デスを食らった男   作:もっち~!

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新層

 

---サリー--

 

時は過ぎ3月になった。次の階層が実装されるそうだ。

 

「今回は初日に攻めて、先に行くよ」

 

鬼畜兄妹がやる気になっている。理由は、3月にも洋菓子店の繁忙期がある為らしい。

 

「初日攻略失敗したら、15日以降になる」

 

誰も失敗するなんて考えていない。今度は何をやらかすのか、期待と不安が入り混じっているのだ。

 

「ダンさん、やらかして、強くならないでくださいね」

 

メイプルが直訴している。ダンさんに置いて行かれるのが、堪らなく嫌なのだろう。

 

 

そして、新層開放の日…

 

『初めての一番乗り。アスカは二番乗りだ。ペインが前にいたのだが、アスカが狙撃したよ』

 

階層主の部屋の前で、PK合戦していたのか?フレデリカによると、打倒メイプルに燃えていたペインは、度重なる鬼畜兄妹の凶行により、最近灰のようになっているそうだ。そのフレデリカはアスカさんとクリアしたそうだ。11名のギルドメンバー、最大パーティー人数は8名で、3名のあまりが出る。なので、先行で3名が新層へ旅立ったのだろう。

 

「どんな敵だって?」

 

クロムに訊かれた。

 

えぇっと…メッセージを飛ばすと、直ぐに返信が来た。

 

『マイユイのダブルスタンプなら一発だ。ただ、毒持ちだから、メイプルのガードは必要』

 

「じゃ、みんなでマイユイコンビをガードすれば、大丈夫そうね」

 

『でも新層はサリーにとって鬼門だ』

 

このメッセージの意味が分からない。私限定って…まさか、お化け屋敷エリアか…お化け、幽霊の類いは苦手である。リアルのダンさんに、話した記憶があるし。

 

 

階層主は物理耐性無しだった。マイユイの一撃で消えていった『雲のクラゲ』。で、新層…お化けが闊歩するエリアだった。

 

「サリー、大丈夫?」

 

メイプルが心配そうに声を掛けてくれた。だけど、大丈夫では無い。足が震えている。

 

「よし!シロップでギルドホームへ行く!」

 

シロップを出し、巨大化させて、皆で載って、ギルドホームを目指すが、お化けが普通に空を飛んでいる。人魂みたいな物が浮遊している。ここはダメだ。既に心が折れている私は、この階での探索を諦めた。

 

ギルドホームに入ると、テーブルに料理が並んでいた。

 

「いらっしゃ~い」

 

移動式ギルドホームから料理を運んで来たダンさん。

 

「今日は俺とアスカが腕を振るった料理の数々を堪能してくれ」

 

あれ?今日は13日なんだけど…

 

「なんだよ、サリー。うん?あっ、そうか。明日が発売日だけど、今回はケーキでは無くて、チョコの販売なんだよ。後は、明日の早朝に生チョコを作るだけさ」

 

「美味しそう」

 

メイプルは料理に目が行っている。

 

「サリー、そんな顔をするな。これは大丈夫な食材だよ」

 

前回の食材は、訊かない方がいいって、逃げたダンさん。

 

「美味しいわ」

 

イズさんが食べ始めると、我先にと食べ始めるみんな。

 

「そうそう、リアル世界で、サリーとメイプルの中の人へ、プレゼントを届けておいたから、食べてくれよ」

 

「私には?」

 

フレデリカが割って入ってきた。

 

「だって、お前の中の人を知らないし、住んでいる場所も知らないぞ」

 

「今、住んでいる場所をメッセージします」

 

「うん?う~ん、無理だな。遠いし…」

 

「えぇ~」

 

フレデリカが凹んだ。

 

「近所なら、試作品を届けることはするが、流石に遠いなぁ」

 

住んでいる場所は遠いらしい。

 

「で、サリーはこの階層ダメだろ?」

 

頷く私。

 

「そのダメをダメで無くしてやるよ。だから、15日はインしろよな」

 

このお化け屋敷エリアをダメでなくす?何か、やらかしたのか?

 

「今回はやらかしていないですよね?」

 

みんなが一斉に聞き耳を立てている。気になるようだ。ダンさんは、私から視線を外し、移動式ギルドホームへと戻ろうとしている。

 

「やらかしたんですね?で、何を?」

 

「いや、俺はやらかしていない。寧ろ、運営がやらかしたんだと思う」

 

何か、得たようだ。何をだ?雲クラゲ?その程度ではやらかしたうちに入らない。では?

 

「まぁ、見てくれよ【召喚 スラリン】』」

 

目の前に雲クラゲでは無い生物が現れた。これって、スライムの亜種?クラゲのような身体から足が8本伸びているが、クラゲの足では無い。

 

「スパイダースライムって、種族みたいだよ。雲クラゲでなくて、蜘蛛クラゲって、感じだな」

 

あぁ、蜘蛛ねぇ。糸を吐いて拘束タイプかな?

 

「状態異常持ちだから、触ると危険だよ。あと、コイツの吐く糸はピアノ線並の強度で、簡単に腕が切り落とされるから危険だ」

 

拘束タイプでは無く、前衛タイプか?

 

「状態異常持ちって、何を持っていますか?」

 

メイプルが質問をした。

 

「毒は猛毒系だ。あと、クラゲなので麻痺系もあるが、毒タイプと雷撃タイプの2系統の麻痺になる」

 

蜘蛛だけで無く雲の特性もあるのか。

 

「遅延する雨は?」

 

カスミが訊いた。下の層では、そういう罠もあったし。

 

「遅延系は雨でなく霧だよ。スローミストって感じだ。で、スローミストなんだけど、AGIがゼロのヤツが喰らうと、動作不能3分だよ。アスカで試したから、正確な時間だ」

 

メイプルキラーだな。動きを止めて、なぶり殺しか?

 

「う、う、うっ。ずるい。私に効くスキルばかり」

 

メイプルがダンさんの背中に抱きつき抗議している。

 

 

そして15日。インをするとダンさんが待っていた。彼の傍にはミィ、ミザリー、カエデ、コンコンがいた。ライバルが多いぞ。

 

「オバケ、幽霊がダメなんだよな?だから、コンコンの妖術で、違う姿に変える。そうすれば、サリーでも戦えるだろ?ミィとミザリーは、助っ人だよ」

 

助っ人?はて?ダンさんの火力があれば、助っ人がいらないだろうに。

 

「尊厳が危険な時、俺は見ないことにする。ミザリーの浄化能力で乗り切ってくれ」

 

う~ん、心配しれくれたのは嬉しいが、たぶん尊厳が危ないのはリアル体だと思う。アバター姿では出る物はで無い。そもそも、この世界にはトイレの概念が無いのだが…あの二人はダンさんといたいから、それを指摘していないのだろう。

 

ダンさん達と外へでると、ゴブリンとかミノタウロスとかに、コンバートされていた。

 

「問題は1つだ。姿と攻撃方法は異なる点だ。ただ、幽霊はミノタウロス固定のように、同一種族なら同じ攻撃方法で来るからな」

 

「了解!」

 

なるほど、唐傘オバケは違う姿になっているのか。って、街の中は廃屋だらけである。建物までコンバート出来無いのかもしれない。だけど…やはり姿をコンバートは無理があった。なので、断念をした。攻撃の予想がまるでつかず、直前退避ばかりになって、危険を感じたのだ。

 

そして翌日…ギルドホームの私の部屋に、見かけないアイテムが色々置いてあった。誰だろう?メイプルかな?

 

『PKの合間に拾っておきました。お使いください 鬼畜兄妹より』

 

と、メッセージが添えられていた。ここでもPKしているのか…アイテムをチェックしていくと、【AGI】強化アイテムに、加速スキルの巻物、そして、足場を作る靴だ。アイテムの説明画面を開くと

 

レアアイテム【死者の足】

スキル【黄泉への一歩】を付与。

 

【黄泉への一歩】

スキル使用時、各ステータスを5減少させ空中に足場を作る。20分後減少解除。足場は十秒後消滅する。

 

と、ある。これって、PKで得たんじゃ無くて、クエストしてくれたのか?

 

 

翌日、ダンさんにお礼を言おうと思っていたんだが、鬼畜兄妹がやらかしたせいで、お礼を言う機会を失った。

 

「決闘ランキング?」

 

「あぁ、どこかのPKマニアが、あまりにも不意撃ちをするせいで、決闘ランキングという常設クエストを始めるそうだ」

 

クロムがどこからか情報を仕入れてきた。

 

「決闘だと不利だよな。狙撃手は姿を見せない者なのに」

 

アスカさんが不平を述べている。

 

「どうせ、あの最強レベル男が運営に泣きついたんだろ?」

 

ダンさんも同罪だと思う。

 

「今まで通り、不意をついたPKは廃止しないが、PK数にカウントされずに、暗殺数にカウントされるそうだ」

 

決闘ランキングには報酬があるが、暗殺には無いようだ。まぁ、無くても、あの鬼畜兄妹はするだろうけど。このゲームには決闘というシステムは元々あった。双方の同意があれば、決闘専用フィールドに飛ばされて、そこでPKしあう方式である。

 

「戦える相手は、同じランクか、上のランクだけで、弱者を指名は出来ない。ランクはランキングにより決まり、ランキングはPK数と勝率で決まるそうだよ」

 

う~ん、未だデスしていない私とアスカさんはSランクのようだ。デス数が多いクロムさんとダンさんはCランクなのは、ダウトと叫びたい。

 

「私はAランクだよ」

 

メイプルが複雑な顔をしている。ダンさんより上なのは、不可解なのだろう。フレデリカ、カスミもAランクである。PKを経験していない、イズさん、カナデ、マイユイコンビはEランクスタートだそうだ。

 

「各ランク定員があるから、ランクの上下動もあるようだ。決闘を行えば、参加賞が貰えるようだよ」

 

参加賞はポーション類のようだ。勝てば勝利者賞、あと、10勝ごとに景品が貰えるそうだ。

 

「決闘ランキング戦をするには、広場の端末から相手を選ぶんだそうだよ」

 

「なんで、ダンさんがCランクなんですか?!」

 

メイプルが詰め寄った。

 

「なんで?あぁ、多分デス数じゃないかな?俺トップで、名無しの大盾使いは2位だし」

 

デス数が換算されているのか。

 

「後、被ダメージ量かな?俺トップで、2位はペインだっけ?じゃ、俺は決闘しなければ、ランクはこのまま?」

 

「拒否した場合かぁ。どうなるんだ?」

 

「そうだよ。クエスト中とか戦闘中とかPK中とか、決闘に応じられない場合って、あるだろ?」

 

頷いているアスカさん。

 

「あっ!そうか。お兄ちゃんのPK数って、テロの回数にカウントされているんじゃないの?」

 

あぁ~。ダンさん以外が納得した顔になった。

 

「おい!俺はテロをした覚えは無い。えん罪だって…」

 

「あぁ~、ウザいなぁ。さっきから決闘の呼び出しが多数だよ」

 

アスカさん、モテるなぁ~。私には1件も無い。

 

「アスカ!行って来いよ。たぶん、受けた側が有利なポジションを取れると思うぞ」

 

「そうなのか?お兄ちゃん。じゃ、行ってくるね」

 

アスカさんが転移していった。

 

「決闘を仕掛けるヤツって、碌なもんじゃないよ。名前が分かれば、PKし放題って、教えてあげよう」

 

これは、返り討ちにして、後日、フィールドで狩りする気なのか?

 

 

翌日、決闘ランキングに変化があった。Sランクにペインが入った。ランキングは1位アスカさん、2位私、3位にペインだった。

 

「やはり、デス数が関係しているようだな。運営に確認したら、勝ち数から、デス数と被ダメから換算するデス数を引いた数のランキングだって」

 

ダンさんがチェックしていた。気になるのだろうか。

 

「う~ん、ダンさんに挑戦出来無いよ~」

 

メイプルが唸っている。

 

「3回連続で拒否すると、ペナルティー数が増えるらしいぞ」

 

カスミが体験したのか、プンプンしている。ペナルティー数が増えると、犯罪者リストに載るらしい。既に載っているダンさんに訊くと、

 

「犯罪者リスト?あぁ、ランキングに名前が出ないで、二つ名を貰えるぞ。アスカだと『姿無き暗殺者』で、俺は『情け容赦無きテロリスト』だったかな?」

 

それは、それで宜しくないよな。

 

「ただ、受けられない状況ならば、カウントはされないそうだよ。クエスト中とか、戦闘中とか、PK中とか、いろいろあるだろ?但し、相手にその旨が表示されるのが難点だよ。決闘を申し込んだ相手に『テロ中』とか表示されるんだからな」

 

申し込まれたんだ…で、どこかで、やらかしていたんだ。

 

 

 

---ダン---

 

決闘システム…まぁ、ヒマな時は受けるけど…機龍モードで…同じ相手から決闘の誘いは来ないのが難点だ。

 

が、或る日、突然、Sランクに昇格していた。運営に確認をすると、Cランクにメカゴ●ラがいるのはおかしいと、苦情が相次いだらしい。そのせいか、毎日ペイン、ドラグ、ドレッド、シンから決闘の申し込みが来る様になってしまった。

 

更に言えば、この決闘システムはおかしい。使い魔は禁止とか、機龍禁止とか、苦情が多いと俺の禁止事項が増えていく。なんで、俺よりも高レベルのヤツには、ハンデが無く、俺にハンデを付けるんだ?ペインに至っては、俺のレベルの倍はあるんだが…

 

なので、バイト先に相談してみた。すると直ぐに、運営からお詫びが来た。力は正義だな。

 

お詫びの品…イベントでラスボスになれる権利…いらんだろ、これ?

 

俺と運営を繋ぐホットラインの開設…癒着を疑われるのは心外である。

 

いずれ、何かで埋め合わせ…やらかしたとか言われそうだよ。

 

 

 

 

 




決闘ランキングはオリジナル設定です(^^;

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