少し前――。
ガルマン帝国大使館では、大使のベラミーが、去って行く地球連邦とガミラスの一行を窓から見つめていた。
不機嫌な表情で振り返ったベラミー大使は、部屋に呼び出した軍の将校に言った。
「バスク少将、平和的なやり方で地球連邦を同盟国にする試みは難しいということがわかった」
バスク少将は、黙って冷ややかにベラミー大使を眺めていた。そして、静かな口調でベラミーに語りかけた。
「イスガルマン人にやらせた工作で、奴らをここに誘き寄せるのには成功している。交渉で懐柔するのが難しければ、次のプランに移るしかないな」
ベラミーは憤慨した。
「うちの使用人が、交渉の場にしゃしゃり出てきたせいだ。あの程度の連中にわしが舐められるとは!」
バスク少将は、冷徹な瞳でベラミー大使を見つめた。
「地球連邦は、急速に勢力を拡大し始めており、なかなか魅力的な戦力を持っている。我が西部方面軍が展開する宙域では、ボラー連邦が攻勢を強めており、戦線を維持する新たな協力者を求めていたところだ。今回の話し合いの状況を見守らせてもらったが、彼らの後ろ楯になっているガミラスの連中。はっきり言って、彼らは邪魔な存在だ。地球連邦に手出しをすれば、同盟国の彼らが黙っていないようだからな」
ベラミー大使は、気になっていたその事を尋ねた。
「ガミラスの扱いを軍はどうするつもりなんだ?」
「軍の情報部の情報によれば、マゼラン銀河を支配する強大な国家だということはわかっている。この天の川銀河にも進出していた時期もあったようだが、国内で民主化運動があってだいぶ混乱しているようだ。こっちに戦力を裂く余裕は無いはずだ。しかし、地球連邦の為にどこまで彼らが動くのかは未知数だ」
ベラミーは、もう一つ気になっていた事を聞いた。
「奴らが、我々と同じ民族だ、という噂については、何か情報はあるかね?」
バスク少将は、少し考えを巡らせているようだった。
「我々が、千年前にマゼラン銀河から移民して、ここにガルマン帝国を興したという伝承については、恐らく真実だと思っている。彼らの姿を見る限り間違いなさそうだ。しかし、そんな昔のことが、今の我々に何か関係があるかね? これが、真実だとしても、既に彼らと我々は別の民族だよ」
そこに、ガルマン帝国兵が部屋に入ってきた。
「バスク少将、西部方面軍司令部と連絡がつきました。プラン変更が承認されました」
バスク少将は、微笑を浮かべた。
「ありがとう。では、ベラミー大使。これから、忙しくなるので、失礼させてもらうよ」
そう言い残して、バスク少将は大使の執務室を出ていった。残されたベラミー大使は、ため息をついた。
「あの使用人ども。どうしてくれようか」
ベラミー大使は、暗い怒りを再び沸き上がらせていた。
アマール政府の庁舎では、庁舎を取り囲むガルマン帝国兵と、アマール軍の兵士が睨み合いを行っていた。
そこへ庁舎から出てきたアマール政府の関係者が抗議を行った。
「一体、どういうことですか? ここは、中立地帯です。戦闘行為は禁じられています」
ガルマン帝国軍を率いていたリーダーがそこにやって来た。
「申し訳ない。我がガルマン帝国に対する破壊工作を行う者がいるという情報が入って捜索している。数日前にアマール政府の庁舎を訪れたという情報があってね。少しの間、邪魔をするよ」
「ここで、騒ぎを起こせば、ボラー連邦だって黙っていないかもしれない。こんなところで揉め事は起こさないで欲しい。すぐに退去して頂きたい!」
「君もせっかちだな。少しの間だけだと言っているだろう。それよりも、アマール軍の兵士が、我々に銃を向けるのを止めさせて欲しいのだが?」
そこに、ガルマン帝国兵の伝令がやって来た。
「隊長! 発見しました。二ブロック先の通りを移動しています!」
「わかった! 皆、二ブロック先の通りだ。行け!」
数十名のガルマン帝国兵が、一斉に移動を始めた。
アマール政府の関係者と、アマール軍の兵士らは、唖然としてその様子を見守った。
「上に報告する。君らは、そのまま庁舎周辺の警戒を続けてくれ」
アマール軍の兵士たちが周辺に散らばるのを見守って、政府の関係者は庁舎に引き返した。
古代やランハルトを守るヤマトの保安部員は、彼らを庁舎とは別の方向へと誘導していた。
しかし、彼らを取り囲むように、ガルマン帝国兵が周囲から迫って来ていた。
「一体、どうするつもりだ?」
ランハルトは、兵士たちが自分たちに銃を向けるのを見た。
「ひぃ! ちょっと、まずいんじゃないですか?」
桐生美影は、小さく悲鳴を上げた。
「発砲する気配はありません。我々を捕獲するのが目的だと思います」
古代は、ランハルトに低い声で言った。
「何のために?」
ランハルトは、古代に問い返した。
そこに、ガルマン帝国兵のリーダーが近づいて来た。
「地球連邦とガミラスの者だな? 我々は、ガルマン帝国西部方面軍、アマール駐留軍の者だ。君らには、ガルマン帝国に対する破壊工作を企んだ疑いがある。我々と一緒に来てもらおう」
それを聞いた古代は、少し考えてからランハルトに言った。
「恐らく、適当な理由をつけて捕虜にして、地球連邦に対して何か要求するつもりでしょう。あなた方ガミラスに対しても同様だと思います」
ランハルトを守るように、彼の前に進み出たルカは、取り囲んだガルマン帝国兵の姿を見て、目を丸くした。そして小声で、ランハルトに報告した。
「デスラー大使。リーダーの男以外は、全員、イスガルマン人です」
ランハルトと古代は、確かに一般兵たちが、イスガルマン人なのを確認した。
「なるほど。危険な役目は、全てイスガルマン人にやらせているんだな」
ランハルトは、先ほど感じた怒りが、再び沸き上がるのを感じた。
「艦長! どうします?」
銃を抜いてキャッスルの傍にいた揚羽が叫んだ。その揚羽に、冷静に古代は返した。
「発砲するな。銃を下ろせ」
そんなやり取りをしている間に、ガルマン帝国兵のリーダーの目の前に、ゆっくりとガゼルが進み出た。
「おい、お前止まらんか!」
ガルマン帝国兵のリーダーは、銃を向けて慌てて叫んだ。
そのガゼルは、男が向ける銃口の目の前で腕を組んで仁王立ちしていた。そして、恐ろしい形相をして、その男に雷のような大きな声で言った。
「貴様ら、我々がマゼラン銀河を支配する大ガミラス帝星の者だと知って、このような愚行を犯しているのか! どれほど身の程知らずなことをやっているか、わかっておるのだろうな?」
そう言って、ガゼルは、周囲を鋭い眼光で眺めた。ガゼルと目があった者は、恐怖心を露にしていた。
そして、ガゼルはゆっくりとリーダーの男の方を再び真っ直ぐに睨み、低い声で言った。
「その銃を撃った瞬間、お前たちは大ガミラスとの全面戦争の引き金も引くことになる。その勇気があるなら、引き金を引いてみろ」
ガゼルの眼光が、リーダーの男とぶつかり、彼は震えだした。そして、その震えで銃を向ける方向が定まらなくなっていた。
古代とランハルトは、その様子を呆気にとられて見守っていた。
そこに、ガルマン帝国兵の背後から、バスク少将がやって来た。
「これはこれは。見たところ、ガミラス軍の将校とお見受けするが。我が軍の兵士が失礼をしたようだ。まずは、嫌疑を晴らすためにも、我々と同行頂けますか? 因みに、私は……」
バスク少将は、銃をガゼルに向けた。
「ガミラスなど恐れていませんよ?」
ガゼルとその将校は、そのまま睨み合った。
ガゼルは、ため息をついて言った。
「なるほど。どうやら、そのようだな」
「若い兵士を簡単に恐れさせるその威厳、感服致しました」
バスクは、振り返って全員を連行するように指示をした。
しかし、突然、そのバスク少将の足元に、何かが投げ込まれてきた。転がるそれを見たバスク少将は、慌てて大声を出した。
「伏せろ!」
しかし、それは爆発はせずに、大量に煙を吐き出した。数秒で辺り一面が見えなくなるほど、煙が充満した。ガルマン帝国の兵士たちは混乱し、中には発砲する者もいた。
「馬鹿者! 味方に当たるぞ、撃つんじゃない!」
バスク少将が叫んだ。
煙の中、さすがに慌てたガゼルの腕を、突然誰かが掴んできた。
「こっちだ!」
その誰かは、ゴーグルとマスクを着けており、ガミラス軍の制服を着ていた。その男は、古代やランハルトにも声をかけて、全員を誘導していった。そして、煙の中から抜け出すと、一気に走り出した。そして、少し離れたところに、ガミラス軍の揚陸挺が駐機していた。
「急げ! 脱出するぞ!」
全員が、揚陸挺に乗り込むとすぐにそれは発進した。
一行は、揚陸挺の後部の兵員用の座席について一息ついた。
「助かったー!」
息を切らしていた桐生美影が、真っ先に言った。
少し落ち着きを取り戻したガゼルは、連れ出してくれた男に礼を言った。
「助かったぞ。我が空母は、いつの間にこの星まで来ていたんだ?」
男は、ゴーグルとマスクを取った。
「お、お前……」
その男、フラーケンは不適な笑みを浮かべて言った。
「ずいぶんご無沙汰だったな、提督」
揚陸挺は、アマールの上空に向けて急角度で上昇を続けた。しかし、地上から、ガルマン帝国軍と思われる航宙機が上がってきていた。
「隊長! 不味いです! 奴ら追ってくるみたいです!」
操縦席からの声に、フラーケンが返答した。
「飛ばせ! 絶対に追い付かれるな!」
「これ、戦闘機じゃないんですよ? 無理です」
「それを何とかするのが、貴様の役目だろう!」
泣き言を言う彼に、フラーケンは叫んだ。
古代は、コックピットから聞こえる声が、薮のものと気が付いた。
「薮! 今まで一体、何をやっていたんだ?」
古代は、薮に声をかけた。
「ごめんなさい! でも、今それどころじゃないです!」
見かねたルカが、後部座席から立ち上がって、急いでコックピットに入っていった。副操縦席に滑りんだルカは、薮に言った。
「私に代われ! 早く!」
「あ、あんた、誰?」
「早くしろ! 死にたいのか!」
薮は、頭をぶるぶると振って、操縦桿から手を離して、操縦を副操縦席に渡した。
「全員、シートベルト着用!」
ルカが大声で叫んだ。その直後、上昇をしていた機体が、大きく傾いた。
地表から上がってきたガルマン帝国軍の戦闘機は速度が早い為、急角度で方向を変えた揚陸挺を、一気に追い越して行った。
そこでルカは、機体を立て直して、大気圏脱出用のブースターに点火した。シートベルトを装着した一行は強烈なGを感じていた。機体は、再び急角度で上昇して行った。旋回して戻ろうとしていたガルマン帝国の戦闘機は、今度は逆に揚陸挺に追い越されてしまった。
「おい、お前、名はなんと言う?」
操縦桿を力一杯引き寄せながら、ルカは薮に声をかけた。
「や、ヤーブです」
「よし、ヤーブ! 大気圏外に出たら、どこに行けばいい? 母艦の位置をナビゲーションしろ!」
「あ、あっちです」
「あっち? ずいぶんと適当な指示だな? お前、それでもパイロットか!」
「ほ、本業は機関士なので……」
「はあ?」
アマール星の軌道上では、ヤマトは三十隻程のガルマン帝国艦隊に囲まれていた。
ヤマトのスクリーンには、ガルマン帝国艦隊の指揮官が映っていた。
「地球連邦の艦船に告ぐ。ガルマン帝国西部方面軍、アマール駐留艦隊司令官のキトロである。お前たちの降ろした乗員が、地表で我が帝国への破壊工作を行おうとしていた疑いがある。今すぐ、我々の臨検に応じるのだ」
北野は、そのキトロ司令とスクリーンを介して対峙していた。
「こちら、地球連邦防衛軍航宙艦のヤマト副長の北野だ。我々は、外交交渉を目的にやって来た。そのようなことはするはずがない。申し訳ないが、臨検は拒否する!」
キトロ司令は、不敵な笑みを浮かべていた。
「臨検を拒否するのか? ならば、強制的に停船させて乗り込ませてもらうしかないな」
新米は、センサーの表示を見て叫んだ。
「敵艦隊の武器システムが一斉に稼働したと思われます!」
北野は、歯を食い縛って相手を睨んだ。
「一分だけ待ってやろう。大人しく臨検を受けるか、その間に決めたまえ」
唐突に通信が切れた。何も映っていないスクリーンを、北野は見つめ続けた。
「副長! 艦長に連絡がつきました!」
相原が突然報告してきた。
「本当ですか、相原さん! 艦長たちは今どこに?」
相原は、古代と会話をしているようだった。
「や、薮? はい、はい……」
相原は、北野に再び報告した。
「艦長たちは、地上でガルマン帝国軍に捕まりそうになって、脱出してきたそうです。間もなく大気圏外に出るそうです」
北野は、期待を込めた眼差しで、西条未来の方を振り返った。
「レーダーにも捉えました。ガミラス軍の揚陸挺が、すぐ近くに上がって来ます!」
北野は、それを聞いて決意を固めた。
「よし、その近くに行くぞ! 太田さん、頼みます!」
「了解、よーそろー」
ヤマトは、補助エンジンを咆哮させて、ゆっくりとその場を離れた始めた。
「司令! 敵艦が移動を始めました」
キトロ司令は、その動きに呆れていた。
「この数の艦隊に囲まれて、逃げられると思っているのか? 沈めるつもりではなかったのだが、仕方がない。全艦、後部エンジン噴射口を集中して狙え! 攻撃開始!」
「攻撃、来ます!」
敵の艦隊の陽電子砲が、一斉に火を吹こうとしているのを新米は感知していた。それを聞いた北野は、即座に指示をした。
「波動防壁、展開開始!」
「了解、波動防壁展開します!」
北野は、続いて指示を出した。
「太田さん、古代さんたちが乗る揚陸挺に、攻撃が当たらないように、盾になるように移動してください!」
「任せろ!」
太田は、レーダーと連動して表示される三次元モニターを見ながら、舵を切った。
その時、ガルマン帝国艦隊が発射した陽電子砲のビームが、一斉にヤマトに着弾した。いずれも、ヤマトの波動防壁に阻まれて、全く効果を与えなかった。
「全弾命中! ……敵艦は無傷です!」
「なんだと?」
キトロ司令は、その報告に驚いていた。
「何か、バリアのようなものを展開しているようです」
「バリアだと? 何という忌々しい船だ。全艦、そのまま攻撃を続けろ!」
ルカは、大気圏に飛び出した途端、激しい攻撃が飛来していることを確認した。
「見ろ! ヤマトが、攻撃されているぞ!」
そのヤマトは、ゆっくりと揚陸挺に覆い被さるようにして航行していた。
「ヤマト……」
薮は、その懐かしい姿に郷愁を覚えていた。
「ヤーブ!」
フラーケンは、薮に声をかけた。
「は、はい! ハイニ副長、こちらヤーブ! 今すぐ浮上して下さい!」
薮が通信機で呼び掛けると、その相手が応答してきた。
「お、おう。ヤーブ、何か、そっちやばくね?」
「いいから、早く!」
「しょうがねぇなぁ。おい! 野郎ども、次元タンクブロー!」
十数秒後、ゆっくりと次元潜航艦が異次元から姿を現した。
「レーダーに感! 目の前にガミラス軍の次元潜航艦が現れました!」
西条未来が驚きの声で叫んだ。
「次元潜航艦だって?」
北野も、目前に次元潜航艦が現れたのを目撃した。
「太田さん!」
「わかってる!」
ヤマトは、その場で急制動をかけて、右舷に旋回して停止した。敵艦の陽電子砲から、今度は次元潜航艦を庇っていた。
フラーケンは、ルカに叫んだ。
「次元潜航艦の後部に接舷しろ!」
「了解!」
揚陸挺は、急激に速度を落として、次元潜航艦の後部甲板に接舷した。
「ハイニ! 急速潜航!」
フラーケンは、操縦席までやって来て、副長のハイニに指示をした。
「了解、隊長。おい、ベント開け!」
次元潜航艦は、急速に潜航を始めた。
ヤマトでも西条未来は、次元潜航艦が完全に潜航したことを確認した。
「副長、次元潜航艦、レーダーから消えました!」
北野は、すぐに徳川に指示をした。
「徳川! 波動エンジン始動! 俺たちもアマール星を脱出するぞ!」
「了解!」
徳川太助は、機関室に艦内通信で伝達した。
「波動エンジン、全力運転だ。急げ!」
やがて、ヤマトは波動エンジンを咆哮させて、アマール星を離れ始めた。
「北野くん! ガルマン帝国艦隊が追って来る!」
「わかった!」
北野は、冷静に太田に言った。
「太田さん、ワープして星系外のガミラス艦隊と合流しましょう」
「了解、副長」
太田は、北野に親指を立てて付き出してきた。
「お前も、指揮官らしくなったな」
太田は、ワープの準備を進めながら言った。
「そ、そうですかね?」
「未来ちゃんは、北野をちゃんと副長、って呼ばなきゃダメだぞ」
太田は、西条未来の方を振り返ってにやりと笑った。
「あ、そ、そういえばそうですね……ごめんなさい、北野くん、じゃなかった、副長」
「あ、ああ。西条さん、俺は別にいいんだけど……」
「はいはい、その話は後でね! ワープ十秒前!」
ヤマトの後方から、陽電子砲のビームが次々に飛来していた。
しかし、ヤマトがワープした為、虚しく虚空にビームが伸びて行った。
続く…
注)pixivとハーメルン、及びブログにて同一作品を公開しています。
注)但し、以前pixivに連載した小説の加筆修正版です。以前のpixiv連載版とは、一部内容が異なります。
注)ヤマト2202の登場人物は、役割を変更して登場しています。