「イベント情報を仕入れて来たぞ」
情報通である名無しの大盾使いことクロムが、定例のギルド会議で口を開いた。
「イベントは2つだ。1つは3月後半に決闘ランキングの頂上決戦があるそうだ。決闘ランキングの上位5名によるトーナメント戦だ」
断言しているクロム。上位5名か、面倒だな。
「出場者は、現在1位の姿無き狙撃者、2位の情け容赦無きテロリスト、3位のサリー、4位のメイプル、5位のペインになる」
俺が入っているんですが…
「1位から4位までうちのギルドなんだ。すごーい」
メイプルが喜んでいる。だが、これ、やらんでも結果出ているだろうに。
「順位に応じて、メダルがもらえるそうだよ。それとこれから毎月の月末に、各ギルド上位5名のランクの平均順位出して、上位5ギルドにメダルを配布だそうだ」
メイプルもSランク入りして、Sランクが4名いるんだぞ。既に確定1位だろうに。
「もう1つのイベントは、4月に塔攻略のイベントがあるそうだよ」
「えっ!塔の攻略?PK出来無いじゃん」
アスカが驚きの声を上げた。確かに、閉鎖空間でのイベントでは狙撃は無理である。
「その頂上対決はパス出来るのか?」
「え~、パスするんですか?」
俺の疑問に、メイプルが抗議を声を上げた。コイツ、バトルジャンキーだっけ?
「リベンジに燃えているんですからね」
「俺がサリーに負ければ、メイプルとは戦わないぞ。多分…」
「そ、そ、そんなぁ~」
凹むメイプル。
---サリー---
決闘ランキング頂上決戦?う~ん、多分、初戦の相手はダンさんである。勝ち目は無いんじゃないのか?鬼畜兄妹を除いたみんなから暖かい視線を感じる。
「瞬殺だけは避けてな」
クロムからの声援。【魅了】一撃で終わると思う。そもそも論であるが、体力盾であるダンさんを倒すことは、不可能に近い。貫通攻撃を連続3発食らっても倒れない体力と自己再生の速さが売りである。私にはその貫通攻撃すら無いのに。不戦敗を選択したい。その上で、メイプル戦を見てみたい。
「メイプルちゃんとダンだと、怪獣大決戦になりそうよね」
イズさんが乾いた笑みを浮かべている。長期戦になれば、そうなるだろうが、ダンさんの性格上、短気決戦で来ると思う。一撃必殺で…
「しかし、毎度毎度、忙しい時期に、イベントを持って来るなぁ~、運営のヤツラは」
「何かありましたっけ?」
メイプルが訊いた。
「卒業式と入学式だよ。桜系のケーキを考え無いといけないのに…」
あぁ~、そういう時期でしたね。洋菓子店って、年中忙しそうだ。
「今週末に試作が出来るから、メイプルとサリーは食べに来いよ。マイユイには持っていく」
「ちょっと、私には?」
フレデリカが声を荒げた。
「喰いに来いよ。この前、ミィとミザリーは喰いに来たぞ」
うっ、あの二人、積極的だな。油断ならない。
「場所はどこかな?」
いっ、イズさんもか…
「ミィ達は探して、見つけたそうだ。こういうのは、探すことに価値があると思う」
私…探してませんが…ダメですか…
◇
週末に楓とお店に向かうと、モロボシ洋菓子店は、人混みに飲まれていた。こんなに人気店だったっけ?
「理沙、何か事件かな?」
楓が心配そうにしている。人混みをかき分けて、ショーウィンドウの前に行くと、アップライトピアノを模したチョコレートケーキが展示されていた。白鍵はホワイトチョコ、黒鍵はビターチョコぽい。何かの曲の楽譜も置かれているが、総てケーキのようだ。傍らには、『世界洋菓子コンクール入賞作』と書かれた札が一緒に置かれている。
「すごい…」
人混みの理由はこれだった。参考価格は、100万とある。これは目玉になるなぁ。お店の中も満員である。楓と二人で裏口へと回る。そこには見かけたことのない女性達に囲まれている鬼畜兄妹の中の人達がいた。
「あっ!理沙、楓、すまん。こんなに混むとは思わなかったよ」
来客予想が外れたようだ。明日奈さんが、お皿にプチケーキを3種載せて、私と楓に手渡して来た。
「今日は、ここで食べてね。厨房が大変なことになっているから」
大忙しなんだ。
「あの~、サリーさんとメイプルさんですか?」
私達よりも幼さが残る少女達に話し掛けられた。
「もしかして、マイちゃんとユイちゃん?」
「「はい。初めまして」今日は、お母さんに連れてきて貰いました」
二人の後ろにいる女性が、彼女達の母親なのか。
「やっと、見つけましたよ~」
フレデリカに似た女性が、ダンさんに詰め寄っている。
「ミィ達も来ているの?」
明日奈さんに訊いてみた。
「ミィ、ミザリー、イズは、店内で食べてますよ」
開店前に並んだそうだ。あの三人は要チャックだな。ここ、裏口も、飲食スペースがある。ここは試食して貰う為のコーナーだそうだ。昔から、常連さんを招いて、試食を繰り返して、店に並べるケーキを見極めているんだそうだ。
「あのピアノは、明日奈さんですか?」
楓が訊いた。思ったことを即実行できる、彼女の性格が羨ましいことが多々ある。
「兄がデザインして、一緒に作ったんだよ。総チョコレート造りに見えるけど、ベースはウェハースだよ。食べても、重さは感じないと思う」
ダンさん…いや、正さんのデザインなんだ…
「あれは、注文すれば、売っていただけるんですか?」
マイユイの母が訊いている。
「えぇ、ただ、作業スペースのある場所にしか、納入でません。現場で組み上げて、最終デコレートをしますから。納期は3~4週間です。そのうちの1週間は組み上げになります」
正さんが返答をしていた。将来、お金を貯めて、お菓子の家を作って貰おうかな。
「お菓子の家は作れますか?」
楓が、私も思ったことを訊いていた。一番の要注意はコイツかな?
「作れるけど、食品衛生法に抵触するから、実物大は無理だよ」
作れるんだ…
「そうなんだ。残念…」
「今度、ミニチュアを作ってあげる」
「本当ですか?ありがとうございます」
う~ん、羨ましい性格だな。
◇
その日の夜、みんなギルドホームに集まっていた。フレデリカの家は、片道2時間くらいだったそうだ。
「また、行くわね」
イズさんの話では、新作のケーキセット三昧をしてきたそうだ。
「次は5月のイベント向けのデザインを考え無いと」
6月は毎週のようにウェディングケーキ造りだそうだ。
「高校卒業したら、ダンさんのお店で働こうかな?」
「メイプルなら、歓迎するわよ」
アスカさんに気に入られているメイプル。なんか負けた気分である。
「問題は、今度イベントだよな?」
明日の夜、行われる頂上バトルのことである。楓の木から4名が参加である。第一試合はメイプルVSペイン、第二試合は私とダンさんで、それぞれの勝者同士が戦い、最後にその勝者とアスカさんが戦い、決戦の幕は閉じる。ギルド順位が1位確定で、メダル10枚は確定している。あとは、個人成績次第でメダルが増量になるかであるが…
「順位予想の賭けもあるそうだぞ」
と、クロム。現在の一番人気はメイプルで、継いでペインらしいが…
「自分に100万賭けた」
って、ダンさん。
「私もお兄ちゃんに100万入れたよ」
この兄妹の投入額がハンパない。確か1口100とか1000だったはず。
「クロムさんは、誰に賭けたんですか?」
メイプルがクロムに訊いた。
「すまん…ダンに1万だ」
たぶん、楓の木の関係者は、全員ダンさん賭けでは無いのか?
「問題は、ギルドの順位予想だよな。この賭けは成り立つのか?」
一番人気は何故か、集う聖剣であるが…既に楓の木で確定している。
「運営はやらかしたんじゃないのか?」
「いや、狙撃者とテロリストの所属ギルドは明らかにしていない。そのせいで、確定はしていないみたいだぞ」
カスミが、盲点を指摘した。そう、そのせいで一番人気は集う聖剣なのだが…末端プレイヤーをバカにしていると思う仕掛けだ。
「それなぁ、俺とアスカはブラックリスト入りだから、プライバシー保護の観点から、所属ギルドが明らかにされないんだよ」
と、現役テロリストが、カラクリを明らかにした。そう、この賭けは楓の木の関係者の一人勝ちである。
◇
そして、第一試合が始まった。メイプルとペインのガチバトル…メイプル対策を十全にしたペインはメイプルを追い込んだのだが、HP1でメイプルが踏ん張り、ペインが捕食者の餌食になっていた。
そして、第二試合…私とダンさんのガチバトル。開始直後、頭の中が真っ白になり、控え室に戻っていた。リプレイ映像を見ると、【子羊の行進】からの【添い寝】を喰らっていた。デスするまで、私は喘ぎ、のたうち回っている。攻撃が当たらないと評判の私を、苦しみ抜かせて殺すという、観客に恐怖を植える作戦のようだ。
第三試合…メイプルVSメイプルキラーである。結果は予想通りに瞬殺である。キラーぶりを見せつけた。たぶん、【魅了】からのセルフデスだと思う。ダンさんは2試合とも、動かずに、相手を殺していた。それは観客目線だと、見られたら死ぬと言うレベルに見られただろう。
決勝戦…鬼畜兄妹同士である。舞台は森の中にトーチカ群がアスカさんの陣地である。狙撃手である為、そういう舞台を設定したのだろう。この試合に限り、瞬殺は無かった。ダンさんはアスカさんの居場所の特定が出来ていないようだ。
試合が動いたのは、アスカさんからの狙撃である。ダンさんの身体を貫通する弾丸。だけど、レールガンの弱点…弾丸は直線軌道上を走る為、アスカさんの位置が特定されてしまった。ダンさんの体力壁を破壊するには、連発で貫通弾を4発当てることであるが、【超加速】で、アスカさんの元へと飛んでいくダンさん。AGIがゼロのアスカさんが、ダンさんから逃げられる訳も無く…
「出来レースだよな」
終了後のダンさんの言葉。八百長とかでなく、やらなくても結果は見えていたってことのようだ。その言葉を受けてだろうか?頂上決戦企画は、廃止の方向らしい。
「う~ん、また瞬殺された…」
メイプルが反省をしている。
「AGIがゼロの時点で、メイプルの勝ち目は無いよ。アスカも同様だ」
ダンさんが、自信たっぷりで諭している。
「あと、精神感応系を防ぐには、俺のDEXの倍はないとダメだと思う」
と、私にもアドバイスをくれた。そうか、だから、DEX振りのアスカさんには、精神感応系を使わなかったのか…
「このゲームの凄いところは、絶対は無いんだよ。パラメーターの振り方1つで、戦果は変わると思う」
「ならば、私はいつか勝てますね」
「メイプルだけは無理」
メイプルの淡い欲望を、軽く切り捨てたダンさん。あの自信はどこから来るのだ?何故、メイプルだけは無理なんだ?
---ダン---
4月…地面を模したチョコのスポンジに、桜の花びらを散らす新作ケーキを作った。桜の花びらは、サクランボ味のマジパンを薄くのばして、型抜きしてチラしてある。
「うわぁ!おいしいです」
楓と理沙が試食して、感想をくれた。
「甘酸っぱいんですね」
「ビターチョコの味にアクセントだよ」
スポンジは2層にしてある。上層はビターで、下層はミルクチョコである。
「1つの味でまとめると、飽きるよね?」
明日奈の感想で2層にした。コイツ、試作を全部食べきる前に飽きたのだった。
「味のデザインも正さんですか?」
「そうだよ。兄さんがしてくれている。私は兄さんの指示通りの物を作る職人を目指しているんだよ」
理沙の質問を答える明日奈。
「次のイベントは塔の攻略だっけ?」
「ソロでもいいみたいですよ」
俺の質問には楓が答えてくれた。今日は喫茶室で試食をして貰っている。入学シーズンは店で喰わずに、ホームパーティーが多いのだ。そうそう、イズのたれ込みで、クロムとペイン達も、お忍びで食べに来ているようだ。まぁ、男には興味は湧かないが…
「そうか、ソロでいいなら、空いた時間に終わらせるかな」
「私はフレデリカと回るよ。狙撃手には辛い舞台だから」
「私は理沙と回ります」
皆、方針はきまっているようだ。
◇
そして、ゲームへログイン…塔内部は、天井が低く、機龍では回れない。なので、神装備で、一気に駆け上がる作戦に出た。十階層のボスを倒すと、
『エクストラボーナスステージのボスの権利を得ました』
って…運営は俺をボスにしたいようだ。まぁ、ヒマな時ならいいか。
何回目かのボスとしての呼び出しに応じると、目の前にはメイプルとサリーがいた。
「ウソ!ラスボスって、ダンさんなの?」
凄く嫌な顔をしているサリー。
「最初に攻略した褒美らしい。これって、褒美で無くてバツゲームだよな?」
「そう思います」
「いざ、勝負!」
メイプルだけがヤル気になっている。うるせぇな!【魅了】で、まずメイプルを消す。
「速攻ですか?」
「バトルジャンキーは嫌いだよ」
「えぇ?ダンさんがバトルジャンキーですよね?」
「そうでも無いよ。デザインに煮詰まった時くらいだ」
サリーとアレコレ雑談をして、
「じゃ、サリーの勝ちでいいぞ。俺は、抜ける」
『バトルから離脱(不戦敗)』を選択して、PKをしに、フィールドへ戻った。
---サリー---
ギルドホームへ戻ると…
「サリー、遅かったね。瞬殺されなかったの?」
メイプルに詰め寄られた。
「まぁ、結果的にはダンさんの不戦敗で、メダルを10枚貰えたよ」
「うっ!ずるい…ずるすぎるぅぅぅぅ~」
って言われてもなぁ。そこに、ぞろぞろとみんながやってきた。みんな塔の攻略を終えたそうだ。
「これで、次は新層だな」
クロムが意気込んでいる。みんなの表情を見ると、エクストラボーナスステージのボスを体験していないようだ。
「ねぇ、みんなも勝ったの?」
メイプルがイズに泣きついた。
「うん?誰にかな?」
意味不明だよね、その言い方は。私がエクストラボーナスステージのことを話した。
「ついに、アイツ、ラスボスデビューしたのか?」
「いなくて、良かった…」
「逃げ場は無いんですよね?」
驚愕な表情のクロムさん、安堵しているイズさん、カスミ、カナデ、泣きそうな顔のマイ、メイ。
「そうなると、ダンさんと話し合う時間を得られれば勝ちなんですね。それは次回が楽しみです」
一様にネガティブな反応であったのに、フレデリカだけ笑顔であった。