気がついたらウルトラマンティガになれるようになっていました。   作:紅乃 晴@小説アカ

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石の神話(1)

 

 

 

 

 

「ダイゴ」

 

 

夢の中で見た真っ白な髪の毛をした女性が、穏やかな声で大悟に語りかけてくる。

 

 

「あんたは…誰だ」

 

「私はユザレ。貴方にとっては遠い祖先となる者」

 

 

彼女は睨みつけるような声で返した大悟を気にもしないで、あるビジョンを映し出した。

 

そこには二体の巨像の姿がある。

 

雄叫びを上げたダイゴが光となり、銀色の巨人はゴルザと対峙した。

 

 

「力を蘇らせたのですね、ダイゴ。またの名をウルトラマンティガ」

 

「ティガ…あの巨人は、ウルトラマンティガだと言うのか?」

 

「貴方自身がですよ」

 

 

ユザレの言葉に、無意識に怒りを覚えた。

 

何を勝手なことを言っている。あれだけ頭に鳴り響かせた声が、一体何を言っている…!!

 

 

「俺は…俺はあんな巨人じゃない!俺は俺だ!」

 

「貴方の持つスパークレンスが、ティガであるという何よりの証拠なのです」

 

 

ユザレが指差す。

 

胸の中で熱い光を感じら取り出すとあの日から手にしたスパークレンスが輝いていた。

 

 

「こんなもの!!」

 

 

怒りのまま、スパークレンスを光しかない世界へと放り投げる。

 

ユザレは何も言わないまま、憤るダイゴを静かに見つめていた。

 

しばらく息を荒げてから小さな声でユザレへ問いかける。

 

 

「なぜ、なぜ俺なんだ…俺には、なんの特別な力もない。ただの一般人でしかない俺が、なんで!!」

 

「それは貴方が私と同じ、超古代人の末裔だからです」

 

「なら、あんた達がすればいいだろう!!」

 

「私たちはすでに滅んでいる存在。地球を救えるのは、貴方しかいない」

 

 

ユザレたちは古代文明人。

 

彼女が意識に入り込めるのも、東京湾沖合で発掘されたタイムカプセルが起動したおかげだ。

 

ユザレの言葉をゆっくりと飲み込みながら、ダイゴは最後の疑問をユザレへ投げかける。

 

 

「他の巨人達は…なぜ、あれほどの力を持ちながら、巨人達は人類を守るために戦わないんだ!!」

 

 

その言葉に、ユザレはゆっくりと目を閉じてから言葉を紡いだ。

 

 

「彼らは人の選択にまで干渉はしません。なぜなら、彼らは光だから。けれど、ダイゴは違う」

 

 

 

——貴方は人であり、光だから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「各機、応答せよ」

 

 

通信を受けたのは、横田の自衛隊基地から飛び立った三機の爆装したF-2戦闘機だ。

 

 

「ホーネット1、準備よし」

「ホーネット2、準備よし」

「ホーネット3、準備よし」

 

 

日本政府とTPCからの要望で選出された伶那や新城を含めたパイロットたちは、司令として任についた入麻の言葉に返答する。

 

緊急スクランブルとはいえ同伴してくれた横田のパイロットも、入麻の指揮下に入り、沖縄諸島に現れた巨大生物の対応へと回されることになった。

 

 

「入麻より各機へ。我々の目的は巨大生物を市街地に入れないことと、生物の調査よ。火器使用制限は、第二級まで。迂闊な行動は避けなさい」

 

「了解」

 

 

ゴルザとメルバの脅威と謎に包まれたままのティガの巨人が去ったばかりだというのに。ティガの出現に呼応…いや、喚起するように、地球各地で異常気象や、不明確な地震が相次ぎ、そして沖縄諸島で巨大生物が現れた。

 

横田から沖縄まで飛ぶには燃料が足りない。かと言って、九州地区の航空自衛隊に巨大生物の処理と言っても対応が出来ないことも実情だ。

 

それにゴルザの存在は政府から徹底した情報規制が入っていた為、沖縄に巨大生物が現れたなど、現地の人々にとっては寝耳に水と言えた。

 

九州地区の基地で補給を受けた後、現地の避難指示や救援活動を行う為、陸自と空自の共同戦線が設けられることになる。

 

伶那や、新城たちの任務は、共同戦線が構築されるまでの時間稼ぎと、巨大生物の生態系の調査だ。

 

 

「巨大生物確認…大きい…!!」

 

 

陸自の輸送ヘリ隊と別れた伶那たちは、岩山の合間を這うように進む巨大生物を発見した。

 

あたりには、現地のメディアヘリらしき残骸が山中に墜落しているのが見える。

 

すでに、巨大生物による被害は出ていた。

 

 

「あんな図体してるくせに、自重で潰れてないところを見ると、大きさから概算して外皮はごっつい硬いで!!」

 

「政府からは第二級火器使用要請が出てるわ。まずはその巨体の外殻を判別しましょう」

 

 

司令室から指示を出す入麻の言葉に答えて、三機のF-2は、各機それぞれが旋回し、猛進する巨大な体をHADに捉えた。

 

 

「よし、性能確認!!20mmバルカン砲、射撃準備!ターゲットインサイド!」

 

「てぇーーっ!!」

 

 

新城の言葉と共に、三機から搭載されている20mmのバルカン砲が放たれる。その閃光は確かに巨大生物の巨体を捉えた。だが…。

 

 

「くっそぉー!野郎、傷一つ付いてねぇぞ!!」

 

 

バルカンを三方向から受けているというのに、巨大生物は何食わぬ顔で巨体を進め続けている。20mm程度では豆鉄砲にもならないほどの硬さを巨大生物は有しているのだ。

 

 

「爆装したF-2やったら対艦ミサイルしか!!入麻隊長!!」

 

「巨大生物、市街地まで残り10キロ!!」

 

 

報告を受けて、入麻はすぐさま決断を下した。

 

 

「第一級火器使用制限を解除します!!責任は私が取ります!!巨大生物を市街地に入れることはなりません!!」

 

「それでこそ、私たちの隊長ね!!」

 

 

入麻の決断に笑みを浮かべた伶那は、機体を翻すと再び巨大生物への攻撃体制へと入った。新城や他のパイロットも伶那の動きに続く。

 

 

「対艦ミサイル、用意!!目標、巨大生物!!」

 

「てぇーー!!」

 

 

充分な距離から放たれた対艦ミサイルは、巨大生物の背部を捉え、火の玉となって弾けた。新城たちも続けてミサイルを放つと、巨大生物は苦しげな声を滾らせて、その場に留まる。

 

 

「着弾確認!!出血してる模様!!」

 

「よっしゃあ!!外郭は割れたで!!」

 

 

モニタリングしていた宗方の言葉を聞き、堀井が手を派手に叩いて喜びの声を上げる。

 

実兵器が効かない相手ではないことは分かった。ならば、対策を打つことはできる。

 

 

 

だが、喜ぶには早すぎた。

 

 

 

再び攻撃態勢へと入ろうとする戦闘機を、巨大生物はゆっくりと見上げながら、口元に青い光を灯らせてゆく。

 

 

「な、なんだ…あの光…」

 

 

パイロットが巨大生物の口から溢れる青い光に目を向けた瞬間、巨大生物は鋭く戦闘機を捉えて咆哮を放つ。

 

茫然と青い光を見つめていたパイロットは反応する間も無く、放たれた青い放流に飲み込まれた。

 

 

「ホーネット2!ロスト!?」

 

 

瞬時に、攻撃を受けた戦闘機がレーダー上から消え去った。

 

青い光に飲み込まれた戦闘機は、その最新鋭の能力そのものを固い岩へと変えられ、共に果てたパイロットと共に、切り揉みながら地面へと落下。

 

爆炎を上げることなく砕け散った。

 

 

「なんてこった…!!撃墜なんかじゃねぇ…ホーネット2は石に変えられたぞ!!」

 

「なんですって!?」

 

 

一部始終を見ていた新城が青ざめた顔で入麻へ報告する。

 

青い光を受けた僚機はなす術なく石へと変えられてしまった。巨大生物は、再び口に青い光を滾らせて空を旋回する新城のF-2へ視線を向けた。

 

 

「新城!!回避だ!!」

 

「こなくそぉ!!」

 

 

急降下する形で回避姿勢をとったおかげか、放たれた青い光は新城の機体をわずかにそれて空へと打ち上がってゆく。伶那も攻撃しようと近づくが、青い光を迸らせる巨大生物相手に手こずるばかりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

くそったれ!

 

俺は現場視察で訪れた鉱山の中に閉じ込められたことに内心で舌を打った。

 

沖縄本社から数時間程度の場所であったが、まさかここに怪獣が現れるなんて思いもしなかったし、ガグマという2話くらいで登場した怪獣なんて覚えてねぇよ!!ってキレ気味になっていた。

 

落ち着け、クールになるんだ。こう言った時に混乱するやつから死んでゆくのだ。

 

作業員が「化け物が出る」って言って恐れ慄いていたのを監督者が一蹴して鉱山内に入ったのが運の尽き。

 

作業員のことを小馬鹿にしていた監督者が青い白い光に包まれたと思ったら石に変わっていた。

 

 

「円!なんなんだ…どうなってるんだ!?」

 

 

普段は冷静な判断力と表情をしてある先輩がかなり混乱している。怪獣の気配を感じ取った俺が、咄嗟に先輩を抱き寄せて逃げ込んだことで何とか石にされずに済んだが、逃げ道は塞がれてしまっていた。

 

 

「落ち着いて下さい、先輩!今はここから出ることだけを考えましょう」

 

 

わずかにパニック状態となっていたが、俺の言葉で平静を保ってくれた。ここでパニックになるのも非常にまずい。走って逃げようものなら落盤や落石のせいで命を落とすこともあるのだから。

 

 

「あの眉唾物のネットニュースが本当のことだったとは…」

 

 

全く、とんだ出張になったものだと言いつつ、スマホのライフを頼りに二人で出口を探す。

 

すると、かなり激しい揺れが坑道に響き渡った。普段聞かない先輩の甲高い声を聞いて、振り向く。

 

 

「今聞いた声は忘れろっ!」

 

 

顔を赤くして彼女の様子を見て、俺は黙って前に進んだ。ここで下手なことを言ってヘソを曲げられるとめんどくさいとか思ってない。顔を赤らめていたのは可愛かったけどな!

 

そんなこんなで入り組んだ坑道を進むと、かなり広い場所につながっていることがわかった。縦にすっぽりと空いた大穴だ。おそらくガクマが地上に出るために通った穴だろう。

 

下を見るとかなり暗く、深い。落ちたらひとたまりもない高さだ。

 

 

「行き止まりだな…どうする?」

 

 

不安な目で見てくる先輩に「ひとまず戻りましょう」と答えようとした瞬間。再び激しい揺れが俺たちを襲った。

 

バランスを崩した先輩が大穴の淵から身を落としかける。

 

俺はすぐに落ちそうになった先輩の手を掴んだ。

 

 

「ま、円!!」

 

 

握りしめた手を引き上げようとしたが、下に向けていた視線がとんでもないものを捉えた。

 

なんと、2本角のガクマが轟音を轟かせて穴を這い上がってきていたのだ。しかもとんでもない速度で。

 

 

「ま、円…なにか後ろから迫ってきてるのか!?」

 

「ええ、とんでもないやつがです!!」

 

 

取り繕えずそう答えると、涙を浮かべた先輩が震える声で言った。

 

 

「ま、まどか…お前だけでも生きろ!」

 

「先輩!?」

 

「お前は私を怖がらずに、ついてきてくれた初めての後輩だ…。だから、お前だけでも生きて…」

 

「嫌です、先輩!俺は諦めません!!」

 

 

ドクン、と内ポケットに収まる光が脈打つ。ガクマはすぐそこに迫っていた。

 

迷ってる時間は、ない。

 

俺は先輩の手を離さないまま、内ポケットに手を突っ込んだ。

 

 

「先輩!俺が今からすることは、他言無用で頼みます!」

 

「まどか!?」

 

 

手に収まったスパークレンスを見つめる。脈打つ光はガンガンと俺に語りかけてくる。

 

 

何度も捨てたはずのに、スパークレンスは必ず自分の元へと戻ってきた。

 

 

いったい何だって言うんだ。

 

何をどうしろって言うんだ。

 

俺は、ただの人間だ。

 

主人公でも、ましてやヒーローでもない。

 

 

毎日同じ時間に起きて、電車に揺られ、仕事をして、何もすることなく夜に眠り、休日を無碍に過ごす、何の取り柄もない男だと言うのに。

 

なぜ、こんなにも鳴り響く。

 

 

 

うるさい。

 

うるさい!うるさい!!

 

 

 

「ああ、わかってるよ。そんなに戦えと言うなら…戦ってやるよ…!!だから…ガンガンと鳴り響くな!!」

 

 

片腕を捧げ、天に掲げた〝スパークレンス〟から光が昇った。

 

俺の体は、ティガとなった。

 

その肉体は、まだ光を信じられていない故に、未熟。

 

変身能力すら失った未完成。

 

その名は、ティガ・オルタナティブ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「巨大生物、市街地まで残り5キロ!!」

 

 

その間も巨大生物の進行は続いている。

 

あんな怪光線を放つ存在が市街地に到達すれば、現地の民間人にどれほどの被害が出るか。

 

 

「あの光を受けたら…カチンコチンにされちゃう…!!」

 

 

伶那は歯を食いしばって機体を低空へと落とした。岩山の肌をスレスレで飛び、巨大生物が向けない背後へと回る。

 

 

「柳瀬!何をするつもりだ!」

 

「割れた外殻にもう一発!!」

 

「柳瀬!!危険だ!!柳瀬!!」

 

 

最初に当てた対艦ミサイルの傷ははっきりと残っている。出血が目立つ場所目掛けて伶那は意識を鋭く走らせる。

 

巨大生物は、伶那の接近に感づいており、四つ這いになる尻尾を奮って伶那のF-2を叩き落とそうとした。

 

 

「——今!!」

 

 

その一撃を伶那は巧みな操縦技術で避けつつ、生まれた隙へ集中力を注ぎ込み、翼に備わる対艦ミサイルを放った。

 

ミサイルは驚くほど正確に巨大生物の傷口へと飛翔し、ついに到達した。

 

 

「やったぁ!!」

 

 

巨大な爆発と飛散する巨大生物の血液。巨大生物は苦しげな呻き声を轟かせたのち、這っていた巨体を大地へと落としたのだ。

 

 

「巨大生物、停止を確認!!爆発の様子から致命傷を負った模様!!」

 

「やったな!!ホーネット1!!」

 

「伊達にエースじゃありませんよ!」

 

 

報告を受けて、入麻やモニタリングをしていた宗方たちはホッと胸を撫で下ろした。

 

新城も上昇した伶那の機体へ近づき、称賛の声をかける。

 

 

「全く…無茶な飛び方をする。全機、帰りの燃料もある。周辺警戒を終えたら帰還を——」

 

「隊長!!地底より、高エネルギー反応!!これは!!」

 

 

宗方が帰還命令を通達しようとした瞬間、歓喜にあふれていた司令室の中で矢栖が叫んだ。

 

入麻が通信を入れる間も無く、伶那たちの眼下では倒れた巨大生物の近くからもう一つの影が、山を切り崩して現れたのだ。

 

 

「角が二本の…怪獣!?」

 

「柳瀬!!」

 

 

ハッと伶那が気がつくと、現れたもう一匹の巨大生物が、伶那の機体へ青い光を放ったのだ。回避行動をとるが、光は伶那の機体の主翼を捉え、その一部を固い岩へと変えたのだ。

 

 

「翼が…!!キャアーーっ!!」

 

 

片側の翼の機能を奪われた伶那の機体が姿勢を崩して降下していく。

 

 

「柳瀬!!脱出しろ!!柳瀬!!」

 

「ダメ…電子機器が…」

 

 

脱出レバーを引くが、青い光によって電子回路が完全に破壊されている。凄まじい負荷がかかる中で、伶那はギュッと目を瞑った。

 

 

(こんなところで死にたくない…助けて…ダイゴ…)

 

 

心の中で幼なじみの名を叫んだと同時。

 

伶那を襲っていた重力の嵐が止まった。

 

落下していく浮遊間もなくなり、機体は驚くほど静寂に包まれていた。

 

伶那は閉じていた目を開いて、バブルキャノピーから外を見上げる。

 

 

「光…?」

 

 

そこには眩い人の形をした光があった。

 

ゆっくりと降下してゆくそれは、伶那の戦闘機を安全な場所へと下ろして、荒れ狂う巨大生物の前へと降り立つ。

 

光が収まると、そこに立っていたのは東北地方で遭遇した銀色の巨人だった。

 

 

「ティガの…巨人…」

 

「現れたのか…」

 

 

入麻や宗方たちが、信じられないものを見るようにモニターは視線が釘付けになる。

 

銀色の体を翻したティガの巨人は、ゆっくりと腕を構えて、暴れている巨大生物…ガグマへと立ち向かった。

 

 

 

 

 

 


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