---ダン---
2日後…廃坑の入り口にラインハルト、ラインバッハと、その護衛陣、冒険者ギルドのギルマスのウォーガンと言う男が待っていた。
「じゃ、行きましょうか?」
ダンジョンへと案内する俺。
「ダン君…防具は?」
ラインハルトに訊かれた。
「食らったら死ぬような相手が多いです。ゴブリン程度の攻撃を食らう訳にいかない」
などと言ってみた。装備なんて一瞬で装着できるし。俺の格好はいつものTシャツにジーパン姿である。
廃坑の奥にある階段を降り、ダンジョンの1階層目に踏み入れた。この階層に出るのはゴブリン限定である。俺の同行者は、メイプル、カエデ、アリスだけである。まぁ、召喚も一瞬だし、マジにヤバい時は、勝手に出てくるし、問題は無いだろう。
最初の敵はゴブリンキングだが、メイプルのシールドバッシュ一発でミンチになった。まぁ、ゴブリンだし、大目に見よう。これがオークだったら、お説教1時間コースである。
「なんだって…シールドバッシュでゴブリンキングが…」
メイプルの戦闘を見たゲストの方々は、顔面蒼白である。タンク職ではありふれたスキルであるシールドバッシュだが、メイプルが使えば必殺技になり得る。
次に出てきたのはハイゴブリンの集団。ウッドオクトパスの狙撃で瞬殺。
「今、何をしたんだ?」
「見えなかったぞ」
ゲストの声が震えている。俺の攻撃方法は、見えない。いや、見えない場所から攻撃している。足の裏からの貫通攻撃で心臓を破壊している。その後も、俺とメイプルが交互にゴブリン達を蹂躙して、ダンジョンを退出した。
「君達はどれだけ強いんだ?」
青ざめた顔のラインハルトに訊かれた。
「クラマスのメイプルの防御力は、ダイヤモンドより硬度があります。俺の貫通力は、その硬度を打ち破れる程度です」
どんな物だと胸を張るメイプルとカエデ。
「…」
唇が震えているジャミール親子。この世界に於いて、ダイヤモンドより硬い素材は無いらしい。メイプルにダメージを与える素材は、この世界に於いて皆無ってことで、ソレを貫通出来る攻撃力から護れる装備も皆無ってことだ。もしかして、俺とメイプルで世界制覇が出来るかもしれない。だが、しない。後が面倒に違いないからだ。俺もメイプルも支配欲って物が無いからな。
「最強の矛と盾を保有かぁ…」
護衛陣のヒューズの口から言葉が漏れた。
「因みに、メイプルのドッペルゲンガーであるカエデも、メイプルに準拠した硬さです」
「そういやぁ、使い魔にSSS級が勢揃いしているんだよな?」
またヒューズの声。独り言のようだ。この世界のSSS級の魔物は、国の軍隊を総動員して戦う魔物のことらしい。俺の使い魔のうち、それに該当するのは、フェンリルのハチ、ジズと呼ばれているアナ、【冥王】グラトニー、【悪魔公爵】デミウルゴス、【ナインテール】コンコン辺りらしい。
「ダン君、君とは敵対しないようにしないとな」
ラインハルトが震える手を差し出してきた。俺は力強く握手に応じた。
◇
翌日、アズライトと、彼女の護衛としてクマ兄さんと、見た目は闇に染まった聖騎士が、サトゥーと共に現れた。何故、このタイミングでだ?あの神は、世界制覇をしろと言いたいのか?
「ダン…会いたかったわ~」
アズライトが俺に抱きついて来た。
「俺はポップコーンをこの地に普及させたいクマ」
闇に染まった聖騎士、レイは無言であった。たぶん、クマ兄さんとセット販売だったのだろう。
「とりあえず、ダンジョンは自前である。そこで鍛錬してくれ。1階層はゴブリン限定、2階層はミノタウロス限定、3階層はドラゴン限定だ」
「はぁ?」
レイが驚いている。アズライトは、俺から離れず、抱きついたままだ。このまま、ベッドにお持ち帰りは困る。やることがたくさんあるのだから。
「何故、3階層にボスクラスがいるんだ?」
「ドラゴンの肉は旨いからだ」
「はぁ?」
何気にレイが呆れて俺を見ている。
◇
翌日、レイ、クマ兄さん、アズライトを冒険者ギルドに登録する為、クリモニアの冒険者ギルドを訪れた。クマ姿のクマ兄さんが注目されている。
「クマだ…クマがいるぞ」
「あの呪術師が召喚したんじゃ無いか?」
見た目が闇オチした聖騎士のレイが呪術師に見えるようだ。
「お前は、服装センスが悪すぎるぞ」
レイのエンブリオの辛口コメント。
「ダンのちょっとコンビニスタイルよりはセンス有ると思う」
何故に、夫婦漫談に俺を挿入するんだ?
「俺はセンスが無いんじゃ無い。俺は着心地優先だよ。よぉ、ヘレン。冒険者登録を頼む」
見知った受付嬢に用を伝えた。
「この人達も、同じクランなんですか?」
「まぁ…」
レイと同じとは思われたくない。
「えっ?呪術師でなくて、聖騎士なんですか?」
レイの申請書のジョブ欄が物議を醸しているようだ。
「ジョブがクマって、どういうこと?」
クマ兄さんのジョブにも物言いか?さすがに、破壊王とは書けないよなぁ。アズライトの登録はすんなり終わったようだ。
そんな、椋鳥兄弟が話題の渦中になったギルドの雰囲気が、一変する事態が起きた。
「皆さん、お願いします。僕の村を助けて下さい」
一人の少年がギルドに入るなり、大声で叫んだのだ。
名前の知らない受付嬢が少年を奥へと連れ込み、しばらくすると、ギルマスのラーロックが出てきた。
「ダン、指名依頼だ。あの少年の村に行き、ブラックバイパーを退治してきてくれ」
「構わないが…ヤバいのか?」
「あぁ、村人が喰われているらしい」
それはヤバいな。ラーロックから、村への地図を手渡され、俺は村へと急いだ。蒼い装備にクイックチェンジし、空を飛び向かうと、2時間程で付けた。
「クリモニアのギルドから来た。ブラックバイパーはどこだ?」
村に入ると、誰も居ない。俺の呼び掛けに答える者はいないのか?家が崩れていたり、森の木々が倒されている。村で暴れたのか?頑丈そうな建物は教会か?教会へ行くと、生き残っている村人を発見した。
「たった一人しか来てくれないのですか?」
どこか落胆している村人。
「俺ソロなんで…で、獲物はどこだ?」
「一人じゃ喰われるだけです。無理に引き留めませんが、ヤツは森の奥にいると思います」
森の奥?まぁ、向かうか。アナとハチを召喚して、獲物を探す。アナの視力をもって、空から獲物の姿は確認出来ない。ハチの嗅覚を持って獲物の匂いを探知出来ない。そうなると、地面の中か?それは厄介だ。地面の中と水の中対策は、俺は持っていないから。獲物は地面の中で食休み中なんだろうか?
待てよ…どこから地面に潜った?村から森にはそんな痕跡は無かった。重い身体を引きずった跡はあったが…俺は、その跡を追った。追い続けると、岩場に出た。そこには地面を掘り返した痕跡がある。これかな?カエデを痕跡の中心に投げ込んでみた。
『何かがいるけど…』
カエデからの念話。俺はカエデを『強奪』で引き寄せた。カエデによって出来た穴を覗いてみると、渦巻き状の物が見えた。これかな?『収納』してみた。生きているならば、収納出来ないが、結果はすんなり収納出来た。収納リストを見ると『ブラックバイパー』と表示が。これで、一件落着かな?村に戻って、確認して貰うか。
◇
深夜になったが、冒険者ギルドに帰り着いた。
「ギルマスを呼んで!」
「おっ、お待ちください」
対応した受付嬢が奥へ引っ込んだ。ヘレンはいないのか?
しばらくするとラーロックが出てきた。
「早いな?お前、本当に行ってくれたのか?馬で片道2日らしいが…」
疑っているようなので、討伐証明代わりに皮を収納庫から出してみた。ギルドの待合室を埋め尽くす大きさのブラックバイパーの切れ目の無い皮…
「お、お、お前…どうやって捌いたんだ?」
俺も収納庫の解体システムが分からない。なので、
「企業秘密です。あっ、これ、村長のサイン入り依頼完了書です」
「そうか…で、依頼料なんだが…」
「村の惨状を見ると金は無理ですね。代わりに素材をまるまる貰います。問題無いですよね!」
強く迫ると、ラーロックが怯み、頷いた。
館に戻り、担いでいた籠を下ろした。籠の中身が気になるのか、サトゥー、ミト、アズライト、クマ兄さん、レイが集まって来た。
「お土産…」
俺は籠から白い鳥を捕りだした。
「これって…」
サトゥーが目を丸くして見開いている。ミトの目尻に光る物が…
「当面、無精卵だけ喰う。有精卵は雛にする方針で行く。あぁ、鳥小屋を明日、作ってくれ」
ブラックバイパーを倒した帰り道、俺はソレの営巣地を見つけた。ソレは飛べない鳥、鶏冠が赤い鳥…鶏である。
「これでTKGが食べられるのね」
転生してからの年月が一番長いミトが喜んでいる。俺達転移というか転生者のソウルフードであるTKG、所謂『生玉子掛けご飯』である。異世界では生玉子を食す文化が無いらしい。きっと、新鮮な卵が手に入らないのだろう。俺達の生まれ育った世界でも、日本にしか無い食文化だし。その為、この世界では生玉子目当てで鳥を飼う文化も無いらしい。
「新鮮な卵だとプリンもいいなぁ。そうだ、クマ兄さんにもお土産だ」
収納庫からパツンパツンに膨れた麻袋を取り出し、クマ兄さんに渡した。
「これは…爆裂種かクマ」
「鶏の営巣地の周辺に自生していたよ」
ポップコーン用のコーンは普通の食用コーンとは違う。皮の固い爆裂種というコーンを使うのだ。
「この世界の鶏は野生種で、爆裂種を主食にしているみたいなんだよ」
元々爆裂種は、家畜飼料用の硬粒種が元になっていたと思う。
「なるほど…クマ」
「新鮮な牛乳はまだ見つけていないから、村長から取り寄せて、バターを作ろう」
これで、クマ兄さんはポップコーン布教活動が出来るだろう。