ワシントンの地球連邦政府では、関係者全体が集まった会合を行っていた。そこは、これまで収集した情報を共有し、ガルマン帝国に対する対応策を検討する場だった。
連邦捜査局のエマーソン長官が発言していた。
「中立地帯に派遣した極東艦隊のヤマトの報告により、テロ活動を行っていたのは、ガルマン帝国に属するイスガルマン人と断定するに至りました。これまでのガミラス政府から提供された情報では、ガルマン帝国は、千年前にガミラス人とイスカンダル人が別れて建国された国家で間違いありません。ガルマン人は、ガミラス人と同一民族、そして、イスガルマン人は、同様にイスカンダル人と同一民族です。ガルマン人は、長年、イスガルマン人を奴隷のように扱ってきており、自爆テロを行っていたのも、ガルマン人の命令である可能性が非常に高いでしょう」
その後を、外務長官のライアンが引き取った。
「ヤマトで派遣した外務省の事務次官の報告によれば、外交交渉は、完全に失敗に終わりました。少なくとも、アマール駐在大使を始めとして、西部方面軍と呼ばれる軍人は、虚偽の報告によって動いています。その目的は、我々をガルマン帝国へ取り込み、ボラー連邦と戦う戦力としようとしていることは明らかです」
続いて、ウィルソン防衛省長官が発言した。
「北米艦隊は、ガルマン帝国艦隊の攻撃を受け、初めて交戦しました。先ほどの虚偽の報告、つまり我々が自作自演でガルマン帝国に危害を加えようとしていると、交戦した艦隊指揮官の発言もありました。撃沈された北米艦隊の二隻も、我々の自作自演だと言っております。地球連邦への抗議の為、艦隊を差し向けているとの発言もありました。間違いなく、地球連邦を強制的に併合するか、植民地化するつもりでしょう。北米艦隊が確認した百隻以上の艦隊が、既に地球連邦に向けて移動中と推測されます。もはや、一刻の猶予もありません」
それぞれの報告を受けたダグラス副大統領は、深く刻まれた眉間の皺を伸ばしていた。
「こんな時に、チャールズ大統領は、まだ意識不明の状態だとは。私が、こんな重大な事を決めなければならないのか?」
ウィルソン防衛省長官は、そんなダグラス副大統領に追い討ちをかけた。
「大統領。考えている余裕はありません。亜空間通信用の小型リレーに載せたセンサーが、太陽系から十数光年の位置で、何者かが接近していると感知しています。ワープすれば、数日以内に来れる距離です。地球防衛艦隊を出すしかありません」
ダグラスは、苦しそうな表情で言った。
「どう考えても、敵に対して艦隊の数が足りんだろう。外交交渉で、何とかする道は無いのか?」
ライアンは、残念そうに首を振った。
勢い込んで、ウィルソン防衛省長官は捲し立てた。
「その為の波動砲搭載型艦船です。新型の拡散波動砲は、一隻で数百隻の艦隊と戦う能力があります。先制攻撃で、我々に手を出すとどうなるかわからせて撤退させるのです!」
「それで? 我々の手の内を全てさらけ出して勝利した後は? 敵は、何十万隻もの艦隊を抱えている可能性があるのではなかったかね? それに打ち勝つことが本当に可能なのかね? どうなんだ?」
その問いに、会議の場は、静まり返った。ウィルソンだけが、それに返答した。
「波動砲搭載艦があれば、ある程度の数であれば持ちこたえられると思います。ボラー連邦と対立しているガルマン帝国が、全軍で地球に攻めてくる可能性は低いでしょう」
それでも、ダグラス副大統領は、一つの懸念を口にした。
「問題はまだある。イスガルマン人の存在だ。もともと、波動砲を先行して開発したのは、イスカンダル人だ。ガルマン人の奴隷のように扱われている彼らが、波動砲を開発させられているとは、思わんのかね?」
勢いよく話していたウィルソンが、押し黙った。そして、苦渋の表情でそれに回答した。
「防衛省でも、その懸念は既に検討しました。確かにその可能性はあります」
「防衛省では、どのぐらいの確率と考えているのかね?」
ウィルソンは、言い難そうにしていた。
「言いたまえ!」
ダグラス副大統領は、会議テーブルを思い切り叩いた。
仕方なく、ウィルソンは、渋々それに答えた。
「およそ、七十パーセント程度と考えています」
ダグラス副大統領は落胆した。
「もし、ガルマン帝国が、波動砲搭載型艦船を抱えているとしたら、戦う前から結果はわかっている。我々の完全な敗北だ……」
ダグラス副大統領は、助けを求めるように、ライアンを見た。
「同盟国のガミラスに、我々を支援するように依頼出来んのか?」
「ガミラス政府とは、現在コンタクトが取れません。大使館も大使が不在で、沈黙を続けています。彼らの事情は、私もよくわかっています。いくら同盟国とは言え、自国のことで手一杯で、こちらに裂く充分な戦力は無いでしょう。それに、ガルマン帝国と対立するような事を構えるつもりは無いでしょう。申し訳ありませんが、今は我々だけで何とかするしか無いと思います。引き続き、コンタクトは続けてみますが……」
ダグラス副大統領は、ライアンに向かってため息をついた。
「こんな時に、ガミラスは何の役にも立たん。波動砲の技術供与をしてやったと言うのに……。引き続きコンタクトは続けてくれ」
ダグラス副大統領は、周囲を見回した。それぞれの省の代表者や、軍の高官らが、各々勝手に議論を始めて、議場はざわざわとしていた。
政府の中枢のこれだけのメンバーが集まって、確実に連邦が有利に事を運べる情報が出てこない。このままでは、せいぜい、全力で戦いに挑んで、勝利の可能性にかける程度の結論しか出せそうもない。ダグラスは、つくづく、大統領職など、有事の際に引き受けるものではない、と後悔の念に襲われた。もはや、一刻の猶予も無く、ここで決断を下さねばならなかった。
ダグラスは、末席に座って発言を控えている一人の東洋人の方を見た。その人物も、静かに自分の方を見ており、目が合った。二人は暫し目を合わせたまま、互いの心中を探ろうとしていた。
そして、ダグラス副大統領は、意を決してその人物に話しかけた。
「……藤堂くん。君の意見を聞かせてくれないか」
会議に極東管区防衛軍代表として参加していた藤堂長官に話がふられた。
「大統領。我々、極東管区は、政府の決定に従うまでです」
ダグラス副大統領は、手を振って言った。
「綺麗事はいい。君らは、ガミラス戦争で我々の地球を救った最後の希望だった。このような時だからこそ、是非、君の意見を聞きたい」
藤堂長官は、ほんの少しだけ思案して言った。
「それでは、失礼を承知で私の意見を述べます。……防衛艦隊を出すべきでしょう。先程の、ガルマン帝国が、波動砲搭載型艦船を持っているかどうか、という点ですが、私が思うに、ガルマン帝国は、とうの昔に、ボラー連邦との戦争に勝利しているでしょう。戦力のバランスは崩れ、圧倒的にガルマン帝国が有利になっているでしょう。ただの推測に過ぎませんが、彼らが波動砲搭載型艦船を持っていない証拠だと考えます。もし仮に、波動砲を使えることが分かったのであれば、その場で降伏するしか無いでしょう。彼らの目的は、我々がボラー連邦と戦える戦力として活用しようというものです。そうであれば、我々が降伏した場合でも、ある程度主権は侵害されるでしょうが、ガミラス戦争の時のように、国民が死に絶える恐怖に怯える必要は無いと思います。ならば、ここは一縷の望みにかけ、彼らを撤退させる戦いに賭けるべきだと、私は思います」
藤堂長官は、強い意思を持って副大統領に具申した。
ダグラス副大統領は、うっすらと笑みを浮かべた。
「ガミラス戦争が始まった時、早々に前線に出た我々米国を始めとした大国は、早い段階で全滅した。後衛にいた君ら日本艦隊が、最終的に人類を救う事になるとは、当時は全く期待していなかったことだ。今日のような絶望的な会議は、本当に久しぶりだ。どうしても、思い出してしまってね。君らに期待してしまうのだよ」
ダグラス副大統領は、寂しそうに遠くを見る目をしている。
藤堂は軽く会釈をした。
「わかりました。ありがとうございます。ならば、この場に、極東艦隊の指揮官の土方を呼んでもいいでしょうか。直接、彼に政府の方針を伝え、士気を上げてやりたい思いますが、よろしいですか? 大統領」
ダグラス副大統領は頷いた。
「人類を救ったキャプテンオキタの盟友だろう? すぐに呼びたまえ」
藤堂長官は、頷いて端末を操作し、極東艦隊と通信回線を開いた。
会議場の大スクリーンに、土方が映し出されいた。
「大統領?」
土方は、少し戸惑っているようだった。
ダグラス副大統領は、椅子に座り直して、小さく咳払いをした。
「これより、地球連邦防衛軍に、防衛出動を命じる。君が、全軍の指揮をとってくれ」
土方は、開いた口をそのままに、暫く黙っていた。
「……お言葉ですが、大統領。北米第七艦隊のスコーク宙将が適任と思いますが」
ダグラス副大統領は、頭を振った。
「君が適任だ。土方宙将、もう一度、人類を救ってもらいたい」
土方は困惑していた。
「大統領。前に人類を救ったのは沖田です。私ではありません」
「君は、沖田がどのような戦術で、ガミラスと渡り合ったかすべて知っている」
「それは……。よく存じております」
「スコークはまだ若い。君が率いて、勝利に導いてくれ」
土方は、これ以上の謙遜は、逆に失礼だと思って、決意した。
「承知しました。では、全軍をガルマン帝国艦隊との決戦に向かわせます」
ダグラス副大統領は頷いた。
「頼んだぞ。今回のガルマン帝国の侵攻は、地球連邦政府として、人類存亡の危機と判断する。ここに、大統領命令を発令する。波動砲使用を含む、全戦力を持ってガルマン帝国を撃退することを指示する。波動砲封印については、人類存亡の危機においては、適用されないという、イスカンダル条約の解釈によって、ここにその使用を許可するものである。全力で戦ってもらって構わない」
「承知しました」
土方は敬礼で応えた。
土方がスクリーンから消えると、ダグラス副大統領は、深く息を吐き出した。
「これでもう、後戻りは出来ん」
藤堂長官は、極東艦隊の面々を思い、胸が痛んだ。土方にも、死地に追いやることになるやも知れぬと、申し訳ない気持ちで一杯になっていた。
中立地帯から戻っていたヤマトは、土方の命により、ガルマン帝国艦隊との決戦に向かう準備を進めていた。
数時間後には、補給を完了して、波動エンジンを搭載した地球連邦防衛艦隊の約三分の二が、出航する予定だった。残された艦隊は、多数の波動エンジン非搭載艦と共に、地球防衛の最終ラインを死守する任に就く。
極東艦隊は、第一から第三艦隊の三つの艦隊として再編されていた。第一艦隊は土方の空母シナノを中心とし、防衛艦隊全体の指揮をとる。土方の艦隊には、波動砲を搭載した主力戦艦が五隻、駆逐艦が二十隻、補給艦と特務艦が十隻といった陣容だった。そして、山南のアンドロメダを旗艦とする第二艦隊、古代のヤマトを旗艦とする第三艦隊がそれぞれ編成され、波動砲を搭載した主力戦艦が四隻づつ、ミサイル巡洋艦が十隻、駆逐艦が二十隻の編成である。
ここに、探査宙域から戻った北米第七艦隊二十五隻が加わり、総数百三十一隻からなる大艦隊であった。
しかし、敵艦隊も百隻以上が接近中との情報があり、予断を許さぬ状況だった。
古代の第三艦隊には、徐々に艦が集結していた。そのうちの一隻から通信が入っていた。
スクリーンに映るその男は、笑顔で話しかけてきた。
「古代、久しぶり」
「島! 来てくれたんだな」
島は、真剣な表情になって、スクリーン越しに敬礼をした。
「艦隊司令就任、おめでとうございます!」
古代は、少し戸惑った。
「よ、よせよ、島」
「異例の大抜擢だろ。さすが我らがヤマト艦長だな」
「……防衛軍は人手不足だからな。お前だって、とうとう艦長じゃないか」
島は、気取って艦長の証である帽子を被り直した。
「どうだ? 似合うだろ?」
古代は、笑顔で応えた。
「ああ。似合ってるぞ」
島は、そこで真面目な表情になった。
「これ以上は、周りに示しがつかないから、普通に話したいところだが……」
「何だ?」
古代は、神妙な顔になった島の顔を覗き込んだ。
「古代、お前、雪さんと今回の件、話したのか?」
古代は、そう言われて困惑していた。
「う、うん」
島は、困ったような表情になった。
「話してないんだろう?」
古代は、口ごもっていた。第一艦橋の乗員の目を気にして、周りを見たが、諦めて言った。
「彼女は妊娠中なんだ。不安にさせたくない」
島は、呆れていた。
「お前なぁ。もしものことがあったら、どうするんだ? 顔ぐらい見せてやれよ」
「どうせ、任務のことは参加できない彼女には話せない」
「それがどうした? お前ら、夫婦だろ? 彼女のことだ。何も心配ないさ」
古代は、完全に島に言い負かされていた。
「……わかったよ」
「それでこそ、古代進。森くんの旦那だ」
古代は、相原や太田に冷やかされながら、第一艦橋を後にして、艦長室に上がっていた。椅子に深く座ると、端末を操作して地球の自宅に連絡した。
しばらくすると、端末の小さなスクリーンに、雪の姿が映った。
「古代くん?」
雪は、結婚してからも、古代くん、と呼ぶのを止めなかった。
「珍しいね。どうしたの、いったい?」
雪は、笑顔で言った。
古代は、少し照れ臭そうに口を開いた。
「久しぶり。どう? 体調の方は?」
雪は、少し首を傾けて考えていた。
「今はつわりも落ち着いてるし、体調はいいかな?」
雪は、少し後ろに下がって、自らのお腹を見えるようにした。
「見て。だいぶお腹大きくなったでしょ?」
古代は、目を細めて、雪の姿を見ていた。
雪は、古代の様子が少しおかしいのに気がついた。
「何かあったみたいね。危険な任務に行くの?」
さすが、ヤマトの船務長だと古代は、思った。そして、さすが僕の妻だと、心の中で感心していた。
「知ってるだろ? 任務のことは、話せないんだ」
雪は、気丈にも明るく振る舞った。
「そっか。そうだよね。じゃぁ……近況を話すね」
雪は最近、加藤一家とよく会っているようだった。加藤の妻の真琴とは、度々買い物に一緒に行ったり、懇意にしているらしい。真琴の息子の翼は、既に五歳の誕生日を迎えていた。夫である加藤は、かなり子煩悩な父親のようだ。
古代は、雪の話に幸せを感じていた。いつの日か、互いの子供と一緒に出掛けたりしてもいい。そんな未来を想像しつつも、古代はこれから行う辛い現実との狭間で、気持ちが苦しくなっていた。
「加藤さんだけど……って旦那さんの方だよ? 先日、招集が来て、宇宙艦隊に呼び戻されたみたい。真琴さん、心配してた。翼くんにも泣かれて困ってるって。何で今日もパパは帰ってこないの? って」
そう言ってから、雪は自ら暗くなる話題をしていたのに気がつき、急に話題を変えて、笑顔になった。
「この間、検診に行ったら、性別がわかるって言われて、聞いちゃったの。女の子だって。それを聞いてから、名前とか勝手に考えちゃった。ごめんね? 美雪っていう名前がいいかな。私よりもずっと綺麗で、心も美しい子になって欲しいなって思って考えたの。どうかな?」
古代は、言葉が詰まっていた。幸せが、手の中からこぼれ落ちて行くような感覚があった。
古代は、笑顔を作って言った。
「ああ、いい名前だと思うよ」
雪は、寂しそうにため息をついた。
「本当、あなたって、嘘をつけないんだから。そこが、いいところでもあるけど」
雪は、不安そうな表情になるのを、懸命に打ち消した。
「防衛軍の義務で、任務に参加していない者に任務のことを明かせないのはわかってる。かなり危険なことをしようとしているってことも、あなたの様子からわかる。でもね、だからこそ、私とこの子の為にも、絶対に無事に帰って来なきゃ、許さないからね?」
古代は、心を簡単に見透かされて、逆に心を落ち着けることが出来た。
「わかってる。必ず無事に帰るよ。きっと、そんなに長くはかからない。終わったら、休暇を取るから、それまで、大人しく待っててくれ。その……美雪のこと、頼んだよ」
雪は、最後に笑顔を見せた。
「必ず、勝ってね」
そう言い残して、通信が向こうから切れた。
何も映っていない、端末のスクリーンを、古代は、暫く見つめていた。
「勝ってね、か。本当に、何でもお見通しだな」
古代は、艦長室の窓の外を眺めた。百隻以上の艦隊が集結する様は、頼もしい限りだった。ガミラスとの戦争の時とはまるで違う、波動エンジンを搭載した強力な艦隊が、そこにはあった。
「勝つさ、必ず。皆んなの為にも、絶対に負けるわけにはいかない」
古代は、決意を新たにして、第一艦橋に降りるため、立ち上がった。
だが、この戦いに勝ったとしても、これから待っているのは、長く続く全面戦争かも知れない。果たして、たったこれだけの戦力で、強大なガルマン帝国を相手に、地球を守り抜くことが本当に可能なのだろうか? 古代は、不安を打ち消しながら、第一艦橋へ向かった。
最終防衛ラインと決まった火星軌道では、一部の波動砲搭載型艦船を中心として、八十隻程の艦隊が、土方たちの太陽系防衛艦隊が旅立って行くのを見守っていた。
極東艦隊以外にも、北米艦隊や、欧州連合艦隊、中国、ロシア艦隊などから、波動エンジン搭載艦が、五十隻以上集結していた。それ以外に、波動エンジン非搭載艦が三十隻以上おり、総数八十隻を越える艦隊だった。太陽系外に旅立つ土方の艦隊にもしものことがあった場合の最後の砦だった。この最終防衛艦隊は、北米第五艦隊が中心となり、束ねることになっていた。
艦隊の中核を成す主力戦艦ナガトも、太陽系に残る艦船だった。艦長大村は、去っていく土方や山南、そして古代を思い、黙って不動の姿勢で敬礼を続けていた。
また、別の主力戦艦の艦長に就任した山崎も、最終防衛艦隊の一員として、見送っていた。
「古代。頑張れよ」
山崎は、艦長席で古代や徳川太助などのヤマトの乗員それぞれに思いを馳せ、腕を組んでスクリーンに映る艦隊の後ろ姿を見守った。
やがて、土方の艦隊は一斉にワープして、火星宙域から去っていった。
太陽系内外に点々と敷設された亜空間通信リレーに内蔵されたセンサーは、ガルマン帝国艦隊と思われる物体の移動を感知していた。
刻々と太陽系方面に迫ってくるその物体の予想到達地点を割り出し、土方率いる太陽系防衛艦隊は、予定した目標宙域を目指して航行を続けた。移動する物体との邂逅地点まで、約一日程度の距離である。
土方は、空母シナノの戦闘指揮所で、各艦隊の指揮官と予め決めた作戦の確認を行っていた。
戦闘指揮所のスクリーンには、第二艦隊の山南、第三艦隊の古代、そして北米第七艦隊のスコークが一画面に分割して映っていた。
土方は、別の画面に星図を表示して、各艦隊の指揮官と会話していた。
「古代。まず、邂逅予想宙域には君の第三艦隊に向かってもらう。少し距離を置いて、偵察隊を出して敵艦隊の陣形を確認してくれ。スコーク宙将が確認した百隻以上の艦隊が固まってやってくるのか否かによって、その後のどの作戦プランを選択するかを決定する」
土方は、山南とスコークの顔を見つつ言った。
「艦隊が別れてやって来ていることが判明すれば、君らには、それぞれ個別に対処してもらうことになる」
スコークは、土方を真剣な表情で見つめていた。
「アドミラル・ヒジカタ。先日の初の交戦時の印象では、彼らの戦術は、数による力押しではないかと推測している。我々を舐めているに違いない。私は全艦で固まって来ると思うよ」
山南は、土方にいつもの調子で話しかけた。
「土方総司令。奴らが固まって来たらどうします? いきなり波動砲をぶっぱなしますか?」
土方は、憮然とした顔をした。
「山南。何度も同じ事を言わせるな。波動砲は、最後の武器だ」
山南はにっこりと笑って頷いた。
「気が変わってなくて、安心しました。ヤマトですら、人に向けて初めて撃ったのは、あの白色彗星に対してだけです。それが最初で最後ですからね」
古代は、恐縮していた。
「あの時は、ガミラスとイスカンダルが全滅する瀬戸際でしたから。使うしかありませんでした」
土方は、古代に目線を向けた。
「古代、今のお前の話は、非常に重要な教訓だ。今回の戦いは、ヤマトのイスカンダルへの旅とは大きく異なっている。沖田もいつもと全く違う戦術を取っていることが、艦長日誌などの記録からわかっている。必要であれば、最小限の戦闘は行うが、そうでなければ、逃げる戦法だった。例えば、多数の艦隊に囲まれた場合などが顕著だ。波動防壁を活用して、最短距離で正面突破して逃げる戦い方が多かったはずだ。それに対して本土防衛というのは、負けることが出来ない戦いだ。そこに留まって、可能な限り死守しなければならない。俺は、そうなれば、躊躇なく波動砲を使う。そうしなければ、人類が滅亡するやも知れないからだ」
土方は、各人に話が浸透するのを待ってから、続きを話し始めた。
「ガルマン帝国艦隊が、本当に百隻程度の艦隊だけか、というのは甚だ疑問だ。彼らの国力から推測すればガミラス並の数十万隻の艦隊を抱えているはずだ。我々の星系に侵攻するにしては、数が少なすぎる。俺は、このことに疑いを持っている。もし、数の上で圧倒的に不利だと判明した場合、アンドロメダと主力戦艦の拡散波動砲を、躊躇なく使うことになるだろう。各自覚悟を決めておいてくれ」
「はっ!」
土方は、立ち上がって、戦闘指揮所の狭い場所を歩き回り出した。
「そうならなければ、最初は、予定通り通常兵器で戦うことになる。各自航空戦力は有効に活用してくれ。第一艦隊の我が艦、シナノには、北米艦隊からライセンス供与された新型攻撃機、コスモイーグルが搭載されている。ガミラスの重爆撃機に着想を得て開発された機体だ。大型の対艦ミサイル二基を積んだ対艦船用の攻撃機だ。これを使いこなすために、本土防衛軍の加藤を呼び戻した。今頃、機体の整備に忙しくしていることだろう」
古代は、加藤が呼ばれた理由を理解した。新型戦闘機の扱いでは、彼より上手く出来る者はいないだろう。
「我が北米艦隊の空母はまだ開発中だ。我々としては、アドミラル・ヒジカタが新鋭攻撃機イーグルを有効活用してくれるのを望んでいる」
スコークは、にやりと笑ってウインクした。
土方も、重々しく頷いて応えた。
「最後に、これまでの情報から、相手の艦隊の乗員のほとんどが、イスガルマン人である可能性は高い。彼らの論理からすれば、例え敗北しても、艦隊司令クラスを数名失う程度の感覚かも知れない。奴隷のように扱われているという彼らの人命を奪うことになるかもしれんが、我々も敗北は許されないのだ。君らもいろいろ思うところはあるだろうが、俺の指示に従ってくれ。そして、何とかこの難局を乗り切ろう。諸君、私からは以上だ」
空母シナノの格納庫では、その加藤がまさに機体整備を行っていた。
「ねぇ、隊長!」
加藤は、機体の下の方から、聞き覚えのある声がしたので、後ろを振り返った。その加藤の顔は、機体の油で黒く汚れていた。
「何だ山本か。どうした?」
山本は、機体の側面をぽんぽんと叩いた。
「こいつってどうなの? 北米艦隊で設計した機体なんでしょ? 使えるの?」
加藤は、機体にかけていたタラップを降りてきて言った。
「少なくとも、コスモファルコン並の性能はある。何度か訓練で飛ばしてみたが、悪くないぜ」
「でも、あれでしょ? 対艦ミサイルを積むと、遅くなるって聞いた」
「ミサイルの動力源が発する重力のせいらしい。敵に追いかけ回されないように、お前ら戦闘機隊が守ってくれるんだろ?」
山本は、少し笑って自分の胸の辺りを叩いた。
「任せて。隊長のお守りはちゃんとするから」
加藤も、にやりと笑った。
「頼んだぞ。でも、その、隊長はやめてくれ。お前は、第一戦闘機隊の隊長、俺は、第一攻撃機隊の隊長だ。立場は対等だからな」
「わかってるって!」
山本は、加藤に拳を突き出した。その拳に、加藤も拳で応えた。
山本は、どこか楽しげに去っていった。
「これから、地球を死守する戦いだってのに。それにしても、何であいつは、ヤマトを降りたんだか……」
続く…
注)pixivとハーメルン、及びブログにて同一作品を公開しています。
注)但し、以前pixivに連載した小説の加筆修正版です。以前のpixiv連載版とは、一部内容が異なります。
注)ヤマト2202の登場人物は、役割を変更して登場しています。