---メイプル---
時空を彷徨いに行く寸前に、マイルに呼び出された。クエストしている鉱山にゴブリンの村があると言う。推定5000程度の規模らしい。
「メイプルなら、楽勝でしょう?」
「肉は気にしなくていいんだよね?」
触れるだけでオークが四散してしまう。ダンさんの怒る顔が浮かぶ。「食い物は大切に扱え!シールドアタックで首を落とせ!」と、怒号が飛ぶ時がある。防御力マックスって不便だ。身体に痛みが無いが、精神にダメージが…そう、教育的指導と言う言葉の暴力に晒されるのだった。
「うん。ただ、トンネル崩壊だけは注意してね」
洞窟戦は苦手だ。機械神が使えない。シロップも使えないことが多い。強いって、不便。なんか理不尽だよ。痛いのが嫌なだけなのに…
「この子、強いのか?」
この街のギルドマスターが失礼なことを言っている。
「私より強いのは、ダンさんとシュウさんだけでしゅよ!」
しまった。噛んだ…耳が熱い。
「おいおい、噛んでいるぞ…」
「噛んだね…」
指摘されて、益々熱い。
「彼女はうちのクランマスターなので、怒らせないでくださいね。暴走すると、私もダンさんに教育的指導を受けますから」
うん、そうだ。ダンさんの教育的指導は言葉だけでは無く、とても痛い体罰もあったんだよ。こめかみグリグリの刑…こんなにも固くなったのに、痛いのは嫌なのに、アレはとても痛い。相手が誰でも容赦は無い。ダンさんの最近のお気に入りグループのユナもやられていた。アズライトさんは壊れそうなので、しないらしいけど。
「じゃ、マイル。行こうか」
回避盾仲間であるマイルと共に、意気揚々とゴブリン村へ突進していく。ゴブリン程度なら回避盾として動ける…はずなのだけど…あれ?回避出来ない。私と接触するだけで、爆ぜるゴブリン達。ここのゴブリン、動きが速いのか?
『捕食者』
彼らに死体を片付けて貰おう。四散した死体の掃除は大変であるので、彼らに食べて貰うのが一番である。
「あれ?魔石は?」
殲滅し終えて、マイルに訊かれた。
「魔石?」
「ゴブリンの魔石…あれが無いとクエスト報酬が貰えないのよ。まさか…捕食者に喰わせて…とか…」
マイルの顔から血の気が失せていく。
「いや、食べさせていないよ。ゴブリンの死体だけを食べて貰った…から…」
あっ!死体の中に魔石ってあるんだよね?マズい…教育的指導かな?チラっとマイルを見ると、冷や汗をタラタラさせていた。
---ダン---
エルファニカ王国の王都にあるエチゴヤの支店に転移した。開店したと聞いたからだ。開店して随分と経つそうだが、店内は満員であった。
「おぉ、ダンかぁ~」
店の奥の倉庫にサトゥーがいた。
「随分と流行っているなぁ」
「まぁな。ここは食い物だけが売り物では無いから」
エチゴヤの支店は不定期営業である。常時販売出来る物が無いのがネックである。生産量が購買量に負けているのだった。
「売れ筋は、これだよ」
サトゥーから薄い本を手渡された。これって…エロマンガと官能小説…わいせつ罪で捕まらないのか?
「これの作者は?」
「マリーだよ。後、こんなのもあるよ」
真っ当そうな本を手渡された。これって、マリー・アドラーこと一宮渚が、生前連載していた漫画では無いか。後、『日本フカシ話』…マイルの書きためたふかした童話の絵本かぁ…フィギュア付きの本まである。出版元は『エチゴヤ出版』となっているし。おいおい…商売が手広すぎるだろう。
「この国には娯楽が少ないからね。こういう脳内を揺さぶる物って売れるようだよ」
大人の絵本に交じって、子供用の絵本もある。
「子供向けのはマリーとユナの合作だ。それも売れていて、続編も出ている」
ちらっと見たが、マイルのフカシ話に、たぶんマリーの毒を盛ったストーリー、そしてユナの子供受けしそうなデフォルメした絵だ。
サトゥーが言うには、この国には印刷技術が発達していると言う。森を隔てた隣国…ジャミール家のある国はそこまで発達していなかった。文化交流が無いのだろうか。
「ジャミール家の土産にするか?」
真面な本だけにするかな。エリアリアが毒づいてはマズい。
「店員はどうしているんだ?」
「あぁ、アリサの国から派遣して貰っている。それでも足りないけど。どうだろう?奴隷でも買う?」
「まぁ、それもアリだな。秘密保持をするならば」
俺達の秘密は、転生者であること、能力がチートであることなどなどである。奴隷の場合、秘密を漏洩すれば、契約によっては死に直結する場合もあるので、秘密保持を必須にする労働者としては打って付けらしい。
「どこで買う?」
サトゥーは買う気が満々のようだ。奴隷なぁ~。リザやアリサみたい子なら、買ってもいいかな。サトゥーはデッパイ狙いだろうが。
「お前、失礼なことを考えていないか?」
「ちっぱいがいいの?」
「いや、出来れば大きい方が…」
この言葉を、ミトに告げるべきか?
「信用出来る店がいいな。その辺りを調査しておいてくれるかな?」
「調査済みだよ」
仕事が早い…そんなに欲しいのか?目の保養を…指の保養を…
「この街にあるのか?」
「じゃ、行こうか」
サトゥーと共に、どこかへ転移した俺。
◇
転移した先は、知らない国だった。ここはどこだ?
「ここは神聖国だよ」
神聖国?
「クソみたいな国だ。魔王討伐の為、異世界から勇者を召喚という、異世界転移で誘拐している」
「サトゥーとかミトみたいに?」
「俺は勇者じゃない。チート満載な商人だよ。で、勇者候補にならない者達は奴隷として売っているのさぁ」
うわぁ~、罪深い国だな。
「魔王って、アイツか?」
伯斗が引っ越して来たって、聞いていないけど。
「九内伯斗じゃない。ルシファーを名乗る魔王だ。この国と隣接している魔王国にいる」
ふ~ん。
「強いのか?」
「あぁ、強い。メイプルには相性が悪い相手だ。魔王のスキルは『滅』だよ」
物理攻撃でも、魔法攻撃でも無く、空間系削除か…防御力を無視であらゆる物を滅することが出来るだろう。
「勝てるヤツは居るのか?」
「既に魔王国は陥落している。ダンの使い魔によってね。神聖国の上層部には伝えているが、今後も奴隷として勇者召喚は続けるみたいだよ」
俺の使い魔?う~ん、まさか、アイツらか…で、奴隷にする為に勇者召喚って…世界を越えた拉致かよ。
「悪魔公爵と冥王スライムか?」
「正解だ。メイプルの鍛錬相手として、魔王ルシファーを捕獲した上で、首都を陥落させたよ」
って、ヤケに情報に詳しいサトゥー。占領に関わったんじゃ…まさか、これから買いに行く奴隷って、戦争奴隷か?
「勇者召喚は止めさせられないのか?」
「シュウが動いたから、召喚の儀式を行っても、強者以外召喚出来ないらしいよ」
強者は召喚出来るのか。まぁ、強者って、元の世界ではイレギュラーなんだろうから、問題は少ないか?
「この奴隷商だよ」
神聖国の奴隷商…デミウルゴスが入り口で待っていた。
「デミウルゴス…どういうことだ?」
俺の使い魔達のうち、アリス、カエデ、ハチ、アナ以外は、俺が召喚しない間、自由に活動している。
「クランマスターの頼みですよ。主様のボスの願いを叶えるのも、主様の家臣の務めです」
随分と主想いの言葉を掛けるデミウルゴス。メイプルの鍛錬相手を捕獲するだけの為に、国を陥落させたのか?そうなると、死んでも生き返る、あの特殊フィールドで、メイプルは鍛錬しているのか。滅する力って、回避出来るのか?
「サトゥー様、跳ねっ返り達を教育してあります。お持ち帰りしますか?」
「そのつもりだけど、ダンが選んだ後の残りから選ぶよ。ダンとは好みが合わないから、バッティングしないだろうからね」
サトゥーとデミウルゴスの間で話は付いているようだ。俺達は牢屋の並ぶエリアに向かった。なんか頭が痛い…