慎ちゃんとのコンビ技ができるなら、これもできそうな気がしたので。
「……え?」
ドリンクの準備やその他雑用をしていた1年が小さく漏らす。声のした方を見やると手が止まっている。いくら相手が王者白鳥沢で、勝ち目が低い試合でも、サボっていい理由にはならねえよ――そう叱ろうととして、思わず自分も固まってしまった。
「どういうことだ……?主将が、ウシワカじゃなくて、あの、アイツなのか?多分1年だよな、アレ……」
背番号10を付けている赤みがかった髪が特徴的な男。身長は170そこそこだろう。特に高いというわけでもない。バレーボールという競技の平均から考えると、むしろ低いと言ってもいいくらいだ。体つきも至って普通。それなりに鍛えてはいるのだろうが、筋骨隆々ではない。一見して、特別なものは何もない。
「でも、なんていうか、その、普通、っすね……?」
固まった1年が再起動しつつ首を傾げる。
「何言ってんだ!焼くぞ。むしろ異常だろうが」
そうだ、絶対におかしい。白鳥沢のメンバー全員が、普通にしていることがおかしいのだ。
「今年入ったばかりの1年が、あのウシワカから主将を奪ったってのか?どんな凄いやつでもありえねえぞ、そんなの。しかも、そのウシワカを含めてチーム全体がそれを全く不満に思ってねえ。まるで当たり前みたいに……」
「た、確かに……」
「少なくとも。あんなに自然に人を従わせる人間を普通、とは言わねえよ」
一体、何者なんだ。あの10番は――。
――10分後。
こちらのサーブで始まった試合。どうやらあの10番はセッターらしい。こちらの主将のジャンプサーブはアッサリとレシーブされ、そして――
無駄な動きが一切ない、完璧という言葉がこれ以上ないほど似合う優雅なトス。10番がセットしたボールは、空中で一瞬静かに止まり。ほぼ同時に、飛び込んできたウシワカがこちらのコートにスパイクを叩き込んでいた。
「今、のは……」
声が震える。何だ今のは。空中で止まるトスも、あの速攻も。烏野の影山とチビの10番だからこその技じゃなかったのか。それを、ああも簡単に。しかも、決めるのはあのウシワカだなんて。
「アカーシ!ナイストス!」
白鳥沢の面々が口々に10番に声をかける。アカシ、と呼ばれた男は、涼しい顔のまま口を開いた。
「……王者とは、勝ち続けるから王者。負けても楽しければいいなど弱者の言い訳だよ」
怖い。身体の芯から震えがくる。この男が、目の前のナニカが、心の底から恐ろしくてたまらない。
「宣言しよう。君たちはもう点を取ることはない。さあ――蹂躙だ」
多分続かない。
ところで烏野の先生人間できすぎてません?