎(いちろう)君か」とかおりはそのプロフィールを見る。
宅一郎。はっきり言ってオタクである。髪の毛はボサボサで肩口までありおよそシャレっ気が無い。
体は太っていて顔は丸く大福のようである。目はいつも眠いように腫れぼったく口は大きい。
失礼な言い方ではあるが何かの怪獣映画に出てきそうな容姿をしていた。
他の人のプロフィールとは違い異彩を放っているのは間違いない。
(う~ん。いや駄目ってわけでは無いんだけどね?よく見ると怪獣みたいで可愛いかもだし?
まぁ最悪あの二人から断られたら誘ってみようかな?流石に先約とかは無さそうだし)
とかなり失礼な感想を抱くかおりだった。
ちなみにこの時点ではかおりは知らないがデートでの移動は全て監視員の自動車である。
歩いて散歩とか無理であった。もしも突然交番にでも駆け込まれたら困る為自由な散策など論外なのである。
例えばデートコースに動物園と書いてあれば動物園の前まで自動車で移動し園内散策は出来るが外に出たら即車に乗せられるのだ。
知り合いが偶然園内にいれば良いがそうでなければ接触など夢のまた夢である。
かおりの努力は報われるのか徒労に終わるのかは神のみぞ知る事であった。
花園かおりの考え事3
「さてと、明日の準備は終わったね。朝一で門扉を開けなきゃいけないから早めに起きないと」
と寝室に向かうかおり。
そういえばアルコールの持ち込みはアリなのだろうか?聞くのを忘れたなぁとそんな事を思う。
(明日試しにメモに書いてご意見箱に入れてみようか?)と考える。
ちなみに酒は嗜む程度なのだが思った以上に疲れるのが解った為気分転換に欲しくなったのである。
(そのうち父親みたいな酒豪になったりしてねw)とそんな事を考えながら寝室に入る。
ライトを点けるとなんとキングサイズの大きなベッドが鎮座していた。
「うわぁここまで大きくなくても良いのになぁ。何人寝れるの?」
恐らく大人が4人くらいは余裕で寝れそうである。実際枕が4つ置いてあった。そんなベッドがほぼ中央にあり
ドアから入って右側にクローゼットと三面鏡が左側には本棚と机が置いてある。
机の上にはパソコンもある為ここで簡単な事務作業も出来そうだ。
(もっともインターネットは出来ないけどね。)と苦笑する。
だがメモリースティック等でデータは持ち歩き出来る。
学校で残した作業をこちらに持ち込む事は出来そうだ。
ベッドの奥側は大きな透明の一枚ガラスとその横にベランダに出る為の小さなガラスドアがある。
どうやらこちら側は男子寮とは反対側らしい。建設途中の建物や重機がある風景と遠くに海と波止場が見えた。
窓の上部には電動式のブラインドがあり、スイッチを押せば簡単に上げ下げ出来た。
やや殺風景ではあるがホテルのスィートルームだと云われれば信じるレベルである。
「そういえば服もスーツケースに入れたままだった。」と
リビングに取りに戻る。そしてクローゼットを開け服を仕舞っていくかおり。
ウォークインタイプでは無いもののかなり大きなクローゼットであり明らかに一人用ではない。
(本当に私一人で使って良いのかな?)ととまどいながらも手を動かす。
そしてあらかた作業を終えた後にふと月島の言葉を思い出す。
「クローゼットの引き出しにプレゼントがありますのでお使いください」
確かそんな事を言っていたはずだ。
「引出しねぇ。」と云いながら下に二段ある引出しを開ける。
上の段には何も無かった。(まぁ下着でも入れておこうか?)と思うが後回しである。
下の段を開けるとかおりは「!!」と声にならない声を上げる。
その中にはローターやバイブ、ローション等のアダルトグッズが所狭しと置いてあったのである。
コンドームやピルの様な避妊グッズもあるようだ。そしてそこにはメッセージカードが置いてあり
(溜まった時や寂しい時にお使いください。月島)と書いてあった。
「~~~馬鹿にしてっ!」とそのメッセージカードをクシャクシャに丸めると思いっきり投げ捨てる。
その後その引出しを眺めつつはぁ~っと溜め息を吐く。
「どうしよう・・これ」本音を言えば全て捨てたいのだが余りに大量にある為それも難しい。
「見なかった事にしようか・・うん」とそっと引出しを閉じるのであった。
メアリーの想い
「WH~Y!ナゼみんな平気ナンデスか~?」とメアリーは部屋の中で絶叫する。
あれから馬鹿な事をするべきでは無いと数名の女性に掛け合ったのだが
まともに聞いてくれたのは薄井幸子だけであった。
他の連中は「別に~良いんじゃない?バレなきゃセーフよw」とか
「お金欲しいし~」とか頭悪そうな返事ばかりであった。
まともそうに見えた本田唯ですら「まぁ相手次第かな?」などと云う始末である。
「みんなシンジられまセーン」と頭を抱える。
メアリーはカソリックでは無いものの敬虔なクリスチャンである。
そういう愛の無いセックスなど到底容認できないものであった。
(どうしてデスカ?皆オカシクなってマース!ナントカしないと)と
メアリーは考え込むが良いアイデアが浮かばない。
「ワタシは勉強しにキタのでーす。ハレンチな事をスル為では無いデース」
と独り言を言うメアリー。
(ドウしよう?ママと連絡が取れれば・・でもドウやって?)
とメアリーは今後の事を考える。
メアリー自身は日本国籍を取った日本人だが
母であるマリアは現在帰化申請中のアメリカ人である。
やはり日本生まれ日本育ちであるメアリーよりも帰化に時間が掛かるらしい。
そんな訴訟大国アメリカから来たマリアである。メアリーがこんな状態だと知れば
きっと大騒ぎしてくれるはずだ。なんとかここから出てマリアと接触するのが第一目標となる。
しかしどうやって脱出するのか見当もつかない。
だがどこかに方法はあるはずだと前向きに考える。ふと外を見ると辺りは暗くなっていた。
仕方なく今日はシャワーを浴びて寝る事にする。
そして明日以降島の探索をする事に決めたメアリー。
「あきらめマセーン。カツまでは~」とガッツポーズをしながら
どこで覚えたのか解らない言葉を発するメアリーだった。
軽部千恵の思惑
「ふぅ~ さっぱりした~」と千恵はタオルで頭を拭きながら真っ裸のままお風呂から出てくる。
ちなみに寮の一部屋は1DKと間取りは小さいが比較的ゆったりした造りとなっておりそこまで狭く感じない。
ホテルのシングルルームよりもよほど広いといえるだろう。
お風呂は普通の大きさのユニットバスではあるが全部屋に一つずつある事を考えれば十分と云える。
裸のままベッドルームへと行きドレッサーの前でブラッシングをする。あまり行儀の良い行為とは言えないが
これが千恵のやり方なのだろう。
髪を乾かしながら今日の事を思い出す。「さてと・・まぁ面白くなってきたね~。まさか佐藤真希がいるとはね」
とほくそ笑む。
軽部千恵は以前他のアイドルグループの追っかけをしてたくらいのドルオタである。
流石に激乙女は追いかけてはいなかったがセンターを見間違えない程度には知っていた。
勿論他人の空似の可能性もゼロでは無いが10中8、9本人だろうと思っている。
朝の船中でカマを掛けたが目が泳いでいた。疚しい事があるのは間違いない。
(しかしなんで佐藤真希がここにいるんだろ?そういや先日休養会見やってたっけ?
それと関係あるのかな?まぁその辺は追々聞いていけば良いかぁ)とニヤリと笑う。
もしかしたら弱みを握れるかも?と思ったのである。
「ふふふ。もしもあの子がレズっ気無くてももらっちゃうもんね~」と千恵は呟く。
そう千恵は男も女もイケるバイである。しかもどちらかと云うと女の方が好きなのだ。
「楽しい学園生活になりそうで良かった良かったw」と千恵は裸のまま高笑いするのであった。
本田唯の考え
「ドーン!だよ!・」と唯はパジャマに着替えるとベッドにダイブする。
ベッドはセミダブルで一人で寝るなら十分広い。しかも枕が二つ置いてありカップルで使えと云わんばかりである。
「やっぱり今日は色々ありすぎて疲れたなぁ。このまま寝ちゃおうかな?」とぼんやり考える。
(しかしこの学園やっぱりぶっ飛んでるなぁ。恋愛推奨とかセックス推奨とか何考えてんだか)
と唯はこの学園の方針を思い出す。
「竜一は今頃何してるんだろうなぁ。」もしもこの学園に竜一が居たらどうだっただろうか?
そんな事を夢想する。しかし今となってはどうにもならない事を思い出す。
「しかしマズったよねぇ。あんな別れ方したらヨリを戻すのは難しいな」
竜一とは電話で別れを告げたのだがこちらが一方的に言った為激怒していたのである。
唯としては本意では無いのだが竜一からすればそんなの関係ない。
「ぶざけんな!そんな事務所辞めちまえ!俺んとこに来い!」
そんな事も言っていた。正直その言葉に心が動いたが唯は泣く泣く諦める。
事務所の力関係が唯の事務所の方が強くマスコミへの影響力も強かった為だ。
私だけでなく竜一のバンドも干される可能性が高い。いや潰す可能性すらあった。
(私だけならともかく竜一に迷惑は掛けられない)そんな思いだったのだが竜一には届かなかったようだ。
だが(もしも彼の言葉に従ってたらどんな未来だったのかな?)と唯は考える。
いくら事務所の力が強くて圧力が掛かるといっても地方や深夜枠など影響が少ない居場所も無くは無いのだ。
だが今の時代ソロのアイドルなど一過性で終わる。そこまで甘くないのがこの業界である。
初めのうちは元○○と云う名でバラエティにでも呼ばれるだろうが最早その時点で過去を売って食いつないでいるだけなのだ。
アイドルとしては終わっていると云って良い。その後どうなるのか?脱ぐか静かに引退するしか道は無いだろう。
そんな引退した只の女子高生本田唯を果たして竜一は受け入れてくれたのだろうか?
それともアイドル佐藤真希だから付き合おうと思ったのだろうか?今となっては知るすべも無い。
「佐藤真希ではなく本田唯として生きていく人生、、か。」と思わず呟く。
思わずそんな未来を想像してみるものの全くイメージが湧かなかった。
実の所竜一は唯を食べる前にいなくなった事に腹を立てただけでありそこまで愛してなかったりする。
もしも事務所を変わっていたら最初は良いかもしれないが適当に遊ばれて捨てられていただろう。
そして元アイドルとしての転落人生コースが待っていた。そんな未来を回避できただけマシなのかもしれない。
しかしそんな事は分からない唯は今でもこの選択が正しかったのか?と懊悩していた。
(でもこうなった以上とりあえずこの学園を卒業しなくちゃ前には進めない。但しその場合どちらを選択するかよね?)
卒業には二つのやり方がある。一つは普通に勉強し卒業試験をパスする事。こちらが普通コースだが
勉強が苦手な唯にはハードルが高いように思える。それでも頑張れば行けるかも知れないが。
そしてもう一つは・・「妊娠する事・・か。こちらのが遥かに楽だけど・・う~ん竜一がいれば悩まずに済んだのに~!」
と地団駄を踏む唯。
「あ~んどうしよう?いや確かにそれもアリかな?とかちょっと思ってるけど実際問題竜一より良いのいるの?
事務所に復讐したいってのも嘘じゃないけど妊娠かぁ。アイドルとしては終わるよねぇ?
はぁ~どうしよう?」と溜め息を吐く唯。
体育館では妊娠引退なんていうそんなシナリオも面白いかと思ったが部屋に戻って冷静になると
アイドルが出来ないデメリットに気づく。
今でも復帰は厳しい道のりだが、だからといって自分で自分の首を絞めるのはどうなんだろう?
という思いが出てきたのだ。「う~ん。う~ん」
と結局何も決まらずに時間だけが過ぎていく。
そして出した結論が「なるようになる!」とノープランぶりを発揮するのであった。
加藤(かとう)蛮(ばん)の性癖
「くそが!」と部屋に入るなりバッグを思い切り部屋に投げ飛ばす。
加藤はかなりイライラしていた。
それはこの学園のルールに従わなければいけない事に腹を立てていたのである。
(なんなんだ?せっかく面白い学園に入ったのに強姦も輪姦もキメセクも駄目だと?
ふざけんな!甘ったるい和姦なんぞ今更出来るかよ!)
そう加藤は異常性癖の持ち主であり女性を屈服させる事でしか興奮出来ない体質なのである。
加藤は中学時代から荒れていて取り巻きも多かった。初めての女もレイプであった。
更正しようと寄ってきた女教師がいたのだがあまりにウザイので取り巻きに押さえつけさせて
生徒指導室で姦ったのだ。その時に見た教師の絶望した顔を今でも克明に憶えている。
そのせいなのか性的興奮を覚えるのは決まって嫌がる女のみになったのだ。
和姦は出来ないのか?一応試した事はある。もしかしたらと思い好きだと言ってきた女を抱いたのだ。
だが勃たなかったのである。結局その女はすぐに捨てた。
加藤にとってそれ以来セックスとは女を屈服させ隷属させる事と同義になったのだ。
「ちきしょう!せめて何か方法は無いもんか!?」と加藤は次善の策を考える。
(俺は勉強はできねー。やる気もねー。レイプして退学もアリだと思ったがあの月島とかって野郎の口ぶりだと
素直に帰す気がねーな。最悪海の真ん中でドボンだろう。って事は外に出るには素直に卒業するしかねーんだが・・)
とそこまで考えて加藤の顔が歪む。
「くそがくそがくそがくそが!どうすりゃ良いってんだ?女を一人に絞って和姦しろだぁ?
そして妊娠させたら卒業とか馬鹿じゃねーのか?!俺は嫌がる女じゃねーと勃たねーんだよ!」
と思わず興奮して叫んでいた。
その時だった。コンコンと部屋の扉をノックする音が聞こえたのである。
「?誰だ!」と扉に向かって叫ぶ加藤。
だが返事が無い。不審に思いつつも他の生徒の誰かだろうか?と思い扉を開ける。
「?誰もいねーじゃねーか!」と高校生にもなってこんなイタズラをする馬鹿がいるのかと腹を立てる加藤。
とその時一枚のメモが下に落ちているのに気づく。
「なんだぁ?」とそのメモを拾い広げてみる。
そのメモには(花園かおりの秘密を教えましょう。明日の朝10時に屋上で)と書いてあったのである。
「なんだこりゃ?花園?・・あぁあの無駄にスタイルが良い学園長様か」
と入学式のスピーチなどまともに聞いてない加藤は咄嗟に名前だけ見てもすぐに思い出せなかった。
がスタイルだけは抜群だなとは思いながら見つめていたため思い出したのだ。
「秘密ねぇ・・。まぁ良いんだが朝10時って事はいきなりサボれってか?w」
サボる事に全く抵抗が無いのにニヤニヤとそんな事を加藤は呟く。
(ふん。まぁ本当か?イタズラか?良く判らんがネタにはなるか?)
と加藤は分析する。もしこのメモを書いた主が他の生徒の誰かであれば俺と同じ初対面のはずだ。
花園かおりの秘密など知っているはずも無い。
加藤をからかう為若しくはメモ主が狙ってる女生徒から意識を逸らす為にこんなメモを挟んだ可能性がある。
(だがもしこのメモを書いた奴が尽光課の誰かだったら?)
その可能性を考える。(もしもそうなら・・)思わず舌なめずりをする加藤。
「ククッ、面白い趣向だな。俺にもようやくチャンスが巡ってきたか?」
先程までの絶望感から一転一筋の光明を見つけたとばかりに笑う。
果たしてメモは真実かイタズラか?どちらにしても調べる価値はあるだろう。
加藤にとって女性が苦しむ顔を見る事だけが生きがいなのだから。
誠也の憧憬。
「さてと、、今日はこんなもんにしておこうか」と誠也はノートを閉じる。
当たり前だが高三の今頃は赤本を読破しておかないと受検には間に合わない。
もちろん三流大なら誠也クラスの頭があれば現時点でも余裕だろう。
しかし東大の政経を狙っている以上勉強を休む時間など無いのだ。
とはいえ今日は何時もよりも勉強に集中できなかった。
こんな状態ではいくら勉強しても頭の中には入らない。
故に早めに切り上げたのである。
(なんだろうな?あの笑顔が忘れられない。)と誠也は職員室での出来事を思い出す。
「花園かおり先生・・だったか?綺麗な人だったな。いやそれ以上に」
と言葉を切る。(似ているな。顔は目元が少し似てるだけで後は髪型含め全然違うけど雰囲気というか笑顔というか
優しい話し方とかそういえば体つきも似ているかもしれない。)
と誠也はそんな事を想う。
「姉さんは今頃何してるかなぁ?」最近会ってないな。そんな事を思う。
正月やお盆には帰省して挨拶には来るのだが月島真悟も一緒な為
誠也は顔を合わせるのを避けていたのだ。
後から両親から「誠也どこ行ってたの?響子が会いたがってたわよ」
と言われ胸が痛んだのを記憶している。
その為姉の顔を最後に見たのは結婚式の時であった。当時姉の年齢は22歳である。
(そういえばあの先生も若いな。当時の姉さんと同じくらいか?)
そんな事を想う誠也。
結婚式当時は中学生だった。それゆえに何も出来ない、力も無い自分に腹を立てたものだった。
この場合の力とは腕力の事ではなく発言力政治力経済力権力といった大人にならないと手に入らない力の事である。
(だからこそその力を手に入れる。その為に勉強してるんだ)その一心で誠也は勉学に勤しんできたのだ。
だが同時に今更姉が帰ってこない事も自覚している。
「徒労・・いやそんな事は無いはずだ。少なくとも東大に行けば姉は喜んでくれるはずだ。」
だがその後は?東大を卒業して官僚を目指す。それからは?そしてあの月島みたいに奪う側に回るのか?
それは正しい道なのか?分からない。「花園先生・・」思わず今日出会ったばかりの女教師の名前を呟く。
そして夕方に見た花園かおりの笑顔が脳裏に浮かぶ。
(あの人ならば僕の悩みを聞いてくれるだろうか?僕に道を示してくれるだろうか?
僕を導いてくれるだろうか?)
誠也はその優しい笑顔に姉の憧憬を重ねるのであった。
根取の優先順位
「なんだこれ?」と根取はドアに挟んであるメモを取る。
丁度シャワーから出てきた時にドアがノックする音がしたため裸のまま玄関まで出てきたのだ。
根取はイチモツをブラブラさせながら脱衣所に戻る。
そして黒のビキニブリーフを履くとそのまま寝室へと直行した。
そしてメモを読んでみると(花園かおりの秘密を教えましょう。明日の朝10時に屋上で)と書いてある。
「へ~。まぁ何かあるとは思ってたけどやっぱり隠し事があるのか」と根取は一人で納得する。
(しかしこれ書いたのは多分月島のおっさんだろうな。何が目的だ?)
そう当りを付けたものの根取は何故このメモを自分の部屋に入れたのかが分からなかった。
勿論かおりの事は興味が無いわけではないが現時点では優先順位は低かったのだ。
今はとりあえず一人の女に集中すべきだと思っている。
つまらない寄り道をして計算が狂う方が遥かにマイナスなのだ。
「まぁいっか」そう一言発しメモをゴミ箱に捨てた。
男子寮の三階
「戻った」と一言発し月島はモニター監視室に入る。
「先輩お疲れ様っす。」と近藤が振り返り挨拶する。
ここは男子寮三階にある特別室。壁一面に何台あるのか?と云う位多くのモニターがあり
それぞれ特定の景色を映し出している。窓は無く電気を点けなければ真っ暗である。
そのモニターの前にスチール製の机があり机の上には固定電話があった。
それ以外にも何に使うのか分からないスイッチ類が所狭しと並んでいる。
天井にはスピーカーがありどうやら音声を出す事も出来るようだ。
隅の方に小さなシンクがありお茶くらいは出せそうであるが
入口の扉以外にはトイレの扉しか存在しない。そんな部屋であった。
かおりの部屋と同じ大きさがあるはずなのだがそこまで大きくは感じない。
実の所隠し部屋があるせいなのだが本題とは関係ない為割愛させていただく。
「近藤、今の所どうだ?」とモニター状況を確認する月島。
「今の所異常は無いっすね。みんな大人しく自分の部屋にいるみたいっす。」
と近藤が答える。そして
「実はさきほど経理の島本さんから電話がありまして、用件はまた苦情です。
いや正直五月蠅くて参りましたよ。」と近藤は困り顔で月島に報告する。
「経理。。あの糞BBAか。」とかなり辛辣な事を云う月島。
「ええ。使途不明金が多すぎてこれでは話にならないって書類突っ返すって言われましたよ。」
と頭を掻く近藤。
確かに尽光課は使途不明金が多く予算の6割以上が使途不明金である。
これでは経理が激怒するのも理解出来る。しかし正直に書くわけにも行かない。
この島の所有は建前上防衛省管轄の海上自衛隊なのである。
故にこの島の建設費用や出産祝い金。かおりの報奨金なども使途不明で出すしかないのである。
文科省の人間で尽光課の仕事内容を正しく知っているのは
尽光課職員を除けば大臣と事務次官他数名のみである。他の者は知らないし知らせる気もない。
他の課の者からするとそんな得体のしれない成果があるのか無いのか分からない課であるのにも係わらず
予算がたっぷり組まれている尽光課。そりゃ風当りも強くなるというものである。
「書類が戻ってきたら適当に修正しとけ。まさか正直に学園建設費だの報奨金だの書けんからな。
そうだな、、交際費とでも書くか?」
「交際で20億とかありえませんよ。だいたい空港建設は防衛省で出してくれるんでしょう?
もっと何とかなりませんかね?」と近藤は思わず愚痴る。
「冗談だよ。まぁあちらさんと相談してみるさ」と防衛省側から助け舟を出せないか打診する事にする。
「頼みますよ本当に」と近藤はそこでその話を終わらせる。
月島その後シンクに向かいコーヒーを淹れる。
(やはり花園かおりは動く可能性があるか?もっとも一人では何も出来ないとは思うが・・
なんかイヤな予感がするな。最悪のケースも考えておくか)と月島は先程の遣り取りを思い出す。
「・・近藤。頼みがあるんだが良いか?」と月島が険しい顔で云うと
「なんすか?別に良いですけど?」と怪訝そうに答える近藤。
「スペアをリストアップしておいてくれ。それも早急に」
「スペア?・・!まさか教師のスペアっすか?何でまた?先輩があの女が良いって強く推したんじゃないっすか?」
「・・あれは良すぎるんだよ。こちらの思惑通りに動いてくれれば最高の教師だが
そうでない場合・・最悪俺ら全員終わるかもしれん。」と深刻な表情で語る月島。
「!?マジっすか?判りました。後でリストアップしときます」と近藤が答える。
「頼む。良いのがいなければ男でも構わん。時間を最優先でいこう」と月島。
「それは良いんですが彼女を解雇するとなると理由が必要ですよね?」
「理由は何でも構わんが・・それなら彼女は生徒達を誘惑し無理やり性交渉を迫った淫乱教師の為解雇ってのはどうだ?
それなら社会的にも終わるし仮に裁判起こされても証言者を買収すればいい。
一部の記者に面白おかしく記事を書かせれば彼女の言葉に耳を傾ける者もいなくなるだろう。」
「なるほどねぇ。外国ではそんな女教師がニュースになっていますからねぇ。
ありえない話ではないって事にはなりますかね?」と近藤は同意する。
「まぁあくまでも最悪のケースでの話だがな。一応変な動きをしないか見張る必要があるが
今はそこまでの段階じゃない。それに動きを牽制する為に種は撒いた。」とニヤリと笑う月島。
そう。加藤と根取の部屋の扉にメモを挟んだのは月島であった。
あの二人ならばメモを見て屋上に行くだろうとの判断である。
もっとも月島は明日学園に行く予定は無い。つまりすっぽかす予定である。
まぁ怒るとは思うが簡単に正解を教えるのもつまらない。だからヒントだけに留める事にしたのだ。
(異常性癖を持つ加藤と勘の良い根取。あいつらならば勝手にあの女の傍を嗅ぎまわるだろう。
それだけでも花園かおりにかなりの行動を制限できるはずだ。
あいつらが秘密を掴むも良し。何も得られずに花園かおりがハッピーエンドを掴むも良しだ。)
まるで月島はゲームでも楽しむかのようにそんな事を考える。
果たして月島が本当に望んでいるものは何なのか?日本の繁栄か?かおりの破滅か?
はたまた自身の破滅か?それとも?二律背反の想いを抱きながら月島はモニターを睨みつけていた。
忘れ物
ふとかおりの事を考えていた月島だったが忘れ物があった事に気付く。
「近藤。悪いがちょっと女子寮に行ってくる。」と月島は近藤に話しかける。
「?さっきそこから戻ってきたばかりでは?」と近藤が指摘すると
「あぁ先生に妊娠検査薬を渡すのを忘れていたと思ってな」と月島が苦笑する。
「なるほど。しかし先輩でもうっかりする事もあるんですなw」と近藤も笑う。
「そりゃあるさ。特に考え事をしてるときは・・な」と返す。
そう言って監視室を出る月島。そのタイミングで沖田が自分の部屋から出てくる。
「月島課長。女性の監視員を増やしてもらえませんか?私だけでは目が届かない部分があって」
と沖田は月島に増員を求める。
「ふむ。まぁそうだな。これからは24時間監視体制に入るつもりだったから丁度良い。
後で増員を頼もう。ただ・・部屋が無いので沖田の部屋で二人で寝るようになるが良いか?」
と月島は女性は二人部屋になる旨を伝える。
「えぇ問題ありません。一人であの部屋は大きいと思ってましたから」と沖田。
「なら良い。早速明日にでも来てもらうよう手配しよう。」月島は沖田の提案を受諾する。
「宜しくお願いします。明日は朝早いので少し早いですが就寝します。おやすみなさい」と沖田は月島に向かって云う。
「あぁ。おやすみ」と軽く手を振り月島は話を締める。
(さて・・まだ起きてるよな?)そんな事を思いながら月島は隣の寮を目指すのであった。
最後の訪問
ピンポーン!そんな音がインターフォンから流れてくる。
「!?」もうベッドの中に入って眠ろうとしていた時だったので驚いて跳ね起きる。
ちなみに寝間着はピンク色の花柄が入った可愛いパジャマである。
(こんな時間に非常識な)と思いながら時計を見る。
丁度夜10時を回った所であった。訪問するには非常識な時間だが寝るのには
少し早い気もする時間である。かおりは普段であれば起きている時間であり
明日に備えて偶々早めに横になっていたに過ぎない。
果たして女生徒か?それとも尽光課の人だろうか?そんな事を考えながら
インターフォンに付いているモニターに近づく。
その画面を見ると月島真悟の顔が写っていた。
(え?こんな時間に?しかももう来ないとか言ってなかった?)と
とまどいながらもまさか出ないわけにはいかない為インターフォン越しに喋り始める。
「何か御用でしょうか?」とおずおずと聞くかおり。
「あぁ夜分遅く申し訳ない。実は先程お渡しするのを忘れた物がありまして、
もし宜しければ通してもらえませんか?」と月島は申し訳なさそうに用件を話す。
「・・・」正直に云えばもう会いたくなかった。散々脅されて馬鹿にされて
なんでこんな目に合わなければいけないのか?意味が分からないと思っていたのだ。
だがここで断ればもっと面倒臭い事になりそうだ。と云う気持ちもあった。
「渡し忘れですか?ふ~判りました。今エレベーターを起動します。
ですがその品を受け取ったらすぐに帰っていただけますか?
私も明日は早いので丁度就寝しようと思ってましたので」ときっぱり云う。
「もちろんです。ありがとうございます」と月島は簡単に謝意を示す。
インターフォンの横には三階直通エレベーターの起動ボタンがあった。
これを押せばエレベーターキーが無くてもエレベーターを動かせる。
かおりはそのままモニターを見ているとエレベーターの扉が開いたのか月島が中に入り姿が見えなくなる。
(流石にパジャマじゃ不味いよね)と大急ぎでナイトガウンを寝室に取りに行き肩に羽織る。
丁度その時玄関のドアがノックされる。
「はい。今行きます」とかおりは義務的に返事する。
そして鍵を開け扉を開ける。「それで何を渡し忘れたのですか?」とやや棘を含む言い方で問いかけるかおり。
「すいませんね。夜遅く。これをお渡しするのを忘れまして」と小さな紙袋を手渡す月島。
「はぁ」と曖昧に返事しながら受け取るかおり。
「中身は妊娠検査薬です。申し訳ありませんが毎週月曜の朝に回収しますので必ず検査して封筒に名前を書いて提出してください。
これは全女性に課していますのでご協力お願いいたします。」とわざと事務的に喋る月島。
「に・・ん」と言葉を詰まらせると段々目が据わっていくかおり。
「・・こんな物必要ありません。馬鹿にしているんですか?」と静かに怒りの声を上げる。
「いやそんなつもりはありませんよ?あくまでもルールですので仮に処女であっても提出してもらってます。
出来れば気を悪くしないでいただきたい。」ととりあえずこれ以上刺激するの得策ではないと思ったのか宥めるように云う。
「あのですね!・・・まぁ良いでしょう。ルールには従います。これで良いでしょう?」
とかおりは投げやりに返事する。
「・・ありがとうございます。ちなみにもしも妊娠出産されれば女生徒と同じ条件で祝い金が出ますので」
と余計な事をつい言ってしまう月島。
「!!そんな事をする予定はありません!帰ってください!
貴方をちょっとでも尊敬してた自分に腹が立って仕方ありません!」と思わず激昂する。
「解りました帰ります・・」と玄関から出ていく月島。そして少し振り返り
「それでも、それでも子供は一人でも多く欲しいのです。宜しければご協力ください・・」と月島は懇願する。
「・・・・貴方も・・」とかおりは肩を震わせながら呟く。
「貴方も・女は産む機械。そう思っているんですか?」眦を決しキッと睨みつける。
その台詞を聞いた月島は今までに無いくらい大きく瞳を開き拳を強く握る。
「そ・・れは・・それだけは・・絶対に・・無い!」と最後は唸るように叫ぶ。
その言葉にビックリしたかおりは思わず固まる。
「失礼!」そう一言を発しエレベーターに乗る月島。
気づくとエレベーターが下がっていくのを見守るだけだった。
かおりの想い
紙袋をリビングのテーブルの上に置くと寝室に戻る。
そしてベッドにダイブして仰向けになり右腕を頭の上に乗せ先ほどのやり取りを思い出す。
「それは・・それだけは・・絶対に・・無い!」その時の月島の目には涙が滲んでいるように見えた。
(最後のあれは何だったんだろう?普段何考えてるか解らない人だけど・・
でも一つだけハッキリしている事は最後のあの言葉には嘘は無かった。それだけは断言出来る。)
月島真悟。一体彼は何が目的なのだろうか?彼の過去に何があったのだろうか?
何度考えても結論は出ない。
彼は一体何を知っているの?何を望んでいるの?
そんな堂々巡りをしている内に気付けば深い眠りに落ちていた。
6月2日
「ふぁ~~~ぁ。眠い~~」と眠気眼で門扉を開けるかおり。
結局予定よりかなり遅く就寝した為寝不足気味である。
結局考え事をしながら寝落ちしてしまったらしい。結局何も判らないままモヤモヤした感情だけが残る。
(う~ん。それでも今日から本格的な授業だからね。頑張らないと)
昨日1日色々あったとは云え教師の本分は忘れない。
お金が欲しいのも本音ではあるが生徒を預かる身としてはやはり全員無事に卒業して欲しい。
もっとも「無事」の定義が曖昧になってきている気はするのだが。
「せんせ~~おっはよ~!!」と早速生徒達が登校してくる。
随分早いなぁ~と思いつつ返事を返すかおり。「おはよう。皆昨日は良く眠れた?」と気さくに話しかける。
「は~い」と元気な声で返事する晴子他数名。その返事に思わず相好を崩す。
(やっぱり教師になって良かった)そう思える瞬間だった。
そこへ「みんなおっは~!あ~花園先生~~俺と話しません?」と春野陽がかおりに話しかけてくる。
「え?」と思わずそちらを向くと春野が思ったよりも近くにいる事に気付き思わずのけぞる。
「ねぇねぇ好きな男のタイプとかさ?どうよその辺?」といきなり不躾な質問してくる春野。
「おはよう春野君。でもちょっと近いわ」とかおりは少し後ろに下がりながら挨拶する。
「悪い悪い、いつもの癖でね?それでどうよ?そこんとこ?」と教師を教師とも思ってない態度で質問する。
「・・あのねぇ。一応これでも教師なのよ?そんな質問は却下」とピシャリと云うかおり。
「ちぇ、つまんね~な。」と悪態をつきながらさっさと去る春野。
かおりは去っていく後ろ姿を見守りながら(男子生徒が皆あんな感じだったらどうしよう?)と不安を感じるのであった。
それから職員室に入ろうとした瞬間「先生。俺と話さないか?」と話しかける生徒がいた。
「え~と、加藤君だったかしら?何かしら?」と足を止め振り返る。
「まぁ大した話じゃないんだが・・」と云いながらかおりの胸元に不躾な視線を浴びせる加藤。
その視線を感じ不快感を覚える。「ごめんなさい。今日の授業の準備をしないと」と
逃げるように職員室に入るかおりだった。「ちっ」と後ろで舌打ちをする音が聞こえたが敢えて無視した。
(怖かったぁ・・何なの一体。毎日あんな視線に耐えなければいけないの?)
塾の講師をしてる時や家庭教師をしてた時にも全く視線が無かったわけではないが
チラ見程度でありあそこまでガン見してくる生徒はいなかった。
結局かおりは内心情けないとは思いつつも男子生徒の性的視線を恐れ
その朝はHRまで職員室から出ようとはしなかった。
月島の朝
月島はそんな様子を監視モニターの前で観察する。
自分で淹れたコーヒーを一口啜ると昨日のやり取りを思い出す。
「貴方も・・女は産む機械。そう思っているんですか?」そう言ったかおりの表情は悲しみと怒りで満ちていた。
そのセリフを聞いた後の自分は自分で無いような昂ぶりを見せてしまった。
我ながらどうしてあんなにも感情的になったのか?とふと考える。やはりあの時を思い出したせいだろうか?
(響子・・)あの目だ。目の奥に強い光を感じる目が凄く良く似ている。
「似ていると出てくる言葉も似てくるのかね?」と独り言ちる。
丁度その時玄関の扉が開く。
「おはよーございます先輩。今日も早いっすね。」と近藤が入ってくる。
「お前が遅いだけだろう?今日から本番なんだ。気合を入れろよ?」と月島は返す。
「すいません。そういえば沖田は?」と近藤は沖田がいない事に疑問を抱く。
「沖田はヘリで新しい人員を迎えに行ったよ。それと悪いんだが近藤。
これから波止場までアレを取りに行ってくれ。多分届いているはずだ」
近藤にお使いを頼む。
「アレ?あぁラブホのベッドですか。解りました。現場のトラック借りますよ?」
「あぁ頼む。設置は持ってきた業者にやらせれば良い。これでラブホも完成だ。あいつらが気付くかどうかは知らんがな」
と場所を教える気は無いと月島は云う。
「使うも使わないも本人達次第って事っすか?先輩らしいっすね」と近藤も同意する。
「汚く使われるのも癪だしな。まぁそういう事だ」と月島が云う。
「解りました。行ってきます」と近藤が監視室から出ていく。
ゲームの始まり
キンコーンカンコーン。
学園が始まるチャイムの音が鳴る。
(あぁもうこんな時間かぁ。ホームルームをやらないと。)とかおりは生徒名簿を片手に職員室を出る。
ツカツカと歩きながら先程の出来事を思い出す。
女子生徒達は概ね明るくこちらにも協力的な感じがしたのだが
男子生徒達は、と云うか春野と加藤はあまり良い印象が無い。
(そりゃ落ちこぼれ救済って言われたくらいだし、少しは覚悟してたけど、、)
まさかあそこまでだとは思わなかったのだ。認識が甘かったと言わざるを得ない。
(不安しかない・・しかしそれでも代わりがいない以上やるしかない)
そう覚悟してかおりは3年1組の教室に入る。
「起立!」とかおりが入ってきたのを見計らい温美が掛け声を掛ける。
「礼!」と更に声を掛け「おはようございます!」とほぼ全員が挨拶する。
「おはようみんな!今日から皆さんを教える花園かおりです。よろしくね!」
と努めて明るく声を掛ける。
「着席!」温美の声が掛かり皆席に着く。
かおりはこのクラスにいる皆の顔を一通り見てから一呼吸置き
「これよりホームルームを始めます!」そう宣言したのであった。
モニター監視室でその様子を見ていた月島が片手で頬杖を突きながらニヤリと笑う。
「さぁ。ゲームスタートだ」
~未完~
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
あとがき
ようやく終わりました。ここまでお読みいただきありがとうございます。
主人公を貞操高めの例の弱み持ちにしようと決めた時点で暗い話にはなりそうだとは思っていたのですが
当初の予定以上に重い話になってしまいました。
設定は当初色々な案はあったのですが、例えば都市ごと異世界転移とか
彼ら以外誰もいないパラレルワールドとかそっち系ですね。
しかしどれも学園に通う意味ある?って所で躓きまして
そんな世界に行ったなら勉強そっちのけで冒険に行くよね??って事で没になりました。
やっぱりジンコウガクエンは学園生活が肝ですからね。
結局現代日本のままでその世界を作るとしたらどうすれば良いのだろう?と考えたら
もうそれ国家規模だよね?って事で日本政府がやるしかないだろうと思いまして
それじゃ政府がそんな事をする理由って何?って所で丁度出生率の話がニュースでやってたので
これに絡めるかぁと思いましてこんな設定になりました。いかがだったでしょうか?
結果的に人工島に人口を増やす尽光学園って事でダジャレが出来たと喜びましたがw
それから教師を主人公にしようと思ったのは生徒の一人にスポットを当てるよりも楽だったからです。
一人で行動しても不自然じゃないし成人してるし話を作り易いんです。
ただどうやってあんな胡散臭い学園に就職させるのか?って所で悩みましたね。
結局お金が無難だろうって事でああしましたがもっと何か無かったかな?とは思います。反省点ですね。
それ以降の懸賞金報奨金もその流れで決まりました。
実を云いますと最初の設定からも二転三転しまして
一部整合性があやしい部分もあったりします。
そもそも月島なんて云うキャラはかおりを学園まで導くナビゲーターでしかなかったはずなんですが
なんか思った以上に重要キャラになってしまいました。
これがキャラが勝手に動くって状態なんでしょうな。それはそれで面白かったですが。
それからかおりの変心も早すぎだなぁって思ったのですが当初の予定を変えたので申し訳ない。
もう少し丁寧に書けば良かったなぁって思う部分ですね。
さて皆さんの想像の余地を残したまま未完で終了のが美しくて良いかな?とも思っていますが
興が乗ればもしかしたら続編も書くかもしれません。全くの未定ですね。
さてさて皆様最後までお付き合いいただきありがとうございました。
それから最後に云いたい事はですね。
イリュージョンさん!ジンコウガクエン3待ってます!
以上ペーパームーンでした。