キール司令の空母のレーダー手が、新たな発見をした為、急いで報告した。
「司令! レーダーに反応、周囲に新たな艦隊がワープアウトして来ます! ……総数、約五千隻!」
キールは驚いて作戦司令室のスクリーンを凝視した。スクリーンに映るレーダーの表示は無数の光点で自軍の艦隊が囲まれていた。
「艦種識別。これは……ガミラス艦隊です!」
キール司令は真っ青になった。
「ま、まさか……。地球連邦の応援に来たというのか……」
キール司令は、ミサイルの発射カウントダウンが行われているのを思い出し、慌てて指示を叫んだ。
「至急、プロトンミサイルの発射を中止しろ!」
地球連邦の艦隊でも、同じ状況を把握していた。
土方は、驚きつつも、急いで指示を出した。
「全艦隊に告ぐ、波動砲の発射を中断しろ!」
連絡を受けた山南は、慌てて全艦に命令した。
「第二艦隊全艦に通達! 波動砲発射中断!」
「は、はい」
南部も波動砲の発射装置のトリガーに置いた指を外して、耐閃光鏡を外した。
「発射一秒前だぞ、危ない所だった」
南部の手は震えていた。
山南も、大きく息を吐き出した。
「ぎりぎりじゃないか。橋本、艦種識別!」
レーダー手の橋本が回答した。
「あれは……! ガミラス艦隊です」
山南は、一瞬信じられない、といった表情になった。
「同盟軍の援軍……ってことか。来てくれるなら、早く教えて欲しかったな……」
山南は、ほっと息を吐き出して、帽子を取って額の冷や汗を拭った。
真田は、艦橋内の安堵の空気を尻目に、センサーの表示を確認していた。
「山南艦長。センサーの表示によれば、あれはガミラス正規軍では無いかも知れません」
山南は、驚いて真田の方を見た。
「どういうことだ?」
真田は、幾つかの艦船の艦種に注目していた。
「敵味方識別装置は、敵と判断しています。それに、ガミラス軍で既に廃止された親衛隊の艦船がかなりの数混じっています」
「な、何だって?」
そんな中、通信長の佐藤が報告してきた。
「ガミラス軍と思われる艦隊から、周囲に映像通信が送信されています!」
「繋いでくれ!」
キール司令の空母でも、通信を受領していた。
「受信しろ!」
作戦司令室のスクリーンに、映像が映った。
そこには、ガミラス将校の制服を着た中年の男が映っていた。彼は、狡猾な笑みを浮かべながら、手に持つ鞭を片方の手に打ちながら口を開いた。
「ガミラス回遊艦隊司令のグレムト・ゲール少将である。貴様らに速やかな戦闘中止を勧告する」
キール司令は、真っ青になって相手を見つめた。
「お、お前は……」
ゲールは、にやりと笑った。
「ほう、お前、見覚えがあるぞ。私が、銀河方面軍司令長官をやっている時に、会ったことがあるな。前は、沸湯を飲まされたが、今回はそうはいかんぞ」
ゲールは、高笑いを始めた。
同じ通信を受領していたヤマトでも、ゲールの出現に驚いていた。
古代は、考えを急いで巡らせていた。
「彼がいるということは、この艦隊は……」
西条未来が、新たな艦船の出現を報告した。
「艦長! 次元の揺らぎを探知! 次元潜航艦です!」
古代は、その報告で確信した。
「間違いない。このガミラス艦隊は、デスラー総統の艦隊だ!」
ゲールの乗るガイデロール級航宙戦艦ゲルガメッシュでも、次元潜航艦浮上を確認していた。
「来たな。皆の者、我らが聖なる女王のお言葉がある! しかと、心して聞くのだ!」
ゲールは、そう言って映像通信を終了した。
そのすぐ後に、そこにいた全艦隊へ、新たな映像通信が送られた。そして、それを受信した艦船のスクリーンに映ったのは、一人の女性の姿だった。
「ガルマン帝国の皆さん、そして、地球連邦の皆さん。私は、イスカンダルのスターシャ」
スターシャは、イスカンダルの女王の衣装を纏い、威厳に満ちた表情で、堂々たる態度で現れた。
土方は、立ち上がってスクリーンに映るスターシャの姿を眺めた。
「これは一体……」
あらゆる想定をして臨んだこの会戦で、それを超える人物が現れたことに、土方も驚きを隠せなかった。
ヤマトでも、古代は、眩しいものを見るように、目を細めた。
「スターシャさん……」
キール司令は、映像の女性を呆気に取られて眺めていた。
「……あの女は何者だ?」
彼には、首を傾げてこの初対面の女性の姿を見た。確かに威厳のある美しい女性だったが、それが意味するものが、彼には理解出来なかった。
しかし、作戦司令室にいた、一部のイスガルマン人の乗員たちが、色めき立っていた。彼らは、自分の隣にいた同胞とひそひそと会話しており、何度もスクリーンの方を凝視していた。
そのうちの一人がひそひそと呟く声をキールは聞いてしまった。
「教会のマザー・シャルバートの像に似ていないか?」
キール司令は、その像のことは知っていた。信仰を禁止しても、彼らは地下に潜って教会を新たに作り、何度も、政府が教会を取り潰していたのだ。教会から押収したマザー・シャルバートの像については、彼も覚えがあった。それを思い出しながら、スクリーンに映る女を再び眺めた。
なるほど……。
確かに似ている気がする、とキールは思っていた。
スターシャは、再び話を続けていた。
「ここにいるガミラス艦隊のゲール少将を始めとしたガミラス人と、私たちイスカンダル人の故郷は、双子星。あなた方が、かつて、千年前に私たちの星から旅立って、この天の川銀河に居城を築いた同胞であることも知っています」
キール司令は、伝説が真実だったことに少しだけ反応したが、対して興味を示さなかった。
「……それが、どうかしたかね? それが真実だとしても、君たちと我々は、既に別の民族だ。千年という時間は、非常に長い。もはや君たちとは、何の関係も無い。ここを立ち去って貰いたい」
スクリーンに映るスターシャの表情は、不快感を隠そうともしていなかった。
「いいえ」
スターシャの鋭い視線が、射殺すようにキール司令に突き刺さった。彼は、その視線に少したじろいだ。
「ガルマン帝国の皆さん。私たちは、あなた方が、帝国内で圧政を強い、多くのほし星を従えているのを知っています。かつて、私たちや、ガミラス政府も同じことをしていました。しかし、私たちは変わったのです。イスカンダルは、千年前にそのような帝国主義は捨てました。ガミラスも同様です。現在、新たなガミラス政府は、帝国主義を捨て、民主化を推進しています」
スターシャは、そこでひと呼吸置き、息を吸い込んで強い口調で言った。
「私は、あなた方ガルマン人が、イスカンダル人の末裔であり、私たちの同胞であるイスガルマン人を奴隷のように扱っていると知りました。私は、そのことに強い憤りを感じています。そして、私たちは、イスガルマン人だけで無く、あなた方が圧政を強いて支配する全てのガルマン帝国のほし星に住む人々の解放と、救済に立ち上がることを、決意しました」
スターシャは、ほんの少し、優しい目をして言った。
「ガルマン帝国艦隊に所属する、イスガルマン人と、彼らに支配されたほし星に住む皆さん。私たちは、あなた方の味方です。どうか、今こそ立ち上がって下さい。自らの幸せは、自分自身で勝ち取るしかありません。私たちが協力します。共にこの理不尽な仕打ちに立ち向かい、自分たちがここで自由に生きる権利を取り戻すのです!」
キール司令は、スターシャに不快感をあらわにした。
「ふざけたことを。皆、我々に忠誠を誓っている者ばかりだ。貴様らの言うことに、耳を貸す者などいない!」
しかし、キール司令のいる作戦司令室にいたイスガルマン人の乗員は、スターシャの映るスクリーンに、魅入られたように集まって来ていた。
「何をやっておるか、貴様ら。持ち場に戻れ!」
キール司令の一言で、作戦司令室のガルマン人士官が、集まって来て、イスガルマン人の体を無理やり、持ち場に帰らせようとしていた。そのうちに、イスガルマン人の一人が、叫んだ。
「マザーだ! マザー・シャルバート様が遂に来てくれたんだ!」
他のイスガルマン人が、続けて叫んだ。
「そうだ! 彼女こそ、マザー・シャルバート様だ! 伝説は、本当だったんだ!」
ガルマン人士官は、一層強くイスガルマン人の乗員たちをスクリーンの後ろに下がらせようとしていたが、その彼らの手を振り解き、激しく抵抗し始めていた。
スクリーンには、スターシャの横に、別の男性が現れていた。
「まったく。彼女をこんなに怒らせるとは、命知らずにも程がある。私も、全面的に彼女に協力するつもりだよ」
スターシャの横に並んで、デスラー総統が余裕の笑みを浮かべていた。
「諸君、母なるガミラスの総統だった私が、君たち全員を救うと約束しよう」
そこで、デスラーは、胸に手をあて、横にいるスターシャに少し頭を下げた。スターシャは、そのデスラーに微笑みかけていた。
キール司令は、怒り心頭に達して、叫んだ。
「全艦隊に通達! ガミラス艦隊に攻撃する!」
その指示で、ガルマン人士官らが、艦隊全体に攻撃命令を伝えるが、艦隊は動けなかった。何故なら、士官らこそ、ガルマン人で占められていたが、実際に艦隊を動かすイスガルマン人や、他の星系の兵士らが、動こうとしなかったからだ。
「貴様ら、故郷で人質にしている家族がどうなってもいいのか!」
ガルマン人士官らがそのことを伝えると、イスガルマン人らの乗員たちは一瞬怯んだが、多くの者がそれにすら動じなかった。そのうちに、誰かが叫んだ。
「今、やらなければ、未来永劫、何も変わらない。今こそ、立ち上がる時だ!」
その言葉に多くの乗員が突き動かされ、ガルマン人士官らに襲いかかった。
「奴らを追い出せ! 俺たちの人生を取り戻すんだ!」
「俺たちには、マザー・シャルバート様がついているぞ!」
ガルマン帝国艦隊の全艦船で、同様のことが一斉に起こった。
こうして、いつしか艦隊全てのガルマン人士官らは拘束され、艦隊は、多くのイスガルマン人と、残りの他の星系の人々が支配するに至っていた。
次元潜航艦に座乗していたデスラー総統は、少し拍子抜けしていた。
「おやおや。一戦交える気で来ていたのだが、どうやら、君の言葉だけで戦いが終わってしまったようだね」
スターシャは、くすりと笑っていた。
「アベルト、それは無理でしたでしょう? 五千隻もの艦隊など、ここにはいないのですから」
次元潜航艇の艦橋では、敵艦隊が映るレーダーの光点が、急速に消滅していき、元の百隻強の数に戻っていた。
「偽物の艦隊か……。奴らも、我々と同じか」
フラーケンは、デスラー総統にそのことを報告した。デスラーは、その報告にやや眉をひそめていた。
「くだらんね。いいだろう。こちらも、無益な戦闘は避けたかったところだ」
スターシャは、デスラーに笑いかけながら言った。
「アベルト。地球連邦の皆さんにも、ご挨拶しておきましょうか」
「そうだね。彼らも、驚いていることだろう」
デスラーもまた、スターシャに笑顔を向けていた。
続く…
注)pixivとハーメルン、及びブログにて同一作品を公開しています。
注)但し、以前pixivに連載した小説の加筆修正版です。以前のpixiv連載版とは、一部内容が異なります。
注)ヤマト2202の登場人物は、役割を変更して登場しています。