‥調子乗りました。
新章です。
【26】子供の想いと大人の覚悟
「おはようございます、千雨さん」
「‥おはよう。珍しいな、お前がここに来んのは」
修学旅行の翌日、日曜日。
千雨の寮部屋には何故か茶々丸がやってきていた。
何でもエヴァンジェリンが千雨に用があるらしい。
昨日も夜遅かったのでまだ寝ていたかったのだが、呼び鈴の音で起きてしまった千雨。
あの吸血鬼、安眠妨害だ。
「ていうか自分から来いよあいつ」
「マスターは花粉症なので外に出たくないそうです」
「‥弱点多いな」
花粉症にかかったことのない千雨は花粉症の辛さがわからないが、一種のアレルギー反応だと聞いたことがある。
本人にはどうしようもないというものだろう。
普段なら魔法で無理矢理どうにかしてしまいそうだが、ナギのせいでそれも無理だ。
仕方なく身支度をして、茶々丸と一緒にエヴァンジェリン邸へと向かう。
「アイツ、なんの用だ?超といいエヴァンジェリンといい、人を呼び出すのが好きなのばかりだぜ」
「何でも、幼少期の詳しい話が聞きたいと。他にもいくつか用が。昨日の写真の件で千雨さんが
「‥もうお構いなしだな、エヴァンジェリン」
「千雨さん!茶々丸さん!おはようございます!」
「おはよー」
「ん‥」
「おはようございます、ネギ先生、明日菜さん」
森に入ったところでネギと明日菜に出くわす2人。
どうやら皆目的は同じらしく、同じようにエヴァンジェリン邸へと歩く。
ただ、ネギの妙な気合の入り方に違和感を覚える。
「千雨さんもエヴァンジェリンさんのところに?」
「呼ばれてな。お前らは?」
「僕がエヴァンジェリンさんに用があって‥」
「?」
「エヴァンジェリンさんに弟子入りしようかと」
「‥‥‥いや、やめとけ。な?百歩譲って学園長くらいにしとけ」
明日菜もカモも驚いた表情をしてる。
1人で考えて決めていたらしい。
確かにこの学園で一番魔法に長けているのは誰かと言われたら間違いなくエヴァンジェリンだろう。
千雨はおろか、近衛近衛右門ですら年季でも実力でも負ける。
だが、その本人の性格と性質に問題がある。
悪の魔法使いを自認し、何をしでかしたかまでは知らないが600万ドルの賞金首。
ネギがその悪影響を受けないとも限らない。
(‥いや、流石にそれはないか)
だが、ネギが魔に魅入られたらと思うとやはり躊躇するものがある。
「‥ま、とりあえず行ってみるか‥」
「ええ!?千雨ちゃん良いの!?コイツ!!」
「うーん‥。ま、大丈夫だろ。なんだかんだ言ってアイツ甘いしよ‥ポンコツだし。なんかあったらお前がやれ」
「他人任せ!!」
慌てる明日菜を放って先に行く千雨。
ネギも申し訳なさそうな顔を少し見せたが、譲る気はなさそうだ。
今回の修学旅行では、同年代の小太郎にボコボコにされたらしいし、フェイトにも明日菜がいなければ恐らくやられていた。
力不足を痛感したのだろう。
修行をエヴァンジェリンにお願いするのは、確かに強くなる近道の一つかもしれない。
「ま‥だからと言って受けてくれるとは限らねーんだが」
「当然だバカ者。なぜぼーやの敵である私がそのぼーやを弟子にせねばならん!?」
ソファで鼻水を啜るエヴァンジェリン。
花粉症とは本当らしい。
魔力も封じられ、学園からも基本出られず、更に花粉症にまでかかる。
「‥不憫な奴」
「何だ?その目は‥‥釈然とせんぞ」
「心配すんな、ナギって馬鹿だなって思っただけだ」
「‥全くもってその通りだ。珍しく気が合うな」
ぬいぐるみと一緒に座っていたチャチャゼロを抱えた千雨。
チャチャゼロに強請られただけだが、手持ち無沙汰を紛らわすくらいにはなっている。
とりあえず、千雨の用よりも先にネギの用を済ませようとネギがエヴァンジェリンに弟子入りを頼んだが、まず一言で断られる。
ネギとは敵同士、ナギにも恨みがあるからと。
そもそも弟子を取ったことがないという。
確かに、エヴァンジェリンの今までの立場を考えると弟子など取れるはずもないだろう。
「ん?じゃあタカミチはどうしたんだよ。タカミチに咸卦法を教えたんだろ?」
「厳密に言うと教えたわけじゃない。修行の場を与え、暇潰しに助言を幾つかやったくらいだ」
「つまり、弟子は取れるんだな?」
「‥‥取る気になればな」
場所と助言が提供できれば十分だろう。
そこまでエヴァンジェリンに言わせ、ネギの方を向く千雨。
後はお前が説得しろ、と。
こくりと強く頷き、エヴァンジェリンの前で膝をつくネギ。
「チッ、わからん奴だな。大体、魔法なら千雨かタカミチにでも習えば良かろう!」
「タカミチは海外によく行って学園にいませんし‥千雨さんは厳密に言えば魔法使いではないそうです」
「まあな。そもそも始動キー設定してないしな。普通の魔法使いじゃない。ネギに教えられる自信はねーな。私も誰かに戦い方を教えたことなんてないし」
「はい。何より京都での戦いをこの目で見て、魔法使いの戦い方を学ぶならエヴァンジェリンさんしかいないと!」
ピクリ、と一瞬止まるエヴァンジェリン。
単純に嬉しいのだろう。
宿敵とは言え、想い人の息子である。
ネギに少なからずナギの面影を見ているはずだ。
「‥ほう。つまり、私の強さに感動したと」
「ハイ!」
「‥‥本気か?」
「ハイ‼︎」
エヴァンジェリンの小さな口角が上がる。
何か良からぬことを考えてる証拠だ。
「‥‥よかろう。そこまで言うならな」
「え‥‥‥」
「ただし‥!ぼーやは忘れているようだが、私は悪い魔法使いだ。悪い魔法使いにモノを頼む時はそれなりの代償が必要だぞ‥‥」
「ん?」
「おい‥」
ソファのクッションに肘を置いた手で顔をつき、足を組み、膝を付いたネギの方に裸足の右足を向ける。
背景に闇が浮かぶような笑みでネギを見る。
「まずは足をなめろ。我がしもべとして永遠に忠誠を誓え。話はそれからだ」
「アホかーッ!!!」
「へぶぅ!!?」
「はやいっ」
千雨が声をあげる前に、なんと明日菜が先に自身のアーティファクトを取り出してエヴァンジェリンの顔を叩いてぶっ飛ばしていた。
素早い行動である。
しかも魔法障壁を一撃で叩き割っている。
とんでもない魔法使いキラーだ、と舌を巻く千雨。
千雨が苦労して会得した斬魔剣・弐ノ太刀の立つ瀬がない。
「何突然子供にアダルトな要求してんのよーっ!!」
「あああああ神楽坂明日菜!!!弱まっているとはいえ真祖の魔法障壁をテキトーに無視するんじゃないっ!!」
「すげー‥姐さん」
「いや、神楽坂がやらなかったら私がやってたぞ‥ネギの年齢考えろ、600歳」
ススス‥とネギを手繰り寄せる千雨。
危ない奴めという目でエヴァンジェリンを見ている。
そこまで言って、千雨も修学旅行でエヴァンジェリンほどのレベルではないとはいえ、ネギに一つやらかしたことがあったと思い出し、自己嫌悪に陥る。
ネギも少し顔が赤い。
2人して同じことを思い出したようだ。
カモが少し悪い顔をしていたので明日菜の肩から取り上げ、睨む。
「黙ってろよ」
「う、うい。‥え、何を?」
「‥そういや、エヴァンジェリンにはネギと契約したこと言ってねーなと思ってな」
「いやでも‥‥バレると思うぜ?明日菜の姐さんだって知ってるしよ」
「ケケケ。ソモソモ俺ガ聞イテルゼ」
「うっ‥。‥まあいいか。仮契約を解約する訳でもないしな」
「そーそー。そういや、どういうアーティファクトなんだい?出たんだろ?」
「また今度な、また今度」
「ち、千雨さん。やはり、エヴァンジェリンさんは受け入れてくれないでしょうか?」
「さーな。正直なところどうでも良いはずなんだけどなぁ。それにコイツ、年がら年中暇だろ?受けてくれると踏んでた」
「アア、多分受ケルゼ。条件ハ付ケルダローガナ」
「じょ、条件ですか‥。‥‥脚をなめなきゃダメでしょーか?」
「忘れろ、な?」
ネギに変な考えを植え付けてはいけないと頭をぐりぐりと撫でる。
どんな条件かまではわからないがな、と明日菜と取っ組み合いをしているエヴァンジェリンを見る。
茶々丸は黙って録画モードで、完全に止める気がない。
取っ組み合いを続けていた二人が皆の視線に気づき、ハタと止まる。
明日菜の頬を引っ張ったまま、こほんと咳をする。
「わ、わかったよ‥。今度の土曜日、もう一度ここへ来い。弟子に取るかどうかテストしてやる。それでいいだろ?」
「お‥」
「オ‥」
「は、はい!ありがとうございます!」
これでまずは一安心、と嬉しそうな顔だ。
エヴァンジェリンがネギの師匠というのは少し不安があるが、師匠がラカンだった千雨ですら無事に強くなって育ったのだ。
何とかなるだろう。
ネギにどれだけの試練が降り注ぐかは知らないが。
「さて‥次は貴様だ。その前に、ぼーやの修行の話だが‥もしぼーやが弟子となった時、貴様に条件があるぞ千雨」
「あ?」
「貴様もぼーやの修行に来い。手伝え」
「‥‥はあ?何で?」
「私一人だと面倒だろう。魔法だって満足に使えないんだ。そのくらいの面倒は背負え」
「‥ま、良いか。パートナーだしな」
「な、なに?何と言った?」
「いや、だから一応パートナーだし‥‥なあ?」
「は、はい」
千雨がぽりぽりと頬を掻き、ネギもはにかみながら頷く。
途端にエヴァンジェリンの目がジト目になる。
「‥‥節操なしめ」
「帰るぞネギ」
「おい待て!話があると呼び出したのを忘れたか!?」
「ああ忘れたな」
「ええい待たんか!貴様、超から話を聞いたんだろう!?アーティファクトの話だ!というかそれがぼーやとのアーティファクトだろう!?」
「ちっ、それもかよ‥。先に帰ってろネギ、神楽坂。話終わったんだろ?」
耳まで赤くした千雨がひらひらと二人(と一匹)に手を振り、空気を読んだ二人がエヴァンジェリン邸を出て行く。
落ち着いた千雨が、
「それか」
「ああ。‥ん?」
「ふう、昨日ぶりです、ちうさま!」
人間のネギではなく、電子精霊のねぎがひょこりと千雨の前に浮かぶ。
敬礼をしてるつもりなのか、小さな黄色い手が顔に添えられている。
次々とねぎの後に出てくる六匹の電子精霊。
「‥お、おお」
「昨日は素敵な名前をありがとうございました!」
「感無量ですちうさま!」
「いや、名前をつけたの超だしな‥」
「‥なんだ、喧しそうなアーティファクトだな」
「いや、私もな‥アーティファクトを手に入れて、まさか手下が出来るとは思わなかった」
ちなみに名前は超がおでんにちなんで名前をつけた。
ただ、名前に4文字制限が付いていたのだけが誤算だったらしいが。
日々アップデートされて自己進化できる上位電子精霊の癖して名前4文字って何だ。
「まあ良い。貴様の話はアーティファクトの件がてら聞く。‥早速始めるぞ」
「ここでか?んなわけねーよな」
「下に来い。ダイオラマ魔法球がある。中には私の別荘が建築済みだ」
「ほう?それを個人で所有してる奴は初めて見たぜ。以前、帝国の皇女が帝国の宝物庫から持ち出してるのは見たことあるが‥」
「‥‥貴様、どんなコネクションを持ってるんだ?」
「親父に言え」
やはりラカン繋がりだった。
ジャックのものをそのまま受け継ぎそうだな、と第二のラカンの誕生を予見するエヴァンジェリン。
ねーよ、とすぐに否定する千雨。
あんな筋肉達磨になりたくない。
外見だけではなく内面も。
ネグリジェのまま地下へと続く階段を降りるエヴァンジェリン、その後を歩く電子精霊を従えた千雨、チャチャゼロを抱える茶々丸。
後ろの二人は用はないが、チャチャゼロが見学という名の暇潰しを希望し、それを叶える為の茶々丸だ。
「なるほど‥確かにダイオラマ魔法球だ。中は‥夏か、メインが」
「他にもいくつか環境は用意できるが‥基本的には初夏の城にしか用がない。この城は実際に昔使っていた城だ」
「‥‥お前、ダイオラマ魔法球に城を入れたのか?そんなことまでできるのか?デタラメだろ」
「ふっ、少しは尊敬の念を持て」
「‥うーん、これは確かに‥やるな。こんなことできる魔法使いは滅多にいねーだろ。帝国だってダイオラマ魔法球には建造物なんて入れてなかったぞ」
素直に話す千雨。
これに対し、先程のネギの言葉同様にピクリと反応するエヴァンジェリン。
まさかこの女が素直に人を褒めるとは。
下手なことを言わなければ何も言わないのかもしれない。
「ま、まあいい。入るぞ」
「何だ?照れてんのか?」
「ぐっ‥口の減らん奴だ!」
「このような関わり方をする人が珍しいのでしょう」
「ええい違う!入るぞ!」
「はいはい」
ぷりぷりと怒るエヴァンジェリンが、ダイオラマ魔法球に吸い込まれていく。
千雨も同様にエヴァンジェリンに続き、茶々丸も入っていく。
茶々丸に抱えられるチャチャゼロは、ここ最近の主人の変化を少し楽しんでいた。
千雨の影響か、ネギの影響か、それとも明日菜か。
多分全てだろう。
闇から遠ざかっていくのかもしれない。
少なくとも殺戮の日々に戻ることはなさそうだ。
世間一般ではサウザンドマスターが
エヴァンジェリンは世間では行方知れずとなっているのだ。
だが、それも悪くない。
もし本当にネギがエヴァンジェリンの弟子となり、千雨が今のようにエヴァンジェリンと研鑽を続けていくなら。
エヴァンジェリンにとっては決して悪いことではないし、もしかしたら自分にとっても。
(ケケケ‥。マ、良イ暇潰シニハナルナ。人死ニハ見レナクナルダロウガ‥‥悪カネーナ、コイツト斬リ合エルンナラ)
「ヨオ、俺トモヤローゼ」
「‥何のことだっけか?」
「ケケケ、妹ヨ、ナイフ持ッテキナ」
「待て待て待て待てお前動けんの‥‥動けんのか!?」
********************
四日後の朝、木曜日。
千雨は何故かアーティファクトの修練のついでだと言われて、エヴァンジェリンの見回りの仕事を手伝わされていた。
「いやおかしいだろ!?」
「たわけ、私に対する仕事の報酬だ」
「超からどうせ貰ってんだろ!?ていうかアイツだろーがアーティファクトの話を受けたのは!!」
「フン‥貴様のアーティファクトはいわば科学と魔法の融合の産物のようなものだ。それを貴様が魔法寄りにしようとしてるんだ。それに一早く気づいて私に押し付けた奴は流石と言える。癪だがな」
「ったく‥眠いっつーの。別荘貸せよ、寝てから学校行くからな」
「ふん‥アーティファクト解析に10時間は使うぞ」
「俺ニモ時間寄越セ」
「‥ま、いいか‥」
すっかりエヴァンジェリン一派に千雨は慣れてきたと観察する茶々丸。
初日は結構文句が出ていたが、今ではチャチャゼロとの剣戟の最中ですら雑談を交わす。
「ん?‥おい、ありゃネギじゃねーか?」
世界樹の広場の方に出てきた一行だが、石壁の上で体を動かす少年が目に入った。
千雨の言葉通り確かにネギ本人だ。
「む?こんな朝に何をやってるんだあのぼーやは」
「八極拳の型の鍛錬に見えます」
「八極拳‥‥カンフーか?」
「そーいや、古菲の奴も八極拳を使えたなぁ‥」
「なにぃ?‥‥あのガキ、私に弟子入りを頼んでおいてカンフーに鞍替えか?」
「あのフェイトとかいうガキも中国拳法使ってたな。実際、実践的な武術が多いし歴史は古いし、使い手が多くても不思議じゃねーが」
「‥‥なるほど。それでか」
「ケド、ドーセ気ニクワネーンダロゴ主人」
「‥ふん」
しばらく眺めていると、集中するネギの背後から誰かが近づいていくのが見えた。
新体操部のまき絵だ。
そういえば、エヴァンジェリンに操られた一人でもある。
エヴァンジェリン本人には全く悪びれた様子がないが。
「ふん。行くぞ‥」
「ん?ああ‥」
ぞろぞろとネギたちの元へ近づく千雨たち。
「ずいぶんと熱心じゃないかぼーや」
「あ、おはようございます。お仕事ですか?千雨さんまで‥」
「あれー?エヴァ様、茶々丸さん千雨ちゃんおはよー」
「エヴァ‥さま?」
「おはようございます」
ネギは汗をかきながら笑顔で挨拶するが、対するエヴァンジェリンはムスッとした顔だ。
あーあ、と憐れむような表情の千雨。
ちなみに憐んでいるのはネギとエヴァンジェリンの両方である。
ネギの方は全ての苦労(主に明日菜の)が水の泡となることに、エヴァンジェリンの方は折角の遊び相手が取られたことにだ。
「
「ゔぇぇっ!?」
狼狽えるネギに首を傾げるまき絵、拗ねた様子のエヴァンジェリン。
折角かの英雄の息子が弟子入りを申し出てきたのに、それを取られた気分になっているのだろう。
「‥つまり、ヤキモチですか?」
「そーいうこったな」
「ええい違う!黙っていろポンコツ従者に間抜け下僕!!」
「誰が下僕だ!!なってねーよ!」
エヴァンジェリンを文字通り振り回す千雨。
あわあわするネギと不思議そうな様子のまき絵は完全に置いてきぼりだ。
その間にネギに事情を訊ねるまき絵。
エヴァンジェリンになにかの弟子入りをしたいネギと、それを断ろうとしてるエヴァンジェリンという構図までは掴んだらしい。
すぐにエヴァンジェリンに訊ねる。
「ちょっとーエヴァちゃん。なんでネギくんにイジワルするのー?弟子にくらいしてあげれば良いのに。何の弟子かは知らないけど‥」
「ヤキモチだそうです」
「ちがうっつーのコラ!!」
「ケケケ、面白レー様ダナ。ソンナ気ニ入ッテンノカアノガキ」
「一目瞭然だろ」
千雨に首根っこ掴まれたままのエヴァンジェリンが茶々丸を掴んで揺さぶる。
既に千雨から抜け出すのは諦めたらしい。
「フン、子供の遊びに付き合う趣味はないんだよ。お前のような
「な゙っ‥」
「おっ、フルネームちゃんと覚えてるんだな」
「クラス編成の時に自己紹介されてましたから」
「律儀な奴」
ワナワナと震えるまき絵。
どうやらガキと言われて怒ってるようだが、こんなことで怒る奴だっけ?と首を傾げる。
普段バカレンジャー呼ばわりされてもバカピンク!と返すくらいにはノーテンキなのに。
何かの地雷だったかもしれない。
「何よーエヴァちゃんだってお子ちゃまみたいな体型じゃん!!フーンだ、いいもんねー!ネギくん
「オイオイ‥」
「え、ちょっ‥まき絵さ‥」
「ぬ゙っ‥」
無意識のようだが、エヴァンジェリン戦のことを言っているらしい。
どこかに記憶が残ってるのか。
そういえば、そもそも記憶消去をかけたわけじゃない。
吸血鬼化の治療を受けただけだ、しかもネギの。
「おい、佐々木‥お前が話すとややこしくなるからよ‥」
「そーいえばなんで千雨ちゃん、エヴァちゃんたちと一緒にいるの?」
「頼まれごとしてるだけだ‥お互いにな」
「いいだろう‥」
「ん?」
「ぼーや、たった今貴様の弟子入りテストの内容を決めたぞ」
「は?」
何を言い出すんだこの金髪チビ、と見る千雨。
ネギもごくりと唾を飲んでエヴァンジェリンの発言を待つ。
「そのカンフーもどきで茶々丸に一撃でも入れてみるがいい。それで合格にしてやろう。ただし一対一でだ。千雨や神楽坂明日菜の手伝いもなしだ」
「おい、エヴァンジェリン‥そりゃお前‥」
「いーよ♪わかった‼︎ネギくんならそんなの楽勝だよ!」
「お前が承諾してどーすんだ!」
「ま、まま、まき絵さん!」
スパァン!とまき絵にツッコミする千雨に、涙が出るネギ。
すると、エヴァンジェリンに無理矢理促された茶々丸が動く。
機械の身体が魔力駆動で動き、素早い踏み込みでネギの懐へ一歩で到達する。
「!!」
「へ?」
すぐに構えるネギだが、流石に遅い。
身体の前面に腕全体を使った打撃をくらい、壁まで吹き飛ぶネギ。
あちゃあ、と目を瞑る千雨、オホッと笑うチャチャゼロ。
「ね、ねねね‥ネギくん!?」
「茶々丸に一発も入れられないようなら、どの道貴様に芽はない」
「おい‥無理だろこれ。いくらなんでも茶々丸じゃあ‥」
「心配するな‥テストは次の日曜日。時刻は午前0時にまけてやる。場所はここだ。それと、千雨‥貴様は一切口出しするな。貴様が何かしらの技能や裏技を仕込まんとも限らん。これはぼーやの才を見るテストでもある」
「そりゃわかるけどよ‥」
「それに、多少情けはかけてやっている。‥いくぞ」
これで情け‥?と疑問に思うまき絵。
そんなまき絵には目もくれず階段を登っていくエヴァンジェリン。
ネギを見遣った後、溜息を吐いてエヴァンジェリンを追う千雨、ネギに一礼してから歩き始める茶々丸。
世界樹の広場にそのまま出るが、前から来た明日菜、刹那、古菲の3人と出くわす。
「あれ‥エヴァちゃんじゃん」
「おはようございます」
「おはよーアル!朝早いアルねー」
「バカ者‥私は今から寝るんだ」
「私もな」
「へー?」
「学園の警備のお仕事ですよ」
「あ、そういえばそんなこと前言ってたっけ‥。‥アレ?あそこで倒れてるのネギじゃないの!?」
この暗闇の中、100mも離れたネギたちを目に捉える明日菜。
どういう視力してるんだ、と呆れるエヴァンジェリンたち。
「‥おい、中国娘」
「む?」
「せいぜいぼーやを鍛えるんだな‥」
「うむ!トーゼンアル!‥‥あり?なんでエヴァにゃんがそのこと?」
「マスター‥やはりヤキモチ」
「しつこいぞ!」
「ケケケ、顔赤イゼ」
スタスタと早歩きするエヴァンジェリンを、そのまま追う従者二人。
なお、エヴァンジェリンの歩幅が小さい為すぐに追いついてしまう。
残った千雨が、明日菜に声をかける。
「おい、神楽坂‥」
「ちょ、千雨ちゃん!?何があったの!?」
「ネギのことよく見とけよ、アイツ‥放っておくとその内遠くに行っちまうような無茶をするぞ。こんな朝っぱらから‥。あと、茶々丸は表の達人クラスよりも余程強いってことだけ言っとく」
「なんのこと!?」
「今回私は手伝えないってことだ。あとはネギに聞け」
そのまま歩き去る千雨。
首を傾げるが、とりあえず先にネギのところへ向かう三人。
そこでネギを介抱するまき絵に話を聞き、エヴァンジェリンへの弟子入りのテストの内容を知るのだった。
「え、ええ〜〜!!茶々丸さんに、一撃って‥」
「‥ふむ。千雨の言葉は‥そういうことアルか!」
「成程‥厳しい、かもしれませんね」
「や、やっぱりそうでしょうか?」
顔を一番顰めたのは刹那だ。
学園警備の仕事で何度かエヴァンジェリンと共に仕事をしたことがあるが、その際に茶々丸の腕前を知った。
ミサイルやビーム等の火力兵器を持ち、対人格闘術も刹那から見ても良い腕前を持っていた。
その茶々丸と、二日後に試合を行う。
「うーん‥‥あの腕前の人に、一撃入れるとなると‥どう思う、古」
「やはり厳しいアルが‥可能性があるのは初撃、あとはカウンターアルね」
「意表を突くしかないということか」
「うむ。残り2日。時間はないが‥叩き込むしかないアル!覚悟は良いか!?ネギ坊主!」
「は、ハイ!」
「そうね。それに、良かったんじゃない?」
「え‥何がですか?」
「千雨ちゃんに一撃入れろとかじゃなくて。さっきまでいたんでしょ?」
「た、確かに‥‥千雨さんと戦うなんて‥で、できないです」
強さ的な意味でも、心情的な意味でも。
あの戦闘魔人と。
たとえ“気”やら魔力やら使わなくても勝てるイメージが湧かない。
千雨はそれほどまでに強い人物と、ネギの中では印象が強い。
まき絵は、エヴァンジェリンの言う情けとはそのことなのかなと納得する。
千雨ちゃんにそんな全然イメージないけど、と逆に首を傾げるが。
なお、まき絵は修学旅行の千雨と古菲の戦いを見ていない数少ない一人だ。
「ね、ネギくんごめんねー‥。わたし、余計なこと言っちゃったかな‥」
「い、いえ!大丈夫ですよ!頑張ってテストに合格してみせます!」
まだ不安気な顔のネギだが、精一杯の笑顔をまき絵に見せる。
まき絵を不安にさせてはいけないという、ネギの小さくとも立派な紳士心だ。
残り二日。
何としても、合格してみせると古菲と茶々丸対策の話し合いを始めるネギ。
そんな少年の背中を、まき絵はこの二日間で目の当たりにすることになる。
努力して諦めない、夢や目標を追う男の心を。
********************.
更に二日後、土曜日の23時47分。
先日の木曜日と同じ世界樹広場には、既にエヴァンジェリンと千雨、千雨の腕の中にチャチャゼロ、そして無表情の茶々丸が集まっていた。
「‥それで?」
「ん?」
「どうだったんだ、ぼーやの修行は?貴様、どうせ覗いていたんだろう?」
「人聞きの悪い‥‥まーな。可能性は2%くらいかな」
「目算は?」
「ラッキーで1.5‥茶々丸の油断で0.5だ」
「なるほど、ないな」
「実際、戦闘用に組まれたAIに基本スペックがそもそも負けてる人間が挑むってのが無理だろ?なあ、茶々丸?」
いつだったか、ネットやパソコンのことをハカセから教わった千雨だが、その際に茶々丸の話も少しだけ聞いていた。
自己進化する最高級のAIに絶対に転ばないオートバランサーに、身体を構成する人工骨格にと、例を挙げたらキリがないくらい性能が良い。
そこらへんの一般販売されているアイボとかいうロボなんぞとは比べ物にならないくらい高性能なガイノイドだ。
「‥ハイ。私の概算では、ネギ先生が私に一撃を入れる確率は約3%以下です」
「なんだ、お前甘いな。私はお前のことをもう少し評価してるぜ。もう少し緻密な計算してるだろーが」
「ありがとうございます。しかし、良いのですかマスター‥。ネギ先生が合格できなければマスターとしても不本意なのでは‥」
「おい、勘違いするなよ茶々丸。私はホントに弟子など要らんのだ」
「ほんとにか?」
「半々クライダナ」
ジロリと千雨とチャチャゼロを睨むエヴァンジェリン。
この二人が揃うと、エヴァンジェリンは口数で負ける。
「それに一撃入れたら合格などとは破格の条件だ。これでダメならぼーやが悪い。良いな茶々丸、手を抜いたりするなよ」
「はっ‥了解しました」
茶々丸からはある程度迷いが消えたらしい。
茶々丸のAIには結論を出すには材料が足りない、またはありすぎる場合には悩むという段階が含まれているようだ。
これは、最初から超やハカセがつけたのか、それとも自己進化の賜物か。
「けど‥一撃入れんのもな、スペック不足だ。せめてパワーかスピードがないとな‥話にならん」
「やはり‥そのどちらもが欠けていると?」
「ああ。アイツ、たぶん
「じゃ、魔力の自己強化くらいか‥」
「‥ま、それを見たいんだろ?」
「‥来たぞ」
千雨の疑問には答えず、やってきたネギを見るエヴァンジェリン。
素直じゃない奴、と自分のことを棚に上げて笑う千雨。
やってきたネギは真っ直ぐエヴァンジェリンを見ていた。
やる気は十分らしい。
が。
後ろにぞろぞろと人影が見える。
ん?と首を傾げる千雨。
「よく来たなぼーや。では早速始めようか」
「ネギ‥ちゃんと策は考えて来たんだろうな?」
「‥はい!」
「お前のカンフーもどきで茶々丸に一撃でも入れられれば合格。手も足も出ずにくたばればそれまでだ。わかったか」
「‥その条件で良いんですね?」
ニッと笑うネギ、肩に乗るカモ。
エヴァンジェリンはいいぞと答えるが、千雨は違和感を持つ。
特に、カモの表情だ。
カモはすけべでどうしようもないオコジョ妖精だが、バカではない。
一般的な大人並みに知識と常識を持ち、常にネギのことを考える使い魔。
そのカモが明らかに可能性の低い賭けに主人共々乗る。
以前のようなただの賭けか。
それとも———。
「‥成程」
「何ガダ?何カ悪ドイコトデモ思イツイタカ」
「思いついたのは多分カモミールだ‥いや、まさかネギじゃねーだろーな」
「それよりも」
「え?」
「そのギャラリーは何とかならんかったのか!?」
ビシッとエヴァンジェリンが指す先には8人ほどの女の子たち。
明日菜、古菲、刹那、木乃香。
まき絵もいるが、まき絵はまだわかる。
今回のテストの発端でもあるからだ。
「‥で、何で明石や和泉までいるんだよ‥大河内までいるぞ、珍しい」
「あれー、長谷川どしたのー?」
「何でエヴァンジェリンさん側なん?」
「黙って応援してろー」
「黙って応援は無理じゃないかな‥」
カモがネギの肩から明日菜の肩に移る。
茶々丸も腰に巻いていたロングスカートを取ってスパッツ姿になる。
始めるようだ。
「茶々丸さん、お願いします!」
「お相手させていただきます」
「‥で、お前の見立てだとどうなんだ古菲」
「千雨!‥‥うむ、やはり最初の1分に賭けるしかないと見てるアル」
「まあ‥一撃あてりゃいいだけだからな。話は簡単、ネギの実力を見切られる前に当てるのが一番確実か」
「千雨ちゃんてエヴァちゃんの仲間なん?」
「んなわけねーだろ。偶々最近付き合いがあるだけだ」
「仲いーんやなー。ウチもまほー習いにいこかな」
「ケケケケケケ‥ドーカナ。オ前、ゴ主人ニ明ラカニ狙ワレテルゼメガネ」
「‥‥な、なにを?」
「色々」
冷や汗をかく千雨を横目に、エヴァンジェリンの号令と共に弟子入りのテストが始まる。
同時に動き始める茶々丸とネギ。
両拳を握ってネギに向かって跳躍する茶々丸だが、ネギはやはり杖を取り出す。
「
「!」
「なっ‥なんだありゃ?従者への契約執行を自分にか!?」
「ケケケ。工夫ガ好キナ奴ダナ、回リクドイ」
「ふん‥なんつー強引な術式だ」
90秒間の魔力による身体強化がネギを包み、その腕で茶々丸の拳を受け流す。
どうやらパワーとスピードは茶々丸に追い付いたらしい。
茶々丸のパンチや掌打は基本普通のものである。
ただ、肘にジェットが付いているため、途中で加速したり向きを変えたりもできるものだ。
そのジェットパンチの勢いを利用して回転、力の流れを掴むネギ。
八極拳・転身胯打。
近接型中心の八極拳の中でも間合いの外から中へと入るカウンター。
それを何と放ったパンチを戻して寸前で防ぐ茶々丸。
スピードは二人とも似たようなものなので、ネギがカウンターで間合いに入ってくると予見していたのだろう。
「お‥おお!?」
「む、惜しい!」
初撃を外したネギだが、それでも果敢に茶々丸に挑む。
ネギが茶々丸に対し強く出ているようだ。
今回のテスト的に攻め気がないと話にならないが、まさかあのネギの方から生徒である茶々丸に向かっていけるとは。
これも一種の成長だろうか。
「だが‥当たらないとな」
ネギと茶々丸の拳戟に祐奈たちは驚いて盛り上がっているが、外したネギやネギに教えた古菲の顔色は共にあまり良くない。
ネギの殴打は全て茶々丸にはたき落とされている。
真正面から茶々丸に拳を入れるのはやはり無理があるのだろう。
やはり打ち負け、茶々丸の蹴りを受けて飛ばされるネギ。
「ね‥ネギ!」
「ネギくん!」
「‥ん?」
足がかくりと崩れるが、拳はきちんと握れているネギ。
あれなら対処できるはず。
「いや作戦通り!アレは誘いアル!」
「カウンターの?」
「そう‥てアレ?なんで長谷川がそんなこと知てるアル?」
「考えりゃわかるさ‥‥実際ネギが勝つにはそれしかない。茶々丸のAIの意表を突くしかな。けど‥」
茶々丸の突きを受け流しながら左手で掴み、右肘のカウンターを放つネギ。
ネギも古菲もこれは入ったと確信する。
八極拳 六大開 「頂」攉打頂肘。
八極拳は完全に近接専門の拳法であり、相手の防御を打ち破るには最適の拳を習得できる。
ネギが使用したものは六大開と呼ばれる、八極拳の中でも最も基本的且つ最も重要な理論の一つ。
それをカウンターに流用させた古菲とネギは流石だが、茶々丸の方が周りをよく把握していた。
なんと、ネギに腕を掴まれたまま後ろの壁に跳躍し、三角跳びの要領でネギの上に跳んだのである。
「なっ」
「ちっ‥腕の掴みがあめーよ」
虚を突かれたネギは咄嗟に動けず、後ろから来る茶々丸の回し蹴りに吹き飛ばされる。
体勢を崩し、地面に転がされていくネギ。
すぐ近くが階段なのに落ちなかったのは茶々丸の優しさか。
動かなくなるネギ。
しん、と静まるギャラリー。
「ちっ‥」
「ゴキゲンナナメダナゴ主人」
「ふん‥まあ、こんなもんだろう」
「待てよエヴァンジェリン」
「庇うな千雨。アレがぼーやの現時点での器だ。いくら貴様でも‥」
「だから待てって。まだ終わってねーから」
「なに?」
「へ‥へへ‥‥」
笑って立ち上がるネギ。
ネギの元へ駆け寄ろうとしていた明日菜とまき絵が思わず立ち止まる。
頭を打っておかしくなったかと首を傾げるエヴァンジェリンだが、千雨の言い分もネギの様子もなにかおかしい。
「まだです、まだですよ、エヴァンジェリンさん‥。まだ僕くたばっていませんよ」
「ぬ?何を言ってる?バカなこと言ってないでガキはさっさと‥‥!?」
『お前のカンフーもどきで茶々丸に一撃でも入れられれば合格。手も足も出ずにくたばればそれまでだ。わかったか』
『‥その条件で良いんですね?』
手も足も出ずにくたばれば、それまで。
先程自分で告げたネギの敗北条件を思い出すエヴァンジェリン。
「ま、まさか貴様!?」
「そう、僕はまだくたばっていない。条件は僕がくたばるまででしたよね?それに確か時間制限もなかったと思いますけど?」
「‥抜け目ねーな」
エヴァンジェリンに痺れを切らさせて時間切れだと言わせる前に、時間制限など無かったはずというネギ。
この抜け目のなさはナギにどことなく似ている。
ナギの方がもっと暴君ぽかったが。
それに母親の血が加わってより賢くなっているようにも思える。
「カモミール、お前の入れ知恵か?」
「いや、まあ‥甘いとこねーかなーと茶々丸さんの周囲をまた観察したりはしたけどよ‥弱点探しで。こういう風に突くとは思わなかったぜ」
「これはエヴァンジェリンの奴の失策だからな。茶々丸には落ち度があるよーなないよーな。何にせよ‥長くなりそうだ」
「え?」
再び茶々丸に飛びかかるネギだが、既に先ほどよりも身体能力が格段に落ちている。
90秒間が経過し、契約執行が切れたのだ。
今度は最初よりもあっさり弾かれるネギ。
「最初が肝心だったのは間違いねーよ。だが、それをミスったのはネギだ。けど、時間制限がなくなった以上、どこまで続けるのかもネギの根性と当て感次第だろ。丸一日どころか何日も続くかもしれねーぞ」
「ええ!?いや、いくらネギでもそんなこと‥」
「甘いな。そんな根性なかったら、エヴァンジェリンに飛びかかったりしねーさ。頑固さと潜在魔力だけはネギはすごいよ」
その頑固さのせいで悩み癖があるけどな、と階段の壁の上に飛び乗って座り、横にチャチャゼロを置いて完全に観戦モードに移る千雨。
果敢に茶々丸に挑むネギだが、やはり茶々丸にはあっさり弾き返される。
一撃入れに行っては一撃で返されるの繰り返しだ。
魔力を障壁強化に優先してるらしく、衝撃とダメージはいくらか軽減してるが、完全に粘る目的だろう。
単なる契約執行では勝ち目がないと判断したのか、既に契約執行の分の魔力がないのか。
ネギの顔や身体が次第に傷やあざでボロボロになっていく。
既にテスト開始から1時間、休む間もなく茶々丸に挑み続けていた。
茶々丸もある程度加減しているはずだが、ここまで殴打をもらうと流石に手加減しても限度があるのだろう。
茶々丸の拳自体は鋼鉄並みなのだ。
「しかしよくやるな‥」
「アリャ死ヌカ?」
「流石にねーよ‥。死にゃしねーから私だって止めてないんだ」
「マ、ナ。妹ガソコラヘンヲ間違エルワケネー」
「けど、意外だな千雨」
「ん?」
一人で二人の試合を見ていたエヴァンジェリンが、千雨たちのところまでやってきて告げる。
一人で寂しかったのか、と声をかけると無視してそのまま言葉を告げるエヴァンジェリン。
「貴様なら止めると思っていた。ぼーやに対してある程度保護責任を持ってる貴様ならな」
「先月のことを言ってるのか?あんときゃお前の人となりを知らず、何するかわからなかったからだ。茶々丸の性格はそれなりに理解してる。アイツは本当なら、今この瞬間だってネギの相手をするのなんてやめたいはずだ」
「‥ふん。‥あー、ぼーや?」
こほんと咳払いをしたエヴァンジェリンが未だ茶々丸に挑むネギに声をかける。
そろそろ止めようということだろう。
だが、ネギはエヴァンジェリンの言葉に対してまだやれると、また立ち上がり、套路の様に茶々丸に挑み、構える。
あれだけボコボコにされて構えが崩れていないのは驚きだ、と零す千雨。
だが、そろそろギャラリーの方が限界だった。
幼気な少年がああもボロボロになる姿は女子中学生には心臓に悪すぎたようだ。
まき絵を除いた運動部組と木乃香は既に見ていられない、という思いを持ち、明日菜は
「おい神楽坂!」
「もう見てらんない、止めてくる!」
「お、オウアスナ!」
「だめ———っアスナ!!!止めちゃダメ——っ!!」
なんとまき絵が明日菜の前に出ていた。
両腕を目一杯広げて明日菜の進行方向を塞ぐ。
「で、でも!アイツあんなにボロボロになって‥あそこまで頑張ることじゃないわよ!!」
「わかってる!わかってるけど‥ここで止める方がネギくんにはひどいと思う!だって‥ネギくんどんなことでもがんばるって言ってたもん!」
「まきちゃ‥」
「‥」
黙って聞く千雨。
まさかまき絵が動くとは思わなかったが、まき絵が動かなかければ全力で明日菜を止めていただろう。
確かに千雨はある意味ネギの進歩を恐れている。
その驚異的な成長スピードで、年齢に不相応な実力を持ち、ある程度非道や悪意、絶望に耐え切れる心が形成される前に先へと進んでしまうそのことを。
だが、今ここは止めてはいけないのだ。
これはネギが選んだ道で、その道標を示してくれる師匠を得る機会。
エヴァンジェリンは元は悪人かもしれないが、今は明らかに違う。
悪人なら京都でネギを助けに来たりなどしない。
例えエヴァンジェリンに利があるとしてもだ。
「ネギくんには‥カクゴがあると思う」
「か、覚悟?」
「!」
まき絵の言葉に振り向く千雨。
覚悟。
それは、自分がどうなってもいいということではない。
あんな風にボロボロになったとしても、目的の為に最後までやり遂げるという思い。
そうだ、ネギには覚悟がある。
父親に、ナギに追いつくという覚悟が。
(‥けれど)
「ネギくんは大人なんだよ。だって目的持ってがんばってるんだもん。だから‥だから今は、止めちゃダメ」
「まきちゃん‥」
明日菜はまき絵の前で止まり、エヴァンジェリンはまき絵を見直し、千雨はネギの想いの重みを改めて知る。
茶々丸も、まき絵の想いの丈を聞いていた。
その隙を、ネギは見逃さなかった。
「あ‥‥オイ茶々丸‼︎」
「え」
ぺちん、と力のない音が茶々丸の頬から響いた。
ネギの押し出すだけのパンチが茶々丸の左頬を捉え、それがテストの終了を告げていた。
「‥‥あ」
「な」
「オ」
「!」
「‥あ 当たりまふぃた‥」
どさり、と倒れるネギ。
ギャラリーの歓声とエヴァンジェリンの茶々丸に対する叱咤の声が上がり、皆がネギたちの元へ駆け寄る。
「ケケケ‥ヤリヤガッタゼ。コレデ俺モ多分アノガキノ育成ニ駆リ出サレルナ。イイ暇潰シガ増エルゼ」
「‥ああ」
「‥今度ハオ前ガゴキゲンナナメカ?」
「バカ言ってんな‥ネギが成長したんだ。ま、よくやったくらいは言うさ」
チャチャゼロを担ぎ上げ、ネギの元へ歩く千雨。
ネギには覚悟がある。
単なる子供の憧れではなく、本気で父に会うつもりだろう。
それを見れたのは僥倖だった。
だが、ならば私はどうすればいい。
私の思いは。
ネギには傷ついてほしくない。
それは怪我などではなく、心の傷。
ネギの道には一種の絶望が必ず至る。
わかっている、本当ならそんなことはネギに決めさせるべきなのだ。
あくまで他人の千雨にはそんなこと決める権利も干渉する道理もない。
けれど、ネギに覚悟があるように、千雨にも信念がある。
だが、今だけは。
「‥よう、ネギ」
「‥‥ち、千雨‥さん」
「‥ま、やったな」
「は‥はい!」
今だけは、この少年を祝福しよう。
今だけは、共に喜ぼう。
たとえ、その先で二人が袂を別つ時が来るとしても。
この回要るかな?と思いましたが後の事考えると要るなぁと思って書きました。
さて‥不穏な空気を出しつつある千雨さん。
どこでどう行動するのか、是非お楽しみください。