太陽系外の探査任務が、遂に決定し、アンドロメダと主力戦艦ムツの二隻は、太陽系から遠く離れた宙域を航行していた。主な任務は、銀河系の正確な星図の作成と、未知の宇宙規模の事象や、未知の文明の探査である。
この任務は、ようやく波動エンジン搭載艦を複数完成させた、北米第七艦隊からも、同様に二隻の艦が派遣され、アンドロメダとは異なる探査領域を担当していた。
「山南艦長。ここは、二十一世紀頃に、謎の電波を受信した方角にある星系です。よろしければ、少々詳しく探査をさせて頂きたいのですが」
アンドロメダの技術科長には、真田が就任していた。暫く防衛軍を離れていた真田は、藤堂の呼び掛けで、現在の科学技術省の立場のまま、この任務に参加していた。
山南は、笑顔で真田に頷いた。
「もちろんだ。念入りにやってくれ」
「はっ」
山南は、通信長の佐藤に、主力戦艦ムツに星系探査で少し留まる件を伝えるように言った。
真田は、艦内通信で技術科にいる新見薫に連絡し、協力を要請した。そして、航海長の仲村は、真田の指示に従って、その星系にアンドロメダを進入させた。
アンドロメダには、真田の他に、南部が戦術長として就任していた。その南部は退屈していた。
「真田さん、謎の電波でも何でも、不審なものを見かけたら、すぐに教えてくださいね」
「わかっているよ。しかし、何故わざわざ聞くのかね?」
「いやあ。このままじゃ、腕が鈍ってしまいそうで」
「君が忙しくなるような事態は、誰も望んでいないと思うよ」
真田は、南部の方を振り返りもせずに言っていたが、心なしか、真田は楽しそうに見えた。
山南は、二人のやり取りを見て、元ヤマト乗組員の絆の深さを目の当たりにしていた。
「他の連中も、あんな風になれると、いいんだけどな」
山南は、そっと独り言を口にした。
通信長の佐藤が、山南の方へ振り返って言った。
「艦長、地球防衛軍司令部から連絡です。北米第七艦隊から探査に派遣されたアンティータムとチャンセラーズビルから定時連絡が無いとの連絡があります」
アンドロメダとムツは、亜空間通信リレーを設置しながら移動していた。銀河系の星図を作るのと同時に、地球との通信ラインの確保するのも、彼らの任務だった。
「防衛軍本部の要望は?」
「もう少し様子を見て、それでも連絡がつかないようなら、確認に向かって欲しいということです」
山南は、真田が探査に忙しく動いているのを眺めながら考えた。
「わかった。要請が無ければ、少なくとも真田くんの探査が完了するまでは、俺たちはここで活動を続ける」
「それから、それとは別に、個別に話したいと藤堂長官がおっしゃっているようです」
「俺と個別に?」
「はい」
山南は、艦長室に移動して、端末の電源を入れた。地球連邦防衛軍極東管区司令部に接続すると、すぐに相手に繋がった。
「藤堂長官」
端末のスクリーンには、藤堂長官が映っていた。
「山南くん。暫くぶりだな」
「どうも。どうされました?」
山南はにこやかに話しかけた。しかし、その藤堂の表情は浮かなかった。
「山南くん。実は、地球ではいろいろな事件が立て続けに起こっている」
山南は、藤堂が、何か大事な話をしようとしているのに気が付いた。
「連続でテロ事件があり、大統領が重体となっている。その時、土方くんも負傷した」
「ええっ?」
「大統領は、今も意識不明の重体だ。今は、副大統領が代行で動いている。土方くんの方は心配はいらんよ。少しの間入院していたが、既に復帰している。それよりもだ。君にその連続テロ事件の犯人に関しての極秘情報を伝えておく」
「極秘……ですか?」
「取り扱いに注意してくれればいい。最初の事件の犯人は、軍が射殺したのだが、連邦捜査局では犯人の身元がどうしてもわからなかった。そこで、試しにガミラス大使館に問い合わせて、遺体のDNA鑑定などの情報を伝えたところ、イスカンダル人の可能性が高いとの報告があったそうだ」
山南は、驚いた。
「イスカンダル人ですって?」
藤堂は頷いた。
「しかも、テロを行っているのは若い男性だ」
次々に信じがたい情報が伝えられて、山南は困惑していた。
「つまり、我々の知っているイスカンダル人以外の生き残りがいて、テロ活動していると言うんですか?」
「そういうことになる。ガミラス大使館側は、ガミラスやイスカンダルを排斥しようとする勢力を警戒して、この情報を極秘扱いにして欲しいと要請があった」
「なるほど」
「北米艦隊から探査に派遣した航宙艦二隻の通信が途絶えている件、どうも私は、嫌な予感がしてならない。この事件と関係があるとすれば、何か大きな問題が降り掛かろうとしてる可能性がある」
山南は、黙ってその情報を咀嚼しようとしたが、頭の整理がつかなかった。
「わかりました。では、我々のきりがいいところで、北米の艦の様子を見に行って来ます」
藤堂は、複雑な表情で頷いた。
「頼む。ただし、くれぐれも気をつけてくれ」
「了解。では、通信終わり」
山南は、そのまま、消えた端末のスクリーンをぼんやりと眺めた。
「イスカンダル人ねぇ……」
翌日、探査を終えた真田は山南に報告していた。
「この星系について、一定の詳細な探査が終わりました。少なくとも、資源を採掘可能な惑星が複数あることがわかりました。居住可能な惑星は存在せず、異星文明の痕跡も見つかりませんでした。残念ですが、科学的な新たな発見は特にありません」
山南は、にこやかに頷いた。
「ご苦労様」
山南は、マイクを掴んで全艦に向けて通信を行った。
「諸君、星系探査の件、ご苦労だった。終わったばかりですまないが、これより、消息を絶った北米艦隊二隻の探査宙域に様子を見に行くことにする。今から一時間後にワープ、全艦、準備にかかってくれ。以上だ」
マイクを切った山南は、南部に指示を出した。
「南部、ワープを開始する時に警戒体制に移行。よかったな、退屈してたんだよな?」
南部は、少し焦って否定した。
「そ、そんなことありませんよ? ご命令は、承知しました!」
「もしかしたら、戦闘配置に移行するかも知れない。そのつもりで準備を頼む。頼りにしてるぞ、戦術長」
南部は、少し疑問を感じつつ、立ち上がって敬礼で答えた。
「はっ」
アンドロメダと主力戦艦ムツは、数回のワープで、北米艦隊二隻が最後に連絡を取った座標に到着した。
「二隻の航跡を追えるかね?」
山南は、真田に声をかけた。
「既に、波動エネルギーの航跡を探知しています。仲村くん、センサーのデータを送るので、艦をそちらに移動させてくれ」
「承知しました」
山南は満足そうに様子を窺った。
「よし、では発進させてくれ」
アンドロメダとムツは、波動エンジンを咆哮させて、北米艦隊を探しに発進した。
レーダー手の橋本が報告してきた。
「遠距離レーダーに感あり。艦船と思われます」
「見つけたか。仲村、すぐに艦をそこへ向かわせてくれ。それから佐藤、通信で呼び掛けを行ってくれ」
「わかりました」
佐藤は、通信機のパネルを操作して、防衛軍の通信周波数で、北米艦隊二隻に向けた連絡を送っていた。山南は、頭上のスクリーンを注視しながら、佐藤の様子に耳を傾けた。
「艦長、前方の艦船は応答しません」
「わかった」
山南は、心の中の不吉な予感が、強くなっていった。
アンドロメダのスクリーンには、徐々に艦船の様子が見え始めていた。艦船の周囲には、破片が多数漂っており、艦体が大破しているのがわかった。
「南部、戦闘配置に移行」
南部は、即座に反応して、艦内通信を行った。
「全艦、戦闘配置。これは訓練ではない。繰り返す。全艦、戦闘配置!」
アンドロメダとムツは、更に接近して、二隻の残骸が目視出来る所で停止した。
「真田くん、波動防壁展開準備」
「了解、波動防壁展開用意」
山南は、北米艦隊の一隻が艦体中央部から真っ二つに裂けているのを確認した。もう一隻は、穴だらけになって艦体が黒く染まっていた。完全に沈黙しており、航行不能になっているようだった。
「生存者の捜索を行う。南部、至急救助隊を編成してくれ」
「了解です!」
アンドロメダとムツから、コスモシーガルが発艦し、二隻に向かった。救助隊が、それぞれの艦の内部に進入し、捜索を始めた。その矢先、レーダー手の橋本が叫んだ。
「レーダーに感! すぐ近くに複数の機影がワープアウトしてきます!」
南部は、すぐに指示を発した。
「パルスレーザー砲台、迎撃用意!」
「南部、命令あるまで、発砲してはならん!」
山南は、慌てて叫んだ。
「わかっています!」
「四機の航宙機が現れました! 本艦に二機、ムツに二機が急速に接近!」
「真田くん、波動防壁展開!」
「了解、波動防壁を展開する」
二機の航宙機は、真っ直ぐ正面からアンドロメダの艦橋をかすめて、高速に後方に飛び去った。同様に、残りの二機もムツの頭上付近を目掛けて高速に接近して飛び去って行った。
機体を観測していた真田が報告をした。
「艦長、あの機体を分析しました。ガミラスでもガトランティスのものでもありません。初めて出会う異星文明のものと思われます」
レーダーを注視していた橋本が叫んだ。
「四機とも、反転して戻ってきます!」
山南は、このままでは、無防備な救助隊が危険だと考えていた。しかし、接近する機体が、北米艦隊を破壊したかどうかもわからない状況で、攻撃を加えるべきか判断出来なかった。
「救助隊を帰還させる。南部、航空隊を今すぐ発艦させ、帰還を援護させろ!」
「了解、航空隊に通達、緊急発艦せよ!」
「航空隊にも、俺が命令するまで、発砲を控えるように伝えておけ」
数十秒後、アンドロメダの下部、艦載機発着口が開口し、コスモタイガーが次々に発艦した。
それぞれ、敵機と思われる航宙機と同数の航空隊の機体がその後方につけ、追跡を始めた。
「よし、今のうちに、コスモシーガルを帰還させろ! 佐藤、奴らに接近する目的を確認したい。すぐに呼び掛けを行ってくれ!」
「はい、わかりました!」
しかし、四機はあらゆる周波数のチャンネルで呼び掛けたが応答は無かった。
そして、コスモシーガルの帰還が成功したころ、ようやく敵機と思われる四機は遠ざかって行った。そのまま、レーダーの探知圏外へと飛行を続けた為、山南は航空隊にも帰還命令を出した。やがて、レーダーからも反応が消えたのだった。
「報告を頼む」
艦長席にやって来た南部が、山南に報告した。
「残念ですが、救助隊からの報告では、生存者は発見出来ませんでした。航空隊からの報告では、敵の機体には、ミサイル等の武装と思われる装備が見えたようです。これらは、撮影も行っている為、後で分析にかけます」
山南は複雑な表情で頷いた。
「わかった。ご苦労だった」
南部は、疑問を口にした。
「一体、何があったんでしょうか。北米艦隊の二隻とも、奴らにやられたんでしょうか?」
真田もそこにやってきた。
「先程の機体だけでは、あの二隻をここまで大破させるのは難しいと思います。あの二隻にも波動防壁は装備されています」
山南は、腕を組んで考えていた。
「残念だが、正体不明の敵の艦隊にやられたと考えるのが妥当だろうな。先程の機体が何も関係が無いとは考えられない。恐らく、偵察機ってところだろう。しかし、何も証拠がないから、先制攻撃も出来んからなぁ。参ったな、宇宙探査を始めたばかりだと言うのに、早速敵性異星文明とコンタクトすることになるとは。至急、防衛軍司令部にこれを伝えなければ」
山南は、防衛軍司令部に何と報告するか思案した。
「あれが偵察機だとすると、敵の艦隊がここに戻って来る可能性が高いでしょう。状況から判断して、ここに留まるのは危険です。観測用の小型の監視装置を設置して、この場を一度離れてはいかがですか?」
山南は、ため息をついた。
「真田くんの言う通りだな。装置を設置したら、一旦ワープでここを去ろう。準備急げ!」
「はっ」
こうして、アンドロメダとムツは、急いでその宙域を離れていった。北米艦隊の二隻の残骸は、虚しくそこに残され、宇宙を漂っていた。
続く…
注)pixivとハーメルン、及びブログにて同一作品を公開しています。
注)但し、以前pixivに連載した小説の加筆修正版です。以前のpixiv連載版とは、一部内容が異なります。
注)ヤマト2202の登場人物は、役割を変更して登場しています。