ガミラス旧銀河方面軍基地――。
デスラー率いるガミラス回遊艦隊のスターシャの招待により、地球連邦の太陽系防衛艦隊からヤマトが単艦で、ガミラス旧銀河方面軍基地を訪れることになった。
ヤマトの任務は、スターシャやデスラーらの活動の真意の確認だった。艦隊総司令の土方は、この件についての全権を古代に委ねることにし、艦隊を太陽系へと引き上げることを決めた。
こうして、太陽系防衛艦隊は、地球への帰還の途に着いた。
ガルマン帝国艦隊西部方面軍との艦隊決戦は、スターシャとデスラーの介入によって、イスガルマン人らの反乱が発生したことで唐突に終結していた。双方の大量破壊兵器による殲滅戦がぎりぎりで回避され、一時的にもガルマン帝国との全面戦争の始まりは、寸前の所で回避された形となった。
あの直後、イスガルマン人らが占拠したガルマン帝国西部方面軍の艦隊は、ガルマン帝国領内に引き返していった。彼らは、ガルマン人らの乗員をガルマン帝国軍に引き渡すことを条件に、人質となっている家族の解放交渉に利用することになる。また、地球連邦の同盟国であるガミラスが、本気で対抗してくる可能性を喧伝することになるだろう。この情報で、地球連邦への侵略が困難であるとガルマン帝国が認識すれば、これが抑止力となって、暫くの間は帝国が侵略してくることも無くなると予想される。
そして、イスガルマン人を始めとした圧政に苦しむ人々には、マザー・シャルバート実在の報が伝えられ、各地で反乱が起こる事が予想される。スターシャとデスラーは、彼らが必要とする支援を行い、これから本格的にガルマン帝国の解放に乗り出すことになるだろう。
ガミラス旧銀河方面軍基地は、ガルマン帝国とボラー連邦の中立地帯のサイラム星系の近傍にある、アケーリアス文明の遺産である銀河系のゲートを挟み、その反対側の宙域に存在した。
かつてのガミラス帝国の銀河系侵略の拠点として、大規模な艦隊や乗員を受け入れることが可能な大型の宇宙基地だった。既に、現在のガミラス軍は、銀河系から撤退している為、この宇宙基地は、遺棄された形になっていた。
ヤマトや、デスラーの艦隊は、基地に接舷して、基地内部で会談することになっていた。
古代は、数名の保安部員と、桐生美影と揚羽を伴って基地に降り立っていた。艦船用のゲートでは、ガミラス人の士官が迎えに来て、その内部へと案内された。
艦船用のゲートの通路を抜けると、内部は複数の階層がある、非常に巨大な施設だということがわかった。吹き抜けとなっている円形の中央広場で、古代らは、天井まで、五階層はあるだろうという内部を興味深く見上げていた。
「凄い基地ですね」
揚羽が感嘆の声を上げた。
「揚羽くん、ほらあそこ、なんかお店もあるよ」
桐生美影も、興味津々であちらこちらを眺めては指を指していた。
古代も、これには驚いていたが、そもそも遺棄されたと聞いていたこの基地に、生活感が溢れているのが意外だった。
彼らを興味深く見つめるのは、通りかかるガミラス人たちも同様なようだった。中には、ガミラス人でもない、見たことも無い種族もちらほらと歩いていた。
そこに、中央広場の反対側から、見覚えのある人物が古代らの元にやって来た。
「あれは、デスラー大使じゃないか」
古代は、桐生美影と揚羽にも、声を掛けた。
「ガゼル司令と、それにルカさんも一緒だね」
桐生美影は、揚羽に嬉しそうに話し掛けた。揚羽は、ルカの姿を認めると、安心したように口元を緩めた。
ランハルトらは、古代たちの目の前まで来ると、右手を上げてガミラス式の挨拶をしてきた。
「どうやら、無事だったようだな」
「大使たちは、あれからずっとここに?」
ランハルトは、頷いた。
「この基地の設備を利用して、本国と連絡をとろうとしていたんだ。だが、遺棄されたはずのこの基地が稼働していることに俺たちも驚かされた」
すると、別の艦船ゲートから、デスラー総統が、スターシャとヴェルテ・タラン、そして何故かランハルトの秘書ケールを伴ってやって来た。
「ヤマトの諸君。久しぶりだね。最後にイスカンダル星で会って以来だ。あれから、どのぐらいたったかね?」
タランが口を開いた。
「総統。約三年ぶりです」
古代は、若干緊張の面持ちで彼らに話し掛けた。
「デスラー総統。そして、スターシャさんも。大変ご無沙汰しております」
スターシャも、久しぶりの再会となった古代に微笑を浮かべていた。
「久しぶりですね。古代さん」
デスラー総統は、手を差し伸べて、自ら案内を始めた。
「諸君、案内しよう。ここは、今や、勝手知ったる我が家として使わせてもらっているからね」
一同は、少し大きめな会議室に通された。
スターシャとデスラー総統が、遅れてやって来るとのことだったので、その間ランハルトらと古代らは、情報交換を行っていた。
古代は、ケールの話を聞いて驚いていた。
「君が、ガルマン帝国の住民?」
ランハルトが、割り込んで言った。
「俺も、ここに来てから本人が言うまで、知らなかったことだ。お前が本当は、ガルマン帝国からやって来たと聞いた時は驚かされたぞ」
ケールは、苦笑いした。
「ガルマン人は、無理やりイスガルマン人に子供を産ませています。僕もそうやって生まれた一人です。運良く、僕はアマールを訪れたガミラス艦に密航して脱出することが出来ました。ちょうど、ガミラス軍は、銀河系から撤退するところだったみたいで、僕は運がよかったんです」
「お前の心を読んだり、幻覚を見せたりする力は、ハーフなら誰もが持っているのか?」
ケールは首を振った。
「いいえ。ごく稀な希少種らしいですよ、僕らは。これを知ったガルマン人は、兵器に転用する研究を行っていました。皆さんが対峙した、ガルマン帝国の一千隻の艦隊は、僕らのようなハーフが見せる幻覚を、広範囲に働くように増幅装置を使っています」
古代は、驚いた。
「あれが?」
ケールは頷いた。
「僕もあの場にスターシャさんたちと一緒にいたんです。僕も、同じことをしましたから。デスラー総統の艦隊は、せいぜい三百隻程度しかいませんでしたから、圧倒的な数だと、彼らに思わせる必要がありました。タラン閣下が、既にその幻覚増幅装置をこちらでも使えるように開発していましたので、あんなことが実現出来ました」
暫くすると、デスラー総統が、スターシャを伴って会議室にやって来た。各人が挨拶を済ませて着席すると、スターシャが最初に口を開いた。
「皆さん、改めてここでお話しておきましょう。私たちは、天の川銀河にアベルトたちと共に訪れて、ガルマン帝国に住む人々が、私たちイスカンダル人とガミラス人の末裔だと、すぐに知ることになりました。しかし、やっと会えたと思ったイスカンダルの同胞の、目を覆うような窮状が明らかになりました。そして、ガミラスの同胞の行き過ぎた純血主義とイスカンダル人に対する差別も」
スターシャは、そこで話を区切って、皆の様子を窺った。
「私は、これを知って決して許す訳にはいかないと思いました。アベルトは、すぐに武力に訴えようと考えたようですが、仮にも彼らは同じ民族なのです。それに、ガミラスに匹敵するほどの国力を持つ彼らに、アベルトを慕う少数の戦力では、とても太刀打ちが出来ません」
デスラー総統は、スターシャの話に頷いた。
「残念ながら、ガルマン帝国の我らが同胞は、下品な生き物だったからね」
スターシャは、更に話を続けた。
「この数年、何か方法がないかと、アベルトたちと一緒に検討を行ってきましたが、なかなか良い案がありませんでした。無情にも時は過ぎて行き、最近では、諦めることも考えるべきかと、私も考え始めていました」
スターシャは、ここでランハルトの秘書ケールに手を差し伸べた。
「それも、つい先日までのことです」
ケールは、恥ずかしそうに、少しもじもじとしていた。
「イスカンダル人の血を引く彼に出会って、私たちが今、成すべきことを知りました」
スターシャは、ケールに話すように促した。ケールは、頷いて立ち上がって話し始めた。
「僕は、先日アマール星に行った時に、ガルマン帝国で圧政に苦しむ人々が救いを求める信仰の対象、マザー・シャルバートとは一体何なのかを調べてみました」
ケールは、スターシャの方をちらと見てから話を続けた。
「ヒントは幾つかありました。かつて強大な力を持っており、いつか再び現れて、苦しむ人々を救済すると言う伝説です。正にこれは、イスカンダルのこと、それも、千年前に実在した女王のことを言っていると確信しました。現代に置き換えるなら、マザー・シャルバート様に相当する人物は、ここにいらっしゃる、スターシャ様しかいません」
スターシャは、少しだけ謙遜して言った。
「そんな大役が務まるかは、今でもわかりませんが」
ケールは、首を振った。
「スターシャ様。間違いなく、現代のマザー・シャルバートは、あなたしかいません。遺棄された銀河方面軍基地に、スターシャ様たちが拠点を築いていらっしゃるのには驚きましたが、初めてお会いした時に、はっと気が付きました。今こそ、信仰の対象であるマザー・シャルバート様が実在すると、人々が知ったらどうなるかと。ガルマン帝国の住民だった僕が保証します。長年、自分たちの運命を諦めていた人々が、目を覚まし、立ち上がってくれると僕は信じます」
スターシャは、頷いて後を受け取った。
「ケールさん、ありがとう。私は、イスカンダルを旅立ってから、既に女王の地位は捨てました。今、皆さんの前にいるのは、ただの一人の女に過ぎません。しかし、こんな私でも、役に立てるならと思い、決意を固めました。今、ここで皆さんに誓います。ガルマン帝国で圧政に苦しむ人々を、私たちの手で救済すると」
スターシャは、そこまで言うと、立ち上がって、ケールの傍にやって来た。そして、その彼の手を握りしめ、彼の顔を覗き込んだ。
「ケールさん。よかったら、これからも私たちに力を貸して下さい」
ケールは、スターシャに見つめられて、頬を染めていた。
「僕でお役に立てるなら。喜んでお力をお貸しします。マザー・シャルバート様。今だけは、あえてそう呼ばせて頂きます。僕たちは、ずっとこの時を待っていたんです」
ケールの瞳は潤んでいた。
その様子を見守っていたデスラー総統が口を開いた。
「君は、我々にとっても、象徴的な存在だ。ガミラスとイスカンダルの架け橋。二つに別れた国が一つになる未来そのものだ。私からも、協力をお願いするよ。ガルマン帝国を、第二のガミラス、そして第二のイスカンダルが導く新たな国家に生まれ変わらせるまで」
「デスラー総統。ありがとうございます」
ケールは、ランハルトの顔色を窺った。
ランハルトは、目を閉じてゆっくりと頭を振った。
「叔父を助けてくれるというのなら、俺は構わない。俺からも頼む」
デスラー総統は、ランハルトを不思議そうに見た。
「お前は手伝ってくれないのかね?」
ランハルトは、急に慌て出した。
「お、俺には地球の大使としての役割がある。手伝いたいのはやまやまだが……すぐには出来ない」
デスラー総統は、微笑んだ。
「ランハルト。冗談だよ。お前は、お前でガミラス本星の為に、頑張ってくれ給え。地球人とも、随分仲が良くなったようだ。私は、ガミラスの未来は、お前に託した。役目を果たすことを願っているよ」
ランハルトは、恐縮して頷いていた。
デスラー総統は、今度は古代に話し掛けた。
「確か、ヤマトの艦長の古代……といったね?」
古代は、デスラー総統に対する内心の恐れを見せないように返事をした。
「はい。ヤマト艦長の古代進です」
デスラー総統は、続けて語りかけた。
「ランハルトが、本星のバレルくんに連絡するというので、私も彼と話をしてみたよ。彼は、地球人のことを本気で心配していたが、ランハルトが艦隊の派遣を要請しても、断られてしまった。今は、マゼラン銀河のことで忙しいようだったのでね。私にも、バレルくんの気持ちは良くわかる。どれだけ大変な事か、ということもね。だが、ランハルトが酷く落胆しているのでね。見兼ねた私が、地球人を助けることを提案したんだよ」
古代は、意外なデスラー総統の告白に驚いていた。
「あなたが? 我々を?」
デスラー総統は、目を閉じて微笑していた。
「これからは、君たちにも協力を求めたいと思っている。それには、地球人に貸しを作った方が手っ取り早いからね」
スターシャは、デスラー総統に言った。
「アベルト。そういう態度、改めるんじゃなかったの? もっと素直になった方がいいわ」
デスラー総統は、苦笑していた。
「スターシャ。困ったね。少しは、私の威厳を保たせてくれると、ありがたいんだがね……」
続く…
注)pixivとハーメルン、及びブログにて同一作品を公開しています。
注)但し、以前pixivに連載した小説の加筆修正版です。以前のpixiv連載版とは、一部内容が異なります。
注)ヤマト2202の登場人物は、役割を変更して登場しています。