イベントの翌日、フレデリカが、楓の木に参加しに来た。フレデリカによると、円満離脱だったそうだ。ミィは炎帝で反省会だそうだ。
「やはり、ペイン狩り作戦は成功したねぇ」
そんな作戦はない。アスカが自慢げに話すのでスルーした。
「運営がまた動画を配信していたわよ」
サリーが、ホームにあるメインモニタで再生しだした。見たくもない酷い戦闘の連続である。暴虐姿のメイプルにはねられて、宙を舞うプレイヤー達。そのプレイヤー達に鉄球を投げつける双子。メカゴ●ラに踏まれて、命を落とすプレイヤー達。もはや、戦ってもいないし。
で、最後、クロムの入浴シーンで終わるって、どんなセンスなんだ?
「もう1本、配信されているけど」
連続再生するサリー。
テロップで『最強プレイヤー ペイン』と表示されて、頭が吹き飛ぶペイン。衝撃的なシーンから始まり、アスカの狙撃コレクションが流れ続け、『最強のPK あなたは逃げられるか』とテロップが流れて、次のシーンに目を見張った俺。殺戮数カウンターが大映しされ、ウナギ上りに上がっていく。カウンターの下には、テロップで殺戮数が表示されていく。これって、俺か?『謎のテロリスト あなたはいつも狙われている』
って…賞金首にでもなった気分だぞ。
「へぇ~、有名人になったわよね。鬼畜兄妹は」
サリーが嬉しそうに言う。
「まさか…ダンさんとアスカさん?」
フレデリカが俺達を涙目で見ている。
「メイプルの方が有名人だろ?」
「実質的なラスボスよね。でも私達は知っている。メイプルキラーの存在をねぇ」
「あぁ、掲示板に出ていた噂話だろ?おい!そうだろ、クロムさん!」
ガタッ!
「えっ?俺は何も…」
「ふ~ん。ネタは上がっているんだぞ。メイプルの防御力が5桁に手が届くことは、このギルドメンバーしか知らないんだ。なのに、どうして、名無しの大盾使いさんは知っているんだ?もう1回、地獄を見てくるか?!」
「もう!止めて。ギルド内での揉めごとは」
イズが止めに入った。
「クロム、今回は、あなたが悪いわよ。ギルド内情報を出し過ぎ」
「すまない…つい…」
「フレデリカを登録したから、今から正式メンバーだからね」
サリーがメイプルの代わりに、ギルドの事務面をサポートしていた。一方、メイプルは…修練場で双子と対戦中である。破壊成長の装備を成長させる為らしい。俺でも良かったんだが、サリーに止められた。
「メイプルキラーなんだから、自覚を持ってくださいね。ダンさんに鍛えられたら、ダンさんを超えるが難しいでしょ?」
それはそうなんだが…実のところ、サリーは俺がどうしてメイプルを瞬殺出来るかの仕組みを知らない。なので、策が練れないようだ。まぁ、仕組みがバレても、策はない筈だ。防御力無視の攻撃スキル持ちだし。
「射的場が少なくなったねぇ」
って、アスカ。空を飛べる世界である3層だと、隠れる場所が少ないそうだ。
「4層は、どうなんだろう?」
どうなんだろうな。
◇
イベントが終わってから1ヶ月後、4層が実装された。前回同様にギルドを2パーティーに分けて、突破することになった。フレデリカは俺と同じ後発隊である。まず、メイプル達が入った。瞬殺で終わると思っていたのが、中々俺達の番が来ない。強敵がいるのか?5分ほど経ち、ボス部屋の扉が開いた。中にいたのはアイアンゴーレムのようだ。
「固そうなんで、俺で行く」
懐に入り込んでからの32連打。2発目で当たりが出て、4層目に出られた。そこは常闇の町だった。星の煌めく夜空に赤と青の2つの満月。不気味である。お化けエリアか?
「速い…」
サリー達、先発組が驚いていた。
「なんで、手間取ったんだ?」
「私でもメイプルでも攻撃が入らなかったの。で、マイメイコンビにチェンジしたら、高火力で簡単に削れたけど。さすがメイプルキラーね。VIT振り相手には無敵なのかな?」
サリー、正解だ。
皆で、ギルドホームへ向かうと、隣には収納庫兼整備場があり、既に移動式ギルドホームが鎮座していた。その後、ギルドホーム内をチェックして、街中の探索へと、出た。俺はフレデリカとアスカと一緒らしい。
「お兄ちゃんって、一人だとやらかすからね」
信用がまるで無い。今までの行いなのか?メイプルはサリーと巡るようだ。
「お兄ちゃん、あの高い塔が怪しいよ」
「あぁ、良い狙撃ポイントだよな」
「ぎくっ!」
ビンゴらしい。この階層での狙撃ポイントは、あの高い塔の上の方にするようだ。
「この鳥居を潜るようですよ」
フレデリカが道順を教えてくれた。やはり、常識人のフレデリカは貴重だな。二つ目の鳥居を見つけ、通過しようとすると、弾かれた。ノックバックというより、結界か何かか?
「アスカ、レールガンで貫通出来るか?」
「う~ん、出来無いみたいだよ」
◇
数日後、ホームに集まり、情報を交換した。
「私は即死効果を手に入れて、着物買ったよ!」
嬉しそうなメイプル。何?即死効果だと…マズい…俺も何か強化しないと…
「私からは、この階層では通行証を手に入れないと、自由に探索出来無いみたいなの」
サリーは有用な情報を出してくれた。
「で、通行証にはランクがあって、面倒なクエストをこなさないと、ランクが上がらないんだって」
クエストかぁ。嫌な予感しかしない。クエストはステイタスによって、発生する者と発生しない者とに別れる。なので、ここからは単独行動になる。まぁ、単独ではあるがカエデとフレイヤがいるので、相談は出来るが…
探索をしていると、
「おい!お前、強そうだな。我を倒して見よ!」
鬼が現れた。32連打を叩き込みと、鬼はドット落ちしていく。
「お前にコレをやる。精進せよ、なお一層な…」
何かの通行証をくれた。なんだ、これは?当ても無く歩いていると、どこからか祭り囃子が聞こえて来た。その音に誘われる様に、歩いて行くと、お寺に出た。祭りをやっている様子は無い。ワナか?
「貴様、何者だ?ここには人間は入って来られぬのだぞ」
影のようなヤツが現れた。迷わず【ホーリークロウ】を叩き込んだ。
「何…貴様…」
あれ?倒しちゃダメなヤツだったのかな?何もドロップしないし。影のいた場所を探していると、落とし穴に嵌まった。また、このパターンか?
◇
そこは地獄だった。針山地獄、血の池地獄などがあるし。
「お前は大罪人のようだな。ここで、かわいがってやるよ」
棍棒を持った鬼達がぞろぞろやってきた。面倒だなぁ。ドラゴンシリーズを装着し、【機龍】を発動すると、形勢は逆転した。逃げ惑う鬼達を尻尾で潰し、足で潰し、エラそうなヤツを見つけて、メーサー砲を叩き込んだ。
「バチ当たりものめ!貴様など、魔界送りだ!」
冥界送りでなくて?魔界か?蒼き装備に切り替え、【ホーリークロウ】で、悪魔や魔物達を蹂躙していく。終わりの見えない戦い。何故か、ログアウトボタンが出ない。デスゲームなのか?ここは…
蹂躙し続けると、目の前に新敵が現れた。どこかメイプルに似ているが、構わず32連打で殺しておく。
「貴様!メイプルを…【炎帝】」
ミィに似たやつが、俺に炎攻撃を繰り出してきた。こいつも32連打で殺しておく。され、次はどいつだ?
「お願いです。怒りをお鎮め下さい、魔神さま…」
見た事の無い少女が、俺に祈りを捧げてきた。身体の闇が昇華していく。昇華していった闇が人型になり、徐々に実態化していく。
『我が名はデミウルゴス…神であり悪魔であり魔王である。我の僕にならぬか?』
「悪いが俺は男の下僕にはならぬ。俺は女を下僕にする!」
天空からカミナリが落ち、俺に祈りを捧げていた少女を直撃した。全身火だるまになっていく少女。その少女が俺の前に現れ、先ほどの男と共に、俺に跪いた。
「我が名は、魔女として葬られた聖女ジャンヌと申します」
「我が名は、旧約の神であり、新約では魔王とされたデミウルゴスと申します」
「「我らを主様の末席にお加えください」」
そう口上を述べると、俺の指輪に吸い込まれて行った。で、ここはどこだ?
◇
ひたすら歩くと、お城に出た。誰の城だ?
「貴様!我が城に何用じゃ?」
いきなり刀で斬りかかってきた男。クロスカウンターで男の顔を潰した。男は頭の無い龍に変化していく。そして、ドットと落ちをして消え去ると、アイテム『龍の逆鱗』を手に入れた。まだ、ログアウト出来無い…死ねばいいのか?先に進むと、楓の木のメンバーがいた。出迎え?
おぉ~、ログアウトのボタンが表示された。現世に戻れたようだ。
「ダンさん…今までどこにいたんですか?」
サリーが心配そうな顔をして、俺に抱きついて来た。
「いや、よく分からないんだ。で、サリー達は、どうしてここに?」
「龍退治にです」
「龍?倒したけど…」
「はぁい?」
ドロップアイテムの『龍の逆鱗』を手渡すと、ギルドメンバーの人数分に分かれた。
「一人で倒したんですか?」
メイプルが妙な事を言う。
「俺、ドラゴンの類いに無敵だから…」
「へ?」
「伝説のドラゴンセットがあるだろ?あの恩恵で、ドラゴンはワンパンだから…」
結果的にそうなっただけである。相手がドラゴンであるという認識が無かったし。
「これ、なんかのクエストだったのか?」
「じゃ、鬼退治を…」
「倒したよ。とっくにね」
何故か、みんなが呆れるように俺を見ていた。
◇
12月になると、フィールドは雪化粧を纏った。衣変えに季節である。ふとゲットしたのに、装備したことの無いやつがあるのを思い出し、取り出した。
『神装備』
頭【雷神ヘルメット(フェースガード付き)】
体【フェニックスの鎧(不死属性)】
右手【籠手(ドラゴンスレイヤー)】
左手【籠手(ホーリーアロー)】
足【鬼神のレッグガード(即死属性)】
靴【龍神のブーツ(帯電)】
あらゆる属性に対応できる究極な一品。
取得条件:2層への守護神を、ソロで初バトルで撃破
なんか、ゲームバランスを大きく崩しそうである。そうだ、だからお蔵入りにしたんだ。思い出した。でもフェースガード付きは魅力である。正体がばれないってことだし。ふふふ…
ちょうど、第5回イベントとしてフィールド探索型イベントが開催されるようだし。PKし放題か?
---サリー---
最近、ダンさんを見かけていない。なんか、胸騒ぎがする。
「おい!PKしようぜ」
それは突然現れた。金色に輝くフルアーマーである。相手はフルアーマーの割に、素早い。相手の剣先を、ギリギリで躱せたのだが、背筋に嫌な汗をかいている。これって、躱してもヤバいヤツだ。全身が恐怖に浸食されていく。コイツ、プレイヤーか?それともAIモンスターか?
「がっ!」
相手の蹴りをギリギリで躱したのだが、全身が痺れていく。マズい…誰か、助けて…ダンさんさん…
「サリー、大丈夫?」
メイプルが来てくれた。
「2対1か。いいぜ。PKしてやるよ」
相手の蹴りがメイプルを掠めた。ただそれだけで、メイプルがドット落ちしていく。相手の蹴りって、即死属性なのか?マズい。掠めただけでデッドって、ハンパ無い。シャレにならん相手である。
【ホーリーアロー】
目の前から光輝く矢が飛んで来た。聖属性攻撃?即死持ちでか?おいおい…躱身の術で乗り切り、分身の術で逃げを打った。みんなに知らせないと、ヤバいだろう、あれって…
急いで街中に戻った。街中でのPKは禁止であるので、安全地帯である。
ギルドホームになだれ込むようにして入った。
「どうしたの、サリー?」
フレデリカがいた。メイプルがやられたことを知らせ、襲われた相手のことを説明した。
「あぁ~」
うん?フレデリカの態度で、相手の正体の予想が着いた。だからのフェースガードなのか?顔がわからなければ、何をしていいとでも思っているのか、あの男は…
「どうしたよ、サリー」
まるで気配を感じなかった。なのに、後ろから抱きつかれていた。
「こんなに息を切らせるとは、珍しい」
隠し持っていた短剣で、背後の人物を刺した。
「おいおい、街中はPK禁止だろ?」
腹部に短剣が刺さっていても、HPが減らないダンさん。今度は何をやらかしたんだ?って…でも、なんで、あのアーマーを着ていないんだ、コイツ…このダンさん、どこか違和感がある。
「フレデリカ、大丈夫か?」
ミィが聖女であるミザリーを連れてきた。ミザリーが浄化魔法でダンさんとフレデリカを浄化していく。うん?何かに取り憑かれたのか?
「殺さないとダメかも」
ミザリーがドット落ちしていく。なんで、浄化していたミザリーが…何をされたんだ?
「次は誰が相手だ?」
目の前のダンさんの声から感情を感じられない。コイツ、何者だ?
「俺が相手だ。俺のニセモノ野郎!」
さっきのフルフェースのフルアーマーがそこに立っていた。こっちが本物のダンさんだろうな。殺気がムンムンしているし。
「なんだと?お前こそニセモノじゃないのか?フルフェースで顔を隠しやがって」
「ドッペルゲンガーよ。お前は俺を怒らせた。殺してやる!」
【召喚;デミウルゴス】
【召喚:フレイヤ】
「「ご主人様を語る者に死を!」」
なんか、良くない者を使い魔にしている気がするが、今は事態の収拾が先だ。目の前にいたダンさんが煙の様に消え、本物のダンさんの使い魔は、指輪へと戻っていった。
「じゃ、サリー、PKの続きをしよう」
えっ?羽交い締めにされて街の外に連れ出された。コイツは本物か?こんなにPKが好きだったっけ?
「お前、本当のダンさんなのか?」
「あぁ、そうだよ。実はなぁ、今、街の中にはドッペルゲンガーが大量発生しているんだよ」
【クイックチェンジ】
蒼き装備に着替えたダンさん。
「さっきのPKは?」
「あれは、俺だよ。あの装備、ハンパないだろ?だから、サリーかメイプルで試そうと思って…」
あぁ…やらかしたのは、それか。
「原因は?」
「誰かがやらかしたんだろうね。幸い、ドッペルゲンガーは街の外には出られない。容疑者と思うのは、フレデリカだよ」
「証拠は?」
「これっ」
草むらからフレデリカを取り出した。
「ドッペルゲンガーが生じている者は、不死になりログアウト出来無い。その上、本体はプレイヤーを襲う。まるで、ゾンビのようにね。ミザリーが言っていただろ?殺さないとダメだって」
「言っていたわね」
「ログアウトさせないとダメってこと。たぶん、フレデリカの中の人に何か起きたんだよ。ログアウト出来無い何かがね。そのせいで、システムに影響が出たんだと思う。今、運営も大慌てだろうな」
「それって、ゲーム内じゃ、どうにもならないでしょ?」
「だから、アスカをログアウトさせた。確認させる為にね」
信用していいのか?
本物のダンさんなら、こんなワナは使わない。
「信用されていないのか?白峯 理沙さん」
私の本名を知っている。本物のダンさんだ。