何もない空間から、小さな航宙機と思われる機体が現れ、太陽系外縁パトロール艦隊の駆逐艦に接近して接舷した。
「なんだ? あれは?」
たまたま、外を眺めていた別の駆逐艦の乗組員が、それを見つけた。
太陽系外縁パトロールを担当していた艦隊旗艦のヤマトでは、艦隊の駆逐艦からその報告を受けて、急遽その機体を捕らえることに成功した。
ヤマトの医療室のベッドに、拘束された状態で意識を失って眠っている男は、DNA鑑定の結果、大統領襲撃犯の男との類似性が高く、同一種族の者と断定された。
「これがイスカンダル人の男性ねぇ。本当なのか? 古代」
佐渡は、第一艦橋からやって来た古代に聞いた。
「佐渡先生。僕だって信じられませんよ」
その男は、保安部の者に拘束される際に顔面を殴られた為、顔が若干腫れていたが、確かに白人男性にしか見えなかった。
「とりあえず、目が覚めたら私からも尋問してみたいと思いますので、上に連絡を頂けますか?」
「わかっとるよ」
古代が医療室を出て行こうとすると、佐渡が呼び止めた。
「そういやぁ、古代。森くんはどうしてる? お前、子供出来たんだってなぁ」
古代は、振り返って照れた様子で頭をかいた。
「地球の自宅にいます。三ヶ月だそうです」
佐渡は、古代の背を叩いてきた。
「おめでとさん。大事にしろよ」
「ありがとうございます」
古代は、笑顔で軽くお辞儀をして、その場を去って行った。
この報告を受けた防衛軍司令部は、遂に生きたまま捕まえた犯人を、地球に連れてくるように、ヤマトに指示をした。別の艦に艦隊のパトロールを任せたヤマトは、急ぎ地球へと帰還の途についたのだった。
地球に帰還したヤマトは、衛星軌道上で待機し、地球から連邦捜査官が来るのを待っていた。そこにいち早くやってきたのは、同じく軌道上で待機していた、ガミラス護衛艦隊だった。
ヤマトにガミラス戦闘空母ダレイラからシャトルを飛ばして乗り込んで来たのは、大使のランハルトと彼の護衛の兵士だった。
それを出迎えた古代は、二人と地球式の握手を交わして、拘禁室に連れていった。
ヤマトの保安部員が見守る中、狭い拘禁室には、目を覚ました男が両腕を後ろ手に拘束されたまま、ベッドに座っていた。
古代とランハルトは、拘禁室に用意された椅子に座り、男に尋問を始めた。
「貴様、一体何者だ。どこからやって来たのか、俺たちに話せ」
男は、酷く怯えた様子だった。古代とランハルトが、暫く尋問を行ったが、彼らの問い掛けに何も答えようとしなかった。
「話にならんな」
ランハルトが、苛つきを隠そうともせず、男を睨み付けると、怯えが更に酷くなったようだ。
「デスラー大使。酷く怯えているので、少し間をおきましょう」
古代は、ランハルトの肩を叩いて、部屋から退室させた。
ちょうどその頃、遅れて到着した連邦捜査局のエマーソン長官と捜査官二名も到着した。古代は、ランハルトを伴って迎えに行き、エマーソンと二人の捜査官と握手を交わした。
「エマーソン長官。少し我々でも尋問をしてみましたが、何も話してもらえませんでした」
エマーソンは、古代に笑顔を向けた。
「なるほど。では、後は我々に任せて下さい。地球に移送して、我々のチームが対応します」
「よろしくお願いします」
「あと、彼が乗ってきたという航宙機、異次元から出現したとか。軍に引き渡す前に、我々にも見させて頂けますか?」
「それも問題ありません。よろしくお願い致します」
エマーソンと別れて艦長室に移動した古代とランハルトは、少し情報交換した。
「大使、あの男がイスカンダル人だというのは、本当なんですか? この話は、箝口令が敷かれている為、ヤマトでも私と衛生長の佐渡先生と限られた数名しか知りません」
「ああ。本当だ。俺だって信じがたいと思っているがな」
古代は、最後にイスカンダルを訪れた時のことを、ランハルトに確認した。
「前にイスカンダルに行った時、スターシャさんは、デスラー総統と共に旅立って行きましたが、行き先が天の川銀河、つまり我々のいるこの銀河系に向かったと聞きました。何でも、ガミラス人とイスカンダル人の同胞を探して訪ねる為とか」
ランハルトは頷いた。
「そうだ。ガミラスには、約千年ぐらい前のイスカンダルが帝国主義を捨てて平和主義に変わった時代に、一部のガミラス人とイスカンダル人が別の銀河に旅立ったという伝説が残っている。その同胞を発見して、共に新たなガミラスを作ると叔父は言っていた。捕まえたあの男が、その同胞の可能性が高い」
「しかし、イスカンダル人が、あのような攻撃的な種族だとは思えません。ガミラス人ならともかく……」
そこまで言ってしまってから、はっとして手で口元を押さえた。古代は失言だったと発言を後悔した。ランハルトは、苦々しい表情をしていたものの、古代を責めることはしなかった。
「言ってくれるな……。まぁ、ガミラス人のことは否定はしない。それに俺も、イスカンダル人がそのようなことをするとは思っていなかった。だが、千年も前に本星と袂を分かった先祖の末裔の話なのでな。イスカンダル人が、今のような平和主義の国家へと様変わりした微妙な時代の話だ。どんな可能性だってある」
古代とランハルトは、暫く二人とも黙り込んだ。
「お前も知っていると思うが、この銀河系の中心部の二大星間国家、ボラー連邦とガルマン帝国のことだが、我々もあまり詳しい情報は持っていない」
古代は頷いた。
「大使もご存知の通り、今の地球連邦の仮想敵国として、その二国からの最低限の防衛を目標に、艦隊の増産を急いでいます。何故、今その話を?」
ランハルトは、少し声のトーンを落とした。
「以前、ガミラスが銀河系方面軍をこちらに派遣していた時に、司令官だったゲール少将が、ガルマン帝国に接触したことがある」
古代は、その情報に少し驚いた。
「ゲール少将は、相手が強大な国家だとわかってからは、彼らの勢力圏に侵入しないことを約束し、それ以来、接触を行っていない。しかし、接触した際の報告では、相手の艦隊の司令官は、ガミラス人と良く似ていたという証言がある」
古代は、ランハルトが言わんとしていることが、何となくわかってきた。
「つまり、ガルマン帝国は、ガミラス人とイスカンダル人が、千年前に天の川銀河を訪れて建国した国家だと言いたいんですね?」
ランハルトは、重々しく頷いた。
「これまでの情報から推測すると、そういう結論になる」
古代は、驚くと同時に少々慌てだした。
「それが正しいとすれば、一連のテロ事件は、ガルマン帝国からの侵略、ということになってしまう……」
ランハルトは、ため息をついて、腕組みした。
「その通りだ。しかし今、ガミラスはマゼラン銀河のことだけで手一杯の状態だ。ガルマン帝国と対立するようなことは誰も望んでいない。同盟を結んでいるとはいえ、お前たちを手伝うのは、難しいと考える者が多い。しかし、聖なるイスカンダル信仰との間で揺れ動いている。イスカンダル人が、戦争行為に参加しているのだけは見過ごせない、とな。バレル大統領以下、政府閣僚の間で、真相を確かめる為に軍を動かすべきかどうか、検討を行っているはずだ」
その時、ヤマトの艦体が突然揺れた。
「何だ?」
古代は、慌てて艦内通信のマイクを掴んだ。
「どうした。今の揺れについて報告してくれ」
少し間があってから、応答があった。
「拘禁室で、爆発があったようです」
「何だって!」
古代とランハルトは、顔を見合わせた。
拘禁室に向かうと、捕らえた男が入っていた室内で、男の体が爆発したものと思われた。ばらばらに四散した男の体が、室内を血の海に変えていた。
拘禁室の前には、エマーソン長官と、二名の捜査員が待っていた。
「どうも。艦長、残念な知らせです」
駆けつけた古代とランハルトに、エマーソンが報告した。
「恐らく、体内に小型の爆弾を埋め込んでいたんでしょう」
「怪我人は?」
「誰もいません。我々が、彼を移送しようと、中に入ろうとした矢先に爆発しました。危ないところでしたよ」
ランハルトはため息をついた。
「これで、何も聞けなくなってしまったか。奴が、どこから来たかを聞き出したかったのだが」
「それですが、彼の機体を調査して、少しだけ情報をとれました」
エマーソンは、得意気に話をした。
「何ですって?」
古代とランハルトが驚く中、彼は自分の携帯端末を取り出した。
「彼の機体の電算機に接続して、中のデータの閲覧に成功しました」
エマーソンが見せてきたのは、星図のようだった。
「取れたのは、これだけです。恐らく、これが、地球までの航路。彼の出発地点は……ここのようです」
エマーソンは、航路図を指でなぞった。
ランハルトは、乱暴にその端末を奪って、食い入るように図を眺めた。ランハルトの背後から、古代もその図を眺めた。
「これは……」
「大使?」
「出発地点は、ガルマン帝国領の端だ。ここを見ろ。ボラー連邦とガルマン帝国の両端と接する中立地帯、と書かれている場所を通過している」
ランハルトは、自分を注視する古代とエマーソンの視線に気がついた。
「すまん。この星図、ガミラス語で書かれている」
古代とエマーソンは、目を丸くした。
「これで、もう間違いない。奴は、ガルマン帝国からやって来た。そして、我がガミラスとイスカンダルから分派した同胞の末裔だ」
続く…
注)pixivとハーメルン、及びブログにて同一作品を公開しています。
注)但し、以前pixivに連載した小説の加筆修正版です。以前のpixiv連載版とは、一部内容が異なります。
注)ヤマト2202の登場人物は、役割を変更して登場しています。