ホームズとモリアーティ   作:蔗糖

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第二話

 

 

「蘭! 次の日曜日、予定あいてるわよね!?」

 

「う、うん、あいてるけど……」

 

「パーティーよパーティー! イケメンよ! 笛川理人に会えるのよ!!」

 

 

 

 

 

 今週の日曜日、米花ホテルにて『黄昏の研究室』の映画化記念パーティーが開かれる。

 主演俳優である笛川理人(ふえかわりひと)をはじめとした映画スタッフと、その関係者たちが集まる豪華なパーティー。そのパーティーに、鈴木財閥の伝で参加できることになったというのが園子の話だった。

 

「ということで日曜日に行くことになったんだけど、コナン君も来る?」

 

「それって美織姉ちゃんも来たりするの?」

 

 正直そこまで興味のある話ではないが、蘭の誘いを断る理由もない。しかし、美織が来るというなら話は別だ。

 彼女の頭脳をもってすれば俺が工藤新一だと気づかれるのも時間の問題である。昨日会った時も怪しまれている様子だったし、できることなら接触は避けた方がいい。

 

「それが、美織ちゃんも誘ったんだけど、その日は用事があるから来られないんだって。原作者の茶谷先生も出席するって話なのに、残念よね」

 

「え!?」

 

『黄昏の研究室』の茶谷千(ちゃたにせん)といえば、覆面作家で有名な小説家だ。

 出身は日本のようだが(単純に著書が日本語で書かれていることからの推測である)、現在どこに住んでいるのかも、年齢も、性別さえ分からない謎の推理作家。そんな人物が参加するとなれば行かないという選択肢はない。俺は素早く手を挙げて返事をする。

 

「はい! ボクも行く!」

 

「蘭、俺も行くぞ!」

 

「え? お父さんも?」

 

 お父さんってこの小説読んでたっけ……と不思議そうにする蘭に、先程までテレビの中の女優にデレデレしていたおっちゃんは目を爛々と輝かせて叫んだ。

 

「ヒロイン役で柴山瑠璃子(しばやまるりこ)ちゃんが出演するんだ! 行かない手はねぇだろ!!」

 

 バッと手で示した先にはテレビの中でこちらに手を振る美人女優に、存在を主張する新作映画出演のテロップ。

 待ってろ瑠璃子ちゃ〜ん♡と叫んで再びテレビに釘付けになるおっちゃんに、俺は蘭と顔を見合わせて、アハハと乾いた笑いをこぼした。

 

 

 

 

 

「ら〜ん! こっちこっち!」

 

 会場である米花ホテルに着くと、ロビーで待ち合わせしていた園子が立ち上がって大きく手を振った。

 

「ごめん園子、準備に時間かかっちゃって……」

 

 行きましょ! と言って歩き出す園子について荷物をロッカーに預け、会場に入る。そこには既に大勢のパーティー参加者が集まっており、色とりどりのドレスや着物、タキシードに身を包んで談笑していた。

 中央には長いテーブルがひとつ置かれており、時間になればそこには美味しそうな料理が並ぶのだろう。

 と、その時。会場の照明が薄暗くなり、奥にあるステージにパッとスポットライトが当たった。

 

「始まるみたいね」

 

 周囲のざわめきが次第に収まり、皆がステージに注目する。すると、一人の若い男性がマイクの前に立った。

 

「皆様、本日はお集まりいただきありがとうございます。これより、『黄昏の研究室』映画化記念パーティーを開催させていただきます。後ほど主要スタッフの皆様にご挨拶いただきますので、それまで米花ホテル自慢のビュッフェをお楽しみください」

 

 大きな拍手が響き、男性がステージから降りる。照明が元の明るさを取り戻すと、中央の長テーブルにたくさんの料理が並べられた。皆で皿を持って料理を取りに行く。

 

「うわあ、どれも美味しそう! コナン君はどれがいい?」

 

 取ってあげると言う蘭に食べたい料理を盛り付けてもらい、お礼を言って皿を受け取る。

 

「見てよ蘭! あれ、この間日本アカデミー賞で監督賞もらった井上監督よ! あっちにいるのは女優の柴山瑠璃子だし、そっちは……」

 

「失礼、お嬢さん方。その料理を取ってもいいかな」

 

 興奮して喋りっぱなしの園子に声をかけたのは、すらりと背が高く、長めの黒髪を綺麗にセットした色白のイケメンだった。

 

「ふ、笛川理人……」

 

「ほら園子、いつまでもここにいたら邪魔よ。あっちで食べよう」

 

 間近で見たイケメンにくらりとなっている園子を、半ば引きずるようにしてテーブルから離れる。

 

「あれ、そういえばお父さんは?」

 

「小五郎おじさんならあそこだよ」

 

 ほら、と指さした先には、女性スタッフの集団に声をかけてキメ顔で名刺を渡すおっちゃんの姿がある。蘭は父親をしらけた目で見ると、ほっとこ、と呟いた。

 

「ねえコナン君、あれ……」

 

 蘭の視線の先には綺麗な着物を着た高校生くらいの女の子がいた。スタッフの娘かなにかだろうか。それとも、俺たちと同じように何かの伝で参加した一般人だろうか。

 

「あれ、美織ちゃんじゃない?」

 

「え!?」

 

 もう一度彼女をまじまじと見ると、たしかについ先日再会したばかりの幼馴染の面影を感じる。そうこうしているうちに向こうも俺たちに気づいたようで、驚いたような顔をしてこちらへ歩いて来た。

 

「蘭ちゃん、園子ちゃん、それにコナン君も。どうしてここに?」

 

「美織ちゃんこそ! 用事ってこれの事だったの?」

 

「ええ、ちょっと仕事で……」

 

 薄黄色の華やかな着物を着た彼女は少し化粧をしていて、それが雰囲気をより大人っぽく見せていた。

 

「え、もしかして美織? 久しぶりじゃない!」

 

 蘭からあんたが帰ってきたって聞いてびっくりしたのよ? と言ってばしばし美織の肩を叩く園子に、彼女はクスクスと笑って久しぶりねと返す。

 

「園子ちゃんも元気そうでよかった。それで、今日は園子ちゃんの伝で?」

 

「そうよ。正確には叔父様の伝で、笛川理人を見に来たのよ!」

 

 相変わらずイケメンに目がないのね、とニッコリ笑う美織。俺は先程の彼女の言葉が気になって、着物の袖をクイッと軽く引っ張った。

 

「ねえ美織姉ちゃん、お仕事ってな……」

 

「阿部さん!」

 

 俺が話しかけようとしたちょうどその時、先程ステージで開催の挨拶をした男性が美織のことを呼んだ。彼女は俺が話しかけようとしたことに気づいて視線を下に向けていたが、名前を呼ばれてハッと顔を上げる。

 

「あ、ごめん、もう行かないと……コナン君、何だった?」

 

「あ、ううん、やっぱりいいや」

 

 そう? と首を傾げる彼女に再び男性が呼びかける。彼女は慌てた様子で蘭たちにまたねと挨拶をすると、急いで男性の方に行ってしまった。

 

 

 

 

 

 美織が去ってから暫くして、再び会場が薄暗くなりステージにスポットライトが当たる。

 先程の男性はおそらく司会役なのだろう。男性は中央のマイクでスタッフの挨拶が始まる旨を伝えると、ステージ脇に移動して台本を読み上げた。

 

「それではまず、主演の笛川理人さんからお願いします」

 

 大きな拍手と共にステージの脇から先程のイケメンがマイクの前に立つ。

 

「ただいまご紹介に預かりました、主演を務めさせて頂く笛川理人です。僕は今回の映画が初主演ということで──」

 

 順調にスピーチが続き、主演俳優の後はヒロイン役を務める女優、総合演出がそれぞれステージ上で軽く映画への意気込みを語った。

 今回の映画はなかなか気合が入っているらしく、初主演の若手俳優の足場を固めるように人気女優やベテラン演出家が起用されている。人気作家の初映画化作品だし、発売当時とても話題になった人気作だけあって世間からの注目度も高い。気合いが入るのも当たり前だろう。

 

「続いては、原作の茶谷千先生です」

 

 司会の男性がよろしくお願いしますと言って顔を上げた、ちょうどその時──

 

 バチンッ

 

「!?!?」

 

 会場の照明が完全に落ちて、あたりが急に暗闇に包まれる。ザワザワと会場に不安が漂うが、幸いホテルには予備電源があるので停電はすぐに解消した。しかし、

 

 

「き、キャ──────ッ!!」

 

 

 明るくなった瞬間響き渡る女性の叫び声。赤い血が飛び散ったステージ。ざわめく会場。

 

 

 ステージ後方で首から血を流して倒れていたのは、パーティーで司会を担当していた若い男性だった。

 

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