---ダン---
「ワープと言う魔法はあるが、目で見える範囲にしか転移が出来ないんだよ」
と、この世界での転移法を教えてくれた。俺達の転移は、能力であり魔法では無い。一度行ったことがあれば、イメージしただけで転移できる。その際、魔力の消費は無い。この世界のワープ魔法の上位互換品のような感じらしい。
光の粒子が霧散すると、のどかな田園風景が目の前に広がった。
「ダン、どうしたの?」
作業着姿のアリサが近寄って来た。
「交易相手であるジャミール公爵を連れて来たんだ」
アリサとラインハルトを交互に紹介する。
「王女様が、作業服で農作業ですか?」
あり得ないよな。普通…いやいやそうでも無いか。公爵令嬢のカタリナも作業服が私服だと言っていたし。
「えぇ、ここは戦争により荒れ地にされました。ですので農地増産は国策であり、身分どうこうで高見の見物は出来ません。国の民達が汗水たらして、国の為に働いているんですよ。私だって、一緒に働きます」
アリサの言葉に感心した表情のラインハルト。
「どういった作物がありますか?」
「現状では、小麦とジャガイモです。後は、ダンの要請で大豆、小豆、爆裂種、サトウキビを計画しています」
「爆裂種?」
聞いたことが無いのだろうか。
「粒の殻の固いトウモロコシの一種です」
「固いと食べにくいのでは?」
「独特の製法で、お菓子になるんですよ。今度、お持ちします」
そうか、未知の食べ物なのか。ポップコーンは流行るかもしれないなぁ。
「そうだ、アリサ。鶏を飼ってくれないか?」
「卵狙い?」
「あぁ」
「卵?卵なら売っているが…」
「えっ?!」
ラインハルトの声に反応した俺。
「そうなんですか?クリモニアでは売っていなかったので…」
盲点である。ギムルでは卵を食べる風習があるのか。
「まぁ、自己消費するから、飼うわよ。今度持って来てね」
話し合いの場所を王邸に移し、三人で話し合って交易品を探る。
「そう言えば、お城は再建しないのですか?周囲には跡が残っていましたが」
「お城を建設する労力があるならば、農地に労力を回します。いくら堅牢な石組のお城でも、戦争になれば、あのようになってしまいますから。その点、ここのような木造家屋なら、破損箇所だけ直せばよいですからね」
それもあるが、アリサが日本家屋に住みたかったのだ。まだ畳を再現出来ていないが、そのうちに作れるようになりたいものだ。
「で、クラン<楓の木>は、この国の戦力なのですか?」
「いえ、違いますよ。この国がクラン<楓の木>の傘下なんです。こう見えても、私もクランメンバーですから」
そう言い切ったのは、今日一番の笑顔のアリサだった。
◇
翌日、材料と調理器具を持ち、ジャミール邸を訪れた。
「これが爆裂種です」
ジャミール家の皆さんに現物を見せ、フライパンに爆裂種を入れ、有塩バターを投入して、蓋をしてから火に掛けた。しばらくすると小気味良いポン、ポン、ポンと爆ぜる音が聞こえ、音がしなくなった頃、火からフライパンを下ろした。
「これが、爆裂種から出来るお菓子、ポップコーンです」
「あの固い粒が、真っ白な花の様に…」
恐る恐る口に含むエリアリア。それを見て他の人達も口に含んでいく。
「ほんのりとした塩味で、美味しいですわ。あぁ、バターの香りが食欲を駆り立てますね」
次々に口に投入していくエリアリア。
次に鍋に砂糖と少量の水を入れて、煮立たせていき、キャラメルソースを作り、ポップコーンに掛けた。
「甘いのが良い場合は、こういう食べ方もあります」
「これも美味しいですわ。少し苦いけど…」
砂糖の焦げた物であるから、苦いのは確かである。
「これは売れるよ、ダン君。爆裂種か…我が領でも作付けするかな」
「出来れば、良質な牛乳が欲しいんですが…」
「牛乳かい?どうするのかな?」
「バターを作りたいんです。売っているバターの塩味がちょっとねぇ」
「調味料から作るのか?」
ラインバッハが驚いている。そんなの普通だろうに。モロボシ洋菓子店ではそうだった。
「サトウキビも欲しいんです」
「砂糖も自分で作るのかね?」
ジャミール家の皆さんが驚いている。紅茶に入れるのがメインの使い方であるのであれば、白砂糖は正解である。だけど…
「これをお食べください」
自販機で手に入れた和三盆糖の干し菓子を皆に配った。
「柔らかい甘さ…口溶けも良いねぇ。これは?」
「祖国に伝わる伝統製法で作った砂糖です。和三盆糖といいます。お菓子作りに使うには、白砂糖では無く、コチラも有りだと思うんですよ」
「砂糖ってそんなに種類があるの?」
エリーゼに訊かれた。
「製法によって、様々な砂糖があります。これをお食べください」
自販機で仕入れた黒砂糖の破片を、皆に配った。
「これは黒砂糖です。色を気にしないお菓子に使います」
「これは…雑味はあるが、有りだな。わかった。サトウキビを仕入れる様にしよう。そうか、砂糖も色々有るのだな」
これで入手が容易になるといいな。