「そんなに焦らなくても大丈夫だって、今どきCD買う物好きお前しか居ないから」
「ダメだよ!ずっと楽しみにしてたんだから売り切れてたら立ち直れないよ」
言うほどのことなんだろうかと思う霧夜を他所に小走りを続ける響に連れられてCDショップへと向かう。霧夜は特典とかよりも便利さを取る人間なので面倒な事この上ない。
未来も面倒臭いから適当か用事をでっち上げたのではなかろうかと考えるがそんな事をする奴ではないので本当に用事があったのだろう。
「にしても人の多い夕方に走る事になるとは…あれ?なんか人が少ないような…」
平日の夕方、言うなれば下校や退勤する人間で賑わうはずの街中は何故か閑散としている。そう考えていると、サラサラと黒いものが風に飛ばされていくのを目にすると、周りには黒い物体が山積みになっていた。
不自然に山積みにされた大量の炭、まるでさっきまでそこで生きていたかのような。
「ノイズ…」
「逃げるぞ響!」
霧夜は響の手を掴んで走り出す。
人を炭に変え現代兵器では歯が立たない得意災害、それがノイズ。
人はノイズに襲われる確率なんて宝くじが当たるよりも低いと言うがそんな珍しい目に遭っても何も嬉しくない。
第一幼馴染の響に関しては2年前に1度ノイズの災害に巻き込まれている。本当に宝くじより低ければ響は今頃億万長者のはずだ。
「待って!子供の声がする!」
「バカっ!構ってる場合じゃねぇだろ!」
声のした方向に向かって走り出そうとする響の腕を掴んで止める。
こんな状況でほかの人間を助けになど行かせられるはずがない、自分の命すら危うい状況でそんなことをするのは自殺行為だ。
「でも泣いてるんだよ!助けてあげなきゃ!」
「状況考えろ!今まさにお前も俺も死にそうなんだよ!自分達のみを守らなきゃどうする!」
「…ごめん霧夜、私やっぱりほっとけない!霧夜は先にシェルターへ逃げて!すぐ行くから!」
そう言って霧夜の手を振りほどいて響は声の方へと向かってしまった。霧夜はそこで立ち尽くして響の背中を見ている。
自分が死ぬかもしれない状況で見ず知らずの子供を助けようだなんてどうかしている。正気じゃない。これ以上付き合うことは出来ない。
このままシェルターに迎えは自分は助かる筈だ。
安全なシェルターで、ほかの人間と同じようにただノイズが過ぎ去るのを待つ。
それだけでいい、それが正解だ。
──────────それでいいのか?
2年前のあの時も響1人だけがノイズの被害にあって、退院した後も酷いいじめを受けた。
──────────また1人にするのか?
もう二度とあいつが泣かないすると決めたのに、またお前は何もしないのか?
──────────だってどうしようもない
自分は何も出来ないのだから助けられなくても仕方ない。あの時だってライブのチケットが当たらなかったから一緒に行けなかった。
そうやって言い訳して、仕方ないと自分を正当化する。
大丈夫、きっと政府の人がなんとかしてくれるから。
──────────だから
「その子抱いたまま水に飛び込め響!」
霧夜は子供を抱いている響に声を掛けて自分が先に水の中に飛び込む。もし響が子供の重さに耐えられなくても高校生2人係なら子供1人くらい居ても泳げるはずだ。
2人は対岸へと渡り、響が抱いていた少女は霧夜がおぶって走ることになった。
「どうして着いてきたの!?あのまま行けば霧夜だけでもシェルターに」
「しょうがねぇだろ!考えてたら体が勝手にお前のところに向かってたんだよ!」
ちくしょうちくしょうちくしょうと心の中で悪態をつく。
考えるよりも先に体が動いてしまっていた。
もう二度と響を1人にしないという決意が恐怖する脳の代わりに体を動かしてしまった。
「はぁ…はぁ…ごめんね、霧夜まで…巻き込んで…私のせいで…」
「マジで呪われてるかもな俺たち」
霧夜に比べて明らかに体力の限界が近い響、このまま逃げ続けるだけでは確実に持たない。
「お兄ちゃん…お姉ちゃん…私達死んじゃうの…?」
「大丈夫だ…お前もこの姉ちゃんも、絶対に死なせねぇ。響、この子おぶって走れるか?いや、走れなくても気合いで走れ」
「霧夜、どうする気?」
「俺が惹き付けて引きつけてここから引き剥がすから、安全なところまで走れ!」
霧夜は少女を響に渡すと自分に惹き付けるようにノイズを挑発し始めた。充分に自分に注意をひきつけて走り出そうとした時、響に手を掴まれる。
「ダメ!そんなの絶対にダメだよ!」
「大丈夫、体力だけはあるんだ。逃げ切れるって」
「嫌!絶対に嫌だ!」
「駄々こねんなって、大丈夫だから…」
「嫌だ!だって霧夜死んでもいいって考えてるでしょ!そんなの絶対にダメ!──────────生きるのを諦めないで!」
その言葉を聞いた時、記憶の中の少女と響が重なった気がした。
辛かった時に一緒にいてくれた頼もしい少女、今はもういない愛おしい彼女に。
その直後、響の体がオレンジ色に光体から機械の様な物体が飛び出してくる。咄嗟に霧夜が響の体に触れると、ドクンッと身体の中で脈打っているような感覚に襲われた。
「うぐっ、ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「響っ、ぐぁぁ、しっかりしろよ!俺が着いてる!ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
その場所にはオレンジ色の光と金色の光が登っていた。