---サリー---
南門までシロップで移動。ミィとミザリーはポンチョを羽織っている。流石に、あの姿では街中には出られないようだ。
「戦わない時は、通常装備で良くない?」
アスカさんの一言で、威厳のある姿に戻ったミィとミザリー。南門の手前でシロップから降り、門を潜った私達。目の前には、ベータテストで見慣れた街並が広がっている。そうなると、最初の試練は、メイプルキラーか?
「ここにはギルドホームは無いのか?」
クロムさんが訊いた。
「無い。ただ、ログイン時とデスペナ時には、皆ギルドホームにスポーンすると思う」
町の広場に掲示板があり、ここでの試練の内容が表示されていた。
『ダンジョンでスライムを一人当たり1000匹討伐せよ。尚、ファーストアタックした者だけに討伐ポイントが入る』
やはり、そう来たか。が…
「俺と、サリーとメイプルは、試練の免除があるようだぞ」
メニュー画面を開くと、【試練免除】と表示されていた。そうなると、試練はしなくても良いのか。いや、そうもいかないようだ。
「みんなのアシストに回るぞ」
と、ダンさん。みんなの試練に付き合う必要があるようだ。パーティーメンバーが試練を乗り切らないと、パーティーとして、クリアしたことにはならないようだ。
「えぇぇぇぇぇぇ~、私、役立て無いよ~」
メイプルがベソをかいている。テストでの体験が蘇ったのだろう。メイプルを見て、全力で逃げ出したスライム達。足止めはダンさんのスラリンで
出来たのだが、ファーストアタックがダンさんになり、メイプルが全部倒しても、メイプルにはポイントは付かなかったのだ。
「ここでのネックはマイユイコンビだな。メイプルの時みたいに逃亡しないだろうから、多少は楽かな?」
全員で入り、まず感触を確かめて、誰が誰をアシストするかを決める。
「スライム以外にミノタウロスが出る。だから、防御に不安のある者はメイプルか、カエデと組んでくれ」
違うパーティーでも、同じギルド内では人員のトレードが出来るようだ。まず、ダンさんは、ダンさんのパーティーメンバーのクリアをするようだ。その間、マイユイにメイプル、イズさんとカナデには私がサポートしていく。ミノタウロス相手では、こちらにダメージが入るからだ。ちなみにメイプルの『身捧ぐ慈愛』は使えない。保護エリア内にスライムが入って来ないのだ。天使姿を見ると逃げるスライム達…心が折れるメイプル…
「メイプル、ミノタンが来たら、カバームーブよ!」
「だね…」
このダンジョンは、メイプルと相性が悪すぎる。
「どの位でクリア出来たの?」
イズさんに訊かれた。
「メイプルはチート技で3日です。正攻法ではクリア出来無いというか…」
「あぁ…これがメイプル殺しのダンジョンなのね?」
「いえ、もう1つ有るんですよ」
あのモンスターハウスは、もっと厄介だ。イズさんで、ファーストアタック出来るかな。ファーストアタックに関しては、アシストは出来無い。アシスト行為がファーストアタックに成りかねないからだ。それで、ダンさんは投げ込むと言う荒技に出たのだった。
たまに、洞窟が揺れる。下層で激しい戦闘をしているのは、アスカさんか、ミィか?あぁ、フレデリカもいるわね。
---ダン---
こんな場所で出会うとは…
「炎帝と楓の木が手を組んだのか?」
聖剣のペイン、ドレッド、ドラグがいた。飛んで火に入る夏の虫である。フレデリカとアスカは死角に居るため、見えていないようだ。手信号で待機と指示を出した。
「男三人とはむさ苦しいなぁ」
ミィは演技プレイに入ったようなので、ミザリーの肩を抱いた。
「ナンパ師か、お前なんぞ怖くねぇよ。メイプルが居なければ問題無いカスだな」
あぁ、今日は普段着で有る為か、コイツら俺の正体に気づいていないようだ。カスと言われてもしょうがない程の軽装な俺。
「カスで結構だよ。身捧ぐ慈愛だ!」
カエデをこっそり召喚して指示を出した。、ミザリーとミィを保護する。メイプルにレベルをギフトしまくった為、カエデが思いっきり固くなっていた。メイプルはブレずに、VIT一択強化しているのだ。
むさいヤロー共が攻撃を仕掛けてくるが、ミィとミザリーには攻撃が入らない。アイツらからは死角でカエデは見えていないのだ。
「何?貴様まで、使えるのか?」
「一応、盾だからな。ミィ、攻撃しろ。ミザリーは援護だ!」
「「了解!」炎帝!爆炎!」
ペイン達に炎攻撃が飛んでいく。隠れる場がないダンジョン内。さぁ、どうする。アイツらは迷わずに、炎攻撃を無効化するポーションを飲んでやがる。
「あいつらの目の前に、蜘蛛の巣を張ってみて」
こっそりスラリンを召喚して、指示を出した。ペイン達の目の前と退路にスラリンの糸が張られ、ペイン達を一歩も出さないようにした。
「なんだ?この蜘蛛の巣は?」
ドラグが指で払おうとした瞬間、ヤツの指が切り離された。
「うっ…痛ぇぇぇぇぇ~!」
スラリンの糸は不壊属性の上、切れ味抜群であるのだ。
「何をした?」
動揺しているペイン。
「フレデリカ、昔のお仲間に砲撃して」
「了解で~す。多重水弾」
水の弾丸がペイン達を襲う。スラリンの糸は、味方の攻撃を透過させる。ペイン達は使い魔を出して来た。ドラゴン、狼、ゴーレムが盾になり、フレデリカの攻撃を防いだ。そんなの読んでいるよ。
「では雷撃!」
スラリンの糸に雷撃が発生し、水弾が弾けた水を通電し、ペイン達の使い魔達を麻痺させた。その場から指輪へと還っていく盾役の使い魔達。
「何?連携プレイだと!」
「同じパーティーだからね。これくらい出来無いとねぇ。アスカ!一気に殺すなよ。ミンチにする要領で殺せ!」
「アイアイサー、お兄ちゃん」
両手にレールガンを持ったアスカを見て、固まるペイン達。
「お前が…狙撃手か…」
「私ですか?お兄ちゃんの妹です」
更に恐怖を与えよう。俺はクイックチェンジで蒼い装備に切り替えた。
「何…貴様が、テロリストなのか…」
「うげっ!止めてくれ…痛っ!」
狼狽えるペインを尻目に、アスカはまずドラグを潰し始めていた。指の関節を貫通させ、手首を貫通させ、肩を貫通させ…身体の各部位ごとに分断させて
いく。
「止めてくれ…一気に殺してくれよ~。痛い…痛すぎる…」
ドラグは走って、俺達に寄って来るが、スラリンの糸でバラバラに斬り刻まれて、ドット落ちして消えていった。
「ダンさん、エグいですよ」
ミィが俺の方を向いた。
「一応、ブラックリストのテロリストですからね。この位しないと、運営が納得しないでしょ?」
標的のドラグが消え、次にアスカはドレッドの関節を撃ち抜き始めた。
「どうだ?カスに殺される気持ちは?」
手招きをして、天使モードのカエデを近寄らせた。
「何?メイプルもいたのか…ブラックリストは楓の木に所属なのか…」
何を今更…ドレッドが退路に張ったスラリンの糸でミンチになり、消えていった。
「お兄ちゃん、コイツはどうする?」
「試したいことがある『子羊の行進』『添い寝』」
その場で倒れ、悶えるペイン。
「よし、スラリン、カエデ、助かったよ。休んでくれ」
使い魔の指輪に戻っていくカエデ達。スラリンが消えると、スラリンの糸も消えた。
「じゃ、先を急ごうか」
地べたで、身もだえているペインを残し、先へと進んだ。
---サリー---
翌日、ギルドホームに行くと、皆疲れ切った顔であった。やはり、一人当たり1000匹はキツいよな。
「まだ、ダメか?」
「無理…」
ダンさんの問い掛けに、イズさんの心は折れ掛かっているように見える。
「そこで作戦を伝授する」
ダンさんが、何かに気づいたようだ。
「昨日のログアウト寸前に発見したのだが、スライムのリスポーンって、固定位置なんだよ。だから、リスポーン位置で待ち伏せして、倒すんだよ。経験上、リスポーンし切った後、5秒ほど動けないロスタイムがある。そこを叩くんだ」
経験?それは、初めてのゲームインでスポーンした直後に喰らった、メイプルの悪食攻撃のことか?メイプルが思い出したのか、真っ赤な顔で狼狽えていた。
「今日はその方向で行こう」
「それなら、行けそうね」
「まず、単独で叩けるクロムとカスミで違うフロアで試してくれ。必ずフロア毎に1箇所は最低有る。ただ、ダンジョン内では他のパーティーと交戦する可能性があるので、マイユイコンビはメイプルと行動、イズとフレデリカをトレードするから、サリー、フレデリカを頼む」
「わかりました」
「私をどうするの?」
イズさんが怯えていた。呪いのビキニの恐怖だろうな。
「今までに集めた素材で、売っていない物が作れるか、考察を頼みたい。売っていない物と良く売れる物は、高値で売れるからさぁ」
金策に走るようだ。確かに、金策は大事である。このエリアの見えない敵と言って良い。
---白峯理沙---
翌日、学校では連休を前にした小テストの結果が発表された。
「本条楓さん、よく頑張りましたね。クラスで一番ですよ」
担任に褒められ、立ち上がって、照れまくっている楓。えっ、なんで?私と同じ様にゲームに嵌まっているのに…
「えへへへ、それほどでも…てへへへ」
何が起きたんだ?このチート娘に…放課後、楓に訊いてみた。
「どうやったのよ?」
大差で負けるなんて…悔しい。
「え?えっとねぇ…テスト前の勉強をみて貰ったんだよ」
みて貰った?
「誰に?」
「正さんに…学校の先生よりも教え上手で、すっご~く、分かり易かったんだよ」
え…出遅れた。お近づきになるのに、そんな手があったのか。
「どうやって、教えて貰ったの?」
楓の両肩を掴み、訊き出そうと必死になっていた私。
「痛い痛いよ~。ゲームと違って、リアルの私は弱いんだよ~」
そうだった、そうだった。我に返って、楓の肩から両手を離した。
「テスト前に理沙が、お店に来なかった日があったでしょ?」
あった。用事があって、行けなかった。
「あの日、明日奈さんの仕事姿を見ていたら、明日奈さんが正さんのご両親に紹介してくれて、高校を卒業したらモロボシ洋菓子店で働きたいって、伝えてくれたの。そうしたら、じゃ、高校を卒業出来るように、今から勉強をしようねって、正さんに勉強を教えてくれるように言ってくれたんだ」
楓はリアルでもチートであった。何、その展開は…ズルい、ズルすぎる…
「じゃ、次のテストの時、一緒に勉強を見て貰おうね」
「うん…ありがとう…楓…」
楓は正さんをどう思っているんだ?そこも問題であるが、訊けないなぁ、流石に…
「あんなお兄さんがいたらいいなぁ。そうすれば、明日奈さんの妹さんになれるのにね」
お兄さん?正さんはお兄さん枠なのか?本当に?なんか、私の知らない楓がいるようだ。コイツ、一番油断成らない気がする。
◇
その週の週末、正さんのお店に行くと、ショーウィンドウの中身が模様替えされていた。そこには、メイプルを模したケーキとメイプルのフィギュアがあり、ミィを模したケーキとミィのフィギュアもあった。どういうこと?
お店に入ると、メイプルという名のケーキと、ミィという名のケーキと、シロップという名のケーキが新作として、並んでいた。
「おぉ、理沙。今日は一番乗りだぞ」
明日奈さんがいた。
「これって?」
「5月の節句向けケーキだよ。ショーウィンドウのフィギュアは兄さんの力作だ。試食させてあげるよ」
明日奈さんがお皿に新作を3つ載せてくれた。喫茶ブースに持っていくと、紅茶を淹れてきてくれた。
「メイプルはビターチョコにトマトのジャムだ。メイプルシロップ味で無いのがミソだよ」
紅いラインを表現するのにトマトのジャムを使ったんだ。一口食べてみるが、トマト臭くないが、ほんのりとした甘みを感じ、美味しい…
「ミィはイチゴ三昧で、外側がマッシュしたイチゴ、中身はイチゴのムースさぁ」
イチゴ本来の甘酸っぱさを感じ、イチゴを食べているみたいだ。
「シロップはメロン味のケーキで、中にはミルクプリンが入っているんだ」
これも美味しい。メロンの甘みとミルクの甘みのハーモニーを感じる。
「問題は値段だな。売り切れるか問題だな」
値段は高めの1000円超え…
「買うなら、ピースでなくて、ワンホール5000円のがお得だよ」
ワンホールは6ピースだっけ…確かにお得であるが…
「何?あれ…」
ミィとミザリーの中の人達が入って来た。ミィの顔は真っ赤で俯いている。
「兄さんのアイデアだよ。5月の節句は鎧兜だから、戦士をイメージしたら、あぁなったって。本当はサリーも作りたかったらしいけど、あの蒼色を出す食材が浮かばなくて断念だってさぁ」
一応、考えてくれたんだ。まぁ、確かに蒼いケーキは難しいかな。
「で、シロップの翠色に目を着けたみたいだよ。読み方が『すいしょく』で、水色をイメージ出来るかなってね」
そうなんだ。シロップを買って帰ろうかな。ミィとミザリーは新作セットを頼むか悩んで居た。今回は3つセットで5000円である。飲み物が付くが、勇気のいる価格である。
「すみません、新作セットを1つ、珈琲で。後、ダージリンのファースフラッシュを1つ」
セットの紅茶は銘柄の指定は出来無い。単品の紅茶は銘柄を指定しないといけない。このお店の喫茶ブースは珈琲と紅茶の専門店であることもウリであった。
「あら?」
イズさんの中の人がやってきて、ケーキ売り場で固まっていた。原因は値段だろうな。
「期待出来るのよね?」
「どうだろうな」
イズさんと明日奈さんが、何やらヤリトリをしている。
「素材と調理法に凝ったら、こんなになりましたよ。ははは…」
明日奈さんが常連さんが来る度に応対していた。それだけ、今回は値段に問題があったのだった。