それから更に数日後、アマール政府の異星交流担当事務次官のイリヤの仲介で、ガルマン帝国の大使館を訪問することが許された。
一行が応接室で待っていると、態度の大きな中年の男性がやって来た。
「我がガルマン帝国が、君らの星系でテロ活動だと?」
ガルマン大使のベラミーは、高笑いを始めた。
のっけから、キャッスルがその男に核心をつき始めたからである。その為、古代や、桐生美影と揚羽は、キャッスルの挑戦的な語り口に、そわそわと心配をしながら見守った。
一方、ランハルトやガゼル、そしてルカは、黙って事の成り行きを見守っていた。
キャッスルは、表情を変えず、微笑を絶やさず冷静に対応していた。
「ベラミー大使。そこまでは、我々も言っておりません。ただ、このような男たちが目撃されており、彼らの持っていた星図が、ガルマン帝国領を出発地点と指し示していたものですから」
キャッスルは、目撃されたテロ活動の犯人の写真を紙に出力したものをテーブルに広げた。
ベラミーは、一瞥して鼻で笑っていた。
「ベラミー大使。我々も、まさかガルマン帝国ともあろうものが、我々のような小国を気にするとは思っておりません。ただ、幾つかの証拠が、帝国領内の何者かが暗躍している可能性を示しています。そのような、政府の方針に反する活動を行うような組織は、是非とも取り締まって頂きたいのです」
ベラミーは、キャッスルの方を初めてまともに見つめた。
「我々は、ガルマン帝国との友好関係を望んでおります」
キャッスルはだめを押した。
ベラミー大使は、再び高笑いを始めた。
「ガルマン帝国の同盟国になりたいのなら、大歓迎だ。君の言っているテロ活動を行った組織だか星系だか知らぬが、我がガルマン帝国領内にあるのなら、すぐに調べさせよう」
ベラミーは、急に真剣な表情になって、キャッスルに言った。
「その代わり、是非とも、我らと一緒にボラー連邦と戦ってくれたまえ」
今度は、キャッスルが笑いだした。ベラミーは、一緒になって三度目の高笑いを始めた。
「ご要望は、承りました。さすがに、私の判断の及ぶことではありません。持ち帰って検討させて下さい」
「お話し中、失礼します」
話の途中で、応接室の入り口から、若い男女が入ってきた。そして、ベラミー大使と一行の席のテーブルの上に、お茶を並べ始めた。
明らかに、イスカンダル人の末裔と思われる男女が、黙ってお茶を並べていた。
キャッスルとベラミー大使は、互いに微笑を浮かべたまま、睨み合った。
「失礼しました」
男女が出ていってから、キャッスルは、ゆっくりとテーブルの上の写真を掴んだ。
「今の方々、どちらの星系の方ですか?」
ベラミー大使は、努めて冷静に語りだした。
「あの者共は、我々ガルマン人に古くから仕える使用人の民族、イスガルマン人だ」
ベラミー大使も、テーブルの上の写真を掴んだ。
「君の言いたいことはわかる。この写真の者に確かに似ておるな。調べさせよう。一部に、反抗的な者がいるのは、確かなのでな」
キャッスルは、にっこりと笑った。
「よろしくお願いします。我々も、今回のお話を持ち帰って検討致します。次回の会談を楽しみにしています」
「うわー、キャッスルさん、私、心臓がばっくばくでしたよ」
桐生美影が、キャッスルの横にやって来て、肘で脇をつついていた。
会談を終えた一行は、ガルマン帝国大使館を後にして、再びイリヤと話すため、アマール政府の庁舎へと歩いて向かっていた。
「はっはっは。出来る限りの事はやってみました。次回の会談の約束を取り付けたので、まずは成功と言っていいかも知れませんね」
その横にランハルトがやって来て言った。
「なかなかやるな。しかし、あんな約束、奴らは守る気がないだろうな」
「いいんですよ。我々だって、守る気が無いんですから。まずは、離れて顔も見えなかった国同士が、知り合いになった、ということが重要なのです。これで、会談を引き続き行うことが出来れば、容易にテロ活動など続けては来ないでしょう。そして、いつか政府の政治レベルの協議まで持っていければ、この危機も回避出来るかも知れない」
ランハルトは、少し心配になって言った。
「わからんぞ。逆に、本気で攻めてくる可能性だってある。奴らは、どうやら、お前たちをボラー連邦との戦争の駒にしたいようだからな」
その後ろを歩いていた揚羽は、ルカが浮かない顔をしているのに気が付いた。
「どうかした?」
ルカは、そう言われて、堰を切ったように話し出した。
「さっき、大使館で帰りにトイレに寄った時に見てしまったんだ。先ほど、お茶を運んできたイスガルマン人の女性が、頭から血を流して泣いているのを! あれは、ベラミー大使の怒りを買って、暴力を振るわれたのに違いない」
後ろを歩いていた古代も、その話しに興味を持った。
「ルカ少尉。それ、皆に聞いてもらった方がいいな」
前を歩いていたキャッスルやランハルトも立ち止まっていた。皆の注目を浴びた彼女は、静かに語りだした。
「わかりました。私が、トイレの個室から出ようとすると、彼女がやって来ました……」
ルカが、トイレの個室を出ようとしていると、後から入ってきた女性のすすり泣く声が聞こえた。気まずさも覚えつつ、ルカは個室を出ると、手洗いの鏡に映った彼女の頭から血が流れているのを目撃した。
ルカは、慌てて逃げようとする彼女の腕を掴んだ。
「待って、ひどい怪我だ」
ルカは、持っていたハンカチを出して彼女の流す血を拭き取った。
「いったい、どうしたのだ?」
「な、なんでもありません!」
「何でもなく無いだろう。貴女は、先ほど茶を運んだイスガルマン人だな? まさか、あのベラミー大使にやられたのか? よかったら、事情を話してくれないか。我がガミラスは、ガルマン帝国よりも、ずっと大きな強大な国家だ。何か力になれるかも知れない」
その女性は、ルカに渡されたハンカチで涙を拭うが、後から後から涙が溢れた。
「わ、私たちイスガルマン人は、遠い昔から、そして、これからもずっと、ガルマン人の奴隷なのです。気にする必要はありません。奴隷は、彼らに逆らって生きていくことは出来ないのですから。これが、私たちに与えられた運命なのです」
「一体、どうして? このような扱いに立ち上がって戦おうとする人はいないのか?」
彼女は、憂鬱な表情で言った。
「遠い昔、私たちイスガルマン人は、ガルマン人を奴隷にしていたそうです。ある時から、立場が入れ替わり、それまでの私たちの行いをガルマン人は許そうとしませんでした。そうして、私たちは彼らの奴隷になることで、罪を償っているのです。未来永劫、私たちの民族が滅びるまで、これは続くでしょう」
ルカは、救いの無い彼女の心を想い、手を握って寄り添うことしか出来なかった。
「心配なさらないで。救いなら、私たちにもあります。私たちガルマン帝国や、ボラー連邦で暮らす人々は、皆、マザー・シャルバートへ祈りを捧げます。いつの日か、私たち全員を救いに、マザーが現れてくれると。私たちは、それを心の拠り所にして、これからも耐えて行くのです」
ルカは、話し終えると自らも涙を溢れさせた。
「未来永劫、奴隷だなどと彼女は言った。決して救いなど来るはずもない信仰を拠り所にすると。私は、結局彼女に何もしてやれなかった」
そこにいた皆が、ルカの気持ちを痛いほど理解した。最初に、ランハルトが口を開いた。
「そういうことか。ガミラス人は、かつてイスカンダル人の奴隷だったということなんだな? だからといって、千年も昔のことを今でも引きずるとは、とても同じ民族だとは思えん。俺は、ガルマン人を絶対に許せない」
ガゼルは、ランハルトに言った。
「気持ちはわかるが、これほど大きな国家に戦争を仕掛ける体力は我がガミラスには無い」
「そんなことはわかっている。だが、イスカンダル人が、あのような不当な扱いを受けているのを、マゼラン銀河の皆が知ったらどうだ?」
熱く語るランハルトの背後に、ケールが血相を変えてやって来た。そして、押し殺した声で言った。
「大使。まずいです。引き返して下さい。アマール政府の庁舎を、ガルマン帝国兵が囲んでいます!」
その頃、アマール星の衛星軌道上にいたヤマトでは、不穏な動きを掴んでいた。
西条未来は、レーダーに多数の艦船が映って、ヤマトの周囲に集まってきているのを発見した。
「北野くん! 艦種不明の艦船三十隻、ガルマン帝国艦隊と識別! 囲まれてる!」
「何だって? おい、シンマイ! 波動防壁展開用意!」
「了解しました!」
桐生の代わりに第一艦橋にいた新米は、波動防壁の展開準備を指示した。
「艦長には、艦の安全を最優先にしろと言われているが、どうする? 艦長たちを置いて逃げるしかないのか?」
北野は、険しい表情で既にスクリーンに捉えたガルマン帝国艦隊の映像を睨んだ。そして、西条未来も、心配そうに北野を見つめていた。
続く…
注)pixivとハーメルン、及びブログにて同一作品を公開しています。
注)但し、以前pixivに連載した小説の加筆修正版です。以前のpixiv連載版とは、一部内容が異なります。
注)ヤマト2202の登場人物は、役割を変更して登場しています。