---アリサ---
神であることを全否定している神が目の前にいる。彼と私の間には大きな世界地図が置かれている。
「ここでどうかな?」
彼は大きな大陸を指し示していた。転生前の私の記憶では、オーストラリア大陸に見えるのだが…デカ過ぎるのでは?そこまで新生クボォーク王国は広くない。
「ムー大陸は?」
「既に国がある。ダン達のいる国もそこにある」
「日本みたいな島国があるけど…」
ムー大陸の北に日本のような島国があった。
「そこにも国があるから、引っ越しは出来ない。そこ以外だと、君達の世界で言うアフリカ大陸にあるけど…」
言いにくそうだ。きっと、不便なんだろう。
「わかったわ。そこにする」
「じゃ、予定としては1ヶ月くらい先になる。隣接するシガ王国も引っ越し希望みたいなんだよ」
あぁ、王祖のミト・ミツクニ公爵は、既に異世界転移し、ダンの元にいるらしい。このアリサちゃんを差し置いて…
「同じ世界であれば、転移も楽になる」
私の能力では、異世界転移は出来ないらしい。
「通貨は共通通貨に移行しておくと、貿易が楽かもな」
あちらの世界では共通通貨と言う物があり、国ごとの独自通貨よりも、貿易時に損得が少ないそうだ。
「後は…魔王様が飽きたら合流したいらしい。まぁ、ラビの村自体は大きくないから、同居できるしょ」
魔王様の村は近代設備があるのが魅力である。私達だけの移住だと、ダン、サトゥーのチートコンビ頼みである部分が大きい。向こうでは、どういう生活レベルかな?
---ダン---
伯斗からのプレゼントの温泉旅館…住み心地が良い。転生者、転移者が多い俺達にとって、心地よい設備が満載である。温泉、マッサージシート、そして、湯上がりの珈琲牛乳…そこに俺達の幸せが凝縮されている。
どんな仕組みか分からないが、珈琲牛乳などの自販機のアイテムは日々補充されている。石けんやシャンプーなどの消え物もだ。確か、伯斗は石けんを綺麗に包装し、石けんが貴重である国での袖の下に利用していたよな。
俺も利用しようと思い立ち、石けん、シャンプーなどを箱詰めし、包装し、ジャミール家にプレゼントをした。
「これは?」
「祖国から届いた固形石けんと、液体石けんです」
女性陣の目が輝いた気がする。
「祖国とは?」
「海を渡った先にある大陸、クボォーク王国です」
神もどきから、アリサ達の引っ越し通知が届いた。1ヶ月後に、南下した場所にある大陸にクボォーク王国、シガ王国が引っ越してくるそうだ。方法は不明であるが、神もどきの権限で出来るらしい。因みに、この世界の神々は配下にしたそうだ。どんだけ、神格階位が上なんだ、アイツは…
「どのくらい先にあるのかね?」
「船で2,3ヶ月ですかね?」
俺達は転移術で一瞬であるけれども。
「そんな遠くにあるのか…」
「えぇ…」
「交易は可能かね?」
「クラン傘下のエチゴヤを通してください。本店は、この街に置きます」
温泉旅館の一角にエチゴヤを開店している。アチラの屋敷は、木造なので、醸造作業場にする予定である。
「どこにあるのかな?」
「鉱山の麓です。あぁ、廃坑にするなら、あそこを有効利用して良いですか?」
「それは構わないが…」
言質は取った。鉱山の下にダンジョンを作ろうと思っている。ミノタウロスの肉が欲しいし、カニなども恋しいし…迷宮都市セリビーラのような素材満載のダンジョンにしようと思っている。
「今度、いらしてください。異文化を体験してくださいね」
◇
3日後、ジャミール一家が温泉旅館にあるエチゴヤ本店に来た。
「こんな短期間で、このような建物を…」
温泉旅館を見て、固まるジャミール一家。1階にあるラウンジへ案内した。ウエルカムドリンクは珈琲牛乳である。
「甘くて美味しいです」
女性陣の舌を魅了する魅惑の飲み物、珈琲牛乳。
「入り口で靴を脱ぐ風習があるのかね?」
異文化に戸惑うラインバッハに訊かれた。
「えぇ。靴の裏には雑菌などの汚れがあります。それらを家に持ち込まない為と、足自体をリラックスさせる為です」
温泉旅館は和室である。エントランスで靴を脱ぎ、スリッパに履き替えて貰っている。俺達は靴下も脱ぎ、サンダル、草履、雪駄などで、グリップ力をあげ、素早く動けるようにしているが、ゲストは基本スリッパである。
「確かに、足に圧迫感も無く、蒸れないなぁ」
「この後、俺達の文化の象徴である温泉を堪能してください」
「温泉?この街で温泉が湧くのかね?」
「いえ、祖国の独自技術で温泉にしているだけです。この街には温泉は湧きません」
この温泉旅館の風呂は、露天風呂だけ温泉であるが、内湯には薬湯、ツボ湯、寝湯、ジェットバブルなどの仕掛けがある。珍しい施設では塩サウナだろうか。
◇
女湯にはカタリナ、ミトが、男湯にはキースとサトゥーが使い方や、質問に答えている。俺は湯上がり後の料理を作り始めた。ダンジョンで取れたミノタウロス、カニ、ウニなど、この街とあちらの街で見かけない素材で、料理を仕上げていく。
村長から調味料を分けて貰い、ミノタウロスのバラ肉をチャーシュー状にまとめて、カレーシチューで煮込んでいく。オーク肉は酢豚にしていく。カニは焼きカニだな。
デザートは、パンケーキにしてみた。村長から小麦粉、砂糖などを送って貰い、コチラの世界で採取したワイルドベリーでソースを作った。問題は玉子である。こちらの世界で玉子が売っていない。迂闊に使うと面倒になりそうなので、今回はパスした。米は見ないが、小麦はあるので、うどんを主食にするか。
「風呂がこんなにリラックス出来るとは…」
浴衣を着た男性陣が戻って来た。女性陣はきっと塩サウナで時間が掛かるのだろうな。
「どうでしたか?我が国の文化は?」
冷やした麦茶を配っていく。
「良かったよ。こちらにはまだ居るので、また来て良いかな?」
「勿論です。予約しくれれば、飲み物、料理などを準備しますよ」
この温泉旅館の厨房は、色々な器具、設備があり、料理の幅が広がる。アチラの街の館の厨房とは雲泥の差である。
「で、商材はどんな物があるのかな?」
ラインハルトに訊かれた。
「まだ、荷物が届かないので、売るほどは無いのですが…石けん、シャンプーなどなら、ジャミール家に進呈いたしますよ」
「あの石けんは売れるよ。汚れ落ちも良いし、香りもキツくないし」
「売るほど有るのは、コチラの大陸に来てから、手に入れた素材です」
ドラゴンの素材などを収納庫から取り出し、ラインハルト、ラインバッハの前に並べた。
「ドラゴンのウロコかぁ…角も牙も皮もあるのかぁ…」
「どの位あるんだ?」
「20頭分くらいはあります」
前回、ギルドで売ろうとしてから、更にドラゴンを狩っている。主に肉狙いでだ。
「そんなに…う~ん…予算が無いが、1頭分くらいは買いたい」
「オークの皮は有るか?」
「2000頭分なら」
「100頭分、買う」
この世界での革製品はオークの皮らしい。丈夫で安価なのが良いそうだ。
「なかなかの戦力があるようだな」
「まだ、クランメンバーが殆ど来てませんけどね」
俺の言葉で、二人の顔が強ばっていく。ドラゴンとか、オークの群れなど、この世界ではレイド扱いらしい。うちのクランだとソロ対象なんだけど…たぶん、戦力差に怯えているのだろう。
「どんだけ、強いんだ?うちの護衛陣と手合わせして貰えるか?」
「無理です。手加減出来ない攻撃持ちばかりなので、死にますよ」
護衛陣の顔から血の気が失せていく。
「流石は『触るな危険』のダン君だね」
その二つ名は決定なのか?メイプルに進呈してんだけど…実際問題、俺の攻撃手段は瞬殺が殆どだし、メイプルに至っては殲滅が殆どだしな。ミトやサトゥーも勇者クラスだし。一般人相手だと、リザ辺りが打倒かな?PK専の多いクランだからな。手合わせは無理かな。
「では、魔物と戦っているところを見たいんだけど、可能かな?」
「それなら可能です。毎日誰かが潜って居ますから」
「潜る?どこに?」
既にダンジョンの設置は出来ている。主にメイプルが潜って居る。素材を無駄にミンチにしない戦いを練習させていると言うか…
「廃坑にダンジョンを設置して、そこで鍛錬を積んでいます」
「ダンジョンを設置?どうやってだ?」
ラインバッハが喰い付いた。
「俺、ダンジョンマスターなんで、設置出来るんですよ」
疑似ダンジョンコアを持っている。トラザユーヤの揺り篭の倉庫で、大量にあるのを見つけたのだ。
「ダンジョンマスター…」
「ダンジョンって、食材の宝庫ですからね」
再度、目の前の二人の男性の顔が強ばっていった。