サリーに、起きていることを説明している。
「ドッペルゲンガーが、産まれる仕組みは?」
「クエストでバグが発生した時に産まれるような気がするんだ」
「ダンさんは、どんなクエストをしていたの?」
「フレデリカと一緒にカップル限定のクエストだよ」
「それは、どう言った物?」
「カップルで、あるNPCに声を掛けると、借り物競走のようなクエストを受けられるんだ。ミィとした時、ミザリーとした時は問題無くクリアしたんだけど、フレデリカとのイベント中に問題が起きてね」
「どんな問題?」
「クエスト受注中に、フレデリカがログアウトしたみたいなんだ」
「先ほど、ログアウト出来て無いって、言いませんでしたか?」
「だから、なんていうか…フレデリカが急に消えて、リスポーン地点に急いで向かうと、フレデリカのドッペルゲンガーとゾンビがリスポーンしたんだよ。ゾンビはリスポーンして直ぐにプレイヤーを襲い、ドッペルゲンガーは何喰わぬ顔で、どこかへ去った。俺が見つけた時には、ホームにいたから、ミィに浄化出来るミザリーを頼んだんだ」
メッセージが届いた。アスカからだ。
『サイバー対策室に対応を丸投げ、運営に連絡済み、ちょっと待って』
サリーがメッセージを見ている。
「サイバー対策室?これって、警察の?」
「俺の話をした方が早いかな。俺の通っていた道場って、警察関係者が多くて、中学の時に、サイバー対策室にスカウトされて、ホワイトハッカーとして、バイトしていたんだよ」
このゲームを始める資金は、休職前の最後のバイト料だったなぁ。
「はぁい?」
「で、その時のコネを使って、フレデリカの中の人を探して貰って、状況の確認をして貰っているんだ。サイバー対策室だと、運営会社にIPアドレスなどの個人情報を訊けるだろ?」
また、メッセージが届いた。今度は運営からだ。地図データが送られてきた。
「これって?」
「万が一の際のゲーム内コンソールの位置だよ。行くよ」
示された場所へ急ぐ。運営に正体がばれたけど、問題は無いよな?職権乱用はしていないし。
「ゲーム内コンソールって?」
「ゲーム内でバグに気づいたら、ゲーム内で修正出来るようにしてあるんだ。プレイングプログラマって言う特殊ジョブが、ホワイトハッカーでゲーマーだと、認定試験を受けられるよ。一応、国家資格だよ。ホワイトハッカーは公務員扱いだからね」
国家認定の正義のハッカーって位置付けである。正式にはホワイトナイトハッカーで、白き騎士団って感じだそうだ。
「ダンさん…いえ正さんは、そのジョブなんですか?」
「そういうことだ。ただ、ケーキ職人の勉強の為、バイトは休職中だけど」
墓場の一番奥の墓石を倒すと、コンソールが出てきた。あのクエストのプログラムを表示させて、目で追っていく。
「これかな?」
本来はクエスト受注中のログアウトは、クエスト失敗扱いになるはずだが、クエスト受注中はログアウト不可になっていた。そこを直していく。そう言えば、以前もログアウト不可のクエストに遭ったな。あれも直しておくか。
「受注中はログアウト不可になっていたよ。本来はクエスト失敗になるはずなんだけど…」
手直ししたので、運営へメッセージを送り、システムへの書き換えを依頼した。で、俺が遭遇したクエストは…あっ!コンプリート済みで修正が出来無いのか。これも知らせておくか。同じルーチンを別の処理で再利用していると危険であるから。
運営からメッセージが届いた。
『修正に感謝 システムをリセットするので、運営アナウンスに従わずに、ログアウトしないプレイヤーをPKしてください 街中でもOKです』
サリーにメッセージを見せた。
「さて、ゾンビ狩りをするぞ」
「了解!」
◇
ゾンビ事件によるシステムリセット後、3日ほどシステムメンテでログイン出来無かった。フレデリカの中の人は、プレイ中に尿意を感じ、ログアウトしようとしたのだが、システムに繋がれた状態でヘッドセットを外した結果、意識を刈られたようだった。現場に踏み込んだ刑事さんによると、彼女の尊厳の問題だから、訊かない方が良いって…
「警視総監賞ですか?すご~」
今回の功績で貰った。貰ったけど、当然なことをしただけであり、特段嬉しさは無い。
目の前に、楓と理沙がいる。うちの店でのクリスマスイベントに招待したのだ。
「ゾンビ事件ですか…私、全く知りませんでしたよ」
俺がPKした直後、リスポーンされることなく強制ログアウトされた楓。運営が知らせを聞いて、リスポーンせずにログアウトさせたようだ。
「ダンさんにPKされた後、再ログイン出来無くて、その後にメンテになって焦りました」
明日奈は厨房でケーキ作りに励んでいる。
「理沙、そのケーキはどうだ?妹の新作で、デザインは俺だよ」
「おいしいです。スポンジに染みこんだチョコソースがビターで大人の味ですね。味もデザインされているんですか?」
「味は、俺と妹で相談しつつだな。それ、隠し味にブラックベリーソースを生クリームとの境に塗ってあるんだよ」
「そうなんだ」
---サリー---
事件後、やっとメンテが明けて、久しぶりのログインであるが、既に年末だし。ログイン時に、運営からクリスマスプレゼントが届いていた。緊急メンテの補填らしい。
「わぁ~、久しぶりだよね、サリー」
「そうね、メイプル」
ダンさん兄妹は、今日は無理らしい。年末に向けての仕込みとか言っていた。あと、サイバー対策室へのレポート提出だっけ。
「明日奈さんのフルーツケーキ、美味しかったなぁ」
見た目、宝石箱のような輝きのあるフルーツケーキだった。果物の透明感にこだわったそうだ。
「メイプル、リアル名は出しちゃダメだよ」
「あ、マナー違反だよね。失敗失敗」
「あれ?ダンさんは?」
フレデリカがやってきた。
「今日はリアルが忙しいって」
「そうなんだ。担当してくれた刑事さんに聞いたんだけど、ダンさんの機転で、私助かったって。だから…お礼を伝えたい」
惚れるなよ。ライバルは少ない方が良い。
「年末年始はインすると思うわ」
ホームのモニタを表示させて、運営からのお知らせをチェックしていく。年末年始はイベントはないようだ。トラフィック渋滞を警戒しているのだろうか。
「ダンさんは?」
ミィが来た。
「今日はインしないわ。明日ならインすると思うけど」
「そうなのね」
まさか、コイツもか?
---ダン---
年末年始は、イベントは無しで、お年玉狙いの課金祭りだった。『打倒メイプルセット』『最強ペインセット』など、盛りだくさんのセット物が販売され、高額ガチャもある。
俺は無課金派なので、真っ当にPKをし、たまにドロップするお金やアイテムを拾って、ガチャ資金を貯めていた。
「お年始だからって、ガチャをしないでくださいね」
サリーが警戒している。確かに、これまでの俺のガチャ戦績は、やらかしてばかりだったかもしれない。しかし、年を越せば、運気も変わると言うものだ。俺はお店巡りをして、俺の目と合うガチャマシンを探し歩いた。
どこをどう歩いたのだろうか。俺は知らない場所にいた。運営の罠か?それとも迷子か?ここはどこだ?扉が目の前にある。迷わず入った俺。だが、目の前にガチャマシンは無く、長身の真っ白い鬼が立っていた。
「おぉ……?まさか人間が来るとはな。うん?お前…アレを持っているのか?」
あれ?鬼に貰った通行証。まさか、アレって、ガチャの参加券だったのか?俺は目の前の鬼に渡した。
「まさか、先代がやられたとは…何?貴様…閻魔大王様も倒したのか?」
「誰だ、それ?」
あのエラそうなヤツかな?大王っていうくらいだし。
「ならば、これをやる。とっと、立ち去り、もう来るなよ!」
何かを貰い、俺は壱の鳥居の前に強制転移させられた。はて?
貰った物を早速確認した。
スキル【百鬼夜行EX】
1分間赤鬼、青鬼を呼び出す。鬼のステータスはスキルレベルに依存。
その間使用者が持つスキル全ては【封印】状態になる。装備のスキルは【封印】されない
レアスキル【白鬼夜行EX】
1分間、白い鬼を呼び出す。鬼のステータスはスキルレベルに依存。
取得条件:【百鬼夜行EX】を所有する
う~ん…これって、ガチャでやらかしたのと、同罪になるのか?スキルレベルがEXって何だ?ヤバいだろうに。みんなには黙っているか。バレるまで…
◇
1月の半ば、5層が実装されたそうで、試験勉強中の俺とアスカ、インフルエンザのメイプル以外のメンバーで、先に行ってしまったようだ。
俺は一人で階層ボスの部屋へと向かった。敵は高速移動する九尾の狐だそうで、対峙してみると、回避能力がサリー並であった。攻撃が当たらない。どうするかな?いや、待てよ。九尾の狐って、女性のイメージなのだが。【魅了】…自らデスした狐。呆気ない終わりだ。
何かのウィンドウがポップアップした。なんか、やらかした気分である。既に隠し事が2つあるのに…
レアアイテム【九尾の狐】
九尾の狐である狐人を使い魔に出来る
取得条件:階層主の九尾の狐を、ソロで初バトルにて一撃で倒す
と、ある。【魅了】で一撃…あまり他人に知られたくないかもしれない。
「ご主人様、名前をください」
目の前に、狐耳の少女が現れた。これは隠せないパターンか?
「じゃ、コンコンでどうかな?」
「ありがとうございます。これから、宜しくお願いします」
見た目、某アニメのラフ●リアである。あれは狸だったけど。抱き締められると、柔らかい物が当たる。これはこれで良しにするか。
「わたしも!」
カエデが出てきた。ライバル心なのか、俺に抱きつくが、平らだよな?本人達には言え無いけど…
二人を連れて、ギルドホームに向かうと…
「ダンさん、何をやらかしたんですか?」
サリーの目が怖い。
「皆様、よろしくお願いします。コンコンといいます。ご主人様の使い魔です」
礼儀正しいコンコン。カエデは背中で眠っている。メイプルがいないからだろうな。いたら、揉めるし。
「で、どこでゲットしたの?」
サリーの追求が止まらない。
「いや、階層主をソロで一撃で倒したら…」
「まさか、あの九尾の狐を?」
そんなに倒すのに手こずったのか?8名で攻めたはずだよな?
「一撃って、32連打?」
「近い!」
いや、全然毛色が違うが。
「後、ダンさんが持つ最大火力って…いや、当たらないと意味が無い。そうか、当たらないでも良いヤツか。まさかと思うけど、【魅了】は無いわよね?」
「正解だ…あぁ、何も言うな。今回は反省している。大人げ無い倒した方だったよ」
目の前の皆さんが、「あぁ…」って、顔をしている。
「確かに女性のソロ相手なら、あれは最強よね」
サリーは何かを諦めた顔をした。
◇
俺の翌日にはアスカ、インフルエンザを完治したメイプルが5層へやってきた。
「ダンさん、鬼から凄いスキルを貰いましたよ」
嬉しそうなメイプル。鬼から貰った?嫌な予感しかしない。
「これです」
スキルの説明画面を見せて貰うと、【百鬼夜行Ⅰ】があった。
「どうです?凄いでしょ?」
「メイプル、あの鬼を倒したのか?」
「はい」
カスミは倒せなかったようだ。サリーは断念したそうだ。
「あれ?ダンさん、ダンマリ?まさか、やらかしたんですか?」
サリーは察しの良い少女である。それは時に、俺を追い込む。
「ダンさんも、倒したのですか?」
メイプルが訊いて来た。
「いや…くれたんだ。白い鬼は倒していない」
「まさか、脅し取ったの?」
イズが驚いたような声をあげた。
「鬼に恐喝した覚えは無いが…ほら、龍と鬼を倒すイベントがあっただろ?あの前にさぁ、鬼とエラそうなヤツを粉砕したんだよ。その結果…」
【百鬼夜行EX】【白鬼夜行EX】
を見せた。メイプルの顔から色が抜けて行く。
「レベルEXってなんですか?」
感情の籠もらないメイプルの声。それはそれで怖い。
「どうして、いつも私の先にいるんですか?一度くらい追い抜きたいですよ」
メイプルの心の叫びか?俺の心をえぐる。
「それは、いつでもどうぞ…」
その日は、ログアウトまで、メイプルをなだめ、甘やかした。