それから、一週間が経過した。
地球連邦政府は、今回発覚したガルマン帝国の侵略とも言えるテロ活動に対して、どのように対処すべきか協議を重ねた。そして、まずは真意を確認し、正式に政府として抗議するのが筋だろうという結論となった。
テロ活動を行おうとしていた航宙機から得た情報によって、ボラー連邦とガルマン帝国の中立地帯の存在を知った政府は、地球連邦外務省から事務方を派遣し、その地で外交ルートの構築を模索することに決めた。
そして、この任務の特務艦として、ガミラス戦争やガミラス同盟で活躍したヤマトを、再び単艦で派遣する事が決定した。更には、今回の事態を憂慮したガミラス政府からも協力を得られることが決まり、デスラー大使のガミラス護衛艦隊がこの任務に共同であたり、ガミラス政府と共に、ガルマン帝国との接点を作れないか模索する。
一方、土方が座乗する空母シナノを中心に、艦隊の再編が行われた。艦隊は、地球近傍のラグランジュポイントの一つで集結し、次の行動に備えることになった。この艦隊は最悪の場合を想定し、ガルマン帝国の明確な侵略行為に対抗するために編成される。部隊は、主に極東管区の極東艦隊を中心とした戦力に、北米艦隊も加わり、ヤマトの任務遂行中に、艦隊連携の確認をする訓練などが行われる予定だ。
それから、更に二週間後――。
ヤマトとガミラス護衛艦隊は、銀河系中心部のガルマン帝国領付近を通過していた。星図にあった中立地帯まであと少し、という位置につけていた。
古代は、相原に声をかけ、ガミラス護衛艦隊のガゼル司令を呼び出した。
スクリーンに映るガゼル司令は、少し疲れた表情をしていた。
「古代艦長、何かね?」
「どうかされましたか?」
ガゼル司令は、古代に見透かされたので、表情を引き締めた。
「こっちのことだ。何だね?」
「偵察機を飛ばそうと思いますが、よろしいですか?」
「そうだな。それなら、我が艦からも出そう」
ガゼル司令は、後ろを振り返って、バルデス艦長に声をかけていた。
「これでいい。偵察機の報告を受けてから、中立地帯に侵入するぞ」
「わかりました」
古代は、通信を切ると、北野に指示を出した。
「北野、航空隊に偵察機を出すように伝えてくれ」
「了解です」
北野は、艦内通信で航空隊の待機所に連絡した。
連絡を受けた篠原は、ヤマト航空隊の隊長に就任していた。
「よーし、野郎ども、偵察に出てくれってさ」
篠原が振り返ると、坂本が、自分に指を向けて期待の目で見ていた。
「偵察はさ、繊細な奴が向いてるんだよ。お前は、戦闘にならない限り、ここで待機な」
坂本は、がっかりと項垂れた。篠原の視線は、沢村を通り過ぎて、その隣にいた男に向いた。
「揚羽ちゃん、お前、行ってみる?」
篠原は、今回の任務で初めてヤマトに配属されて来た新人にウインクして見せた。
「私ですか?」
篠原は、驚く揚羽の肩を叩いた。
「そ、お前だ。防衛大を優秀な成績で卒業したんだってな。いい経験になるから、お前が行ってこい」
揚羽は、真面目な顔で頷いた。
「わかりました!」
そのまま、勢い良く、待機所を飛び出していった。
坂本は、悪態をついていた。
「なんで、あいつが良くて、俺が駄目なんすか?」
「だから言っただろ? 繊細で、真面目な奴がいいんだって。俺みたいにさ」
篠原は、にやりと笑って見せた。
揚羽のコスモタイガーは、数十秒後に発艦して行った。ヤマトの下方から上昇して、揚羽のコスモタイガーは、高速でヤマトの舷側を通過して行った。
古代は、第一艦橋から、飛び去る彼の機体を眺めた。
「篠原の奴、新人を出すとはな」
古代は、少し心配をしつつも、昔の自分もあんな感じだったのに違いないと思い直した。
古代は、何となく砲術長の座席を眺めた。南部がアンドロメダに異動となったため、そこには新人で揚羽と同期の土門が座っていた。航海長の席には、太田が座っており、すっかり部門長らしくなっていた。防衛軍を去って運輸省に異動していた島は、予備役として今回の一件で防衛軍に呼び戻されて、別の艦の艦長に任命されていた。
そして、気象長の席には太田に代わって大島夏樹が、船務長として雪の代わりに西条未来が、そして、技術長の桐生美影がいた。山崎が別の艦の艦長となった為、機関長の席には徳川の息子の徳川太助がいた。そして、立場も役割も昔と同じなのは、通信長の相原だけだった。
航空隊も、加藤が本土防衛軍空軍に異動となり、古代は、本当は山本に隊長を務めて貰おうと思っていた。しかし、空母シナノの完成と共に、彼女から異動届けが提出された。
「長い間、お世話になりました。航空隊に転属させてくれたこと、一生感謝します」と言って敬礼した彼女は、一人ヤマトを去っていった。古代は悩んだ末、篠原を隊長に任命したのだった。
「随分、様変わりして、新人も増えたな。沖田艦長も、俺たちをこんな風に見てたんだろうな」
古代は、独り言を口にして、時の流れを実感していた。
コスモタイガーを飛ばす揚羽の側に、ガミラス空母から発艦した航宙機が一機接近してきた。
「こちら、ヤマト航空隊の揚羽。暫くの間、よろしく。よかったら、名前を教えてくれるかい?」
揚羽の問いかけに、ガミラスのパイロットは、短く応えた。
「こちら、空母ダレイラ偵察隊のルカだ」
通信機から聞こえてくる声は、女性のものだった。揚羽は、少しだけ驚いたが、ガミラスには凄腕の女性パイロットがいる噂も聞いていたので、違和感は無かった。
「よし、じゃぁ飛ばすぞ」
二機の偵察機は、速度を上げて一気に中立地帯へと飛び込んで行った。
そこは、一つの恒星系だった。二機が飛行する恒星系の外縁で、長距離レーダーに反応があった。
「こちら、ルカ。気をつけろ、何か接近してくるぞ」
揚羽の機体でも、機影を捉えていた。少しすると、通信が入ってきていた。その通信を受信すると、聞いたことのない言語で呼び掛けられた。応答しないでいると、今度は、聞き覚えのあるガミラス語だった。揚羽の翻訳機がやっと反応し、言葉がようやく理解出来た。
「こちら、アマール防衛軍だ。訪問の目的を述べよ」
どうやら、この恒星系の軍隊によるパトロールと思われた。ガミラス語で呼び掛けられたため、ルカが応答を返した。
「こちらは、ガミラス護衛艦隊所属のルカ。一緒のもう一機は、同盟国テロン軍所属のパイロットだ。ここへは、外交交渉にやって来た。我々の艦隊は中立地帯の外の宙域で待機している。攻撃の意図は無い。この宙域への進入の許可を頂きたい」
ルカは、簡潔に訪問目的を伝えた。相手は、少し沈黙し、何か確認をしているようだった。そして、暫くして、相手からの返事があった。
「貴君らの艦隊を監視衛星で捉えたので、我々はここへやって来た。まずは、君たちと面談し、いろいろ確認を取らせてもらいたいが、よろしいか?」
揚羽は、緊張しつつも、返事を返した。
「こちら、地球連邦防衛軍所属の揚羽だ。申し出を受け入れる。案内して頂きたい」
「承知した。我々についてくるがいい。近くの宇宙基地に案内する」
揚羽とルカの航宙機は、それほど遠くない場所に存在した宇宙基地に案内されていた。
その基地は、多くの異星の宇宙艦が接舷しており、そこが異星の人々が集う場所であることがすぐにわかった。
宇宙基地の内部に入り、それぞれの機体を降りた揚羽とルカは、そこで初めて顔を合わせた。
揚羽は、ヘルメットをとったルカが、頭を振って赤茶色の長い髪を翻すのを見た。
「何を見てる」
ルカが睨んで来た為、彼女に見とれていた揚羽は、少し赤面して目を反らした。
「何でもない。行こう」
二人は、少し離れたところで待つアマール防衛軍のパイロットの元に進んだ。
アマール防衛軍のパイロットは、少し色黒の肌の中東アジア人のような見た目の人種だった。
暫く一緒に基地内部を進むと、何人かの異星人がいる受付と思われる場所にやって来た。
「ここの受付で手続きを済ませれば、誰でもアマールを訪問出来る。ようこそ、我が国に」
案内してくれたアマール防衛軍のパイロットは、そう一言挨拶をして、その場を去っていった。
当惑した二人は、顔を見合わせて、恐る恐る受付に向かった。
受付のカウンターの向こう側に座る浅黒い顔のアマール人の女性は、一瞥してガミラス語で言った。
「そちらは、ガルマン帝国の方ですか?」
ルカは、自分に向けられた視線によって、ガルマン帝国人と思われていることを知った。
「いいえ。マゼラン銀河のガミラス星の者です」
訝しげな表情をした受付の女性は、次に揚羽の方を見上げた。
「そちらは?」
「私は、地球からやって来ました」
受付の女性はため息をついた。
「地球人は初めての訪問ですね。それにしても、最近はマゼラン銀河からの訪問者が増えて来ましたね。こちらの書類にサインをして下さい。すぐに入国許可証を発行します」
受付の女性は、少し大きめの板状の端末を差し出した。揚羽は、拍子抜けして、サインを書きながら言った。
「こんなにあっさりと許可をしてくれるんですか?」
受付の女性は、不思議そうな表情で揚羽を見上げた。
「あまり状況がお分かりじゃないようなので言っておきましょうか。このサイラム恒星系は、ボラー連邦とガルマン帝国に挟まれた中立地帯です。戦闘行為は禁止されています。我が国の軍はもちろん、それぞれボラー連邦とガルマン帝国の軍も駐留していますので、不法行為が目的の訪問は自殺行為です。その点をお忘れなきよう」
揚羽は、納得して返事をした。
「そういう事ですか。理解しました」
揚羽に続いて、ルカもサインをした。
「マゼラン銀河からの訪問者が増えているのか?」
「ええ。ガミラス星やザルツ星の方が時々訪れていますね」
ルカがサインを終えると、受付の女性は、IDカードを差し出した。
「必要に応じてそのIDを見せれば、大抵の所へは行けますよ。宇宙艦は、一隻だけお通り下さい。複数艦での訪問も禁止しています」
揚羽とルカは、受付の部屋の角に設置されていた通信機を使って、艦隊に連絡をした。
「こちら揚羽。訪問許可証を受領したので、星系に進入出来る。一隻しか通さないようなので、どの艦を使うか決めて入ってきて下さい。我々は、ここで待機しています」
少しして、相原が返事をしてきた。
「ヤマトで向かう。揚羽は、そこでそのまま待機していてくれ」
「了解です」
続く…
注)pixivとハーメルン、及びブログにて同一作品を公開しています。
注)但し、以前pixivに連載した小説の加筆修正版です。以前のpixiv連載版とは、一部内容が異なります。
注)ヤマト2202の登場人物は、役割を変更して登場しています。