気がついたらウルトラマンティガになれるようになっていました。 作:紅乃 晴@小説アカ
遥か遠い昔。
古き魔神たちにより太陽は地に落ち、地上が闇で覆い尽くされていた超古代の地球。
増悪と腐臭に満ち、闇に包まれた地に宇宙の何処からともなく現れる。
そして闇の魔神を倒した光の巨人。
魔神たちから人々を救ったその巨人は、魂と肉体を分離させる。
彼らは肉体に固執しない生命であり、本来の光の姿となって星雲へと帰った。人々は彼らが宿っていた肉体を深い山の奥にピラミッドを建造し、その中で石像に姿を変え埋葬。
光を失った巨人は、幾万年も続く長い眠りについていた———。
時は遥かに流れる。
現代、日本。
34° 58′ 36″ N, 139° 21′ 48″ E
南太平洋。
近年、その区域の地下に出来上がる海底トンネルの地下施設では、掘削機やそれに準ずる作業員たちによる工事が進んでいた。
だが、ある区画で発掘された「存在」によって、国家規模で行われていた海底トンネル工事は、同じように国家規模の圧力により中断。徹底した厳戒令と、警備体制が引かれ、工事されているトンネル内に踏みれられる者は居ない。
ある組織の人間を除いては。
「外郭電化率、規定値に達しました」
海底トンネルの作業上に似ても似つかない設備と無菌室の中、防護服を着た数人の人影が、モジュール化された作業台の上に置かれた岩石の塊に電極を差し込み、実験を繰り返していた。
電極からの放電現象が発生し、辺りに稲妻が走るが、モニタリングする研究員の視線は期待とは外れたものとなってゆく。
「これでもダメか」
実験中止をアナウンスすると、放電は中止され、再び防護服を着た作業員たちが岩塊から電極を取り外してゆく。
「まさにオーパーツだな。これは」
「これに内包されている技術は、我々の科学技術では解読できないほど、はるかに高度なものです」
作業台に置かれている物は、この地区の採掘作業中に発掘されたものであり、数十メートルからなる掘削機の刃のほぼ全てを跳ね除け、刃をすり減らさせた代物だ。
内部へのレントゲン調査と、岩塊の放射能物質の調査を行った結果、岩塊の中身には今の科学技術では解読すらできない機械が封印されており、それを覆い隠す岩塊も、紀元前350万年前……およそ、三千万年前の地層と同じ成分で構成されている。
破砕機や、レーザー、熱処理でも岩塊に傷をつけることは叶わず、その場にいる研究員たちは手を尽くせる手段を全て講じた中、絶望的な雰囲気に包まれていた。
「むしろ逆かもしれんぞ?1900年代初頭にできた電算機器のコードを見ても、我々がすぐに解読できるか?文明の利器なんてものは案外そんなものかもしれんな」
そんな研究員たちを励ますようにいうのは、政府が運営する研究機関の所長だった。
海底トンネル内での採掘時に出土した、このオーパーツの管理や調査を一任されている彼は、多くの時間と労力をかける中でも、希望は捨てていない。
頑ななこのオーパーツだが、何か手掛かりは掴めるはずだ。なにせ、この不明な物質は遥か昔から埋まっており、今自分たちの前に姿を表したのだ。
これには何か、意味があるはずだ。
すると、広く掘り起こされた空間が、僅かな振動に包まれてゆく。
「なんだ…?」
揺れは小さいものから、大きく変わってゆく。これは地下から伝わる振動ではないと誰もが判断できた。揺れの震源は、明らかに自分たちの頭上だった。
まるで巨大な何かが地を這うような地響きと、地獄の底のような唸り声を轟かせながら、その揺れは自分たちから遠ざかってゆく。
簡易的に吊るされた照明が光点を瞬かせる。明かりに満ちていた実験場が闇に包まれようとしていた時。
「オーパーツに熱反応を感知!!」
誰かがそう叫んだ刹那。暗闇の中にあった岩塊が青白く光る。何をしても傷一つ付かなかった岩塊がひび割れ、光の中へと溶けてゆく。
そこにあったのは、岩塊の封印から解かれたオーパーツそのものだった。
《私は地球星警備団長、ユザレ》
ふと、所長が目を向けると、そこには白いビジョンと映し出された真っ白な装束に身を包んだ女性が立っていた。ホログラムだと気がついたのは、全員が息を飲んでその映像を見つめていることに気が付いてからだった。
《このカプセルが起動したということは、地球に大異変が相次いで起きます。この兆しで、大地を揺るがす怪獣と、空を切り裂く怪獣が復活します》
彼女は語りかける。これから世界に起こる大異変の一幕を。
《大異変から地球を守れるのは、ティガの巨人だけです。かつて地球上の守神だった巨人は、戦いに用いた身体をティガのピラミッドに隠すと、本来の姿である光となって星雲へ帰ってゆきました》
誰もが顔を向き合って、戸惑いを隠せない表情をしていたが、所長だけは「ユザレ」と名乗ったそのビジョンの映像を食い入るような眼差しで見つめている。
《我が末裔たちよ》
ビジョンが揺らぐ。ユザレの映像は砂嵐に見舞われたように思えた。彼女は消えゆくノイズの中でも、言葉を紡いでいた。
《巨人を蘇らせる方法はただ一つ——》
そこで、青白く輝いていた映像は途切れた。
気がつくと、明点していた灯りが元に戻っており、過ぎ去った地震もなく、実験場は静寂さを取り戻していた。我を取り戻した研究員たちは、さっそく測定したデータの採取へ取り掛かる。
所長は一人、急造された施設を出て、岩肌が露出する巨大なトンネルの空間を見上げていた。
「少なくとも、これらは我々の進歩を大きく進ませることになるだろう」
そっと、誰かに言うわけでもない呟きは薄くらいトンネル内に響き渡る。延々と続く平和の中、世界の黎明がやってくる。
今、未曾有の大異変が起ころうとしている。
所長が見上げる先には、二体の巨像が聳え立っているのだった。
ULTRAMAN TIGA
TAKE ME HIGHER
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ある日突然、ウルトラマンティガになれるようになりました。
開口一番になんてこと言ってるんだと自分でも思うんだけど、事実だからしょうがないじゃん?
あなたは人であり光ですとか、最初はなんか変な夢見てるのかなって思ったら部屋にスパークレンスあるし、ほったらかしにして仕事に向かっても気がついたら内ポケットとか鞄の中とか、下手すりゃあお尻のポケットに突き刺さってることもあった。
最初は気味悪がってたけど会議室の椅子に座ろうとした時にお尻のポケットに刺さったスパークレンスごと踏んづけてしまって変な声を上げた時から、必ず内ポケットに常備するようになった。
置いてきてもいきなりポケットに現れるとか逆に怖すぎる。身につけて大人しくさせておく手に限るぜ。
さて、ウルトラマンという特撮ヒーローものだが、なぜかこの世界の人々はご存知なかった。
「この世界」という表現も理由がある。
俺がウルトラマンティガになれるようになった日から世界から特撮ヒーローという枠が消えて無くなったのだ。プリキュアとか戦隊モノはあるのに。あっ、あと仮面ライダーも放送されてない。というか歴史から抹消…というよりも元から存在していない。
なんと円谷プロダクションすら無いのだ。はっはっはっ、参ったわい。
それ以外の日常は至って普通だった。
怪獣が突如として現れるわけでも無いし、巨大ロボットが防衛機構で使われているわけでも無いし、ゴジラがいることもない。TOHO世界線じゃなくて安心だわ。ゴジラがいたら日本は最低でも二回は滅んでるからね?
そんなこんなで、戦隊モノの特撮ヒーロー以外が消失した世界ではあるが、過ごしてみれば何ら変化のないものだった。
仕事は普通にあるし、上司や先輩も変わりはない。テレビ番組も何も変わってない。10時からはきっちり報道ステーションもやってる。ニュース23もだ!
行きつけの定食屋さんは相変わらず美味しいし、帰りによるコンビニの店員さんはやる気がないし、住んでる部屋も何もかも変わっていない。
ただ、ウルトラマンという名がこの世から忘れら去られた世界だった。
そして、俺にはスパークレンスとウルトラマンティガという力がある。
まぁまだ変身してないけど!
憧れはあるよ?だって世代直撃だし、長野くんカッコよかったし。ティガのヴィジュアルとか今のウルトラ戦士にも負けないほど洗練されてるよね。個人的にはダイナとガイアも大好きです。また映画をやってほしい。この世界じゃ無理だけど。
そんな安易な好奇心で変身なんてしてみろ。即自衛隊案件でオールウェポンズフリーでタコ殴りにされて実験室送りだぞ。
おお怖、近寄らんとこ。
その渦中であるスパークレンスが俺から離れようとしないんだなぁ、これが!!
とりあえずウルトラマンティガになれると言われても、こっちにはこっちの生活あるし、仕事もあるし、生きるためには働かにゃならん。
地球を守るとかたいそうな事、一般庶民である自分にはイメージつかないし、そもそも怪獣が現れないなら単なる宝の持ち腐れだ。
気がつけば、スパークレンスは会社に持ってくハンカチなみの常時携帯な意識に落ち着き、俺は世界が変わる前と同じ日々を過ごしていた。
〝地球に大異変が相次いで起きます。この兆しで、大地を揺るがす怪獣と、空を切り裂く怪獣が復活します〟
夢の中で、現れたユザレさんがなんか言ってる。
この人が現れてから世界は変わり、俺の元にスパークレンスが出現するようになったのだ。
今まで特に動きを見せなかったユザレさんがいきなり夢に出てくるなんて…ははーん、さてはティガの責任とか全く取ってない俺にハッパをかけにきたな?
だが残念だなぁ!!怪獣なんてこの世界に現れてないんだ!!いくら脅しかけようが俺は屈しない!!この世界にはガッツもないし、地球防衛機構なんてものない!!
そんなデタラメな嘘なんかに屈しないんだから!!
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と、思っていた私がいました。
朝起きてスマホを見ればモンゴルで巨大な生物が発見されたというトレンドが…。え、まじで?すげぇブレてる航空写真だけど、地を割って進むように動く巨大な影。そこから光る二つの目にはかなり見覚えがあった。
いや、ゴルザじゃん?
ということはイースター島からメルバもログインするフラグ?
そんなこと言ってたらトレンドに巨大翼竜の項目が追加されたわクソが。
しかも各国が出した進行方向を照らし合わせると、目指してるところはなんとこの日本らしい。
あぁぁぁあぁああもうやだぁああぁぁあ!!
静まりたまえ!なぜ貴方達は頑なに日本を目指すのか!!
帰巣本能でもあるのですかね!?
出勤して昼になると二体の怪獣はもう日本領土に侵入している。自衛隊が艦砲射撃や戦闘機での迎撃をテスト的にチクチク行っているがまっっっったく動じない。
かなりえぐい攻撃とか当たってるんですけど?え?装甲が分厚い?貫くならアートデッセイ号を持ってこい?そうですか。
各国政府も日本政府も未知の巨大生物相手にパニック状態だ。自衛隊の防衛もかなり過激になってゆく。ミサイルを失った戦闘機は機銃などの牽制をかけるが効果がない。
おいおいおいそんなに近づくと死人が出るぞ、
ふと、他人事のように思った矢先。
一気の戦闘機がゴルザの放ったエネルギー弾に当たり火を噴いた。
パイロットが脱出する間も無く、飛行機は火だるまになってバラバラと空中で分解していった。
かなりショッキングな映像だった。
まるで映画のワンシーンのような光景。
だが、たしかに、あの瞬間。
戦闘機に乗っていたパイロットの命は奪われたのだ。
気がついたら走っていた。
息切れもしないで勤めてる会社の最上階を目指して、階段を駆け上がっていた。
施錠されている扉なんか知らない。鍵ごとこじ開けて俺は誰もいない屋上へと上がった。
〝異変から地球を守れるのは、ティガの巨人だけです。かつて地球上の守神だった巨人は、戦いに用いた身体をティガのピラミッドに隠すと、本来の姿である光となって星雲へ帰ってゆきました〟
夢の中で語りかけてきたユザレの言葉が頭をよぎる。
本来ならゴルザとメルバは目覚めずに石像となったティガや光の巨人を倒すために日本を目指した。
なら今あの二体の怪獣が目指す先はどこか?
内ポケットに収まるスパークレンスを見つめる。
〝我が末裔たちよ〟
〝巨人を蘇らせる方法はただ一つ——〟
怖い。
そう思った。
けど、そんな気持ちは飛散する。
自分でもよくわからない衝動が体を突き動かしていく。
俺はスパークレンスを空高く掲げて、叫んだ。
「ディガァー!!!!」
眩い光と一体となった俺の体は空へと登り、そして目にも止まらぬ速さで飛翔する。
目指す先は二体の怪獣だった。
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光の巨人、立つ。
新たなる巨人の出現に、その足元にいる自衛官たちの表情は驚愕に染め上がった。
「ティガの…巨人」
「巨人が蘇ったのか…?でも、どうやって?」
自衛隊の中でも特殊部隊に属する宗方と新城。二人は蘇ったティガを前にする。
破壊のかぎりを尽くしていたゴルザとメルバがティガが睨み合っている間に、巨大な存在同士の戦いに巻き込まれないように戦車部隊や戦闘機隊は退避した。
ティガもそれを知るかのように、逃げる自衛隊の部隊を背にして二体の怪獣との戦闘を開始した。
鈍く重い音が辺りにこだまし、ティガはその巨大な体躯を利用した回し蹴りや拳を用いた格闘戦をゴルザに仕掛け、空中にいるメルバには手から光弾を放って牽制する。
だが、力ではゴルザに分があった。
ティガの体当たりを難なく受け止めたゴルザは、そのままティガを振りまして投げ飛ばす。
吹き飛ばされた巨人の地響きは、鍛え抜かれた自衛隊の隊員たちを揺るがすほどの衝撃を辺りにもたらした。
このままではダメだ…!
パワーではなす術がないティガは、腰を上げるとその場で額のクリスタルの前へ腕をクロスさせた。
光が身体中を駆け巡り、肉体はティガの望む力強いパワーを…。
その瞬間、ティガの肉体に稲妻が走り、体に駆け巡っていた光が空へと飛散していった。
膝から崩れ落ちる。
ティガは震える手を見た。
手のひらからも抜けていく光のエネルギーを止めることができず、赤と紫のマーブルカラーが銀色へと変異していく。
なんだ…これは…力が抜けてゆく…!
色味を失い、ついに銀色の肉体となったティガの胸には、赤く点滅するカラータイマーがあった。
肉体の負荷に戸惑いを隠せないティガへ目をつけたゴルザとメルバは、さらに攻勢を強めてティガを圧倒してゆく。
翻すような打撃を受けて、吹き飛ばされ、窮地に立たされたティガ。
だが諦めはしない。
最後の力を振り絞り、両腕を腰の位置まで引き前方で交差させる。
迫るゴルザの前で、左右に大きく広げてエネルギーを集約し、広げた腕をL字型に組んだ瞬間、その腕から眩い超高熱光線「ゼペリオン光線」が撃ち放たれた。
光は直線上に伸びて、迫り来るゴルザと空にいたメルバをそれぞれ掠めるが、不完全な状態から放ったことと、直撃はしなかったことでゼペリオン光線は威力が足りず、倒すことは叶わない。
怯んだゴルザとメルバは大きく反転。ティガから逃げるように空と地中へ逃げていく。
すかさず立ち上がり追おうとするティガだが、自身のエネルギーを極限まで消費していた為、その場に膝を落としてしまい、怪獣の逃亡を阻止することはできなかった。
カラータイマーの点滅音が響く中、ティガの巨人は淡い光の粒子となって放出してゆき、その姿は霞のように消え去って行くのだった。
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「柳瀬隊員!!」
巨人が消え去ったあと、宗方たちと合流することができた女性自衛官の柳瀬は、混乱が残る中でまるで何も無かったかのように静寂に包まれる森林と山々を見つめる。
「無事だったか、ほかの隊員は?」
宗方の言葉に、伶那は力弱く首を横に振った。
「逃げた巨大生命体の攻撃を受けて…」
あのエネルギーの中、爆炎に包まれた仲間の姿は確認できず、吹き飛ばされた場所には遺体すら残っていなかった。
焼け跡を探し歩く中でわかってしまうほど、生存は絶望的な状況だ。
落胆する伶那を新城が心配する中、宗方へ本部から通信が入った。
「了解、送れ」と通信を切った宗方は、悲痛な面持ちで各隊員に言葉を放つ。
「全員よく聞け、ここにいる者たちに〝上〟から戒厳令が出た。この件を内部にも外部にも出すのは禁止だ」
「そんな!じゃあティガの巨人のことは…!!」
「これは政府の決定だ。現れたティガの巨人の存在を揉み消したいらしい。無理だろうけどな。まぁ都合よく、海外で出てくれれば、日本政府として知らぬ存ぜぬを貫き通せるのだろう」
撤収するぞ、そう言って宗方は指揮者の方へと引き返して行く。隊員たちも不服そうな顔をしながらも、先導する宗方に続いた。
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《このカプセルが起動したということは、地球に大異変が相次いで起きます。この兆しで、大地を揺るがす怪獣「ゴルザ」と、空を切り裂く怪獣「メルバ」が復活します》
彼女は語りかける。
これから世界に起こる大異変の一幕を。
暗い部屋の中で、東京湾沖合で発掘されたオーパーツが淡い白色の光を放って輝いている。現れるユザレは、言葉を紡いだ。
《大異変から地球を守れるのは、ティガの巨人だけです。かつて地球上の守神だった巨人は、戦いに用いた身体をティガのピラミッドに隠すと、本来の姿である光となって星雲へ帰ってゆきました》
現れた光の巨人、ティガ。
ゴルザと呼ばれる巨大生命体を跳ね除けたそれは、どこかへ光となって消え去り、その行方は分からずじまいだ。
《我が末裔たちよ》
ノイズが入り始めるユザレの言葉。だが、彼女を含む古代人の末裔たちには、そのノイズは聞こえない。
《巨人を蘇らせる方法はただ一つ——ダイゴが光となることです》
その言葉を終えて、カプセルは光をなくして再び沈黙する。暗い部屋の中でユザレの言葉を聞いていた人物は、ゴルザが現れた近域の民間人の情報を見つめながらそっと呟いた、
「ダイゴが光、ね」
暗闇にあるその表情には、笑みが浮かび上がっているのだった。