---ダン---
翌日、クマ兄さん、レイも連れて、田んぼ作りを始めた。先ずグラトニーに下草を食べて貰い、培養土を作って貰う。その間、俺達は山の手入れだ。倒木の除去、食えそうな植物のサンプル採取、落ち葉拾いなど。
次に、土を1メートル位の深さまでグラトニーに食って貰い、地質調査をしながら、培養土を作って貰う。その間、俺達は昨日と同じことをする。
そして温泉旅館に戻り、新作料理を作りながら、会議をする。塩漬けしたミノタウロスの肉を、作って置いた合わせスープで煮込んでいく。この間も灰汁取りは欠かせない。
「下草の状態的に、水はけは良さそうだ」
水路を作らないと。後、ため池か。養殖池でもいいな。
「近くに川もあるから、そこから水を引き込むのも有りだよ」
煮込んだ肉を取り出し、繊維を切らない様にして、ほぐしていく。
「あっ…そうか、コンビーフかぁ」
サトゥーが俺の新作料理の正解に辿り着いた。殆ど完成しているけど。
「ほぐし終わったら、もう一度スープで煮込んで、冷やして出来上がりだ。本当はビニール袋に詰めて湯煎したいんだけど、ビニールのような素地は無いからなぁ」
無いことは無いんだが。熱に強いレッドスライムの皮で代用は出来るのだが、この辺りには、そんなに数がいないのだ。
「自販機で手に入るだろ?」
「家庭でゴミになった後、どうするんだ?。あれは環境汚染しやすいぞ。個別回収は非現実的だしな」
環境に優しくないとダメだ。マイクロプラスチック化したら、生態系も壊し兼ねない。
会議後、完成したコンビーフをみんなで摘まむ。
「美味しい。脂がくどいけど」
と、ミト。そう、ミノタウロスの脂はクセがある。何度も煮て、脂を抜いたんだけど…肉自体にもクセがあるしなぁ。
「今後の課題だな。牛肉が入れば、問題は解消するはずだ」
シガ王国のオーミ牛が欲しい…
◇
翌日、更に新作料理にチャレンジする。今度の素材はオークのロース肉である。糸で緊縛していき、フライパンで焦げ目を付け、タレに漬け込んで煮込む。そして、スモークして味を封じ込めていく。所謂、チャーシューである。新作を持って、ジャミール家に持ち込んだ。
「美味しい。これミノタウロスなのか?こんなに繊細な味だったなんて…」
コンビーフは受け入れられた。そして、チャーシューもである。
「ダン君、惣菜屋でも始めないか?」
食べたい時に食べたいようだ。
「コンビーフは仕込みから10日くらい掛かります。チャーシューは1日あれば大丈夫だと思いますが、量産は難しいです」
素材は充分にあるが、人手と場所が無い。新たに手に入った土地は、米を主体に生産したいし。
「ポップコーンは無いんですか?」
「爆裂種の収穫まで、未だこぎ着けてません。自生しているのを見つけ次第、作ります」
美味しいと思われている料理が作れないのは、俺にとってもストレスであるが、素材が無いことには始まらない。
「風の噂で聞いたのだけど、エルファニカ王国の王都が陥落したそうだね」
「そうなんですか?」
「どこかのクランに、ケンカを売った結果らしいよ」
ラインハルトの俺を見る目が怯えているように思えた。陥落させた覚えは無いのだが、どうしてそんな目で見るんだ?
翌日、久しぶりにギムルの冒険者ギルドを訪れた。ギルドに足を踏み入れると、ギルマスに拉致され、ギルマスの部屋に連れ込まれた。
「お前、何やっているんだ?ギルド本部から通達が来たぞ」
何か、やったかな?
「クラン<楓の木>が不利になることをするなってな。いくら頭に来たからって、隣国の王都陥落はヤリ過ぎだぞ」
そういう話になっているのか。王都陥落はしていない。あれ?王が敗北を認めたから、陥落になるのかな?
「お前、隣国の王を土下座させたそうだな」
「していないぞ」
アイツはエラそうに玉座に座ったままだったし。
「あれ?そうなのか…」
尾鰭が付きすぎだ。王宮からギルド本部を経ただけで、ここまで尾鰭が付くのか。
「公爵の爵位を貰って、領地を貰って、手打ちをしただけだ」
「公爵…おいおい…やりすぎだ。いつか、消されるぞ」
「その時は仕返ししますよ。俺の仲間達が…」
ここで死んだら、また異世界か?それとも死後の世界だろうか?
「それは怖いなぁ。そうだ、合同クエストが有るんだ。どうする?」
「どんな内容ですか?」
「ジャミール家の新しい鉱山の調査だ。お縄になった役人共が、無闇やたらに掘ったせいで、坑道の全貌が分からないそうなんだ。今回、巣くっている魔物を退治しながら、どこで何が取れるかを調べるのさ」
「なるほど…募集人数は?」
「ワンパーティー6名程度って感じだ」
6名か…ワンダースリーと赤き誓いでいいな。マイル1魔法使い5剣士1と、パーティーバランス的にはアレだけど、火力は充分だし。
◇
ダンジョンを周回中のマイルにクエストの件を伝え、温泉旅館に戻ると、メイプルがシュウに連れられて、クリモニアに向かったと言う。なんだろうか、嫌な予感がする。俺もクリモニアの街に戻った。
館の庭にクマの着ぐるみを着た女の子が倒れていた。クマ兄さんの着ぐるみとは違い、顔は見えているパジャマタイプのようだ。
「可愛いなぁ。どうして彼女は、クマの着ぐるみを着ているんだ?」
女の子に訊いたのだが、メイプルが代わりに答えた。声が出ないくらい、女の子は苦しそうである。メイプルが何かをしたのか?
「神様転生特典だよ」
それは、またメイプルが引き寄せたのか?この無邪気な死神めっ!
『彼女はとあるVRMMOでトップランカーだったのさぁ。ここで転生させて、経験を生かした方が、彼女も楽しいだろう』
シュウから念話が届いた。今後もトップランカークラスが引き寄せられるのか?この胡散臭い神と無邪気な死神コンビによって…目の前の女の子は動けないみたいだ。怪我でもしているのか?
彼女を抱きかかえて、客間へと運び込んだ。怪我の具合を見ようと、着ぐるみを脱がすと、着ぐるみの下は下着だった。ソレもクマさん柄って…この子、クマ好きなのか?だけど、クマ兄さんのストライクゾーンじゃないよな。年齢層が高すぎる。見た目、高校生くらいかな。
彼女の身体を点検すると腹部にアザがある。アイツ、腹パンをしたのか?アザのある部分にヒールを掛けて、癒やしていく。
「ヒーラーなの?」
苦しさが取り払われた女の子に訊かれた。
「俺の名前はダン。クラン<楓の木>のサブマスだ。君に怪我をさせたのは、クラマスのメイプルだ。で、君の名前は?」
「私はユナ…お願い…朝まで抱いて…」
余程怖い思いをしたのか、涙が頬を伝い流れていた。
◇
翌朝、横を見ると全裸のアズライトがいた。反対側の横には全裸のユナが…俺が動いたことで、ユナが目覚めてしまったようだ。
「おはよう…ユナ…」
ユナは眠そうな目で俺を見つめ、
「おほよう…ダン…」
目覚めの口づけをしてくれた。