ホームズとモリアーティ   作:蔗糖

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まだネタ段階ですがお試しという感じで書きなぐってみました。続くかは未定。



プロローグ
モリアーティと呼ばれる少女


 少女は喧騒の中を歩く。

 

 周りには人、人、人。

 話す言葉や肌の色、歩く方向までバラバラなまるで統率力のない集団の中、大きなキャリーバッグをゴロゴロと引いて少女はゆっくりと歩く。

 

 ここは米国ジョージア州に位置する世界最大級のハブ空港、ハーツフィールド・ジャクソン・アトランタ国際空港。

 年間乗客数ナンバーワンの「世界中で一番忙しい空港」の中、ゆっくりとしたスピードで歩く少女はスマートフォンを取り出してどこかへ電話をかけている。後ろを歩いていた出張中のサラリーマンらしき男は、するりと少女を追い抜いて搭乗ゲートに向かった。少女の黒くてながい髪が揺れる。

 

「ハァイ、お久しぶりです。この前はありがとうございました」

 

 少女の口から飛び出したのは流暢なクイーンイングリッシュ。

 アジア人特有のエキゾチックな顔立ちをしているが、薄めの唇やぱっちりした瞳にどこか多国籍を感じさせる。なんともミステリアスで魅力的な少女は、しかし周囲の目を引くこともなく自然と風景に溶け込んでいた。

 

『あれくらいお安い御用ですよ。で、どうです? 計画通り上手くいったかな』

 

 電話の相手は男性のようだ。耳に心地いいテノールで響くイタリア訛りの英語を聴きながら、少女は鈴の鳴るような声でうふふと笑った。

 

「ええ、そっくりそのまま計画通り。石橋を叩いて渡ったかいがありました」

 

『俺は石橋を叩く杖ってところか。相変わらず、貴女が何を考えているのかさっぱり分からなかったよ』

 

 ご謙遜を、と言って少女は微笑む。ざわざわと絶えずうごめく喧騒の中に、唯一規律をまとった音声が響いた。空港の搭乗アナウンスである。集団の一角に一定の規則性が生まれた。

 

『もう出国するのかい? 今度はどこへ?』

 

「秘密です。久し振りに私のホームズに会いに行こうと思って」

 

『……ロンドン、じゃないよなぁ』

 

 少女には電話の相手がお手上げ、というように肩をすくめるのがはっきりと目に浮かんだ。

 

『まあ、行先がどこであれ、素敵な旅になることを願うよ。また貴女に会える日を楽しみにしていますから、モリアーティ先生』

 

「ええ、また近いうちにお会いしましょうね」

 

 モリアーティと呼ばれた少女は電話を切ると、くるりとUターンして先程より幾分か速いスピードで歩く。

 少女が乗る便まではまだ時間に余裕があった。何か手土産があった方がいいかしらと考え、空港内部にある人気のチョコレート店へ足を進めた。

 

 少女の行先は日本。幼少期を過ごした生家に数年ぶりに帰る予定である。

 自分がいない間にホームズに異変が起きていることなど露知らず、少女──阿部美織(あべみおり)は呑気にチョコレートを選んでいる。

 

 再び搭乗アナウンスが流れて、集団の一角に規則性が生まれた。

 

「早く会いたいな、私のホームズ君」

 

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