大音響とともに、火柱が上がった。
空母シナノの飛行甲板で祝辞を行っていた地球連邦大統領チャールズは、爆発に巻き込まれて、その体が宙に浮き、甲板に叩きつけられた。
甲板上は、大きなきのこ雲が上がり、破片が空から降ってきていた。
騒然とする甲板上に集まった地球連邦の政府高官たちは、警備の連邦軍の兵士によって、甲板上から退避させられていた。大統領チャールズの周囲には、大勢の人々が集まり、血塗れとなった彼を抱き抱えて、その場から連れ出した。
大統領の後方近くにいた土方も、爆風に巻き込まれ、尻餅をついていた。
「一体、何が……」
土方は、裂けた上着も構わず、立ち上がって自力でその場から逃げ出した。
逃げる途中、外務長官のライアンの姿を見つけ、彼の背中を押して一緒に走って行った。
「大丈夫ですか?」
頭から血を流したライアンに、土方は声をかけた。
「貴方こそ」
ライアンは、土方の軍服の上着が裂けて、肩や胸から血が滲んでいるのを見て言った。
「私は、軍人ですから」
その二人の目前で、駐機していたガミラス軍の飛行挺が発艦していった。土方とライアンが見上げると、式典に参加していたガミラス大使のランハルトの姿が見えた。彼も脱出していったのだろう。
二人は、それを見届けて、甲板上のハッチから、格納庫に降りていった。
格納庫内部では、燃え上がった天井やその床に、スプリンクラーで水が散布されて、消化隊が水を撒いたり消火器を噴射したりしていた。そして、逃げ惑う人々が右往左往し、騒然としていた。
「せっかくの新造宇宙空母が、酷いことになった」
「敵に攻撃を受けたと思えば、この程度、直ぐに修復出来ます。それよりも、大統領が心配です」
ライアンは、ため息をついた。
「副大統領に至急連絡をとらなければ。軍の方は頼みましたよ」
「承知しました」
ライアンは、やってきた防衛軍の兵士に囲まれて、外へ連れて行かれた。土方にも、兵士がやって来たが、それを下がらせて格納庫の様子を眺めた。
「嫌な予感がするな……」
「ガミラス戦争終戦記念日の式典は、大惨事となりました。式典でお披露目となった地球防衛軍の空母シナノの甲板上で、爆弾テロと思われる爆発が発生し、チャールズ大統領を含む、政府高官数名が重軽傷を負いました。連邦軍は、犯人と思われる不審な男を射殺しました。連邦捜査局は、現在も捜査を行っていますが、犯人の身元を特定する手懸かりはまだ発見されていません。爆弾は、祝辞を行っていたチャールズ大統領のすぐ近くの甲板下の格納庫天井に仕掛けられたものと思われます。重傷を負ったチャールズ大統領の安否については、未だ予断を許さぬ状況のようです。連邦捜査局本部からは以上です」
連邦捜査局長官のエマーソンは、報道を確認してから、テレビを消した。ふーと息を吐き出してから、彼は立ち上がって執務室から出ていった。エレベーターで地下に降りると、目的の場所に顔を出した。
「どうだね?何か分かったか?」
そこは、数名の検死官と捜査官が、遺体を取り囲んでいた。
検死官は首を振った。
「エマーソン長官。身元を特定するようなものは何も見つかっていません」
捜査官も報告を行った。
「捜査局の犯罪者のデータベースとも照合しましたが、身元を特定出来ません。現在、DNA鑑定も行っています」
エマーソンは、彼らに頷いて、その遺体を眺めた。遺体は、歳の頃は二十代と思われる白人の男性だった。事件の直後、格納庫で不審なこの男を兵士らが発見し、射殺したのだった。
「大統領の殺害を狙った凶悪犯だ。身元の特定を急いでくれ」
「わかりました」
エマーソンは、そう言い残して部屋を出ていった。
地球連邦政府のあるワシントンでは、防衛軍本部の地下で緊急会議が行われていた。
政府からは、副大統領のダグラスと、防衛長官のウィルソンが中心となり、事件の概要と今後の対応が話し合われていた。
後からやって来た連邦捜査局のエマーソンは、会合の面々に軽く挨拶をしながら席に着いた。
ダグラス副大統領は、エマーソンに説明をした。
「先ほど、私が大統領職を引き継ぐことを宣誓した。君の報告を頼む」
エマーソンは、頭を振って言った。
「では、ダグラス大統領。まだ、犯人と思われる遺体の身元の特定は出来ていません。遺体は、二十代白人男性です。既に軍の方にも情報を送ったので、暫くすれば何かわかるでしょう」
そこへウィルソン防衛長官が発言した。
「十中八九、テロ組織の者でしょう。問題は、どの組織の者か、ということです。現在、陸海空軍をいつでも動かせるように準備中です。組織の場所が特定出来たら、すぐにこれを叩けます」
ダグラス副大統領は頷いた。
「それでは、どのような結果になっても即応出来るよう、パターン毎に今後の対応について確認しておこう」
数日後、モスクワでも、同様の政府高官を狙った爆弾テロが発生した。幸い、軽傷者だけで済んでいた。地球連邦捜査局は、モスクワにも飛び、捜査を行った。監視カメラの映像により、そこでも、同様に二十代白人男性が目撃されていた。その男は、体に爆弾を巻き付けた状態で政府の要人に接近し、自爆したのだった。
この二つの事件が起きてから数日後、世界中の各地で、同様の事件が続けて発生した。
更には、太陽系内の月面基地や、土星のエンケラドス基地でも爆弾テロが発生し、混乱が続いた。
こうして、犯人の身元の特定が出来ないまま、一ヶ月が経過し、連邦捜査局のエマーソンは、ダグラス副大統領に呼び出されることになった。
「捜査状況は、どうなっている?」
エマーソンは、冷や汗をかいて報告をした。
「まだ進展はありません」
「これだけの事件が起こって、まだ何もわからないと言うのかね! 今、連邦各国では、疑心暗鬼に捕らわれ始め、内戦も起きかねないほど緊張が高まっている。世論も、政府や連邦捜査局への不信感が高まってきている。連日マスコミが騒いでいるのを、君も知っているはずだと思うが? 今後の方針を聞かせてくれ。納得出来なければ、君に責任をとってもらって、更送するしかないだろうな」
エマーソンは、彼に聞こえないように、小さなため息をついた。
「大統領。さすがに、私もおかしいと感じています。それで、一つ案があります」
ダグラス副大統領は、少し興味を示した。
「言ってみたまえ」
「ガミラス大使館を通じて、身元の調査を行ってみたいと考えています。ご許可を頂けますか?」
ダグラス副大統領は、驚きを隠せなかった。
「君は、犯人がガミラス人だと言うのかね?」
エマーソンは首を振った。
「それは違うと考えています。ただ、これだけ捜査しても新たな情報が出てこない以上、犯人が異星人という可能性も視野に入れた方が良いということです。我々よりも、彼らの方が、その辺りの事情に明るいのは、間違いありません」
ダグラス副大統領は、暫くその案について、思案していた。
「わかった。大使館には、私からも一言言っておこう。すぐに始めてくれ」
「承知しました」
「だが、もしも、本当に異星人だとわかったとしたら、ガミラス戦争以来の重大な危機が迫っていることになる。マスコミに嗅ぎ付けられないよう、慎重に行動してくれ」
エマーソンは、頷いて、急いでその場を立ち去った。
ガミラス護衛艦隊旗艦、戦闘空母ダレイラに招待されたエマーソンは、会合の場所となった艦長室で、大使のランハルトと初めて直接対面した。
「デスラー大使。この度は、ご協力に感謝します」
地球式の握手を交わした二人は、早速本題に入っていった。
「既に、そちらから提供された情報を、本国に問い合わせている。本国でも、身元の特定は出来ないと報告があった」
「そうですか。残念です」
「だが」
エマーソンは、そこで話を止めたランハルトの表情を窺った。
「本国の調査で、わかったことがある。わざわざ、ここまに来てもらったのは、それが重大な情報だったからだ」
「その情報とは?」
ランハルトは、そこで少し間を開けた。
「鑑定の結果、九十パーセントの確率で、テロの犯人は、イスカンダル人の可能性が高いそうだ」
エマーソンは、一瞬、ランハルトが何を言っているのかわからなくなっていた。
「私の知識では、イスカンダル人は、スターシャ女王と、ユリーシャ第三皇女の二人しかいないはずですが? しかも、犯人は男性ですよ?」
ランハルトは頷いた。
「その知識は間違っていない。だからこそ、この情報は我がガミラスでも驚きを持って受け止められている。そちらでも、情報を限られた人物のみで共有してもらいたい。今の段階では、一般の地球人には、決してこの情報は知られたくない」
エマーソンは、呆気にとられていたが、そのことを了承した。
「わかりました。しかし、今後の対策を検討する上で、政府や軍では、この情報は共有する必要があります。予め承知おき下さい」
ランハルトは頷いた。
「心得た。こちらも、対策を検討中だと、副大統領には伝えておいてくれ」
「承知しました」
続く…
注)pixivとハーメルン、及びブログにて同一作品を公開しています。
注)但し、以前pixivに連載した小説の加筆修正版です。以前のpixiv連載版とは、一部内容が異なります。
注)ヤマト2202の登場人物は、役割を変更して登場しています。