デスを食らった男   作:もっち~!

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ギルド対抗戦 Part1

 

---フレデリカ---

 

ギルド対抗戦を前にして、ピリピリしているギルドの上層部。結局、あのリスポーン狙撃犯が、誰か分からなかったのだ。

 

「運営では、誰なのか把握しているみたいだな」

 

ペインが、運営から発表された裏ボスのリストを見ていた。一人は最大狙撃数を誇るスナイパー、もう一人は瞬間殺戮数を誇るテロリストである。

 

「こいつらが、プレイヤーかAIかは分からないが、少なくても、うちにはいない」

 

いれば、わかるはずである。ギルドメンバーのステイタスはギルドの上層部が把握しているが、スナイパー属性の者はいなかった。まして、テロリストになり得るスキル持ちもいない。

 

「テロリストの方は、炎帝の【トラッパー】が第一候補だぜ」

 

ドレッドが自信を持って言いのけた。【トラッパー】とはトラップ設置の達人である。

 

「そうなると、スナイパーも炎帝の可能性が大だな。ところで、フレデリカ、楓の木の情報を掘り下げてきてくれるか?お前、あそこのホームに入り浸っているそうじゃないか」

 

「いつも、同じメンバーしかいないですよ」

 

ダンさん目当てである。ダンさんのいない時は、長居しないし。

 

「誰がいるんだ?」

 

「ダンさん、メイプルさん、クロムさん、あと双子の少女が二人…それしか見てません」

 

「五名が極振りだったなぁ。そうなるとその五名か?蒼い装備のヤツはいなかったか?」

 

「見かけていません」

 

 

事態は動いた。イベント前日に運営が公開した映像のせいである。見た者全員が絶句したであろう。同じゲーム内の事とは思えない映像であった。

 

「怪獣大戦争…あんなヤツラがいるのか?」

 

「大亀ってメイプルだよな…そうだとして、残りのヤツラもメイプルのギルドか?おい!フレデリカ!探って来い!」

 

もの凄い剣幕のペインに命令された。そして、楓の木のホームへと向かった。

 

「イベント前日だぞ、いいのか?」

 

ダンさんに心配されている。

 

「えぇ、ちょっと息抜きです」

 

ケーキと紅茶を私の前にサーブしてくれた。

 

「それ、妹が調理したんだ。口に合えば良いけどな」

 

一口食べてみると、上品な甘さが口いっぱいに広がっていく。ギルドの移籍もありかな?ここはピリピリ感を感じない、憩いの空間に思えた。

 

「おいしいです。で、妹さんは?」

 

「最終調整に出ているよ」

 

最終調整?まさか、前衛陣はいつも出ているのか?だから、見た事が無いのか?

 

「ここって、何名くらいいるんですか?」

 

「イベント前だぞ、言える訳ないだろ?フレデリカのことはフレンドであっても、お前のギルドは敵だぞ」

 

あっ!怒らせてしまったか?マズい。出入り禁止はマズいぞ!私の憩いの空間なんだから。

 

「そうか…イベント前で探りに来たのか?」

 

「そうじゃないです」

 

顔に出ていたのかな?

 

「証明できるか?」

 

証明…え…どうすれば…

 

考えこんだ、次の瞬間リスポーンをしていた。何があったんだ?

 

 

 

---ダン---

 

フレデリカに【魅了】を掛けると、自らデスしてくれた。と、いうことは、彼女は敵対者ってことである。

 

【魅了】からのデスであれば、街中でのPKは可能である。【魅了】は攻撃スキルで無いので、PKにならない予感である。そもそも自らデスしているので、俺のPK数には反映されないし。その上、戦闘中の死亡では無いので、戦闘ログにも載らない。

 

「そうやって、ルール破りしているのね?まぁ、今回はスパイ退治だから良いけど」

 

サリーが入って来た。フレデリカが来たので、初対面組は、修練場に退避していた。あぁ、アスカはフィールドで5キロ狙撃の練習中であるが。

 

「殺された事を、気づかせないのは、1つの手よねぇ」

 

一応、運営公認のテロリストですから。それにしても、兄妹で指名手配って、どういうことだ?

 

「初日はテストも兼ねるよ。密閉空間なら、遣りようがあるかもしれないからな」

 

言いようによっては、凶悪な使い魔揃いだし。彼らは死にそうになると、勝手に指輪に戻って来てくれるのも良い。

 

「イベントが愉しみよね。一体何位なれるのかな?」

 

もの凄く楽しそうな表情のサリーだった。

 

 

そして、イベントの日を迎えた。参加人数は全員である。一人も欠けること無く揃っている。

 

「目指すは上位で!」

 

「「「「異議なし!」」」」

 

メイプルの言葉に、皆が声を合わせて、賛同の言葉を上げた。そして、俺達はバトルフィールドになる、イベント会場へと転移をした。

 

転移陣の光が霧散していくと、目の前に見えたのは、緑色に輝くオーブとそれが乗った台座であった。ここが自軍エリアであることは、すぐに理解出来た。この広い部屋から伸びる通路は三本。早速、サリーとカスミが動き、台座の後ろ側にある二本の通路を素早く探索して戻ってきた。

 

二本とも休憩所へ続く道で行き止まりだそうだ。そうなると、入り口に伸びるのは残り一本である。

 

「小規模ギルドだからね、造りはシンプルなんでしょう」

 

と、サリー。背後からの奇襲は出来無い造りのようだ。

 

「じゃ、手筈通り、行くわよ」

 

初日、昼間の部はサリー、カスミのコンビ、俺とメイプルのコンビによる。恐怖の植え付け第一弾である。入り口にはクロムが立ち、自軍エリアの周囲をアスカが護る。

 

「まず0時方向に3、3時方向に5…」

 

見える範囲の敵を、次々にPKしていくアスカ。

 

「じゃ、私達も出発よ」

 

俺はメイプルを背負い、サリー達と逆の方向へと走り出した。蒼い装備の男が黒い装備の少女を背負い進軍している。古株は俺達を避け、新顔達は俺達に襲い掛かる。襲われる度に、メイプルを降ろし、返り討ちにしていく。

 

「メイプル、一人は残せよ」

 

「了解です!」

 

逃げていくヤツラのうち、一番足の速いヤツだけ、殺さずにスルーし、ポチに追ってもらう。コイツらのエリアへの案内人である。

 

「ここか?」

 

「ヒドラ!」

 

メイプルのいきなりの毒攻撃…ハンパないなぁ、うめき声が響く洞窟内。その声が聞こえなくなると、メイプルが入って、オーブを奪って来た。

 

「全滅でした。えぇ~っと、20名くらいかな」

 

小規模ギルドの最大値は50名である。リスポーン地点が毒塗れだと、デスの重ね掛けかな?それは、運営の手落ちってことで、先を急ごう。俺はメイプルを背負い、先を急いだ。

 

中規模ギルドがいた。メイプルと分かっても引かないようだ。メイプルには【悪食】を控えるように言ってある。

 

貫通攻撃がたまに来るが、【カバームーブ】か【強奪】で凌ぐ。俺とメイプルの攻守は相性が良いようだ。体力盾の俺は、斬られようが、魔法を受けようが、前に出る。回避出来るが、恐怖を植え付ける作戦なので、受けきって耐える作戦なのだ。それに、触れただけでMPドレイン出来るので、ヒールを湯水の如く使えるし、自己再生スキルもあるし。

 

メイプルを護りながら、相手の数を削っていく。しかし、女性比率が低いなぁ。【魅了】が掛けにくい。いや、掛けても意味が無い人数か?

 

2回目の中規模ギルド戦は、スリープからの添い寝を試して見た。密閉空間ではないので、スリープしない者もいるが、それらは物理的に排除していく。メイプルの【シールドアタック】でデスしていく。そして、5分後、悶絶死した大量のプレイヤー達。

 

 

 

---フレデリカ---

 

自軍の防御を任されていた。イベントページには、リアルタイムで情報が更新されていた。殺戮数ランキング、所謂PK数ランキング…1位のギルドは、ダントツで楓の木であった。通常では考えられない程、カウンターの上がり方が異常であった。一瞬で2桁とか3桁レベルで上がる時があるのだ。

 

「何んだ?このギルド…」

 

ドラグの顔は蒼い。

 

「そんな…隠し球がいたのかな…」

 

3桁レベルでの殺戮…高位魔法にある広域魔法系だろうか?そんな魔法使いがいたら、話題になっているはずだ。2桁レベルの殺戮は、あの青い装備の子だろう。そうなると、楓の木には、あの青い装備者が2名いるってことか?あのホノボノな雰囲気はフェイクだったのか?

 

「コイツらが来たら、護り切れるか?」

 

ドラグの声が震えている。

 

「無理…オーブを手にして逃げるのが一番かな」

 

【多重詠唱】は出来るけど、広域魔法はない。ロングレンジから放たれれば、助からないだろう。

 

「よぉ!フレデリカ、ここにいたのか?」

 

突然聞こえたダンさんの声、背筋が凍り付く。隣にいたはずのドラグが消え、蒼い装備を纏ったダンさんが、そこに立っていた。紫色に染め上げられた洞窟に入っていくメイプルさん…ソレを尻目に、私へ抱きついて来たダンさん。

 

「何もしなければ、何もしないよ」

 

「そうもいかない!ごめんなさい…」

 

ダンさんへ魔法を放ったのだが、カウンターされた。えっ!身体半分が吹き飛んだ…私。死ぬ…そう思ったのだが、

 

「だから、言ったのに…苦しまないように、回復してあげる。だから、大人しくな」

 

敵である私に回復魔法を惜しげも無く使うダンさん。その代わり、私のMPは総てドレインされた。魔法使いである私の無力化である。

 

「今、リスポーンすると、即死だよ」

 

それは、自軍エリアが毒塗れってことか?

 

「ダンさん、取ってきました」

 

毒塗れのメイプルさん…毒無効なのか?そのメイプルさんを抱き上げて、空に舞うダンさん。まさか、飛行能力…ダンさん達が遠くへと飛び去って行くのを見ているだけの私…

 

 

 

---ダン---

 

自軍エリアに奪ったオーブを保存する。3時間保持しないと得点にならない。

 

「じゃ、防御ターンだな」

 

「そういうことね。防御ターンが終われば、夜間の恐怖シリーズをするわよ」

 

徹底的に恐怖を植え付ける作戦のようだ。

 

「ねぇ、このギルドの総殺戮数がもの凄いことになっているけど…」

 

イズに言われた。確かに…運営め、こんな物を出したのか。狙われるじゃないか。個人別で無いのは救いであるが。

 

「お兄ちゃん!3時の方向から100以上来るよ」

 

そこまでの数になると、アスカの火力では、無駄時間が多くなる。時間が掛かれば、接近を許してしまう。運が良ければ、後ろのヤツまで貫通するらしいが…アナを召喚して、礫攻撃を指示して、全滅させた。

 

「鬼だ…三桁を一瞬で…化け物だよね」

 

サリーが笑っている。俺は戻ってきたアナをねぎらい、指輪に戻って貰った。いや、こんな作戦を思いついたサリーの方が鬼だと思う。

 

「夜の部は、メイプルとユイとマイ、後は、鬼畜兄妹でお願いね。私とカスミは休憩で、ガードはクロムさんカナデ、イズさんです」

 

サリーの計画が発表された。休みながら、戦い続けるイベントである。人員の睡眠スケジュール管理は大切であるのだ。

 

「取り敢えず、この3時間の保持タイムは起きていてね」

 

俺とアスカに、サリーが言った。この後、俺達の仮眠タイムがあるようだ。

 

「あっ!ペイン、みっけ!ドレッドもいるなぁ」

 

楽しそうなアスカの声がし、レールガンが弾を吐き出している。死んだな。5キロ先なんか、俺には見えないので、詳細は分からないけど。

 

 

3時間守り通し、ポイントが加算され、暫定1位に踊り出た。殺戮数は既に見たく無いレベルである。ギルドメンバーの個人データは、同じギルドメンバーが見られるそうで…

 

「ダンさん、ダントツですね~」

 

俺の背中に乗っている、メイプルに褒められているようだ。

 

「お兄ちゃんの火力ってハンパないなぁ。あれ、私もデスされちゃうよ」

 

味方からの辛い反応。

 

「あぁ、でも夜間セッションは、メイプルが有利かな?」

 

暗闇に紛れて悪魔が3匹、走り回るらしい。そして、オーブはマイ、ユイコンビで奪取するとか。一方の俺達は、メカゴ●ラ状態の俺にアスカが載り、暗視スコープでの狙撃らしい。

 

「でも、ダンさんの尻尾攻撃がハンパないよ~。私、ノックバックしたもの」

 

ノックバックで済んでいるメイプルがスゴイ。普通、圧死だろうに。

 

「無理に奪わないで、恐怖を与える方向でいいからね。奪うのは、早朝のPKタイムだよ」

 

と、サリー。そうなると3時くらいには戻って、仮眠だな。

 

ズッド~ン!

 

俺の足音がデカイ。地響きが起きているのでは無いのか?見つかるだろうに…機龍モードは、夜間でも暗視ゴーグルのように視界がくっきりしている。何かが蠢いていたので、試しにメイサー砲を発射してみると、遠くで人型の物がはじけ飛んでいるのが見えた。

 

「お兄ちゃん、それ、エグすぎだよ」

 

アスカにはバッチリ見えているようだ。あの一発で、殺戮数が50上がった。

 

「じゃ、アスカに任せた」

 

「あぁ、任されたよ」

 

 

 

---ミィ---

 

夜間セッション…相変わらず、楓の木の殺戮数カウンターが止まらない。一気に50もアップしているし。暗視ゴーグル持ちが多数いるのか?

 

うん?何やら、地面が揺れている。何か大きな物が迫っているようだ。

 

「何か来ます!デカイです!」

 

見張りの者が駆け込んでいた。デカイ?それは、昨日公開された怪獣か?外に出て確認をすると、月明かりが反射する物がこちらへと迫っていた。デカイ…

 

「おい!魔法使い達、前に!射程に入ったら、一斉に貫通魔法を撃ち込め!」

 

しかし…こちらの射程距離に入る前に、仲間達の頭が次々に吹き飛ばされていく。超遠距離からの狙撃のようだ。魔法が届かない距離から、撃ち込まれている。それも頭部に向かってである。楓の木の殺戮数カウンターが止まらない。アレは楓の木の秘密兵器だと確信した。アレはマズい…

 

「弓隊は射程距離に入るまで、隠れていろ。魔法使い達もだ!」

 

アイツらの殺戮数カウンターが止まった。それと共に、地響きが消えた。

 

「目標物が消えました!」

 

危機は去ったのか?しばらくすると、カウンターが再び動き始めた。何が起きているんだ?

 

「ヒドラ!」

 

メイプルの声…

 

「ミィ…強ばるなよ」

 

ダンさんの声…

 

首元には爪が向けられている。横目で見ると、あの蒼い装備の人物が立っていた。まさか、ダンさんが…殺戮王なのか?

 

「何もしなければ、ミィには何もしない」

 

「オーブ取ってきました」

 

メイプルが、私達のオーブを持っている。メイプルを使いっ走りにしているダンさん。まさか、あのギルドマスターって、ダンさんなのか?

 

「何もするなよ。今リスポーンすると、デスが増えるからな」

 

それはリスポーン地点に何かが仕掛けられているってことか…でも、ギルドマスターとして…うっ!意識が遠くなっていく。

 

 

 

---ダン---

 

ミィをスリープさせた。フレンドを俺の手でデスしたく無いからな。そして、カエデ達を指輪に戻し、アスカを抱いて、空を飛び自軍エリアに戻った。

 

「炎帝から取ってきたの?」

 

サリーが驚いている。

 

「リスポーン地点は毒塗れだ。夜間セッションでは来られないと思う。聖剣の方は持って逃げているようだよ」

 

集う聖剣も襲って来た俺達兄妹。

 

「あぁ、ペインを仕留めたから、リスポーン地獄に嵌まっているんじゃ無いかな?」

 

アイツを5デスに追い込みたい俺達兄妹。でも毒耐性は持っていそうだな。しかし、メイプルが進化し、毒ではなく猛毒になっているため、ダメージを受けまくるはずだ。

 

「鬼畜兄妹めっ!」

 

イズが苦笑いしている。じゃ、俺達は仮眠だな。休憩所へ向かおうとすると、

 

「おいおい!3時間は起きていてくれよ」

 

サリーに呼び止められた。

 

「朝駆けのPKタイムは?」

 

「鬼畜兄妹は睡眠タイムだよ。お昼からの部を頼みたい」

 

昼か…クロムとメイプルが既に寝ているそうだ。じゃ、俺達で護るか。マイ、メイも睡眠で、カスミがオーブ番をするそうだ。俺とアスカで1つだけの入り口を護る。ちなみに、イズとカナデは、秘密兵器として温存だと言う。

 

「ほぉ~二人だけか?」

 

しばらくすると、10人くらいの集団が来た。

 

「ゴメン、見逃した」

 

と、アスカが、通常装備の俺の隣に来た。俺達を全然警戒していない集団が息巻く。

 

「おい!オーブを出せ!」

 

「そうだな。お前達が命を差し出せば考えてやる」

 

「ヒドラ!」

 

俺の後方に、勝手に出てきたカエデからの猛毒攻撃。入り口の前は猛毒の海である。攻めてきたヤツラが、猛毒の海で溺れている。ソイツらの頭を、レールガンで消し飛ばしていくアスカ。

 

「一昨日来やがれ!」

 

賊を殲滅した。

 

「アスカ、寝てこいよ」

 

見逃したってことは、疲れているサインである。

 

「うん…ゴメン、お兄ちゃん…」

 

アスカが奥に下がり、カナデが出てきた。交代要員がカナデしかいなかったらしい。

 

「目の前が毒の海ですか?」

 

カナデに笑顔で、Vサインをしているカエデ。

 

「さすが、カエデちゃんだ。ハンパ無い」

 

仕留めたのはアスカであるが、黙っておこう。

 

 


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