葉隠透の奇妙なアカデミア 作:ピーカブー
「ようこそ私の世界へ。自分の姿も、仲間の姿も、敵の姿も見えない世界へ。でもねっ、私だけは全て見えているんだよッ! 焦った顔してるのもハッキリ見えてるしっ。守る、逃げる、隠れる? 全部違うッ! これから全員ブッ飛ばしに行くよッ!」
『ステージから全騎馬が姿を消したァァッ! シビィィィィィッ!』
『マスメディアはあらかじめ配布したサーモグラフィーで放送事故にはなっていないが……』
『俺達なんにも見えませぇぇぇん!』
現地勢が一番何も見えていないという奇妙な状況に困惑の空気が漂っていた。
「宍田ァッ! 葉隠どこだァァッ!?」
「え? なにを──」
「鱗! 撃てェッ!」
「アイヤー、宍田場所教え──」
「落ち着けッ!」
「誰か……誰か探せねぇのか」
「鎌切、角取、鼻利かねぇのか!?」
「無理だ」
「ワタシも」
「これじゃあ僕でもキラめけないね☆」
「何も見えねぇ」
「どうする緑谷?」
「発目ちゃん何か見えない?」
「何も見えません」
「ダークシャドウは出さないで、見られるだけだ」
「峰田……何か」
「峰田ちゃん」
「黙ってろォッ! 今考えてる!」
「最悪だ」
そう呟いたのは物間寧人。
これは想定しうる最悪の状況だ。
塩崎と葉隠のコンビは確かに恐ろしい。だが、真に恐ろしいのは心操君と葉隠のコンビだった。
初見殺しも見られなければ全殺し。
完璧なコンビネーションだ。これ以上ないほど完璧な噛み合い方。
心操君の個性が活きる最高の組み合わせ、最高の状況。
混戦乱戦に加えて視覚が封じられたこの状況は、間違いなく心操君の一人勝ち状態。
鼻が利く宍田は既に落とされた。
……でもさぁ、聞いてた話と違うぞ、心操君。
見えなきゃ洗脳出来ないんじゃなかったのかよォッ!
軽快な電子音がスタジアムに響く。
ポイントが移動したときに鳴る音だ。
1位 葉隠チーム 10001855ポイント。
……
6位 角取チーム 0ポイント。
「どぉしてポイントが移動してるんだァッ!?」
「個性攻撃ッ! 個性攻撃を受けているんだァァッ!」
「宍田達は何も言わねぇんだァッ!? 何か言えッ! 宍田ァッ! 葉隠はどこにいるんだよォォォッ!」
「角取ィッ!? 鎌切ッ! なんであいつらポイント取られてるのに何も言わねぇんだァッ!?」
「拳藤ッ! 後ろに誰かいる!」
「えっ? どこ──」
「鉄哲ッ! 気を付けろッ何か来てるッ!」
「来るなら来いやァァッ!」
さらに2度、軽快な電子音が鳴り響く。
1位 葉隠チーム 10002615ポイント
……
4位 鉄哲チーム 0ポイント
5位 拳藤チーム 0ポイント
「あとふたーつッ!」
『立て続けに角取、拳藤、鉄哲チームがハチマキ取られたァッ! 副審のエクトプラズムが上げてる旗は白! セーフだッ! マジで総取りあるぞコレェェッ!』
『攻略出来なきゃこのまま終わるぞ』
「俺達は既に葉隠達の術中にはまっていた」
「う、打つ手がない……ッ!」
「クソガァァァァァッ! モブどもの前に透明野郎ぶっ殺すッ!」
「あ、今のかっちゃんだ」
「やべぇよ、やべぇってマジで……ッ!」
言いてぇ。全部ゲロっちまいてぇ。
「喋るな」っていう一言が、言いてぇけど……言えねぇ。
言えば察しの良い奴には心操の個性がバレちまう。
俺からはバラせねぇ。
心操の個性知ってる峰田も切島も、物間も何も言わねぇし。
たとえこのまま轟のハチマキ取られるとしても、バラせねぇ。
一度助けてもらった恩とかそういうんじゃなくて、バラしたら負け。
二度と心操に勝てねぇ、そんな気がする。気持ちの、プライドの問題だけど。
でもこの状況、詰んでね。
「ヤオモモォォォッ! インクだッ! インクを作れッ! 全員に色が付くくらい大量の! インクをォォォッ! 作れーッ!」
突如上がった絶叫のような雄叫びは誰であろう、峰田実だ。
今日一番冴えている漢の声がスタジアムに木霊した。
『良い』
『冴えてるんじゃないかァッ!』
「分かりましたわ!」
「……冴えてるじゃねぇか、峰田」
「峰田君、なんて頼りになる男なんだ」
「峰田アイツ、対葉隠に関しちゃ相当キレるな」
「あったりめ~だろッ! おめえらみたいな強力で使い勝手の良い個性持ちは搦め手に弱ぇのが当たり前ッ! オイラや葉隠みてぇな攻撃に役立たねぇ一芸特化型は、発想力で先手取るしか勝ち目ねぇんだよォォッ!」
「そういうもんなのか?」
「さ、さぁ……? ですが、あと10秒くらいで作れますわ」
「峰田君の言葉も一理ある!」
「個性以前になんとなく搦め手に弱そうだけどな、このチーム!」
「だから真っ先に落としたかったよ、峰田君ッ!」
「抜かったなぁ葉隠ェッ! なんてったってよ~、透明人間になることはオイラの夢だったんだぜぇ~! どうすりゃ見つかっちまうかも考えてたんだよぉぉっ! 分かったらまた透明人間にしてくれよぉぉぉっ! こうなりゃ女湯覗き放題だぜ~っ!」
「少し見直したと思ったのに」
「だが、インクは良い案だった」
「出来ましたわッ!」
そして、ステージにドラム缶が出現した。
「ドラム缶って!? 飯田ァッ! 蹴り上げろッ!」
「任せてくれッ!」
飯田の気合の声とともに胴がべっこり凹んだドラム缶が宙を舞った。
「いったれ爆豪ォォッ!」
「誰だ今の!? 俺に指図──」
「爆豪やられたァッ!?」
「ヤベェェェッ! 耳郎ォォォッ! 頼むッ!」
「わぁってるッ!」
「好き勝手やりやがって1000万取るぞッ!」
「僕達もッ!」
「鉄哲が静かすぎる。どうしたんだ……その謎解かないとまた同じことになる」
「拳藤? もしかして寝てる?」
「起きろって」
「いたっ……から!? あれ?」
宙を舞うドラム缶が轟音を響かせる。
耳郎のイヤホンジャックから伝わる鼓動が爆音と衝撃波を生み出し、ドラム缶を爆発させた。
そして、真っ黒な雨がスタジアムに降り注いだ。
降り注ぐインクが全ての騎馬に色を付け、現れるのは黒々と汚れ切った12騎の姿。
『やっと見えるようになったなッ! このまま見えないままだったらどうしようかとヒヤヒヤしたぜッ!』
「うるせぇぇぇぇっ!」
「耳がッ!?」
「なんですぞーッ!?」
「そういうことかクソガァァァァァッ!」
「失敗だったんじゃない?」
「わりぃ、人選ミスった」
降り注ぐインクの雨に打たれながらステージ中央で透と心操が「耳郎ちゃんの方だったねっ」と暢気に話していた。
「発目ッ! 探せッ!」
「いや目の前におるけどォッ!?」
「探すまでもねぇッ! ど真ん中にいやがったッ!」
「透明野郎ッ! ぶっ殺すッ!」
「障子ィッ! 止まれェェッ!」
峰田の頭に過ぎる違和感。
それは、何故葉隠チームはステージ中央にいるのか。
透明になっていたときに移動するなら騎馬を取り囲んでいた包囲網から抜け出すはず。
3チームからハチマキ取るために移動していたはずなんだ。
ハチマキが見えていたのは葉隠一人、茨ちゃんの個性じゃ取れなかった。
ならハチマキを取っていたのは葉隠、っつーことはよぉ~、わざわざ中央まで戻ってきてた!
なんでそんなことを──ッ。
「こっちを見たねッ」
騎馬の上でピースサインの右手を天高く伸ばし、同じくピースサインの左手を前に伸ばして屈託なく笑う透の顔に焦りはない。
ここまで散々な目に合って怒り心頭の騎馬を前に後ろに依然変わらぬ人を食ったような態度の透に尾白が口元を引きつらせる。
そしてさらに怒らせるようなことをこれからする。
ごめんね、皆。
「目ぇ閉じ――」
「集光ッ! 屈折ッ! ハイチーズッ!」
騎馬の上で上半身をのけ反らせて大きく深呼吸した透の身体が眩いばかりに光り輝いた。
目を閉じても瞼の上から突き刺さるような強い光だ。
「「目がァァァァッ!」」
「バルスとか言っとけばよかったか」
「切島君と鉄哲君ですか、息が合ってますね」
「えげつないよ、葉隠さん……」
『やっと見えるようになったら今度は目潰しィッ!? フラッシュの点滅にご注意くださいってかァッ!? 先に言っとけよォッ!』
『確実に全員から視線が集まるタイミングでの目くらまし……巧いな』
『個性の使い方が光るなッ! 物理的にも光ってたけどッ! え、あれ、どうやって光ってんの!?』
『知らん』
『知らんて』
「本当だな」
心操が怪訝な顔で透を見上げていた。
「内緒だよっ」
波紋の修行の果てに身に付けた彼女だけの波紋疾走。
アクトン・ベイビーの透明化と波紋による血流操作の組み合わせ。
それは肉体の屈折率変化という形で現れ、疑似的な光の操作を可能にした。
レンズもレーザーもフラッシュも同じ理屈だ。
やる気になれば身体を虹色に光らせることも出来る。
「防いでるよッ! 緑谷ッ! 轟ッ! 峰田ッ」
「うっそ~んッ!?」
頬を押さえた透が周囲を確認すると、確かに3騎向かってきていた。
後方に峰田チーム、右方向に緑谷チーム、左方向に轟チーム。
8時の方向にギリギリで目を閉じて無事だった爆豪が雄叫びを上げて切島の頭を叩いていた。
「オイラは目やられたけどなァッ!」
「峰田ちゃん……私を庇って」
「俺もやられたが目は作れるッ!」
「ありがとう、ダークシャドウ!」
「モウヤダ」
「闇が尽きる、一旦戻れダークシャドウ!」
「アイヨ……」
目くらましの瞬間に騎馬の盾となっていたダークシャドウが涙目のまま常闇の身体に戻った。
「感謝するぜぇ峰田ッ! 防電シート被せんの間に合ったッ!」
「邪魔は入らせねぇッ! 取るぞッ!」
右手に握った熱伝導棒から氷壁を作り出し、葉隠チームへと伸ばした。
目くらましのダメージから回復しておらず、まともに動けない騎馬がいる前方への逃げ道を封じる形だ。
「塞がれたよっ!」
「後ろは──」
「逃がさねぇし、入れさせねぇッ!」
「──無理か」
騎馬の後方にも伸びて聳え立つ氷壁に尾白が苦々しく呟いた。
「氷よりも厄介な天敵が降りてきちゃったよッ!」
透が手を翳しながら上を見て苦々しく呟いた。
「間に合ったか」
「透ちゃん、取らせてもらうわ」
「ねぇ? 今飛んだ? 飛んだよな?」
氷壁を飛び越えて着地した障子の背中で峰田が目を擦っていた。
「逃げ場のない氷壁、後ろに峰田、左に轟、右に緑谷……どう切り抜ける?」
「この程度でさぁ、尾白君慌てすぎだよっ……切り抜ける? ちょっと違うよ、ぶち壊し抜けるッ!」
「出来るんですか?」
「やるのっ!」
透が塩崎の頭を叩いてから氷壁を前に拳を振りかぶった。
「ドラドラドラララーッ!」
叩きこまれた透のラッシュは氷壁にヒビを入れるに留まった。
「いててっ、コレ無理破れないよっ」
手をぶらぶら振りながら肩を落としていた。
「見て分かれよッ!」
「ハリボテかと思って」
「アホやってる間に────待て」
「あぁ、何かやったな」
「峰田さんじゃなくても分かりますわ」
「き、気付かなかった!」
轟が飯田を一瞥し、右腕を振るう。
右腕から発生した冷気が空気を凍らせダイヤモンドダストが舞い落ちる。
そして霜を付けガラス管のようにキラキラ輝く何本もの蔓が氷壁の間に張り巡らされていた。
そのうち一本は轟の顔の目の前にあった。
他にも、障子の足元、緑谷の目の前にまで張り巡らされたそれはさながら。
「ワイヤートラップか」
「バレてるしっ!」
「追い詰められて策が雑だ」
「成長したな、轟」
緑谷チームも障子チームもトラップには引っかからず凍った蔓を壊した。
「塩崎ッ! 蔓の壁を峰田の方にッ!」
まだ峰田の目は見えていない。
見えるようになった後のモギモギを警戒した心操が塩崎に指示を出した。
「それで元1位を躱して氷チームの壁にしますかッ!」
「あぁッ!」
「ダークシャドウが消えた今なら!」
「抜けられる! 走れっ、者どもっ!」
心操君遅れてるぞオラァッ、と腕を振り回して透が楽しそうに叫んでいた。
それでも時折後ろを振り返っては轟チームと峰田チームの動きを気にする余裕を見せていた。
「ぷふっ……轟君と上鳴君が黒髪になってる……似合わなっ。飯田君ちゃんと前見えてる? サングラスお揃いだねっ」
「す、すみません皆さん」
「てめぇのカツラも黒染めされてんの棚に上げやがって」
やっぱりだ。背を向けても仕掛けてこないのは渾身の電撃と氷が完封されたせい。
一度防がれてるから二度同じ手は出せない心理的な問題。
さらに轟君はどうして氷が防がれたのか分からないせいで顔が曇ってる。インクの雨に打たれて顔中真っ黒で表情読みにくいけどっ。
峰田君達は峰田君の回復待ち。回復する前に梅雨ちゃんの舌が届かない距離まで離れたいっ。
緑谷君達は騎手の緑谷君は個性の制御が不完全。使いこなせない個性を人間相手には使えないっ。使えるなら対人戦闘訓練で爆豪君ブッ飛ばしてるはずっ。
難敵の常闇君はダークシャドウを戻してる。いくら常闇君でもそう長い時間スタンドは出し続けられないと見た。今まで見た感じではパワーもスピードもダークシャドウの方が上、しかも射程距離は少なくても10m以上っていう破格の性能。スタンドの謎は早めに解かないと負ける。でも今は、解く時間がない。ないならないでスタンド出す前に勝つだけっ。
それに、他の騎馬じゃなくて緑谷君達を相手にする一番の理由は……まだ心操君の個性がバレてない!
「さぁ、行くよッ!」
戦闘前は大きく深呼吸。
絶対に忘れちゃいけない私のルール。
「緑谷! ここで取り返すぞッ!」
「うん! 割れない……割れない……電子レンジに入れた卵が割れないイメージ」
え、使ってくるの!?
しかも何そのイメージ!?
動揺するな、私!
「葉隠さん気を付けて! 使う気だッ!」
「個性を見せてなかった1位の奴」
「この焦り方……?」
「待って待って待ってッ! 使われたら打つ手ないよォォッ!」
緑谷君の右腕が妙に光ってるッ!
なりふり構ってられないのは分かるけど、殺す気なんじゃないの!?
こんな至近距離で超威力撃たれたら騎馬ごとブッ飛ばされる!
茨ちゃんの蔓でアンカー打っても耐えられない、尾白君でも踏ん張れない、心操君の洗脳は間に合わない。
茨ちゃんの肩を蹴って厳つい顔で拳を振りかぶる緑谷君の右腕に飛びつく。
「待たな────ッ!?」
スタンドは原則物理攻撃無効、個性攻撃無効────でも衝撃までは殺せなかったッ!
咄嗟に腕だけガード出来たけど、衝撃で腕がへし折られたッ!
しかもッ! 相澤先生とプレゼントマイク先生が目を丸くして私を見てる!
スタジアム最上階、実況席の高さまでブッ飛ばされてもまだ勢い衰えない私をッ!
「取ったッ! が、葉隠生きてるのかッ!?」
ダークシャドウが取った3本のハチマキを受け取っていた常闇が上を見上げていた。表情の読めない常闇にしては珍しく、誰が見ても本気で焦っている顔だった。
「死んだぁッ!?」
「放送事故!?」
「あ、当てる気は……そんな……僕は」
緑谷は青褪め絶望した顔で上を見上げている。麗日も、発目も同じような顔で上空へブッ飛ばされた透を見上げていた。
緑谷チームと相対する騎手の消えた騎馬の面々も同じような顔だ。
透が緑谷の腕に飛びついた瞬間に発生した爆風に煽られ後ろに下がらざるを得ず、遥か高くブッ飛ばされた透を見上げるしかなかった。
「葉隠さんッ!?」
「これは……ッ!?」
「力貸せ! あのまま落ちたら死ぬぞッ! まだ生きてればの話だけどなッ!」
「私に何の恨みがあってぇぇぇっ!?」
観客席も実況席も超える高さから透の絶叫が空へと響き、飛んでいたカラスが驚いたように大声で鳴き返した。
それほどの高さからこれから落ちるのだ。
「生きてたァァァァッ! 良かったぁぁ」
緑谷の泣きそうな声の絶叫も透の絶叫に負けないくらいスタジアムに轟いた。
「少しは加減しろッ! だが今はハチマキ付けろ!」
「あなたの個性って」
「超パワー……てか早ッ!?」
麗日が見ている前で騎手を失った騎馬が氷壁を駆け上がっていく。
次々に氷壁に打ち込まれる蔓が騎馬の3人を引っ張り上げ、尾白が尻尾で支えながら氷壁を越えて飛び降りた。
「機動力のある奴らで助かった……塩崎着地ッ! で上から葉隠ッ!」
「ん!? はいッ!」
「あれ!? あぁ、そういうこと」
流石に塩崎、入試に続いて2度目の洗脳からの状況把握が早い。頭髪の蔓がやや乾き始めて個性許容量の限界が近いがそれでも蔓を伸ばして落ちてくる透の身体に巻き付けた。尾白は周囲を見回して景色が変わっていることにやっと気づいた様子だった。心操に至っては氷壁登りで完全に疲れ切っていて満身創痍だ。
落ちてくる透を見上げているのは3人だけではなく、他の騎馬もまた、やや顔を青褪めさせて上を見上げていた。目くらましから復活してみれば障害物競走1位が透を遥か高く、小さく見失いそうになるほど高くブッ飛ばしていたのだ。緑谷の拳から発生した衝撃波は氷壁にヒビを入れ、ややもすれば身体が浮くほどの爆風を放った。
そのまま落ちてしまえば間違いなく死は免れぬほどの高さから人が落ちてきているのだ。
競技そっちのけで見上げていても仕方のないことだった。
落ち始めてからずっと透の絶叫が響き続けているのも動きを止める要因の一つだ。あまりにも長い絶叫、息が切れないのは波紋の修行で鍛えた肺活量の無駄遣いに他ならなかった。
「アァァァァッ! 死ぬかと思ったよっ! ありがとっ!」
「ぐっ……重ッ」
蔓で透を受け止めた塩崎が支えきれず膝から崩れ落ちた。
「無事か!?」
心操は完全に地に伏せて顔中砂まみれになっている。インクで汚れているだけに砂がべったりくっついていたがそれでも顔を上げて叫んだ。
「無事だよっ! はーっはっはー!」
「はぁー、良かった……いや良くないよっ! 腕!」
唯一踏ん張りが効いていた尾白が透の腕を見て目を剥いた。
「うん、腕は折れてるけどねっ……いてぇッス」
尾白の一言に折れた腕をプラプラ振って透が笑った。
『葉隠が緑谷の超パワーでブッ飛ばされたが生還したァァァァッ! ヒヤヒヤさせるなって……腕折れてんのォッ!?』
『骨折なら問題ない。そして、1000万ポイント取られたな』
『ま、例年誰かしら骨くらい折るわな。ちょっと危ない場面もあった……というか体育祭が中止になるかの瀬戸際だったが気を取り直してポイント見てみるか! 1000万ポイントは緑谷チーム……じゃねぇぇぇっ!?』
『取られたって言っただろ』
「取ったわ峰田ちゃん」
峰田がやたら桁数の多いハチマキを頭に付けた。
全員の視線が落ちてくる透に集まっていた瞬間にハチマキを掠め取った蛙吹の動きと峰田の指示が功を奏した。
それというのも峰田実、心操が塩崎と尾白を洗脳するところを見ていた。見たから安心した。心操なら必ず助けるという信頼が峰田の一手を早くした。他の騎馬に取られる前に、常闇から緑谷に手渡されていたハチマキを取ったのだ。当然ハチマキを取ったのは蛙吹だ。
「緑谷おめぇまだバスのこと気にしてたのかよぉ~!」
「あぁ~」
そんな声が様々な騎馬から上がっていた。納得の声を上げるのは当然全てA組の生徒達だった。
そして納得の声を上げているA組の生徒達を見たB組の生徒達は「一体何をすればあんなパワーで殴られても納得されるんだ? むしろ殴った緑谷の方が同情されてるのは何故なんだ」という顔をしていた。
『1位は峰田チーム! で、バスで何があったの? ねぇ? イレイザーヘッド』
『俺の口からは言えんな』
「トルクオーバー! レシプロバーストォォォッ!」
「オイラの天下がぁぁぁぁっ!」
「飯田ちゃん、早いわ」
「見えなかった、俺の目をもってしても」
障子が6つの目を走り抜けた飯田に向けていた。
1位 轟チーム 10001070ポイント
2位 葉隠チーム 1700ポイント
3位 爆豪チーム 935ポイント
4位 緑谷チーム 600ポイント
『あれっ!? 峰田何してんだよォォォッ! 取られてるじゃねぇかァッ!』
『飯田だな』
『そんな超加速あるんなら予選で見せとけよーッ! 1000万ポイントを取ったのはァァァァッ! 轟──じゃねぇッ!?』
『誰だ……?』
軽快な電子音が鳴り、スクリーンに映された順位が変わる。
1位 葉隠チーム 1700ポイント
2位 爆豪チーム 935ポイント
3位 轟チーム 755ポイント
4位 緑谷チーム 600ポイント
5位 峰田チーム 0ポイント
1000万ポイントのハチマキが宙を駆ける。
持ち主は未だいない。
首にかけたハチマキが取られた轟は虚空を見つめていた。
ひらひらと舞い落ちてくる物を見つめていた。
「取蔭か!?」
「違う!」
「じゃあ角取!?」
「Noooo!」
「誰だ!? 誰が取ったんだァァァァッ!?」
「元気だな物間、散々爆破されまくってたのに」
物間チーム、氷壁の中に入れず苛立っていた爆豪から腹いせのような爆破を浴びて全体的に煤けていた。
さらにハチマキまで取られていた。
「誰が取りやがったんだクソガァァァァァッ! 俺以外に取られてんじゃねぇぇぇッ!」
爆豪の怒号が響き渡った。
スタジアムを横切っていくハチマキを掴んだ者は──。
「ウチらだッ!」
「ありがとう。黒き翼を持つ空の主よ」
「キラメキは止まらないよ☆」
「ここからがキツいけどよッ!」
轟の首からハチマキを取った一羽のカラスが口田の肩に止まった。
耳郎響香の手が10000315ポイントのハチマキを掴んでいた。
『1000万ポイントを掴み取ったのはァァァァッ! ……まだ取られてないよな? な? よし! 耳郎チーム!』
『ほとんどの騎馬は中央に固まってる。対して耳郎チームはライン際、位置取りが巧い』
『終盤で1000万ポイントが騎馬から騎馬へと渡り歩く! 残り時間は4分! 果たして1000万ポイントは誰に頭を垂れるのか!』
1位 耳郎チーム 10000315ポイント
2位 葉隠チーム 1700ポイント
3位 爆豪チーム 935ポイント
4位 轟チーム 755ポイント
5位 緑谷チーム 600ポイント
……
→To Be Continued ...
修正しました。ポイント数の桁が全部1桁足りませんでした。本当にすみません。