邂逅予想宙域付近に到達したヤマトは、偵察機を飛ばしていた。この宙域は、近傍の星系の周囲に漂う小惑星帯があり、艦隊を隠すには絶好の場所だった。
航空隊は、篠原と揚羽のコスモタイガー二機が発艦して、小惑星を迂回しながら目標宙域に接近していた。
「ナビ子ちゃん、長距離レーダーに切り替えてくれる?」
「承知しました。長距離レーダーの探知範囲内に敵影はありません」
「この邂逅予想座標、間違ってたりしませんかね?」
揚羽は、不安げな声で、通信機で篠原に尋ねた。
「宇宙は広いからねぇ。外れてたら、俺たちを通り過ぎちゃうかもしれないな」
篠原は、わざとのんびりした口調で言った。揚羽は、必要以上に緊張しているようだったからだ。
「もし、敵影を捉えたら、通信は禁止だからな。今のうちに、言いたいことがあれば言っておきな」
「だ、大丈夫です」
「じゃあ、この辺りを周回して、暫く様子見だな」
二機のコスモタイガーは、旋回しながら、ゆっくりと飛行していた。
ヤマトの第二艦橋の戦闘指揮所では、新米が亜空間通信リレーのセンサーのデータを注意深く見守っていた。
「反応がありません。最後に反応があったのは、かなり遠い宙域です」
新米は、古代の方をちらっと振り返って言った。
「わかった。注意を怠るな」
西条未来も、レーダーを注視していた。
「長距離レーダーにも反応ありません」
古代は、西条の方を見て頷いた。
「ありがとう。そのまま、注意を続けてくれ」
そう言いつつ、古代も本当にここに現れるか、疑問を持っていた。
緊張感が張りつめた第二艦橋で、太田は、北野にいつもの惚けた調子で軽口をきいていた。
「緊張したらトイレ行きたくなっちゃった」
「何言ってんですか。もうダメですよ」
「夏樹ちゃん、ちょっと操縦代わってもらってもいい?」
太田は、気象長席の大島夏樹も巻き込んだ。
「だ、ダメに決まってるじゃないですか!」
「わかったよ。じゃぁ、北野は確か航海科も担当したことあったよな。お前に任せるから」
「だから、ダメですってば」
「代わりに土門が、戦術長やればいいじゃん」
土門は、急に話をふられて、一瞬自分のことだとわからなかった。
「お、俺ですか? い、いや。新米の俺じゃぁ」
「大丈夫だって。あそこにいる古代さんだって、最初は新米で戦術長だったんだぞ」
古代は、自分にまで話をふられるとは思っていなかった。太田のお陰で、皆の緊張が解れたので、にこやかに言った。
「太田。トイレに行きたければ行っていいぞ。僕が操縦を代わるから」
「あー、何かおさまったみたいです」
第二艦橋の乗員に笑顔が溢れた。
古代は、思っていた。これでいい。これから、本当の意味で、気の抜けない時がやって来るのだから。古代は、ムードメーカーの役割を果たしてくれた太田に感謝した。
ヤマト率いる第三艦隊三十五隻の各艦が、今か今かとガルマン帝国艦隊の発見の報を待ってじりじりとしていた。
島が艦長を務める主力戦艦コンゴウでも、それは同様だった。島は、艦内通信のマイクを掴んで、全艦に連絡した。
「皆、聞いてくれ。こういう時こそ、リラックスが大事だぞ。落ち着いて対処すれば、訓練通りやれるからな。主計科は、炊き出しをやって乗員に握り飯、それとお茶の配布を頼む。腹が減っては、戦は出来ぬと昔から言うだろ? いいか、落ち着けよ。艦長から以上」
島は、艦橋の乗員にも声をかけた。
「大丈夫かー? 皆!」
艦橋の乗員が、皆、島の方を向いた。人手不足の防衛軍の乗員は、島よりも年下の若者ばかりだった。乗員は新人も多い。皆不安げな表情をしている。無理もない。この数年の間で、実戦を経験した者などガミラス戦争以前から軍にいる者しかいないのだから。軍は明らかに人手不足だった。
それでも、このコンゴウの艦長に就任した島は、多くの乗員に慕われていた。ヤマトの航海長だった経験を、皆が期待しているのだ。
「心配するな。必ず、俺が無事に家に返してやるさ」
島は、にっこりと笑った。自身の内心の不安など、おくびにも出せず、ストレスは最高潮に達していた。それを、決して悟られないように、彼は明るく振る舞った。
「警告。長距離レーダーに反応がありました」
「揚羽、電波管制、パッシブレーダーに切り替える」
「了解!」
篠原は、すぐに通信機を切った。
「よーし。じゃぁ行くかね」
篠原は、風防越しに、手振りで揚羽に合図した。
「ちゃんとついてこいよ」
篠原と揚羽は、エンジン出力を抑えて機体をステルスモードに移行させた。可能な限り接近出来るようにするためだ。
パッシブレーダーが、敵の電波を捉えて、敵影がレーダーに映っていた。レーダーに映る光点は、徐々に数を増して行った。
揚羽の機体でも、その様子を確認していた。
「ワープで出現しているのか?」
揚羽の心臓は、激しく高鳴り始めていた。
「艦長、偵察中の篠原からの合図で、敵艦隊出現の報がありました。既に電波管制中のため、連絡は取れません」
古代は、ついに来たか、と内心の緊張が高まっていた。
「相原、第三艦隊全艦に通達。戦闘配置に移行」
「はい。全艦に通達しておきます」
「新米、イージスシステムの全艦とのリンク確立を確認」
「問題ありません。リンク確立正常です」
古代は、静かに頷いた。
北米管区で開発されて、北米第七艦隊に最初に配備された宇宙戦闘用のイージスシステムは、艦隊戦闘における運用の要だった。このシステムを使用することで、敵からの攻撃による多数の目標に対して、全自動で迎撃を行うことが出来る。現状では、波動砲搭載型艦船にしか波動防壁が搭載されておらず、艦隊の防衛はこのシステムの運用に全てがかかっていた。単艦での戦いには慣れた古代らヤマト乗員も、艦隊戦は、今回が初めての経験だった。
「太田。ここからは、おふざけは無しだ」
太田は、古代を振り返って、声のトーンを落とした。
「……わかってますって」
ガルマン帝国艦隊は、地球連邦の太陽系防衛艦隊が予想した宙域に概ね正確に現れていた。そこには、続々とワープアウトした艦船が通常空間に現れていた。そこには、北米第七艦隊が目撃した、百隻以上の艦隊が出現していた。
ガルマン帝国西部方面軍第十五艦隊と第十三艦隊の司令官キールの座乗する大型空母もワープアウトし、その姿を現していた。
「ワープ終了」
報告を受けたキール司令は、頷いた。
「全艦に通達! 我々は、一時ここに留まり、地球連邦侵攻に向けた最後の確認を行う。艦隊各艦の艦長は、作戦会議に出席してくれ。以上だ」
ガルマン帝国艦隊の大型空母の作戦司令室では、第十五艦隊のキール司令を始めとした各艦の艦長らと、第十三艦隊の指揮官を始めとした、各艦の艦長が通信で会議に出席していた。
「諸君。いよいよ、地球連邦侵攻作戦を開始する。地球連邦は、既に恒星間航行可能な技術を独自に持ち、急速に勢力を拡大しようとしている。現段階では、我がガルマン帝国軍の敵ではないが、彼らを帝国の一部にすることが出来たなら、強力な戦力として、大いに役立ってくれることであろう。ガルマン帝国西部方面軍司令部では、地球連邦を植民地化するため、作戦プランを変更して、今回の侵攻を決定した。まずは、地球連邦防衛艦隊を撃滅し、敵の戦意を喪失させる。しかる後に母星である地球を占領して、植民地化を完了させる。彼らの持つあらゆる施設や資源は、植民地化した後、有効に活用するため、攻撃目標にはしない。我々が対処するのは、反抗するであろう敵艦隊だけだ」
第十三艦隊の指揮官であるヤビルシアが発言した。
「キール司令。今回は君に全艦隊の指揮を任せることになっている。地球連邦の同盟国ガミラスがどう出てくるかによって、作戦の変更がある認識だ。その点について事前に確認しておきたい」
キール司令は、ヤビルシアに対して少しだけ偉そうな態度をとっていた。
「もちろんだ、ヤビルシアくん」
キール司令は、そこで少し思案してから発言を続けた。
「ガミラスが地球連邦の防衛に参加している場合でも、いない場合でも、基本的には侵攻作戦は継続する。作戦変更を行う可能性があるのは、ガミラスが本気で我が帝国に対して、戦争を仕掛けてくる疑いを確認出来た場合だ。これは、ガミラス軍が一定規模の艦隊を派遣してきた場合に判断する」
「一定規模とは?」
「明確に数字を言うなら千隻規模の艦隊が現れた場合だ。西部方面軍司令部では、それはあり得ないと分析しているがね」
ヤビルシアは、まだ疑問があった。
「キール司令。後は、たったこれだけの艦隊で、地球連邦を相手にするのかね? いささか、規模が小さ過ぎるようだが」
キール司令も、その点には不満を持っていた。
「確かに。西部方面軍司令部は、ぽっと出の地球連邦侵攻はこれで充分と考えているようだ。一応、援軍の依頼はしているが。先日初めての交戦した限りでは、奴らは侮れんということがわかっている。だが、今回は切り札を大勢乗せて来ている。彼らを活用すれば、この規模でも充分に戦える」
「なるほど。イスガルマン人のあれを使うのか。全く、本当に役立ってくれるな」
「ボラーとの戦争で戦力を裂けない我々にとっては、大いに便利なものだ。対抗策をとられないうちに、初戦で一気に叩くのがセオリーだ」
「ま、納得したよ」
ガルマン帝国艦隊が作戦会議を行っている最中、篠原と揚羽の偵察機は、長距離レーダーの探知圏内に侵入していた。
「どうやら、ばれていないようだ。篠原さん、何処まで接近するつもりなんだ?」
揚羽は、横を飛ぶ篠原の機体を横目で眺めた。
敵艦隊に接近すればするほど、発見される可能性が高い。
篠原は、レーダーに映るガルマン帝国艦隊の光点を見ながら、周囲を旋回するように迂回し始めた。周囲を全周して、艦隊がここにいる全てかを見極めようとしていたのだ。
「揚羽の奴、だいぶ緊張してたけど、大丈夫かね。この程度、前にバラン星の偵察をした時に比べたら、軽いもんなんだが」
二機は速度を落としたまま、周回を続けた。
古代は、土方らに通信で連絡して、ガルマン帝国艦隊出現の報を伝えていた。
「偵察隊が戻れば、敵の全容が判明しますが、今は電波管制中で連絡が取れません」
第二艦橋のスクリーンに映る土方が頷いていた。
「問題ない。全艦隊に発令。全艦、戦闘配置に移行せよ」
「了解しました」
山南は、にやりと笑って返事をした。
「了解」
スコーク宙将も、真剣な表情で応えた。
そうしているうちに、ようやく篠原と揚羽が戻ってきた。
「電波管制を解除。敵さんは、百十二隻発見。固まって一ヶ所で停船してるぜ」
相原は、篠原の通信を受け取った。
「艦長、敵百十二隻発見。一ヶ所に集結して停船しているそうです」
古代は、頷いた。
「わかった。土方総司令に連絡を入れてくれ。作戦オプション選択の連絡を待って、作戦開始だ」
「了解!」
相原は、通信機を操作して、空母シナノを呼び出した。
続く……
注)pixivとハーメルン、及びブログにて同一作品を公開しています。
注)但し、以前pixivに連載した小説の加筆修正版です。以前のpixiv連載版とは、一部内容が異なります。
注)ヤマト2202の登場人物は、役割を変更して登場しています。