そんな時に高校の頃片思いをしていた人と運命的な再開をしてしまう。
信じてもらえないかもしれないけど僕は予言者だ、今日は雨が降らない。何故なら僕は今日傘を持っている。コーヒーを服に溢すこともない、パジャマ同様のTシャツを履いている。死にはしない、今日は髪型が整っている。僕は人生における大当たりを引いているはずだ。先進国である日本で生まれて、衣食住のことで困ったことも無い上学校もなんの心配もなく通うことができた。なのに何故なんだろう。
今日は一人で外出している、僕にとっては珍しいことである。先週たまたま通りかかった服屋で一目惚れしたTシャツをなんとなく家に居たくないという理由のついでに買いに出かけたのだが、予想通り最後の一着はもう別の誰かの手元にある。そして僕の手元にあるのは無地のどうでもいい灰色のシャツ、寝間着がまた一つ増えてしまった。昨晩あんな夢をみなければ家を出ることなんてなかったのに。
彼女が出てきた。もう何年前もの片思い、何年も連絡もとっていない、高校生の頃の僕のマドンナ。夢の中ではカッコつけどうでもいいかのように振舞っていたけど、夜中に目覚めた時にはすぐに夢に戻ろうと必死になっていた。けど不思議なことにそういう時は特に眠れない、そして眠れない夜は悪いことばかり思い出す。学生の僕は勇気を振り絞ってあの娘告白し、勉強で忙しいとかでふられてしまった春のこと。答えは明らかにノーだったのにも関わらず、その言葉を鵜呑みにして受験が終わることを待っていた愚かな自分。秋には彼女の恋が実ったこと。
こういう夜の後日に衝動買いが起きる、例え望んでいるものでなかったとしても。僕は白いビニール袋と傘を持ちながら近場にあった喫茶に入り奥の席で飲み物を頼む。コーヒーはブラック、それでも出てくる角砂糖を見つめながら面白くない話題で頭がいっぱいになっていた。そんな時にかつてのマドンナが同じ喫茶店に入ってくるのだ。入り口に一番近いテーブルに荷物をおろし、コーヒーではない何かを注文するのが微かに聞こえる。
僕はやっぱり予言者だ、昨晩彼女の夢を見てたまたま同じ喫茶店にくる。これほど運命的でロマンチックなことはあるだろうか。興奮を抑えるために僕は携帯を眺めるふりをし始めた、まるで彼女が入店してきたことを気がつきもしてないかのように。全く無駄な行動なのだ、彼女はこちらに気づいていない。あの春のように勇気を振り絞ろうとした時、あの頃との違いを自分の中で見つけた。別に求めていなかった、あの娘との運命的再開を。僕は幸せの可能性を拒んでいた。数年前卒業後、途端に途絶えた最後のメールのまま終わってしまうことに何の抵抗も感じていない。
それでもチラチラと見てしまう、自分のTシャツにゴミが付いていないかも確認してしまう。そしてふと目があってしまう。バレていないことを望む、せっかく押し殺した勇気の再発は嫌だ。真っ黒な携帯の画面以外はコーヒーカップも角砂糖も視野にない。真っ黒の中から懐かしい音色が聞こえてしまう。
「すみません、りゅうくんだよね?」
自分が死んだのではないかと思うほどのフラッシュバックの後、自分でもわかるほどの下手くそな嘘を着く。
「はい?あ、あ〜!!久しぶり!」
「やっぱり!びっくりしたよ!元気にしてた?」
そのまま彼女は僕の前に立ったまま、お互いの4年間の未知の時間の情報を交換していった、僕はなるべく自分のことは露わにしないように。見た夢のようにクールには決まらない、言うこと全てに必死にオチをつけようとしているのが目まぐるしい。彼女は何も変わっていない。昔と同じ少し恥ずかしそうな笑顔。向こうからしたらきっと僕もそうなのだろう。連絡が途絶えたのが昨日かのように話が弾み出す。これは何かの縁だ、運命だ。それが確信へと変化していき彼女に自分の前の席に座らそうとした時に店員の声が聞こえてくる。
「いらっしゃいませー」
高身長の男がこちら向かってきて彼女の横に立つ。そして手で顔を隠すように髪の毛を整えて、その手で男の方を指しながら言う。
「今度結婚するんだ」
予言なんて信じるものではないな。その後数分話し、僕は逃げるように熱々のコーヒーを飲み干して用を作り上げて店を出ていった。あの娘のせいで家を出たいと思ったのに、今ではあの娘のせいでいち早く家に帰った。そしてソファーに座りテレビをつけ流れるCMに鼻で笑う。
来週からあの服屋は大セールをやるらしい。
昔に考えた言葉「人生とは2000円のTシャツ」をストーリーにしてみようかと思って書きました。
その言葉の意味を表現しようと書いたのですが、ちょっとわかりにくいかもしれないことに詫びます。
こういうものに正解とかはないので、読まれた方の独自の意味を見つけてもらえたのならすごく嬉しいです。
最後まで読んでいただいてありがとうございます。